郡上おどりに魅せられた職人がつくる、徹夜で踊るための「下駄」

郡上おどりのために生まれた「踊り下駄」

夜の街に揺れる提灯の光と浴衣の影、 手拍子、そして下駄の音‥‥

岐阜県郡上(ぐじょう)市で行われる「郡上おどり」は、日本三大盆踊りの一つ。毎年25万人以上の来場者数を誇る一大夏祭りだ。(2020年は残念ながら中止が決定している)

400年以上にわたる歴史を持つ郡上おどり
400年以上にわたる歴史を持つ郡上おどり

その魅力の一つにもなっているのが、「踊り下駄」。
名前のとおり、「踊るため」に作られた下駄で、ひと晩じゅう踊っても耐えうる強さに加えて、蹴り鳴らされるときの音が他の下駄とひと味ちがう。

踊りに合わせて“カランッ!コロンッ!”と蹴り鳴らされるかん高い下駄の音色が祭りの高揚感をより一層高めてくれるのだ。

その強さと音の違いは、どうやってできるのだろう。郡上おどりの会場内に工房を構える、作り手さんを訪ねた。

全部で10種類ある踊りの中でも、特に「春駒」は下駄を打ち鳴らす動作が多い曲目だ。

踊り下駄の専門店・「郡上木履」

2016年にオープンした、踊り下駄の専門店・「郡上木履(ぐじょうもくり)」。

踊り下駄の専門店・「郡上木履(ぐじょうもくり)」
店は郡上八幡の街中に。徹夜おどりの日は、店の前も踊りの会場になる

職人の諸橋有斗(もろはし ゆうと)さんは郡上おどりに魅了され、若くして下駄職人になった。

郡上木履の諸橋有斗さん
郡上木履の諸橋有斗さん

「愛知県出身で、郡上おどりにはいちファンとして訪れていました。地元の人だけでなく、どんな人でも気軽に踊りに参加し、一緒になって楽しめるのが郡上おどりの魅力です」

店内に並ぶ色とりどりの鼻緒

店内には色とりどりの鼻緒(はなお)が並べられ、まるで雑貨店のよう。シンプルなものから色とりどりの柄まで100種類以上そろう中から、好きなものをセレクトするスタイル。

鼻緒と下駄のサイズを選んだら、その場で仕立ててもらえるのが嬉しい。

カラフルな鼻緒の下駄
カラフルな品々に思わず目を奪われる
ポップなデザインの下駄
浴衣はもちろん、洋服でも合わせやすいポップなデザインが特徴
下駄の試着風景
下駄のサイズは試着して確認。「かかとが少し出るくらいが踊りやすいサイズです」とのこと

踊りやすさと耐久性を追求した独自の製法

踊り下駄と通常の下駄との違いは、下駄の台から地面にかけて“歯”と呼ばれる部分の高さにある。

郡上踊りでは、下駄を豪快に蹴り鳴らすようにして踊る。そのため歯の部分を高くしておかないと、どんどん削れていってしまうのだ。

郡上木履では、すべての下駄の高さを5センチに設定。さらに、歯の部分をあとから接着するのではなく、台とともに1枚のブロック板から削り出す製法をとっている。

製造工程の簡略図。歯と台の部分が一体になっていることで、歯が折れてしまうのを防ぐ
製造工程の簡略図。歯と台の部分が一体になっていることで、歯が折れてしまうのを防ぐ

「手間も材料費もかかってしまいますが、こうすることで耐久性が生まれます。何度も履物屋に足を運んだり踊り好きの人々に話を聞いたりするうちに、音色の美しさだけでなく、耐久性も重要だと実感してこの製法にたどり着きました」

諸橋有斗さんが下駄を製作する風景

こだわりは素材にも。木材は寒い地域で時間をかけて育った地元のヒノキを使用。丈夫で強いだけでなく、密度が濃い分重さがある。その重みによって、蹴った時の音がより美しくなるのだ。

製材所から仕入れた2、3メートルのブロック板
製材所から仕入れた2、3メートルのブロック板を、1足の長さにカット
下駄の製作風景
片足ずつに切り、歯の部分を削り出す
下駄の製作風景
最後にのみで細かな調整を加える

