「リビルディングセンター」店長とゆく全フロアガイド。古材・古家具の聖地で学ぶこれからの家具の選び方

リビセンを訪ねて、長野諏訪へ

これからの時代の家具選びを提案するお店が、長野にあります。

諏訪湖の南に位置するJR上諏訪駅から徒歩10分ほど。

土日ともなると、お店の駐車場には県外ナンバーの車も目立ちます。

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お店の名前は「REBUILDING CENTER JAPAN」、通称リビセン。

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「感覚では県外の方が6割以上。ご家族連れや、新婚のご夫婦で家具を買いに来られる方も多いですね」

お客さんの層は20代から40代がメイン。遠方からわざわざ買いに来るのは、「普通のお店では出会えないもの」がここにあるからです。

ReBuilding Center
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並ぶのは古材や古道具。これら全て、取り壊すお家や店舗からリビセンが「レスキュー (引き取り) 」してきたものです。

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ReBuilding Center
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1Fは古材とカフェ、2・3Fは古道具とフロアが分かれる
1Fは古材とカフェ、2・3Fは古道具とフロアが分かれる

お話を伺ったのは古道具フロアの店長、金野 (こんの) さん。2016年9月の立上げ当初からリビセンに携わる、初期メンバーのお一人です。

rebuildingcenter古道具フロア店長の金野さん
古道具フロア店長の金野さん

建物内はまさに宝の山。うまく回るにはコツが要りそうです。

金野さんに各フロアをご案内いただく中で見えてきた、これからの家具の選び方とは。

春からの新生活を、これからバージョンアップしていきたいという人に、おすすめです。

東野夫妻がかかげた合言葉は「ReBuild New Culture」

行き場を失ってしまったものを引き取って再販するREBUILDING CENTERは、もともとアメリカのポートランド発祥。

空間デザインユニット「medicala」の東野唯史(あずの・ただふみ)さん、華南子 (かなこ) さんご夫妻が、旅先でその取り組みに感銘を受け、現地法人に掛け合って立ち上げたのが、REBUILDING CENTER JAPANです。

「今あるもので、必要なものを自分で生み出せる。その楽しさ、たくましさを、日本にも広めたい」

そんなリビセンの目指すものがよくわかるのが、1Fのカフェ。古材や古道具売り場に行く前に、ちょっと覗いてみましょう。

古材に興味がなくても遊びに来られる場所に。カフェ「live in sence」

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「カフェはリビセンをやるときに、代表の東野さんが絶対やりたいと話していた場所です。

私たちはただ古材を売りたいじゃなくて、古いものも手をかけて長く使うという文化を伝えていきたい。

古材だけだとDIYや建築好きの方が集まる場所になっていたかもしれませんが、カフェがあることで、いろんな層の方が来てくれています」

名物のカレー。これ目当てに訪れる人もいるそう
名物のカレー。これ目当てに訪れる人もいるそう
最近は食べ物のレスキューもしているそう。この日は傷がついて流通できなくなったリンゴが並んでいました
最近は食べ物のレスキューもしているそう。この日は傷がついて流通できなくなったリンゴが並んでいました

実際に、カップルから親子連れやおじいちゃん、おばあちゃんなど、取材中も幅広い年代の方がカフェでひと休みしていました。

そしてカフェの窓からは、屋外の古材売り場がよく見えます。この間取りが、お店をこの場所に決めた一番の理由だったそう。

カフェは屋外の古材売り場に面しており、窓越しにその様子を見ることができます
カフェは屋外の古材売り場に面しており、窓越しにその様子を見ることができます

もう一つカフェのいいところは、訪れた人が自然と古材の「活用例」に触れられること。テーブルも椅子も、そのほとんどがレスキューして来た古材を再利用して整えてあります。

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「例えば古材売り場で使い方の相談を受けたらカフェに連れて来て、その板が実際に使われている様子を見せてあげられる。想像しやすくていいですよね」

古材や古道具が売られているすぐ近くで、使い方の提案がある。建物全体がショールームのようです。

古道具フロアのレジカウンターは小屋のよう
古道具フロアのレジカウンターは小屋のよう
壁も古材を生かした手作り
壁も古材を生かした手作り
オリジナル製品やリビセンの理念に通じる雑貨や本を置くスペース。ここも古材を使って空間作りをしています
オリジナル製品やリビセンの理念に通じる雑貨や本を置くスペース。ここも古材を使って空間作りをしています
古材売り場からでる端材を薪として活用できる「ペチカストーブ」。こういったところにも無駄がない
古材売り場からでる端材を薪として活用できる「ペチカストーブ」。こういったところにも無駄がない

