料理研究家・ツレヅレハナコさんがつくる、「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」を使ったレシピ

家事に仕事にと忙しく、思い通りのリズムとはいかない毎日。

心も体もくたびれてしまい、ヒットポイントはゼロに近い。けれど、そんな日こそ野菜をしっかり摂って体がよろこぶものを食べたいと、台所によろよろと向かう日もしばしばです。

この秋、新発売となる「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」は、毎日の料理の強い味方になればと開発したもの。野菜をもりもりのせても蓋の閉まるサイズ感や、土鍋ならではの機能性が特徴で、“土鍋まかせ”で手軽に料理が完成します。

監修をお願いしたのは、文筆家・料理研究家のツレヅレハナコさん。その気構えず、自由で楽し気な食卓にはファンも多く、台所道具との付き合い方にも信頼の厚い方です。

ハナコさんなら、この鍋で何をつくるんだろう。できたてほやほやのサンプルを、一足お先に使っていただきました。



「つい手にとっちゃう“いい”道具」を目指して

「台所に住みたい」と普段から話すほど台所愛の強いハナコさん。自宅を建てる際も台所のつくりに最もこだわったといいます。

広くとった台所スペースにはコツコツ集めてきた調理道具がずらり。特に目を惹くのが、その数なんと30を超えるという様々な鍋です。台所の手前には専用の陳列棚も設けられ、鍋愛の強さを伺えました。

「鍋って本当に万能で、焼きも炒めも蒸しも、もちろん煮ることもできます。フライパンのほうが簡単という方もいらっしゃるとは思いますが、私は普段からいろんな料理を鍋でつくってますね。

あと、鍋にはその土地の文化を表すものが多くて、そこも鍋の好きなところ。旅先の文化を持ち帰れるという意味でも鍋を迎えちゃいます」

そんなハナコさんに今回監修をお願いしたのは、その名も「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」。そもそもどうしてこの鍋に至ったのでしょう。

「一人暮らしをはじめるときに軽い気持ちで買った土鍋があったんですけど、気づいたらその鍋ばっかり使ってて。普通の一人鍋より少し大きめのサイズ感で、野菜がたくさん入れられるので、一人の日の食卓にも二人分の煮物なんかにもぴったりだったんです。

ただ、容量や重量が使いやすい一方で『もう少しこうしたいな』と思う点もありました。道具づくりをご一緒する機会を頂いたことを機に、一人の食事も気負わずつくれてたっぷり栄養が摂れるような、使いやすい鍋があったらと思ってご相談したんです」

「使いやすさ」を言語化しながら、あらゆるポイントに工夫を重ねた今回のひとり土鍋。特にこだわった点をハナコさんに紹介していただきましょう。

「まずは大きさと形。ふつうの一人土鍋って少し小さいものが多くて、例えば一人分のうどんをつくりたくても具材や水分があまり入らないんです。対してこれは一般的なサイズよりもやや大きめで、さらに底を直角に近い形に仕上げたことで、インスタント麺や冷凍うどんが横向きにすっぽり入ります。

うつわのようなフォルムの蓋も、デザインと機能性の両立を目指してこだわりました。少し異国のような雰囲気もあってかわいいですよね。蓋って平べったいものが多いですけど、栄養をたっぷり摂れるようにと蓋は高めにして、具材をたくさん入れても閉まるサイズ感にしています。

持ち手もあえて大きくとって、掴みやすい形に。裏返して置いたときに安定感がありますし、この蓋を取り分け皿や丼のように使っていただくこともできるんです。食器らしく見えつつ、蓋としても成立するようにと調整を重ねた部分ですね」」

「土鍋なのにそんなに重くないところもこだわった点のひとつです。作家もののようなどっしり感や繊細さも素敵ですが、今回の土鍋は毎日気負わず使えるものがいいなと思って。土鍋の機能は十分あるのに、さっと取り出せて気軽に使えます」

「注ぎ口があるのもこの土鍋ならでは。例えば汁物の場合、食事の最後に残った汁を土鍋から直接うつわに注げます。ちょっとしたことなんですけど、実はこういうのがすごく便利ですよね。

あとこれ、蒸気抜きの役割も果たしていて。蒸気を抜く穴ってふつうは蓋につきますけど、今回は蓋をうつわのようにも使いたいなと思ったので、あえて蓋に穴をあけなかったんです。でも蒸気は抜かないと溢れちゃうから、注ぎ口をつけて解決しました」

「料理の仕事をしていると、『いい道具の条件って?』と質問を受ける機会も多いのですが、私の答えは『ふと気づけば毎日のように手にとっちゃう道具』が『いい道具』。

今回ご一緒した土鍋もそんな存在になればいいなと、つい手にとる理由を何とか言語化しながら作りあげました。ぜひいろんな料理に使っていただけると嬉しいです」

「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」でつくる、手軽なレシピ

たくさんの調整を重ねて誕生したひとり土鍋。特におすすめの3つのレシピを、ハナコさんに教えていただきました。

ごま豆乳タンメン風うどん

<材料(1人分)>

・鶏もも肉…100g
・キャベツ…100g
・長ねぎ…10cm
・にんじん…50g
・ニラ…1/4束
・きくらげ(乾燥)…3g
・うどん(冷凍)…1玉
・豆乳(無調整)…1カップ
・水…1/2カップ
・オリーブオイル…小さじ1
・塩、こしょう…各少々

