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染物・織物とは。多様な種類と日本の布文化の歴史

染物・織物とは

衣類にはじまり小物や日用品など、私たちの暮らしのそこここに登場する布。多種多様な染織技術によって作られているものです。 染物や織物を眺めると、時代ごとの流行や生活様式までも垣間見られ想像が膨らみます。長い年月の間、私たち暮らしとともに発展してきた染織りの歴史と技術について、ご紹介します。

染物・織物の工芸品

まずはじめに。 「織物」と「染物」の違いは?

生地作りの技法は「染織」と呼ばれるが、「織物」と「染物」の区別は、どこにあるだろう。

ポイントは、生地をどの段階で染めるか。「織物」は生地を織る前の糸をそめたもの。これを「先染め」という。「染物」は生地を織った後に染めたもの。そのため「後染め」という。

以下、具体的にその概要を見ていこう。

織物とは?

織っている最中の会津木綿の生地 織っている最中の会津木綿の生地
 

色染めした糸を用いて織った生地。たて糸とよこ糸を織り機にかけて交互に組み合わせて織る。糸の染め方や織り方によって様々な模様が作られる。ストライプやチェック柄を織りなす「縞 (しま) 」や「格子 (こうし) 」、一部を防染して白い部分を残した糸で織りだす「絣 (かすり) 」などが代表的だ。

また、糸の撚り方でもその質感が変わる。撚りをかけたよこ糸で織ることで独特の美しいシボ (皺) が生まれる縮緬 (ちりめん) はその代表例だ。

染物とは?

刷毛による染織の様子 刷毛による染織の様子

織りあがった白生地に様々な染料で模様を描いたもの。蝋で防染して染める「臈纈染め (ろうけつぞめ) 」、糸でくくったり板に挟んだりして防染し白い部分を残す「絞り染め」、模様を切り抜いた型紙を用いて柄を染める「型染め」や「小紋 (こもん) 」、防染糊で模様の輪郭を描く「筒描 (つつがき) 」、防染した内側を染める「友禅」など、時代を追うごとに様々な染め技法が生み出されてきた。

織物 基本の「き」。
素材や代表的な織り方、用語を知ろう

◯素材の「3」。天然、化学、混紡

織物の素材は、絹や麻などの「天然繊維」、人工的に合成された素材を原料とする「化学繊維」、天然繊維と人工繊維を合わせて作られる「混紡」の3つに大きく分けられる。

天然繊維は様々な原料がある。主なものとして植物繊維、動物繊維に分類できる。植物繊維には、苧麻 (ちょま) 、亜麻 (あま) などの内皮を煮て柔らかくし、細く裂いて得た繊維をつなぎ合わせて糸にする「麻」、綿花の種子の周りの綿を煮て繊維の向きを揃えて糸を紡ぐ「綿」などが代表的だ。そのほか、藤の蔓を用いる「藤布 (ふじふ) 」、葛の蔓を用いる「葛布 (くずふ) 」、糸芭蕉による「芭蕉布 (ばしょうふ) 」などもある。

動物繊維には、蚕の繭を煮て紡ぐ「絹」、羊毛を紡いだウールや山羊、ウサギなどの動物の毛から作る「絨毛繊維」などがある。

◯技法の「4」。四原組織とは

織りの技法は「四原組織 (しげんそしき) 」と呼ばれる4種類に分けられる。難しく聞こえるが、私たちが普段身につけている衣服も、このいずれかに必ず分類されている。

・平織 (ひらおり) :
たて糸とよこ糸が交互に交差する基本形の織り。交点が多く丈夫。頑丈さで有名な会津木綿などがその一例だ。

会津木綿のトートバッグ 会津木綿のトートバッグ

・綾織 (あやおり) ・斜文織 (しゃもんおり) :
たて糸とよこ糸の交点が斜めに連続する織り。織り目に斜めのラインが浮き出る。適度な強度がありながらしなやか。洋服地ではデニムが代表例。

デニム記事

・繻子織 (しゅすおり) ・朱子織 (しゅすおり) :
たて糸とよこ糸に一定の間隔 (飛ばし) を作る織り方。どちらかの糸の浮きが長くなるため、光沢のある生地になる。サテン。

・捩織 (もじりおり) ・搦織 (からみおり) :
たて糸がよこ糸の間で絡み合うことで織り目に隙間ができ、網状の生地になる織り方。軽く通気性が高く、夏の着物地である紗 (しゃ) 、絽 (ろ) 、羅 (ら) を織るのに用いられる。

○知っておきたい織物用語

糸を「紡ぐ (つむぐ) 」?「績む (うむ) 」?