「古材をもっと世の中に広げていきたいので、人が真似したくなるような空間を常に心がけています」

古材を使ってできることを自分たちで考え、作り上げた家具や空間。誰もプロらしいプロはいないそう。

「つまり私たちが作ったものは、素人の方でも真似すれば作れるということ。声をかけてもらったら、作り方もお伝えします」

ではいよいよ、そんな空間づくりに役立つアイテムを探していきましょう!まずは古道具フロアへ。

何に出会えるかわからない、古道具フロア

2・3Fは古道具を扱うフロア。食器から照明、タンスやガラス板、ちょっと変わった雑貨まで、所狭しと並んでいます。

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rebuildingcenterレスキューされたガラス板
レスキューされたガラス板
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「仕入れはレスキュー次第なので、何が来るのかわからない。だから売り場は常に変化しています。

一番人気は食器ですね。

使い方がわかっていて、生活に一番使うもので、買いやすい」

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「一方でタンスのような、空間との相性を考える必要があるものは、表面をやすったりして、今の生活の中で使ってもらえるように提案しています」

リビルディングセンターの店頭には、ふたつの基準をクリアしたものだけが並んでいます。

・自分たちが次の世代に残したいと思えるものかどうか
・自分たちが使い方や活用方法を提案できるものかどうか

「プラスチック製のものや、家具だと合板や集成材を使ったものは引き取りできない可能性が高いです。

加えて最近では売れるかどうか、つまりちゃんと使ってもらえそうかを見ます」

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「ここにずっと残ってしまうと意味がないですからね」

リビセンの理念は「ReBuild New Culture」。

日本語では「次の世代に繋いでいきたいモノと文化をすくい上げ、再構築し、楽しくたくましく生きていけるこれからの景色をデザインする」こと、と定義しています。

売り場には、古材をただ買い取って販売して終わり、ではなく、買った瞬間からお客さんも「楽しくたくましく」なれるような、こんな仕掛けが用意されています。

楽しくたくましく、買い物もDIY

「例えば買ったものを自分の車に運ぶのも、基本はご自身でお願いしています。

手伝いはしますけど、全部こっちがやりますというスタンスではなく、楽しくたくましく、自分でできることは自分でやろうという考え方ですね」

梱包も自分で
梱包も自分で
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大きな家具の場合も、自分で梱包すると値引きを受けられるDIY割引があります
大きな家具の場合も、自分で梱包すると値引きを受けられるDIY割引があります

最後に、この空間を生み出す原点、古材の売り場を覗いてみましょう。

1F古材売り場へ。一番人気は床板

「よく売れるのが床板。畳の下なんかに使われている材ですね」

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「さっきも若い女性が、最近古民家に引っ越されたそうで床板をたくさん買って行かれました」

どんな使い方ができるんでしょうか。

「床板にしてもらったり、壁に貼ったり。うちではぶ厚いものをテーブルに使ったりもしています」

好きな板とテーブルの脚を組み合わせられるサービスも
好きな板とテーブルの脚を組み合わせられるサービスも

「きっと50年後の家と今ある家とで、レスキューできるものはだいぶ違うと思います。

昔は機械が無いので、大工さんが道具で材を切り出している。そういう道具の跡が残っています」

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「こういう材は現代の家からは出てきません。

今、ギリギリ救えているようなこういう材は、積極的に引き取っていきたいですね」

一方で、古材特有の使いづらさは極力解消して、次の使い手に橋渡しをする工夫も。

「幅や厚みを揃えて、フローリング材セットとして販売したり。DIY初心者の人でも使ってもらいやすいような提案は大事ですね」

近くのスタッフに声をかけると、採寸や金額の計算も手伝ってくれます。希望があればメジャーの貸し出しも
近くのスタッフに声をかけると、採寸や金額の計算も手伝ってくれます。希望があればメジャーの貸し出しも

