プロに聞く「きもの入門」初心者でもできる簡単な着方とアレンジ方法

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

私はここ数年、洋装と和装それぞれ半分ずつくらいの割合で外出するようになりました。腕のやけど治療で夏場に毎日長袖で過ごさなければならなくなった際、暑さに耐えかねてすがるように始めたゆかたでの生活がきっかけでした。

慣れてしまうと思いのほか楽しく快適なものでしたが、出かける先々で「大変でしょう」「偉いわねえ」といった労いの言葉をかけていただいたり、興味を持ってくださいつつも、「着たいけれど難しそう」「ハードルが高い」と不安を口にされる方にたくさん出会いました。

洋服と同じようにきものも日常に取り入れられたら、という思いから、きものとの付き合い方や、愉しむヒントをご紹介してまいります!

「きもの やまと」会長 矢嶋孝敏(やじま・たかとし)さんにファッションディレクター石川ともみさんが聞く

第1回は、きものを始めるにあたっての不安や疑問を解決すべく、歴史的見地からもきものに造詣の深い方の元へ。「きもの やまと」会長できもの文化育成にも多大な貢献をされている矢嶋孝敏(やじま・たかとし)さんにお話を伺いました。

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聞き手は、ファッションディレクターで、一般女性のためのパーソナルスタイリングサービスも展開されている石川ともみさん。私たちにとって馴染みのある洋服の視点から問いを投げかけていただきました。

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(以下、矢嶋孝敏氏発言は「矢嶋:」、石川ともみ氏発言は「石川:」と表記)

きもの初心者、最初の一歩

石川:一般女性からのご相談でも、きものを始めたいという方が増えていまして、何を揃えればいいの?予算は?どこで見ればいいの?とたくさんの疑問の声があがってきます。

店頭で見る機会も洋服より少ないので全体像がつかみにくい。どこから入れば良いのか‥‥というお悩みを持つ方が多くいらっしゃいますね。最初の一歩、どんなふうに揃えていったら良いでしょうか?

矢嶋:まず、きものは一番ミニマムに言えば、きものと帯のふたつがあればいいのです。

下に長襦袢を着なくても、タートルネックやフリルのブラウスを合わせたり、足元はブーツでもワンストラップシューズでも大丈夫。Tシャツとジーンズがあれば洋服を着られるのと同じですよ。

もっときっちりと着ようと思えば、長襦袢を用意する。本格的な長襦袢でなくても、今は3,900円ほどで手に入るコットンで出来た長襦袢のように使えるスリップもある。長襦袢の上にきものを着て帯、もっとおしゃれにするなら羽織、足袋と装履(ぞうり)といった感じで揃えます。

長襦袢の役割も担う肌着/ 写真提供 株式会社やまと
長襦袢の役割も担う肌着/ 写真提供 株式会社やまと

ゆかたも同じです。ゆかたは夏に着る綿の単衣(ひとえ)のきものですから、インナーに着る長襦袢(ながじゅばん)は必要ない。極端にいうと、下駄もあれば格好良いけれどミュールを合わせたって良いんです。

石川:そう考えるとかなりハードルが下がりますね。価格としてはどれくらいなのでしょう?

矢嶋:みなさんが高いと思っているのは絹のきものを想定しているからです。先日ラグジュアリーブランドのコレクションに行きましたが、やっぱり絹のワンピースは25万円するんですよ。

石川:そうですね(笑)

矢嶋:他のブランドでもシルクだと10万円以上するでしょう、きものも同じです。

弊社だと、ポリエステルの洗えるきものなら1万円台から。綿のきものであれば3万円台から(遠州木綿など)あります。片貝木綿でも4万円台で展開されています。

帯が大体1万円からで、軽装履きの装履だと3,900円からある。ポリエステルなら、きもの、長襦袢になるスリップ、帯、足袋、装履、全部合わせたとしても5万円くらいで揃えられる。綿だと8万円前後で、絹になれば15万円くらいになります。

そう考えると、ファストファッションよりは高いけれど、百貨店でレディースプレタ(ブランド既製服)を買うのとほぼ変わりません。

石川:もしかするとトータルで揃えるときものの方がお手頃かもしれませんね。

矢嶋:もちろんきものは、凝ろうと思えばいくらでも凝れるんですよ。長襦袢を絹にしたり、羽織の裏地に凝ったりとかね。裏地だけで何万円もするものもあります。

今日の羽裏は、唐獅子牡丹。桜も舞っている。季節のものをこうやって楽しむんですね。

矢嶋氏の羽織の裏地。唐獅子牡丹。裏地に凝る遊び心
矢嶋さんの羽織の裏地、唐獅子牡丹。見えないところにも光る遊び心

矢嶋:こういう凝り方もあるけれど、そればかりではないので、好みや予算に合わせて楽しめます。

石川:はじめはミニマムにスタートして、少しずつアレンジしていくのですね。

きものはフォルムが同じだから、着まわしもしやすい

石川:(ご同席の)プレスの小林さんのきものも素敵ですね。木綿ですか?レースの襟やハートの帯留も可愛いです。

矢嶋:今注目の久留米絣ですね。綿です。帯留は自分で作って楽しむ方も多いですよ。アレンジは自由自在です。

やまと プレスの小林さんの装い
プレスの小林さんの装い。木綿のきもの(久留米絣)。帯留はピアスや箸置きなどに金具をつけて自作される方も多いそう

石川:1着でもいろんな風に組み合わせて着られるし、もしかすると、きものの方がアレンジの幅が広げやすいところもあるのかもしれませんね。

最近のトレンドとして、洋服でも数を持ちたくないという方が多いです。着まわしという点でも時代性に合っているのかもしれません。

矢嶋:洋服だとフォルムが多様にあるでしょう。ジャケット1つとってもシングル・ダブル、丈やボタンの数も様々で、形も違う。

きものはフォルムが同じだから、着まわしもしやすいのです。同じ形の素材違いや柄違いなので簡単に合わせられます。そして、男女でほぼ同じ形です。

今日私が着ているきものも、実は女性ものの反物を仕立てました。こういった若草の萌木色の男性ものは、なかなかないので、楽しんでいます。

男性も綺麗な色をいっぱい着た方がいい。それこそ、明るいピンクでも。一般的に、今までの男性向けきものは地味なものばかり。こういうちょっと洋服では出しにくい色を、きもので着たいなと思うのです。

石川:確かに、洋服の場合は男性でこの色で全身揃えるのはなかなか難しいですけれど、きものだと挑戦しやすいですね。

きもののルールを歴史から考える。カジュアルきものはもっと自由でいい。

石川:きものを揃えていく上で、ルールがすごく細かくあるんじゃないかという印象があって‥‥。

ちょっと間違っていたら怒られそうとか、笑われそうとか、初心者はそもそものきものルールもわからない状態なので、すごく高いハードルを感じます。基本として、まずはどんなことを押さえたら良いのでしょうか?