1足ずつ手で加工していくため、一度にたくさんは作れない。1日作業しても、できあがるのは20足ほどだ。

「1足1足、木目の美しさを確認しながらつくっていきます。見た目はもちろんのこと、木の節があると欠けやすくなってしまうんです」

特にヒノキは節が多く、扱いが難しい。それでも、ヒノキを使い続ける姿勢に、職人のこだわりと郡上踊りへの愛を感じる。

下駄の製作風景

踊り下駄を通して街を元気に

諸橋さんが下駄づくりをはじめたのは、地元への想いからだ。

「郡上おどりに参加するうちに、踊り下駄は地元でつくられていないということを知りました。山々に囲まれ、木材に恵まれた土地なのにもったいない、と。

ならば自分で、地元の素材や工芸を取り入れた下駄のブランドを立ち上げたいと思いました」

そのため、郡上木履の下駄には地元の伝統工芸である「シルクスクリーン印刷」や、「郡上本染め」が使われている。

店内に並ぶ色とりどりの鼻緒

郡上の良さを全面的に活かして製品をつくることによって、下駄を通して街の魅力を発信しているのだ。

オープン3年目だが若い人を中心に郡上木履の下駄が浸透し、今では1シーズンに約3000足が売れるほどの人気に。

「郡上おどりの31夜のうち、半分以上に参加するぐらい踊り好きの人を“踊り助平(おどりすけべえ)”っていうんです。

中には連日踊り倒し、歯の部分がほとんど削れてなくなってしまう人も。1シーズンで履きつぶすほど愛用してもらえるのは、職人冥利につきますね」

踊りに参加する時だけでなく、ファッションとしても楽しみたくなるカラフルな踊り下駄。郡上を訪れた際には、ぜひ店に立ち寄ってみたい。

<取材協力>
郡上木履
http://gujomokuri.com

文:関谷知加
写真:ふるさとあやの

*こちらは、2019年6月26日の記事を再編集して公開しました

「鉄フライパン」で料理が楽しくなる。仕上がりに差が出る理由とお手入れ方法

こんにちは。細萱久美です。中川政七商店のバイヤーを経て、現在はフリーにてメーカーの商品開発や仕入れなどの仕事をしております。

その前は、食に関わる仕事を志して、お茶の商社に勤めていました。大学生の頃、それまで全く興味がなかった料理に目覚め、レシピの研究に夢中になっていました。

フードコーディネーターを目指すも、未経験ではなかなか門戸も開いておらず、現実的なところで食品メーカーに入ってみた訳です。その会社では中国茶のティーサロンを自営していたこともあり、一流料理人の監修を間近で勉強するなど良い経験をさせていただきました。

現在はと言うと、料理は普通に好きというレベルです。年齢を重ねると、凝った料理よりも良い素材を活かしたシンプルな料理が美味しいことに気付きます。そして味もさることながら、健康や美容も重視したレシピが多くなってきました。

そういった意味でも、なるべく自炊を心がけています。たまに外食もしますが、家で食べる日はお惣菜はほぼ買いません。本当に簡単な料理ばかりなので苦にはなりません。

初心者にも使いやすい料理初めの調理道具

毎日のことなので、調理道具にはこだわっています。使いやすさ、美しさ、使い込んでも味になる素材が選ぶポイントです。タッパーなども使うのでプラスチックを排除は出来ませんが、なるべく木や陶器、金属製品を選びます。

雪平鍋や蒸し器など昔からの道具も多いですが、圧力鍋やオーブンなど時短で美味しくしてくれる現代の道具も積極的に使います。

今回は、料理初心者にも使いやすくて、料理が楽しく感じられる「料理初めの調理道具」をご紹介したいと思います。

よその台所を見るのは楽しいですよね。そんな感覚で、ベテランの方にも参考になれば嬉しいです。

「焼く・炒める」に適した鉄のフライパン

今日紹介するのは「焼く・炒める」道具。私は鉄のフライパンをおすすめします。ステンレスやアルミのフライパンもありますが、鉄のフライパンが、焼く・炒めるに適した特徴として、

