【あの人の贈りかた】普段とは違う、新しい“好き”に出会える香りもの

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は大日本市課の藤田がお届けします。

新しい香りに出会える「薫玉堂 試香」

知人からお香を贈られたことがきっかけで、お香集めにハマり、香りを提案される楽しさを知りました。

自分で選ぶ香りはどうしても好みが偏りがち。新しい香りとの出会いを逃している気もするので、人から頂く、普段とは違う香りにわくわくします。

贈りものを選ぶとき、その経験を思い出して選んでいるのが薫玉堂の試香です。

全11種類の香りのなかから6種類が詰め合わされたお香のセットで、少量ずつ香りを試すことができるので、相手の好みがわからなくても贈りやすいなと思います。

「どの香りがよかった?」と、話ができるのも楽しみの一つですね。

京都の西本願寺前で1594年に創業し、日本最古の御香調進所である薫玉堂さん。歴史の重みを感じつつも現代的で洗練された印象があり、香りはもちろんデザインも大好きです。

「音羽の滝」「宇治の抹茶」など、京都を思わせるネーミングも素敵。私は「北野の紅梅」と「祇園の舞子」の香りが好きなので、2種類が含まれた「朱」を迷いなくセレクトしています。

贈った相手と好みが同じだったら嬉しいな、なんて思いながら贈ります。

<贈りもの>
・薫玉堂「試香」

相手をイメージしたオリジナルのデザインに「motta」

相手のイニシャル入りアイテムも、よく選ぶ贈りものの一つ。

贈りものをいただいた時に嬉しいと感じるのは、ものそのものよりも、相手が自分のために考えて選んでくれた、という気持ちが伝わるから。イニシャル入りのアイテムは、その人のためだけに用意した特別なものとして、自分の心を伝えやすいと思うのです。

mottaのハンカチには、アルファベットやモチーフを組み合わせて刺繍を入れられます。アルファベットはフォントを選べるので、相手のイメージに合わせられますし、モチーフは中川政七商店の各店舗限定のものや、季節限定のものもあって、組み合わせを考えるのも楽しいです。

以前、友人が奈良まで遊びに来てくれた時に、motta037のピンクのハンカチに金字で刺繍を入れたものを贈りました。
その組み合わせがとにかくかわいくて‥‥自分も欲しくなってしまいました(笑)。

<贈りもの>
・中川政七商店「motta」

地元の美味しいを届けるお菓子「多々楽達屋 至福のひととき」

転職を機に奈良に越してきてから、日本全国のさまざまな地域に知見を持つ方々とたくさん出会うようになりました。

職場や社外の方と、出身地や好きな地域について話すことが多く、日本全国のものづくりに焦点を当てている中川政七商店らしいなと思います。

そんな中川政七商店を通じて出会った方々には、私の地元についても知ってもらいたいと思い、地元の岐阜県土岐市でドライフルーツ・ナッツの製造販売をしている「多々楽達屋(たたらちや)」さんのギフトをよく贈っています。

多々楽達屋さんのドライフルーツに使用される果実やナッツは、産地に赴いて現場を確認し、直接買い付けているため、素材の良さに安心感があります。また、余計な砂糖や塩を使わずに加工されていて、素材そのものの味が楽しめるのも魅力です。

私は多々楽達屋さんに出会ってから、ほかのものが食べられなくなりました。
それくらい、一度食べたら虜になる味わいです。

「至福のひととき」は食べきりサイズで個包装になっているので、贈りものにぴったり。
贈り先の人数がわかっているときは、人数分購入してギフトラッピングしてもらうこともできます。