商品名などでも時折「手紡ぎ綿」といった言葉を耳にするが、いったい手紡ぎとは何だろうか?

綿のような繊維を細く長くのばして撚り、糸状にすることを「紡ぐ」という。つまり「手紡ぎ」はこれを手作業で行ったもの。

ちなみに童話で有名な『眠れる森の美女』で重要な役割を果たす「糸車」とは、まさに糸紡ぎのための道具。お姫様はこの錘 (すい。糸を巻きながら、よりをかける部分) に触れて、長い眠りについてしまう。

また、糸を作る方法はもう一つある。麻などの太い繊維を細かく裂き、繊維同士の端を撚り合わせ1本の糸に長く繋いでいくことを「績む (うむ) 」という。一定の太さで切れずに繋いでいくには熟練の技術が必要だ。

手績み糸 手績み糸

染物 基本の「き」。
染料や代表的な染め方、用語を知ろう

○素材 (染料) は、「天然」と「化学」に分けられる

染料には、天然の植物、動物、鉱物から採取した「天然染料」と、「化学 (合成) 染料」がある。日本で化学染料を用いるようになったのは幕末から明治初期にかけての時期で、近世までは藍や紅などの植物由来の天然染料が長く使われ続けてきた。いわゆる「草木染め」もこの天然染料に含まれる。

◯さまざまな技法

染めの技法には様々なものがある。代表的なものを2つ紹介する。

「浸染」:
液体に溶かした染料に糸や生地を浸して染める技法。生地をそのまま染めると色無地となるが、一部分を防染して模様を染め出す場合が多い。

浸染の代表例といえば‥‥
・絞り染め:
生地を糸でくくったり絞ったりして浸染し、模様を染め出す。有松・鳴海絞りなど。
・筒描 (つつがき) :
糊を入れた筒で模様を描き、その部分を防染する。紅型などで使われる技法。

「捺染」 :
染料を糊で溶かして溶かして作った色糊を生地や糸の上に乗せて柄を染める技法。表面に染料をつけるため、内側までは染まらない。

捺染の代表例といえば‥‥
・型染 (かたぞめ) :
型紙 (柿渋を塗布した紙によるものが伝統的) を用いて連続する柄を描く。紅型や小紋が代表的。
・ブロックプリント:
木版の型でプリントする技法。染料のほか、糊を使う場合もある。

◯知っておきたい用語 「媒染」と「防染」

染物をするには、染料以外にも様々な材料が必要となる。その代表的なものとして、「媒染 (ばいせん) 」と「防染 (ぼうせん) 」がある。

・媒染:
直接は布に定着しない染料で染める際に、色素と繊維を媒介する薬品を使い、色を定着させること。培染剤には、アルミニウム塩、クロム塩、鉄塩をはじめ多種多様なものが使われる。

・防染:
生地の染めたくない箇所に染液が染み込まないように保護すること。生地を糸でくくったり、縫い締めたりする「絞り染め」、模様を彫った板などで挟む「板締」、生地に型紙を当てる「型染め」、蝋や防染糊を塗布して生地を覆う「ろうけつ染」などがある。

織物の種類、染物の種類

日本各地の風土から生まれた多種多様な織物・染物。国の伝統的工芸品に指定されているものだけでも織物は38件、染物は12件にのぼる。

中でも代表的なものを見ていこう。

<織物編>

◯紬 (つむぎ)
紬とは、蚕の繭を真綿にしたものから紡いだ「紬糸」を用いた絹織物。生糸を使った絹織物に比べて、ざっくりした素朴な風合いが特徴。空気を含み保温性に優れている。縞模様や絣柄のものなどが多い。

