【四季折々の麻】9月:薄手ながら透けにくく、さらりと着られる「麻の高密度織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2024年9月2日公開の記事を再編集して掲載しました。

薄手ながら透けにくく、さらりと着られる「麻の高密度織」

9月は「長月」。夏の厳しい太陽を越えて秋にさしかかり、夜がだんだん長くなって、ゆっくり月を眺めたくなる季節です。

日中はまだ暑さが残るものの、日が落ちると涼しさを感じるようになってくる時季。そんな季節の変わり目に重宝する、調整がしやすく、長いシーズンで着られる服を作りました。

素材に採用したのは高密度に織られた麻生地。じつはこちらのシリーズ、昨年も同じ時期に販売しており、そのやわらかで軽やかな生地感に中川政七商店のスタッフにも愛用者が多かった素材です。

今年も「ワークコート」と「ワンピース」、「タックパンツ」と、夏の暑さが長引いても楽しめる3アイテムを揃え、気温の上下が激しい秋のスタートにも心強いラインアップとしました。

【9月】麻の高密度織シリーズ:

麻の高密度織 ワークコート
麻の高密度織 ワンピース
麻の高密度織 タックパンツ

今月の「麻」生地

薄手ですが高密度で織られているため、透け感がなく一枚でも着ていただけます。生地の表面はさらりとしていて、麻本来の機能である吸湿発散性もあるため、まだ汗をかく季節も心地好く着られるのが嬉しいところ。

ここ数年、天候や栽培の関係で質のよい麻素材が手に入りにくくなっているなか、今回のシリーズは贅沢にリネン100%を使用しました。遠州地方で長く使われてきた力のある織機を使い、高密度に糸を詰めてしっかり織り上げた生地を用いています。

仕上げは滋賀県の湖東地方で、布をやわらかくする加工を何種類も行い、肌あたりのよい生地感に。織りの遠州地方・加工の湖東地方と、いずれも日本で古くから麻を得意として扱う地域で生産した生地です。

強度がある素材ですが、着用を重ねることでよりやわらかく、なめらかに育っていきます。ぜひたくさん着用して自分だけの一枚にしていただければ嬉しく思います。

お手入れのポイント

ご自宅の洗濯機で洗っていただけます。生地の傷みを防ぐため、お洗濯の際は裏返してから洗濯ネットに入れるようにしてください。干す際は洗濯じわを手でぱんぱんと伸ばすのが、きれいに乾かすポイントです。

そのままの洗いざらしの風合いも素敵ですが、パリッと着たいときや部分的なしわが気になるときにはアイロンをかけていただいても。麻の生地全般に言えることですが、麻は水に強く乾燥に弱い素材。パリパリに乾いた状態で高温のアイロンをあてると傷んでしまうため、ご注意ください。

しわが気になる場合には、霧吹きで少し湿らせてからあて布を使うか、裏からアイロンをしていただくと生地が傷まずテカリも防止できますよ。

薄手ながら透けにくく、長い季節で楽しめる3つのアイテム

今回は生成・墨黒・そして新色の金茶の3色。秋の夜長に溶け込みそうな色合いにしています。どのアイテムも軽く、ゆったりとしたシンプルなシルエットを採用しました。定番の一枚として季節が進んで涼しくなるごとに、合わせるアイテムを変えながら長く楽しめます。

アイテム単品で着用いただくのはもちろんですが、シリーズのコートとパンツ、コートとワンピースなど、セットアップで着ていただくのもおすすめです。

気軽に羽織れるワークコートは、ロングカーディガンのようなイメージで着られます。肩を落としたゆったりシルエットと、テーラードカラーのきちんと感のバランスをとって仕立てました。麻のつや感がほどよく上品で、まだ暑い季節はTシャツの上にさっと羽織るだけで、お出かけ着として重宝します。

もちろん、冷房の風が気になる自宅でラフに羽織っていただいても。袖をたくし上げると作業もしやすく、家事のじゃまにもなりません。

気温に合わせて多様に着こなせるワンピースは、暑い時期は半袖の上に、肌寒くなれば薄手のニットと合わせて。首元に切り込みを入れたキーネックを採用しているため、そのままかぶって着られます。ゆったり感がありながら、きちんと感も出るようにデザインしました。

