【あの人が買ったメイドインニッポン】#28 エッセイスト・松浦弥太郎さんが“一生手放したくないもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

今回からゲストは、エッセイスト/クリエイティブディレクターの松浦弥太郎さん。今回は、「一生手放したくないメイドインニッポン」についてのお話です。

それでは早速、聴いてみましょう。

[松浦弥太郎さんの愛着トーク]
・一生手放したくないのは、「小鹿田焼の表札」
・名陶工・坂本茂木さんによって釉薬で名字が書かれた陶板
・坂本茂木さんにとっても、表札作りは初めてのことだったけど…
・初めてのことを面白がって作ってくれた
・じつは、表札泥棒用に、予備の表札も…!
・心地好い暮らしを支えるのは、清潔、簡素、静かであること
・丁寧に生きるとは、すべてに感謝をすること
・感謝があることで表れる所作、生きかた

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松浦弥太郎さんが一生手放したくないメイドインニッポン

松浦弥太郎さんが“一生手放したくない”メイドインニッポンは、「小鹿田焼の表札」でした。


ゲストプロフィール

松浦弥太郎

2002年、セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年からの9年間『暮しの手帖』編集長を務める。その後、IT業界に転じ、㈱おいしい健康取締役就任。2006年より公益財団法人東京子ども図書館役員も務める。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。「Dean & Delucaマガジン」編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。映画「場所はいつも旅先だった」監督作品。著書に「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」など著書多数。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回は、染め職人の大籠千春さんにお話を伺っていきます。4/5(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら

日本の森を“食べて”未来へ繋ぐ。山に眠る草木に新しい価値を創出する日本草木研究所【奈良の草木研究】

工芸は風土と人が作るもの。中川政七商店では工芸を、そう定義しています。

風土とはつまり、産地の豊かな自然そのもの。例えば土や木、水、空気。工芸はその土地の風土を生かしてうまれてきました。

手仕事の技と豊かな資源を守ることが、工芸を未来に残し伝えることに繋がる。やわらかな質感や産地の景色を思わせる佇まい、心が旅するようなその土地ならではの色や香りが、100年先にもありますように。そんな願いを持って、私たちは日々、日本各地の作り手さんとものを作り、届けています。

このたび中川政七商店では新たなパートナーとして、全国の里山に眠る多様な可食植物を蒐集し、「食」を手がかりに日本の森や林業に新たな価値を創出する、日本草木研究所さんとともにとある商品を作ることになりました。

日本の森にまなざしを向ける日本草木研究所と、工芸にまなざしを向ける中川政七商店。日本草木研究所さんの取り組みは、工芸を未来へ繋ぐことでもあります。

両者が新商品の素材として注目したのは、中川政七商店創業の地である奈良の草木。この「奈良の草木研究」連載では、日本草木研究所さんと奈良の草木を探究し、商品開発を進める様子を、発売まで月に1回程度ご紹介できればと思います。

今回は、ご一緒するパートナー・日本草木研究所さんについてお届けします。



都会に広がる「食べられる庭」

JR五反田駅や都営高輪台駅から徒歩10分強。少し歩けば昼夜問わず、賑やかに人が行き交う場所にあたる。そんな都会に、日本草木研究所が拠点とする「食べられる庭」はあります。静謐な空気をまとう大きなお屋敷と、その横に広がる傾斜のついた山庭。250坪ほどあるその庭には、松や椿に、梅、木蓮、クロモジ、ホウノキ、桜、柚子など、様々な樹種の木々が生き生きと茂ります。

もともとは島津藩の領地だったこのエリアは、都会にあるとは思えない閑静な住宅地。昭和初期から建っているというお屋敷も、代々いろいろな人の手に渡りながら大切に守られてきました。現在はとある方の所有のもと、日本草木研究所が庭の管理を任され、探究活動の場としても活用しているといいます。

「あのクスノキは樹齢300年ほど。お屋敷に寄りかかっちゃってるんですけど、品川区から保存樹登録されているので切れないんです。あっちにあるのは、赤松と黒松。女松と男松の対比として、一緒に植えるのが昔から日本の庭の定番でした。去年の年末には赤松の内皮を材料にお餅を作って、お餅つきをしたんです」