矢嶋:きものの歴史でいえば3つあります。

「着るもの」として考えたら、洋服もきものも同じなのだけれど、一般的には「きもの=和服」でいい。

「和服」という言葉ができたのは洋服という言葉ができたのと同じ明治6年ころだから、和服の概念の歴史はせいぜい150年しかない。それより前はみんなきものだったから、そもそも和服・洋服という区別が存在しないのです。

それから、今の袋帯・名古屋帯という名前ができたのが大体100年前。そして、「フォーマルはこういうものですよ」というルールができたのが、たかだか50年前です。そんなに昔からルールが決まっていたわけではありません。

しかも、今言われているルールというのが、ほとんどフォーマルきもの用です。現代のみなさんが日常的に着るカジュアルなきものはそれにとらわれなくていいのです。

例えば、今日僕が着ている結城紬。結城紬は高級な織物だけれど、カジュアルなものだから正式なところには着て行ってはいけないと言われています。

でも、僕はそうは思わない。そんなのは後から生まれたルールだから。

カジュアルと言われる結城紬に、一つ紋がついたフォーマルな羽織を合わせたのが今日の組み合わせ。フォーマルルールに沿って考えると、いけない着方をしているわけです。

でも洋服に置き換えて考えたら、「デニムにブレザーを合わせて何がおかしいの?」という話になります。

そういうことが洋服では許されるのにきものでは許されないという誤解。フォーマルのルールが全てだと思ってしまっているから起きていることですよね。

石川:洋服で言うと、ドレスのルールを日常にも持ち込んでいるような状況なのですね。

矢嶋:そうそう、まさに。例えば、こんな着方もありますよ。

きものの下にはワイシャツとボウタイ、帯の代わりに皮のベルト、足元はブーツというスタイリング / 写真提供 株式会社やまと
レースの羽織にきものの下にはピンタックのワイシャツとボウタイ、革の帯、足元はブーツというスタイリング / 写真提供 株式会社やまと

石川:わぁ、素敵ですね!実際こういう装いの方が街を歩いている姿を眺めているほうが、楽しいですね。

矢嶋:洋服のトレンドのように、いろんな着方があって良いのです。

例えば、いま流行しているダメージデニム。あれだって知らない人が見たら、「膝小僧が出ててみすぼらしい」と思うかもしれない。

だけどそれはファッションなんだからと、気にせずに履くでしょう?

石川:確かに以前、親戚がダメージデニムを履いて電車に乗っていたらおばあちゃまに「買えないのね、かわいそうに‥‥」って言われていました。世代が違えば、捉え方も変わりますよね。

矢嶋:そうでしょう(笑) きものも同じです。

戦後のきもの業界に起きた2つのブーム、光と影

石川:きものの場合は、若い世代がきものに合わせなければいけないと構えすぎているのかもしれないですね。

矢嶋:そうそう。戦後のきもののありかたにその原因があります。150年前は日本人全員がきものを着ていた。戦前戦時中はもんぺと国民服になってしまったから、そこで一度きもの文化が途絶えてしまった。

そして、戦争に負けて欧米文化にシフトして行く中で、どうやってきものを生き残らせようかときもの業界の人が考えたことが2つありました。

1つ目が、1959年の皇太子ご成婚時に新聞に掲載された美智子妃殿下の訪問着姿をきっかけに訪れた婚礼きものブーム。そして2つ目が、団塊の世代が成人式を迎えた1969年から1970年頃の振袖の大流行です。

婚礼と振袖、2つのフォーマルなきものできもの業界は持ちこたえた。ただ、戦前のきもの文化成熟期には、たくさんあったカジュアルなものが淘汰されてしまったのです。素材も絹一辺倒になることで高額になり、ルールに縛られ、自由で多様性のあるきもの文化が消えていってしまった。

自分のスタイルを見つけるには

石川:私は主に洋服に携わっていますけれど、時代によって着方は移り変わっていきますよね。歴史から考えると、きものも洋服同様にもっと自由でいいのですね。

とはいえ、今からきものを始めようと思っている方は、本で勉強しようとすると、どうしてもフォーマルのルールばかりが載っていて、たくさんの条件をクリアするものしか着てはいけないと思い込んでしまう。

矢嶋:フォーマルなルールを主張する人がいてもいいけれど、そればかりではつまらない。画一的になってしまうから。

若い方も洋服を着るときはその意識を持っていますよね。それくらい洋服に対しては文化が成熟しているのです。

きもの文化は150年前には成熟していたのに戦争前後の変化でブランクができて、その後ルールがフォーマルに偏ったものになってしまった。

ルールを知ることが悪いとは思わないし、フォーマルに着たいならルールを学べばいい。だけど、カジュアルに着ることだってできるということを忘れてはいけない。カジュアルに着るんだったらもっと自由でいいはずです。

きもののスタイリングで一番大切なのは、場や相手に合わせること

石川:お召しになるきもののスタイリングではどんなことに気をつけていらっしゃいますか?

矢嶋:「特別な日だからきものを着る」のではなく、「今日を特別な日にしたいからきものを着る」ということが僕にはよくあります。

今日は雨模様だけれど、せっかく春だから今の季節に合うもので出かけようと、若草の萌木色のイメージでこういう装いにしました。一番大切なのは、「その場と相手に合わせる」こと。

今日だって、もっとアバンギャルドな着方とか色々な選択肢はあったのですが、初めてお会いする方との時間だから、カジュアルだけど僕の中ではオーソドックスな着方を選んできたわけです。

みなさん、ふだん洋服でやっていることですよね。きものも同じです。

石川:先ほどのお話で、今日の装いをデニムにブレザーと言い換えてくださいました。

そういうふうに、「これはワンピースに相当」とかそれぞれのきものと洋服が対応するマトリクスになっていたら嬉しいのに、なんて思ってしまいました。

矢嶋:うーん、わかりやすくなるかもしれないけれど、それをやるとそれがまたルールになってしまうでしょう。

例えばその人が堅い職業の方ならおのずときちんとした格好になるし、同じ年齢でもアパレル系の方ならおそらく全く違う装いになる。

その人その人の常識や習慣、性格によって基準は変わってくるものだから、決めつける必要はない。そういう差があることが成熟した豊かさだと思うのです。

石川:確かに統一はできないですね。

矢嶋:食事でもね、フランス料理だって、フルコースで食べるスタイルもあればオードブルばかりで楽しむというスタイルも作られているでしょう。選べる豊かさというものがあると思う。

まず第一に、その場の相手に合わせる、そして、その中で自分らしさを出していけばいい。

見て、着て、慣れていく。その中で自分のスタイルを見つける。

石川:何を選ぶのか、どんなスタイルにするのか、自分の中の軸を決めていく必要がありますね。

矢嶋:まずは、スタンダードなところから入って慣れていけば良いと思いますよ。

一番良いのは、きもの屋さんの店頭やwebでいろんな人の着方を見てみること。弊社のお店にいらっしゃるお客様の最大の動機のひとつが「着こなしを見たい」というものです。

「こういうふうに合わせるんだな」と、実際に見て知っていただけるように、うちは、その地域やディベロッパーのメインとなるお客様の年代に合ったスタッフが店頭にいるようにしています。

石川:きものは街中で見る機会も少ないですものね。色んなものを見ると自分の中で軸が定めやすくなりますね。

矢嶋:まずはきものに対して馴染みを持つことが大切。

始めはゆかたでもいいので、まずは着てみる。着ることによって格段に関心が向いて沢山の情報が自然に入ってくるようになりますよ。

石川:慣れるまでの段階で諦めてしまうというケースもありますが、そういう場合はどうしたらいいのでしょう?