◆A
・すりごま…大さじ2
・みそ、みりん…各大さじ1

<作りかた>

1. 鶏肉は皮を取りひと口大に切る。キャベツは3cm角、長ねぎは斜め薄切り、にんじんは拍子木切りにする。ニラは3cm長さに切る。きくらげは水(分量外)で戻し、ひと口大に切る。

2. 土鍋にオリーブオイルを熱し、鶏肉、キャベツ、長ねぎ、にんじん、きくらげを炒める。全体がしんなりしたらニラを加えて塩、こしょうをふり、蓋に一度取り出す。

3. 土鍋に水を入れ、沸騰したらうどんを入れてほぐす。3分ほど煮て豆乳、Aを加える。沸騰直前まで温め、炒めた具材をのせる。

「この土鍋を一番使うのはやっぱりうどんやラーメンだろうなと、一つめのレシピは冷凍うどんを使ったものにしてみました。具材にしたのはたっぷりの炒め野菜。土鍋は空焚きNGのものも多いですが、今回のものは焼きの工程にも対応しているので安心して使えますね。具材を炒めたあとは蓋をバットとして使うと、同じ鍋でそのままスープまでつくれます。洗いものも少なく済むし、そのまま食卓に運べば冷めずに食べられるのも嬉しい点です」

和風鍋焼きビビンパ

<具材の材料(作りやすい量)と作りかた>

◆小松菜のごま和え

小松菜1/2束はさっと茹でて3cm長さに切る。ボウルにすりごま大さじ2、しょうゆ、砂糖各小さじ1を混ぜ、小松菜を加えて和える。

◆にんじんの塩きんぴら

にんじん150gはスライサーでせん切りにする。フライパンにごま油小さじ1を熱し、にんじんを加えて炒める。塩、七味唐辛子少々を振る。

◆紫キャベツのだし酢びたし

紫キャベツ1/4個(約300g)は千切りにして塩小さじ1をまぶし、10分ほど置いて水けを絞る。保存容器にだし汁2カップ、酢1/4カップ、薄口しょうゆ大さじ3、砂糖大さじ2を混ぜ、紫キャベツを30分以上漬ける。

◆しっとり鶏そぼろ

耐熱ボウルに鶏ひき肉200g、しょうゆ大さじ2、砂糖大さじ1を入れて全体を菜箸でよく混ぜる。小麦粉小さじ2を加えてさらに混ぜ、ラップをふんわりとかけて電子レンジ(600W)に2分かける。一度取り出して混ぜ、さらに2分かける。

◆薬味

大葉2枚はせん切り、みょうが1/2個は小口切りにする。混ぜて水に1分ほどさらし、水けを切る。

◆しらす

20g

◆卵黄

1個分

<作り方>

土鍋にごま油小さじ1を熱して全体に塗り、ごはん300gを敷き詰める。卵黄以外の具材をいろどりよくのせ、弱火にかけて5分ほどごはんを焼く。真ん中に卵黄をのせ、よく混ぜていただく。

「ごはんが焼けるという土鍋の特性を活かして、香ばしい鍋焼きビビンバを作ってみました。のせた具材は、作りおき未満の“仕込みおき”として普段から私の冷蔵庫にスタンバイしているもの。時間に余裕のあるときにつくっておけば、忙しくて料理をつくる気力がない日も、ご飯を焼いて具材をのせるだけで簡単に完成します」

豚肉と野菜の土鍋蒸し

<材料(1人分)>

・豚バラ薄切り肉…150g
・白菜…250g
・パプリカ(赤)…50g
・しめじ…1/2袋
・豆もやし…1/4袋
・青ねぎ(小口切り)…適宜
・酒…大さじ2

◆梅おろしポン酢だれ

・大根おろし…100g
・梅肉…大さじ1
・ポン酢…1/4カップ

◆ピリ辛みそマヨだれ

・みそ、マヨネーズ…各大さじ2
・豆板醤…小さじ1

<作りかた>

1. 豚肉は半分の長さに切る。白菜は4cm角、パプリカは長さを半分に切り3mm厚さの細切りにする。しめじは石づきを切ってほぐす。各たれの材料をうつわに合わせる。

2. 土鍋に半量ずつ白菜、豆もやし、しめじ、パプリカ、豚肉の順で重ね、残りを再度重ねる。

3. 酒をふり、ふたをして弱火にかけて10分ほど加熱する。青ねぎをのせてたれを添え、つけながらいただく。

「高さのある蓋の特性を活かしたレシピ。山盛りに入れてもちゃんと蓋ができるので、蒸し効果が得られるのがこの土鍋のよいところです。ほぼ野菜の水分だけで蒸すのでうまみもたっぷり詰まってますし、シンプルな味をたれで味変することで最後まで楽しく食べ続けられます」

最後にハナコさん、実際に使ってみていかがでしたか?

