【暮らすように、本を読む】#06『ぐつぐつ、お鍋』

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。


<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。


湯気の向こうにある、37人の鍋の記憶
『ぐつぐつ、お鍋』

木枯らしが吹く季節、私にとって鍋は救世主のような存在。具を変え、出汁を変え、ひと冬のあいだに何度、お世話になっているだろうか。

日本に暮らす人誰もが持つ、鍋の記憶。本書は、池波正太郎、東海林さだお、川上弘美など、時代も年齢も異なる37人の作家たちの、鍋にまつわる名随筆を一冊にまとめたアンソロジーです。ある人はオリジナルレシピを披露し、ある人は友人や家族と囲むあたたかな思い出を、ある人はひとりで小鍋をつつく楽しみを語ります。

寄せ鍋、ちゃんこ、ふぐ鍋、おでん‥‥、さまざまな鍋が登場しますが、なかでも心に染み入る一遍があります。作家・ねじめ正一による『すき焼き──父と二人だけの鍋』です。

晩ご飯がすき焼きの日は、家族は揃って浮かれ気分。食卓には、民芸店を営む筆者の父が、惚れ込んで買ってきたという「南部鉄」が決まって登場します。子ども心に「高い鍋を買うより肉の量を増やしてほしい」と、不満を抱える一方で、「父親は子どもたちが必死に食べている姿がうれしそうで、最後まで肉には手を出さなかった」という。そんな少年時代から、時は流れ、筆者が27歳の頃。糖尿病を患う父と二人で一泊二日の会津へ、うつわを仕入れに行った時の思い出が語られます。

窯出しされたばかりの焼き物を仕入れた日の夜、二人が宿泊した古びた旅館で、夕飯としてすき焼きが出てきます。質のいい肉ながら、それを盛る安物のうつわがよくない。そこで、仕入れたばかりのうつわを車まで取りに戻り、洗った小皿を手に、親子は再び鍋の前に座します。

「会津本郷の青みがかった肌がすき焼きにぴったりであった。さっきよりもすき焼きが百倍豪華に見えてきた。砂糖が少ないので物足りないと思った味も、肉の旨味がよくわかっていいと思えた」(本文より)

くたびれた宿で味わう鍋も、器ひとつで粋な時間に。少年時代の思い出と対比するように、言葉少なに描かれる親子のやりとりも、どこか愛おしさを感じるのでした。

ご紹介した本

『ぐつぐつ、お鍋』 
安野モヨコ / 岸本佐知子 他

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『ぐつぐつ、お鍋』

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。


VALUE BOOKS

長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp/

文:北村有沙

1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。


<同じ連載の記事はこちら>
【暮らすように、本を読む】#01『料理と毎日』
【暮らすように、本を読む】#02『おべんとうの時間がきらいだった』
【暮らすように、本を読む】#03『正しい暮し方読本』
【暮らすように、本を読む】#04『なずな』
【暮らすように、本を読む】#05『道具のブツリ』

関連商品

関連の特集

関連の読みもの

あなたにおすすめの商品

あなたにおすすめの読みもの