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起き上がり小法師とは
昔も今も立ち上がる元気をくれる縁起物の歴史と現在
転んでも転んでもスクッと起き上がる「起き上がり小法師」は、実物を手にしたことがない方も、一度はその姿を目にしたことがあるのではないでしょうか。
その動きと愛らしい表情は長く郷土玩具として人々から愛されてきました。今回は起き上がり小法師の歴史や特徴に迫っていきましょう。
※日本の各地でつくられる、愛らしい人形やタペストリーはこちら
<目次>
・起き上がり小法師とは
・ここに注目。会津の正月を飾る「会津三縁起」
・起き上がり小法師の選び方、飾り方
・形と色の不思議
・鹿児島にもある起き上がり小法師「オッのコンボ」
・進化する起き上がり小法師。ムンクの叫びとのコラボも!?
・ここで買えます、見学できます
・関連する工芸品
・起き上がり小法師のおさらい
起き上がり小法師とは。
起き上がり小法師 (おきあがりこぼし) とは、福島県会津若松市で毎年1月10日に開かれる十日市と呼ばれる初市で、縁起物として売られている張り子細工のことをいう。
起き上がり小法師は、実に400年以上もの歴史を持つ会津の伝統的な工芸品だ。江戸時代初期に会津藩主が藩士たちの冬の間の内職として作らせ、正月に売り出したのが始まりとされる。転んでも転んでもすぐに起き上がる様子から、「七転八起」といって古くから縁起物とされた。
起き上がり小法師の「小法師」というのは、子どもを意味する言葉で、大きさは3センチほどと小さいものが一般的。頭は尖っており、細い線で描かれた表情は素朴な愛らしさがある。
また、この起き上がり小法師は別名「起き姫」ともいわれる。蚕が脱皮することを「起きる」といったことから、養蚕が盛んだった東北地方では起き上がり小法師は養蚕のお守りでもあり、人々はたくさんの良質な繭が採れるようにと祈願したのだ。
ここに注目。会津の正月を飾る「会津三縁起」
会津若松市で毎年1月10日に行われる「十日市」と呼ばれる初市には、「起き上がり小法師」だけでなく、「風車 (かざぐるま) 」「初音 (はつね) 」と呼ばれる縁起物が並び、これら3つの縁起物を「会津三縁起 (あいづさんえんぎ)」という。
昔も今も正月には多くの人が「会津三縁起」を買い求め、神棚に飾って1年間無事に過ごせるよう祈願する。
「会津三縁起(あいづさんえんぎ)」の中の「風車」は、私たちが日頃目にしているものとは少し異なる。8本の細い竹でカゴを作り、その竹の端に紙の羽を付けたものを風車の軸に取り付け、最後に豆で止める。この風車の形には、「風車のようにマメに働けますように」という祈りが込められているそうで、正月の神棚に飾られる。
「初音」は輪切りの竹に吹き口をつけた小さな竹笛。その音色が春を告げるウグイスの鳴き声を思わせることから、縁起物として喜ばれた。正月に神棚に飾った後は子どもたちがおもちゃとして吹いて遊ぶのだという。
起き上がり小法師の選び方、飾り方
毎年1月10日の十日市で起き上がり小法師を買い求めるときには、家族の数よりも1個多く買うという習わしがある。これには家族や財産が増え、一族が繁栄するようにという祈りが込められているのだ。
形と色の不思議
最近は色やデザインも多様化している起き上がり小法師だが、白地に衣装の部分が赤で着色されたものが広く認知されている。
起き上がり小法師の衣装が赤いのは、赤が魔除けの色とされてきたことと、法師が着る衣装の中で赤が最も位の高い色とされてきたことにも由来するとされる。
また、起き上がり小法師が倒れてもすぐに起き上がるのには、その作り方に秘密がある。
まず、起き上がり小法師2個分がおしりでつながった形をした木型に和紙を張り、乾いた後に真ん中で切り、木型から取り外す。
次に、取り外したものの底に粘土でできたおもりを糊付けし、表面を彩色する。底部分以外は張り子で中が空洞になっていて軽いため、倒れてもすぐに起き上がるという仕組みだ。
鹿児島にもある起き上がり小法師「オッのコンボ」
会津若松から遠く離れた九州にも、起き上がり小法師の仲間が存在する。
鹿児島県の「オッのコンボ」は、鹿児島の言葉で起き上がり小法師を意味する言葉だ。
この「オッのコンボ」は、七福神のひとり、大黒様の奥様とされる。昔から鹿児島には台所に大黒様を飾る風習があるため、大黒様と一緒に台所に飾られる。
会津の起き上がり小法師は神棚、鹿児島のオッのコンボは台所と、飾られる場所の違いはあるものの、共通点も多い。
オッのコンボも会津の起き上がり小法師と同じように、買い求める際は、家族の人数よりも1個多く買うのだそう。
鹿児島の初市は2月に行われるが、初市に並ぶという点では会津と共通している。また、オッのコンボの色も基本は赤だ。
場所は違えど、人々が起き上がり小法師に込めた思いにもまた通じるものがある。
<関連の読みもの>
郷土玩具になって台所を守る、福の神の奥さま
https://story.nakagawa-masashichi.jp/47764
進化する起き上がり小法師。ムンクの叫びとのコラボも!?