ギフトボックスもあるのでフォーマルなシーンでも使いやすく、全国の百貨店を中心に16店舗を展開しているので、出先でも購入しやすいのも嬉しいポイントです。

<贈りもの>
・多々楽達屋「至福のひととき」 ※中川政七商店での販売はありません

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 大日本市課・藤田愛実

【地産地匠アワード】桐生らしさは“挑戦”。プログラミング技術と人の手から生まれる刺繍雑貨で、産地の北極星を目指す

土地の風土や素材、産地や業界の課題に、真摯に向き合って生まれたプロダクト。
そこには、日本のものづくりの歴史を未来につなぐそれぞれの物語がつまっています。

「地産地匠アワード」は、地域に根ざすメーカーとデザイナーとともに、新たな「暮らしの道具」の可能性を考える試みです。2024年の初開催では、4つのものづくりに賞が贈られました。

今まさに日本各地で芽吹きはじめた、4つの新しいものづくりのかたち。この記事ではそのなかから、桐生でうまれた「刺繍ポシェット」を取り上げます。それぞれの背景にある物語をぜひお楽しみください。

織物の産地・桐生の景色を映した、刺繍のポシェット

2023年11月。山々に囲まれ、桐生川と渡良瀬川の二つの清流に恵まれた関東平野の北部・群馬県桐生市のとある企業に、二日間で500人を超える人が集まりました。

お目当ては「笠盛パークフェスティバル」。桐生の土地で刺繍加工のOEMと糸のアクセサリーブランド「000(トリプルオゥ)」を展開する、株式会社笠盛によるファクトリーイベントです。

かつては「西の西陣、東の桐生」と称されるほど、絹織物の産地として栄えた桐生市。この地では、赤城山の麓で養蚕業が盛んになり、川を水源とした水力発電による工場制手工業が発展したことから、最盛期にはノコギリ屋根が象徴的な繊維関連工場が多く立ち並びました。

渡良瀬川と、その奥にうっすらと見える赤城山
屋根のフォルムが特徴的なノコギリ屋根の工場

けれど、戦時下で工場の業態変更を余儀なくされたこと、またものづくりの場が海外へと移行したことなどを背景に、桐生の織物業は徐々に下火に。そんななか笠盛は、「産地の北極星」となるべくこの地で奮闘してきました。

「桐生のいいところって、応用のうまさなんですよ。もともとは西陣の技術を取り入れて織物産地として発展したんですけど、そこから織物に関連する幅広い事業を担うようになって。

守破離の“守”に落ち着かずに、すぐに“破”にいっちゃう。そうやって、古いものにリスペクトを残しながらも新しいものに挑戦して、変わり続けるのが桐生らしさなのかも」

そう言って笑う、笠盛の野村文子さんと片倉洋一さんが“桐生らしさ”を詰め込んで、新たに提案するのは刺繍のポシェットです。

写真:西岡潔
左が野村さん、右が片倉さん

桐生の地に咲く山野草や野花、赤城山から吹くからっ風、今もわずかに残るノコギリ屋根の織物工場。黒や白の糸で構成された幾何学模様のなかに産地の風景を映し、持ち手以外を刺繍でつくり上げたポシェットは、このたび、地産地匠アワードの優秀賞にみごと輝きました。

プログラミング技術と人の手が生み出す、“布に刺繍しない”刺繍

明治10年、和装帯の織物業として創業した笠盛。現会長の父の代で刺繍業に転身した後は、数々のアパレルメーカーの生地刺繍や、スポーツユニフォームのワッペン刺繍などを手がけてきました。

当初はOEM業がすべてだった笠盛ですが、現会長の代でものづくりの舵をきることに。

それまでは生地の装飾技術であった刺繍を、「布に刺繍しない刺繍」として独立するパーツに仕上げた「カサモリレース」を独自に発明。さらにはそのものづくりを応用した糸のピアスやネックレスのブランド「000」を立ち上げて、業界に大きな驚きを呼びました。

その立役者の二人こそが、今回、地産地匠アワードで新たに刺繍のポシェットを提案した野村さんと片倉さんなのです。

000のデザイナー兼ブランドマネージャーを務める片倉さんは、2005年に笠盛へ入社。大学では工学を専攻した片倉さんでしたが、もともと音楽やファッションに関心があり、また学生時代に目にしたアップル社「マッキントッシュ」のCMのクリエイティブに衝撃を受けたことから、デザインを学びたいと卒業後はイギリスへ留学。