結城紬

・代表例
結城紬:「結城紬とは。世界が認めた独自の技法と歴史

◯絣 (かすり)
絣とは、糸を部分的に染めてから織り、柄を出す織物。「かすったような柄」に見えることから名付けられた。柄となる部分を白く染め残すために、束ねた糸の柄にする部分を麻の繊維や綿糸でくくって染めあげる。その後、くくった糸をほどき、織り機にかけて織っていくと生地の中に染まっていない白い部分が模様として浮かび上がる。

久留米絣

・代表例
久留米絣:「久留米絣とは。少女が発明した普段着のデザイン」

◯ちりめん
ちりめんとは、生糸を強く撚った (よった) 緯糸 (よこいと) を使った絹織物。精練という不純物を取り除く作業によって、表面にシボ (しわ) が生まれる。シボの凹凸で光が乱反射することによって染め色に深みを出す効果があり、友禅などの染色を支えている。また、シボがあることで生地全体にしわがよりにくいことも特徴。

丹後ちりめん

・代表例
丹後ちりめん:「丹後ちりめんとは。日本の着物の7割は丹後の生地からできている
浜ちりめん

◯ちぢみ
ちぢみとは、緯糸に強く撚った糸を用いて織り、これを練って表面に細かいシボ (しわ) を生じさせた織物。爽やかな感触は、夏の外出着として最適である。江戸時代の初期、播磨国明石 (現在の兵庫県) で絹縮がつくられたのを始まりとして、のち豊前の小倉、越後の小千谷などにこの織法が伝わった。綿、または麻で織られたものが一般的。

高島ちぢみ

・代表例
明石縮
小千谷縮
高島ちぢみ:「道の駅で見つけた『高島ちぢみ』。工芸品との出会いを楽しむ宝探しの旅

◯蚊帳
蚊帳とは、夏に蚊などの小さな虫の侵入を防ぐための布、帷 (とばり)。麻などの目の粗い布を寝室の天井や長押から紐などを使って垂らして使われる。紀元前6世紀の中東で始まり、中国を経由して奈良や近江などを中心に生産され、日本独自の進化を遂げていった。現在では、電気を使わず涼を取れる道具として、蚊帳の良さが見直されつつある。

蚊帳

・詳しくはこちら:「蚊帳とは。一瞬で空間を変える不思議な道具の歴史と特徴

◯織物の横綱的存在「西陣織」
西陣織は、京都の西陣で生産される織物の総称。1976年に国の伝統的工芸品に指定された。豪華絢爛で立体感のある織物は、日本を代表する絹織物として世界に広く知られており、帯地については世界三大織物のひとつとも言われる。金糸、銀糸を織り込んだ「金襴 (きんらん) 」、爪を使って丹念に織り上げる「綴 (つづれ) 」など、多彩で華麗な唐織など様々な種類の技術・技法が存在する。

西陣織

・詳しくはこちら:「「真田紐とは。『世界一細い織物』と言われる紐の不思議」

奈良晒:「『奈良晒』とは。『最上』とされた麻織物の歴史と現在」

奈良晒

播州織:「播州織とは。世界が認める品質の先染織物。シャツやストールなどを支えた歴史」

播州織

博多織:「博多織とは。幕府の御用達から庶民にまで広がった織物の歴史と現在」

博多織

芭蕉布:「芭蕉布とは。空気のように軽やかな着物は、沖縄の畑から生まれる」

芭蕉布

<染物編>

◯藍染
藍染とは、植物染料「藍」を用いた染色技法。染められた布地そのものを藍染と呼ぶこともある。用いる植物は日本で主流のタデアイのほか、沖縄の琉球藍、インドではマメ科の木藍など、地域によっても異なる。これらから抽出される「インジゴチン」という色素を持つ染料を総称して「藍」と呼ぶ。藍の約60%は徳島県産で、一大産地となっている。

藍染

・詳しくはこちら:「『藍染』とは。江戸っ子に親しまれたジャパン・ブルーの歴史と現在

◯友禅
友禅は、糊置き防染法による文様染のひとつで、染めの代表格である。生地を一度着物の形に仕立てて下絵を描き、その上に糊を置き、色同士が混ざるのを防いで染める。染め上がった最後に糊を洗い流し、細く白い線を残すのが糸目友禅、白い線が残らないようにするのが堰出 (せいきだし) 友禅という。