肩にはタックを入れて身体に添わせつつ、裾にかけては麻のハリのおかげできれいにひろがるシルエットになっています。

タックパンツはその名の通り、ウエストにタックをとり、ゆったり丸みのあるシルエットに仕立てました。こちらも麻のハリ感があるため、身体の線を拾わずに着ていただけます。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。


「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。
https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/e/ev0667/

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子


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【旬のひと皿】丸ごと万願寺とうがらしと茄子のつくね焼き

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



「一期一会で終わらせないで、会いにいってみよう!」と思い立ち、ヨーロッパに冒険の旅へ出かけてきました。

毎日、初めてのことばかりだった社会人になりたての頃。今も一日として同じ日はないし、お店では日々、喜んでいただくために一生懸命ではあるけれど、新鮮な発見を繰り返したあの頃の環境を、もう一度つくってみようと思ったのです。

お店に来てくださったお客さんのところへ会いに行く、2週間の旅。せっかく行くのだから、お客さんだけでなく、その周りのお友達や親しい人にもお蕎麦を食べてもらいたいと思い、3か月ほど、どうしたらうまく行くのか仕事終わりに考えていました。

蕎麦を海外で打つには、包丁と麺棒、駒板、まな板、蕎麦粉に打ち粉、つながらなかった時のためにつなぎも入れて‥‥。出汁は昆布と干し椎茸でさっと取って、かえしは最低限でも持っていきたい、と考えていたら、それだけでかなりの重量。

スーツケースに入るギリギリの長さの麺棒と、紛失しても帰国してからの営業に支障がないよう、包丁は新しく手頃なものを購入しました(ちなみに、こね鉢は各所でボウルをお借りさせてもらうことに)。

14時間近く飛行機に乗り、そこからバスや電車を乗り継ぎ、国も越えながら、結局4か所の厨房やお家のキッチンで蕎麦を打たせてもらえました。

どの場所でもみなさん親切に迎えてくださり、蕎麦打ちにも興味深々。嬉しい再会ができたことや、偶然のご縁から出会った方の日常にお邪魔させてもらえたこと。また、いろんな暮らしかたやおいしいを体験させてもらうこともでき、とても嬉しい経験となりました。

この旅で時間をつくってくださった方々、ありがとうございました。

旅の最終日に連れて行ってくださったお店で出てきた「ピーマンを丸ごと焼いたもの」のおいしかったこと!添えてあった茹で上げのいんげん豆の、茹で加減も最高だったな。シンプルなおいしさに、旅の緊張感もほっとしました。

予想外のハラハラした出来事で、どうなることかと思った時間もありましたが、お力を貸していただいた方々のおかげで無事に帰ってこれたこと、また自分の日常をリスタートできたことも嬉しく思います。

うまくいかなかったことは次の機会にうまく行くよう準備をして、また、知らない世界へお蕎麦と共に出かけてみたいです。

<万願寺とうがらしと茄子のつくね焼き>

茄子の水分でふわふわ食感のつくねをつくります。茄子は焼いて香ばしさをプラスするのがポイントです。焼き網がない場合は、フライパンやトースターを使っていただいても。

材料(2人分)

・万願寺とうがらし…4本
・茄子…2本
・豚肉(ミンチ)…150g
・卵…1/3個 ※溶き卵にして、1/3を使用
・醤油…少々
・塩…小さじ1/5
・クミン…少々

◆ソース
・醤油…小さじ1~2
・バター…5g

作りかた

万願寺とうがらしに数か所の穴をあける。少量の塩(分量外)をふり、網で焼いておいしそうな焼き目をつける。

茄子はヘタをとり、網で焼く。お箸で触ってやわらかくなれば網からあげる。やけどに注意しながら熱いうちに皮を剥く。刻んでボウルに入れたら醤油を加えて軽く下味をつけ、そのまま冷ます。

別のボウルに豚肉と卵、塩を入れて捏ね、よくなじませる。焼き茄子とクミンを入れてさらに捏ね、2等分にして丸める。※卵は入れ過ぎるとタネがゆるくなるので注意

フライパンを熱し、油(分量外)を少し入れたら、つくねを入れる。やわらかいので表面が固まるまでは触らずに。焼き目が付いたら裏返して蓋をし、弱火で火を入れていく。

つくねに火が通ったら、出てきた水分に醤油とバターを入れてソースを作る。お皿に盛り付け、万願寺とうがらしを添えたらソースをかけて完成!