矢嶋:着付けに関して、男性は簡単です。帯はネクタイより難しいけれどボウタイよりシンプルで、動画を見たらすぐできるようになる。だから始めるとすぐ楽しめるんです。

一方、女性はそうはいかない。一番のハードルはおはしょりと帯ですね。

弊社では「クイックきもの」「クイックゆかた」という商品を出しました。これは一人ひとりの身長に合わせて、オーダーメイドでおはしょりを糸で縫い付けた状態にして販売しています。

これならば、女性も5分で着付けできる。帯も、切らずに1枚のまま縫い合わせたつくり帯加工を用意しています。どちらの商品もハサミを入れていないので、糸を取れば普通のきものと帯の状態に戻ります。

まずは、補助輪付自転車のように糸のついた状態で着ることに慣れて、ひとりで着られるようになったら糸を切って、元のスタンダードな状態にしてしまえばいい。

補助輪のような仕掛けはちょっと格好悪いけれど、こうした工夫があればスタートのハードルが下げられて、きものを楽しめる方がグンと増えると考えています。

石川:これはかなり画期的ですね。きものを始めるにあたって、本を買うよりは、お店に行って見てみる、ゆかたなどでチャレンジしてみるなど、ちょっと勇気はいるけれど一歩踏み出してみると道はひらけそうですね。

矢嶋:フランス料理を知りたかったら、本を読むより、まず食べにいくでしょう。それと同じでいいんだと思いますよ。

まずは、気に入ったものをワンセット用意してみる。選ぶことが難しかったら、自分となるべく同じ年代のきものを着ている人に相談して選んで着てみることから始めてしまえば色々なことがわかるし、慣れていきます。

石川:きものの季節感はどんなふうに捉えればいいですか?

矢嶋:先取りが基本です。今日は雨なので、マントは着て来ましたけれど春だから軽やかに。でも実は下にヒートテックを履いています。寒いから。

石川:お話を伺っていると、洋服と本当に変わらないですね!和服と洋服にわけているけれど、どちらも服ですものね。

矢嶋:そうそう。繰り返しになりますが、和服と洋服って区分けはせいぜい150年前にできたもので、その前は全て和服です。

洋服でも、フロックコートとモーニングなんてほとんど区別つかないけれど別物なわけです。フォーマルはフォーム、型です。フォーマルな世界ではルールがあっていい。

だけれど、自分がフォーマルが好きだからといって、カジュアルが好きな人に対しておかしいと言う必要はないよね。

石川:そうですよね。きものに対してつい難しく考え過ぎているし、真面目な方ほどハードルを感じるのかもしれないですね。

矢嶋:それに、道端で「あなた違うわよ」って言っている人がどれくらいきものを着ているかって疑問でしょう。「おせっかい」さんを気にする必要はありません。

石川:間違ってるって言われないようにしようと思うのではなく、そこを気にしないということが大事なんだなと、私自身も気持ちが楽になりました。どんどん自由に楽しみたいですね。

矢嶋:家にあるのであれば、まずお母さんやご親族のきものを着てみるのもいいですよ。ちょうどおばあちゃん世代のころが一番多様で豊かな時代でした。だからおばあちゃんのきもの姿への憧れが強いのは当然なんですよ。

丈が足りないなど、サイズが合わなければ、レースの襦袢を下に着てチラリと見せたり。いろんな楽しみ方がありますよ。

石川:発想を自由にすると、きものの楽しみ方が広がりますね!


とても高いハードルが立ちはだかっているように見えていたきものの世界も、洋服と同じように多様で自由であることを教えていただきました。まずはミニマムに始めてみて、自分らしいスタイルを見つけて楽しんでいきたいですね。

※やまとでは、単に着る物としてのきものや昔の湯上りのゆかたではなく、「きもの」や「ゆかた」、「装履」をファッションとして楽しんで頂きたい考えから文中の表記にしています。

——

矢嶋 孝敏
株式会社やまと代表取締役会長
1950年、東京都新宿区生まれ。72年、早稲田大学政治経済学部卒業。88年、きもの小売業「やまと」の代表取締役社長に就任、2010年より現職。2017年に創業100周年を迎える同社できもの改革に取り組んでいる。11年、一般財団法人「きものの森」理事長就任。著書に『きものの森』(15年)、『つくりべの森』(編、16年)、『きもの文化と日本』(共著 伊藤元重氏 東京大学名誉教授、16年)がある。

http://www.kimono-yamato.co.jp/

石川 ともみ
ファッションディレクター/パーソナルスタイリスト
一般女性のためのパーソナルスタイリングサービス「lulustyling」代表。資生堂×an・an主催のスタイリストコンテストBeautyStylistCupグランプリ。個人向けスタイリングサービスの他、メディアへの出演やテレビ番組の企画監修、企業のファッションコンテンツや商品のアドバイザーとして活躍中。女性を輝かせるスタイリストとして20代30代の女性を中心に支持を得ている。

文・写真 : 小俣荘子

*こちらは、2017年4月23日の記事を再編集して公開いたしました。

きものを今様に愉しむ お気に入りの一着を仕立ててみる

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

私はここ数年、洋装と和装それぞれ半分ずつくらいの割合で外出するようになりました。慣れてしまうと思いのほか楽しく快適なものですが、出かける先で「大変でしょう」と労いの言葉をかけられることもしばしば。一方、不安を口にされつつも興味を示してくださる方にもたくさん出会うようになりました。

きものは現代の装いとして身近なものではなくなっている一方で、いつかは着てみたいと考えている方も多いようです。

洋服と同じようにきものも日常に取り入れられたら、毎日はもっと彩り豊かになるはず。連載「きものを今様に愉しむ」では、きものとの付き合い方や、愉しむヒントをご紹介してまいります。

自分のための一着を仕立ててみる

これまでの連載で、自由なきものスタイリングやカジュアルな着方気軽なレンタルきものでのお出かけ提案ゆかたのきもの風アレンジお手入れ方法をご紹介してきました。


さて、いよいよ今回は、呉服屋さんで自分にぴったりの一着を仕立てる様子をお届けします!