加賀友禅

・代表例
京友禅:「京友禅・京小紋とは。京都が生んだ『手描き』の華と『型』の洗練
加賀友禅:「加賀友禅とは。“虫食いが美しい” 金沢生まれの染色技、歴史と今
江戸友禅:

◯小紋
型紙を使ってパターン化された絵柄を描く染物。微細な文様を掘り抜いた型紙で糊を置き防染し染色していく。絵画資料や現存遺品からすでに室町時代には行われていたことが確認されている。

江戸小紋

・代表例
京小紋::「京友禅・京小紋とは。京都が生んだ『手描き』の華と『型』の洗練
江戸小紋:「江戸小紋とは。距離感の楽しみ方を、江戸っ子たちは知っていた

◯絞り染め
絞り染めとは、生地をつまんで糸でくくり、染料に浸す染色技法。絞った部分には染料が付かず染め残って文様となる。絹生地を細かく絞ったものは、贅沢な高級品とされる。

・代表例
有松・鳴海絞り
鹿の子絞り
三浦絞り

◯注染
注染とは、染色したい場所に糊で土手を作り、染料を注ぎ込んで染める染色技法。ぼかしなどの表現技法があり、立体感のある柄を描くことも可能。注染で染め上げられた生地は、繊維がつぶれにくく通気性に優れており、肌ざわりもやわらかい。生地の表裏両面から染色するため、表も裏も同じ柄が同じ色合いで出るのも特徴。大阪が代表的な産地である。

手ぬぐい

・関連の読みもの:「夏の手ぬぐい活用術を、専門店に聞く

◯紅型
紅型とは、沖縄の染物。鮮明な色彩、大胆な配色、図形の素朴さが特徴。顔料と植物染料を使い、多彩な模様を描き出す。紅型と総称されるが、彩色の技法で分類すると、赤、黄、青、緑、紫を基調とした色彩が大胆で鮮やかな「紅型」と、藍の濃淡で染め上げる落ち着いた色調の「藍型 (イェーガタ) 」に分類される。

琉球紅型

・詳しくはこちら:「『紅型』とは。琉球王朝が育んだ華やかな魅力と歴史

織物を支える道具

・糸車:糸の撚りかけや、糸紡ぎを行いながら糸を巻き取る道具
・機 (はた) :織糸を縦軸と横軸にかけて生地を織る道具
・杼 (ひ) :織機にかけたたて糸によこ糸を通しやすいように船形に作られた道具

杼

織物を支える人

・杼職人:実は日本で杼を作れる職人さんは現在たった一人。京都西陣の「杼」職人、長谷川淳一さんの元には今日も世界中から注文が舞い込んでいる。

<関連の読みもの>
・日本で唯一の「杼」職人に、世界中から依頼が舞い込む理由
https://sunchi.jp/sunchilist/kyoto/94775

「杼 (ひ) 」

染物を支える道具・伊勢型紙

伊勢型紙

型染、小紋、紅型、型友禅などの捺染に使用される染織道具。柿渋で貼り合わせた美濃和紙に模様を彫ったもの。白生地の上に型紙を置き、その上から染料を乗せて染める。

江戸時代に紀州藩の殖産事業として保護されたことから伊勢で作られるものが日本全国に流通した。1955年には国の重要無形文化財に指定され、1983年には伝統的工芸品 (名称は「伊勢形紙」) となった。現在も流通する型紙の99%が鈴鹿市白子地区で作られている (2013年時点) 。

まだまだあります、豆知識 <織物編>

◯実は日本人は昔、麻を着ていた

日本での綿の普及は江戸時代初期からであり、それ以前は衣類や網や袋などの資材まで、日用の布製品の多くは大麻や苧麻で作られていた。

民俗学者・柳田国男の著書『木綿以前の事』にも、「然らば多くの日本人は何を着たかといえば、勿論主たる材料は麻であった」という一節が残る。万葉の人々は麻の栽培の様子を歌に詠み、江戸の町人たちは麻の葉模様の着物に熱狂。常に日本の衣食住のそばにあったのが麻だったのだ。

