建築家・増田友也の「鳴門市文化会館」に見る、ギャップの美しさ

こんにちは。ABOUTの佛願忠洋と申します。

ABOUTはインテリアデザインを基軸に、建築、会場構成、プロダクトデザインなど空間のデザインを手がけています。隔月で『アノニマスな建築探訪』と題して、

「風土的」
「無名の」
「自然発生的」
「土着的」
「田園的」

という5つのキーワードから構成されている建築を紹介する第5回目。

今回紹介するのは鳴門市文化会館。

所在地:徳島県鳴門市撫養町南浜字東浜24-7
竣工:1982年
設計:増田友也(京都大学増田研究室)

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観
徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

久々に訪れた鳴門文化会館。

撫養川(むやがわ)から望むコンクリート・モダニズム建築の悠然とした佇まい。垂直に長いブリーズソレイユ(ルーバー)が、建物のファサードを形成し、牛の角のように両端がせり上がったのキャノピー(庇)はコルビュジェのラトゥーレットやチャンディガールを彷彿とさせる。

大学三年の時に徳島出身の同級生と四国一周建築旅行の際にこの地に初めて訪れた。

四国には、香川県庁舎(丹下健三設計)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(谷口吉生設計)、牧野富太郎-高知県立牧野植物園(内藤廣設計)、海のギャラリー(林雅子設計)金比羅宮(鈴木了二設計)など名建築が本当にたくさんある。

それらを一気に見て回り、鳴門大橋を渡って大阪に戻る計画を立てた僕に、『おいおい、鳴門の増田友也抜けとるやないか』と横槍を入れる親友の徳島人。『いやいや徳島なんかに何もないやろ』と言い張る大阪人の僕。

『安藤忠雄しか知らん大阪人はこれやから困る。お前に本物のモニズム建築を見せたるわ』というのである。増田友也という建築家を知ったのはこの時である。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

鳴門市制の施行35周年を記念して鳴門市文化会館は建てられている。多目的ホールを中心とした文化施設で構造はRC造(鉄筋コンクリート構造)。

周りに高い建物がないせいか、空に届きそうなコンクリートの塊はホール舞台のフライタワーである。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

近年のコンクリートの打設は鉄筋を内部に組み、外側にパネル(ベニヤ板)を取り付けて、コンクリートを流し込んで壁を立ち上げていくのだが、鳴門文化会館のコンクリートはパネルに短い杉板を用い、リズミカルにパネル割りを施すことで、のぺっとした面ではなく素材感がより強調され、経年変化による劣化も相まってか巨大なオブジェのような印象を与える。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

また塊のように設計されているのはフライタワーだけで、その周りを囲うようにコンクリートとガラスの細かい割り付けで構成された機能が配置され、より塊感を演出する効果を狙ったような設計になっている。

建物の正面は東側。撫養川があることで何も邪魔されることなく建物全体を眺めることができ東西にアプローチの軸線が走る。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

訪れた日がたまたま施設が使われていないということもあり、特別に事務所の方にお願いして中に入れていただいた。およそ2.1mの庇の下を抜けると、大空間がドカンと迎えてくれる。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観
徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の内観

まずその空間の抑揚に驚かされるのだが、内部空間は外部の荒々しいコンクリートの表情とは違い少し女性的な空気がある。

それは、ステンドグラスから溢れる色とりどりな光であったり、トップライトから降り注ぐ柔らかい光、それに家具や壁には曲面が使われているからかもしれない。この感覚もコルビュジェのラツゥーレットで感じたあの感覚。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館

あれ、これって…。

日本の茶室には写し茶室というものがある。写しとは一般的に灯篭、手水鉢などすべての器物の原型と同様に作ることを表す。

元来、茶室の設計は木割りのような寸法体系が適用されないため、写し茶室は先人の茶精神を継承するものであって、偽作や完全な複製を目的とはしていない。

増田友也が写し茶室の精神があったかは定かではないが、約20年かけて鳴門市に19もの建築を残している。

島県鳴門市・鳴門市文化会館
島県鳴門市・鳴門市文化会館
島県鳴門市・鳴門市文化会館

今回紹介した鳴門市文化会館は増田の遺作であり北西に400mほど行くと鳴門では2作目の鳴門市庁舎・市民会館がある。こちらは家型のような巨大な窓ユニットが連続し、文化会館の質量感とはうって変わって非常に軽い印象である。