・熱伝導が良い
・熱源を選ばず高温料理が可能
・油馴染みが良い
・丈夫
・おまけに鉄分が補給できる

ことがあります。特に熱伝導の良さが、美味しさに直結しています。

逆に手に取りにくい点があるとしたら、重いことや手入れが大変そうというイメージでしょうか。

私が使っていておすすめのフライパンは、錦見鋳造の「魔法のフライパン」。商品名にやや大袈裟感がありますが、いたって現実的に真面目に作られたフライパンです。

三重県にある錦見鋳造は、社名にも付いているように鋳物のメーカー。魔法たる所以は、従来の1/3の厚みの鉄鋳物を独自開発したことによります。

これは確かに画期的で、厚みがない分軽いので、女性も難なく扱えます。そして通常の鉄フライパンよりも更に熱効率が良く、すぐ高温に。

焼く・炒めるには高温キープが美味しく作るポイントなので、仕上がりに差が出ますよ。炒飯やオムレツなどはその差が分かりやすいのでは。

料理を楽しく続けるには、やはり美味しく作れることが一番の張り合いになります。テクニックも必要ですが、働きものの道具には積極的に頼りましょう。

錦見鋳造「魔法のフライパン」で焼いたオムレツ
焼き加減は良いが、形がいまひとつでした

もう一つ気になるお手入れの点ですが、使い始めに多めの油を熱して馴染ませる「油返し」をするだけ。使用後は洗剤はなるべく使わずにお湯だけで洗います。むしろ楽ですし、すぐに油が表面に馴染みます。

フッ素加工のフライパンは油無しでも素材がくっつかないので、特にダイエット中や初心者には人気ですが、油の馴染んだ鉄のフライパンも案外くっつきにくいものです。

フッ素加工は長期間使うことでどうしても剥がれてくるので、ある意味消耗品。その点、鉄のフライパンは使えば使うほど良い艶になり、自分だけのフライパンに育つのも楽しみです。

錦見鋳造「魔法のフライパン」での調理風景

一人暮らしだと24cmか、野菜炒めなどには少し大きめの26cmも使いやすいです。油を馴染ませるので、「茹でる・煮る」には向きませんが、「焼く・炒める」には最高の働きをする『鉄のフライパン』を是非おひとつ。

<紹介した商品>
魔法のフライパン
https://www.nisikimi.co.jp/product/
※人気商品のため、納期はHPでご確認ください。

錦見鋳造株式会社
三重県桑名郡木曽岬町大字栄262番地
https://www.nisikimi.co.jp/

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美*こちらは、2019年5月16日の記事を再編集して公開しました

わたしの一皿 夏の南蛮。沖縄の南蛮。

夏は南蛮だ。バテ気味の夏には酢の効いた南蛮漬けがたまらない。

そりゃごもっともだ、と同意してくれる方も多いんじゃないかと思うけど今日はその南蛮の話ではない。さて、みんげい おくむらの奥村です。

みんげいおくむらの奥村さんが使う食材、アスパラガス

北海道に行った写真家の友人からその日の朝に採ったというアスパラガスをもらった。すぐに焼いて味見をしたのだけど、ふだん買うものよりも柔らかで、皮が弾けそうなぐらいの水分に、おったまげた。

聞けば採ったその日なら生でかじってもよいそうな。なんともぜいたくなことですね。

せっかく旅をしてきたアスパラガス。ここならではの料理にしてあげたい。

僕が住む千葉は、九十九里のハマグリがちょうどシーズン。大きなものはシンプルに網で焼いてもおいしいし、あさり大の小さなものはパスタなんかに使いやすい。小さくても旨味がギュッと詰まっているのが九十九里のハマグリ。