麻

◯1000年以上受け継がれる、正倉院宝物

奈良にある皇室の宝物を保管する正倉院。ここに保管されている「正倉院宝物 (しょうそういんほうもつ) 」の中には、1200年以上の月日が経過しているものも多い。

しかし、世界に類を見ない良好な保存状態が保たれており、染織品であっても朽ちずにその姿を留めている。毎年わずかな期間公開される「正倉院展」は、秋の奈良の風物詩となっており、全国各地からたくさんの人が詰めかける。

正倉院 正倉院
 
紺夾纈絁几褥 奈良時代・8世紀 正倉院宝物 紺夾纈絁几褥 奈良時代・8世紀 正倉院宝物

◯「故郷に錦を飾る」の錦とは?

「錦」とは様々な色糸や金銀糸によって織られた絢爛豪華な絹織物のこと。功績をあげて、立派になった姿で帰ることの例えとして、見事なものの代表格である「錦」が使われた。

◯世界の「トヨタ」と、織物の関係

明治期に飛躍的な盛り上がりをみせた遠州織物。そのきっかけとなったのは、動力織機の発明だった。発明したのは現在の静岡県湖西市に生まれた豊田佐吉。あのトヨタ創業の祖である。

実はトヨタ、スズキといった名だたる自動車メーカーは、もともとこの一帯の織機 (しょっき) メーカーとして創業している。世界に知られる日本車の元祖は、遠州織物の発展の中で生まれていたのだ。

<関連の読みもの>

・麻とはどんな素材なのか?日本人の「服と文化」を作ってきた布の正体
https://sunchi.jp/sunchilist/craft/115196

・遠州織物
https://sunchi.jp/sunchilist/hamamatsu/26313

・今年は東京でも見られる!「正倉院宝物」入門をプロに教わる
https://sunchi.jp/sunchilist/narayamatokooriyamaikoma/108803

まだまだあります、豆知識 <染物編>

◯冠位十二階は高度な染色技術の証

飛鳥時代603年に推古天皇の元で制定された冠位十二階。冠と服の色で社会的地位をあわらすこの制度が実現できたのは、染織技術が発達していたからこそ。冠位十二階は、当時の高度な染色技術の証とも言えるのだ。

◯紺色は縁起がよい?武士に愛された「勝負色」

黒に近い濃い紺色「褐色 (かちいろ) 」。鎌倉時代以降の武家社会において、音の響きが「かつ」に似ていることから、「勝色」と書き縁起の良い色として武士や軍人に好まれてきた。

◯日本の染めといえば、藍染「ジャパンブルー」

藍染が「ジャパンブルー」と呼ばれるのは、明治初頭に来日した英国人化学者アトキンソンが、街中に溢れる藍色を見てそう讃えたことに由来する。

藍色は日本特有の染料ではなく古代から世界各地に存在したが、日本で庶民の日常に浸透していた色であったことが伺える。日本の藍染は7世紀頃に中国から伝わり、当初の生葉染から、発酵建ての方法が一般的になった。

どんな繊維も染まりやすく堅牢で、防虫効果もある藍は、桃山時代に徳島藩の殖産事業として保護・奨励された木綿の普及と相まって庶民の暮らしに深く浸透する染料となった。

<関連の読みもの>

・「藍染」とは。江戸っ子に親しまれたジャパン・ブルーの歴史と現在
https://sunchi.jp/sunchilist/craft/115771

日本の染織の歴史

日本の染織はいつから始まったのかは明らかではない。しかし、縄文晩期や弥生前期の各地の遺跡から織物の一部、織目の跡がついた土器、糸を紡ぐ道具などが出土している。この状況から、当時染織が行われていたと考えられている。

染織品の記述として最古の記録は『魏志倭人伝』にある。

243年に卑弥呼が魏へ使者を送り朝貢した時の献上品の中に染織品が含まれていた。また、古代では「倭文織 (しずおり) 」と呼ばれる、穀 (かじ) や楮 (こうぞ) 、麻などの植物繊維から作られた糸を染めて縞を織りだした布が織られていた。