コルビュジェの白の時代から晩年の荒々しくそして有機的な作品のように増田友也も鳴門という地で、様々な思考を凝らしたどり着いたカタチが鳴門市文化会館なのではないかと思う。

「風土的」「無名の」「自然発生的」「土着的」「田園的」という5つのキーワードからは今回は少し遠いかもしれないが、35年以上経って鳴門の地で増田友也の建築はアノニマスな建築へと昇華している気がした。

島県鳴門市・鳴門市文化会館
島県鳴門市・鳴門市文化会館

増田 友也(ますだ ともや、1914年 – 1981年)は、元京都大学工学部教授。

京都大学における教育・研究活動において、空間現象に着目し、学位論文「建築的空間の原始的構造」をはじめ、現象学的存在論に依拠する「建築論」を創設するなど、生涯にわたって「建築なるもの」の所在を厳しく問い求めた建築家である。

佛願 忠洋  ぶつがん ただひろ

ABOUT 代表
ABOUTは前置詞で、関係や周囲、身の回りを表し、
副詞では、おおよそ、ほとんど、ほぼ、など余白を残した意味である。
私は関係性と余白のあり方を大切に、モノ創りを生業として、毎日ABOUTに生きています。

http://www.tuoba.jp

文・写真:佛願 忠洋

わたしの一皿 山菜も焼き物もタイミング

春は食いしん坊の季節だとか、苦味が旨いだとか言ったのは去年のこの時期のことでした(わたしの一皿 たまには失敗)。

実は今年はアジアへの買い付けで三月後半から四月末にかけてほぼ日本にいなかった。
つまり、桜が咲くタイミングから山菜が出回るタイミングまで、あっさりと春を逃したのです、ワタクシ。残念。

あ、申し遅れました。みんげい おくむらの奥村です。

そんなわけで、急いであわてて春を取り戻そうと必死なこのところ。

今日の素材は「こごみ」。

この時期、八百屋に行ってあのくるくるしたものが目に飛び込んでくると条件反射のように手にとってしまう。
今回はたまたま、たっぷりの天然物が手に入りまして、これはうれしい。