訪れたのは、「KIMONO by NADESHIKO 原宿店」。プレスの小林千晴 (こばやし・ちはる) さんに案内していただきました。
反物 (たんもの) 選びから始まるきもののお仕立て。来店時の服装やお店での相談の仕方などのポイントも伺ってきました。

「KIMONO なでしこ原宿表参道店」店頭にはストールを巻いたスタイリングなどカジュアルに楽しめる提案も
「KIMONO by NADESHIKO 原宿店」店頭にはストールを巻いたスタイリングなどカジュアルに楽しめる提案も

きもの選びの前にしておくとよい、4つのこと

来店前に考えておくこと、準備しておくもの、店頭で伝えると良いことなど小林さんに伺いました。

1.どんなところに着て行きたいか、具体的なイメージを膨らませておく

ひとことで「きもの」と言っても、種類は様々。「結婚式などのフォーマルな場に着ていきたいか、カジュアルなお出かけ着として着たいかはもちろんのこと、着たい場所やシチュエーションによって、おすすめのきものが違います」と小林さん。

どんなシチュエーションで、どんな風に着たいかを具体的に店頭で伝えるとスムーズです。雰囲気についても、洋服と同じように「きれいめ」「可愛いらしく」「レトロ」「クール」といった表現で十分伝わります。理想のイメージを膨らませておきましょう。

2.持っている帯や小物で使いたいものがあれば、事前準備を

きもののスタイリングに慣れていない場合、最初はプロであるお店のスタッフと一緒に自分が一番気に入るものを探し、一式揃えて購入すると安心です。もし使いたいものがある場合は、実物を持参したり、あらかじめ撮影して画像を用意したりしておくと選びやすいとのこと。

3.予算、支払方法を相談する

「当店では、お若い方にもお手に取りやすい値段設定にしておりますが、はじめて一式揃える時にはどうしてもお金がかかります。一生着られるようないいモノを選ぶか、初めは気軽に安価なモノにするか、どんな支払方法だと無理なく購入できるか、遠慮なくスタッフに相談してください」と小林さん。生地だけではなく、仕立て代や裏地代、小物類など購入に必要な要素が多いきもの。はじめに用途と全体の予算をきちんと伝えること、反物の価格以外にかかる金額について最初に確認しておくと安心ですね。

4.信頼のできるスタッフ、お店で購入する

「初めてのきものは分からないことだらけです。不安や疑問をなんで相談できるスタッフ、アフターフォローがしっかりあるお店で購入し、きものの世界を楽しんでいただきたいです」と小林さんも強調されていました。
当然ではありますが、お店に入ったからといって、そこで必ず購入しなければいけないというわけではありません。店頭のマネキンや、スタッフの方々のスタイリングを眺めることで自分の着たいイメージを膨らませることもできます。お店の雰囲気を見て、自分に合う、合わないを検討してから購入に進みましょう。

店頭で反物や展示されているスタイリングを眺めるのも楽しい
店頭で反物や展示されているスタイリングを眺めるのも楽しい

予算15万円で、いざ店頭へ!

教えていただいたことを踏まえて、さっそく店頭へ。
今回は、普段使いで「ちょっとおしゃれをして出かけたい時」の1着を作ることにしました。予算は15万円でお伝えしています (もし合わせたい帯や小物があれば、この時に伝えましょう) 。
まずは、反物選びから。素材と柄の解説をしていただきながら選びます。

シルクだけでなく、化繊や木綿など様々な素材の生地が並ぶ。こちらは洗える化繊の生地
シルクだけでなく、化繊や木綿など様々な素材の反物が並ぶ。こちらは自宅で洗える化繊の反物
フォーマルなシチュエーションにも使える生地
カジュアルからフォーマルまで対応できる柄付けの正絹の反物
片貝木綿 (かたがいもめん) の生地
左が小林千晴さん。右は説明を受ける、さんち編集部の尾島。新潟の片貝木綿 (かたかいもめん) は、凹凸のある独特の風合いが魅力だそう

「普段使いなら、お手入れしやすいものが良いかもしれませんね。洗濯機で洗える化繊素材のほかに、木綿も手洗いできますよ」と教えていただきました。
気に入った反物をいくつか選んで、試着してみます。

気分はシンデレラ?肩合わせをしながら顔うつりをチェック

大きな鏡の前に移動して、生地を身体にあてていきます。長襦袢 (ながじゅばん) を着ているかのように見える衿を洋服の上に付けてもらいます。きものの試着は基本的に洋服の上から。仕上がりイメージに近づけるために、襟のついていない、凹凸が少ない服装での来店がオススメです。また、髪の長い方はアップにしておくと試着しやすくなります。

仮衿をつけて上から生地をまといます
衿をつけて上から生地をまといます

ここで、呉服屋さんのすごい技術が!針もはさみも一切使わずに、反物がきものの形へと変身していきます。

次第にきもののような形に!
おはしょりまでできました
もうすっかりきものを纏っているようです

「やはりきもの姿を見慣れていない方は、反物の状態では仕上がりの様子を想像しにくいものです。こうしてお仕立て上りのイメージをご覧いただくと、選びやすくなりますよね」と話しながら、あっという間にこの状態を作ってくれる小林さん。まるで魔法使いのようです。たしかに、反物の時よりも格段に想像しやすくなりました。さらに、その上から、他の生地もあてて見比べていきます。

上から他の生地もあてて、イメージを膨らませます
上から他の生地もあてて、イメージを膨らませます

次から次へと生地をあてて、自分にぴったりのものを探します。一度にたくさんのきものを纏う機会なんて、なかなか無いもの。新しい自分が垣間見える、楽しい試着時間です。

こちらはフォーマルにも使えるドレッシーなデザイン
こちらはフォーマルにも使えるドレッシーなデザイン

半衿や帯、小物を選ぶ

気に入った生地が見つかったら、次は帯や周辺の小物を選んでいきます。今回は、衿元からちらりと覗く半衿 (はんえり) も白以外のものを合わせてみました。

半衿。シンプルな白のものから、様々な柄のものや刺繍色のものまで様々
半衿。シンプルな白のものから、様々な柄のものや刺繍のものまで様々
半衿も実際に衿元に合わせてみます
半衿も実際に衿元に合わせてみます