「まず、見た目がかわいいところが気に入っています。台所に出しっぱなしでもサマになるデザインですし、混ぜご飯や麺類をつくった時にそのまま食卓に出せるのもいいなって。

重すぎず、それでいて丈夫なのも毎日の料理で使いやすいですよね。欠けやすいと使うのも慎重になりますけど、これは日常使いできる頼れる感じがいいなと思いました。

あとは本当にすごくいっぱい入ります。極端な話ですが、雪平鍋くらいは入っちゃうなと。一人用ですけど、二人分くらいの調理は全然問題ない大きさで、ちょうどいいサイズですね。煮物にもいいだろうし、炒め煮みたいな調理にも活用したいです」

何をつくろうかなと迷った日は「今日も、土鍋まかせ」で、とりあえずこの土鍋を取り出してみる。

そんな風に、日々のごはんにそっと寄り添ってくれる、皆さまの頼もしい相棒になりますように。


ツレヅレハナコさん

食と酒と旅を愛する文筆家、料理研究家。著書に『まいにち酒ごはん日記』、『ツレヅレハナコのおいしい名店旅行記』、『ツレヅレハナコのからだ整え丼』など。食や日常を綴るSNSも人気。
https://www.instagram.com/turehana1


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<掲載商品>

野菜がたくさん食べられるひとり土鍋 白

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【四季折々の麻】10月:ふっくらとあたたかく、上品な艶感「綿麻のコール天」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2024年10月1日公開の記事を再編集して掲載しました。

ふっくらとあたたかく、上品な艶感「綿麻のコール天」

10月は「清秋」。残暑もようやく終わり、清く澄みわたる空に爽やかな秋を感じる月となりました。木々が色を染める景色や、遠くから聞こえる虫の声。そんな時季に着ていただけたらと、豊かな空気を吸い込んで出かけたくなるような服を、綿麻のコール天で作りました。

素材に採用したのは、綿と麻を合わせた糸を使って織ったコール天生地。コール天とはいわゆるコーデュロイのことで、日本の遠州地方で作られるコーデュロイを昔からこう呼びます。手間ひまをかけて職人が手がけた、畝(うね)のふっくらとした丸みと艶が特徴です。

毎年人気で、中川政七商店でも秋の定番となっているこの生地を用いて、今シーズンは昨年から引き続きおつくりする「イージーパンツ」に加え、新たに「プルオーバーベスト」と「ジャンパースカート」をラインアップ。いずれも着まわしやすく、寒い季節まで長く着られるアイテムを揃えました。

【10月】麻の高密度織シリーズ:

綿麻のコール天 プルオーバーベスト
綿麻のコール天 ジャンパースカート
綿麻のコール天 イージーパンツ

今月の「麻」生地

秋から冬まで長い時期で着られる、綿麻素材の肉厚なコール天生地。

夏のイメージが強い麻ですが、実は秋冬にもたくさん着たいおすすめの素材です。吸湿発散性があるので重ね着する場合もムレにくく、何より上品な艶感で、秋冬らしい落ち着きを纏っていただけます。今回は綿が主流のコール天生地に麻を取り合わせることで、綿の肌あたりのよさと、麻ならではの軽やかで上質な質感をそなえた生地に仕上げました。

国産コーデュロイ、特に遠州のコール天は、一つひとつの工程が丁寧で手が込んでいるのが特徴です。ベースとなるのは、タオルのように糸をループ状にして織り上げたパイル織生地。そこから糸をカッティングして凸凹した畝を作り、全体の糊を洗い落とす「糊抜き」後に、「毛焼き」の作業を施していらない毛羽を落とします。こうすることで、ふっくらとやわらかで、なめらかな生地に仕上がるのです。

完成した生地は艶があるためカジュアルすぎず、上品な“大人のコール天”といった印象に。

現場では腕のよい職人さんの高齢化も進んでいて、「あと何年できるか」という話もよく出ます。ですが一方で、国産のコール天に魅力を感じた若い職人さんが後を担おうとする動きも出てきているそう。いずれにせよ、貴重な生地であることに変わりはありません。

お手入れのポイント

お洗濯はできるだけ手洗いで。脱水で洗濯機を使う際や、洗濯機の手洗いモードを使って洗濯する際は、お洋服を裏返してネットに入れてください。

また着用時や着用後に洋服ブラシを軽くかけてもらうと、毛並みが整い艶も美しくなり長持ちします。毛並みは下から上の流れになっているので、ブラシも下から上にかけてくださいね。

