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真田紐とは

「世界一細い織物」と言われる紐の不思議

真田紐(背景黒)

真田紐の基本情報

  • 工芸のジャンル

    織物

  • 主な産地

    石川県

その優美な姿からは想像がつかないほど、強く丈夫な「真田紐」。古くから欠かせない生活道具として重宝されてきました。しかし、その起源はいまでも謎に包まれたまま。今回は、そんな「真田紐」の歴史や幅広い使い方をご紹介します。

※真田紐のトートバッグ

<目次>
・真田紐とは
・紐だけど織物?組紐との違いとは
・真田紐の豆知識 名前の由来はサナダムシ?
・丈夫さは折り紙つき。武装からスケート靴まで
・真田紐の使い方。茶道で重要な「約束紐」
・真田紐の歴史
・現在の真田紐
・基本データ

真田紐(織本すみや提供)

真田紐とは

真田紐は、経糸 (たていと) に木綿または絹、緯糸 (よこいと) は経糸より太い木綿糸を使用した細長く平らな織物。

紐状に平織りしたものと、筒状に袋織りされたものがあり、幅は6mmから30mm程度で世界一細い織物とも言われている。柄は90種類以上あり、家紋のように本人しか使えない独自の柄も多い。

袋織と単衣の真田紐
左が袋織り、右が平織りの真田紐

伸びにくく丈夫なことから、荷物を縛ったり、重いものを吊るしたりと、古くは武具や生活道具、近代は生活道具に使われた。江戸時代には、長野や大阪、京都、名古屋、和歌山、岡山、金沢、富山など多くの地域でつくられ、各家庭の常備品だった。それほど身近な道具でありながら、研究も行われることなく、謎多き紐である。

紐だけど織物?組紐との違いとは

組紐と混同されることが多いが、組紐は3本以上の糸や糸の束を組み上げた紐。真田紐は、経糸と緯糸を機 (はた) と呼ばれる織り機で織った織物で、作り方も見た目も違うものだ。

見分けるコツは、紐の表面で、組紐は斜めに糸が走り、真田紐は横の段になっている。組紐はすべての糸が斜めに交差しているので、伸縮性があり、和装の帯締めや手さげ袋の紐、茶道具を包む袋の紐などに使われ、装飾性が重視された。

一方、真田紐は経糸と緯糸を直角に交差させ、緯糸を強く打ち込み圧縮しながら織られるので、ほとんど伸縮性がなく、丈夫な紐として武士や庶民の間で幅広く活用された。

<関連の読みもの>
忍者の里で受け継がれる伊賀くみひも
https://story.nakagawa-masashichi.jp/20823

真田紐の豆知識 名前の由来はサナダムシ?

真田紐の名前の由来はさまざまな説がある。

最も知られているのが、戦国武将真田昌幸・幸村父子からその名がついたというもの。甲賀・伊賀にルーツを持つ京都の手織り真田紐の老舗「真田紐師 江南」十五代の和田伊三男さんによれば、この説も以下のように2つに分かれるという。

1、真田昌幸が関西より荷紐として行商された真田紐を甲冑に巻いて功績をあげ、他の武将がまねをしたことから「真田の使っている紐」として名付けられた説。

2、江戸期に戦記物講談で「幸村」としてヒーロー化した「信繁」の強さと真田紐の強さが結び付いた説。

真田昌幸着用具足 上田市立博物館蔵
真田昌幸着用具足 上田市立博物館蔵

真田昌幸が、関ヶ原の戦いに敗れ和歌山県の九度山の庵で真田紐を作った頃には、真田紐づくりは浪人の一般的な賄い仕事であったという。

また、現在のネパールなどでつくられる、サナールという細幅織物から名がついたとの説も有力。ほかに紐の形状がサナダムシに似ているからという説があるが、これも和田さんによれば「大坂の陣後、徳川家康がサナダムシに苦しんだ際、虫の形状が唯一真田の名が残った紐に似ている事から『真田は死してもなお虫になってワシを苦しめる』と言った」ことから来ているという。

真田紐がサナダムシに似ているのではなく、虫が真田紐に似ているからサナダムシと名がついたというわけだ。

これ以外にも狭の機 (さのはた) と言う細い織り紐の呼び方が変化したとの説などがあり、いまだに真田紐という名前の由来は謎に包まれている。

丈夫さは折り紙つき。武装からスケート靴まで

真田紐(織本すみや提供)

現在のようにガムテープやビニール紐がなかった時代、硬くて丈夫な真田紐は物をしっかり結ぶ道具として、武士の時代には甲冑や馬具を固定したり、重い荷物を運んだりするのに使われてきた。

強靭さを活かし、刀を腰に付ける下緒として用いられたときには、その紐で相手の刀を受け止めて奪い取る戦法もあったと伝えられる。近年は、下駄スケートの固定紐として活用されるなど、いつの時代も伸びにくく丈夫な紐として、人々の生活を支えてきた。

真田紐の使い方。茶道で重要な「約束紐」

真田紐は、千利休によって茶道にも取り入れられる。

茶道具を入れる桐箱に掛けられ、真田紐の美しい色や柄が暗号となり、箱の中身が本物か偽物かを一目で判断することができた。茶道の各流派や作家は、家紋のように独自の柄を用いるようになり、自身の所持品や作品であることを証明する「約束紐」という文化として、今日まで受け継がれている。また、その結び方は流派ごとに違いがある。

このように約450年も前から茶道と深い関係がありながら、真田紐の存在はあまり知られていない。約束紐が証明書のような役割を持つことは、限られた人間だけが知る秘密だったためである。