案内をしてくれたのは、日本草木研究所代表の古谷知華さん。2年3か月ほど前に同組織を立ち上げ、以来、日本各地の山に分け入っては、枝葉や木の新芽、樹皮を摘み集め、様々な調理法でその可食性を探ってきました。

生み出すのは森の爽やかな香りがふわりと鼻に抜けるシロップやジン、ほんのりと感じる和の刺激で料理の風味を増す、草木を使った塩・胡椒など。森に新たな価値を見出すとともに、林業従事者にも新たな機会を創出するその活動が今、注目を集めています。

日本の森に眠る、スパイスやハーブの存在を知る

日本草木研究所の活動は、古谷さんがそれ以前から取り組んでいたクラフトコーラの元祖「ともコーラ」にはじまります。大学卒業後に広告代理店に勤めていた古谷さんでしたが、趣味として作り始めたクラフトコーラが友人経由で飲食店のオーナーたちに広まり、正式なプロダクト化に至ったそう。自身の名を冠した「ともコーラ」ブランドを立ち上げ、しばらくは会社員との二足の草鞋を続けていました。

「私の母が食への興味が深い人で食育家庭だったんです。それでお母さんなりのルールがあって、コーラは飲んだ経験がなかったんですよ。

でも大人になって食の文化史を読んでいた時に、コーラは昔、いろんなスパイスやハーブを混ぜて作られてて、薬のような存在だったって話があって。そのコーラなら私も飲めるかもと思って家で作りはじめたのが『ともコーラ』のきっかけなんです。

もともと実家はハーブとかスパイスをホールのままで使うことが日常的にあったので、人よりはちょっと、スパイスやハーブに詳しくて」

当時から古谷さんには、“ハーブとスパイスの師匠”がいたといい、その方から、実は日本の森にもシナモンや胡椒の実があると、話を受けていたといいます。その時は「そんなわけない」と思ったものの、ともコーラの活動を進めるなかで偶然にも、日本のスパイスたちに出会うこととなっていきました。

「ハーブやスパイスは海外でとれるイメージがあるじゃないですか。だから師匠から聞いたときは本当なのかなって思ってて。でもクラフトコーラを作っているうちに、各地域でご当地コーラを作ってほしいって依頼を頂くようになって、そこで出会ったんです。

ご当地コーラを作るために、そのエリアの植生とか果物のリサーチでいろんな場所に行くんですけど、本当にシナモンが高知県の森に生えてたりとか、千葉県の山の方に胡椒が生えてたりとかするんですよ。師匠がまことしやかに言ってた植物たちを、自分の手で持って香りをかぐことができて。

『こんな面白いものがあるんだ!』と思ったんですけど、でも、市場流通はしてないんです。そもそも日本の市場に流通しているスパイスやハーブって海外産のものばっかり。どうしてこれらが流通しなかったんだろうって、文化的な背景でも、味の面でも興味を持ち始めたのが日本草木研究所のきっかけです」

師匠は万葉集に出てくるような和のスパイスやハーブの存在も教えてくれたそう

確かに言われてみれば、森で草木の香りを楽しみ、ひと息ついて目や心を潤すことはあるものの、そこに生えているものを「食べてみたい」と思った経験は、私自身あまりありません。春の山菜や、紫蘇・山椒などの和ハーブのような、食べられると知っている一部の草木を食する経験に留まっていると気づきました。

「何で食べられてこなかったのかの答えは明示されてないんですけど、私が思ったのは、そもそもスパイスやハーブを使う料理を日本が作ってこなかったことが大きいんじゃないかなと。それ自体が西洋文化の到来でしたよね。

あとは私たちの民族が肉食じゃなかったのもあると思います。スパイスやハーブは肉のくさみを消すために使われてたので。胡椒が初めて使われたのって江戸時代なんですけど、それって牛肉を食べ始めた頃と一緒なんですよ。牛肉を食べる時に胡椒をまぶして食べたのが、日本人が初めて胡椒に出会った時だったんです。