ひと手間かかってはしまいますが、手間をかけることでよい状態で長く着られるはず。お洋服を手入れする時間も楽しんでいただければ嬉しく思います。

きちんと感もカジュアル感も出せる3アイテム

セットアップにブーツや革靴を合わせてきちんと着たり、単品アイテムにスニーカー合わせでカジュアルに着たりと、いろいろな雰囲気をつくれる3アイテムをラインアップ。

色展開は、これまでの生成・墨紺に加え、新色のブルーグレーを加えた3色で、長く着られる色合いを揃えています。特に生成は素材そのものの色合いのため、麻の繊維も混じり杢(もく)感があり、奥行きのある雰囲気でおすすめです。

プルオーバーベストは、かぶりタイプであたたかな一着。肩を覆い、ほどよくゆったりとしたシルエットで気を遣わずに着られますが、コール天の艶感が上品な印象に仕上げてくれます。イージーパンツと合わせてセットアップで着るのもおすすめです。

前も後ろも深くVが入った形で堅苦しさのないジャンパースカートは、下から履いても着られるような、リラックス感のあるデザイン。左右の大きなパッチポケットをアクセントにしました。

ここ数年、なかなか予想できない気候が続いているので、気温に合わせて重ね着したり、薄手のアイテムを合わせたりと、調整しやすいアイテムにしたのもポイントです。秋は薄手のカットソーを合わせ、寒くなればタートルネックニットを合わせるなど、ぜひ長いシーズンでご着用ください。

イージーパンツはとにかく暖かく、秋冬にたくさん履きたい楽ちんシルエットに。シンプルなトップスと合わせてパンツの存在感を引き立てたり、ざっくりしたニットに合わせてほっこりしたコーディネートにしたりと、合わせるアイテムで印象ががらりと変わります。おしりのポケットの毛並みを横に配しているのがポイントです。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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大人が着たい「気のいい服」。デザイナーインタビュー

「去年は似合っていたはずなのに、今年着てみると何かが違う」。
歳を重ねることでそんな戸惑いが増えました。

似合わない服が増える一方で、今の自分に似合う服はわからない。
純粋な“好き”を楽しめず、寂しい気持ちになることもしばしばです。

中川政七商店の新作はそんな、大人の女性が抱える装いの悩みに寄り添う一枚。

生活も、体型も、好みも変化したけれど、その変化を楽しく受けとめる。
デザイン・素材に気を配り、気分がいい。気持ちがいい。

気軽に着られてサマになる“大人の定番服”が生まれた背景と、新作のこだわりを、担当デザイナーの星野に取材しました。

「大人の女性があると嬉しい定番服」を作りたい

「大人の女性がきれいに着られる杢Tシャツを作りたい」と、25年の春に発売した「大人の杢Tシャツ」。私たちの想像以上に多くのお客様に手にとっていただき、嬉しいご感想もたくさん頂戴しました。

このシリーズとアイデアの発端を同じくする新作は、シャツ2種とボトムス2種。いずれも「歳を重ねることによる変化を楽しく受け止められるように」と、中川政七商店のデザイナーたち自身が抱える悩みを持ち寄り、デザインに落としていって生まれた服です。

「私もそうですが、大人になると家事や仕事や育児など、ライフステージの変化で少しずつ生活のリズムが変わり、昔とは時間をかけるべきことも変わってきますよね。

体型も変化するし、お洋服を着たときの印象も昔と違って、例えばナチュラルすぎると少し疲れて見えることもあります。でも忙しくてコーディネートに時間をかけられないし、悩みは尽きません。

今回のシリーズは、そんな大人ならではの悩みや変化をポジティブに受け止められる服がつくれたらと企画したもの。目指したのは上質で品があってきれいに見えて、体型の変化も気にならない服です。

時間がない日にも一枚でパッと決まる、コーディネートに手間をかけなくても簡単に着こなせる服にしたいと思いました」(星野)

そうして誕生した新作のコンセプトは「気のいい服」。デザイン・素材に気を配り、気分がいい、気持ちがいい。そんな服を追求して工夫を重ねました。

後ろ姿に自信が持てる「やわらかネルのバックギャザーブラウス」

長く着られるように、飽きのこない「定番の一枚」としてつくったトップスは、秋冬に活躍するネル生地を用いた2種類のシャツ。いずれも背中にたっぷりと入れたギャザーがポイントです。

「背中が少しずつ丸まってきたり、おしり周りのラインが変化したりして、後ろ姿って自信がなくなる部分の一つだよねと、デザイナーたちと話していて。

ギャザーをたっぷり入れることで体型をカバーしつつ華やかにして、後ろ姿に視線が集まってもこわくない、背中をポイントにしたデザインにしています」

丈は、気負わず着られる定番丈と、前後の裾丈に差をつけたロング丈。装いの好みに合わせ、シンプルなものとエッジのきいたものの、二つのデザインから選べるように仕上げました。

「ロング丈のほうはあえて前後差を大きくつけました。より後ろ姿に視線が集まり、おしり周りもきれいにカバーできるかなって。あとは横から見たときのラインも印象的に着ていただけると思います」