うつわ紹介

益子焼の平皿 青磁

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

心をくすぐる、香りの景色。編集者・長野宏美さんがしつらう「花草木ポプリ」

ふと視線を向けた時、心がふわりと浮き立つような、日々の暮らしに息づくお気に入りの景色。このたび中川政七商店ではそんな景色をつくる“香り”として、「花草木ポプリ」を企画しました。

香って愉しむだけではなく、植物の素材感を眺めても愉しめる本商品。

自分らしい暮らしの景色をつくるあの人なら、どんなふうに香りをしつらうんだろう?と気になって、発売より少し早く使っていただきました。

訪ねたのはフリーランスの編集者、長野宏美さん。都内ながら緑豊かなエリアにあるご自宅でお話を伺いました。



風が気持ちよく抜けるヴィンテージマンションで、夫と1歳のお子さんと3人で暮らす長野さん。各地で出会い、選び抜かれたアイテムがバランスよく配置されたご自宅は、まるでギャラリーのような印象です。

長野さんのおじいさまは家具職人。その背中を見るうちに自身もまた、ものづくりへの興味が培われてきたといいます。

会社員時代には工芸やまちづくりに携わり、地方の作り手と関わるなか、ものへの愛情はより深まっていったそう。同時に、ものの器である家もまた心地よくしたいと、同じく道具や家具に関心の高い夫とともに自宅をつくりあげてきました。

フリーランスの編集者として活動する今も地方の事業者や作り手と仕事で関わることが多く、自宅に並ぶうつわやオブジェには、そんなお仕事の縁から迎えたものもたくさんあるといいます。

「普段は新しく立ち上がるプロジェクトのディレクションをしたり、販促物の編集をしたり、必要に応じてロケ撮影の立ち合いをしたりもしています。

仕事で地方に行くことも多いんですけど、仕事だからって終わったらすぐ帰るタイプではなくて(笑)。その土地ならではのおいしいものとか独自のお店を調べて、合わせて訪れることもよくあります。

そういうところで出会ったものや、お仕事でご一緒した作り手さんのものを持ち帰ることが多いですね」

「特にときめくのはストーリーがあるもの。作っている方や、製造背景は気になるポイントのひとつです。あとはやっぱり、暮らしを想像したときに使っているイメージがわくかどうかも大事ですね。

旅先での出会いは一期一会なのでその日に迎えることも多いですが、一方で、色や素材まで具体的にイメージしてじっくり探すこともよくあります。探しても見つからない場合は、自分たちで作っちゃえ!となることもあるんです」

少しずつ育ててきた暮らしのなかで、香りものも普段からよく使用するという長野さん。取材当日に出していただいたハーブティーからも、香りを心地よく取り入れるための工夫に出会いました。

「食事からも香りは取り込めると思ってて。特にハーブティーが好きで、自分でブレンドするのもちょっとした実験みたいで楽しいんです。

今日はレモングラスを煮出してお湯に香りをつけてから、グァバ茶を合わせました。硝子のポットでお湯を沸かすとハーブがくるくる回ってその様子もかわいいんですよ。最後にもう一度レモングラスを入れて、香りも見た目も楽しめるようにしてみました」

また、お茶以外でも普段から香りものをよく愛用するそう。

リビングの茶香炉や仕事部屋のお香立て、自分のまわりだけ香らせたいときに使うアロマオイルなど、場所や気分による自分なりの付き合い方もたくさんお持ちです。

「うちは赤ちゃんがいるので強い香りがするものはリビングでは使ってないんです。普段は茶香炉を炊いて茶葉をやわらかく香らせていますね。

一方で、扉で仕切られた仕事スペースではお香やパロサントを炊くこともあります。あとは出がけに練り香水をつけたり、散歩に行く前にアロマスプレーをサッとかけたり。風が吹くと植物の香りとあわさって、すごく気持ちいいんですよ。

他にも、気分転換したいときにロールオンタイプのアロマオイルをつけることもあります」

普段から香りとの距離が近い長野さん。今回の「花草木ポプリ」はどんなふうに取り入れていただいたのでしょう。

「野花が咲いたようなふくよかな香りがいいなと思って、まずは玄関に置いてみました。小分けできるのでトイレなどのコンパクトなスペースでも使いやすそうですね。

特別なときは、一時的にリビングに置くのもいいかも。

もともと別のポプリを使っていて、普段は玄関に置いておき、お客さまが来たときだけリビングに持ってきて香らせていたんです。今回のものはウッドチップとお花の素材感がしっかりあって見た目も華やかなので、お花を飾るような感覚でしつらえるなと思いました」

