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高島ちぢみとは

着心地抜群のワンピースやパジャマの秘密は、「でこぼこ」生地にあり

高島ちぢみ

<目次>
・水に恵まれた高島で発展を遂げた「高島ちぢみ」
・“シボ”がポイント!高島ちぢみの現場を拝見
・高島ちぢみの“白さ”を支える、高島の自然
・技術を未来へ受け継ぐために
・自分の持ち場を、守り抜く

水に恵まれた高島で発展を遂げた「高島ちぢみ」

京都との県境に比良山系が横たわり、琵琶湖の青が一層深みを増す滋賀県北西部・高島市。

1000メートル級の山々と大湖に挟まれた土地は豊かな伏流水に恵まれ、自噴する地下水を引いた井戸が各家庭に見られる「生水の郷・針江」など、水にまつわる独自の文化が今でも残る。

そんな高島で発展した伝統産業のひとつが「高島ちぢみ」。

ちぢみとは糸に強い撚りをかけ、表面にシボを作った織物のこと。シボの凹凸が肌との密着を防ぎ、吸汗性、速乾性に優れていることからその多くは肌着やパジャマ、ステテコなどに用いられてきた。

高島ちぢみ
表面の凹凸が「ちぢみ」の特徴。肌との密着を防ぎ通気性にも優れている

近年、Tシャツやワンピース、スカートなど、若い人が取り入れやすいファッションアイテムも次々に登場。

肌触りよく、着心地も抜群。良心的な価格でデザイン性に優れたアイテムが多数揃う。

そんな高島ちぢみの加工を一手に担うのが「高島晒協業組合」。高島に残る織物業者から届く織物を、高島ちぢみへと仕立てていく。

高島晒協業組合の工場。ちぢみ加工、精練漂白、染め加工まで一手に担う
高島晒協業組合の工場。ちぢみ加工、精練漂白、染め加工まで一手に担う

“シボ”がポイント!高島ちぢみの現場を拝見

各織物業者から納入された反物は、それぞれの用途に応じたシボを付け、糊抜きをした後に漂白、染め加工を行う。どの工程にも、大型の設備と経験ある職人が不可欠だ。

まずはシボをつける工程。まっさらな織物に強力な撚りをかけて凹凸を作っていく。

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日本でここだけしかないシボをつける機械。全部で7台あり、それぞれが異なるシボをつける
高島ちぢみ
高島ちぢみ
織物がローラーの部分を通過するとシボができる
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機械を通過し、シボがついた状態の生地。縦にストライプ模様のような凹凸が入っている

高島ちぢみに用いる撚り糸は、通常の平織りに比べ糸の撚りの回数を約2倍以上ひねるので、凹凸がより大きくなり、肌に付く面積がより少なくなるためベタつかない。また、強撚(ついねん)糸は伸縮性に優れており、洗濯するとサイズがひとまわり小さくなることもあるそう。

もちろん乾くと元通り。伸縮自在の生地がよく汗を吸い、すばやく乾かしてくれるのでさらっとした着心地を持続できるのだ。

シボは全部で7種類。定番のステテコなどに用いられる目の粗いピケ楊柳、ブラウスなど衣服に用いられる波シボ楊柳など。一度つけたシボは半永久的に取れないそう。

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ピケ楊柳のシボをつけるローラー。目の粗いシボができ、より通気性に優れた生地になる
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シボを付けた生地は圧力釜で糊抜きを行う。巨大な圧力釜が並ぶ様子はなんとも壮観

高島ちぢみの“白さ”を支える、高島の自然

圧力釜で糊を抜いた後には漂白を行う。高島晒は京都の呉服のように染付メインのものと異なり、もともと白い生地のままで使用することが多かった。そのため通常は塩素のみでの漂白を、塩素と水素を用いて時間をかけて行うことで白さの度合いを一定に保っている。

高島の地を潤す清らかな水も、この白さを生み出す上で大きな役割を果たしている。

圧力釜から取り出した最大200反(数千〜1万メートル)の生地を漂白するには、大量の水が必要となる。その水を、ここでは安曇川の伏流水を地下から汲み上げて使っているのだ。

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高島ちぢみ
高島の豊富な水が高島ちぢみを支えている

水に乏しい地域なら水自体を購入しなければならず、原価が約10倍に跳ね上がることもあるそう。

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漂白後の生地。この白さこそ高島ちぢみの代名詞
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右側の水槽で漂白を終えた生地が左側に流れていく。設備のひとつひとつが大規模
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漂白の後は乾燥機へ。まるで宇宙船の操縦席のような光景
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圧巻のスケールをもった乾燥機
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乾燥後は検反室で付着物や汚れなどのチェックを行う