4年間の学生生活後、フリーランスのテキスタイルデザイナーとして活動し、コレクションブランドのショーにスタッフとして参加するなど、現地でテキスタイルデザインへの造詣を深めました。

神奈川県出身の片倉さんが桐生に興味を持ったのは、「テキスタイルデザインの神」と名高い新井淳一氏の活動の場がこの地だったことから。帰国後に同氏を訪ねて師事するうちに、桐生のものづくりに興味を持ったと話します。

000 デザイナー兼ブランドマネージャー 片倉洋一さん

「イベントや美術館での展示のために作品を制作する新井先生について回るなかで、桐生市内のプリーツ屋さんや繊維に特化した研究所など、いろいろな場所へ足を運んだんですよ。そうしているうちに桐生市内のものづくりの“点”がいっぱい見えてきて、『なんか面白そうだぞ、この町は』って。

点と点、つまりそれぞれのスペシャリストがたくさん存在する桐生で、この点と点を今までにない繋ぎ方で繋いでみたら面白そうだなと思って。技術はあるんだけど、なかなかそれがうまく世の中に届いてなくて、桐生の繊維産業が下降気味なところにもどかしさも感じました。

あとは、ヨーロッパの繊維関連企業って産地や企業のなかにインハウスのデザイナーがちゃんといる体制が多かったんですよ。一方で日本の産地ってそうじゃないんだなって初めて知って。ものづくりで大切な『発想』と『技術』の交差点を、自分は産地でつくりたいと思ったんです」(片倉さん)

数ある桐生の繊維関連企業から笠盛を選んだのは、“珍しい刺繍機器を持っていた”から。それはレーザーカットと刺繍ができる、片倉さん曰く「めちゃくちゃマニアックな機械」だったそうです。

「その機械って世界でも数十台くらいしかないんです。それで『この会社、ちょっと尋常じゃないな』っていうか。当時はOEMが100%だったのでデザイン仕事の余地はなかったんですけど、ここだったら何か面白い仕事をつくり出せるんじゃないかって感じたんですよね」(片倉さん)

入社後はミシンオペレーターとして修行を積んだ後、少しずつ自分の仕事をつくっていった片倉さん。デザイナーとして大きく仕事が動いたのは2007年に挑戦した海外展示会でした。出展の背景には、他社のものづくりが海外拠点へと場を移すなか、「これからは日本でものづくりをして、海外へ届ける時代だ」と考えた会長の強い意思があったといいます。

「最先端の機械と職人の技を活かせる、笠盛らしい商品とは」。思案の末に提案したのは「生地に刺繍しない刺繍」でした。

「水に入れると溶ける紙の上に刺繍をして、それを溶かすと刺繍のパーツだけが残るんです。通常はレースとかに使う技術ですね。刺繍ってふつうは生地に施しますけど、海外のブランドさんから案件をお受けする場合、布のやり取りが発生して日数やコストが大きくかかってしまうじゃないですか。だから、ワンウェイでご提案できる刺繍がないか考えて生まれたのがこの『カサモリレース』です」(片倉さん)

有名ブランドにも採用されたこの技術は、たちまち多くの反響を呼ぶこととなりました。しかしそこに満足せず、現会長が新たに目指したのは自社ブランドの立ち上げ。自分たちで価格決定権のあるブランドを持ちたいと、試行錯誤を経て誕生したのが今回のポシェットにつながる「000」です。

ブランド名にある3つのゼロは「素材」「技術」「発想」を指すもの。それぞれの既成概念にとらわれず、「ゼロから新たな価値を創造する」というコンセプトが込められました。

刺繍機器を自由自在に動かす緻密なプログラミング技術と、最後は一つひとつを人の目で確かめて仕上げる手しごとの技。その二つを合わせ、平面ではなく立体的に刺繍を施すことで生まれるアクセサリーブランドを笠盛は立ち上げます。