続いては、帯選び。帯は名古屋帯の他、ゆかたを着る際によく使われる半幅帯 (はんはばおび) もカジュアルな雰囲気で合わせる際に活躍します。

帯選び
帯選び
名古屋帯。モダンなもの、ポップなものなどデザインも様々
名古屋帯。モダンなもの、ポップなものなどデザインも様々
こちらは半幅帯
こちらは半幅帯

同じきものでも、帯を変えるだけで印象がガラリと変わります。実際に巻いてみて雰囲気を見ていきます。

巻いてみて雰囲気を見ます
巻いてみて雰囲気を見ます
帯を変えるだけでもだいぶ印象が異なりますね
帯を変えるだけでもだいぶ印象が異なりますね

帯を決めたら、帯の上で差し色となる帯締めや帯揚げ、帯締めにつける飾りの帯留めも合わせていきます。

帯締め
帯締め
続いて帯締め選び

きものの柄の中にある色や、色調が近いもので合わせると全体の雰囲気がまとまりやすくなります。あえて濃いめの締め色を入れてキリリとした印象にすることも。なりたい雰囲気に合わせて選びます。

帯締め
帯揚げ
帯留め
帯留め。素材もモチーフも様々です。ブローチなどで代用することも
実際につけていただきました
実際につけていただきました
最後に全体の雰囲気を確認します
最後に全体の雰囲気を確認します

その他、必要があれば、バッグや装履 (ぞうり) も合わせてみましょう。もちろん、普段洋服で使っているバッグや、シューズなどを合わせてみてもおしゃれの幅が広がります。

装履
装履。多くは「草履」の字を当てますが、やまとさんでは「装い」の意を込めてこの字を選んでいます

季節や必要に合わせて用意するもの

表面上あまり見えないのでつい忘れがちなのが、裏地と長襦袢、着付け小物です。必要に応じて、こちらも選びます。

今回は、木綿の単衣 (ひとえ) のきものでしたが、袷 (あわせ) のきものの場合は裏地が必要となってきます。単衣とは、夏前後の季節の変わり目に爽やかに纏える裏地の付いていないきもの。そのため、裏地選びは不要です。袷とは、春秋冬に纏う裏地付きのきものです。着たい季節や利用シーンを伝えれば店頭で提案してもらえるので、わからないことがあれば質問してみてください。

裏地の色見本。選んだ生地と重ねて相性も確認します
裏地の色見本。選んだ生地と重ねて相性も確認します

長襦袢は、きものの下に着るインナーのことで、歩くときなどに袖、裾からちらりと柄が覗きます。こちらも予算に合わせて素材とデザインを選びます。自分のサイズにぴったりのものを1つ持っていると着付けしやすく、袖や裾の位置も合うので便利です。最近では、肌着と長襦袢が一体型になったリーズナブルな既製品もあるので、そういったものを活用することもできます。

長襦袢の生地
長襦袢の生地
長襦袢の役割も担う肌着/ 写真提供 株式会社やまと
長襦袢の役割も担う肌着 / 写真提供 株式会社やまと

「腰紐や伊達締め、帯板、帯枕などの着付け小物は、成人式で揃えたものや、ゆかたで使っているものも使えます。仕立て上りのお品を引き取りに来られる際に足りないものを揃える方も多いですよ」とのこと。こちらも足りないものだけ揃えればよいので、ぜひ手持ちのものを確認してみましょう。

着付け小物のセット
着付け小物のセット / 写真提供 株式会社やまと

最後に、採寸、仕立て上りスケジュール (3週間程度) を確認し、お会計です。あとは出来上がりを待つばかり。自分にぴったりの一着、楽しみですね。

採寸
採寸
今回選んだもの きもの生地、帯、帯締め、帯揚げ、帯留め、半衿、長襦袢生地、装履 合計金額14万円ほど (仕立て代含む)
今回選んだもの。左から、きもの生地、帯揚げ、帯、帯締め、帯留め、半衿、長襦袢生地、装履

今回、きもの選びの所要時間は1時間ほどでした。2時間前後かける方が多く、生地選びや小物合わせにもっと時間をかける方もいらっしゃるとのこと。時間には余裕を持っておいて、納得がいくまでこだわって選びたいですね。

「呉服屋さんって、なんだか怖い」と、若い女性から聞くことがあります。

「料金体系や、何が必要なのかがわからないブラックボックスのような状態にお客様は不安になられるのだと思います。金額のことや必要なもの、ご自身の持っている帯や小物が使えるかどうかなど、店頭で気兼ねなくお尋ねくださいね。お話を伺えると、私たちもご希望にあった提案をしやすくなりますので」と小林さんは言います。
また、「入店したら買わなければ‥‥」というプレッシャーも捨ててしまいましょう。お洋服を買いに行くように、まずは気軽に。心を惹かれたきものに触れてみると、きっと次第に不安は払拭されていきます。

自分に合ったスタイルで、ぜひきものを愉しんでみてください!

<取材協力>

株式会社やまと

東京都渋谷区千駄ヶ谷5丁目27番3号

文・写真 : 小俣荘子

きものを今様に愉しむ ゆかたをアレンジして纏う

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

私はここ数年、洋装と和装それぞれ半分ずつくらいの割合で外出するようになりました。慣れてしまうと思いのほか楽しく快適なものですが、出かける先々で「大変でしょう」と労いの言葉をかけられてしまったり、不安を口にされつつも興味を持ってくださる方にたくさん出会いました。きものは現代の装いとして身近なものではなくなっている一方で、いつかは着てみたいと興味を持っている方も多いようです。 洋服と同じようにきものも日常に取り入れられたら、毎日はもっと彩り豊かになるはず。連載「きものを今様に愉しむ」では、きものとの付き合い方や、愉しむヒントをご紹介してまいります!

ゆかた姿でおでかけ

夏は普段きものを着ない方も和装になる方が増える時期ですね。そう、ゆかたの季節です。最近では、洋服のブランドでのゆかたラインの展開や、リーズナブルなセットアップ販売のゆかたなど、身近な場所での購入機会も増えました。ゆかた姿の方向けの来店サービスのあるお店や、ビアガーデンでのゆかたパーティなど、お祭りや花火大会だけでなく、ゆかた姿で出かけることでより楽しめる機会もたくさんあります。男女問わず、お昼間からゆかたを纏う方を見かけることも多くなりました。かく言う私も、友人とゆかたランチやお出かけを愉しんでいます。

そんな身近になったゆかたではありますが、今年初めてチャレンジしようと思っている方には着こなしや着付けなど不安な点もきっと多いはず。単発の着付けレッスンに1度行ってみたり、動画を見ながらほんの数回練習すればゆかたはすぐに自分で着られるようになりますので、どうぞご安心を。慣れてしまえば思いのほか簡単です。また、必要なのは帯とゆかたと腰紐などのシンプルな小物のみなのですぐに揃えられます。加えて、帯留めなどのきものの小物や、洋服のアイテムなどを加えてアレンジして愉しむこともできるのです。


