【旬のひと皿】豆ごはん

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



毎日の自分のごはんにこまっている。

朝から蕎麦を打ち、諸々の仕込みをして、時計を見ながら慌てていてもあっという間に営業時間になってしまう。お客さんや誰かのためになら勝手に手が動くものの、自分のためだけにつくるごはんには、なかなかスイッチが入らないのです。

数か月間でしたが、お世話になっているワイン屋さんが開くワイン講座に月に一度だけ参加させてもらっていました。講座では毎月ワインを1本持ち帰り、自宅でじっくり味わいを感じて、次の会の時に感想を言い合うといった時間もありました。どんなお料理と合わせたとか、そのワインから受けた印象などなど。

同じワインでもそれぞれ受け取り方が違うし、もちろん好みも違う。ワインの感想を聞くことはもちろんですが、参加されている方のごはんの風景を聞くことも楽しく、豊かな時間を想像できてとても楽しかったのを覚えています。

仕事として料理や蕎麦を日々つくっていますが、やはり「美味しい」「楽しい」の原点はみんなで集まって食べ、時間を共有することだなと思います。お店でもそんな時間を過ごしていただければ嬉しいし、自分の普段の食事でもそんな時間をつくれたらいいなと思っています。

さて、今回は新緑のきれいな季節にぴったりの、豆ごはんのご紹介です。

野菜のさやや皮からもいい味が出るので、今回はさやをお米と一緒に炊きました。こうすることで、豆が入っていない部分を食べても「豆ごはん」を感じられます。お米は少しかために炊いて、チーズと黒胡椒、オリーブオイルをかければワインにも合いそう。

豆ごはんを頬張り「春もそろそろ終わりだね」なんて話をしながら、ほっと一息ついていただけたら。私も、おうちのごはんも大切にしたいものです。

<豆ごはん>

材料(作りやすい分量※4人分程度)

・米…2合
・えんどう豆…200g
・昆布…5cm角
・塩…小さじ1

作りかた

お米をといでザルにあけ、10分ほどおく。
えんどう豆をさやごとよく洗い、豆とさやにわける。さやはお米と一緒に炊くのでとっておく。

炊飯器または土鍋にお米を入れ、通常の水加減で水を入れたら30分ほど浸水させる。

塩を入れて軽く混ぜ、昆布を中央にのせる。その上にえんどう豆のさやをのせ、通常通りの時間で炊飯する。

豆の色をきれいに出すため、豆は炊飯時に混ぜず別に茹でておく。ごはんが炊ける時間に合わせて鍋に湯を沸かしたら、塩(分量外)を適量入れて豆を茹でる。好みのやわらかさでザルにあげる。

炊きたてのごはんからさやを取り出す。豆を混ぜ、少し蒸らして完成!

うつわ紹介

好日茶碗 太白野菊
陶器の箸置き 海鼠

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

フードコーディネーター・夏井景子さんが合わせる、初夏の料理と工芸カトラリー

突然ですが皆さん、カトラリーにどんなこだわりをお持ちですか?

私はというと、うつわは昔から大好きで、作家さんの展示会や産地の窯元へ赴いては少しずつ収集し‥‥と繰り返してきたものの、実はカトラリーについてそこまで意識を向けたことがありませんでした。

その魅力に気付いたのは当社に入社してから。いろいろなカトラリーがあることで食卓スタイリングの幅が広がったり、何より素材や形で料理がもっとおいしくなったりと、名脇役的存在の大事さを改めて認識し、最近少しずつ集めはじめたところです。

最低限の種類だけでも食事自体はなんとかなるけれど、お気に入りがあるだけで食卓の楽しみもちょっとだけ増える、カトラリー。とはいえ私自身がまだまだ初心者で、どんな風に選んだり、合わせたりするのがいいのか手探りだったりもするのです。