「お客さんのところに渡って初めてレスキューですからね」

金野さんがそう語気を強めるのには理由がありました。

ものの記憶を残す

次に金野さんが見せてくれたのは先ほどカフェのテーブルに使われていた、ユニークなかたちの板。

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実は、養蚕に使われていたお蚕棚の板だそうです。

「このあたりは養蚕が盛んだったので、蔵の2階に行くと眠っていることが多いです。地域の特色があって、面白いですよね」

レスキューは1時間圏内であれば無料。依頼は自然と長野・山梨エリアが多くなるそうです。

遠方の場合は出張費がかかりますが、引き取れる材はリビセンが買い取るので、それで出張費をまかなえたり、場合によっては依頼主の方にプラスでお支払いできることも。

持ち込みもOK。当日も、大きな家具を運び込む人の姿が
持ち込みもOK。当日も、大きな家具を運び込む人の姿が

レスキューを依頼する理由も、人それぞれあるようです。

お店の廃業や古くなった家の取り壊しのほか、意外と多いのが、家の代替わりによる依頼。

「例えば大工さんだったおじいちゃんが残していた良質な材木を、お子さんやお孫さんの代に『宝の持ち腐れになってしまうから』と引き取り依頼が来るケースも、結構多いです」

レスキューの数だけある、ものの記憶。

そうした背景まるごと次の使い手に伝えられるように、リビセンではひとつの工夫をしています。

それがこの「レスキューナンバー」。

白い紙の一番上に数字が振ってあります
白い紙の一番上に数字が振ってあります

「これはリビセンがレスキューを始めてから281件目に引き取ったもの。

全てどんな場所のどなたから、どんな風に引き取ったかを記録していて、照会があればお伝えできるようにしています」

古道具フロアのアイテムにも、全て付いています
古道具フロアのアイテムにも、全て付いています
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「例えばこれは公民館から引き取った板とか、築150年のお家で使われていた椅子とか。

そういう背景がわかると、また愛着がわくと思うんですよね。

ほかの古道具屋さんとの違いがあるとすると、引き取りに伺った先一軒一軒の背景を全部きちんと話せるのが、リビセンのいいところかなと思っています」

次の使い手の人も、いつか自分の子どもや友人に「これって元々はね」と話す日が来るかもしれません。

レスキューナンバーには、そんな「ものの記憶」まで次世代に残そうとするリビセンの意志を感じます。

食べる、買う、作る、の先に。

取り組みが認知されるとともに依頼件数も増え、今ではほぼ毎日、多い時では1日に2件のレスキューに行くこともあるそう。

そんな忙しいリビセンの運営を助けてくれるのが「サポーターズ」の存在です。

「リビセンの活動内容に興味があるという人に、一緒に製材や売り場づくりなどのサポートをお願いしています」

古材売り場で製材されていたのもサポーターズの方でした
古材売り場で製材されていたのもサポーターズの方でした
古材を生かした奥の壁の施工からアイテムのディスプレイまで、あらゆる「リビセンづくり」に携わります
古材を生かした奥の壁の施工からアイテムのディスプレイまで、あらゆる「リビセンづくり」に携わります

無給の代わりにまかないや宿泊受け入れもあり、ちょうどお客さんとスタッフの中間的存在。

北は北海道から南は沖縄まで、登録者数は700人にのぼるそうです。

「立ち上げの時も、スタッフは5人だけでしたが、のべ500人の方に関わっていただきました。

スタッフだけじゃなく、いろんな方の力があってお店ができているなと感じます」

古材売り場には、当日のスタッフの名前と似顔絵が描かれた板がさりげなく置かれていました
古材売り場には、当日のスタッフの名前と似顔絵が描かれた板がさりげなく置かれていました

古材を眺めながら、カフェで名物のカレーランチ。ついでに2Fでちょっと古道具を買ってみる。次は古材で家具を作ってみる。さらに興味が出たらリビセンのお手伝いに参加する。

何度来ても違う楽しみ方のできるリビセンは、古材や古道具の「かたちを変えて長く付き合える」価値観を建物まるごと表しているようです。

家具探しやDIYデビューに、これ以上うってつけの場所はないかもしれません。

<取材協力>
REBUILDING CENTER JAPAN
長野県諏訪市小和田3-8
0266-78-8967
https://rebuildingcenter.jp

文・写真:尾島可奈子

*こちらは、2019年5月1日の記事を再編集して公開いたしました。

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美しい道具を残したい。播州そろばんの名工、宮本一廣が考える職人の未来