みんげいおくむらの奥村さんが使う食材、ハマグリを洗うシーン

ハマグリは軽く砂抜きしたら、貝どうしをこすり合わせて洗う。つるっつるで丸々としたハマグリはとてもかわいらしい。

素材がよいので、つい素材の話に熱が入った。南蛮の話に戻ろう。

今日はうつわが南蛮なのです。南蛮のうつわと言ってもベトナムや中国のものではない。沖縄の南蛮。

南蛮焼は、焼き締めとも言われる釉薬を掛けないうつわのこと。沖縄では酒甕や日常の壷、そして食器が古くから作られてきた。

土の個性や、窯で焼かれた火の風合いがグンと伝わってくるのが南蛮のうつわのおもしろさ。

沖縄本島で南蛮を作っている古村其飯(こむらきはん)さんのうつわを今日は使う。言うまでもないが、古村さんのうつわは沖縄の地元の土からできている。

みんげいおくむらの奥村さんが作る料理

さてと、洗ったハマグリを酒蒸しにする。ハマグリを加熱して、アスパラも入れて、貝が開いたら酒をどばっと。

アスパラは自分から旨味も出すし、ハマグリの海のエキスも吸い込むのでたまらない。

今日はさらに旨味を吸わせるため玄米ならぬ玄麦を入れた。もちろんパスタでもいいんですが。ハマグリから塩気がでるので味付けは最低限の塩だけにとどめること。

みんげいおくむらの奥村さんが作る料理、沖縄の南蛮に盛り付け

出来上がったら汁も残りなくたっぷりと、南蛮の鉢に盛り付ける。

沖縄で作られたうつわだけど、パッと見で沖縄っぽい、という感じがない。それがかえって料理を選ばないからうれしい。

さらに単純に言えば、このうつわは土そのものだから大地のように全ての色を受け止める。合わない料理を考える方が難しい。

このうつわは、土だけで出来ているのに色の変化もあって、素朴なのに品がある。

素朴なのに品があるって、理想的じゃないですか。人間もいっしょ。そんな風になりたいと思うけど、ほど遠い。つくづく残念なことです。

ハマグリをあらかた食べたら、うまみたっぷりの汁を飲もう。南蛮に口をつけて。まだ少しザラっとした土の感触が口にあたる。食事はつくづく、五感で楽しむものなんだな。

土そのものなので、南蛮のうつわは使い始めがザラザラ、ゴツゴツとした風合いがある。今日のものもまだ使い始めなのでそんな感じ。

うつわを洗う際、スポンジで洗うとスポンジが負けてボロボロになってしまう。ではどうするかというと、たわし。たわしでゴシゴシ。

これがおもしろくて、そんな風に手入れしていくと、表面がどんどんツルツルになっていきうつわの風合いが変わっていくのだ。見た目ももちろんだけど、さわった感じまで育つうつわ。そんなのもおもしろいじゃないですか。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

*こちらは、2018年6月25日の記事を再編集して公開しました

線香づくり日本一の淡路島で出会った、知られざる「香りの世界」

香りには気分を変えたり、記憶を呼び覚ます作用があるといわれます。

日本で身近な香りと言えば「線香」。江戸時代から庶民にも広まり愛されてきました。

夏の線香

香りにも様々な種類があり、仏前に供えるだけでなく、暮らしの中で気分転換やもてなしに取り入れる人も増えています。室内でゆったり過ごす時間に良さそうですね。

「線香の香りは3段階で楽しむんです」

そんなことを知ったのは、淡路島でのこと。

実は淡路島は、線香の生産シェアが全国1位。香司 (こうし) という香りのマイスターが日本で唯一存在する、いわば「香りの島」なのです。

淡路島の神社には「香」と刻まれた石碑が建立されています
淡路島の神社には「香」と刻まれた石碑が建立されています

線香メーカーが集まり、人口の4分の1が線香づくりにかかわるという淡路市の江井地区を歩くと、海風に乗って町じゅうにいい香りが漂います。

淡路市の江井地区の街並み
淡路市の江井地区。観光庁の「かおり風景100選」にも認定されているそうです

線香づくりの現場を淡路島に訪ねて、線香の使い方、楽しみ方を教わりました。

日本書紀にも登場する淡路島と香りの物語

淡路島西海岸のドライブコース、淡路サンセットラインを走ると、かわいらしい「枯木神社」があります。

境内からは海が見渡せます
境内からは海が見渡せます

「香木伝来伝承地」として、人の体の大きさほどある枯木をご神体に祀っているそう。実は香り文化と淡路島とのなれそめは、なんと『日本書紀』まで遡ります。そこには、こんなエピソードが。

「推古天皇3年(西暦595年)の夏4月、ひと囲いほどの香木(沈香)が淡路島に漂着した。島民は沈香を知らず、薪と共に竈(かまど)で焼いた。するとその煙は遠くまで類い希なる良い薫りを漂わせた。そこで、これは不思議だと思い朝廷に献上した」
出典:梅薫堂ホームページ

沈香 (じんこう) とは、現在の線香にも好んで使われる香木です。淡路島に流れついたその香木を燃やしたところ、あまりにもよい香りを放つので天皇に献上したとのこと。香りについての記述としては、日本で最も古いのだそうです。

海に囲まれた淡路島の風景
海に囲まれた淡路島ならではのエピソードです

プロに聞く、線香の楽しみ方

淡路サンセットラインを南に進んで、線香メーカーが集まる江井地区に到着。いよいよ線香づくりの本場にやってきました。

「香りを3段階で楽しめるのは、日本の線香ならではです」と教えてくれたのは、慶賀堂の宮脇繁昭さん。淡路島に14人いる香司のひとりで、兵庫県線香協同組合の理事長も務められています。

慶賀堂の宮脇繁昭さん
慶賀堂の宮脇繁昭さん。香司として線香の香りをプロデュースしています

「香りの文化も国や地域によって様々です。インドでは香木そのものを焚きますし、日本の線香も元々は中国から伝わってきたものですが、練った材料すべてをスティック状にして少しずつ燃やすのは、日本独自のスタイルです。