そういったわけで今回は選び方や合わせ方のヒントを頂けたらと、料理研究家・フードコーディネーターの夏井景子さん宅を訪れました。中川政七商店から新しく登場した工芸の技や素材で作る「工芸カトラリー」から3種類を選び、料理やうつわと一緒にご提案いただきます。

フードコーディネーター・夏井景子さんのカトラリー選び

東京・二子玉川にあるマンションで暮らす夏井さん。普段は料理教室を主軸にしながら、メディアでのレシピ提案やドラマのフードスタイリングも担当するなど、忙しく働かれています。

中川政七商店にもファンの多い夏井さんの料理やスタイリング。そのアイデアは、窓から光の入るおおらかな台所で生み出されていました。

食器棚には仕事道具と趣味を兼ねたうつわがぎっしり並び、カトラリーも豊富にストックされています。

「カトラリーはちょっと形の変わったものが好きで、遊び心を添えるような役割を持たせることが多いです。うつわって楕円とか長方形とか、そんなに変わった形のものってないと思うんですけど、カトラリーは探してみるとオーソドックスな形から結構変わった形までいろいろあって。ちょっとくらい個性的でも食卓のエッセンスになってちょうどいいんですよね」

言われてみれば確かにうつわだと面積が大きい分、食卓の雰囲気を左右しますが、カトラリーだと小さいので、食卓に少しだけアクセントを添えるのにちょうどいいかもしれません。

「あとは、うつわとの相性も大事ですが何よりも料理ありきで選びますね。形や素材によって盛りやすさ、食べやすさも変わるから、そのあたりも吟味します。特に、お箸やスプーンなどの直接口に運ぶものは、口あたりや持ちやすさ、口に運んだ時に料理をおいしいと感じるかも大事なポイントです」

「なめらかな琺瑯のスプーン・フォーク」×「サラダとスープ」

中川政七商店の新作カトラリーから、夏井さんがはじめに選んでくださったのは「なめらかな琺瑯のスプーン・フォーク」。

カトラリーとしては少し珍しい琺瑯素材を採用したこちらの品は、口あたりがやわらかく汚れも付きにくい琺瑯の利点を活かし、“新しいスタンダードカトラリー”を目指して作りました。その名の通りなめらかな口あたりと、するんと料理を運べるなめらかなラインが特徴です。

「同じシリーズでスプーンとフォークがあるので、せっかくだし両方使えるメニューがいいなと思って。琺瑯の舌触りを一番感じられるのはスープかなと思ったので、今回はかぼちゃを使ったポタージュスープに合わせています。柄が長く持ちやすいフォークは初夏を意識した彩りの野菜サラダに使って、ゆっくりできる日のブランチのイメージです」

「生成・焦茶・青磁と3色あるので何色を合わせるか迷ったのですが、ここは野菜の色を引き立てるシンプルな生成にしました。お手頃価格なので全色ストックしておいて、料理や器のトーンが落ち着いているときは青磁を合わせるなど、気分によって使い分けるのもいいですね」

<使用した商品>

なめらかな琺瑯のスプーンフォーク 生成 大
【WEB限定】明山窯 TEIBAN WARE 長皿 淡青磁
信楽焼の小皿 黄はだ
食洗機で洗える漆のスープボウル 大 濃茶

※そのほかは夏井さんの私物

「陶器のソース鳥さじ・鳥鉢」×「初夏の野菜フライ」

「キャッチーな見た目で食卓を明るい雰囲気にするものを作りたい」と中川政七商店のデザイナーが生み出した「鳥さじ」「鳥鉢」。お気づきの通り、「鳥」と「取り」のダブルミーニングな品です。

それぞれ別の販売となりますが、断然セット使いがおすすめ。羽が描かれた鉢に鳥の形をした匙を入れると、鳥がくるんと体を丸めて止まっているようです。薬味やソースを入れてお使いください。

「鳥の羽のふわっとした感じを出したくて、ふわふわした見た目のタルタルソースを入れたいなと思いつきました。一緒に作った初夏の野菜フライには、玉ねぎやズッキーニ、パプリカなどを使っています。