肉食の文化が弱かったのと、出汁とか味噌のような繊細な“さしすせそ”の世界で生きてたから、使う料理がなかったんだと思うんです。その後、食文化が西洋化したり多様化するなかでハーブやスパイスも使うようになったんだけど、その食文化自体を持ってきたのが海外だから、材料も海外のものを使うようになったんじゃないかなって」

植物仙人や相棒山の山主と、可食植物を探る日々

「日本の森に眠る可食植物の可能性を探り、和製スパイスやハーブとして活用してみたい」。そんな想いから、日本の森の可食性を専門に扱う日本草木研究所を古谷さんは立ち上げます。

最初に同社で開発したのは、自分たちが各地の山々で蒐集したヒノキや赤松、黒松などの木々を蒸留して作る「フォレストシロップ」。「日本の森を飲む」というインパクトある商品は、始動早々から関心を集めました。

「日本の草木に関して、最初はほとんど知識のない状態からスタートした」と振り返る古谷さんですが、徐々に林業従事者や、自身が「植物仙人」と呼ぶその道のエキスパート、また植物学者などの賛同を得て、協力者も増えていきました。

「一番は、私たちに協力してくれる山主さんたちから教わるものが大きいですね。日本草木研究所ではご協力いただいている山々を“相棒山”って呼んでいるんですけど、その山主さんたちって私たちに協力してくれるくらいなので、普通の林業従事者とはちょっと違った感性の人たちで、変な人なんですよ(笑)。その人たちが毎日山に入るなかで『この時期にはこういう植物があって』とか、『実はこれもおいしいから草木研さん使いませんか?』みたいなことを、提案してくださるんです。

だから、私ひとりで学んだり開拓したんではなくて、いろんな人に教えてもらったり提案してもらったりしています」

笑顔で話す古谷さんのやわらかい表情からは、各地の協力者との良好な関係が伺えます。けれど、どんな場でも新しい挑戦に対する批判はつきもの。試みを進めるなかで否定や批判を受けたことはなかったのですか、と伺うと、意外な答えが返ってきました。

「林業従事者って5万人ほどしかいないんですけど、そのなかで草木研って超有名なんですよ(笑)。先日、東京ビッグサイトで日本中の林業従事者たちが集まる展示会があって、そこにトークイベントの登壇者として招いていただいたんです。その後各社さんのブースを回ったら『草木研の人たちですね!』みたいに、どこのブースに行っても言っていただいて。林業業界の有名人みたいな感じなんです(笑)。それにびっくりして。

たぶん林業って携わる人も少なくて、クリエイティビティがこれまではほとんどない業界だったので、『森を題材に、ある程度若い人たちが、何か林業っぽくないことをやってるぞ』って興味を持っていただいているのかもしれません。

だから林業従事者のなかだけでは有名で、ご協力もたくさんいただけるんです。例えば私がSNSで『奈良のヒノキを使いたいです』って投稿したら、15分くらいでフォロワーの山主さんからご連絡を頂いたり。

もちろん活動に懐疑的な方も業界内にはいらっしゃると思うんですけど、そういった方はそもそも私たちに関わられないので、実際にお会いしたことはなくて。声をかけてくださる方は『面白いことやってるから何か一緒にやりたい』って、好意的な方がほとんどなんです」

食べられる草木への興味から、森が持つ課題への責任感に

現在は日本の森に育つ可食植物の商品化に加え、月に一度「食べられる庭」で参加型イベントを実施したり、また山主が見つけたユニークな素材を飲食店向けに卸したりと、活動の幅を広げている日本草木研究所。

その取り組みを進めるなかで、新たな課題感と責任感も生まれていると古谷さんは続けます。

「活動をはじめた頃は森のことも全くわからないし、ただ『スパイスを集めたい』くらいだったんですけど、林業の方々と関わって見えてきた課題がたくさんあって、今はそれに自分たちがどう貢献できるのかについてすごく考えてます。

例えば産業レベルの課題だと林業従事者が少ないこと。あとは収入源の問題もあります。林業の収入源って木を切って売るのと、きのこを栽培する仕事の2種類なんです。今まではそれで回ってきたんですけど、木材の需要も減ってきているなかで、その2つ以外の稼ぎ方を見つけていかなくちゃいけない。

