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招き猫とは

江戸から全国に広まった縁起物

招き猫の基本情報

招き猫は、愛らしいポーズで福を手招いてくれる日本独自の縁起物。江戸時代に江戸の町人文化から誕生したといわれており、その人気は全国へと広がっていった。上げている手の左右によって御利益が違うだけでなく、産地によって素材や猫の表情も異なる。

  • 工芸のジャンル

    人形

  • 主な産地

    愛知県瀬戸市、常滑市、石川県金沢市、小松市、加賀市、能美市

今でもお店の軒先などで見かける招き猫。商売繁盛や千客万来などの願いを込めて飾られる縁起物だ。

身近な存在ではあるものの、その由来や産地などの詳細は知らないという人が多いのではないだろうか。

今回は、知っているようで知らない、招き猫の歴史とその姿に込められた意味を探っていく。



招き猫の手・色・持ち物の意味

実はさまざまな姿をしている招き猫。ここでは、招き猫のパーツや色に込められた意味を紹介する。



招き猫を招き猫たらしめているのが手。一般的に、右手を上げているものがお金招き、左手を上げているものが人 (客) 招きとされる。その由来は定かではないが、多くの人が利き手である右手でお金を扱うことが多いことから、右手を上げている招き猫をお金招きと呼ぶようになったともいわれている。招き猫の中にはお金も人も招こうと両手を上げたものもあるが、万歳をする姿が「お手上げ」のようだと避ける人も多いのだとか。

また、上げている手の高さにも違いがある。耳よりも上まで手が上がっているものを「手長」、耳よりも下に控えめに手を上げているものを「手短」と呼び、手が長く伸びているほど遠くの福や大きな福を招き、短いものは身近な福やささやかな幸せを招くとされている。

白い招き猫

古くから一般的なのは白い招き猫。真っ白なものや白地に三毛のぶち模様のものが多い。けがれのない白は「開運招福」を意味し、万事に福をもたらすとされている。


黒い招き猫

魔除け厄除けの意味を持つ。西洋では不吉だとされる黒猫だが、日本では夜目がきくことや強い霊力を持つと考えられたことから、「福猫」として魔除けや幸運、京都では商売繁盛の象徴であった。


赤い招き猫

病除けや健康長寿の御利益があるとされる。昔から赤い色は疱瘡神 (ほうそうしん、天然痘をもたらす疫病神) が忌み嫌う色といわれていたことに由来する。

近年ではこうした伝統的なものに加え、恋愛運や金運など御利益ごとにピンクや金色などカラフルな招き猫も登場するようになった。

持ち物

招き猫といえば小判を持っているイメージだが、初期の招き猫には小判はなく、首輪に鈴をぶら下げた姿がほとんどだった。この鈴が次第に小判へと変わっていったといわれている。

はじめは鈴の代わりだった小判(一番右)が、次第に手に持つように。

小判には金額や「開運」「招福」といった縁起のよい言葉が描かれており、招き猫に込めた願いがダイレクトに反映されている。面白いのが、小判に描かれた金額が時代とともに「千両」「万両」から「億万両」にまで跳ね上がっていくところだ。控えめな金額であるほど、基本的には古いものと考えられる。

今では小判だけでなく、鯛やだるま、熊手、打出の小槌など、さまざまな縁起物を持った招き猫も。そのバリエーションは願い事の数だけあるといってもいいだろう。

瀬戸・常滑・九谷。産地で違う招き猫

招き猫は日本各地で作られてきたが、三大産地といわれているのが瀬戸焼、常滑焼、九谷焼の焼物の産地だ。地域ごとに異なる招き猫の特徴を見てみよう。

瀬戸型:京都ゆかりの狐顔

瀬戸焼の招き猫のルーツは、京都・伏見稲荷の参道で売られていた招き猫にある。招き猫が参拝土産として人気となったため、石膏型を使って焼き物を量産していた瀬戸で、明治30年代ごろから作られるようになった。

今でこそ瀬戸でもさまざまな招き猫が作られているが、原点である「古瀬戸」と呼ばれる磁器製の招き猫は狐顔。細身で猫背と、より本物の猫に近い姿だ。

また、複数の鈴とひだのある前掛けをつけていることが多い。手の上げ方が控えめなのも特徴の一つだ。

常滑型:これぞ皆が知る「ザ・招き猫」

私たちが招き猫といって思い浮かべるのが、常滑の陶製の招き猫。目は大きく見開き、丸みのある二頭身に小判を抱えた姿は、昭和20年代後半に生まれた。

招き猫ミュージアム

そのルーツは愛知県半田市の乙川人形にあるといわれている。三河地方の土人形は大型で迫力ある人形が多く、その影響もあってか、瀬戸型と比べるとどっしりとしたフォルムになっている。

九谷型:極彩色の華やかな招き猫

九谷焼の招き猫は、全身が極彩色の文様でおおわれていたり、金彩が施されたりと、華やかな見た目が特徴。威厳のある表情で異国情緒あふれる姿は、海外での東洋趣味のブームに乗って、そのほとんどが輸出用として生産されていた。国内であまり馴染みがないのはそのためだ。

また、耳が横向きで反っており、鈴は首元の横についている。他にはない、横座りをした形のものもある。

これら三大産地の他に、京都の伏見人形や東京・浅草の今戸人形に代表される土人形の招き猫、群馬県高崎市や仙台などで作られる張り子の招き猫などもある。


<関連の読みもの>

瀬戸「招き猫ミュージアム」で知る、招き猫の意味と楽しみ方。お金招きはなぜ右手?