また、全体的に身幅をゆったりとって華奢に見えるシルエットを実現しつつ、前部分をフラットにしたことで程よいきちんと感を出したのもこだわった点です。

さらには大人の女性にきれいに着ていただけるよう、生地自体もオリジナルでつくりあげました。色はシンプルな無地と、細く線の入った柄もののふたつ。いずれも大人の女性が品よく着やすい、落ち着いた色味にしています。

「じつは無地と柄もので織機を変えたのもポイントです。無地はドビー織機を用いて、糸の浮き沈みが多く、やわらかさの出る綾織で織り上げています。

一方で柄ものは、複雑な柄を表現するためジャカード織機を使用しました。無地のものよりしっかりとした生地感に仕上がっています。店頭にお越しの際はぜひ、織機の違いによる風合いも触り比べていただけたら」

中川政七商店オリジナルのネルシャツ生地。先染め織物の産地・兵庫県西脇市で、織りから加工までお願いした

なお、通常のネルシャツは綿100%のものが多いため、洗うと硬くなりカジュアルな印象になりがちですが、今回はヨコ糸に綿とキュプラの混紡糸を採用。やわらかさと落ち感が出る生地となっています。

加えて織りあがり後に起毛をかける工程では、表面の毛羽をカットし、ととのえる加工を施すことで、上質な表面感に。毛羽の乱れが押さえられてなめらかな風合いになり、生地のコシも抜けてふわりとした質感に仕上がりました。

体のラインを拾わずすっきり履ける「高密度コットンのボトムス」

一枚で決まるトップスに対し、ボトムスで追求したのは着まわしやすさ。定番の一枚としてオールシーズンで手にとれるようにと検討し、形にしています。

「下半身ってより体型の個性が出るというか、悩みも多い部分だと思うんです。だから、どんな方もラインを気にせず、きれいに履けるシンプルなボトムスがつくれたらと思って企画しました」

「パンツは裾にダーツを入れて立体感を出しました。腰にもタックが入っているので履くと足にくっつかなくて、『本当に履いてるっけ?』ってなるくらい(笑)。生地のハリ感もあるので、まとわりつかなくて体のラインを拾わず、気持ちよく履いていただけます」

「スカートも同じ考え方でラインを拾わないようにしつつ、大きく見えすぎないようにコンパクトなAラインに仕上げました。ふくらはぎをすっぽり隠せる丈にしていますが、ほどよく幅もあるので足さばきよく履いていただけます」

綿100%の生地はいずれも、遠州・浜松で密度を限界まで詰めて織ったもの。きれいめにもカジュアルにも万能に着られるよう、チノパンほどカジュアルではないけれど、頼りがいのある素材感を目指しました。

また生地が織り上がった後、滋賀で「近江晒加工」を施したのも工夫のひとつ。生地にふくらみを出し、自然で細かなシボ感を出しました。表面には「毛焼き加工」を施すことで、毛羽が落ちてつるっとした表面感となり、少し光沢が出るように。これにより、軽やかな印象で着用いただけます。

「ウェザー生地」と呼ばれる今回の生地。高密度に織ることで風も通さず、丈夫でいろんな天候に対応することから「ウェザー」と呼ばれている

「きれいに見えつつラクに履けることにもこだわりたくて、どちらも後ろだけゴム仕様としました。ベルトなしでも着られる気軽さがありますが、トップスをインしてもすっきりとした印象で履いていただけると思います」

着ると、気持ちが外に向く服に

一枚あれば少し気分を上げてくれる“気のいい服”。デザイナーの星野は「着ると、どこかに出かけたくなる」と表現します。

「いつもの場所に行く際にちょっと気分が上がるのもいいなと思いますし、『これを着るなら、いつもより少しおしゃれなスーパーに行こうかな』とか『家で過ごす予定だったけれど、喫茶店に行っちゃおうかな』のような、気持ちが少し晴れやかに、外に向くきっかけの服になればいいなと思います。ぜひ長くご愛用いただけたら嬉しいです」

この一着を手にとるだけで、いつもが少し特別になる。今回のシリーズがそんな服として、皆さまの暮らしに寄り添えますように。

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やわらかネルのバックギャザーブラウス
やわらかネルのバックギャザーロングブラウス
高密度コットンのコクーンパンツ
高密度コットンのAラインスカート

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【わたしの好きなもの】ギフトにも選びやすい「布ぬのバスクシャツ」の、MLサイズを着比べてみました

まだ日中は暑いけれど、そろそろ秋服が気になる時季。今年、そんな秋の支度にと新しく迎えたのが「布ぬのバスクシャツ」です。

今年で4年目となる布ぬのバスクシャツは、肘のエルボーパッチに日本各地の染織技術を活かした布をあしらった、中川政七商店の定番服。春夏に展開される、布を前見ごろにあしらったTシャツと合わせて「日本の布(ぬの)ぬのシリーズ」と名付けられ、多くの方に手に取っていただいています。