他にも、そもそも木を植える時の樹種にも問題があって。基本的には杉とヒノキを植えるんですけど、どっちも花粉症の原因になるから『これ以上増やしちゃダメだ』って、国が言ってるんです。でも木を切ったらその上に何か植えないと土砂崩れが起きちゃう。商売の話じゃなくて森林保全のために、木は植え続けなきゃいけないんですよ。

じゃあ何を植えるかってところが課題で。林業業界には『杉安牌(すぎあんぱい)』って言葉があるんです。木って育つのは60年後だから、世の中の需要がどうなってるかわからないですよね。60年後でもある程度お金になる木って考えたら、結局杉が安牌だよねって意味です。お金になる樹種じゃないものを植えたら、本当に赤字をたれながしているだけになりますし。

そんなふうに業界人口の問題だったり、仕事の種類が少なかったり、扱う樹種だったり、あとは林業が危険な仕事なので、年を重ねると続けにくいっていうのもありますね。そういった課題に、私たちの活動で何かアプローチが出来たらって思うんです」

その一つの取り組みが、草木を提供する山主たちへしっかりと対価を支払っていくこと。

通常ではほぼ取引価格がつかない木材(丸太)以外の枝葉や実などの部位も、日本草木研究所は、業界では破格の高価格で買い取ります。

同社の商品を多くの人に手に取ってもらうことが、林業が未来に残る手だてとなる。そこには健やかな循環があります。可食植物への興味からはじまった活動は、日本の森を未来へ繋ぐことに想いを馳せるようになりました。

「森の仕事って今は2種類だけど、それが幅広くなって面白そうなイメージを作れたら、もっと林業に興味を持ってくれる方が増えるかもしれないって思うんです。私たちはクリエイティブなアプローチが少し得意で、それが役に立つかもしれない。自分もそうですけど、おしゃれな場所で働きたいとか、クリエイティブな仕事に就きたい気持ちって、あったりするじゃないですか。

林業従事者のなかには『樹木医』って木の博士の資格を持っている方もいるんですが、その人たちも普段は肉体労働が中心で。だけど最近は日本草木研究所に、森の中でのツーリズムとか収穫しながら作って食べるみたいな体験設計の依頼を各所から頂いたりするから、例えばそのなかで森を案内するとか、観光業に携われたりすると、仕事の幅が出て楽しいんじゃないかなと考えたりしています。

そうやって仕事の幅や新しいイメージを作ることに貢献できて、それが豊かな日本の森を残していくことに繋がったらって、林業従事者と関わるなかで思うようになりました」

最後に古谷さん、日本の森ならではの面白さって、どこにあるのでしょう?

「日本って北海道と沖縄で気候も全然違うし、森の多様性って視点だと国が三つあるくらいの植生なんですよ。その土地ごとに全然違う森に出会える面白さがあるのに、森っていうと一概に『花粉が』みたいな言われ方をしたり、国土の7割も占めているのに、そこに経済的な価値はあまりないと思われたりしています。

でも、経済的な価値も捉え方だなと思ってて。例えば森に入ったらすごく癒されたり、ストレスが軽減されたりしますよね。研究によると森に一度入った効果って3か月続くともいわれてるんです。そういう森にいろんな場所で出会えて、お気に入りの森があるのって、楽しいですよね。

それぞれの個性がある日本の森に私たちは食べるところからアプローチして、森への解像度や見る目を変えて、最終的には森の経済価値がちゃんと上がることに繋がったらいいなって思いますね。

もっといろんな視点で価値付けがされて、森が自分たちの暮らしに大事な存在になったり、森へ出かける機会が増えたりしたらいいなって。その一端を超微力ながら支えられたら嬉しいです」

取材当日はまだ冬の顔をしていた食べられる庭の草木たち。これから夏に向けてぐんぐんと成長し、最盛期には庭からお屋敷が見えないほどに繁茂するそうです。

「食べられる」と謳いつつも、実は食べられない植物も生えているといいますが、そこはあえてそのままに。「食べられないからって、昔の人たちが意図して植えたものを自分たちの都合で全部駆逐しちゃうのは何か違うなって。昔を継承しながら新しいものを植えていくってことが出来たらいいなと思ってるんです」と話しながら、古谷さんは庭に植わった木々について魅力いっぱいに教えてくれました。