「そろばん、どない変えたらええんやろ」

国の伝統的工芸品にも指定されている、兵庫県小野市の特産品「播州そろばん」。その作り手として伝統工芸士にも認定されている宮本一廣さんは、淀みない手つきで作業を進めながら、そう話します。

計算の道具としての役目を終えつつある一方で、教育現場における効果が改めて見直されているそろばん。

学校、珠算塾においてまだまだ根強い需要がある中で、なぜ宮本さんは変化の必要を感じているのか。

お弟子さんと二人、そろばんの組み立てに精を出す工房でお話を伺いました。

宮本算盤工房
宮本算盤工房

「組み立て」の名工、宮本一廣

「兄貴がやってたから、ちょっと教えてもらおか、という感じで始めたわけ。

なんでもかまへんけど、働かなしゃーないからね。これがやりたい!とかそんなつもりで始めたんとは違う」

播州そろばんの職人 宮本一廣さん
宮本一廣さん。「とにかく働かないといけなかった」と笑います

そう言って笑う宮本さんですが、

「一人でも多くの人に喜んでもらえるものを作るのが作り手。せやけど完璧なもんなんか絶対できひんから、どこまでいっても勉強。どんな職人さんでも同じやと思うわ」

と、中学卒業と同時にこの世界に入ってから60年以上、作り手としての矜持を持ってそろばんづくりに取り組んできました。

「完成品にできるから、そこは嬉しいわね。作り手次第やから」

宮本一廣さん
宮本一廣さん

四分業制で作られる播州そろばん。宮本さんは最後に製品を完成させる「組み立て」の職人です。

「組み立て」といっても、届いたパーツをただ組んでいくわけではありません。

「こんな、木材と珠だけあずかって、そこからちゃんとした商品にするのが私らの仕事。木を削って、磨いて、枠に穴開けて、全部考えてやっていかなあかんから、工程はものすごく多いね」

播州そろばん
枠の木は一本の長い状態で入ってくる。下は、珠をくり抜いた後の部材。珠づくりは別の職人が担当する

設計図もなにもないところから、手元の部材をそろばんに仕上げていきます。

組み上げるための加工も、宮本さんの仕事。工程は作り手によって様々だという
組み上げるための加工も、宮本さんの仕事。工程は作り手によって様々
播州そろばん

すごすぎてわからない。師匠の背中を追いかける

2014年、そんな宮本さんの元にやってきたのが、髙山辰則さん。播州そろばんの後継者募集の情報をみて、地元の伝統産業を残していきたいと一念発起、IT業界から転身しました。

宮本算盤工房
手前が、髙山辰則さん

「すごすぎてよくわかりません」

宮本さんに弟子入りし、修行に励んで5年目を迎えている髙山さんは、師匠の技術についてこう表現します。

「枠の細工の仕方など、見比べてみると全然違います。まじまじと見れば見るほどすごい。

普段からそれを目にしているので、ほかのそろばんを見た時に『これでいいの?』と思ってしまうほどです」

宮本一廣さん
いとも簡単に組み立てているようにも見える
宮本さん
宮本さんの組み上げたそろばんは、美しい

確かに、手にとってよく見てみると、枠の継ぎ目の滑らかさや木目の美しさが、他のそろばんとは違っている気がします。

「そろばんの形を作るだけであれば、少し修行すればできるでしょう。しかし、それがいい形かと言われると、そうではないんです。

いい形の基準自体も、年々認識が変わってきます。満足いく仕上がりだと思っても、翌年見てみると、『なんてものを作っていたんだ』と思う。それの繰り返しで終わりがありません」

高山さん
播州そろばん
枠に、ひごを通す穴を開ける機械

どこまでも勉強。髙山さんも作り手としての姿勢をしっかり受け継いでいます。

今は「組み立て」職人として修行に励む髙山さんですが、ゆくゆくは、四分業のほかの職人の技術も身につける必要を感じています。

「(四分業のうち)どこかが無くなったら、その時点で組み立てもできなくなるので、早くほかの分野にも後継者が来てほしい。

ただ、珠を削る職人がまずいなくなる可能性が高いと思っていて、そこは、難しいのは承知の上で自分もやるつもりでいます」

宮本さんも「結局分業仕事やから、どれがひとつがダメになったらでけへんから。それが一番怖い」と話すように、分業制であるが故の危機的状況は続いています。

いいそろばんとは?そろばんはどう変わるべきなのか?