日本では、家のなかにいわばお寺のミニチュアとして仏壇をしつらえ、線香をたむけて手を合わせます。この独特の様式には、かすかな煙で長く一定の香りを保てる線香がぴったりだったのです」

そんな線香の香りづくりには、「3段階」を意識しながらの試行錯誤が欠かせないそうです。

「まずは火をつける前に。点火してからは、たちのぼる香りを。そして火が消えたあとの残り香です」

今度線香を使う時は、この3段階を意識してみると一層香りを味わえそうです。

なぜ淡路島は線香づくりのトップ産地になったのか?ヒントはものづくりの現場に

「仏さまを祀る文化には、花、灯りとともに香りが欠かせません。香りによって、気を捧げるのです」と語るのは、いまも手作業での線香づくりを続ける梅薫堂 (ばいくんどう) の吉井康人さん。

梅薫堂の吉井康人さん
梅薫堂の吉井康人さん。慶賀堂の宮脇繁昭さんと同じく香司のおひとりです

手づくりの線香は手間暇がかかるぶん、その肌に機械では表現できないあじわいが生まれます。それが先祖に捧げる気持ちに響くと、手づくりに値打ちを感じるユーザーも少なくありません。

手づくり工房の見学希望者も多く、外国人からの申し込みもよくあるそう。ものづくりの様子を間近で見せていただきました。

梅薫堂は、淡路島における線香製造の黎明期から続く老舗メーカーです
梅薫堂は1850年創業。淡路島の線香づくりの黎明期から続く老舗メーカーです

線香は、香司のつくるレシピを元に製造されます。まずはレシピどおりに材料を配合した練り玉をつくります。

練り玉づくりに使われる「土練器(どれんき)」
練り玉の製造風景

練り玉づくりに使われる「土練器 (どれんき)」は、淡路島の特産である瓦づくりに使われる器具を応用したもの。職人が手触りを確認しながら水などの配合を調整します。

練り上がった大きな塊は「押し出し器」に入る大きさにカットします
練り上がった大きな塊をカットしているところ

線香の成形に使われているのは、昔ながらの「押し出し器」です。

線香の成形に使われているのは、昔ながらの「押し出し器」です

なかには、この「すがね」がセットされています。この細い穴を通って線香の細さになっていくわけです。

「押し出し器」の中にセットされている「すがね」

「押し出し器」から出てくる線香は、まるで麺のよう。

「押し出し器」から出てくる線香は、まるで麺のようです
まだやわらかい線香を、職人が慣れた手つきで切っていきます

まだやわらかい線香を、職人が慣れた手つきで切っていきます。竹製のヘラ、モミ製の乾燥板など、伝統的な木製道具が使われています。

1本1本を、丁寧に揃えます

1本1本を、丁寧に揃えます。

手作業の製作風景
こうした手づくりは、いまや全国でもほとんど見られないそうです

淡路島ならではの気候が活かされているのが「乾燥」の工程。

乾燥されている線香

乾燥が不十分だと曲がったりカビがはえたりすることから、現代では機械乾燥も採り入れられていますが、手づくりでは「べかこ」と呼ばれる格子窓を工房の一面にずらりとしつらえ、自然の風で乾かします。

窓は全て、西向き。淡路島独特の西から吹く風を乾燥に活かすのです。

「べかこ」と呼ばれる格子窓
乾燥はクオリティの決め手。梅薫堂さんの乾燥場でも、西向きの壁一面に「べかこ」の格子窓がしつらえられていました

淡路島で線香づくりが始まったのは明治維新前夜の江戸後期。海運業で栄えたこの地の新しい産業として取り入れた線香づくりに、この西から吹く風はぴったりでした。

乾燥に向いた土地柄ゆえに高い品質の線香づくりを維持できたことが、淡路島を一大産地に押し上げたといわれています。

手作業の製作風景
自然乾燥に費やされるのは最低でも2週間。湿度によってはそれ以上になります
昔の線香づくりが、絵に残されています
線香づくりが盛んだった堺へ技法を学びに行ったのが産業の始まり。繁忙期にはこうして路地裏に線香を並べた風景が見られるそう