自分たちの思い通りだけにはしないこと。すくすくと育つ健やかな自然と、過去に暮らした人々の想いに敬意をはらうこと。そのうえで、新しい価値へ楽しく真面目に踏み出していくこと。庭に広がる木々への姿勢は、日本草木研究所の活動そのものでした。



<次回記事のお知らせ>

中川政七商店と日本草木研究所のコラボレーション商品は、2024年の夏頃発売予定。「奈良の草木研究」連載では、発売までの様子をお届けします。

次回のテーマは「草木っておいしいの?」。草木“素人”の中川政七商店スタッフが、日本草木研究所さんに教えていただきながら、草木を食べることについて話を繰り広げます。ぜひお楽しみに。

<短期連載「奈良の草木研究」>

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【あの人が買ったメイドインニッポン】#27 エッセイスト・松浦弥太郎さんの“思い出深いもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

今回からゲストは、エッセイスト/クリエイティブディレクターの松浦弥太郎さん。今回は、「思い出深いメイドインニッポン」についてのお話です。

それでは早速、聴いてみましょう。

[松浦弥太郎さんの愛着トーク]
・思い出深いのは、長年使っている「やまぶどう蔓のかご」
・師匠のような存在である、久野恵一さんから譲り受けたもの
・売るためではなく、使うために作られた籠
・道具にはそれぞれ命があり、籠バッグの命は縁に宿る
・毎日使うたびに感動と発見がある。本来道具とはそういうもの
・使えば使うほど、今日より来年の方が美しく育つ
・友達みたいなものだから、大切にできないものは買わない

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松浦弥太郎さんの思い出深いメイドインニッポン

松浦弥太郎さんが“思い出深い”メイドインニッポンは、「やまぶどう蔓のかご」でした。


ゲストプロフィール

松浦弥太郎

2002年、セレクトブック書店の先駆けとなる「COWBOOKS」を中目黒にオープン。2005年からの9年間『暮しの手帖』編集長を務める。その後、IT業界に転じ、㈱おいしい健康取締役就任。2006年より公益財団法人東京子ども図書館役員も務める。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。「Dean & Delucaマガジン」編集長。他、様々な企業のアドバイザーを務める。映画「場所はいつも旅先だった」監督作品。著書に「今日もていねいに」「しごとのきほん くらしのきほん100」など著書多数。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回も引き続き、松浦弥太郎さんにお話を伺っていきます。3/29(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

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【わたしの好きなもの】麻100%で春夏にさらりと巻ける「やわらかリネンストール」

三寒四温とはよく言ったもので、暖かくなったと油断して薄手の服で出かけると、「しまった‥‥」と後悔することもあり、毎年のことですが春を迎えるこの季節の服装には本当に悩みます。

日中だけ出かける日なら何を着るかまだ考えやすいものの、朝早く家を出て日が落ちてから帰路につく日などは、着るものに迷い途方に暮れることもしばしば。学ばない私は、毎年「今年こそ薄手のコートを買うんだ!」と決意するのですが、いざ季節が近づくと「ちょっとお値段もはるしな、あんまり着る機会もないかな」と思って買わず、ちょうどいい着るものがなくて後悔し‥‥を繰り返していました。

そんな私が今年買い、愛用しているのが「やわらかリネンストール」です。結局コートではないのですが、寒さが不安な日に心強いアイテムとして、買ったそばからとても活躍しています。

何といっても持ち歩きやすい

これまでもストールを持っていなかったわけではないのですが、主張の強い柄入りで特定の服装にしか合わせられなかったり、大判すぎて持ち歩きの際じゃまになるのが気になり、あまり使わなかったり。

その点こちらのストールは、広げると幅36cm・長さ180cmとしっかり肩を覆ってくれますが、薄手でまったく嵩張らないため、畳むと“ちょっと大きめのハンドタオル”ほどまでコンパクトになるんです。