料理が仕事の我が家では、野菜が半端に余ってしまうことが時々あって、そんな時はパン粉をつけて今日みたいにフライにするんです。簡単にできて満足感もあるおすすめメニューです」

「2色ある鳥鉢はシンプルな白もよかったのですが、今回は初夏っぽさに合わせて青色を選んでます。この色が入るだけで食卓の雰囲気がパッと華やかになりますね。お料理のトーンが少し寂しい時にも活躍しそうです。コンパクトなサイズ感ですが、2~3人分くらいのタルタルソースが十分入りました」

<使用した商品>

陶器のソース鳥さじ 白土
陶器のソース鳥鉢 青磁
美濃焼の平皿 土灰
信楽焼の小皿 黄はだ、並白

※そのほかは夏井さんの私物

「ステンレスの取り分けスプーン」×「ゴーヤチャンプルー」

誰かと食卓を囲むときに便利なのがサーバースプーン。どん!と出てきたボリュームのある料理をそれぞれが好きなだけ取り分ける際に、少し大きめのスプーンがあれば活躍します。

中川政七商店の新作では、ステンレスに熱を加えて色付けをするテンパー加工を施し、真鍮のような味わいのある表情を出しました。マットな輝きで、焼き物にもガラスの器にもなじむ佇まいに仕上げています。

「個人的にもサーバースプーンが大好きでいろいろ集めてるんです。サーバースプーンといえばやっぱり大皿料理。今回はボリュームたっぷりのゴーヤチャンプルーに添えました。ゴーヤの緑が鮮やかなので、少し落ち着いた真鍮のような色がよく合いますね。うつわは料理を引き立てられるように、黒っぽい陶器のものを合わせました」

「少しコンパクトなサイズかな?と思ったのですが、持ってみると女性の手にもちょうどよい大きさでした。すくう部分が広くてスムーズに料理が取れますし、角のシャープなラインがうつわのなかで食材を軽く切り離したいときにも便利ですね」

<使用した商品>

ステンレスの取り分けスプーン

※そのほかは夏井さんの私物

手になじむかたちや素材のぬくもり、ゆらぎある風合いが、口に運ぶたびに「おいしさ」をやさしく引き立ててくれる、工芸で作られたカトラリー。

料理やうつわに合わせて「今日はどれにしよう」と悩みながら、暮らしを彩るたのしみのひとつとしてご愛用いただけたら嬉しく思います。

プロフィール:

夏井景子(なつい・けいこ)

料理研究家、フードコーディネーター。
新潟生まれ。 板前の父と料理好きの母の影響で、食べることも、作ることも、人に食べでもらうことも好きになる。製薬学校を卒業後、パン屋やカフェ店長などを経て独立。雑誌や広告などで活動するほか、二子玉川で料理教室を主宰。BS-TBS『天狗の台所』『天狗の台所 Season2』をはじめ、テレビドラマの料理監修も手がける。著書『メモみたいなレシピで作る家庭料理のレシピ』(主婦と生活社)
http://natsuikeiko.com/

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文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【四季折々の麻】5月:涼しく軽い夏の定番「麻の夏布」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

涼しく軽い夏の定番「麻の夏布」

5月は「立夏」。きらめく日差しに目を細め、若葉の隙間からいよいよ夏の訪れを感じる月となりました。

今月お届けするのはこれからの長い夏にも心強い、涼やかで軽やかなリネン100%の服。かさばらず持ち歩きもしやすいので、旅の際にもおすすめです。

ラインアップは「チュニック」と「パンツ」。上下ともゆったりしたシルエットですがリネンならではの上品なツヤ感があり、きれいめに着こなしてもいただけます。

数年前からこの季節にお届けしている本シリーズでは、着まわしやすいシンプルな色とともに、毎年、夏の日差しに映える鮮やかな新色も登場。今年は「若竹」色がラインアップに加わりました。