素材とブレンドの組み合わせで、バリエーションは無限に

線香に使われる素材はさまざま。たとえ同じ香木でも産地などによって香りは千差万別です。

さらにブレンドの仕方や製造プロセスを変えることで、無限のバリエーションが生まれます。中には、花粉症に効くというユニークな線香もあるそうです。

梅薫堂の線香
梅薫堂の線香は、クス科のタブなど木の樹皮を粉末にしたものに、ビャクダン(白檀)、ジンコウ(沈香)といった香木をブレンドしてつくられています
吉井さんをはじめ、香司の多くが天然素材による線香づくりに力を入れています
吉井さんをはじめ、香司の多くが天然素材による線香づくりに力を入れています
線香が並ぶ店内
淡路島のお土産店の一角。壁一面を埋め尽くすほど種類豊富に線香が並んでいました

香りのマイスターが考える「いい線香」とは

仏前に供える役割だった線香は、いまではお香との境界が薄れ、好みで香りを選び、仏壇でもリビングでも楽しむ時代になってきています。

「バスルームの灯りを消し、キャンドルとお香をつけてバスタイムを楽しむ女性もおられますし、京都に行った際、お手洗いで奥ゆかしい香りに気づいてふと見ると匂い袋がかけてあったこともありました」と宮脇さん。

掛け香 (匂い袋) をスーツに忍ばせて商談に出向き、香りに気づいた方との会話が弾む体験をしているビジネスマンも。宮脇さん自身、出張で出かける際などには自ら考案した香りを自分のために持ち歩くのだそうです。

「好きな香りは心地よく、気持ちをやわらげます。その人にとって心落ち着く香りを放つのが、いい線香ではないでしょうか」

線香

『線香に火をつけて手を合わせるのは、忘れることのできない人と、心の扉をあけてお話をするひととき。静寂に気づいたり、大切な何かを感じ取ったりできるんですよ』

これは線香を通じて親交の深いお寺の方から、宮脇さんが言われた言葉だそうです。線香づくりを続けるなかで、常に胸に刻んでいると言います。

灰になるまでのわずかな時間、人の心を落ち着かせ、時に追憶にいざなう線香の香り。

それを司る宮脇さんら「香司」の仕事とは、一体どんなものでしょうか?それは後編でご紹介しましょう。

※後編はこちら:“いい香り”をつくるプロ集団。淡路島にだけ存在する「香司」の仕事とは

<掲載商品>
夏の線香 (中川政七商店)

中川政七商店が淡路島の職人とつくった線香。「初夏にみずみずしく咲き誇る薔薇の香り」「さわやかで情熱的な海の香り」「清涼感をもたらす竹林の香り」「やさしく優雅に香り立つ百合の香り」「静かな水面に清らかに咲く睡蓮の香り」と、夏にふさわしい5種類の香りがセットされています
中川政七商店が淡路島の職人とつくった線香。「初夏にみずみずしく咲き誇る薔薇の香り」「さわやかで情熱的な海の香り」「清涼感をもたらす竹林の香り」「やさしく優雅に香り立つ百合の香り」「静かな水面に清らかに咲く睡蓮の香り」と、夏にふさわしい5種類の香りがセットされています

<取材協力>
兵庫県線香協同組合

http://awaji-kohshi.com/top.php

文:久保田説子
写真:兵庫県線香協同組合、山下桂子

*こちらは、2019年6月13日の記事を再編集して公開しました

曲げわっぱ好きがわざわざ買いに行く、熊本・そそぎ工房の「一勝地曲げわっぱ」が美しい

こんにちは。細萱久美です。

小物整理にはカゴや箱を多用していますが、国内外の曲げ物も多いことに気がつきました。日本では曲げわっぱ、アメリカだとシェーカーボックス、北欧ではヴァッカというそうです。

木の種類やデザインのディティールは違えど、いずれも木を曲げて、基本的には丸い形状に成型するという点で同じ発想の工芸品です。

シェーカーボックス
シェーカーボックス

シェーカーボックスは、19世紀を中心にアメリカで活動していたシェーカー教徒によって創られた木製品。

彼らは生活全般において「simplicity~全てにおいて簡素である事~」を理想とし、装飾性を削ぎ落とし機能性を追求した実用的なものを丁寧に創りだしていました。

シェーカーボックスは象徴的な道具の一つで、ミニマムでありながら美しい。柳宗悦が唱えた民藝の「用の美」に通じるものを感じます。

それは日本の曲げわっぱや北欧のヴァッカなど、世界中の曲げ物にも同様に思うことです。

シェーカーボックスを裁縫箱に活用
裁縫箱などに使用中。中が少々ごちゃっとしていても、蓋をしてしまえばすっきり見えて助かります
蓋なしタイプのヴァッカをお茶道具入れに活用
蓋なしタイプのヴァッカ。茶筒や茶卓などのお茶道具を入れています。移動や掃除もしやすく便利

