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常滑焼とは

急須から招き猫まで幅広いものづくりの特徴と歴史

常滑焼

常滑焼の基本情報

  • 工芸のジャンル

    陶器・磁器

  • 主な産地

    愛知県常滑市

中世から続く日本を代表する6つの窯場「日本六古窯 (ろっこよう) 」。常滑焼はこの日本六古窯のひとつで、その中でも当時最大規模の産地といわれています。

関東大震災の際、崩壊を免れた帝国ホテル旧本館には常滑で焼かれた煉瓦が使用されており、うつわ (器) としてだけでなく、建材などの幅広い分野で活躍しています。

今回は常滑焼の特徴と歴史に迫ってみましょう。

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<目次>
・常滑焼とは
・ここに注目。「急須」のあの姿かたちは常滑生まれ
・常滑焼といえばこの人。人間国宝・三代目山田常山
・新装・東京駅舎の赤レンガも、実は常滑焼
・常滑は、生産量日本一の招き猫産地
・常滑焼の歴史
・常滑を訪ねるなら、やきもの散歩道へ
・基本データ

常滑焼とは

常滑焼の朱泥急須

常滑焼とは愛知県の知多半島にある常滑市を中心に焼かれる焼き物である。

通常の陶磁器づくりでは、粘土に鉄分が含まれていると焼成によって黒くなったり、膨れてしまったり扱いが難しいものとされてきたが、常滑焼ではこの弱点を逆手に取り、粘土に含まれている鉄分を生かして均一な赤茶色の焼き物を作ることに成功した。

常滑焼が作られる、製造の様子
常滑焼が作られる、製造の様子

他の特徴として、太さ7〜10センチにもおよぶ粘土紐を陶工が渦を描くように積み上げて甕や壺など大物製品を成形する伝統技法「ヨリコづくり」や、陶土の粘りが強く、粒子が細かいことを生かした削りや磨きなどの技法も用いられる。

ここに注目。「急須」のあの姿かたちは常滑生まれ

上にあげた、赤茶色に焼き上げる技法で常滑焼を代表するのが、「朱泥」と呼ばれる赤茶色の急須である。常滑焼の朱泥急須は、注ぎ口のお茶切れの良さ、持ち手の持ちやすさで知られる。

文久年間 (1861~1869年)、朱泥焼 (※) で一目置かれていた初代・杉江寿門 (すぎえ・じゅもん) が、現代の急須の形の基礎となる「朱泥急須」を造り上げた。

これは1878年 (明治11年) に中国の文人・金士恒 (きんしこう) から中国江蘇省の宜興窯 (ぎこうよう) の急須製法 (パンパン製法)や中国の文人思想を学んだためで、その後の常滑急須は従来のロクロ製法で独自の進化を遂げた。

この「朱泥急須」は、需要が低迷していた常滑焼の「冬の時代」を救い、産地初の人間国宝を生むなど、常滑焼に新たな道を開くきっかけとなった。

※朱泥焼
中国から渡来した、赤褐色の焼物。他にも万古焼などで知られる。

常滑焼といえばこの人。人間国宝・三代目山田常山

三代目山田常山 (やまだじょうざん) は愛知県初の人間国宝に認定された常滑焼の陶工である。

朱泥急須の名手として知られた初代から、幼い頃より教えを受け、1961年 (昭和36年) に山田常山を襲名。1973年 (昭和48年) の第3回ビエンナーレ国際陶芸展にて名誉最高大賞を受賞、1993年 (平成5年) に日本陶磁協会賞受賞などの功績を残した。

何より特筆すべきは、日用の道具である「急須」において技を極めたこと。朱泥急須ひと筋の山田家の伝統を受け継ぎ、1998年 (平成10年) に国指定重要無形文化財保持者 (人間国宝) として認められるまでに至った。