◯奈良時代、日本の染織発達の出発地点

奈良時代になると、大陸や朝鮮半島から様々な技術が伝えらえるようになる。高松塚古墳の壁画には、赤、緑、青、黄などの多彩な上着とひだのある裳 (腰から下にまとう衣服) を着用した人物が描かれており、鮮やかな色彩の染織技術があったことがうかがえる。

また、「平織」や「綾織」など四原組織にあたる織物の技術もすでに伝えられていた。染織技術では、模様染では、現在の絞り染め、臈纈染、板締にあたる3種類があった。また、型を用いて墨や染料を摺る「摺絵 (すりえ) 」も行われていた。さらには、「縫 (ぬい) 」という現在の刺繍にあたる技術も存在しており、日本の染織が発達する出発点となる時代であった。

◯国風文化の花開く、平安時代

伝来した中国文化の和風化が進み、国風文化が花開いていく平安時代。染織文化にも同様の変化が訪れた。例えば、公家の装束に用いた有職文様の発達し、日本独自の文様が作られていった。

また、衣服にも変化が訪れる。それまでの公家の平常着は束帯装束 (正装) だったが、これが儀式化、形式化して「直衣 (のうし) 」というカジュアルなスタイルが平常着となった。

ただし、階級や季節によって織物の種類に指定があるなどルール化されていた。このようにバリエーションのある装束指定ができる背景には、染織技術の向上、生地の生産量の増加が伺える。

また、十二単のように衣を何枚も重ねて見事な色彩感覚を発揮できるようになったのも技術向上による恩恵と言えるだろう。

◯清少納言もやっていた、衣の仕立て

当時、こうした宮中や公家の衣装を仕立てるのは、支える女房たちの大仕事。かの清少納言も『枕草子』でこう記している。

ねたきもの (中略) とみの物繕ふに、かしこう縫いつと思ふに、針を引き抜きつれば、はやく尻を結ばざりけり。また、かえさまに縫ひたるもねたし。 (九〇段)

心もとなきもの (中略) とみの物繕ふに、なま暗うて、針に糸すぐる。 (九〇段)

急ぎの縫い物で、糸の結び目を作るのを忘れてしまったり、裏返しに塗ってしまって悔しがったり、薄暗い中で針に糸を通すのに悔しがるなど、実感のこもった記述が散見され、当時の女房たちにとって裁縫がいかに身近であったかが垣間見られる。

◯武士好みのスタイルが生まれた、鎌倉時代

武士の世となると、染織も武家好みのものが中心となる。特に、褐色 (黒に近い濃い藍色) は、布が堅牢になる上、「勝色」に通じるとして人気が高かった。

一方で、華やかな女房装束は鎌倉時代から室町時代にかけて急速に簡略化されていった。重ねる衣の数が少なくなり、最終的には単 (ひとえ:小袖のように仕立てられた肌着) と袴だけになった。肌着から上物となった単には工夫が加えられていく。

様々な色で染め、模様を施すのみならず、丈が長くなり、袖に丸みがつくなど形が整えられた。その後、室町中期には「辻が花」という豪華で染織に手間のかかる模様染が行われ、桃山時代には最盛期を迎える。この技術は、江戸時代に生まれた友禅染のルーツとなる。

織物に関しては、源頼朝が贈り物として越後布を用いたという記録が残っている。日本各地で麻布は作られていたが、この記録から越後産の布の評価が高まっていたことが伺える。

◯エキゾチックなエッセンスが加わる、室町時代

南蛮貿易が行われ「更紗」が渡来する。これに日本は大きな影響を受けた。それまで日本では見られなかった濃厚な色調の藍や朱、黄、緑の染色、配色も斬新なものだった。絵柄も、樹木や珍しい草花、鳥、獣、ラクダ、象など日本にはないモチーフが描かれ異国そのものであった。

また、茶の湯の名物裂である「間道 (かんとう:縞柄の織物) 」も南蛮貿易によって渡来した。茶人たちに珍重され、現代にまで受け継がれている。そのほかにも、多様な金襴が運ばれたが、当初は間道とおなじく名物裂として珍重され、のちに国産化されるようになった。