「いいやつも出しましょか」

工房にお邪魔して1時間ほどが経過した頃、宮本さんはそう言って、樺、黒檀、柘植(つげ)と素材のことなる3種類のそろばんを持ってきてくれました。

播州そろばん
3つの美しいそろばんたち

「どないですか」

「綺麗でしょ?」

宮本さん渾身の作品。本当に美しい。

希少な材料を使っており、すべて10万円以上する高級そろばん。ごく稀に、こうしたそろばんが欲しいと注文があるもののその数は少なく、今後もあまり作る予定はないんだとか。

宮本算盤工房
全然違うでしょ?と話す宮本さん

10万円を超えるものは極端なケースですが、かつて、計算の道具として大人が仕事に使っていた頃は高級なそろばんがよく売れたのだそうです。

職人の数も今より多く、切磋琢磨して技術を競い合う環境もありました。

「ほかの職人の商品を見て、綺麗にしてあったら、どないしてしよんのかなと研究してね。

でも、もうそういう相手もおれへんし、そういうそろばんも必要とされてない。寂しいね」

宮本一廣さん
技を競う機会も減ってしまいました

確かに、美しさや素材へのこだわりが計算のために必要かと言われれば、そうではないでしょう。

しかし、こうして作っている所を見て、説明を聞くと、せっかくなら良いものが欲しくなってきます。

手仕事である以上、数をつくるには限界がある。

「高いのが売れたら、体も楽やけどね」

現状、使い手が子ども中心になっている中で、再度、高い金額を出しても大人が買ってくれるような商品を作らなければ続けていけないと、宮本さんは考えています。

播州そろばん
名前を入れる以上、生半可な仕事はできない

「伝統工芸に指定されとるし、小野市と言えばそろばんやし、本当やったら残したいんやけど。

若いもんがこないして入ってきてくれたとしてもね、現状はそれだけで生活していけるような仕事じゃないねんね。

そろばん、どない変えたらええんかな。珠の数をいじるわけにもいかんし」

これからの播州そろばんのために、試行錯誤する弟子

これからの播州そろばんを担い、また自分の生活も掛かっている当事者として、髙山さんも試行錯誤を続けています。

アイデアのひとつは、そろばんの珠を使ったアクセサリー。

高山さん
髙山さん考案のアクセサリー

「おもちゃに見えてはダメなので、工芸品としてしっかりと、ちゃんと使ってもらえるものとしてどんな風にデザインしていけばいいかと、考えながら作っています」

さらに、通常23桁で構成されているそろばんを、5桁に縮めたミニそろばんも作成しました。

珠算をやっている人が暗算をする時に、そろばんを思い浮かべて計算することがあります。それが、実は23桁だと多すぎて、5桁くらいのそろばんを思い浮かべるのが適しているそうで、暗算用のそろばんとして設計されています。

「若いもんは面白い考えするわ。意欲的になんでもやっていいと思います」と、宮本さんも弟子の発想、行動力に感心している様子。

弟子には自由に発想してもらいたい

一方で髙山さんは、「あくまで目的は、そろばんが売れること。アクセサリーが売れることはゴールではないのですが、まず手にとってもらえる第一歩として、色々と考えています」