店舗のスタッフに話を聞くと、毎年のリピーターさんやギフトに購入する方も多いそうで、いよいよ気になるな‥‥と思い、今年は私も購入。シンプルで気の利いたシルエットと、ちょっとした遊び心がたちまちお気に入りになりました。

まだちょっと暑いので出番は少ないのですが、秋は一枚で着たり、寒さが進んだら中に薄手のタートルを合わせて着たりと楽しみたいなと思っています。

首回りすっきり、見ごろは程よくワイドで中にも着こめる

エルボーパッチをどの布にするかわくわく選べるのがこのお洋服の醍醐味ですが、それ以外に推したいのがシルエット。

ベースのバスクシャツは無地の生地を使った直線的でシンプルなデザインですが、横に開いたボートネックや肩を落としたラインでさらりと着ても野暮ったくなりません。

またボディ部分はすとんとまっすぐに落ちるパターンで、体のラインを拾わずリラックスできるシルエットでありながら、体と生地との隙間の空き具合が絶妙で、不思議ともたもたした印象にならないのです。

こういったシンプルなトップスは自分にはおしゃれに着こなせる自信がなく、どちらかというと避けていたのですが、実際に着てみると顔周りも体部分もすっきりと見え、どんなボトムスとも合わせやすくて秋のコーディネートに活躍しそうです。

気に入ったお洋服はできるだけ長い季節で着たい派なので、こちらのバスクシャツは程よくワイドなシルエットで中に薄手の服を着こめるのも魅力でした。

私の場合、布ぬのバスクシャツと同じくこの秋気になっていた「しなやか綿の重ね着プルオーバー」と合わせるのがバランスとしてちょうど。重ね着していてもごわつかず、シルエットを損なわないのに暖かさはアップして、この組み合わせの登場回数が今後は増えそうです。

ちなみに生地が厚手でワイドなため「ボトムスへインしにくいかな?」と思っていましたが、デニムのボトムスに裾を入れても、もたつかずに着られました。

綿100%を使ったやや厚手の生地は、冬のはじまり頃まで活躍するしっかりした着心地で、着ていて頼もしさのある安心感。横の席で同じく布ぬのバスクシャツを着ていた同僚と、「着てみると改めて良さがわかるね」なんて話していました。

繊細なお洋服もそれはそれではかなさがあって好きなのですが、こういったがしがし着られて家でお洗濯もできる服は、何だかんだで登場回数が多くなり重宝しています。

エルボーパッチが着ていて楽しく、ギフトにもぴったり

そして、なんといってもエルボーパッチ!今年は3つの産地から8種類の布がラインアップされています。どれにしよう~と迷うのも、着ているときに鏡にちらりと肘の布が映るのも、全部楽しい。単純に、布を見て幸せな気持ちになるのです。

社内で行われた新商品発表会のプレゼンテーションの際、担当デザイナーから、あしらわれた「日本の布ぬの」それぞれの産地や作り手さんの話を聞くのも興味深い時間でした。オンラインショップに各生地の情報があるので、ぜひご覧ください。

布のかわいさと着まわしのきくシンプルなデザインのバランスがちょうどよく、ギフトに選びやすいのもおすすめポイントの一つ。服を贈るときって、個性的すぎると似合うか悩ましいし、反対に地味すぎるとなんだかつまらないしで、毎回難しいのですが、これならどっちもいいバランスで満たしてくれるんじゃないかなと思うのです。

私も自分用の他に、友人にも贈りたいなと思っているところです。

MLサイズ、どちらにする?

迷ったのがサイズ。ユニセックスかつMLサイズで展開されるこちらのバスクシャツは、店舗のスタッフに話を聞いていると、女性でもゆったりシルエットが好みだからとLサイズを購入する方や、男性でも一枚ですっきり着たいとMサイズを手に取る方もいらっしゃるとのこと。

私は会社にあったサンプルで試してサイズを決められましたが、ギフト購入する際や、オンラインショップから購入される方は試着ができないので、サイズ選びが悩ましいですよね。参考になればとそばにいたスタッフに協力してもらい、実際にMLサイズを着比べてみました。

女性スタッフの身長は162cmで、普段はS~Mサイズのお洋服を着ることが多いです。私が着るとMサイズだとぴったり。袖も手首までの丈で作業のじゃまにならない、ちょうどよい長さでした。

Lサイズはかなりゆったりめで、あえてだぼっと着たいときにはいいけれど、Mサイズのほうがコーディネートのバランスがとりやすいかなという印象。袖丈や着丈が長いお洋服がお好みの方はLサイズもいいですね。肘のエルボーパッチの位置は、肘より少し低めに来ています。

左がMサイズ、右がLサイズ(身長162cm)
Lサイズは袖からちらりと手が見える丈感です。(身長162cm)

続いて、身長170cmでやや細身の男性スタッフに着比べてもらいました。Mサイズだと袖は七分丈ほど。裾も腰骨ちょうどくらいでコンパクトなトップスという印象です。エルボーパッチは肘よりやや上めにきていました。タイトなシルエットがお好きな方はMサイズでもいいかもしれません。