こごみ

枯葉などがたくさん付いたこごみをじゃぶじゃぶ洗う。

茎の太さも、くるくるの大きさもバラバラで、見ていて、触っていて楽しいのは天然物だからか。

採るタイミングの違いなのか、それとも種類なのか、栽培のものはくるくるがもう少し小さいし、全体的に細い気がする。

手先でくるくるを感じ、ほどほどきれいになったら、食べやすいように長いものは切って、茹でる。

茹で加減は好みにすればよいけれど、新鮮なものは生で食べることができるくらいの山菜なのであんまり茹ですぎてへなへなにならないように気をつける。

茹で上がったこごみ

茹であげて、粗熱をとったら、ごま和えにしていきます。

誰が考えたのかわからないが、ごま和えってのは美しい食べ物ですね。

ごまをすって、食材と和える時の楽しさ、美しさときたら。少しずつ食材にお化粧していく感じとでも言いましょうか。

こごみの胡麻和え

そうそう、こごみはとても使いやすい食材で、和え物も良いし、油との相性も良いので天ぷらに、炒め物に、といろいろに使える。

山菜にしてはアクを感じないものなので、野趣が強すぎるものはちょっと、と言う人も大丈夫かもしれない。

こごみの胡麻和え

こごみの美しく、深い緑を生かしたいと思い、今回はうつわを色から決めた。土っぽい色の飴釉のもの。

宮崎、三名窯(さんみょうがま)のものにした。色気というか、品というか、狙い通りです。実に良いじゃないですか。

ところで、焼き物王国九州にあって、宮崎はちょっと存在感が薄い。伝統の焼き物と呼ばれるものが少なく、知られていないからか。

ここ三名窯もちょっと変わった窯かもしれない。

窯主の松形恭知(まつかたきみとも)さんは、埼玉で教員生活をしながら時間を見つけて作陶をしていた。

話をうかがえば、焼き物への興味は学生時代から百貨店の美術画廊に通って焼き物をみていたほどだと言うので驚くしかない。

教員生活を早めに終え、ゆかりのあった宮崎に築窯。以来、宮崎で作陶を続ける。

伝統の窯ではないが、民藝先人たちの想いや意匠といったものが見て取れるものづくりをしている。

一般的に言って、工芸、特に職人の世界はスタートが早い方がよい。

そのキャリアを通して作れる数が多い方が良いからだ。早いうちにたくさん作って、身体にそれを染み込ませる。

それではスタートが遅くてはダメなのか、と言えばそんなことはない。
好きなものを見て、感じて、身体が動き出したタイミングがスタートでも良いのではないか。

松方さんのうつわはそれを強く感じさせてくれるものだ。

寒い冬を地中で耐え、滋味を蓄えた山菜と同じように、窯を始めるタイミングをじっくりとうかがい、いよいよ表に出て、のびのびとうつわづくりをする三名窯。

食材も、うつわも、つくづく出会いだな、と思うのです。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

日本一愛される金沢・箔一の「あぶらとり紙」には金箔屋の技術が詰まっている

美しくありたい。

クレオパトラや楊貴妃のエピソードが今に伝わるほど、いつの世も女性の関心を集めてやまない美容。様々な道具のつまった化粧台は子供の頃の憧れでもありました。

そんな女性の美を支えてきた道具たち。今回紹介する「あぶらとり紙」は、ポーチの中に欠かさず入れている人も多いと思います。

実はこの薄い薄い紙、金箔を作る工程から生まれていたって、ご存知でしたか?金箔国内シェア99%を誇る金沢で、良質なあぶらとり紙作りを続ける株式会社箔一さんにお話を伺いながら、そのものづくりに迫ります。

普段何気なく使っているあぶらとり紙が、また違って見えてくる、かもしれません。

10円玉の半分のサイズが畳1畳分に

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かつては沢からよく金が採れたという金沢。そこで発展したのが金箔作りです。

歴史は400年の昔にさかのぼり、加賀藩初代藩主・前田利家の時代から、金沢は金箔の一大産地でした。金は金属の中でも最大の延性を持ちます。

つまり、最もよく延びる、ということ。たった2gの金(10円玉の半分くらいだそうです)が、畳1畳分もの金箔になるというから驚きです。厚さにして1万分の1ミリメートルほど。

一方で、よく電気を通す金属でもあるので、薄い薄い金箔は、金だけでは作れないそうです。

静電気を防ぐため、あらゆる金箔は、金に銀や銅を合わせた合金。昔は納品先の多くが寺社仏閣だったため、この配合を変えることで微妙に金箔の色味を変えて納めていたそうです。

金箔作りは和紙作り

では金箔って、一体どのように延ばすのでしょう。ここで登場するのが、あぶらとり紙の元となった「箔打ち紙」です。

金箔の元となる合金、澄(ズミ)は、一度機械でペタンコにされた後、1枚1枚が和紙に挟まれます。その上から均一に叩かれることで、一度に複数枚の金箔をムラなく、破ることもなく、薄く薄く延ばすことができるのです。

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和紙が凸凹していると箔がうまく延びないため、この和紙こそが質の良い金箔作りの決め手となるもの。紙の仕込みは職人の一番の腕の見せ所だったそうです。

その工程のスタートはなんと雁皮(ガンピ)という植物を採取し、3年枯らすところから始まります。紙を頑丈にするため灰汁につけ、4日間かけて乾燥させるなど、大変な手間暇をかけて作られてきました。

舞妓さん愛用の「ふろや紙」が全国シェア1位のあぶらとり紙になるまで

さてこの箔打ち紙、「何度も打たれる」ことで思わぬ効用をもたらします。

打たれることで繊維の目が細かくなるため、瞬間的に皮脂を取れるものとして、化粧道具に使われるようになりました。

金箔屋で繰り返し使われて用をなさなくなった使い古しの紙は「ふるや紙」と呼ばれ、江戸時代には、顔に使うとお風呂上がりのようにさっぱりすると「ふろや紙」に名を転じて、京都の舞妓さんなどに高級化粧紙としてもてはやされます。

ただ、この頃のあぶらとり紙はまだ、金箔作りの副産物。1970年代に入って箔打ち以外の金箔作りの製法が編み出されると、ふるや紙も取れる数が少なくなり、希少品になってしまいます。

