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結城紬とは
世界が認めた独自の技法と歴史
幸田文や白洲正子の作品にも登場し、多くの作家や著名人にも愛されてきた高級絹織物、結城紬 (ゆうきつむぎ) 。
全ての工程を手作業で行い生み出される生地は、ふわりと軽くあたたかい心地よさと美しさ、そして丈夫さをあわせ持っています。
1977年には国の伝統的工芸品に指定、2010年には「本場結城紬」の名でユネスコ無形文化遺産に登録されました。世界に誇るその技術と歴史を紹介します。
結城紬とは。真綿を紡いで織り出される、柔らかくあたたかな風合い
結城紬とは、茨城県結城市を中心として、主に茨城県、栃木県の鬼怒川流域で作られている絹織物。精緻な亀甲模様や複雑な絣柄で構成された柄が美しい。真綿から手で紡ぎ出した「紬糸 (つむぎいと) 」と呼ばれる糸を使って織られる。
真綿は、蚕の繭を煮て柔らかくして広げたもの。やわらかく、空気をたくさん含むためあたたかで心地良い感触が特長だ。この真綿の魅力を最大限に生かした紬糸によって織られた結城紬は、独特の風合いと着心地の良さから高い人気を誇る。
ここに注目。「三代着て味が出る」結城紬の特長
結城紬は、ふわりと軽くあたたかいことに加え、丈夫でシワになりにくいという特長がある。その丈夫さは、「三代着て味が出る」と言われるほど。着るたびに味わいが増していくので、一生物の着物として大切に着続ける人が多いという。
この着心地の秘密は、その糸づくりと織り技法にある。
紬糸の原料となる蚕にとって、繭は命を守る大切な住処だ。さなぎが最も過ごしやすい環境をつくるための繭は非常に高性能で、通気性、抗酸化性、抗紫外線、抗菌性、保温性まで兼ね備えている。まずは、その特性を崩さない糸作りが重要となる。
具体的には、蚕を生きた状態で煮ることで真綿を取り出す上生(じょうなま)がけという特別な方法により、鮮度が高く粘りや腰のある糸をつくる。広げた真綿を宙に浮かすと空気の層でふわふわと浮くように軽く、手を包むと体温を閉じ込めぽかぽかとあたたかい。この真綿を手紡ぎで糸にしていくのだ。
また、布を織る際の経糸 (たていと) と緯糸 (よこいと) の両方に手つむぎの絹糸を使うのは、世界でも本場結城紬のみ。繭の特性を最大限に活かすための方法で織り上げられるからこそ、繭本来の心地よい感触と丈夫さが生まれるのだ。
<関連の読みもの>
「死ぬまでに見たいユネスコ無形文化遺産工芸3選 〜結城紬〜」
https://sunchi.jp/sunchilist/yuki/4258
ユネスコが認めた結城紬の作り方とは
2010年にユネスコ無形文化遺産に登録された本場結城紬。その製作工程そのものが高く評価されている。
それぞれを専門職が行う分業制で、製作工程の全てを手作業で行う。30以上ある工程のうち、特に注目すべきは「糸紡ぎ」「絣くくり」「地機 (じばた) 織り」の3つ。この3工程は、国の重要無形文化財にも指定されている。
風合いを下支えする独特の紬糸を作る糸紡ぎは、「つくし」と呼ばれる棒状の道具に真綿を巻きつけて行われる。真綿の端を指先でひねりながら糸を引き出し、ふわりとした質感が残るように撚りをかけず、唾液を使ってまとめていく。
染色前に墨で印を付けた部分だけを綿糸で縛り、染料が染みこまないようにする技法を「絣くくり」と呼ぶ。精巧な模様になると、半年以上の時間を要するものもある。
ようやく支度が整った紬糸は、「地機織り」という技法で織られる。経糸の端を織り手の腰に巻きつけて織る地機は、結城紬の工房では「いざり機 (ばた) 」とよばれる。
紬糸は糊をつけて固めてあるものの、撚りがないため切れやすく、また紡ぐ人によって癖も異なるため微妙な調整が重要となる。そのため、自分の体で経糸の張りや力加減を調整できる地機が用いられるのだ。
結城紬の歴史
◯結城紬の起源