荷物の多い私もこれならめげずにカバンに入れることができ、結果、毎日のお守りのように持ち歩く春を過ごしています。

小さめサイズのバッグにも難なく入ります
文庫本と並べると、コンパクトさが伝わるでしょうか

夏も使える麻素材

「リネンストール」の名のとおり素材は麻100%。麻本来の素材感を活かした、シンプルで上質な生地感です。吸湿性・速乾性にすぐれた麻は、夏に重宝される素材。目が粗いため通気性もよく、寒い日はもちろんですが、さらりとした肌触りで少し汗ばむような日も巻けそうです。

暑いと思って薄着で外出したら冷房にやられ、ぶるぶる体を震わせることも実は多い夏。かといって、厚手の上着や巻物を持ち歩くのは季節外れで、ちょうどいいものがなく困っていました。これなら、春だけでなく気温が上がってからも何かと使えそうだなと今から心強く思っています。

軽くてやわらかな肌あたり

私は少し敏感肌で、毛糸の衣類などを身につけると肌がチクチクと刺激され、赤くなってしまうことがよくあります。首元も同じで、ウール素材のマフラーなどを巻くと痒さが出てしまい、自分に合ったものを探すのに少し苦労していました。

あくまで個人的な感想ですが、このやわらかリネンストールはそのチクチクが全然ない!おまけにとっても軽いので、肩も凝りません。肌へのストレスが限りなく控えめで、巻いていることも意識しないほどの自然な巻き心地。そんな安心感もあって、クローゼットに控える選手のなかでも、つい手が伸びるのがこの子になっています。

春の装いを楽しめる、爽やかな色合い

昔から柄ものや個性的なデザインが好きで、小物類は特に、ポイントのあるものやクセが強めのものを買ってしまいがちでした。もちろん全部とってもお気に入りではあるのですが、結局はコーディネートに合わせづらく、かわいいなぁと思いながら箪笥の肥やしにしてしまう経験も一度や二度ではすみません。

そんな失敗を繰り返し、また中川政七商店で働くようになり、作り手さんの技術や思いに触れる機会も多くなったことから、最近は長く付き合えるものを迎えて、お手入れしながら大切にたくさん使いたいと思うようになりました。

でも、やっぱりちょっとはアクセントもほしい。その点このストールは、真ん中で緯糸の色を変えて織り上げることで、一枚で2トーンの色合いとなり、シンプルだけどシンプルすぎなくてお気に入りです。

私が迎えた「生成/若葉」の他にも、春夏に使いやすい爽やかな4色をラインアップしているので、お手持ちのお洋服と相談しながら、たくさん使えそうな一枚を選んでいただけたらと思います。

春は気持ちもうきうきして、服装にも明るい彩りを取り入れたくなる季節。洋服で色ものを買うには少し勇気がいるものの、ストールならそのハードルも低いですよね。私はというと、普段の洋服ではあまり着ない若葉色をあえて選んで、ちょっと新鮮な春の装いを楽しんでいます。

<紹介商品>
やわらかリネンストール(4,950円) 

編集担当:谷尻

【暮らすように、本を読む】#09「ゆうべの食卓」

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。

<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



人生の断片を語る、11の食卓の記憶

ひとり暮らしを始めてから、スーパーで買う旬の野菜のおいしさや、深夜まで開くチェーン店のありがたさを実感した。お酒が飲めるようになってからは、ひとりで食べる自由さと、大切な人と食べるたのしさを知った。子どもの頃の記憶をたどる時、学生時代の思い出を語る時、未来の約束をする時、思えばいつも中心には「食卓」があります。

料理雑誌『オレンジページ』にて連載された、作家・角田光代さんによる短編小説『ゆうべの食卓』。年齢も家族構成もさまざまな登場人物たちによる、11の食卓に登場するのは、珍しいごちそうではなく、慣れ親しんだ料理ばかり。

元夫のひとり住まいの家で食べる手作りカレー
小学5年生女子ふたりのスイミング帰りの買い食い
こたつの上で作るひとり用ホットプレートの手抜きごはん
実家を売却することになった兄弟のささやかな宴会

著者によると登場する料理は、掲載時の雑誌の特集にあわせて決めていったそう。フライパンや鍋のままテーブルに出す「卓ドンごはん」や、週末に作り置ける「手作りミールキット」、ふたりで楽しむ「ちいさなおせち」、炊飯器でつくる「失敗知らずのスイーツ」など、特集の内容を想像しながら読み進めるのも本書のたのしみ方のひとつです。