と、そろばんの普及・継承は常に意識しているといいます。

職人だから、余計なこともしたい

自分の技を尽くせるような注文が少なくなり、

「いつ辞めるかわからへん。

ろうそくの火がね、いつ消えるのか、ちょろちょろっとなってるような感じや」

と話す宮本さん。

播州そろばん 宮本さん

いいそろばんを作りたいという思いは消えていません。

そろばん比較
上がプラスチック棒を通しているだけのもの。下は強度も考えつつ、デザイン的にも美しく仕上げている

「見てもらったらわかるように、裏返しても全然つくりが違う。

今は、こんなんいらんやん。実際計算すんのにはね。

こういう余計なことせんでええねん。でも、こういうこと、したいねん。

そんなもんなんよ。職人ゆうたらね」

宮本算盤工房

時代の変化に合わせて、必要な道具も変わります。

しかし、そろばんがどう変わればよいのか、はっきりとした答えは見つかっていません。ただ、これからもこの美しい手仕事を残したいと思いました。

この人たちがいなくなってしまうと、昔から受け継がれてきた日本の技術は、ひとつ消えてしまいます。

「人に言われてから辞めるのでは遅い」そう話す宮本さんですが、できればまだしばらくは髙山さんの隣で存分に技を振るってもらいたい。

「綺麗でしょう」と自慢できるそろばんをどうしたら残していけるのか。考えながら工房をあとにしました。

<取材協力>
宮本算盤工房
兵庫県小野市天神町1113

文:白石雄太
写真:直江泰治

※こちらは、2019年5月22日の記事を再編集して公開しました。

【わたしの好きなもの】平べったくない木ベラ



へらって、調理器具としては脇役。でもその脇役がいい仕事してくれる。そんなアイテムが「炒めへら」と「返しへら」です。
 
木べらって、平べったいイメージありませんか?
 
そもそも「箆( へら )」は扁平な板状の道具の意味なので、平たくあるべきなんです。( へらって平から来ているのかも)
 
なのに、 この木べらは平たくない。
 
見た目にも、持っても感じる、そのずっしりとした量感に違和感があります。
 
いわゆる一般的な木べらは、薄くスライスした木材を切り抜いて加工したもの。それに対し、今回紹介する「炒めへら」と「返しへら」は分厚い木の塊から立体的に削り出して作られています。



持ち手部分が立体的な三角形になっているので、 しっかりと握れて力が伝わりやすい。鍋いっぱいの炒飯や、ゴロゴロとした野菜をかき混ぜるときには特にその効果を感じます。


 
それぞれの先端部分も、この加工方法を活かして立体的に使いやすい形状に。



「炒めへら」は、さじ状の形にくり抜かれており、調理した食材をすくいやすい。
 
平たい木べらでありがちな、ボロボロとこぼれてしまって何度もすくい直す。みたいなことが改善されています。



「返しへら」は、しっかりと角度がついていて、ちょうどよく返しやすい。
 
もちろんステンレス製のヘラの方が薄くて、目玉焼きの下に滑り込ませるのは得意かもしれませんが、木製だから鍋肌を傷つける心配もなく、そのまま混ぜたり炒めたりもできちゃいます。

最近はシリコンなど、色々な素材の展開が増えていますが、キッチンのツールスタンドに立てておいて気持ちがいいのはやっぱり木製だったりします。 使い込んでいくと味が出てくるんですよね。
 
へららしくない肉厚のへらは一生モノになりえる。
 
値は少し張りますが、永く付き合うには悪くない買い物だったなと思っています。


編集担当 渡瀬

柚子香る出汁茶漬け

ピリッと柚胡椒がきいた出汁茶漬け。刺し身がさっぱりとした味わいに。

レシピ手順

材料(1人前)

お好みの刺し身 適量、大葉 1枚、みょうが 適量、出汁 適量、素麺のためのジュレソース 柚子胡椒 適量

手順

・ごはんを器に盛り、大葉、お好みの刺し身をのせて、素麺のためのジュレソースをかける。

・みょうがを散らし、出汁をかける。

ピリ辛さっぱりトマトパスタ

お好みの具材をソースと一緒に炒めるだけで簡単パスタ。

レシピ手順

材料(2~3人前)

お好みの魚介類 適量、パプリカ1/4、パスタ 人数分、産地のおかずソース 塩麹と唐辛子のトマトソース 適量、サラダ油 適宜

手順

・お好みの魚介類(冷凍シーフードでもOK)をサラダ油を引いたフライパンで火が通るまで炒める。

・みじん切りにしたパプリカを加えてさっと炒める。

・「塩麹と唐辛子のトマトソース」を加えてあえるようにさっと炒めたら、茹でたパスタにかける。

息子の自由研究と母の伝統技術が生んだ新しい紙。老舗和紙工房から「Food Paper」デビュー

ノートやメッセージカード、小物入れなど、いろどりも風合いもさまざまな紙でできたアイテムたち。これらの紙は、野菜や果物などの食べ物から作られているといいます。

Food Paper

その名も「Food Paper」。

紙のさまざまな可能性を模索していこうと、越前和紙の老舗工房・五十嵐製紙が立ち上げたばかりのブランドです。紙文具を中心とした紙製品を展開しています。

Food Paper
美しい葡萄色のノート (税抜500円)写真提供:Food Paper
Food Paper
みかんからできたサコッシュ (3600円) 。使い込むほどに風合いが増して経年変化が楽しめます。写真提供:Food Paper