【5月】麻の夏布シリーズ

麻のサマーチュニック
麻のサマーパンツ

今月の麻生地

細く繊細なリネンの糸を贅沢に使い、こまやかに生地目を詰めて丁寧に織り上げた生地。麻ならではの上品で控えめな光沢が美しく、カジュアルになりすぎないのもポイントです。

シャリ感がありつつもしなやかな肌あたりは、まさに麻特有の魅力のひとつ。さらりとした質感で、高い気温のもとでも快適に着ていただけます。薄手で涼しく、乾きも早くかさばらないので、夏旅のお供にもおすすめです。

また、広い生地幅を無駄なく使うデザインと、シンプルな縫製を採用したことで、麻の服のなかでは比較的お手頃な価格に抑えるようにしているのも、実はこだわっている点です。

お手入れのポイント

洗濯ネットを使用すれば、ご自宅の洗濯機で洗っていただけます。アイロンをかける際は少し生地を湿らせ、あて布を使用してくださいね。

麻のよさをそのまま感じられる、シンプルですっきりしたシルエット

ご用意したのは「チュニック」と「パンツ」の2アイテム。どちらもゆったりしたシルエットでシンプルなつくりですが、それゆえに素材のよさが引き立ちます。

色展開はベーシックで根強い人気の「紺」、透明感のある「灰白」、鮮やかな新色「若竹」の3色展開。ぱきっとした色合いは、リゾート感も演出してくれます。それぞれ別々にも着ていただけますが、ぜひ上下で合わせていただき、快適に夏を楽しんでいただけたらと思い企画しました。

同じ色で合わせてセットアップ風に着ていただいたり、上下違う色で夏ならではの色あわせを取り入れたり。気軽に着られる一着なので、色違いで揃えて夏の定番にしていただけると嬉しく思います。

チュニックはかぶって着られる形で襟ぐりはすっきりと広め。ストールなども合わせやすい首元のつくりとなっています。

裾のサイドにスリットがあり、「額縁仕上げ」という縫製方法(※ハンカチの角のように、きちんと角を折りたたんで仕上げる縫い方)で仕上げているため、四角いシルエットがすっきりときれいにおさまります。

麻は縫製の際にゆがみやすく、実は縫製技術が必要な素材。チュニックの裾がはねず、四角くきれいに落ちるようにこちらの方法で仕上げました。

パンツはとにかくシンプルで履きやすくノンストレス。そのまま一枚で着用するのはもちろんですが、軽やかな生地のため、お手持ちのワンピースの下にペチコートのようにも履ける万能なアイテムです。

灰白のみやや透けやすいため、おしりが隠れるくらいの長めのトップスと合わせるなどしてお楽しみくださいね。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちのよさがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。
特集サイト:中川政七商店の麻

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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鋳造の技巧が生み出す、銀白色の輝き「錫のミャクミャク」【大阪・関西万博 特別企画】

日本全国、そして世界各国から多くの人々が集う、2025年大阪・関西万博。

日本のものづくりの魅力を楽しく感じてもらいたいという思いを込めて、2025大阪・関西万博公式ライセンス商品として、工芸の技で豪華に表現したミャクミャクのオブジェ5種を制作しました。

今回はその中から、「錫のミャクミャク」に焦点を当て、その魅力を支えるものづくりの現場をご紹介します。

高岡銅器の老舗メーカー・能作が手がける、錫の工芸

手にとるとずしりと重く、やわらかな凹凸の肌が放つのは清潔でやさしい輝き。金属であるのにどことなく温かみを感じる「錫」は、その表情の他、錆びない・朽ちない・使えば使うほど味わいが出ると、古来から使われてきた素材のひとつです。

金・銀に次ぐ高価な金属でありながら、今では暮らしの道具にも用いられている錫。この素材を使って今回、富山県の能作(のうさく)に「大阪・関西万博」の公式キャラクターであるミャクミャクをつくっていただきました。

