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綿とは

日本人の暮らしは「木綿以前」と「以後」でこう変わった

綿

私たちの生活に溶け込む綿製品。丈夫で軽く、吸水性、保温性に優れる綿は、今日ではなくてはならない素材のひとつになっています。

今回は、我々の身近にある綿の歴史や特徴をご紹介します。

綿とは

綿は植物の「ワタ」から採取される繊維のこと。種子の表皮細胞が種子の周りを包み込むように成長してできるもので、綿花とも呼ばれる。綿繊維は平たく、所々天然の撚り (より) があり、紡いで糸にすると繊維同士がしっかりと絡み合うため、紡績に適している。

また、繊維の断面を見ると、内部は空洞となっている。この空洞が綿の特徴である軽さと高い保温性、吸水性を生み出している。

ここに注目。日本人の暮らしを変えた「綿」の登場

Tシャツやジーンズなど、普段目にする製品にも多く利用され、今日ではもっとも身近な素材のひとつである綿だが、一般庶民に定着したのは意外にも遅く、江戸時代に入ってからであった。

民族学者・柳田国男 (やなぎた・くにお) が『木綿以前の事』で「然らば多くの日本人は何を着たかといえば、勿論主たる材料は麻であった」と述べているように、それまで日本人は麻を衣服のメインとして用いていた。

東北では冬の寒さを乗り切るために、麻の衣服に刺繍を施す「こぎん刺し」の文化も生まれている。

江戸時代に書かれた『農業全書』には以下のような記述がある。

古木綿いまだわたらざる時は、庶民は云に及ばず、貧士も絹をきる事ならざる者は、麻布を以て服とし、冬の寒気ふせぎがたくして、諸人困苦にたへず、……幸にして此物いでき、賤山がつの肌までをおほふ事、誠に天恩のなす所にして、是則天下の霊財と云つべし。

ここから、当時いかに綿が貴重な素材とされていたかを伺い知ることができる。

加工のしやすさや暖かさという利点を兼ね備えた綿は、江戸時代に栽培が広まるとあっという間に人々の生活に普及した。さらに藍によく染まるという特徴を持っていたため、綿とともに藍染も広まることとなった。

<関連の読みもの>
こぎん刺しとは。『禁止』から生まれた雪国の知恵とデザイン
https://sunchi.jp/sunchilist/hirosaki/116841

綿?木綿?真綿?まずはことばの意味を知ろう

綿や木綿や真綿など似た言葉が存在するため、まずはことばの意味を押さえよう。

・綿 (ワタ) : アオイ科ワタ属に属する植物、またはその種子を包む繊維。その花のような姿から「綿花」とも呼ばれる。この繊維から綿糸がつくられる。

・真綿 (マワタ) : 綿と響きは似ているが、こちらは蚕の繭から採る繊維で、絹の原材料となる。植物性の木綿とは異なる。

・綿 (メン) : ワタと同義で使われる他、綿糸や綿織物を指す。もともとは絹の「真綿」と区別して「木綿 (モメン) 」と呼ばれていたが、次第に「綿 (メン) 」といわれるようになった。

全国の綿素材の工芸品

全国には綿を生かした工芸品が数々存在する。これまでさんちで取材した代表的な工芸品を紹介しよう。

◯会津木綿

会津木綿は、1627年 (江戸時代) に当時の会津藩主が織師を招いて技術を伝えたのが始まりとされる伝統的な綿織物。先染めした糸を織るため色落ちしづらいのが特徴で、丈夫で軽く、吸水性にも優れている。冬は極寒、夏は酷暑という厳しい気候の会津地方において、年中着となる野良着 (のらぎ) として愛されてきた。

<関連の読みもの>

途絶えなかった地域の記憶。100年前の織り機が紡ぐ、これからの会津木綿
https://sunchi.jp/sunchilist/fukushima/114570

◯遠州織物

古くより綿花の一大産地であった、浜松市を中心とした静岡県西部で作られる織物。全国でも有数の工業都市である浜松は、もともと近江の琵琶湖に対して浜名湖一帯を遠江 (とおとおみ)と呼んだことから遠州と呼ばれた。浜松一帯は温暖であったことから綿の栽培が盛んになり、江戸時代中期には日本有数の綿花の産地として知られていた。

<関連の読みもの>

遠州織物とは
https://sunchi.jp/sunchilist/hamamatsu/26313

織姫が縁をむすぶ織物の町・浜松を訪ねて
https://sunchi.jp/sunchilist/hamamatsu/24288/2

◯伊勢木綿

江戸時代から受け継がれる伊勢の伝統的な織物。三重県指定の伝統工芸品とされるが、現在では作り手は臼井織布株式会社の一社のみとなっている。

◯奈良の靴下

降水量の少ない奈良盆地では、江戸時代頃の衣服など日常品への綿需要拡大を受けて、田に代わり綿の栽培や問屋・糸商といった綿産業が発達した。その後文明開化が起こり、服装の西洋化に伴い靴下への需要が高まり、すでに綿織産業の土台があった奈良でも靴下産業が発展することとなった。奈良の靴下生産量は平成24年時点で国内シェア約34.1%とシェア率全国1位となっている。

