【工芸の解剖学】最高の履き心地を目指してつくった「ウールカーペットのスリッパ」

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スリッパってなかなか「これ」と思えるものがない。

履き心地が良くて、丈夫で、佇まいの良い、置いてある姿にも愛着が湧くようなスリッパが欲しい。できれば、長く使えるものを。

そんな願いを叶えるために、中川政七商店がたどり着いたひとつの答えが「最高級のカーペットでつくったスリッパ」です。

「足裏が喜ぶ」最高の履き心地を目指してつくった、新しいスリッパのかたちを解剖します。

解剖ポイントその1:「足裏が喜ぶ」最高の履き心地

靴を脱いで、素足で過ごすことも多い日本の暮らし。

「足裏の感覚はとても大切なのでは?」という気づきから、足が最高に心地いいスリッパづくりは始まりました。

「最高の履き心地」のヒントにしたのが、高級ホテルのラウンジ。

「あの雲の上を歩くような、ふかふかとしながら足裏をしっかりと支えてくれる安心感や心地よさを、スリッパで再現できないか?」

そんなアイデアから生まれたのが、中敷に本物のカーペットを使用したスリッパでした。

素材には、実際に三つ星ホテルに使われているカーペット10種類以上から繰り返し着用テストを行い、スリッパという日常的に磨耗する環境下でもへたりにくかった2種類の生地をセレクト。

毛足が1本1本立ち上がったカットパイルタイプは、まさに絨毯そのもの。足をふんわりと包み込み、特に保温性に優れます。

フェルト加工した太い糸をループ状に織り込んだループパイルタイプは、接地面が少ないので、よりさらっとした肌ざわりです。

履いてみると、どちらも体重をグッと支えてへたらない、足を包み込むようなフィット感。歩くと柔らかく足についてきて重さを感じません。床の冷たさや固さが足に響かず、履いたそばから足まわりがすっぽりとあたたかです。それでいて足裏への「ふかふか」の伝わり方が全く異なり、2種それぞれの踏み心地を楽しめます。

解剖ポイントその2:堀田さんのカーペットの魅力を引き出す構造

この、「足裏が喜ぶ」履き心地を叶える2種類のカーペットは、どちらも大阪の堀田カーペットさんによるもの。

現在、日本のカーペットの99%は、基布に多数のミシン針で繊維を植毛する「タフテッド」式です。一方、1962年創業の堀田カーペットさんが手がけるのは、経糸と横糸を重ねて織りあげる「ウィルトン」式のウールカーペット。

量産向きのタフテッド式に対して耐久性が高く、多様な柄を表現できるウィルトン式は、その分職人の高い技術が要求され、この「ウールの織物」をつくれるメーカーは、今や日本で希少です。

そんな、ウールの特徴と適性を知り尽くした堀田さんのカーペットの魅力を最大限に生かすべく、スリッパの構造も工夫しました。

高級ホテルのラウンジで使われるカーペットは、クッション材の上にカーペットを敷きこむ「二層構造」になっている

高級ホテルの床がふかふかな理由は、クッション材の上にカーペットを敷き込むという「二層構造」にあります。これをスリッパで再現しようとすると、中敷が厚手になりすぎて、本体に縫い付けることができません。

そこで今回のスリッパでは中敷が取り外せるセパレートタイプを採用。実際のカーペットと同じ二層構造をそのまま再現することに成功しました。

中敷を取り出してスチームアイロンを当てると、ウールの特性でへたったところがふんわり立ち、ふかふかの履き心地が持続します。また、汚れが気になれば外して掃除機で吸い取ると、ウールの遊び毛がホコリや汚れををからめ取ってくれます。これもウールカーペットならでは。スリッパ全体も手洗いで自宅でのお手入れが可能です。

さらに、日本では左右同じ形のスリッパが一般的ですが、今回はあえて左右差のある仕様に。足の形にフィットして、よりカーペットの心地よさを足裏全体で感じられるように仕上げました。

解剖ポイントその3:大事にしたのは、玄関に揃えた時の佇まい

もうひとつ大事にしたのが、履き心地と佇まいの良さの両立。今回のスリッパを堀田カーペットさんとともに手がけたデザイナーの榎本さんは、「スリッパってどこか野暮ったいイメージがあった」と振り返ります。

「これまでの自分の買い方を振り返っても、手に取りやすい価格で、色や機能性を見ながらなんとなく妥協して選ぶことが多い。一方で作家さんの一点もののような、高級なスリッパも世の中にはあります。もっと選択肢があっていいし、家に置くものとして、機能も見た目も愛着を持てるようなものをつくりたいと思いました」

そこで榎本さんが大事にしたのが、玄関に揃えた時の美しさでした。

足を包むアッパー部分は中敷と同じウール素材の生地を採用。履くときに見える内側のフチ部分にもアッパーと同じ生地を縫い付けて、全体に統一感を持たせてあります。

置いてあるときの佇まいに気を配り、内側のフチにアッパーと同じ生地を縫い付けている

「このスリッパは堀田さんのカーペットの心地よさが命です。何気なく置いてある姿や履いた時に、何よりカーペットの質感や素材の良さを感じてもらえるように考えてつくっていきました」

置いた姿は品よく、履けば「足裏が喜ぶ」最高の踏み心地。足元から暮らしの心地よさを見直す、新しいスリッパのかたちです。

<掲載商品>
「ウールカーペットのスリッパ」

<取材協力>
堀田カーペット株式会社

文:尾島可奈子

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