当初はチャレンジの幅が大きく、社内からも不安の声が上がった000のものづくりでしたが、積み重ねた経験と技で完成品を仕上げ、お客さんのもとへとわたると、少しずつ喜びの声が届くように。

「金属アレルギーでもおしゃれができる」「上品なのに軽くてつけやすい」。そんな声を目にするうちに社内の雰囲気にも変化が起きはじめました。

そうして多くのファンを集める存在へと育った000は、冒頭にご紹介した「二日間で500人以上が集まる」ほどの人気となったのです。

アイテムごとにプログラミングし、一列10台のミシンそれぞれの特徴を見極めながら機械を動かしていく
先ほどのミシンを用いて、水で溶ける生地に刺繍
水に溶かすと立体的なアクセサリーに。この後、人の目と手で一つずつ検品し、仕上げていく

そんなブランドの成長期に新たに参加したのが広報の野村さん。服飾の専門学校を卒業後、都内でアパレルメーカーの販売員を経験し、地元・群馬へのUターンをきっかけに出会ったのが笠盛でした。

笠盛 広報 野村文子さん

「出身は桐生の隣の市なんですけど、実は私、恥ずかしながらそれまでは桐生が織物の産地だって知らなかったんです。入社してから少しずつ知識を深めていったような感じで。でも、もともと服飾を学んでいたこともあって、将来はものづくりの仕事がしたいなと思っていたんですね。それで縁あって笠盛に入社しました」(野村さん)

野村さんも最初はミシンオペレーターとして数年間経験を積み、同社でのものづくりの基本が理解できるようになった後は広報を担当することに。

メディア対応はもちろんイベントへの出展など、カサモリレースや000を多くの人に知ってもらうため日頃から頭をひねってきました。

「カサモリレース」を広めるために

ここまで読むと、地産地匠アワードへの応募は000の責任者である片倉さんが主導したのでは、と思う方も多いかもしれません。ところが、そこが“笠盛らしさ”でもあるところ。実は今回のポシェット、野村さんが広報としてのある想いから試作品をつくったのがはじまりなのです。

「このポシェットはカサモリレースを土台としてつくってるんです。カサモリレースは『笠盛といえば』の技術ですが、基本的にBtoBのお取引になるので、自分たち主導で一般の方に知っていただける機会をなかなか持てないことに課題感があって。

この技術で何か特別なものをつくって笠盛のことをもっと知ってほしいなと思い、試作品をデザインしました」(野村さん)

この想いを胸に、数年前にバッグをテーマとした別コンテストへ応募する予定で試作品をつくった野村さん。ところが諸事情により応募がかなわず、数年間、アイデアは眠ったままでした。そして今回、地産地匠アワードの開催を聞き、改めて挑戦を考えたといいます。

「ものづくりを改めて進めるうえで、今回のアワードは地域のつくり手と地域のデザイナーがタッグを組むことが一つのルールですよね。

じゃあどなたと一緒にできるのがいいのかなと考えた際、密にやり取りができて、何度も修正ができる状況下でやりたいと思って。それで片倉に相談をして、じゃあ一緒にやりましょうって言ってもらえたんです」(野村さん)

「僕としてはすごく嬉しくて。今回は野村がプロデューサーで、どちらかというと僕がその補佐。通常業務と逆なんですよ。僕自身は今、管理職で、事業成長や人材育成の機会として、いろんな可能性やチャンスを与えたいなって思ってる立場なんです。

笠盛には『笠盛人』って言葉があって、それは自ら問題を見つけて、自ら行動して解決する人を理想としているんですね。今回の件は、まさに野村が機会を自分で見つけ出してきて、自分の役割を自分で考えて道を切り開いていく挑戦でした。それを断る理由もないし、ぜひ僕の力で手伝えることは手伝えたらって思いがありましたね」(片倉さん)