Lサイズだとゆったり着られるサイズ感で、エルボーパッチは中央やや下位置くらい。肩はしっかり落として着られます。

左がMサイズ、右がLサイズ(身長170cm)
Mサイズは手首がすっきりとした7分袖になりました。(身長170cm)

ちなみに、身長174cmの男性スタッフにも着比べてもらったのですが、Mサイズだとさすがに小さいなという印象でした。

オンラインショップ上で着用いただいているモデルさんは、女性が身長164cmでMサイズ着用、男性が178cmでLサイズ着用です。ぜひ、これから購入を検討される方は参考になさってください。

左の女性モデルさんは164cm(Mサイズ着用)、右の男性モデルさんは178cm(Lサイズ着用)

「去年買ってよかったから、今年も新しい布を楽しみにしてました!」と嬉しいお声も多い布ぬのバスクシャツ。来年も登場するのか今の時点ではまだ私も知らないのですが、「来年もぜひ!」と期待して、まずは今年迎えた一枚をたくさん着たいと思います。

編集担当:谷尻

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【四季折々の麻】9月:薄手ながら透けにくく、さらりと着られる「麻の高密度織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2024年9月2日公開の記事を再編集して掲載しました。

薄手ながら透けにくく、さらりと着られる「麻の高密度織」

9月は「長月」。夏の厳しい太陽を越えて秋にさしかかり、夜がだんだん長くなって、ゆっくり月を眺めたくなる季節です。

日中はまだ暑さが残るものの、日が落ちると涼しさを感じるようになってくる時季。そんな季節の変わり目に重宝する、調整がしやすく、長いシーズンで着られる服を作りました。

素材に採用したのは高密度に織られた麻生地。じつはこちらのシリーズ、昨年も同じ時期に販売しており、そのやわらかで軽やかな生地感に中川政七商店のスタッフにも愛用者が多かった素材です。

今年も「ワークコート」と「ワンピース」、「タックパンツ」と、夏の暑さが長引いても楽しめる3アイテムを揃え、気温の上下が激しい秋のスタートにも心強いラインアップとしました。

【9月】麻の高密度織シリーズ:

麻の高密度織 ワークコート
麻の高密度織 ワンピース
麻の高密度織 タックパンツ

今月の「麻」生地

薄手ですが高密度で織られているため、透け感がなく一枚でも着ていただけます。生地の表面はさらりとしていて、麻本来の機能である吸湿発散性もあるため、まだ汗をかく季節も心地好く着られるのが嬉しいところ。

ここ数年、天候や栽培の関係で質のよい麻素材が手に入りにくくなっているなか、今回のシリーズは贅沢にリネン100%を使用しました。遠州地方で長く使われてきた力のある織機を使い、高密度に糸を詰めてしっかり織り上げた生地を用いています。

仕上げは滋賀県の湖東地方で、布をやわらかくする加工を何種類も行い、肌あたりのよい生地感に。織りの遠州地方・加工の湖東地方と、いずれも日本で古くから麻を得意として扱う地域で生産した生地です。

強度がある素材ですが、着用を重ねることでよりやわらかく、なめらかに育っていきます。ぜひたくさん着用して自分だけの一枚にしていただければ嬉しく思います。

お手入れのポイント

ご自宅の洗濯機で洗っていただけます。生地の傷みを防ぐため、お洗濯の際は裏返してから洗濯ネットに入れるようにしてください。干す際は洗濯じわを手でぱんぱんと伸ばすのが、きれいに乾かすポイントです。

そのままの洗いざらしの風合いも素敵ですが、パリッと着たいときや部分的なしわが気になるときにはアイロンをかけていただいても。麻の生地全般に言えることですが、麻は水に強く乾燥に弱い素材。パリパリに乾いた状態で高温のアイロンをあてると傷んでしまうため、ご注意ください。

しわが気になる場合には、霧吹きで少し湿らせてからあて布を使うか、裏からアイロンをしていただくと生地が傷まずテカリも防止できますよ。

薄手ながら透けにくく、長い季節で楽しめる3つのアイテム

今回は生成・墨黒・そして新色の金茶の3色。秋の夜長に溶け込みそうな色合いにしています。どのアイテムも軽く、ゆったりとしたシンプルなシルエットを採用しました。定番の一枚として季節が進んで涼しくなるごとに、合わせるアイテムを変えながら長く楽しめます。

アイテム単品で着用いただくのはもちろんですが、シリーズのコートとパンツ、コートとワンピースなど、セットアップで着ていただくのもおすすめです。

気軽に羽織れるワークコートは、ロングカーディガンのようなイメージで着られます。肩を落としたゆったりシルエットと、テーラードカラーのきちんと感のバランスをとって仕立てました。麻のつや感がほどよく上品で、まだ暑い季節はTシャツの上にさっと羽織るだけで、お出かけ着として重宝します。