新装・東京駅舎の赤レンガも、実は常滑焼

2007年4月〜2012年10月、「東京駅丸の内駅舎保存・復原」工事が行われた。

この工事で創建当時の東京駅の赤レンガを再現するべく用いられたのが常滑焼のタイルである。

再現工事の際には常滑市にあるタイルメーカー「株式会社アカイタイル」が3年にもわたり試作を重ね、最終的に50万枚のタイルが納入された。

常滑は、生産量日本一の招き猫産地

愛知県、常滑の招き猫
愛知県、常滑の招き猫

常滑市は有数のタイル産地としてだけでなく、招き猫の生産量が日本一であることも有名である。市内には巨大な招き猫や、39体もの招き猫が並ぶ「とこなめ招き猫通り」がある。

常滑の招き猫は、昭和14年の産地商社のカタログに白と黒の招き猫が掲載されているのが確認されており、昭和35年に小判を持たせた現在の2頭身の招き猫が登場して爆発的な人気商品となった。

常滑でこれだけ窯業が発展した背景には、3つの要素がある。まず、焼き物に欠かせない原料の土に恵まれたこと。釜焼の燃料となる木が豊富にあったこと。さらに海に面する土地柄、船によって重さのある焼き物を一度に大量に運べる「運送手段」があったこと。この三つが揃い、焼き物の一大産地、常滑を支えたのだ。

常滑焼の歴史

◯六古窯でも最古の歴史、古常滑とは

常滑焼は六古窯の中でも最古の歴史を持つといわれ、1100年頃の平安時代末期、猿投窯 (さなげよう) の灰釉陶器の流れを汲み、知多半島へ広がったとされている。

平安〜鎌倉時代に作られた常滑焼を「古常滑」と呼び、貴族や武士などによって日常に使われていた壺や仏器用の水瓶 (すいびょう) 、経塚壺 (きょうづかつぼ。経典を納めるための容器) などが発見されている。これらの中でも胴体部分に3本の筋で文様がつけられている三筋壺 (さんきんこ) が有名である。

なお、この時代の成形は紐状の粘土を巻いて作る「ひもづくり」 (大きな甕や壺の技法は「ヨリコ造り」)で行われており、無釉 (むゆう) で焼締められている。

◯千利休が「化物」と呼んだ小壺などが焼かれる

室町〜安土桃山時代は、算盤玉状の小甕 (こがめ) が焼かれ、後に侘び茶の水指しに用いられた。

室町時代、常滑城主の水野監物 (みずの・けんもつ) が、算盤玉の形をした小甕を千利休へ贈ったところ、千利休が小甕を達磨に見立てて「化物」と呼んだとする逸話が残っている。また「化物」とは禅語で「不識」を意味することから、達磨のような形をした壺たちは「不識壺」とも呼ばれた。

安土桃山時代、他の窯では茶器が盛んにつくられていたが、常滑では茶陶は作られなかった。水野監物が織田信長に与しなかった関係上、 常滑窯に一時的に禁止令が出されていた時期があった。

◯名工が続々登場

江戸時代に入ると、新たな技法を生み出す者や藩の御用窯となる窯元が数多く出現し、常滑焼は大きく発展する。

「藻掛け技法」や「緋色焼」を作り出した伊奈長三 (いな・ちょうざ) 、ロクロを使わず手のみで作り上げる陶彫の名手・上村白鷗 (かみむら・はくおう) 、ロクロの名手・松下三光 (まつした・さんこう) 、尾張藩お抱えの名工の1人、赤井陶然 (あかい・とうぜん) など、数々の名工たちが功績をあげた。

◯朱泥急須の誕生

常滑焼の急須
常滑焼の急須

幕末、常滑焼の代表作が生まれる。文久年間 (1861~1869年)、朱泥焼で一目置かれていた初代・杉江寿門 (すぎえ・じゅもん) が、現代の急須の形の基礎となる「朱泥急須」を造り上げた。

