日本全国

美濃和紙とは

1300年の歴史をもつ日本三大和紙の実力

美濃和紙

美濃和紙の基本情報

  • 工芸のジャンル

    和紙

  • 主な産地

    岐阜県

岐阜県美濃市を中心につくられる「美濃和紙」。

中でも、厳選した素材で手漉きされる「本美濃紙」の技術は、ユネスコ無形文化遺産に登録され、国宝級の古文書や絵画の修繕に使用されるほどです。

今回は、日本のみならず世界からも高い評価を得ている美濃和紙の魅力をご紹介します。

<目次>
・美濃和紙とは。本美濃紙の手漉き技術がユネスコ無形文化遺産に登録
・ここに注目 他のものづくりを支える縁の下の力持ち
・本美濃紙?美濃和紙?
・美濃和紙の豆知識
・美濃和紙の歴史
・現在の美濃和紙
・ここで買えます、見学できます
「開けば花、閉じれば竹」美しく和傘の産地・岐阜和傘の職人、河合幹子さんの思い

美濃和紙

美濃和紙とは。本美濃紙の手漉き技術がユネスコ無形文化遺産に登録

美濃和紙(みのわし)とは、岐阜県美濃市でつくられてきた和紙。福井県の越前和紙、高知県の土佐和紙と並び「日本三大和紙」のひとつに数えられる。

本美濃紙、美濃手すき和紙、美濃機械すき和紙の大きく3種類があり、本美濃紙の手漉き技術は2014年(平成26年)にユネスコ無形文化遺産に登録されている。

良質な原料と長良川や板取川の清流に恵まれた一帯の和紙づくりは、1300年以上前に遡る。奈良の正倉院には702年に美濃和紙でできた戸籍用紙が所蔵されており、日本最古の紙とされる。

美濃和紙は薄くムラがないため柔らかく繊細な風合いで、さらに強靭な耐久性も兼ね備えているのが魅力。その品質の高さから表具(障子、襖、屏風、掛け軸など紙や布を張って仕立てられるもの)のような伝統的なものから、照明器具やインテリア、小物など日用品まで色々なものに使われてきた。

今日では古文書や絵画など国宝級の文化財の修復に本美濃紙が活用されており、日本のみならず、海外でも高い評価を得ている。また、2021年に開催される東京五輪の表彰状には美濃手すき和紙が採用されており、まさに日本が世界に誇る伝統工芸品だ。

美濃和紙

ここに注目 他のものづくりを支える縁の下の力持ち

美濃和紙がつくられる岐阜県は提灯や灯篭、和傘の一大産地としても有名である。

提灯や灯篭は雨風にさらされるため、用いられる紙には灯火を守れるだけの粘り強さと、灯りを通せるような薄いものがいい。また、和傘の紙は雨風に強いことはもちろん、すぼめたり広げたりされるため丈夫さが求められる。

そうした機能を兼ね備えた和紙として、美濃和紙は古くから提灯や灯篭、和傘に用いられ、地場の産業を支えてきた。

美濃和紙を使っている和傘
美濃和紙を使っている和傘

また障子紙や友禅の型紙、美術紙などにも美濃和紙は用いられており、他のものづくりを支える、まさに「縁の下の力持ち」のような存在と言える。

<関連の読みもの>

「開けば花、閉じれば竹」美しく和傘の産地・岐阜和傘の職人、河合幹子さんの思い

本美濃紙?美濃和紙?

次に美濃和紙の3つの種類について、それぞれ製法や原料、特徴を見ていこう。

○本美濃紙

本美濃紙

美濃市で本美濃紙保存会員が、決められた原料と製法で漉いたものを指す。一帯で作られる手漉き和紙製品のうち本美濃紙は1割ほどで、産地の中でも厳格にその基準が定められ、守り継がれている。

<本美濃紙の指定要件>

・原料は「大子那須楮(だいごなすこうぞ。茨城県久慈郡大子町でつくられる須楮)の白皮」のみであること。

茨城県大子町産の最高級品「大子那須楮」
茨城県久慈郡大子町産の最高級品「大子那須楮」

・以下の伝統的な製法と製紙用具によること。

1.白皮作業を行い、煮熟には草木灰またはソーダ灰を使用すること。

2.薬品漂白を行わず、填料(てんりょう)を紙料に添加しないこと。

3.叩解(こうかい)は手打ち、またはこれに準じた方法で行うこと。

4.抄造(しょうぞう)は「ねり」にとろろあおいを用い、「かぎつけ」または「そぎつけ」の竹簀(たけす)による流漉きであること。

5.板干しによる乾燥であること。

・伝統的な本美濃紙の色沢、地合等の特質を保持すること。

『古来と未来をつなぐブランド 美濃和紙』から抜粋)

指定要件を満たした技法でつくられる本美濃紙は、柔らかく温かみのある風合いとなり、光に透かすと繊維が縦と横に整然と絡み合っていることが分かる。また、年を経るほどにくすむのではなく、むしろ白さが際立つ。