今回は、「きものが着たくなる呉服店」をコンセプトに、呉服に馴染みのない現代人も気軽にライフスタイルに取り入れられるように提案している「大塚呉服店 (おおつかごふくてん) 」さんへお邪魔して、夏のゆかたの着こなしについてお話を伺ってきました。

自由なアレンジで、キレイめにもカジュアルにも

大塚呉服店 ルミネ新宿店の中でアパレルブランドと軒を連ねていて気軽に入店できます

一見、きものを纏っているようにも見える店頭のトルソー。実は2体ともゆかたをアレンジしたものなのです。ゆかたの下に衿がついていたり、帯締めや帯揚げ、帯留めを加えていたり、少しドレッシーな装いです。元々は湯浴みや部屋着として使われていたゆかた(旅館でもお風呂上がりに纏いますね)。おでかけに纏うことが一般的になった現代でも、そのままのシンプルな着こなしで出歩くのには少し恥じらいのある大人の女性も多いのだとか。近年のトレンドとして、きもののような雰囲気にアレンジして愉しむスタイリングが人気となっているそうです。


簡単に取り入れることのできるアレンジや、スタイリングのポイントについて店長の森村 祐妃(もりむら・ゆき)さんが詳しく教えてくださいました。

店長の森村 祐妃さん

衿をはさんで、きもの風に

きもののように半衿 (はんえり) を重ねた衿もと

きものでは、長襦袢 (ながじゅばん) と呼ばれる衿付きのインナーの上からきものを重ねますが、ゆかたの場合は直接下着の上にゆかたを纏うのが基本のスタイルです。アレンジして衿を重ねると、華やかさや、きちんと感のある雰囲気が生まれます。

衿がつけられる肌着もあります

ゆかたの下着はタンプトップなど洋服用のものでも問題なく着られますが、写真のように衿が付けられる肌着もあります。この襟の部分に半衿をつけて着ると先ほどのような首もとに。(専用の半衿でなく、お気に入りのスカーフや手ぬぐいでアレンジされる方もいらっしゃいます。)

シーンに合わせて履き物もアレンジ

続いて、ゆかたの時の履き物についても伺いました。

スタンダードな下駄を合わせるスタイルはもちろんのこと、洋装のサンダルを合わせたり、草履風の下駄を合わせても少し改まった雰囲気になるそうです。ストラップ付きのデザインのサンダルなどを合わせるときは、足首まわりのデザインとの相性に注意。足首のベルトを見せたくて裾を短めにしてしまうと子どもっぽくなってしまうこともあるのだとか。

上品な大人の装いにしたい場合は「くるぶし丈」くらいがおすすめとのこと。また、「裾が短い方が歩きやすいと思われる方も多いですが、かえって足首のところで裾が擦れて違和感があったりもするので、短くしない方が着心地も良く、快適に歩けますよ」と教えていただきました。

スタンダードな下駄でカジュアルに
こちらは布貼りの草履風の下駄。少し改まった印象に

レースの足袋などを合わせても、涼しげな雰囲気と改まった印象のスタイリングになりますね。裾丈はこちらを参考にしてみてください。

レースの足袋を合わせて

アクセサリーや小物アレンジも自由に

大ぶりのカジュアルなピアス

「和装にはパールやカチっとしたアクセサリーじゃないとダメかしらと心配される方も多いのですが、大ぶりのピアスなどカジュアルなものを合わせても素敵なんですよ」と森村さん。店頭にも洋装にも使えるようなモダンなデザインのものが並んでいました。

帯締めと帯留めを加えるだけでも「きちんと感」が出ます

きもの風アレンジとして、帯締め、帯留めを加えるというアレンジも。去年と同じゆかたと帯に小物を合わせることで、少し雰囲気を変えた着こなしを愉しむという方も多くいらっしゃるのだとか。また、帯の結び方を変えるだけでも印象が変わるのでおすすめです。

帯も様々な結び方があります

和装小物をつかったアレンジの他、洋服の時に使うアクセサリーを活用するというアイデアもあります。例えば、こちらはブローチですが、帯締めにつけることで帯留めとして活躍します。お気に入りのアクセサリーを洋服の時にも和服の時にも活用できたら嬉しいですね。

クリップや安全ピンのついたブローチを帯留めのように使うこともできます

ゆかたといえば、手には巾着のイメージもありますが、最近は大きめの籠バッグも人気です。お財布や携帯電話、ポーチや水筒なども入る洋装にも使えるような籠バッグ。涼やかな見た目も夏のお出かけにぴったりですね。

大きな籠バッグ

似合うゆかたの見つけ方

ここまでゆかたのスタイリングやアレンジをご紹介してきましたが、そもそもゆかたを選ぶ時のポイントはあるのでしょうか?

洋服と和服では不思議と似合う雰囲気が異なったり、思いがけないいつもと違う自分に出会えるのも醍醐味です。「自分にぴったりの一着」に出会うためのゆかた選びについても伺いました。

「和服は、帯や小物合わせて雰囲気を大きく変えることができます。ですので、まずはお好きな一着を選んでみてください。もしくは、なりたい雰囲気があれば店頭でおっしゃってみてください。ふんわりした雰囲気がお好きなのか、レトロな感じが良いのか、クールに着こなしたいのか‥‥など、何かイメージされているものがあればそこからお似合いになるもの探しをお手伝いできますよ。また、すでにご自宅にあるゆかたや帯に合わせたい場合などは写真を撮って持参されると選びやすいです」と、森村さん。

実際に同じゆかたでも合わせるものでガラリと印象が変わるところを実際に見せていただきました。

ゆかたに黄色い帯

まずは黄色い帯を合わせてみました。コントラストがしっかりとついてアクティブな印象です。続いて、薄いブルーの帯を合わせてみると‥‥。

同じゆかたに青い帯

こちらは色が馴染んで、落ち着いた雰囲気に。確かに、印象がだいぶ異なりますね。そして、小物を合わせてみることでさらにアレンジすることも可能です。

同じ黄色い帯を別のゆかたに合わせてみると、また異なる趣きになりました。

黄色い帯を別のゆかたに

こちらは可愛らしい印象になりましたね。

最後に、小物合わせによる雰囲気の変化も見てみましょう。

落ち着いた紫の帯締めに繊細な花の帯留めを合わせて

綺麗めアレンジで、はんなりとした雰囲気となりました。帯揚げや帯留めの色を選ぶときは、ゆかたの柄の中にある色を持ってくると一体感が生まれやすく、おすすめです。

同じ帯でも、帯締めや帯留めを合わせても雰囲気が変わります

帯締めと帯留めを変えるだけでも印象が変わりました。こちらの方がキュート、カジュアルといったイメージでしょうか。

こうしたアレンジを加えるだけで、1着のゆかたを様々な雰囲気で楽しめますね。

ゆかたで夏を愉しんで

今回ご紹介してきたように、アレンジやスタイリングに難しいルールなどはありません。好きな雰囲気をイメージしたり、使いたい小物を生かして、洋服をスタイリングするように自由自在です。