日本の曲げわっぱの産地は秋田が有名ですが、秋田と北欧のフィンランドは気候や風土が似ているそうで、必然的に類似した生活道具が生まれることは面白いと思います。

公私にわたり工芸に携わる機会も多く、秋田をはじめ日本各地で作られている曲げわっぱにも度々出会います。

接点のあった中では、国の伝統工芸品にも指定されている秋田・大館曲げわっぱ、高知・馬路村の曲げわっぱ、鳥取・智頭町の曲げわっぱ、群馬・入山めんぱ、静岡・井川めんぱ、奈良・吉野の曲げわっぱ、福岡・博多曲げわっぱなど。

他にもまだ存在しますが、これだけ見ても日本中に曲げわっぱが。日本が世界有数の森林国で、木が身近な素材であり、木の文化が根付いていることを感じます。

入山めんぱ
入山めんぱ

ちなみに、「めんぱ」とは木製の曲げものの弁当箱のこと。日本の曲げものは主に弁当箱の用途が多いと思いますが、それは起源を辿っても分かります。

曲げわっぱの歴史は奈良時代まで遡るといわれ、木こりが杉の生木を曲げて桜皮で縫い止めた弁当箱を作ったのが始まりだとか。

現代の曲げわっぱを代表する、大館曲げわっぱの生産が盛んになったのは今から約400年前。領内の豊富な森林資源を利用できる曲げわっぱを下級武士の手内職として奨励したことによります。伝統技法は継承されつつも、一時は熱に強いアルミやスチール、安価なプラスチック製の弁当箱などに押されて曲げわっぱ産業は縮小しました。

今は再び注目が高まっていて、メーカーによっては数ヶ月待ちになる程の人気。本物志向の人が増えていることもありますが、SNSやブログ発信の影響が一番大きい気がします。それだけ美味しそうに見えて、実際に曲げわっぱのお弁当は美味しいのです。

大館曲げわっぱ
大館曲げわっぱ

完全な手仕事なのと、林業の衰退や職人の減少などで、規模縮小となっている産地も多いようで、全体的に入手困難にもなってきています。

実際にいくつかの曲げわっぱを持っていますが、最近出会ったのは、熊本の一勝地にある「そそぎ工房」の一勝地曲げわっぱ。以前からWEBで見て、機能面にも特徴があり気になっていました。

熊本を訪れた際に立ち寄れるタイミングがあり工房を見学に。行って初めて分かりましたが、工房は球磨村の一勝地という、森林に囲まれたとても自然豊かな場所にありました。熊本県内最大であり、日本三大急流の一つである球磨川のほど近くで、ドライブにも良さそうです。

一勝地では江戸時代から相良藩の保護の下、『相良の三器具』の一つとして、お櫃や桶、柄杓など、様々な曲げ物が製作されてきたそうな。大館と同様400年の伝統を持ち、熊本の伝統工芸品の一つである「一勝地曲げ」の技術を唯一受け継ぐ曲げ物職人が、そそぎ工房の淋正司さん。

工房には溢れんばかりの木の材料や、製作途中の曲げなどが。訪問した際もお忙しく作業をされていた淋さんですが、作業の手を止めて気さくにお話してくださいました。

この道に入られたきっかけは25歳の頃に曲げ物に魅せられ、師匠の元で修行を積み独立されたのだそう。それから曲げ物一筋37年。某有名な高級列車のオリジナル曲げ物の注文なども受けているそう。

熊本の一勝地にある「そそぎ工房」の一勝地曲げわっぱ
熊本・一勝地の「そそぎ工房」工房内

WEBでも見ていた曲げ物弁当箱も見せてもらいました。機能的な特徴は、二段式の弁当箱が、食べ終わると入れ子になってコンパクトになること。

また側面の曲げ部分にはヒノキを、底面と蓋にはスギを使い耐久性や調湿性に工夫を持たせていること。2種の木を組み合わせて作る曲げ物は珍しい気がします。

二段式の曲げわっぱ
仕舞うときは一段に収納できる
二段重。仕舞うときはコンパクトに

スギやヒノキは温かいご飯を入れても余分な水分を吸収し、適度な保湿をしてくれるため、冷めてもふっくら美味しくいただけます。殺菌効果があることもお弁当には安心材料。

オリジナルで作られている二段弁当箱を購入しつつ、別注にも対応していただけるとのことで、その場で自分好みなサイズと形状で注文をさせていただきました。

購入した弁当箱は男性でも少し大きめ。なので、ちょっとしたお重として、またお茶の時間にお菓子を入れて楽しもうかと思います。

製作は丸太を1年間乾燥することから始まり、断裁・研磨・曲げてしばらく置いてから底を付けて完成。曲げの継ぎ目には山桜の樹皮を使うので、天然素材と手仕事から生み出される逸品です。