そこで40年前、「箔打ちの技法はそのままに、あぶらとりを目的にした紙を」と現代のあぶらとり紙作りに乗り出したのが、箔一の創業者、浅野邦子さんでした。

元々の箔打ち紙は丈夫にするために柿渋なども配合されており、あぶらの吸着はよくても、決して肌に優しいものではありませんでした。

そこで素材から肌ざわりがよく吸油性も良い天然麻に切り替え。金箔の箔打ち工程の技法を転用したあぶらとり紙の商品化に成功します。

さらに、表面にもひと工夫。透かして見ると1枚1枚格子状になっています。わざと凹凸を作り、皮膚への接地面を増やすことで、よりあぶらを吸着しやすくしているのだそう。

透かすとうっすら格子状の表面。
透かすとうっすら格子状の表面。

「繊維が柔らかく表面積が大きいので、パルプやフィルムタイプよりも少ない使用回数であぶらを取りやすいんですよ」とは、お話を伺った営業の内村さんの言葉です。

箔一さんのあぶらとり紙は、今では箔打ちの製法で作るあぶらとり紙の全国シェア1位を誇ります。

創業当時からの「美人」シリーズ(中央 *写真は40周年記念仕様)や美容成分(左)、金箔入り(右)など種類も様々。
創業当時からの「美人」シリーズ(中央 *写真は40周年記念仕様)や美容成分入り(左)、金箔入り(右)など種類も様々。

伝統的なものづくりから図らずも生まれた、キレイになるための七つ道具。

さっと1枚、使う前に、今日はちょっと光にかざしてみて、はるばる400年の歴史に思いを馳せてみるのも良いかもしれません。

<関連記事>
キレイになるための七つ道具 その一、爪やすり


文・写真:尾島可奈子

この記事は、2016年12月8日公開の記事を、再編集して掲載しました。あぶらとり紙が活躍するこの時期、普段使うものだからこそ、こだわってみてはいかがでしょうか。

250名の作り手が集う、第34回「クラフトフェアまつもと」が開催。「工芸の五月」は、いよいよクライマックスです。

こんにちは、編集室いとぐちの塚田結子です。長野松本市で編集・執筆の仕事をしています。

松本市で開催中の「工芸の五月」の魅力を3回にわたってお伝えする連載は、今回で最終回となりました。

「工芸の五月」も今週末に行われる「クラフトフェアまつもと」でいよいよクライマックスを迎えます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

工芸の五月とは

その前に「工芸の五月」とはのご説明を。工芸の五月は、毎年5月に行われるイベントで、松本市を中心に、美術館、博物館、ギャラリーなどで工芸にまつわるさまざまな企画を開催します。その期間は約1ヶ月です。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

今回は、フェアと併せてお楽しみいただきたい企画をご案内します。

250名の作り手が集結する、「第34回クラフトフェアまつもと」

今週末の5月26日(土)、27日(日)、「第34回クラフトフェアまつもと」が開催されます。場所は“あがたの森公園”。時間は、26日が11時から17時まで、27日が9時から17時までです。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

陶磁79名、木工・漆48名、染織・フェルト22名、ガラス20名、金属21名、皮革21名、その他21名、材料・道具・情報18名、食品41名、計250名が出展します。

公園には芝生の広場があり、木陰や水遊びのできる浅瀬があります。いたるところに出展者のテントが並び、来場者だけでなく、出展者も思い思いに過ごす姿が見受けられます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア
松本・工芸の五月・クラフトフェア

食品部門の出展ブースからは、いい匂いが漂ってきます。スイーツやパン、飲み物やジェラートのほか、ランチにぴったりのメニューもあって、昼ごはん時は大変なにぎわいに。

広い公園のどこに誰が出展するか、決まるのは当日の朝。総合受付前に早見表が掲示されます。総合受付は、公園の正面入り口からヒマラヤ杉の木立を抜け、右手に広がる芝生広場の手前に設置されます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

また、フェアを主催する松本クラフト推進協会の機関誌『掌(たなごころ)』に出展者名簿が併載されています。事前にこちらのサイトでご購入いただくか、当日、総合受付でも販売しています。和紙をテーマにした特集ほか、読み応えある記事も合わせてお楽しみください。

会場となる“あがたの森公園”は、JR松本駅から距離にして1.5㎞。歩けば20分、バスなら10分ほど。路線バスのほか、フェア期間中のみ臨時シャトルバスも運行します。くわしくはこちらをごらんください。