福島県西会津町で50年以上の長きにわたり全国の民芸品を手掛けてきた野沢民芸品製作企業組合 (以下、野沢民芸) 。
野沢民芸の代表理事で絵付師でもある早川美奈子さんが人形作りをはじめた当初は、民芸品に対してどこか古臭いものといったマイナスなイメージを持っていたという。
そんな早川さんの大きな転機となったのが、2011年の東日本大震災。
復興への取り組みで野沢民芸にも声がかかったとき、早川さんが考え出したのが、七転八起の象徴ともされる起き上がり小法師と、日本の伝統柄を掛け合わせた「願い玉」シリーズだった。
この「願い玉」シリーズが好評を博したことをきっかけに、さらに様々なデザインの起き上がり小法師が発表されることとなった。
なかでも、2013年に話題となった、ムンクの「叫び」とコラボした起き上がり小法師の「起き上がりムンク」は現在も人気のある一品だ。
<関連の読みもの>
ムンクの「叫び」を郷土玩具に。福島・野沢民芸が考える、これからの民芸品
https://story.nakagawa-masashichi.jp/107336
ここで買えます、見学できます
「起き上がりムンク」の製作でも知られる野沢民芸は、福島県西会津町にある。
昔ながらのデザインの起き上がり小法師ももちろんあるが、現代の暮らしに取り入れやすいさまざまなデザインの起き上がり小法師を製作していることで有名だ。
最近では、新型コロナウイルスで注目されている疫病除けの妖怪「アマビエ」をモチーフにしたものが登場した。他にも「くまモン」があしらわれたものなど、見ていて楽しくなるものばかりだ。
野沢民芸品製作企業組合 (野沢民芸)
〒969-4406 福島県耶麻郡西会津町野沢上原下乙2704-2
0241-45-3129
https://nozawa-mingei.com/
関連する工芸品
七転八起の置き物として知られているものに、福島県会津若松市の起き上がり小法師のほかに、群馬県高崎市の「高崎だるま」がある。
高崎だるまは眉毛に鶴、鼻から口ひげにかけて亀が表現されており、両肩には「家内安全」「商売繁盛」などの文字が書かれていることで有名だ。
高崎だるまは開運の神様とされるが、群馬県もまた会津と同様に養蚕が盛んな地域であったため、蚕の豊作を願う縁起物としても人気となった。
高崎だるまとは。全国シェア一位の理由と歴史
https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/118156
起き上がり小法師のおさらい
◯素材
・和紙
・粘土◯主な産地
・福島県会津若松市
◯代表的な技法
・張り子
◯代表的な作り手
・野沢民芸
◯数字で見る起き上がり小法師
・誕生 : 400年以上前
・会津の初市 : 1月10日
・一般的な起き上がり小法師の大きさ : 3センチほど
<参考>
・井上重義 著『ふるさと玩具図鑑』平凡社 (2011年)
・畑野栄三 監修『「郷土玩具」で知る日本人の暮らしと心③ 魔よけ・天災よけ・どろぼうよけ・・・安全を願う 郷土玩具』くもん出版 (2005年)
<協力>
会津若松観光ビューロー
https://www.aizukanko.com/kk/aibase/index.htm
野沢民芸品製作企業組合
https://nozawa-mingei.com/
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