キャプション>ミシンが並ぶ工場横に設けられている、二人の席。ふだんから横同士に座る二人はここで何度もアイデアを交わし、ミシンでつくってみて‥‥を繰り返したそう

野村さんによる試作品の時点でおおよその姿は出来上がっていたポシェットですが、片倉さんとともに再度デザインを検討。桐生について調べたり話を聞きに行ったりと、産地への知見と想いをさらに深めながらデザインに落とし込んでいきました。

「僕たちがなぜ桐生でものづくりをするのかとか、桐生らしさってなんだろうみたいなことを突き詰めていったときに、知らないこともいっぱいあって。で、じゃあここにどんな刺繍の柄を詰め込んだらいいんだろうって、たくさん話し合いましたね。

そこから、桐生の町の自然をイメージした模様にしていって。赤城山のようにギザギザになってたり、そこから吹く風の渦が巻いていたり。桐生の景色を大切にしながら抽象化して、000らしく幾何学模様に落とし込んでいきました」(片倉さん)

「片倉が赤城山って言ったギザギザの部分に、私は桐生のノコギリ屋根の風景を感じるんですよ。あと私が個人的にお気に入りなのは、000のアイコン的なスフィア(※小さな球体がつながったネックレス)の球の立体感がこのポシェットにも入っているところ。これを入れただけでもかなりテクスチャーの違いが際立って、改良してよかったなと思いました」(野村さん)

「通常のポシェットだとタグで入るようなロゴも、これは刺繍で入れていて。あとは刺繍の繊細さを届けながら強度も持たせるために、縫い方も部分ごとに変えています。

組織とデザインをマッチングさせながらきちんと形を成立させるというか。そうやっていろいろな工夫を施すことで、刺繍の可能性がこんなあるんだって伝えたかったんです」(片倉さん)

「挑戦の町」桐生を、次世代へ繋ぐ

「不安やプレッシャーがあるなかでしたが、試作を繰り返しながら一歩ずつ前進してるのが見えてワクワクして。そういう時間って、ものづくりの一番楽しいことなんだと思うんです」(片倉さん)

「だんだん形ができてくると、『このテキスタイルを使って、こういうアイテムもできるんじゃないか』なんて話も自然と出てきて。そうやって、新しい発見ができる機会にもなりました」(野村さん)

アワードの応募品を制作するなかで、ふだんの仕事への良い影響もあったと振り返る片倉さんと野村さん。

産地の北極星となるべく挑戦を続け、今や桐生の繊維産業をけん引する存在となった笠盛の二人に、最後に、ものづくりを通じて目指す未来を伺ってみました。

「桐生の織物の歴史ってすごく貴重で誇れるものだと思うんですけど、なかなか次世代に語れる場所がないんです。だから笠盛がその場所になる、ものづくりを伝えるきっかけになることを目指して、会社としても広報としても発信していけたらなと思います。

まずは私たちの刺繍の商品や活動を通じて興味を持っていただいて、その先に桐生のいろいろな技術や地域性も届けることで、若い方にも桐生の魅力をどんどん知ってもらえたら」(野村さん)

「今回の企画で改めて、いろんな人に桐生の強みについて聞いてみたんですよ。そうすると、新しいことに積極的にチャレンジして、創意工夫がうまくいって成長してきた歴史が見えてきたんです。なので『挑戦の町』なんだなと。

だから新しいものにも寛容で、僕もよそ者でしたけど受け入れてもらえた。笠盛や000の挑戦も桐生の持つ風土がつくってくれたように思います。

そうやって変わり続けていくことが桐生の強みだと思うので、進化し続ける町であるために、僕たちも全力で進化し続けたいですね。最近それが、僕たちがこの町と共存していくためのあるべき姿なのかなって、000を通じて考えています。

『桐生でものづくりをしてるんです』って話すと、桐生ってすごいよねって言ってもらえることが多いんですけど、それって先人が築いてきた暖簾みたいなもので。だからそれを次世代へ渡せるようにお恩返ししていけたらなと思います」(片倉さん)