本美濃紙は1969年(昭和44年)に国の重要無形文化財に指定、2014年(平成26年)にその伝統技術がユネスコ無形文化遺産に登録。さらに、本美濃紙保存会についても国の重要無形文化財に総合指定されている。

○美濃手すき和紙

美濃手すき和紙

美濃市で美濃手すき和紙協同組合員が漉いたものを指す。工程は本美濃紙のものとほぼ同じだが、天日だけでなく乾燥機で行われること、原料は楮だけでなく、三椏(みつまた)や雁皮(がんぴ)が使われることもある。

美濃手すき和紙づくりの様子
美濃手すき和紙づくりの様子

温かみのある風合いで、ムラがなく薄くて丈夫。表具や岐阜提灯、和傘など様々な製品に用いられる。1985年(昭和60年)には「美濃和紙」の名で国から伝統的工芸品に指定された。

○美濃機械すき和紙

美濃機械すき和紙

美濃和紙ブランド協同組合員が漉いたものを指す。短網抄紙機(しょうしき)や円網抄紙機などの機械が使われ、原料には主にパルプ等の木材、部分的には非木材繊維(楮、三椏、雁皮、マニラ麻、亜麻など)も用いられる。

機械化により短時間で大量生産できるためコストパフォーマンスに優れつつ、紙の風合いや光沢、丈夫さは手すき和紙の製品に近しい。

美濃和紙の豆知識

○美濃和紙が生んだうだつの町並み

美濃市には岐阜県の観光名所「うだつ(火事の類焼を防ぐため、屋根の両端につくられた防火壁のこと)の上がる町並み」がある。

江戸時代から変わらないその風景は、和紙を扱う商人たちが財をなし、富を競うようにして築いたもの。鬼瓦をもたない「小坂家」、破風瓦(風避けのための瓦)が傘形になっている「加藤家」など、うだつやその周りのデザインは時代性や財力の差によって一軒ずつ異なる。

美濃和紙の歴史

○現存する日本最古の紙はここから

美濃和紙の歴史は古く、1300年以上も前から岐阜県美濃市の長良川、板取川の流域でつくられてきた。奈良時代には写経用の紙として使われ、正倉院には日本最古の和紙として美濃、筑前、豊前の3国の戸籍用紙が所蔵されている。

御野国(みののくに)戸籍断簡のレプリカ
御野国(みののくに)戸籍断簡のレプリカ

○当時の手紙にも登場。評価を高めた平安時代

美濃で和紙づくりが活発に行われるようになったのは平安時代になってから。とくに板取川の流域は、土岐氏(平安末期から数百年にわたり、美濃を支配していた一族)らによって治安が保たれていたことから和紙づくりが盛んになる。

この頃から美濃の大矢田地区では定期的に「紙の市」が催されており、近江商人らの手によって京都方面の公家や社寺の間に広まっていく。貴族や僧侶たちの手紙などに度々その名が記されていたことから、評価の高さが伺える。

また、室町時代の後期には越中国(えっちゅうこく。現在の富山県)でも使われており、美濃和紙はすでに全国的に知られる紙の名産地であったと考えられる。

○障子や提灯、和傘にも。縁の下の力持ちは世界へ

美濃では障子や提灯、和傘を始めとした様々な用途に紙がつくられていた。中でも、別名「書院紙」と呼ばれる障子紙はすっきりとした地合いで、陽に透かすと明るく光を通し、四方に整然と繊維が広がる。その美しさから高級障子紙として評判で、江戸幕府の御用紙として納められ、保護されていた。和紙を扱う仲卸商人が登場したのもこの頃である。

その後、美濃では海外貿易に目が向けられるようになり、多くの紙商人が海外への販路を広げていく。明治時代にはウィーンやパリの万博博覧会に美濃和紙が出品され、「美濃紙ブランド」は世界に知られるようになる。

美濃和紙  障子

○世界に誇る美濃和紙へ

「日本最古の紙」とされる美濃和紙。長い歴史で受け継がれてきた伝統技術、品質の高さは国内外から高い評価を得ており、1969年(昭和44年)には本美濃紙が国の重要無形文化財、1985年(昭和60年)には美濃手すき和紙が「美濃和紙」の名で国の伝統的工芸品に指定された。さらに、2014年(平成26年)には本美濃紙の手漉き技術がユネスコ無形文化遺産に登録されている。

現在の美濃和紙

現在、美濃和紙は京都にある迎賓館の障子紙や照明器具に採用。アメリカのスミソニアン博物館やイギリスの大英博物館、フランスのルーブル博物館などが所蔵している古文書や絵画といった国宝級の文化財の修復には本美濃紙が用いられており、その薄く均質ながらも丈夫な紙質は、国内のみならず海外でも評価は高い。

また、美濃和紙は職人が揃っていて、産地全体で均質な手すき和紙を安定してつくれることが評価され、2021年の東京五輪の表彰状に使われる紙に美濃手すき和紙が選ばれた。