鬼怒川が流れる地域では、古代から養蚕や農業が盛んに行われていた。三野 (美濃) の国の多屋命 (おおねのみこと) が、久慈郡機初村 (茨城県常陸太田市) に移り住み、織物を始めた。その織物は長幡部絁 (ながはたべのあしぎぬ) と呼ばれ、常陸国の各地に広まり、結城地方にも伝わったという。
奈良時代中期に常陸国から朝廷に献上された絁 (あしぎぬ) の一部が東大寺正倉院に保管されており、これらの絁が結城紬の原型と言われている。
◯鎌倉武士の愛用品から、江戸の百科事典にも載る名品へ
常陸国から献上された絁は、その後「常陸紬」と呼ばれるようになり、鎌倉時代にはこの地域の領主、結城氏の名前をとって「結城紬」と呼ばれるようになった。見た目が質素で丈夫なことから関東の武士にも好まれ、結城地方が生産の中心に。その後、室町時代には幕府や関東管領に献上され、全国的に著名な物産となった。
江戸時代に結城家が越前の国 (福井市) に去った後、この地を治めた初代代官伊奈備前守忠次 (いなびぜんのかみただつぐ) は、信州上田 (長野県) より職人を招き、染色と縞織りの技術を導入するなど、紬産業の発展に尽力。さらに改良が加えられ、江戸中期に出版された当時の百科事典と言われる『和漢三才図会』には最上品の紬として結城紬が紹介されている。
◯明治以降、縮織の台頭
江戸末期にはじめて結城紬に取り入れられた絣模様は、明治時代に花開き、緻密な絣に挑戦する者が次々とあらわれる。明治後期には、もともと平織のみだった結城紬に縮織の技法が結城紬に取り入れられ、絣模様を仕組んだ縮織は老若男女に受け入れられ、伝統の平織を凌ぐようになった。
◯受け継がれる平織の伝統。世界の結城紬へ
第二次世界大戦中、贅沢品の禁止令を受け低迷するが、戦後は生産の回復を見せた結城紬。しかし生産の中心は、緯糸に強い撚り加工をした縮織であった。そのため、平織の存続が憂慮されていたが、1956年に糸紡ぎ、絣くくり、機織りの3つの技術が国の重要無形文化財に指定、1977年には国の伝統的工芸品に指定された。現在は9割以上が平織となっている。
独自の技工は世界的にも守るべき貴重な技であると認められ、2010年にユネスコ無形文化遺産に登録された。
ここで買えます 「つむぎの館」
結城紬の老舗製造卸問屋である「奥順」が運営する結城紬の総合ミュージアム「つむぎの館」。登録有形文化財指定の建造物が並ぶ施設内には、資料館、反物の展示館、結城紬製品のショップや染織体験工房がある。
古民家「陳列館」では伝統的な柄から新作まで、様々な結城紬200点以上を展示。さらには、結城紬に関する豊富な資料、貴重な文献や実際に使われている道具類なども並ぶ。
つむぎの館
茨城県結城市大字結城12-2
http://www.yukitumugi.co.jp/
関連する工芸品
大島紬
https://sunchi.jp/sunchilist/amami/115675
結城紬 おさらい
◯素材:絹
◯主な産地:茨城県、栃木県
◯特徴的な技法:糸紡ぎ、絣くくり、地機織り
◯数字で見る結城紬
・組合員数:73件 (茨城県・栃木県合計 令和元年)
・国の重要無形文化財:3部門
<参考資料>
・坂入了 著『結城紬』茨城県本場結城紬織物協同組合 (2003年)
・伝統的工芸品産業振興協会 監『ポプラディア情報館 伝統工芸』ポプラ社 (2006年)
・日本工芸会 編『日本伝統工芸 鑑賞の手引き』芸艸堂 (2000年)
・日本工芸会東日本支部 編『伝統工芸ってなに?-見る・知る・楽しむガイドブック-』芸艸堂 (2015年)
・三宅和歌子 著『日本の伝統的織りもの、染めもの』日東書院本社 (2013年)
・茨城県本場結城紬織物協同組合 公式サイト
http://www.cc9.ne.jp/~ibaorikyo/index.html
・結城市観光情報
https://www.city.yuki.lg.jp/page/page001668.html
(以上、サイトアクセス日: 2020年7月6日)
<協力>
茨城県本場結城紬織物協同組合
http://www.cc9.ne.jp/~ibaorikyo/index.html