富山県高岡市に本拠地を置き今年で創業から109年を迎える能作は、高岡銅器の製造を手がける鋳物メーカー。高岡銅器とは富山県高岡市でつくられる金工品の総称で、江戸時代に加賀藩が土地に産業をうむため、鋳物師を大阪から呼び寄せたのがはじまりといわれています。

株式会社能作 5代目 能作千春さん

能作での鋳物づくりは、まず「原型」と呼ばれるおおもとの型を原型師が仕上げ、そこから金属を流し込むための鋳型をつくるところから始まります。

鋳型は生型(なまがた)と呼ばれる、砂に水や粘土を混ぜたものを押し固めてつくる型が一般的ですが、近年では技術研究によりシリコーンを用いる独自の鋳造法もあるそう。表現に合わせながら、使用する型が選ばれます。

砂でつくられる鋳型の例(写真提供:能作)

鋳造に用いられる金属は真鍮や錫、青銅など。

なかでも錫は、他の金属と比べて融点が低く、厚さによっては人の手でも曲げられるほどやわらかな素材といわれます。

その分、加工は粘土を削るような感覚で、目詰まりを起こしてしまうため、代表の能作千春さんいわく「一般的な硬い金属の研磨加工とは天と地ほど違う」そう。

「錫ってやわらかい他にも、いろんな素材特性があるんですよ。抗菌作用がある金属なので、花器にすると花が長持ちするといわれていたり、入れ歯ポットをつくると水が衛生的に保たれるような効果があったり。最近は医療部品の製造も行っています。ただ、これを合金にすると抗菌活性値も変わってきてしまいます。

あとは熱伝導率が高い素材なのも特徴のひとつ。夏場に冷蔵庫で1~2分冷やした錫のカップを使えば、冷たいビールをおいしく飲んでいただけると思います。

他にも、銀と違って黒ずみや錆びも出にくくて、経年劣化しづらいのも特徴ですね。それは今回のミャクミャクのように、置きものや愛でるものにとっては嬉しいポイントですよね」(能作さん)

溶かす前の状態の錫

錫で作る、工芸のミャクミャク

話を聞くにつれ、ますます気になる錫のミャクミャク。商品開発チームの吉田和広さんに、今回のものづくりについても教えてもらいました。

「一番難しかったのは原型をつくるところ。中川政七商店さんからデザイン案を頂いた後、肘の部分のしずくが落ちるような表現をどうやって可能にするのかや、専門的になるのですが、固まった鋳物を引き上げるために型をどううまく外せる仕様にするのかなど、関係者と頭を悩ませました。」(吉田さん)

元となる素材を溶かすところからはじまる、錫のミャクミャクのものづくり。溶解温度が1000度ほどの真鍮は炉を使って溶かされますが、一方で、錫には小さな鍋を用います。

これは錫の溶解温度が231.9度と真鍮に比べて非常に低い分、1、2度の温度変化によってすぐに固まるため。溶かした後、手早く型に流し込むために、小回りのきく鍋を使って溶かすのです。

錫を溶かす様子(撮影:浅見杳太郎)

鋳造の難しさにも職人たちが培ってきた技が光ります。

先ほどもお伝えした通り錫は融点が低いため、型に流しこむ速度によっては途中で固まってしまい、最後までいきわたらないこともあり得るそう。また、逆に温度が高すぎると表面が焼けてしまう事態にもなるといいます。

「流し方ひとつで、湯ジワ(※金属の流れた跡)が出てしまうこともあるんです。表面の美しさや、最後まで均一に錫がいきわたるかは、やっぱり職人の技術で。温度を測りながら作業はするのですがそれだけではだめで、鋳型の状態や湿度などの環境も加味して、毎回、温度や入れ方、スピードを職人が調整しています」(吉田さん)

職人の手で一つひとつ型に流し込む、ものづくりの“ワザ”。企業秘密により写真でお見せできないのが残念ではありますが、何気ない動作のようにも感じるその工程は、積み重ねた経験が叶えるものでした。