<関連の読みもの>

奈良の靴下
https://sunchi.jp/sunchilist/asukakashiharakoryo/5443

◯高島ちぢみ

縮 (ちぢみ) とは、強く撚った糸を用いて織り、撚りを戻すことで生じる表面の細かい皺 (しぼ) が特徴の織物のこと。麻や綿の糸で織られ、軽くて涼感のある触り心地が特徴だ。中でも綿糸で作られる高島の縮は、現在では国産の縮生地の生産量の約9割を占めている。麻の縮では新潟の小千谷縮が有名。

<関連の読みもの>

道の駅で見つけた「高島ちぢみ」。工芸品との出会いを楽しむ宝探しの旅
https://sunchi.jp/sunchilist/takashima/70179

◯播州織

播州織は、兵庫県の北播州地域を中心とした地域で生産される先染綿織物である。染め上げた糸を様々な組み合わせで、チェックやストライプ柄に織り上げ、主にシャツやブラウス、ストールなどの薄手の衣料生地に用いられる。

<関連の読みもの>

「播州織wikiタイトル」
URL(発行後)

◯久留米絣

久留米絣は、福岡県・筑後地方、久留米市周辺で織られる絣。縦糸と横糸をそれぞれ先に染めてから織り柄を出す絣の中でも、緻密な柄を表現する久留米絣は、特に複雑な工程と長い製造期間を必要とする。

<関連の読みもの>

「久留米絣wikiタイトル」
リンク(発行後)

綿の歴史

◯世界で広まっていた綿栽培

インドやペルー、メキシコといった地域は熱帯原産の綿が好む環境 (平均気温25度程度) が揃っており、古くより綿栽培が行われてきた。約5000年前に栄えたパキスタンのモヘンジョダロ遺跡から発掘された木綿の繊維の切れ端や、メキシコのデワカン渓谷から発見された紀元前5500年の綿花などから、およそ7500年以上前から綿の栽培は行われていたと考えられている。

やがて綿は時間をかけて寒さへの耐性をつけ、北の地域へと広まった。中国では13世紀頃から綿花栽培がはじまったといわれている。

◯日本で初めての栽培は漂着したひとりの青年から

綿種の日本への伝来については諸説あるが、一説によれば8世紀に三河国 (現愛知県) に漂着したインドの青年が綿種子を持参していたと伝えられている。その後、温暖な九州や四国地方で栽培を試みたものの根付かず、そのまま途絶えてしまった。

◯15世紀ごろ、再び種子が入り急速に人々の間で広がる

日本の衣類は、綿が登場するまで麻などが主な素材であったが、再び綿が中国から伝来すると、糸や生地に仕立てるまでの手間のかからなさや保温性の良さなどから綿栽培が急速に広まった。染め屋や織屋などの専門業者が現れ、江戸時代には木綿の着用が一般的になった。布団に綿を入れるようになったのもこの頃である。

また、綿は麻や藤に比べて染色しやすかったため、綿の発展とともに藍染も発展し、伝統工芸である久留米絣など各地の工芸品も登場、発展した。

こうした普及に伴い、薩摩藩の島津斉彬 (しまづ・なりあきら) が紡績事業として国内で初めて力織機を導入するなど、綿はもっとも身近な素材のひとつとして定着、産業として発展することとなった。

◯力織機の登場、国内栽培の激減

江戸時代までは人の手によって紡績していたが、明治・産業革命以降は機械化が進み、日本の織物産業は近代化していくこととなる。

そのさきがけはトヨタ自動車の創業者、豊田喜一郎の父である豊田佐吉 (とよだ・さきち) による動力織機の発明である。豊田氏による動力織機の発明をきっかけに、各地で様々な動力織機が発明され、力織機が普及した。そして時代進歩に伴う電気の発達により、明治時代以降には綿製品の生産量は飛躍的に増加していった。

綿製品の生産技術発展の一方で、日本国内で栽培していたワタは機械紡績に不向きであり、国内でのワタ栽培は激減した。現在では、日本で使われる綿はほぼ100%輸入に頼っている。

現在の綿を生かしたものづくり

現在、国内ではどのような綿のものづくりが存在しているだろうか。

これまでさんちで取り上げてきた最近の動向を紹介しよう。

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<参考>
武部善人 著 『綿と木綿の歴史』お茶の水書房出版 (1989年)
『綿工連史 – 綿スフ織物業の歩み – 』日本綿スフ織物工業連合会、日本綿スフ織物工業組合連合会 (2006年)
農山漁村文化協会 編『生活工芸大百科』農山漁村文化協会出版 (2016年)

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