「私自身、自然のなかに身を置くことがすごく好きで。家探しをするときは公園が近くにあることも大切な条件なんです。さりげない香りとか、目に映る季節の色が気持ちよくって。なので、今回のポプリのような自然の素材感がそのままにある香りものが室内にあると、リラックスできますね」

「今までにない新感覚な香りもいいなと思った点のひとつです。ヒノキやヒバのような木の香りが好きなので、ちょっと安心する感覚もありつつ、お花の香りもしっかり香ってて。それが今までにない組み合わせだなと思いました。

玄関に置いていると、夫も、帰ってきたときにすごくいい香りって言ってくれて。爽やかさと華やかさがバランスよく融合していて、男女問わず好まれる香りなのかなと思います」

「まずはそのまま楽しんで、香りが弱くなってきたら好みのアロマオイルを少し足すのもいいかもしれません。そうすると見た目のかわいさを保ちつつ、長く香りを楽しめそうですね」

暮らしのリズムに合わせて、香りものの使い方も自分らしく調律していく長野さん。

今回のポプリも佇まいのよいオブジェや道具とともに、暮らしの景色をつくる香りとしてお楽しみいただきました。

心地よい暮らしを彩るアイテムとして、ぜひ皆さまのご自宅でも、華やぎや安心を添える香りのしつらいになれたら嬉しく思います。

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木々と野花のポプリ
木々と野花のポプリと硝子の蓋物 セット

文:谷尻純子
写真:枠谷結也

香りを暮らしに取り入れる。「花草木ポプリ」監修、fragrance yes・山野辺喜子さんインタビュー

ふと視線を向けた時、心がふわりと浮き立つような、日々の暮らしに息づくお気に入りの景色。

このたび中川政七商店ではそんな景色をつくる“香り”として、香って愉しむだけではなく、植物の素材感を眺めても愉しめる「花草木ポプリ」を企画しました。

香りの監修を手がけていただいたのは、フレグランスブランド・fragrance yesの代表である山野辺喜子さんです。

入浴剤にお香、アロマオイル、ファブリックスプレーなど、いろいろな「香りもの」があふれる今の暮らしですが、意外とその取り入れ方は曖昧なもの。

この機会に改めて、香りものと上手に付き合うコツや、そのなかでもポプリならではの魅力が知りたいと、都内にある山野辺さんのラボを訪れました。

“YES”と言えるものづくりを

都心にありながら、静かな空気に包まれたコンパクトなラボ。ドライフラワーやウッドチップ、アロマオイル、蒸留器が所狭しと並ぶその場所に、フレグランスブランド・fragrance yesの活動拠点はあります。

「もともと私自身にアレルギーがあって。肌の荒れやかゆみに悩んでいたのが、今の活動につながるきっかけなんです。

強い薬を使えば一時的によくなりはしますけど、すぐにまた繰り返してしまう。結局は対処療法じゃなくて、自分で心と体をととのえていくのが大事だなと気付いて、植物療法や自然療法を取り入れはじめました。

そのうち、少しずつ自分がよくなるにつれて、他の方にもこの経験を届けたいと思うようになって。それで植物の精油を取り入れたスキンクリームを作ったり、セルフケアの方法を伝えたりするワークショップを開催しはじめたんです」

心と体を根本からととのえたいと植物の力を用いるようになった山野辺さん。自分に合った取り入れ方を模索するなかで、植物がもつ薬効成分だけでなく香りにも興味が向くようになったといいます。

「最初の頃はもう何でもいいからって感じで使ってたんですよね。だけどその香りが刺激的すぎてストレスになり、使うのが嫌だなと思うこともあって。せっかく自分をととのえるために使うものなら心にも気持ちのいい香りであってほしいと、調香もするようになりました」

そうして全国でワークショップを続けるうち、徐々に参加者から商品の購入を希望する声が届くように。そんな期待に応えるため、2014年にフレグランスブランド・fragrance yesが誕生したのです。