“あがたの森文化会館”では企画展、「てのひらに」が開催

フェアの開催に併せ、公園入り口に立つ“あがたの森文化会館”では企画展「てのひらに」を行います。

松本・工芸の五月・クラフトフェア・企画展「てのひらに」

“あがたの文化会館”は重要文化財にも指定されている洋風木造建築。この講堂棟2階教室に、フェアにも出展している23名の作家による「てのひらに」をテーマにした作品が並びます。建物のレトロな雰囲気ともどもお楽しみください。

フェア前日の5月25日(金)から27日(日)、10時から17時まで。池上邸の蔵では、松本市の「古道具 燕(つばくろ)」による「ZUBAKURO市」が行われます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア・企画「ZUBAKURO市」

「燕」店主の北谷さんによる、「ZUBAKURO市」

「燕」店主の北谷さんは、松本市内にある老舗醤油店の建物を借り受けて営業していた店舗を閉め、中心市街地から車で40分ほどの旧四賀村にある倉庫を開放し、「ZUBAKURO STOCK OPEN」として不定期営業を行っています。また、月1回開催中の「まつもと古市」の主催者でもあります。

そんな彼が今年の「工芸の五月」関連企画として期間限定で行うのが「ZUBAKURO市」です。「今の生活の中で、きちんと使える古道具を提案、販売したい」と語る北谷さん。

池上邸は江戸時代から続く名家。その庭に立つ米蔵を、古道具だけでなく古い建物を愛する北谷さんが、どう活用するのか。空間を含めてとても楽しみな企画です。

六九クラフトストリートも同時期に開催

そのほか、「工芸の五月」関連の企画もフェア開催に合わせていよいよ充実。ミナ ペルホネン、工芸青花、盛岡書店、さる山、gallery yamahon、Roundabout/OUTBOUNDなどの、店主やギャラリスト、作家さんたちが参加する「六九(ろっく)クラフトストリート」も同時期開催です。中心市街のお店やギャラリー、それぞれがより企画や展示に力を入れています。

今週末は道も駐車場も大変混雑しますので、ぜひ公共の乗り物を利用しつつ、歩いて街を散策してみてください。きっと、新たな工芸との出会いがあるはずです。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

【第34回 クラフトフェアまつもと】
期間:2018年5月26日(土)11〜17時、27日(日)9〜17時
会場:あがたの森公園 長野県松本市県3-2102-4
オフィシャルサイト:http://matsumoto-crafts.com/craftsfair/

【てのひらに】
期間:2018年5月26日(土)、27日(日)11〜17時
会場:あがたの森文化会館 講堂棟2階教室 長野県松本市県3-1-1
オフィシャルサイト:http://matsumoto-crafts-month.com/guide/exhibition/3953.html

【ZUBAKURO市】
期間:2018年5月25日(金)〜27日(日)10〜17時
会場:池上邸の蔵 長野県松本市中央3-13-11
オフシャルサイト:http://matsumoto-crafts-month.com/guide/event/4123.html

 

編集室いとぐち 塚田結子
「編集室いとぐち」所属。
長野市・善光寺門前にて長野県の暮らしや工芸まわりの編集・執筆を行う。
「工芸の五月」公式ガイドブック作り、クラフトフェマまつもとの機関誌・『掌(たなごころ)』の企画制作を担当。

文 : 塚田結子
写真:松本クラフト推進協会

火鉢の老舗から、金沢のカフェ愛用の小さなトレーができるまで

かゆい所に手が届く。

そんな、心を鷲掴みにされる工芸品を金沢で見つけました。

金沢を旅したことがある人は、カフェやレストランなどで、この小さなトレーを見かけたことはありませんか?

ちょこっとトレー

その名も「ちょこっとトレー」。コースターとトレーが一体となった、まさに“ちょこっと”何かを載せるのにとっても便利なトレーです。

この「ちょこっとトレー」を手掛けているのは、金沢市瓢箪町にある1913年 (大正2年) 創業の老舗、岩本清商店。創業以来、「金沢桐工芸」を作り続けています。

岩本清商店外観
老舗の風情を感じさせる店構えです
岩本清商店内観

雪国ならではの工芸品として始まった桐工芸

金沢桐工芸の始まりは定かではなく、室町時代とも江戸時代ともいわれています。その原点は、暖房器具として必需品だった火鉢でした。雪深く寒い地方では木目の細かい良質な桐が育ち、軽くて耐湿性・耐火性が高い桐は火鉢の原材料として最適なんだそう。