「最近まで表向きは指物師として商売し、奥の間でひっそりと真田紐を織る生活を続けてきた」と15代にわたり真田紐をつくり続ける「京真田紐師 江南」の当主、和田伊三男さんは語る。 (日本経済新聞2019年6月27日「真田紐 織り込む暗号」より)

真田紐の歴史

貴重な陶器類を納めた箱に掛けられた真田紐 入山純子氏蔵
貴重な陶器類を納めた箱に掛けられた真田紐 入山純子氏蔵

○言い伝え、伝説、謎に包まれた紐の誕生

真田紐の正確な起源はわかっていない。真田昌幸・幸村父子の名から取ったという説もあるが、実はそれ以前から使われていた。

もう一つの有力説である、ネパールの「サナール」という獣毛でつくられた細幅織物は、鎌倉時代から平安時代、仏教とともに伝来したと言われ、台湾の山岳民族の細幅織物や八重山織、新島の腰機織物、ミンサー織りなどにその流れが見られる。その後室町時代末期にはルソン (フィリピン) 貿易で日本に入ってきた。

また奈良の正倉院に収蔵されている真田紐もあるが、修復されているため製作時期がはっきりとしない。

○茶道と産業化

戦国時代、真田紐は刀の下緒や武具の固定などに使われることもあった。武士は、家紋のように独自の色柄の真田紐をつくり、刀や甲冑などに使用することで戦死や負傷した際、誰の所持品であるかを知るための目印としたこともあったようだ。

また戰の前の台所の給仕の際などには、女性たちが下緒に使われていた紐で襷にしたり帯の結び目を押さえたり、動きやすいように真田紐を利用したという。紐には家紋のように家の柄が入っており、本家は無地、分家はそれに線や耳を入れたものを用いた。これにより紐で見分けて相手に指示をしやすい利点もあったそうだ。

千利休がその習慣を茶道に取り入れ、茶道具の桐箱に独自の色柄の真田紐を掛けることで、中身の由緒を保証する文化が生まれた。それまでの茶箱は、豪華な塗りの箱に組紐を掛けることが定番で、身分の高い人だけのものだった。そこで千利休は、茶道をもっと多くの人に広めるために、桐箱に真田紐を掛けるようになったと言われている。

○江戸時代には庶民にも広まり、産業として発展

絹製の真田紐が発展すると、呉服関係や茶道具などに幅広く用いられた。庶民の家には、丸く円盤状に巻かれた真田紐が常備され、用途に合わせた長さに切り、その端を処理しながら使われていた。行商人らは、木綿の真田紐の丈夫さを活かして重い荷物を運んだ。その後、戦乱のない時代に入ると、現在の長野・大阪・京都・名古屋・和歌山・岡山・金沢・富山などで産業として発展した。

○明治維新後、使われ方も洋風・多様に

明治時代になると、真田紐はランプの芯やズボン吊りなどにも使われるようになる。しかし、1876(明治9)年の廃刀令によって軍人や警察官以外の帯刀が禁止されたことや、洋風生活の普及やビニール紐の開発が進んだことで、真田紐の需要は減少していく。当時、綿花製造が盛んで、一大生産地だった大阪の泉大津も毛布やタオル生産へ転身し、真田紐製造業は次々と姿を消していった。

○スケート靴に真田紐?

大正時代から昭和にかけて、長野県の諏訪湖で下駄スケートが考案される。下駄にスケートの刃を付けた日本独自のスケート靴。足首と下駄を固定するのに、真田紐が使われていたそう。冬の遊びとして流行し、昭和30年頃まで使われていた。

現在の真田紐

2018年時点で真田紐をつくっているのは、国内に数カ所だけ。茶道文化が根付く石川県・金沢の「織元すみや」が製造・販売の大手である。手織りの老舗といえば京都の「真田紐師 江南」。現在も生糸の草木染めから織りまでを一貫して手作業で行っている。

現在は茶道具の箱紐以外にも、ストラップ部分に真田紐を使ったサンダルや、持ち手に真田紐をあしらった手提げなど、活用の幅も広がっている。

・織元すみや

真田紐販売のほか、手織り体験も受け付けている。京都にも店舗がある。

所在地:石川県金沢市神野町東95番地
076-240-0781
http://www.sanadahimo.com/

・真田紐師 江南

文化財等復元製作のほか映画やドラマ等の技術指導や監修も手がける。草木染手織りの真田紐の技術保存・販売を行う老舗の真田紐専門店。

所在地:京都市東山区問屋町通り五条下ル上人町430番地
075-531-5429
http://www13.plala.or.jp/enami/

真田紐 基本データ

〇真田紐の素材
染色した絹や木綿が使われる。

〇主な産地
石川県、京都府

<参考>
・君野倫子 著『日本人の暮らしを彩る和雑貨』IBCパブリッシング(2019年)
・組紐・組物学会 編『組紐・組物学会ニュースレター 12号』高木たまき「真田紐」(2016年)
・日本経済新聞「真田紐 織り込む暗号」(2019年6月27日)
・織元すみや
http://www.sanadahimo.com/
・真田紐師 江南
http://www13.plala.or.jp/enami/
(以上サイトアクセス日:2020年6月24日)

<協力>
京都工芸繊維大学大学院
高木たまき様
組紐・組物学会
http://www.kumihimo-society.org/

織元すみや
http://www.sanadahimo.com/

真田紐師 江南
http://www13.plala.or.jp/enami/

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