近年は桐生でも、移住した若者がお店を開いたり、繊維関連企業がファクトリーブランドを立ち上げたりといったケースが出てきているそう。そこには笠盛が力強く、けれど軽やかに続けてきた進化が多分に影響しているように感じます。

自分たちの成功におごらず、生かされてきた産地の未来を願って。小さなポシェットに大きな志を背負い、笠盛は刺繍を通じて今日も、誰かの暮らしを鮮やかに彩るのでした。


地産地匠アワードとは:
「地産地匠」= 地元生産 × 地元意匠。地域に根ざすメーカーとデザイナーがつくる、新たなプロダクトを募集するアワードです。

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トリプル・オゥ 刺繍ポシェット

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文:谷尻純子
写真:阿部高之

【四季折々の麻】11月:あたたかいのに軽く、やわらかな生地感「麻とウールツイード」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

あたたかいのに軽く、やわらかな生地感「麻とウールツイード」

11月は「立冬」。寒さがいよいよ本格的になり、冬支度をはじめる月。色づく木の葉を見上げながらお出かけすると、頬にひんやりと次の季節の気配を感じます。

そんな時期に着ていただける服を、麻とウールの糸を合わせて織り上げたツイード生地で仕立てました。両者ともに天然素材で相性も良く、ウールの保温性に麻の吸湿発散性が加わることで、あたたかなのに蒸れにくく、心地好く着られます。重い衣類が多い時期に、ふんわりと軽やかな着心地もおすすめしたいポイントです。

ラインアップは4種類。気温の差が激しい時期に心強い「かぶりベスト」や、ラクに履けつつ形のきれいな「テーパードパンツ」と「ワイドパンツ」、また冬の着こなしで活躍する「ワンピース」を揃えました。

【11月】麻とウールツイードシリーズ:

麻とウールツイード かぶりベスト
麻とウールツイード ワンピース
麻とウールツイード テーパードパンツ
麻とウールツイード ワイドパンツ

今月の「麻」生地

素材に使った麻は、衣類によく採用されるリネン。やわらかな風合いのシェットランドウールとリネンを合わせた混紡糸を用いて、密度を詰めすぎないよう、甘くやわらかに織り上げました。シワにもなりにくく、寒い冬も気持ちよく着られる生地となっています。

シェットランドウールはスコットランドの北にある、寒さや湿度が厳しいシェットランド諸島に生息する羊の毛を用いた糸。海草などを食べて育つため、やわらかい毛質が特徴です。

嵩の高いシェットランドウールから作られるふんわりした糸は、生地を織り上げる際に空気を含み、軽くあたたかな素材感に仕上がります。そこにリネンを混ぜることで、ウールだけで織り上げるよりも耐久性を増して、生地にしなやかさを加えました。

またウールの保温性にリネンの吸湿発散性が加わることで、あたたかなのに蒸れにくい生地となるのも特徴の一つ。屋外ではあたたかく身体を包み、暖房で汗をかいても湿気を逃がしてくれる、この時期に心強い組み合わせの素材です。

素材製造や生地加工は、一つひとつの工程を日本各地の得意な作り手に依頼しました。糸づくりは広島、糸の糊付けは和歌山、織りは岐阜、加工は愛知と、プロの集大成のような生地です。

お手入れのポイント

ウールを多く含むのでドライクリーニングがおすすめ。シワはつきにくいものの、たたみジワなどが気になりアイロンをかける際は、必ずあて布をしてください。

また毎日着たくなる軽やかさではありますが、長く着ていただくために毎日連続しての着用はお避けください。

ざっくりと織られたツイードは糸と糸の隙間にホコリが入り込みやすいため、着用した日は軽くブラッシングをしておき、シーズン終わりにはドライクリーニングに出して保管すると、長くきれいに着ていただけます。