技術を未来へ受け継ぐために

検品後はいよいよ染色工程へ。1200柄ものバリエーションの中から、注文に応じた絵柄と色で真っ白な生地に染色を施していく。

ここにある2台の染色機は、日本でも全部で5台しかない貴重なもの。しかし近年どこも後継者不足に悩み、同業他社で交流しながら業界全体での技術継承にも取り組んでいる。

数ヶ月前に染色場へ異動になった職人さんは、もともと乾燥場での作業を担っていたそう。しかしベテラン職人の高齢化により引き継ぎが急務となり、染色の仕事を任されるようになった。

本摺りの前には必ず見本で試し摺りを行う。本番はスピードが上がるので見本より色も薄くなり、見本の色の付き方から逆算して本番の濃度を調整していかなければならない。一人前と呼ばれるには10年から30年もかかるという。

高島ちぢみ
巨大な染色機が鎮座する染色室。染色の作業は、長年の勘と経験がなければ務まらない職人技だ
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染色機の溝に流し込んだインクをローラーが運んでいく。活版印刷機と原理は同じ

自分の持ち場を、守り抜く

撚糸・織り・加工と、分業制により地域で受け継がれてきた高島ちぢみ。そのうち、織りの製造を担う織物業者は高島で10社弱。そのひとつである「木村織物株式会社」は、織物業がピークを迎えようとしていた昭和30年に創業。現在は四代目の内藤茂さんが代表を務めている。

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木村織物の代表を務める内藤茂さん。卸だけではなく、近年は自社ブランドでの製品も展開

木村織物の機織り機は空気の動力でよこ糸を織るエアージェット織機を採用。1台で1日に100~250メートルの生地を織ることができる。

高島ちぢみ
高島ちぢみ

現在は18台のエアージェット織機を完備。北陸地方では水の力で糸を織る「ウォータージェット織機」が主流だそう。

木村織物の創業当初は、高島一帯に数百軒もの織物屋が軒を連ねていたという。現在は、衣料用途では約10社、資材関連では約30社に減少している。高齢化も進んでおり、どう技術を受け継いでいくかが今後の課題だと内藤さんは話す。

そんななか、昨年立ち上げたブランドが「淡海の織布」。「淡海」とは、滋賀県でよく用いられている「近江」の別称だ。

卸業だけに限らず、自社製品を展開することで、色・生地・柄など人気の傾向を探ることができ、より顧客の期待に応えられるような商品提案を目指している。

近年はパジャマやTシャツなどの定番に加え、チュニックやスカート、ストールなど若者向けのアイテムも販売し、色もピンク、マスタード、ブルーなど鮮やかで明るい印象のラインナップだ。

高島ちぢみ
「淡海の織布」のトップスとスカート。肌触りもよく、流行を捉えたデザインが若者にも人気

協業組合の平山さんも、オリジナルの製品化に前向きだ。協業組合は加工業メインのため、なかなか製品化まで手が回らないのが現状。しかしゆくゆくは地元の縫製業者に縫製を依頼し、高島ちぢみすべてを「メイドイン高島」として売り出したいと意欲を見せる。

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同業他社との交流や、地元企業との交渉も積極的に提案する協業組合の平山さん
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高島晒協業組合オリジナルのカーディガン。軽くて風通しもよく、シルエットも素敵

撚糸製造・織り・加工すべてを産地で担う「高島ちぢみ」は、分業制によりそれぞれが受け継いできた技術があるからこそ成り立つ工芸品。生産できる数が限られているので、そのほとんどは地元に卸される。今ある色が、来年あるとも限らない。限定的な出会いの中でお気に入りを見つけたら、即購入をおすすめする。

まさに一期一会の、地元密着型の工芸品。だから一層、この地を訪れることに意味を持つ。

高島の空気や美しい自然に触れるとなお、「高島ちぢみ」の魅力を肌で感じられるに違いない。

<取材協力>
高島晒協業組合
滋賀県高島市新旭町旭1411
0740-25-3515(代)

木村織物株式会社
滋賀県高島市新旭町饗庭538
0740-25-3126

高島ちぢみ商品取扱先
たかしま・まるごと百貨店
滋賀県高島市新旭町旭1-10-1 高島市観光物産プラザ内
0740-25-5500
10:00~18:00

文:佐藤桂子
写真:平田尚加 

*こちらは、2019年10月1日の記事を再編集して公開いたしました。

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