取り扱うのはアロマオイルやファブリックスプレーなど、暮らしに心地よい香りもの。天然素材にこだわり、できるだけ余分なものを入れないことを大切に、セルフケアによって日々の暮らしにエネルギーを取り込めるブランドづくりを進められています。

「ブランド名の『イエス』は、誰に何を聞かれても『イエス』と答えられるものづくりや活動を大事にすること、つまりお約束の『イエス』からつけました。

あとはもうひとつ、使っていただく皆さんにもご自身が食べるものや肌に使うものを選ぶときに、できるだけ『イエス』と言える選択をしてほしいなって思いも込めています」

身近な香りを、暮らしに無理なく取り入れる

今ではご自身のブランドを進める傍ら、他ブランドの香りものを企画・監修することも。香りのプロと信頼の厚い山野辺さんに、香りものとの付き合い方も教えてもらえたらと話を続けました。

そもそも、バリエーションも使い方も、今やとにかく情報があふれている香りもの。自分にとってのひとつを、どんなふうに選んでいくのがよいのでしょう。

「香りものを暮らしに取り入れるよさは、とにかく自分の心がととのうこと。

仕事にしてもプライベートにしても、ともすればずっとスイッチオンの状態が続いてることってあると思うんです。それを緩めるのはなかなか難しいけれど、例えば自宅に帰ったときに玄関からふといい香りがすると、『ああ帰ってきた』ってちょっと緩みますよね。

あるいは寝るときの枕元に香りを置くことで、日中に溜め込んだ不要なエネルギーとか、モヤモヤした感情がそっと消えていったり。

そうやって、自分の気持ちを調整したいときに使っていただくのがよいと思います。

最初から個性的な香りを選ぶと苦手意識が出てきちゃうかもしれないので、木々や柑橘、ハーブのような、身近な香りから始めていただくのがおすすめです」

「それと、どんなタイプのものを選ぶかも大事ですよね。

もし香りものの利用にあまり慣れていないなら、自分の暮らしに無理なく取り入れられて、気分が向いた時に使えるものがよいと思います。まずはハンドソープをお気に入りの香りにしたり、好きなタイミングで自分のまわりだけシュッと香らせられる、アロマスプレーなんかも取り入れやすいですね。

あとは今回ご一緒したようなポプリも、手軽に利用できるのでぜひ使ってみてもらえたら。

好みの量をうつわに入れて置くだけで手軽に部屋を香らせられますし、小さなうつわに小分けしてお手洗いや洗面台みたいな、少し気分を変えたい場所に置いておくのもおすすめです。

今回のセット商品のように蓋があるうつわの場合は、お出かけの際や香らせたくないときは蓋をかぶせておけば香りもやわらぎ、長持ちします」

香っても、眺めても心地よい「木々と野花のポプリ」

山野辺さんが香りをつくる際に意識しているのは、「心と体にすっとなじむこと」。それはつまり、無理をせず、自然に手が伸びる香りです。

このたびの「花草木ポプリ」の「木々と野花のポプリ」についても、国産の木々をベースに、野花の香りを合わせ、さりげなく香って暮らしに心地よいことを目指して調香いただきました。

「中川政七商店さんならではの香りをどう表現できるか、たくさん調整を繰り返しました。さりげないけれど程よく華やかで、かわいらしい香りに仕上がった印象があります。

華やかな香りなので気分が明るくなりますし、やさしさもあるので、例えば就寝前や休日にそばに置くのもおすすめです。

少し疲れちゃったり、傷ついちゃったり、そんなときに自分を慰めてあげる、元気を出してあげるようなイメージの香りになっていると思います」

また香って心地よいことはもちろん、ポプリならではのよさは「佇まい」と山野辺さん。特に「花草木ポプリ」では、暮らしの景色を彩るしつらいのように飾れることにもこだわりました。

「香りって普段は目に見えませんけど、ポプリだと素材感が見えるので『ここに香りがいるんだな』って可視化できますよね。今回のポプリは特に見た目がかわいらしいので、香っても眺めても楽しんでもらえると思います。

玄関やお手洗いに置いていただいてももちろん素敵なんですけど、個人的にはリビングに置いてあげるのもいいのかなって。

日々暮らしているお部屋のなかにちょっとやさしい香りが漂うとか、目に入ったときに『かわいいな』と思えるものが身近にあるって、それこそ心がととのう時間になると思うんです」