室町後期となると、阿波 (現在の徳島県) で藍の栽培が行われ、天正3年 (1583年) 頃には盛んになる。また、同じく室町後期に木綿の栽培もはじまり、木綿布が織られるようになった。

◯町人文化の隆盛や禁止令から新たな技術生まれる、江戸時代

平和な江戸時代を迎えると、技術の発展が加速する。織物では、京都の西陣を中心に技術が進み、様々な絹織物が生産されるようになった。

身分制度の整備により、男性の衣服は画一化が進んだ一方で、女性の衣服は急速に華やかさが加わっていった。特に、衣服の中心であった小袖にはトレンド感のある様々な模様がつけられ始めた。町人の財力が伸びたことで、生活が派手になりそれに伴って衣服も華美になった。染色においては、茶屋染、友禅染、贅沢な惣鹿の子が広がる。

茶屋染は、夏の帷子 (かたびら:裏地のないひとえの着物) に染められ、江戸城大奥や大名家の奥向き女性たちの成果の正装として使われた。筒描などで糊防染し、愛の濃淡で染める。模様は桜閣、草木、流水、花鳥などが精緻に描かれた。防染の糊付けだけで数ヶ月を要するものも多く、大変な手間をかけた染色であったため、庶民の手には届かなかった。

◯染織技術の集大成。友禅染の登場

そのほかに室町時代に生まれた辻が花染めなどもあったが、江戸中期になると、染織技術の集大成と言える新しい模様染が生まれた。「友禅染」である。

友禅染は、元禄年間 (1688〜1703年) に、扇絵師の宮崎友禅が始めたといわれるが確かではない。宮崎友禅の描いた扇絵をきっかけに染工が近しい傾向の絵柄を生地に染め、この時期から盛んになったことから、友禅染という名称が生まれたと考えられる。

友禅染が生まれ発達した背景には、奢侈禁止令がたびたび出されたことがあげられる。特に、金紗、縫、惣鹿の子の禁止が大きな打撃を与えた。そのため、別の技法で美しい模様を表現しようと友禅染が開発されたのだ。

流行の他の理由として、従来の縫による模様表現を古めかしく感じるトレンドがあり、友禅染の多様な染色が斬新で、軽やかに感じる人が多く存在した。

また一方で、小紋などの型染めも発達し、庶民の衣服が多彩になった。型紙や版木を用いて行う型染は奈良時代から行われているが江戸時代も大いに活用された。中でも、天領となった紀州藩の白子で保護を受けていた伊勢型紙は飛躍的な発展を遂げる。また、型売り業者が株仲間を組織して、紀州藩の保護を背景に全国各地に型紙を売り歩いたことで、全国的に伊勢型紙が広がり現在の地位を確率した。

◯日本各地で生まれた、個性ある布ぬの

江戸や京都での染織技術の発展もさることながら、江戸時代は日本各地で様々な織物や染物が作られた。武士の礼服として使われた高級麻織物の奈良晒、薩摩藩への上納品として発展した大島紬、京友禅とは異なる味わいを持つ加賀友禅などをはじめ、越後上布、結城紬、久留米絣など、各地で庶民の衣服も豊かになった。

1730年、西陣が大火に見舞われ織機の半数が消失するという事件が起きる。職場を失った職人たちが大量に地方へ流出し、地方機業の発展に繋がった。

◯海外交流や機械化で新技術が発展、近代以降

明治維新後間も無い1870年、合成染料が初めて輸入され、染色の幅がさらに広がった。また、海外で新たに生まれた複雑な織りを自動化できるジャガード機を1873年に京都の西陣で輸入。ほかにも染織の機械化が相次ぐ。1896年には豊田佐吉が動力織り機を発明、1898年には堀川新三郎が英国からロール捺染機を輸入した。

化学染料による多色染めができるようになったことと、機械技術によって生まれた技法もある。「注染 (ちゅうせん) 」の技術は、電動コンプレッサーを利用する吸入方式に進化した。

注染の手ぬぐい 注染の手ぬぐい

1872年には、初めてタオルが輸入される。1880年、大阪の井上コマが手織り機でタオルの製造を行った。たて糸と一緒に細い竹を打込み、織り上がった後に竹を引き抜いてパイルを織り出すという手法であった。機械での製織方法は1887年、中井茂右衛門により完成し、日本のタオル界に画期的な変革をもたらした。