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招き猫の歴史

謎に包まれた招き猫の由来

日本には野生の山猫は昔から生息していたものの、今でいうペットとしての家猫は存在していなかった。飼い猫としての猫が日本にやってきたのは奈良時代。中国から仏教とともに日本にやってきた。仏教の経典や書籍などを鼠の被害から守るため船に乗せられて来たといわれている。

平安初期に書かれた『日本霊異記』に猫に関する最古の記述があり、『枕草子』や『源氏物語』には飼い猫にまつわる描写があることから、少なくとも平安時代には身近な存在になっていたことがうかがえる。

招き猫の由来は定かではないが、飼い猫が中国からやってきたことを踏まえると、中国の影響を受けていると推測される。事実、『招き猫の文化誌』によれば、中国には「猫が顔を洗う時耳を越せば、しばらくして客が来るだろう」という意味のことわざがあるという。


江戸の招き猫人気

招き猫の発祥についても明らかにはなっておらず諸説あるが、時代としては概ね江戸時代とされる。

一つには東京・世田谷にある豪徳寺の「招福猫児 (まねぎねこ) 」説。豪徳寺は今でこそ井伊家の菩提寺だが、もともとは小さなお寺だった。和尚の飼い猫が、鷹狩り帰りの井伊直孝一行を寺に招き入れた直後、激しい雷雨となり、難を逃れたことを喜んだ直孝が寺を手厚く保護し、寺は井伊家の菩提寺として栄えたという。現在は、猫を祀った招福殿というお堂の脇に招き猫の奉納所があり、大小さまざまな招き猫がずらりと並んでいる。

また、東京・両国あたりの娼家で金猫銀猫を縁起棚に飾っていたのが招き猫の起源という説や、吉原の花魁・薄雲太夫の愛猫が招き猫となったという説もある。

他にも、東京・浅草に住む老婆が貧しさのあまり愛猫を手放したところ、愛猫が夢枕に立ったので、愛猫の姿をした人形を今戸焼で作ったのが始まりだとする説も。

江戸時代末期には、「丸〆猫」と呼ばれる今戸焼による猫の人形が「流行神 (はやりがみ)」として江戸の人々の信仰を集めた。これが招き猫の形としてのルーツだともいわれている。

独自の発展を遂げた瀬戸・九谷・常滑

江戸を発端に巻き起こった招き猫ブームは全国に広まり、各地で招き猫が作られるようになる。各地域に伝わる土人形をベースにしたものや、その土地に根付く手仕事の技術で地域色豊かな招き猫が生まれていった。

養蚕地では、蚕の害獣である鼠を捕ってくれる猫を早くから守り神として大事にしており、招き猫も鼠除けのお守りとして重宝された。代表的な養蚕地の一つ、群馬県高崎市では古くから張り子のだるま作りが行われていたことから、張り子による招き猫が主流となった。

明治になると、焼き物の里・瀬戸では白い磁器の招き猫の工業生産が始まる。また、国の富国強兵策が推進される中、海外輸出用の工芸品の一つとして九谷焼の豪華絢爛な招き猫の需要が高まった。

昭和20年代後半から常滑でも陶器の招き猫が大量生産されるようになると、戦後の高度経済成長期という後押しもあり、招き猫は商売繁盛を願う開店祝いの定番の贈り物に。今日、私たちが目にする招き猫のイメージを形作ることとなった。


招き猫の飾り方

江戸時代には民間信仰の対象として神棚に置かれることが多かったが、徐々に信仰的な意味合いは薄れ、主に商店の店頭など目立つ場所に置かれるように。家庭でも基本的に飾るのはどこでもよいが、目につく場所であることが大事だという。



もっと詳しく知りたい人におすすめ「招き猫ミュージアム」

「招き猫ミュージアム」は、日本最大級の招き猫専門博物館。日本各地で収集した、郷土玩具や骨董品、日用雑貨などの招き猫およそ5000点が収蔵されている。招き猫を歴史や主要産地別などに分類した常設展示のほか、さまざまな切り口をテーマにした企画展示を通して、招き猫について学べるスポットだ。招き猫の貯金箱やお皿などに染付ができる体験コーナーや、招き猫グッズが手に入るミュージアムショップもある。

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招き猫 基本データ

◯主な素材
陶磁器、紙

◯主な産地
愛知県瀬戸市、常滑市、石川県金沢市、小松市、加賀市、能美市

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