2~3分ほどして固まった後は、型から外して研磨の段階へ。湯(※溶かした金属)の流れた道や、全体の凹凸をなだらかにし、表面の鋳肌を均一に整えていく作業です。

こうして出来上がった錫のミャクミャクがたたえるのは、きらびやかではない、やわらかな表情。使っていくほどに味わいが出るのに、錆びない・朽ちないよさもある、長く暮らしに寄り添うオブジェが完成しました。

ちなみにお手入れも簡単。そもそも経年変化が少ない素材ではありますが、ふきんや眼鏡拭きなどで表面をやさしく磨くことで、より美しい状態を保っていただけます。

「職人が思いを込めてつくる一つひとつの製品の背景には、420年近くの高岡銅器の歴史があって。今回のミャクミャクでも、その歴史だったり技術だったり、それを繋いできた職人の心だったりを感じながら、長く愛でていただけたら嬉しいなと思っています」(能作さん)

銀白色のやさしい光沢感と吸いつくような持ち心地。錫のミャクミャクがある暮らしの景色を想像すると、心が和み、不思議と気持ちが落ち着く感覚があります。

ぜひ暮らしのお守りとして、長くご愛用ください。

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文:谷尻純子
写真:阿部高之

2025大阪・関西万博公式ライセンス商品
©Expo 2025

スタッフに聞く、母の日の贈りもの事情

大切な人に喜んでほしいものの、何を選ぶかが悩ましい母の日の贈りもの。お店ではどんなものが人気なのか中川政七商店のスタッフに教えてもらいました。スタッフのコメントを添えてお届けします。

アームカバー

母の日の贈りものとして、とても人気のアームカバー。「毎年購入しています!」と嬉しいお声をいただくことも多いアイテムです。
日除けとしてはもちろんのこと、冷房対策としてもお使いいただけて、これからの季節にぴったり。
デザインや生地感を豊富に揃えているので、いつものファッションや生活スタイルに合わせてお選びいただけます。
なかには「毎日使うものなので洗い替え用に!」と、複数枚プレゼントされる方も。
お手頃な価格なので日頃の感謝の気持ちを込めて、お花やお菓子などと一緒に贈るのも素敵ですね。

推薦スタッフ:
中川政七商店 東京スカイツリータウン・ソラマチ店 恒松 汐里

<写真の商品>
指が通せるアームカバー  桜墨
ひんやりアームカバー 浅縹
綿麻ふんわりアームカバー 黄/薄緑

<関連する商品カテゴリ>
アームカバー

香りもの

いつも頑張ってくれているお母さまやおばあさまにと、自分の時間を楽しめる香りの贈りものが人気です。
お店にはお香やアロマオイルなど色々な香りものを揃えているので、ご家族だからこそ分かるお好みの香りや、お仕事の合間や寝る前にリラックスしていただける香りなどをぜひ見つけていただけたら!
お贈りすることで、お母さまご自身で好きな香りを探しにいく、新たな趣味のきっかけにもなるかもしれません。
また自分が好きな香りを贈って一緒に楽しむのも、素敵な母の日の過ごし方だと思います。

推薦スタッフ:
中川政七商店 札幌ステラプレイス店 森 美沙

<写真の商品>
薫玉堂 試香 朱
瀬戸焼の線香皿 白志野
桜の手彫線香立て

<関連する商品カテゴリ>
香りもの

櫛、ヘアブラシ

身体をいたわるケアアイテムは「贈る相手を大事に思いやる気持ちが込められる」と、母の日の贈りものにもよく選ばれています。
なかでも櫛などのヘアケアアイテムは毎日使う身近なものだからこそ、特別感のある贈りものにするともらった方の嬉しさもひとしお。
髪のお手入れはもちろん、頭皮のケアもできるので、リラックスする時間を贈りたいときにもおすすめです。
場所や季節も問わず長く愛用していただけるところもポイントです。