<関連の読みもの>
職人たちの華麗なる連携プレー。東京五輪表彰状づくりの舞台裏

ここで買えます、見学できます

○美濃和紙の里会館

岐阜県美濃市の牧谷地区にある、美濃和紙の歴史や技術についてまとめた資料館。美濃和紙をテーマにした展示のほか、職人が使用しているものと同じ道具や原料で紙すき体験ができるワークショップを開催。また、館内には売店もあり、手すき和紙を始めとした和紙製品の購入もできる。

美濃和紙の里会館

○美濃まつり

美濃市にある八幡神社で毎年4月の第2土・日曜に開催されている祭礼。土曜日には美濃和紙の花を約300本もつけた「花みこし」、大小あわせて30基ほどが市内を練りまわる。また、日曜日には県指定の重要文化財「山車」と練り物の行列も。両日の夕方には国に定められた無形民俗文化財の「流し仁輪加(にわか。江戸時代から伝えられたオチのある即興劇)」があり、地域の人々に親しまれている。

美濃まつり

○美濃和紙あかりアート展

「うだつの上がる町並み」として知られる美濃市の一帯で、美濃和紙の再生と町の活性化を目指して1994年(平成4年)から毎年10月の体育の日の前の土・日曜に開催されているアート展。美濃和紙を取り入れたあかりのアート作品が全国から一般公募で寄せられ、町中を優しく彩る。なお、売店や町中コンサートなど様々な催しもあり、美濃和紙の鑑賞以外にも楽しめるイベントとなっている。

あかりアート展

美濃和紙あかりアート展

美濃和紙の基本データ

○主な素材 (原料)

・本美濃紙:大子那須楮 (白皮)

・美濃手すき和紙:楮、三椏、雁皮

・美濃機械すき和紙:パルプ等の木材、非木材繊維(楮、三椏、雁皮、マニラ麻、亜麻など)を含む

茨城県大子町産の最高級品「大子那須楮」
茨城県久慈郡大子町産の最高級品「大子那須楮」

○主な産地

・岐阜県美濃市

○主な製品

・表具用紙

・提灯紙

・傘紙

・写経用紙

・改良書院紙

・美術紙

・手工芸紙

・ちぎり絵用紙

・宇陀紙

・薄美濃紙

・森下紙

・型紙原紙

・箔入紙

・稲紙

・民芸紙

・染紙

・版画用紙

・紙のれん

・雲龍紙

・在来書院

・はり絵用紙

・箔合紙

・絹綿紙

○工程の流れ

美濃和紙のなかでも本美濃紙は原料となる楮を、伝統的な製法で処理し、美しい和紙に仕上げている。以下に、本美濃紙ができるまでの伝統的な技法をまとめた。

・川晒し/水晒し:大子那須楮の白皮を数日間に渡って清流に晒し、不純物を取り除きつつ自然に漂白させる

・紙煮/煮熟(しゃじゅく):湯に草木灰やソーダ灰を溶かし、その中で白皮が柔らかくなるまで煮る

・紙しぼり/ちり取り:白皮に残っている不純物を、川屋(清流のあるところ)での作業によって丁寧に取り除く

・紙打ち/叩解(こうかい):繊維が一本ずつにほぐれるよう、木槌で白皮をうちこなす

紙打ち・叩解

・ねべし:繊維がまんべんなく分散されるよう、沈殿しないように「ねべし(とろろあおいの根をすりつぶして、水を加えて抽出した粘液)」を加える

ねべし

・紙漉き:漉き船(すきふね)に水を張って繊維を混ぜ合わせ、縦横にゆったりと揺すりながら紙を漉いていく

・紙干し:漉いたものを脱水し、栃(とち)の一枚板に貼り付けて天日干しにする

紙干し

・紙こしらえ/裁断:厚さ、色合い、地合いによって選別し、紙として裁断する

○数字で見る美濃和紙

・誕生:1300年以上前には存在していたと考えられる

・従事者(社)数:最盛期(1918年)の生産者戸数は4,768戸、従事者数は17,782人であった。今日(2020年)では18戸、38名あまりにまで減少している

・1969年(昭和44年)に本美濃紙が国の重要無形文化財に指定

・1985年(昭和60年)に美濃手すき和紙が国の伝統的工芸品に指定

・2014年(平成26年)に本美濃紙の手漉き技術がユネスコ無形文化遺産に登録

<参考>

池田 寿『紙の日本史-古典と絵巻物が伝える文化遺産』勉誠出版株式会社(2017年)

古来と未来をつなぐブランド 美濃和紙

美濃市観光ガイド 「和紙とうだつのまち 美濃市」

美濃市教育委員会 「本美濃紙とは」

美濃市観光協会 「うだつ」

美濃市公式ホームページ 「美濃まつり(4月)」

全国手すき和紙連合会 「美濃和紙(みのわし)」

(以上サイトアクセス日:2020年04月13日)

<協力>
美濃手すき和紙協同組合

関連の読みもの

関連商品

和紙