気分を変えたりくつろいだりと、心のリズムをそっと調律してくれる香りもの。

今回のポプリもそんな存在として、木々や野花の華やかな姿と、ときめく香りが、皆さまの心と暮らしの景色を心地よく彩れたら嬉しく思います。

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木々と野花のポプリ
木々と野花のポプリと硝子の蓋物 セット

文:谷尻純子
写真:枠谷結也

【四季折々の麻】8月:風が通り抜けて涼しく着られる「麻のかや織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2025年7月1日公開の記事を再編集して掲載しました。

風が通り抜けて涼しく着られる「麻のかや織」

8月は「立秋」。暦の上では夏の暑さがピークを迎え秋へ向かっていく季節ですが、今年も暑さは長引きそう。そんな残暑も、心地よく過ごせる麻の服をつくりました。

展開するのは7月に引き続き、目の粗いかや織の生地を採用して仕上げた「麻のかや織」シリーズ。「ブラウス」と「ギャザースカート」「羽織ワンピース」の3アイテムに、8月から新たに「ローブ」が加わります。

いずれの服も、縫製後には洗い加工をかけてふんわりとした風合いに。かや織の透け感、風に揺れる様子を愉しんでいただける夏の服です。

【8月】麻のかや織シリーズ:

麻のかや織 ローブ
・麻のかや織 ブラウス    
・麻のかや織 ギャザースカート
・麻のかや織 羽織ワンピース   

※「ブラウス」「ギャザースカート」「羽織ワンピース」はオンラインショップでは完売いたしました。各店の在庫状況についてはお立ち寄り予定の店舗へお問い合わせください。

今月の「麻」生地

かや織は「風は通すが蚊は通さない」と重宝されてきた蚊帳(かや)に使われる、目の粗い薄織物。中川政七商店の代名詞といえる「ふきん」にも使っている布地です。

今月の麻生地ではその通気性のよさを活かしつつ、強度・透け感など洋服に適した密度になるよう織り上げました。

目の粗い生地は縫っているときに歪みやすく、実はかや織は、縫製に高い技術を要する織物。加えて繊細な生地でつくる洋服のため、縫製の仕様にも注意が必要です。今回は作り手さんにご協力いただき、縫い合わせに力がかからないデザインや、力がかかった際も生地を傷めにくい縫製仕様など、手間のかかる方法を選択することで完成しました。

素材は麻のなかでもリネンを採用。ラミーやヘンプなど麻にも様々な種類とそれに応じた特徴があるなかで、リネンは洋服によく使われるさらりとした風合いのよい素材です。

今回は糸の状態で染めた「先染め」のリネン糸を用いて、やわらかな複雑さを持つ表情の生地を織りあげました。一見すると一色に染めたように見えますが、実はタテ糸とヨコ糸の色を微妙に変えており、色に奥行きを持たせています。

先染めは生地の状態で染めたものに比べて色落ちしにくいのもポイントで、汗をかいて洗濯が増える夏の衣類にうれしい生地です。

さらには薄地で織り目の粗い生地のため、洗濯後の乾きが早い点も魅力の一つ。麻素材を使っているためさらに乾きが早く、洗うほどにやわらかくなっていきます。

お手入れのポイント

お洋服を長くご愛用いただけるよう、基本的には手洗いをおすすめしています。目の粗い生地のため、ひっかけには要注意。脱水時はネットに入れるようお願いします。

干し方はお好みで。形を整えて乾かせば自然なシワ感になりますし、さらにシワ感を楽しみたい方は、手で絞ってシワをつけて干してみてもよいでしょう。シワ感がお好みでない方は、乾いてからアイロンをかければ上品でなめらかな印象となります。

ふんわり、肌離れよく着られる夏の服

ゆったりとしたシルエットにデザインしているため、肌離れがよく、とにかく涼しい今月の麻の服。色展開は定番色として毎年人気の「紺」と、爽やかな印象を引き立ててくれる「水色」、また装いに華やかさを添える「薄紫」の三色をご用意しました。

8月から展開のローブは、長袖ですがゆったりしていて風通し抜群。襟元を伸ばせば首を覆うことができ、日よけはもちろんクーラーよけにもおすすめです。

朝晩の少し冷えるときには袖を伸ばし、昼には袖口をロールアップして涼しげに。ふんわりしていてシワ感も気にならないので、クシュッとまとめてカバンにポンと入れられるのが嬉しいところ。旅行にも気軽に持っていけます。