1872年~1873年 (明治5年~6年) には、「常滑の陶祖」と呼ばれる鯉江方寿が土管の型作りに成功し、土管の量産の足掛りを作った。この土管の規格化は、産地の新たな生産分野の開拓に繋がったと同時に、常滑焼の近代化の礎となった。こうした流れの中、明治以降の常滑では、土管やタイルの生産が多くみられるようになる。

◯「急須」づくりで人間国宝認定

1962年 (昭和37年) には、900年の歴史を持つ常滑焼の研究を行う「常滑陶芸研究所」が設立され、施設内では平安〜江戸時代までの常滑焼に関する歴史や作品を学ぶことができる。

常滑焼の代表作といえる朱泥急須で技巧を極めた三代目山田常山は、「急須」で1998年 (平成10年) に愛知県初の人間国宝に認定された。

常滑を訪ねるなら、やきもの散歩道へ

やきもの散歩道
やきもの散歩道

常滑には、招き猫や土管が並ぶ道や、レンガで作られた煙突の景観などを散策しながら楽しめる「やきもの散歩道」がある。

やきもの散歩道
やきもの散歩道

常滑焼の展示販売を行う陶磁器会館を出発点に、1時間ほどでまわれる短時間コースから、「INAXライブミュージアム」などの観光施設や歴史も堪能できるコースなどが整備されており、常滑のものづくりを歩きながら体感できる。

常滑焼 基本データ

◯素材

・朱泥土

・とこなめ白土

・古常滑土

・おぼろ白土

・とこなめ黒土

◯主な産地

・愛知県常滑市、半田市、知多市など

◯代表的な技法

・ヨリコづくり

・藻掛け

・朱泥焼

◯代表的な作り手

・人間国宝・三代 山田常山 (やまだ・じょうざん)

・杉江寿門 (すぎえ・じゅもん)

・伊奈長三 (いな・ちょうざ)

・上村白鷗 (かみむら・はくおう)

・松下三光 (まつした・さんこう)

・鯉江方寿 (こいえ・ほうじゅ) 、方救 (ほうきゅう)

・赤井陶然 (あかい・とうぜん)

◯数字で見る常滑焼

・誕生 : 1100年頃

(京都・今宮神社から出土した常滑焼の「三筋壺」に天治2年(1125年)と明記があり、これをもとに『平安末期・1100年頃』が起源とされているが、猿投窯を起源とする流れが知多半島におよび広がって形成された常滑焼は、1000年頃にはすでに多くの窯が広がり壺や甕、山茶碗、皿などが焼かれていたとも推測されている。)

・出荷額 : 約480億円 (平成30年度)

・事業所数 : 約200件 (平成30年度)

・従業者数 : 約2000人 (平成30年度)

<参考>

・村山武 著『日本のやきもの』淡交社 (1994年)

・下中直人 編『やきもの事典』平凡社 (2000年)

・やきもの愛好会 編 『よくわかる やきもの大事典』ナツメ社 (2008年)

・仁木正格 著『わかりやすく、くわしい やきもの入門』主婦の友社 (2018年)

・伝統的工芸品産業振興協会 監修 『ポプラディア情報館 伝統工芸』ポプラ社 (2006年)

・中川重年 監修『調べてみよう ふるさとの産業・文化・自然④ 地場産業と名産品 2』農山漁村文化協会 (2007年)

・人間国宝 三代山田常山

http://www.wings-jp.com/profile/y_jyozan.html
・常滑市ホームページ「常滑市内の巨大招き猫を紹介するニャン♪」

http://www.city.tokoname.aichi.jp/shisei/guide/1001275/1002296/1002297.html
・とこなめ陶の森

http://www.tokoname-tounomori.jp/index.html
・常滑観光協会

https://www.tokoname-kankou.net/
・とこなめ焼協同組合

https://www.tokonameyaki.or.jp/index.html
・<環境経済>常滑市

http://www.city.tokoname.aichi.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/287/R1kankyokeizai.pdf

(以上サイトアクセス日 : 2020年4月16日)

<協力>
とこなめ焼協同組合
https://www.tokonameyaki.or.jp/

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