岩本清商店

桐の原木をろくろ挽きして乾燥させ、表面を焼き、ぷっくりと盛り上がった錆上げ蒔絵を施すのが一般的な金沢桐工芸の特徴です。

金沢桐工芸

岩本清商店でも火鉢を生産していたそうですが、1960年代になると生活様式の変化とともに、電気ストーブや石油ストーブなど他の暖房器具に取って代わられ、火鉢の需要が減少していきました。そこで、岩本清商店では花器や茶道具などの小物の生産に切り替えていったのだそう。とはいえ、火鉢が生活必需品であった時代と比べると、桐工芸の職人の数は激減していったといいます。

引き算の発想で「自分たちが使いたいもの」に

まさに希少伝統工芸となった金沢桐工芸。岩本清商店でも職人は四代目の岩本清史郎さんだけとなっていました。

そんな中、「もう少し何とかできるのではないか。何かちょっとやってみよう」との思いで、清史郎さんの長女・岩本歩弓 (あゆみ) さんと夫の内田健介さん、弟の岩本匡史 (ただし) さんが金沢に戻ってきたのは、今から10年ほど前のことでした。

「そもそも実家が作っているもの自体、よく知らなかったんです。お盆や花入れなどの小物もありましたけど、どれも渋くて、当時20代の自分たちが使いたいと思うものがあまりありませんでした。そこで、東京で暮らしているような同世代がふだんから使いやすいものを考えてみようと思ったんです」と歩弓さん。

こうして誕生したのが「ちょこっとトレー」でした。既に商品としてあった四角いトレーとコースターを組み合わせたものだったので、試作品としても取り組みやすかったのだとか。

岩本清商店のコースター&トレー

金沢桐工芸の特徴でもある豪華な蒔絵や艶感があると、かえって使いづらくなると考え、それらを控えめにおさえて、シンプルに。蒔絵は入れてもワンポイント程度、艶感もあまり艶々しすぎないように仕上げました。結果として、一番シンプルなもので1枚1500円と、価格も手が届きやすいものになりました。

岩本清商店のちょこっとトレー

桐の香りが広がる工房へ

現在は、四代目の清史郎さんを支えるように、健介さんと匡史さんの3人で桐工芸品を作っています。

工房を訪ねると、桐が焦げるちょっと香ばしい匂いがしてきました。

岩本清商店
匡史さんがろくろ挽きの作業中。真剣な眼差しです
岩本清商店の工房
作るものに合わせてこんなにも様々な鑿 (のみ) を使い分けます。道具は全て自作

中には大きな滑車があり、かつてはこれに全ての機械がつながれて動いていたそう。

岩本清商店の工房
この大きな滑車の動力をもとに工房内の機械が動き出すなんて、まるでピタゴラスイッチのような世界です
岩本清商店の工房
焼き目をつけた後の煤 (すす) を落とす機械
岩本清商店の工房
こちらの機械では「ちょこっとトレー」のコースター部分のくぼみを作ります

ちょうど、健介さんが「ちょこっとトレー」の焼き目をつけているところでした。

岩本清商店の工房
岩本清商店のちょこっとトレー
こちらは、角を丸くした「ちょこっとトレー」。さまざまなバリエーションも増えています

「ちょこっとトレー」を作る上でのこだわりを聞いてみると、やはり大事にしているのは金沢桐工芸の特長でもある焼肌だそう。焼くことで木目もより一層美しく際立ちます。「焼きムラができないように注意していますね。それと、艶ありと艶なしでは木材を使い分けていて、艶ありは木目の模様が面白いものを、艶なしは木目がまっすぐなものを選んでいます」と健介さん。

たしかに、見比べてみると、その違いは明らかです。艶の有無だけでなく、木目の表情も一つひとつ違うので、お客さんも一つひとつ手に取ってじっくりと選んでいくのだとか。

岩本清商店のちょこっとトレー
上が艶なし、下が艶ありです

意外にも、つけ置きや食洗器、ゴシゴシ洗いを避ければ、水洗い・洗剤もOKとのこと。蒔絵がないものであれば、傷がついても焼き直してきれいにできるので、長く使えそうです。

火鉢づくりから発展した金沢桐工芸から、現代の生活様式に合うものとして新たに生まれた「ちょこっとトレー」。形は変われど、使い込むほどに味わいが増し、手になじんでいくところは変わりません。「ちょこっとトレー」で“ちょこっと”ひと休みしながら、そのうつろいを愛でてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>