履きなれない下駄で歩くことに不安があれば、普段履いているサンダルやパンプス、バレエシューズを合わせてみても。素材が夏仕様なので、夏の和装は案外涼しいものですが、炎天下を歩くよりは室内が安心ということであれば、ランチやレトロ喫茶店でのティータイム、水族館やプラネタリウム、映画館などへのおでかけもおすすめです。今年の夏はゆかた姿で愉しんでみてはいかがでしょうか。

◆大塚呉服店 着付け教室

大塚呉服店 ルミネ新宿店では、ゆかたの着付け教室を開催しています。

日時:7月22日、23日(いずれも時間は14:00〜15:30)

参加費:1,000円

お問い合わせ:03-6279-0112 shinjuku@otsuka-gofukuten.jp


まずはゆっくりと手順の解説を受けながら着てみます。難しい用語は使わず、シンプルな言葉に導かれながらみなさん着付けていきます。一度着たら脱いでもう1度。2度目は少しスピードをあげつつ、綺麗に着るポイントや、自分に合う帯の長さ調整などをしながら再チャレンジ。2度の練習でしたが、そのまま着て出かけられるような綺麗な着姿に仕上がっていました。「あと自宅で数回練習すれば大丈夫です」と、先生。ゆかたは、慣れてしまえば本当に簡単なのです。

着付け教室の様子
ポイントが詰まったオリジナルの着付け資料。自宅で着る時に大いに役立ちそうです

<取材協力>

大塚呉服店 ルミネ新宿店

東京都新宿区西新宿1-1-5 ルミネ新宿店 ルミネ14F

03-6279-0112

文・写真:小俣荘子

きものを今様に愉しむ きもので町歩き 初夏の浅草へ

こんにちは。ライターの小俣荘子です。
私はここ数年、洋装と和装それぞれ半分ずつくらいの割合で外出するようになりました。慣れてしまうと思いのほか楽しく快適なものですが、出かける先々で「大変でしょう」と労いの言葉をかけられてしまったり、不安を口にされつつも興味を持ってくださる方にたくさん出会いました。きものは現代の装いとして身近なものではなくなっている一方で、いつかは着てみたいと興味を持っている方も多いようです。
洋服と同じようにきものも日常に取り入れられたら、毎日はもっと彩り豊かになるはず。連載「きものを今様に愉しむ」では、きものとの付き合い方や、愉しむヒントをご紹介してまいります!

第1回では、「きもの やまと」会長できもの文化育成にも多大な貢献をされている矢嶋孝敏 (やじま・たかとし) さんにお話を伺い、「きものはもっと自由でいい!」ということを知り、勇気づけられました。

第1回 「歴史を知り、自由にきものと向き合う」はこちら

案ずるよりも、まずは纏ってみる

きものの大きなハードルとして、持っていない、着付けが自分ではできないという点がよく挙げられます。しかし、最近ではカジュアルに楽しめる着付け付きレンタルサービスが様々な形で展開されており、活用すると気軽にきものでお出かけできるようになりました。
今回は、「まずはきものを纏って出かけてみよう!」と、レンタルサービスを利用してきもの姿で浅草の町を散策してみることにしました。
浅草や鎌倉、京都や金沢など、昔ながらの日本の街並みの残る地域では、きもののレンタルサービスが数多く展開されています。今回は、浅草駅直結の商業施設、EKIMISEの4階にある呉服店「なでしこ」のレンタルサービス「えきレン」を利用させていただきました。レンタルの方式はお店によって様々ですが、こちらのお店では、きものの着付込 (ヘアセット無し) で5,400円 (税込) 、レンタルしたきものは気に入ればそのまま持ち帰ることができます (追加料金はかかりません。小物や帯は要返却) 。着替えた洋服などの預かりサービスもあり、身軽に出かけられるのも嬉しいところ。電話またはWEBで事前予約し、約束の日時にお店を訪れます。

EKIMISEの4階にある「なでしこ」

スタイリングの愉しさを知る

とりどりの色や柄のきものがずらり

レンタルできるきものは、なんと約60種類ほど。様々なデザインの中から自分のお気に入りが選べます。

迷ったら、好みや似合うものなどお店の方に相談してみましょう。取材の際は、本社プレスの青木さんが色々と教えてくださいました

洋服とはまた違った柄や色が似合ったり、いつもとは少し違う自分に変身できるのもきものの魅力。可愛らしく着てみたり、はんなりとした雰囲気を纏ってみたり、いつもより少し大人っぽい装いを試してみたり。迷ったらお店の方に相談してみましょう。思いがけない似合うものを教えてもらえたり、イメージに合うスタイリングを提案してもらえます。

提案していただいたものから絞っていきます

少しずつ候補を絞っていき、鏡の前で合わせてお気に入りの一着を選びます。洋服では無地のシンプルな着こなしがお似合いのモデルさん。今日は、提案していただいた花柄にチャレンジです。ちょっと派手かな?と思うような大柄でも、きものだと自然と着こなせることがよくあります。洋服ときもの、両方を選択できるとおしゃれの幅も広がりますね。

きものから覗く衿 (半衿といいます) も好みのものをセレクト

きものでは、お洒落のひとつとして半衿 (はんえり) とよばれる衿をインナーの長襦袢 (ながじゅばん) につけて重ね着します。
半衿は、白い無地の他、刺繍が入っているものや柄があるものなど様々です。こちらのお店では半衿も好みのものを借りられます。今日はドット柄を合わせました。

着付けが終わると、次は帯合わせ

ささっと着付けていただき、次は帯を選びます。同じきものでも帯を変えるだけで雰囲気ががらりと変わります。どんな風に着たいか気分に合わせて選びます。

実際に当ててみて、イメージに合うものを探していきます

今日は、可愛らしさのある花柄に締め色となる濃いめの紫の帯を合わせて、柔らかさの中に少し落ち着きのある雰囲気に。初夏の爽やかな気候にもぴったりの装いとなりました。

あっという間に着付けていただけました
きものと帯に合わせて帯揚げと帯締めもセレクト

きものと帯にあわせて帯揚げ (おびあげ) と帯締め (おびじめ) も選びます。この部分の色合いを変えるだけでも雰囲気が変わるので、1着のきものでもスタイリングは無限大です。

装履 (ぞうり) も色々なデザインのものが並んでいました

こちらのレンタルサービスでは、足袋とバッグ以外は全て借りることができます。足元も装いに合わせて好きなデザインのものを選んで、全身のスタイリングの出来上がりです。
きもの選びから着付けまで30〜40分ほど。楽しんでいる内に、あっという間に完成しました。お会計と荷物を預ける時間を含めて1時間くらいを見ておくと安心です。

さあ、町歩きへ!