推薦スタッフ:
中川政七商店 新潟ビルボードプレイス店 初見 幸夫

<写真の商品>
天然毛のヘアブラシ ブナ
つげ櫛 手織り麻袋入り

<関連する商品カテゴリ>
美容と健康の道具

このほかにも、中川政七商店では母の日におすすめの商品を多数そろえています。人気の品を詰め込んだギフトセットのご用意もございますので、ぜひご来店ください。

皆さまの母の日がよい日となりますように。

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コンセプトは「日常を豊かにする服」。STAMP AND DIARYによる、遊び心を纏ったシンプルな服づくり

普段使いをしたいけれど、ちょっとした遊び心は忘れたくない。

纏うと少し自信がわいて、心と体がふわりと浮くような服。

このたび、そんなわがままな洋服選びの気分にも寄り添ってくれる洋服ブランド「STAMP AND DIARY」と、中川政七商店がコラボレーションし、ブラウスとカットソーを作りました。

数あるブランドのなかでも、ものづくりに信頼が厚く、中川政七商店のお店でも多くのファンを持つSTAMP AND DIARY。その魅力のもとや、コラボレーションシリーズに込めた想いを取材しました。

消費されず「日常を豊かにする服」を目指す

訪れたのは東京・代官山。やわらかな白の壁に高い天井、時々聞こえてくる笑い声。服の印象にそのままリンクする清潔で軽やかな空間を拠点に、STAMP AND DIARYのものづくりは進められています。

創業11年の同社で代表を務めるのは吉川 修一さん。もともとはアパレルメーカーでの仕事が長く、同社を起こしたのは48歳の時でした。

「会社の名前は、空港の税関で押されるスタンプから。会社員時代に海外出張でヨーロッパに行くことが多くて、税関でパスポートにスタンプを押してもらっていたんです。よく考えてみるとそれが、いろんなきっかけをくれた時間の象徴だなと思って。

日本と海外、日常と非日常を行ったり来たりしたことで、知恵とか知識が得られたんじゃないかなと思うんですよ。いつもスタンプを押されるたびに、自分にどんどん蓄積されていく感覚があって」(吉川さん)

STAMPS 代表取締役 吉川修一さん

会社員時代、海外のなかでもヨーロッパを頻繁に訪れていた吉川さん。通ううちに少しずつ、日本と欧州が持つ消費への意識の向け方に興味が及んでいったと話します。

当時の日本は、今よりももっと“モノ”の消費が優先された時代。ファッション業界でも時間の流れは速く、「作っては売る」という過熱した消費ムードがあったそうです。

対してヨーロッパで感じたのは「いかに時間を豊かに生きるか」。

物を持たない人、親子3代にわたって長く着られる服‥‥。そんな現地の人々の物との付き合い方を知るうちに、吉川さんは日本の消費ムードに疑問を抱くようになりました。

「それで、自分がヨーロッパで感じた空気をもうちょっと洋服で表現したいなって、起業のイメージが出てきたんですね。同じようなスタンスをもつ企業へ転職する選択肢もなくはなかったんですけど、自分の思いを100%伝えるブランドにするのは難しいじゃないですか。

あと、個人的にも親の介護とか子どもの進学とか、いろんなタイミングが重なって。親の介護のなかでは、当たり前ですけど『人って死ぬんだな』とずしりと受け止めたりしました。人生は一回しかない、今が最後のチャンスかもしれないって」(吉川さん)

そうして株式会社STAMPSが誕生し、まもなくして「STAMP AND DIARY」が立ち上がります。コンセプトは「日常を豊かにする服」。会社名と繋いだ「ダイアリー」には、「日常」という意味を込めました。