気温が下がってきたら長袖のカットソーの上に着ていただいても。夏から秋まで長く着られる一枚です。

「ブラウス」はすとんとしたシルエットで、とにかく涼しいイチ押しアイテム。すっきりと着られる丈感で、パンツにもスカートにも合わせやすいように作っています。同じシリーズのブラウスとギャザースカートを上下で合わせ、セットアップにするのもおすすめです。

「ギャザースカート」は、足首が見えるぐらいの丈感で、足さばきよく履いていただけます。表地に透け感があり涼し気ですが、裏地がついているのでインナーは透けません。ウエストはゴム仕様のため楽な履き心地で、裾広がりのシルエットで体型も選ばずきれいに着用いただけます。

「羽織ワンピース」は前を開けても閉じても着られます。ボタンを開けて着れば、ロングカーディガンのような装いに。Tシャツとパンツ、といったラフな格好にも羽織るだけで、よそ行き感が増すアイテムです。

ふんわりしていてシワ感も気になりにくいため、クシュッとまとめてカバンにポンと入れ、ぜひ旅行にもお持ちください。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちのよさがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

特集サイト:中川政七商店の麻

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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【旬のひと皿】スイカのスムージー

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



「奈良にはいろんなお祭りがあっておもしろいんですよ」と、とある方から教えてもらいました。例えば毎年7月7日には吉野町のお寺で「蛙飛び行事」なるものがあるそう。

少し検索しただけでも、全国でもこちらのお寺さんだけの珍しい行事だということがすぐに出てきました。長く住んでいても知らないことが多く、お祭りといえば花火と屋台だけではない、長年、毎年行われている行事があるのだなと楽しくお話を聞かせてもらった日でした。

私の生まれ育った島根の町でも県を代表する七夕行事があります。旧暦の七夕の日(8月6日)の夜に平和を願い、浴衣やはっぴで着飾った子どもたちが笹竹に短冊や提灯などの七夕飾りをつけ、お囃子をしながら山車とともに商店街を練り歩くというもの。450年も続くお祭りです。

夏休みに入ると、お祭りの日までは毎日、午前中は準備に出かけていました。そのお祭りに欠かせないのがスイカの形をしたスイカ提灯。子どもたちの持つ笹竹や、各家庭の軒下に吊るされるものです。

手づくりなことも相まって、可愛らしいあたたかい光が灯る夜の景色。毎年お祭りには行けずとも必ず思い出す素晴らしい夏の思い出です。

毎年続けていけるのは、地元の皆さんのお力があってこそだと思います。全国の様々な行事がこの先も続くことで、各々の世代みんなが同じ経験をして育っていく。当然のようで当然ではない、貴重な経験をさせていただいたなと地域の方には感謝しかありません。

お祭りの翌日にはスイカを切って各家庭に配ってもらいました。ビックイベントが終わってしまった寂しさと、楽しかったお祭りを思い出して食べる夏のスイカはとってもおいしかったものです。

年齢を重ねた今はというと、暑さも年々増してきて、仕事おわりのスイカに助けられています。

暑いところから帰ってきて、冷えたスイカにかぶりつくのが最大限にスイカのよさを味わえるとは思いますが、今回はちょっと趣向を変え、少し塩分も加えてごくごく飲めるスイカのジュースを作ってみました。

<スイカのスムージー>

材料(2人分)

・スイカ…1/8カット
・クランベリー…お好みの量
・ハーブ(今回はミントとタイムを使用)…適宜 ※飾りに使用
・豆乳…200ml(スイカの半分程度の量になるように)
・はちみつ…少々
・塩麹…少々

作りかた

スイカは皮部分を切り落としたら、飾り用に真ん中の甘い部分を切り分けておく。時間があれば、切り分けた部分を凍らせてスイカ氷にするのもおすすめ。その他の部分は小さくカットし、種を取り除く。

クランベリーがあれば一粒を4等分に切っておく。

ボウルに種をとったスイカ、豆乳、はちみつ、塩麹を入れる。ハンドブレンダーを使い、果肉感が残るよう軽く攪拌する。

グラスに入れ、取り分けておいたスイカ、クランベリー、ハーブを飾って完成!

うつわ紹介

切子の足つきグラス 丸ちらし

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/