岩本清商店

石川県金沢市瓢箪町3-2

http://www.kirikougei.com/

文:岩本恵美

写真:石川県観光連盟提供、岩本恵美

【金沢のお土産・さしあげます】軽くてモダンな、岩本清商店の「ちょこっとトレー」

わたしたちが全国各地で出会った “ちょっといいもの” を読者の皆さんへプレゼントする「さんちのお土産」。

今回は石川県金沢市で桐工芸を手がける岩本清商店の「ちょこっとトレー」をお届けします。

伝統工芸品を“今様”に

金沢のカフェやレストランでよく見かける、このこげ茶色のトレー。実はこれ、石川県指定の伝統工芸品である金沢桐工芸なんです。

ちょこっとトレー
岩本清商店の近くにあるギャラリーカフェ「Collabon」でも、ちょこっとトレーが活躍

作っているのは、1913年 (大正2年) 創業の岩本清商店。金沢桐工芸の原点は、寒さの厳しい能登地方の暖房道具として欠かせなかった火鉢なんだそう。実用的な調度品として重宝され、美しい蒔絵で装飾されたものも多いのだとか。かつては火鉢を作る職人もたくさんいて、岩本清商店でも主に火鉢を作っていたといいます。

岩本清商店の火鉢

ところが、時代が変わり、他の暖房器具に取って代わられるようになると、職人の数も減り、火鉢からお盆や花入れなどの小物にシフトせざるをえませんでした。今でも金沢桐工芸を手掛けているのは、岩本清商店を含め、3軒しかないそうです。

そんな中、十数年前に金沢にUターンした岩本清商店の長女・岩本歩弓さんと旦那さんの内田健介さん、弟の岩本匡史さんの3人で何かやってみようと思い立って生まれたのが、ちょこっとトレーでした。

「自分たちが使いたいと思うものを作ろうと思ったんです。実は、ちょこっとトレーは、もともと商品としてあったコースターとトレーを合体させたものなんですよ」と歩弓さん。

岩本清商店のコースター&トレー

重厚感ある渋めの桐工芸を現代のライフスタイルに溶け込むよう、金沢桐工芸の特徴でもある錆上げ蒔絵による華美な装飾をそぎ落とし、極力シンプルに仕上げました。とはいえ、もう一つの金沢桐工芸の特徴である美しい焼肌は健在です。

ちょこっとトレー
ちょこっとトレー
ワンポイントで蒔絵がはいったものも

深みのある色味の焼肌からは、ついつい重さを想像してしまいますが、実際に手にしてみると、その軽いこと!

そして、その使い方は自由自在。コーヒーとクッキー、日本茶と和菓子などをのせてコースター&トレーとして使うのはもちろん、花器を置いて花台にしてみたり、人形を置いてみたりと、インテリアとしても使えます。

今回のお土産

今回のお土産は、ちょこっとトレーの艶ありと艶なしの2種類。木目が際立つ艶ありにはちょっと変わった木目のものを、載せるものを引き立てる艶なしにはまっすぐな木目の木材を選んでいます。どちらも一つとして同じものはない、木のぬくもりを感じることができる一品です。

ちょこっとトレー
上が艶なし、下が艶あり
ちょこっとトレー
裏面には、カネイワ印の焼印入り

一つひとつ表情が異なるちょこっとトレーで、ぜひ生活の中に金沢の桐工芸を取り入れてみてください。いつものおやつやティータイム、晩酌の時間をちょこっと特別なものにしてくれるはずです。

ここで買いました。

岩本清商店

石川県金沢市瓢箪町3-2

076-231-5421

http://www.kirikougei.com/

さんちのお土産をお届けします

この記事をSNSでシェアしていただいた方の中から抽選で2名さまにさんちのお土産 “ちょこっとトレー 艶あり”と “ちょこっとトレー 艶なし”をそれぞれプレゼント。どちらかご指定されたい場合は、シェア時に「艶なしの方が欲しい!」などリクエストをつぶやいてくださいね。応募期間は、2018年5月23日〜6月5日までの2週間です。

※当選者の発表は、編集部からシェアいただいたアカウントへのご連絡をもってかえさせていただきます。いただきました個人情報は、お土産の発送以外には使用いたしません。ご応募、当選に関するお問い合わせにはお答えできかねますので予めご了承ください。 たくさんのご応募をお待ちしております。

文・写真:岩本恵美