STAMP AND DIARY独特の、繊細でやわらかな模様が浮かぶテキスタイル

目指すのは、時間の流れをちょっと変えるアパレル。去年も、今年も、10年後も、纏う人の日常を長く豊かにしてくれる“消費されない”服づくりです。

「僕が魅力的に感じるヨーロッパのご婦人方の方々って、着飾ってる“素敵”じゃなくて、自分らしい日常を楽しんでいる空気が“素敵”なんです。その人たちを見ると、素材がよくて、リラックスできるシルエットの服を着ていらっしゃることが多いんですね。それこそが、“デイリー”なんじゃないかなって思ったんですよ。

日常でも気負わず着られるし、例えば外出や食事の場合は華やかなアクセサリーを加えるだけで印象も変えられる。それって、素材がよくないと成り立たないんですよね。だからうちでは素材にこだわるし、日常で着心地がいいことも大事にしたいと思っています」(吉川さん)

ところで取材を進めていて感じたのは、職場の雰囲気のよさ。明るい空気が流れる理由を尋ねてみると、「会社に来ても楽しい、家に帰っても楽しい。それが一番最高だと思うんです。そういう会社になりたいですね。ミーティング中でも別のフロアから笑い声が聞こえたりすると、僕自身、すごく自分が豊かになるというか」と回答が。

服をつくるときに大切するスタンスが、会社の運営でも同じように大切にされている。簡単なようでいて難しいその体現と、のびやかな会社の空気に、ますますファンになってしまいそうです。

倉庫に眠る、アーカイブ生地を使った服

中川政七商店ではこれまで直営店やオンラインショップでSTAMP AND DIARYの服を販売させてもらってきました。

今回はその一歩先へ進んで、洋服づくりをご一緒することに。用いたのは中川政七商店の倉庫に眠るアーカイブの布たちです。

日本の染織技術で織り上げたそれらの布を、STAMP AND DIARYが誇る独特のデザインに落とし込み、春の終わりから長い夏まで存分に楽しめるブラウスとカットソーに仕立てていただきました。

「自分たちでもブランドの10周年のときに、過去のアーカイブ生地を使ったアイテムをつくったんですよ。それがお客様にすごく人気で。

その時使った生地は、僕がブランドを立ち上げる時になけなしのお金で初めて作った尾州の布で、いろんなことを教えてもらいながら織り上げていただいた思い出深いものでした。たくさんつくったから残ったんですけど、それって『余った古い布』ではなくて『宝』なんですよね。

つくり手さんが真摯につくったものは、余ったから安くするという考え方ではなくて、きちんとお客様に評価してもらえるようなデザインにして、価格も見合うものでご提案したいなと思ってずっと残していたんです」(吉川さん)

その考え方は中川政七商店とも共鳴し「新しく生み出すだけでなく、残っているものにも目を向けたものづくりを」と企画したのが、今回の「めぐり布ブラウス・カットソー」です。

皆さんより少し先に服を手に取り、感じたのは、“緊張しないときめき”。

一枚ではインパクトのある柄も、ポケットや袖に用いることで程よく着やすくなり、個性豊かな染織を纏うことも気後れせず、存分に楽しめそうな仕上がりとなっています。

「中川政七商店さんの生地を最初に見て触れた時、生地からとてもエネルギーを感じました。きっと多くの方たちが携わって生まれた貴重な生地だからこそ、惹きつけられたのだと思います。

こうした生地を使った、日常着としてのアイテムが出来上がりました。着ると少し豊かな気持ちになってくれたら、この上なくうれしいです」(吉川さん)

つくる人への尊敬を忘れず、手に取る人の心を豊かにする遊び心もあわせもつ。中川政七商店としても大事にしたい矜持が、STAMP AND DIARYの手がける服には詰まっています。

創業から貫く「洋服で豊かを目指す」というSTAMPSの思い。今回のコラボレーションシリーズが皆さまの日常を豊かにして、長くご愛用いただける服になれば嬉しく思います。

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めぐり布 身頃刺繍ブラウス
めぐり布 袖刺繍ブラウス
めぐり布 ドローストリング付きカットソー
めぐり布 ポケット付きカットソー

文:谷尻純子
写真:戸松愛