曲げわっぱ好きがわざわざ買いに行く、熊本・そそぎ工房の「一勝地曲げわっぱ」が美しい
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こんにちは。細萱久美です。
小物整理にはカゴや箱を多用していますが、国内外の曲げ物も多いことに気がつきました。日本では曲げわっぱ、アメリカだとシェーカーボックス、北欧ではヴァッカというそうです。
木の種類やデザインのディティールは違えど、いずれも木を曲げて、基本的には丸い形状に成型するという点で同じ発想の工芸品です。
シェーカーボックスは、19世紀を中心にアメリカで活動していたシェーカー教徒によって創られた木製品。
彼らは生活全般において「simplicity~全てにおいて簡素である事~」を理想とし、装飾性を削ぎ落とし機能性を追求した実用的なものを丁寧に創りだしていました。
シェーカーボックスは象徴的な道具の一つで、ミニマムでありながら美しい。柳宗悦が唱えた民藝の「用の美」に通じるものを感じます。
それは日本の曲げわっぱや北欧のヴァッカなど、世界中の曲げ物にも同様に思うことです。
日本の曲げわっぱの産地は秋田が有名ですが、秋田と北欧のフィンランドは気候や風土が似ているそうで、必然的に類似した生活道具が生まれることは面白いと思います。
公私にわたり工芸に携わる機会も多く、秋田をはじめ日本各地で作られている曲げわっぱにも度々出会います。
接点のあった中では、国の伝統工芸品にも指定されている秋田・大館曲げわっぱ、高知・馬路村の曲げわっぱ、鳥取・智頭町の曲げわっぱ、群馬・入山めんぱ、静岡・井川めんぱ、奈良・吉野の曲げわっぱ、福岡・博多曲げわっぱなど。
他にもまだ存在しますが、これだけ見ても日本中に曲げわっぱが。日本が世界有数の森林国で、木が身近な素材であり、木の文化が根付いていることを感じます。
ちなみに、「めんぱ」とは木製の曲げものの弁当箱のこと。日本の曲げものは主に弁当箱の用途が多いと思いますが、それは起源を辿っても分かります。
曲げわっぱの歴史は奈良時代まで遡るといわれ、木こりが杉の生木を曲げて桜皮で縫い止めた弁当箱を作ったのが始まりだとか。
現代の曲げわっぱを代表する、大館曲げわっぱの生産が盛んになったのは今から約400年前。領内の豊富な森林資源を利用できる曲げわっぱを下級武士の手内職として奨励したことによります。伝統技法は継承されつつも、一時は熱に強いアルミやスチール、安価なプラスチック製の弁当箱などに押されて曲げわっぱ産業は縮小しました。
今は再び注目が高まっていて、メーカーによっては数ヶ月待ちになる程の人気。本物志向の人が増えていることもありますが、SNSやブログ発信の影響が一番大きい気がします。それだけ美味しそうに見えて、実際に曲げわっぱのお弁当は美味しいのです。
完全な手仕事なのと、林業の衰退や職人の減少などで、規模縮小となっている産地も多いようで、全体的に入手困難にもなってきています。
実際にいくつかの曲げわっぱを持っていますが、最近出会ったのは、熊本の一勝地にある「そそぎ工房」の一勝地曲げわっぱ。以前からWEBで見て、機能面にも特徴があり気になっていました。
熊本を訪れた際に立ち寄れるタイミングがあり工房を見学に。行って初めて分かりましたが、工房は球磨村の一勝地という、森林に囲まれたとても自然豊かな場所にありました。熊本県内最大であり、日本三大急流の一つである球磨川のほど近くで、ドライブにも良さそうです。
一勝地では江戸時代から相良藩の保護の下、『相良の三器具』の一つとして、お櫃や桶、柄杓など、様々な曲げ物が製作されてきたそうな。大館と同様400年の伝統を持ち、熊本の伝統工芸品の一つである「一勝地曲げ」の技術を唯一受け継ぐ曲げ物職人が、そそぎ工房の淋正司さん。
工房には溢れんばかりの木の材料や、製作途中の曲げなどが。訪問した際もお忙しく作業をされていた淋さんですが、作業の手を止めて気さくにお話してくださいました。
この道に入られたきっかけは25歳の頃に曲げ物に魅せられ、師匠の元で修行を積み独立されたのだそう。それから曲げ物一筋37年。某有名な高級列車のオリジナル曲げ物の注文なども受けているそう。
WEBでも見ていた曲げ物弁当箱も見せてもらいました。機能的な特徴は、二段式の弁当箱が、食べ終わると入れ子になってコンパクトになること。
また側面の曲げ部分にはヒノキを、底面と蓋にはスギを使い耐久性や調湿性に工夫を持たせていること。2種の木を組み合わせて作る曲げ物は珍しい気がします。
スギやヒノキは温かいご飯を入れても余分な水分を吸収し、適度な保湿をしてくれるため、冷めてもふっくら美味しくいただけます。殺菌効果があることもお弁当には安心材料。
オリジナルで作られている二段弁当箱を購入しつつ、別注にも対応していただけるとのことで、その場で自分好みなサイズと形状で注文をさせていただきました。
購入した弁当箱は男性でも少し大きめ。なので、ちょっとしたお重として、またお茶の時間にお菓子を入れて楽しもうかと思います。
製作は丸太を1年間乾燥することから始まり、断裁・研磨・曲げてしばらく置いてから底を付けて完成。曲げの継ぎ目には山桜の樹皮を使うので、天然素材と手仕事から生み出される逸品です。
とても時間のかかる作業なので、出来上がりを待つ時間も楽しみます。
奈良から行くことを思うとなかなか遠い場所ではありますが、100パーセントアナログな曲げわっぱは、それを生み出す職人に会うことで、お人柄すら感じる味わい深い道具だと思います。
<紹介したお店>
そそぎ工房
熊本県球磨郡球磨村大字一勝地610
0966-32-1192
細萱久美 ほそがやくみ
元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。
文・写真:細萱久美
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