もちろん、冷房の風が気になる自宅でラフに羽織っていただいても。袖をたくし上げると作業もしやすく、家事のじゃまにもなりません。

気温に合わせて多様に着こなせるワンピースは、暑い時期は半袖の上に、肌寒くなれば薄手のニットと合わせて。首元に切り込みを入れたキーネックを採用しているため、そのままかぶって着られます。ゆったり感がありながら、きちんと感も出るようにデザインしました。

肩にはタックを入れて身体に添わせつつ、裾にかけては麻のハリのおかげできれいにひろがるシルエットになっています。

タックパンツはその名の通り、ウエストにタックをとり、ゆったり丸みのあるシルエットに仕立てました。こちらも麻のハリ感があるため、身体の線を拾わずに着ていただけます。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。


「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。
https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/e/ev0667/

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子


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【旬のひと皿】丸ごと万願寺とうがらしと茄子のつくね焼き

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



「一期一会で終わらせないで、会いにいってみよう!」と思い立ち、ヨーロッパに冒険の旅へ出かけてきました。

毎日、初めてのことばかりだった社会人になりたての頃。今も一日として同じ日はないし、お店では日々、喜んでいただくために一生懸命ではあるけれど、新鮮な発見を繰り返したあの頃の環境を、もう一度つくってみようと思ったのです。

お店に来てくださったお客さんのところへ会いに行く、2週間の旅。せっかく行くのだから、お客さんだけでなく、その周りのお友達や親しい人にもお蕎麦を食べてもらいたいと思い、3か月ほど、どうしたらうまく行くのか仕事終わりに考えていました。

蕎麦を海外で打つには、包丁と麺棒、駒板、まな板、蕎麦粉に打ち粉、つながらなかった時のためにつなぎも入れて‥‥。出汁は昆布と干し椎茸でさっと取って、かえしは最低限でも持っていきたい、と考えていたら、それだけでかなりの重量。

スーツケースに入るギリギリの長さの麺棒と、紛失しても帰国してからの営業に支障がないよう、包丁は新しく手頃なものを購入しました(ちなみに、こね鉢は各所でボウルをお借りさせてもらうことに)。

14時間近く飛行機に乗り、そこからバスや電車を乗り継ぎ、国も越えながら、結局4か所の厨房やお家のキッチンで蕎麦を打たせてもらえました。

どの場所でもみなさん親切に迎えてくださり、蕎麦打ちにも興味深々。嬉しい再会ができたことや、偶然のご縁から出会った方の日常にお邪魔させてもらえたこと。また、いろんな暮らしかたやおいしいを体験させてもらうこともでき、とても嬉しい経験となりました。

この旅で時間をつくってくださった方々、ありがとうございました。

旅の最終日に連れて行ってくださったお店で出てきた「ピーマンを丸ごと焼いたもの」のおいしかったこと!添えてあった茹で上げのいんげん豆の、茹で加減も最高だったな。シンプルなおいしさに、旅の緊張感もほっとしました。

予想外のハラハラした出来事で、どうなることかと思った時間もありましたが、お力を貸していただいた方々のおかげで無事に帰ってこれたこと、また自分の日常をリスタートできたことも嬉しく思います。

うまくいかなかったことは次の機会にうまく行くよう準備をして、また、知らない世界へお蕎麦と共に出かけてみたいです。

<万願寺とうがらしと茄子のつくね焼き>

茄子の水分でふわふわ食感のつくねをつくります。茄子は焼いて香ばしさをプラスするのがポイントです。焼き網がない場合は、フライパンやトースターを使っていただいても。

材料(2人分)

・万願寺とうがらし…4本
・茄子…2本
・豚肉(ミンチ)…150g
・卵…1/3個 ※溶き卵にして、1/3を使用
・醤油…少々
・塩…小さじ1/5
・クミン…少々

◆ソース
・醤油…小さじ1~2
・バター…5g

作りかた

万願寺とうがらしに数か所の穴をあける。少量の塩(分量外)をふり、網で焼いておいしそうな焼き目をつける。

茄子はヘタをとり、網で焼く。お箸で触ってやわらかくなれば網からあげる。やけどに注意しながら熱いうちに皮を剥く。刻んでボウルに入れたら醤油を加えて軽く下味をつけ、そのまま冷ます。

別のボウルに豚肉と卵、塩を入れて捏ね、よくなじませる。焼き茄子とクミンを入れてさらに捏ね、2等分にして丸める。※卵は入れ過ぎるとタネがゆるくなるので注意

フライパンを熱し、油(分量外)を少し入れたら、つくねを入れる。やわらかいので表面が固まるまでは触らずに。焼き目が付いたら裏返して蓋をし、弱火で火を入れていく。

つくねに火が通ったら、出てきた水分に醤油とバターを入れてソースを作る。お皿に盛り付け、万願寺とうがらしを添えたらソースをかけて完成!

うつわ紹介

益子焼の平皿 青磁

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/