また1926年頃になると、名も無き職人が作り出す生活道具の美しさに注目する「民藝運動」が、柳宗悦、河井寛次郎、浜田庄司らによって始まった。

民藝運動のメンバーであり型絵染の人間国宝として知られる芹沢銈介は、1939年に民藝運動の調査で沖縄を訪れた際、沖縄の型染「紅型 (びんがた) 」に出会ったことをきっかけに染色の道を歩み始めた。芹沢の作品は国内のみならず海外でも評価が高く、1976年にはフランス政府の招聘でパリで大規模な個展を開き大成功を収め、同年に文化功労者に選ばれた。

<関連のよみもの>

奈良晒
https://sunchi.jp/sunchilist/narayamatokooriyamaikoma/5462

遠州織物
https://sunchi.jp/sunchilist/hamamatsu/26313

夏の手ぬぐい活用術を、専門店に聞く
https://sunchi.jp/sunchilist/sakai/25271

さんちが出会ってきた、日本の織物の今。

長い歴史の中で様々に変化してきた日本の織物。現代の暮らしの中では、どんな風に使われているのだろうか。

「さらっと着られる」麻デニムパンツを中川政七商店が作りたかった理由
https://sunchi.jp/sunchilist/oumi/90874

途絶えなかった地域の記憶。100年前の織り機が紡ぐ、これからの会津木綿
https://sunchi.jp/sunchilist/fukushima/114570

軽くて丈夫な「壁紙バッグ」。京都 小嶋織物が継ぐ「日本一目の粗い織物」産地の底力
https://sunchi.jp/sunchilist/kyoto/92002

まるで本物。日本生まれの「究極の猫クッション」は毛色ごとの手触り
https://sunchi.jp/sunchilist/wakayama/104603

二人の門出に贈る 男女の理想の違いを追求したタオル
https://sunchi.jp/sunchilist/tokyo/36483

さんちが出会ってきた、日本の染物の今。

細萱久美が選ぶ、生活と工芸を知る本棚『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』
https://sunchi.jp/sunchilist/tokyo/13659

藍染絞りに生きた職人。片野元彦のものづくりから「仕事」のあり方を考える
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日本職人巡歴 京都の女性黒染め師が拓いた新境地
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京都の老舗染物屋に嫁いだ現代美術作家。挑戦するのは「ケイコロール」という名の新事業
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毎月7日間だけ開くリップル洋品店に、 世界中から人が服を買いに来る理由
https://sunchi.jp/sunchilist/kiryu/108370

「長く愛されるものづくり」の要素を、Salvia (サルビア) 主宰・セキユリヲさんに聞く
https://sunchi.jp/sunchilist/tokyo/102122

<参考>
遠藤元男・竹内淳子 著『日本史小百科』近藤出版社 (1980年)
小笠原小枝 著『染と織の鑑賞基礎知識』至文堂 (1998年)
河上繁樹・藤井健三 著『織りと染めの歴史―日本編』昭和堂 (1999年)
滝沢静江 著『着物の織りと染めがわかる事典』日本実業出版社 (2007年)
中江克己 著『日本の伝統染織辞典』東京堂出版 (2013年)
日本工芸会 編『日本伝統工芸 鑑賞の手引き』芸艸堂 (2006年)
日本工芸会東日本支部 編『伝統工芸ってなに? -見る・知る・楽しむガイドブック-』芸艸堂 (2015年)
萩原健太郎 著『民藝の教科書② 染めと織り』グラフィック社 (2012年)
丸山伸彦 著『産地別 すぐわかる染め・織りの見わけ方』東京美術 (2002年)
伊勢型形協同組合 公式サイト
href=”http://isekatagami.or.jp/
静岡市立芹沢銈介美術館 公式サイト
https://www.seribi.jp/index.html
タオル美術館公式サイト
http://www.towelmuseum.com/
(以上、アクセス日2020年3月20日)

<協力>
一般財団法人民族衣裳文化普及協会
www.wagokoro.com/

www.kimono.or.jp/

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