とても時間のかかる作業なので、出来上がりを待つ時間も楽しみます。

工房内
淋さんに話を伺いながらオリジナル曲げわっぱを相談中
淋さんに話を伺いながらオリジナル曲げわっぱを相談中

奈良から行くことを思うとなかなか遠い場所ではありますが、100パーセントアナログな曲げわっぱは、それを生み出す職人に会うことで、お人柄すら感じる味わい深い道具だと思います。

<紹介したお店>
そそぎ工房
熊本県球磨郡球磨村大字一勝地610
0966-32-1192

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

ホームページ
Instagram

文・写真:細萱久美

洗剤の新定番。「THE 洗濯洗剤」は自然にも衣類にも人にも優しい

こんにちは、細萱久美です。

この連載では「炊事・洗濯・掃除」に使う、おすすめの工芸を紹介しています。今回ご紹介するのは、洗濯の必須アイテム、洗濯洗剤。

洗剤は消耗品ゆえ、手工芸品とは違いますが、機能性と美しさも兼ね備えた、優秀な洗剤と言えるので、あえて取りあげたいと思います。

その名も「THE洗濯洗剤」。

THE洗濯洗剤

自然保護活動家がつくった洗剤

「THE」の洗剤は中川政七商店でも扱っていますが、リピーター率の高い人気商品です。

「THE」のブランドコンセプトは、「世の中の定番を新たに生み出し、本当に「THE」と呼べるモノを、生み出していくこと」
基本的には1アイテムにつき1種のものが厳選され、開発されています。

この洗濯洗剤は、「THE」が定番になり得る洗剤として開発したものです。

あらゆる洗濯洗剤がある中で、私も発売当初から使い続けているほど気に入っており、恐らく他に浮気することはなさそうです。

日常のものなので使い勝手の良さは欠かせませんが、この THE洗濯洗剤は本当に少量で汚れがよく落ち、精油のナチュラルな香りが好みです。

あと、「THE」ならではの、ボトルデザインの清潔さと格好良さも大きな魅力。消耗品はすぐ手に取れる場所に置いておきたいので、表に出しておけるデザインは重要なポイントだと思います。

THE洗濯洗剤

少量で洗える秘密は、界面活性剤を微粒子化するというナノテクノロジーを導入することにより、少量でも優れた洗浄力を発揮すること。

製造元である「がんこ本舗」という、ちょっと変わった社名の木村社長、通称きむちんが生み出したテクノロジーです。

きむちんとは、実はTHE洗濯洗剤以前からのおつきあい。がんこ本舗の既存商品を店舗で扱わせていただいていました。

この通称からもちょっと想像できるように、かなり個性的でおもしろい社長さんです。特におもしろいのは、がんこ本舗が「洗剤を売らない努力をする洗剤屋」と言われること。

どういうことかと言うと、きむちんは自然保護活動家で、活動の継続と支援を目的に水環境改善につながる生活用品の開発に着手したのが事業の始まりで、1999年に世界で初めてすすぎ1回型の洗濯洗剤を生み出したそうです。

今ではすすぎ1回型は一般的かもしれませんが、実はこれって凄いことなのでは!?と思います。

そしてこの洗剤が最も誇れるのは、その環境負荷の低さ。洗剤は海に流された後、通常は生分解に1ヶ月ほど要すところ、THE洗濯洗剤はなんと7日間で生分解するという速さ。これが洗剤を売らないと言われる所以です。

砂浜

がんこ本舗を訪ねた際にも実験をしてもらったのですが、ここの洗剤は泡がきめ細やかで、泡の量は少なめ。細かい泡で汚れを落とし、少ない泡はキレが良い利点があります。

使われているラベンダー精油は、香りが良いのはもちろん、きめ細かい泡を作る効果もあるという秘密の一つを聞きました。

洗剤を売ってはいますが、実は心地よい生活のお助けや自然に優しい安心感を売っているきむちんにリスペクトしつつ、洗濯物を干したり畳む時の「いつものあの香り」がホッとさせてくれます。

<掲載商品>
THE 洗濯洗剤 The Laundry Detergent

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
ホームページ
Instagram

文:細萱久美

*こちらは、2018年3月3日の記事を再編集して公開いたしました