ありそうでなかった、食べ物を紙の原料にするというアイデア。そこには、地球規模で私たちが考えなければならない、大きな問題に対する解決への糸口もありました。

減り続ける和紙の原料の代わりとして食べ物を

和紙の原料は、楮 (こうぞ) やみつまた、雁皮 (がんぴ) という植物。

「どれも年々、収穫量が減っています。うちでは楮を自家栽培して原料を確保しているほどです」

そう教えてくれたのは、五十嵐製紙の五十嵐匡美さん。

五十嵐製紙の伝統工芸士、五十嵐匡美さん
五十嵐製紙の伝統工芸士、五十嵐匡美さん

特に楮は最盛期の1.2%ほどしか採れないとのこと。

さらに、和紙を漉く際、原料の繊維を水中でムラなく分散させるために必要な「ねり」の原料となるトロロアオイも生産農家が激減しているといいます。

和紙そのものの生産が危ぶまれる中、こうした原料不足の問題をなんとかできないか。

五十嵐さんとともにFood Paperに携わる、デザイン事務所TSUGIの新山直広さんは考えました。

「既存の原料と同じような植物性繊維であれば、紙の原料になり得るのではないかと思ったんです。聞けば、小豆や帆立の貝殻などを漉き込んだ襖紙はもともと作っているとのこと。そんな話をしている中で、五十嵐さんの次男・優翔 (ゆうと) くんの自由研究が話題にあがりました」

子から親へ。和紙一家から生まれた新しい紙

小学4年生の時から5年間、優翔くんが取り組んできた「紙漉き実験」。バナナの皮やお父さんが食べたピーナッツの皮や枝豆など、身近な食べ物を使って紙を作ってみては、実験結果をファイルにまとめていたといいます。

Food Paper
Food Paper
Food Paper

できあがった紙そのものはもちろん、繊維の様子がわかる顕微鏡写真、強度や書きやすさのテストなども加えられており、年々レベルアップしていく研究内容。

「食べ物を見かけたら、何でも『ちょうだい』と言っては研究の材料にしていましたね。小さい頃から親が紙を漉いているのを見ているので、知らず知らずのうちに紙に興味があったのかもしれないです」と五十嵐さんは笑います。

この自由研究がヒントとなり、伝統的な手漉き和紙の技術と食べ物という新たな材料を掛け合わせることで「Food Paper」は生まれました。

Food Paper
「みかんを使った紙を漉いているときは幸せな時間」という五十嵐さん。みかんのいい香りが工房中に広がるのだそう。写真提供:Food Paper

紙を漉く親の背中を見て紙の研究にハマった息子。

その研究成果が伝統工芸士である親の手によって、新たな価値をまとった紙になる。

Food Paperは、家族で営む和紙の老舗工房だからこそ、実現できたのかもしれません。

紙づくりを通じたフードロス対策にも

Food Paperで使う食べ物は、廃棄される野菜や果物。ヘタなどの不要な部分は取り除きますが、ほぼ丸ごと使っているのだそう。調理時の野菜の端切れも材料として使えるのだとか。世界的に問題となっているフードロスを減らす取り組みのひとつとしても期待できます。

現時点では、ニンジンやタマネギ、パプリカなど12種類の食材を使用していますが、使える食べ物はまだまだたくさん。

「ミックスジュースみたいにいろんな食べ物を組み合わせても色味や風合いが変わって面白いですよね。無限大の可能性がFood Paperにはあると思っています」と五十嵐さん。

食べ物を材料にしているだけに、紙文具だけでなく、食と親和性の高いアイテムにも力を入れていきたいといいます。

たとえば、既にこんなアイテムも。

Food Paper
ストッカー(税抜1300円)。しょうがでできたストッカーはしょうが専用、みかんのストッカーはみかん専用といった具合に、収納する野菜や果物の種類別に用意したくなります。写真提供:Food Paper
Food Paper
写真提供:Food Paper

日々の暮らしの一部だからこそ、食に関するものは明るい未来につながるモノを選んでいきたい。

そんな思いを胸に、小さな和紙工房が見せてくれる紙の可能性にワクワクせずにはいられませんでした。

<取材協力>

五十嵐製紙

福井県越前市岩本町12-14

0778-43-0267

https://foodpaper.jp/

文:岩本恵美

写真:中里楓