連載がはじまった2020年6月は、パンデミックがはじまって間もない頃。現実世界とリンクするように、物語のなかでも、コロナ禍によって変化する生活を強いられる登場人物たちがいて、私たちと同じように家ごはんのたのしみ方や、手抜き料理のコツを覚えていきます。連載をリアルタイムで追っていた読者にとって、不安を乗り越えていく等身大の姿に、励まされた人も少なくなかったのでは。

「充足のすきま」は、なかでもお気に入りの短編です。主人公がはじめて入るバルが、“アタリ”だった時、気になる人の顔を浮かべるシーンがある。「あたらしい服を買いたくなったら恋の予感だったのは、二十代までなのかも。おいしいと言い合いたいと思ったら恋、と、三十代の今、上書きすべきか」。わたしなら迷わず上書きを選ぶよ、と心のなかでワインを掲げた。

ご紹介した本

・角田光代『ゆうべの食卓』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『ゆうべの食卓』

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。

VALUE BOOKS
長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp/

文:北村有沙
1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。


<関連特集はこちら>

修繕しながら長く使う#3「包丁の研ぎ直し」

修繕現場を取材しながら、末永く付き合うお手入れのコツを教えてもらう短期連載。これまで、「漆椀」「染めの服」の修繕現場を取材しました。
今回は、「包丁」の研ぎ直しについて、お届けします。

#3 包丁の研ぎ直し

今回訪ねたのは、株式会社スミカマの炭竃太郎さん。
スミカマは、日本を代表する刃物の産地である岐阜県関市で、創業以来100年以上にわたり刃物製造を行う企業。新素材、新技術にもいち早く着目しながら、切れ味と機能性を追求したものづくりを続けられています。

「研ぎ直しを受けているのは、自社で製造した包丁のみですが、週1件くらいのペースで依頼をいただきます。研磨専用の機械を使い、新聞がすーっと切れるくらいの切れ味にしてお戻しします。今回は中川政七商店で販売する『最適包丁』で、1年半ほど使ってくださっているようです。『最適包丁』の依頼は他の包丁に比べて多いんです。長く大切に使いたい方が多いように感じて、作り手としても嬉しく思います」

「当社では、専用の研磨機で研ぎ直します。別の金物屋さんで研いでもいいですか?っていうお問い合わせがたまにあるんですけど、研がれる方の実力が分からないので、単純に『いいです』とは言いづらいんです。現状よりはよくなるとは思いますけど、購入した状態に近しいところまでいくかどうかは分かりません。やっぱり購入したメーカーに研ぎ直しに出すのが1番いいと思います」

BEFORE

AFTER

研ぎ直した直後の包丁。新聞がすーっと切れるくらいの切れ味にして戻していただけます。

日々のお手入れのコツ

「お客様がご自身で研ぐ場合は、側面は触らず、先端部分のみ研ぐのをおすすめします。毎日3食分の調理をされる方でも、2か月に1度研げば十分。慣れていない場合は、砥石に押し当てるのではなく、引きながら当てると刃先をつぶしにくくなります」

砥石で研ぐ際、刃から背の方へ引いて動かすと、刃をつぶしにくいそうです

「なるべく傷めないように使うためには、木製かゴム製のまな板を使うのが1番です。食材を切るときは、スライドさせながら切るのも長持ちのコツ。スライドする方向は、押しても引いても、どちらでも構いません」

横に滑らせるのではなく、背から刃の方へ滑らせるように洗うと傷つきにくいとのこと

「洗う際は、スポンジの柔らかい面を使ってください。スポンジで挟んで横に滑らせるように洗う方が多いと思いますが、背から刃先に滑らせるように洗うと、摩耗しづらくなります。
とは言え、傷付くのを恐れてそっと洗い食材が残ってしまうと、錆びに繋がってしまいます。洗った後はしっかり水気をふき取っていただけるとなおよいです。
ちょっとしたことで、刃持ちが変わるので、できそうなところから試してみていただけると嬉しいです」

<関連商品>
最適包丁

<取材協力>
株式会社スミカマ

文:上田恵理子
写真:阿部高之