「きものは、マキシ丈のスカートを履いているようなもの。階段では裾を少し引き上げたり、歩幅に気をつけて歩くと美しく過ごせますよ」と、プレスの青木さんがアドバイスしてくださいました。なるほど、スカートだと思うと身のこなし方がわかりますね。
さて、ここからは私たちの「きもので浅草町歩き!」にお付き合いくださいませ。

お蕎麦屋さんを見つけて

まずはどこかでランチでも、とお店を眺めながら歩きます。浅草の町は、昔ながらの洋食店や、天麩羅、牛丼やすき焼きなど名物グルメの銘店がたくさん。今日はお蕎麦屋さんに入ることにしました。

浅草で有名なお蕎麦屋さん「並木藪蕎麦」にて

きものは袖が長いので、たもとを押さえて手を動かしたり、自然と仕草がていねいになります。食事の際にも少しゆったりと優雅に。それだけで普段と違う時間が訪れるように感じます。お蕎麦のつゆなどのはねが心配な場合は、大判のハンカチや手ぬぐいを用意しておいて、膝の上に敷いたり、帯や衿に掛けて汚れを防ぐなど、ナフキンのように使うと安心です。

非日常感を味わう

人力車で吾妻橋から川沿いを走りました

せっかくのきもの姿での浅草散策。思いっきり満喫するのであれば、人力車もおすすめです。爽やかな風を切って車道を駆け抜ける人力車。走っている間も座席は安定していて乗り心地はとても快適。慣れないきものでも安心ですね。
この日乗せてくださったのは、浅草の老舗人力車「時代屋」の鈴木芳昭 (すずき よしあき) さん。この道11年のベテランの方でした。お話も面白くて、オススメの撮影スポットやお店なども紹介していただきました。人力車を操る車夫の方々は、みなさん気さくで観光知識も豊富。最近では海外からの観光客の方も多く、外国語が堪能な方もいらっしゃるのだとか。乗る体験だけでなく、頼れる観光相談役でもありました。

優しいエスコートで乗り降りも安心です

人力車の乗り降りは段差もありますが、踏み台を用意してくださっていて、ていねいにエスコートしていただけました。どこかの姫君になったような….なんだかドキドキしますね。

雷門までやってきました

浅草を訪れたからには外せないのが雷門。ここからは仲見世通りを通る王道ルートで浅草寺へ。

大勢の人で賑わう仲見世通り
焼きたての美味しそうなお煎餅の香りがただよいます
仲見世通りには工芸品を扱うお店もたくさん

仲見世通りには、お土産物屋さんや、うちわや扇子、履物などの工芸品のお店、人形焼やお煎餅、お団子屋さんなどが軒を連ねていて、歩いているだけでその賑わいを楽しめます。平日のお昼間の撮影でしたが、この日もたくさんの観光客で賑わっていました。

種類豊富な揚げまんじゅう
仲見世通りではおやつも楽しみのひとつ

こちらは名物の揚げまんじゅうのお店。現在、仲見世通りでは、食べながらの歩行は禁止されていますが、こちらのお店はお店の前での飲食はOKとのこと。私たちも1つ頂きました。ホクホクで美味しい。

浅草寺でお詣り

頭が良くなりますように
しばし祈りの時間

お詣りのあとは、花やしきの前を通って、六区ブロードウェイから浅草演芸ホールへと歩きました。
「きものは高価なもの、汚してしまったら大変!」という先入観があると、なかなかアクティブに扱えなくなってしまいますが、化繊の洗えるきものは、ネットに入れて自宅の洗濯機で気軽に洗う事ができます。歩き回って汗をかいてしまったり、食べ物や煙のにおいなどが付いてしまったり、裾が汚れてしまった時も、ワンピースのような感覚でお手入れすれば問題ありません。化繊の洗えるきものに限らず、きものでも素材次第で必ずしも難しいお手入れが必要なわけではありません。カジュアルなきものでのお出かけは、思いっきり愉しんでしまいましょう!

レトロモダンを愉しむ

美味しそうなものを見つけました

たくさん歩き回ってたどり着いたのは、レトロな雰囲気が素敵なお店「アンヂェラス」。創業70年以上の浅草の老舗喫茶店でした。

レトロモダンな店内にきものがよく映えました

お酒好きの創業オーナー考案の「梅ダッチコーヒー」や、洋酒をふんだんに使ったケーキ「サバリン」などが有名です。お酒を効かせた看板メニューは作家・池波正太郎や手塚治虫など、多くの著名人にも愛されてきたそうで、机にはサイン入りのイラストが飾られていたり、愛して通った方々の気配がありました。

ショーケースで目の合ったメロンソーダを注文しました。綺麗なグリーンに、爽やかで懐かしい甘み。純喫茶での幸せな時間です
スカイツリーを臨む、吾妻橋からの景色も気持ち良い眺めでした

町歩きの最後は、吾妻橋へ。川の風を感じながらスカイツリーを眺めて記念写真を撮りました。帰りはレンタルでお世話になった「なでしこ」へ戻ります。着替えて、レンタル品をお返しします。きものはその場でたたんで包んで頂き持ち帰ることができます。きものを始めるきっかけになりますね。

気に入れば、きものは持ち帰る事ができます

映る世界が変わって見える

昔ながらの街並みや、純喫茶などのレトロ空間にきもの姿で訪れると、時空を超えたどこかに迷い込んだような、物語の世界に入り込んでしまったような不思議な気分になって色々と想像が膨らみます。出かける場所によって気分が変わることはもちろんのこと、自分自身の装いによっても気持ちは大きく変わります。それは、普段と違う歩幅だったり、仕草に表れる変化がもたらすものかもしれないし、ガラスや鏡に映るきもの姿を見た時の特別感が連れてくるものかもしれません。自分の知らない自分に出会えると、行動や発想にもきっともっと自由で新しいことが生まれるはず。たまには少しおしゃれして出かけよう、そんな思いの選択肢にきものも加わると日々はもっと彩り豊かになるのかもしれません。
これから訪れるゆかたの季節。ゆかたはカジュアルきもの以上に気軽に、初めての方でもハードル低く始められる装いです。レンタルサービスを活用してみたり、着付けレッスンに出かけてみたり、ちょっとしたことで思いのほか簡単に始められるものです。「いつかはきものを着てみたい」そう思っている方は、ぜひこの夏からきものの世界に一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
きっと愉しい、新しい世界が広がっていますよ。

<取材協力>
株式会社やまと
東京都渋谷区千駄ヶ谷5丁目27番3号
株式会社 時代屋
東京都台東区雷門2丁目3番5号

文・写真 : 小俣荘子