気負わず上品に着られる4アイテム

カジュアルにもきれいにも着られる、冬のお出かけに使いやすい4つのアイテムを揃えました。色展開は生成、グレー、チャコールのナチュラルな3色。ウールの素材感を活かした、自然で上質な印象の色合いに仕上げています。

「かぶりベスト」はその名のとおり、かぶって着られるベスト。後ろの襟元にボタンを一つつけてかぶりやすいよう調整し、パンツにもスカートにも合わせやすい絶妙な丈感に仕上げました。

軽やかな着心地ではありますが、布帛(ふはく:織物のこと)のためニットベストよりもきちんと感を出せるのも嬉しい点。カットソーやタートルネックのセーターなどと合わせて、秋から冬まで長く着ていただけると嬉しいです。

パンツは、足さばきのよい「テーパードパンツ」と、ロングスカートのようにも見える「ワイドパンツ」の2種類。

どちらもウエストはゆったり履けるゴム仕様ですが、麻とウールの上質さがあるため、上品に着られると思います。先にご説明したベストとセットアップで着こなしていただくのもおすすめです。

「ワンピース」は袖なしのゆるやかなAライン。身幅をゆったりととっていますが、広がり過ぎず、かわいらしさはやや抑えた形に仕上げています。こちらもカットソーやタートルネックに合わせて、冬の装いを楽しんでいただければと思います。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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【あの人の贈りかた】自分の想いを重ねた、相手に嬉しいもの(スタッフ大久保)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は商品企画・デザイナーの大久保がお届けします。

暮らしに佇まいよく馴染む「ソフトパックティッシュのカバー」

奈良に引っ越してきて5年目。もともと人付き合いは多い方ではないですが、家族や友人と距離が離れて会う機会が少なくなりました。
なかなか話す時間はないけれど、だからこそ、贈りものには想いを込めたい。最近はそんな風に考えています。

贈りものをするときに心がけているのは、「自分のほしい」と「相手の嬉しい」が重なっていること。
「自分のほしい」だけでは押しつけがましく、「相手の嬉しい」だけでは何かもの足りない。
大切な誰かを想う贈りものは、押しつけがましくないけれど自分の想いが乗ったものにしたいと思ってます。

中川政七商店に入社して一年ほど経った頃、東京に住む友人の誕生日に贈ったのが「ソフトパックティッシュのカバー」です。

まずおすすめしたいのは、綿と麻でできたタイプライター生地。シワ感のあるサラッとした生地と、ティッシュカバーにした時の柔らかな形が自分の好みど真ん中で、開発当時から発売したら絶対買いたい!と思っていました。

生活感が出やすくインテリアを損ないがちなティッシュを、空間に馴染ませてくれる穏やかな色味も特徴です。

以前から当社のことを知り、商品を使ってくれていた友人。ティッシュカバーがなくても困ることはないかと思いますが、もらったら喜んで使ってくれるかもと、自分の想いを込めて贈りました。

<贈りもの>
・中川政七商店「ソフトパックティッシュのカバー」

経年変化が楽しめて、心地よい音色「小田原鋳物のお守り鈴」

毎年、年末には茨城の実家に帰ります。私の帰りをいつも楽しみに待ってくれている祖母。
今はこんな仕事をしているよと伝えたく、自分のデザインした商品のなかから、直近で発売されたものを贈っています。

この前の年末に贈ったのは、「小田原鋳物のお守り鈴 トトロ真鍮」。

トトロの愛らしい見た目が目を引きますが、余韻のある凛とした音色も心地よい。
室町時代から続く小田原鋳物の伝統を受け継ぎ、風鈴やおりんなどの鳴物を作ってきた工房では、余韻のある凛とした音色にこだわり工房独自の配合で鳴物を作っています。

作り手さんいわく、少しの形の違いや溝の入れ方で鳴り方が全く違うのだとか。トトロのこの鈴も音色にこだわり、丸みのある形と溝の入れ方を試行錯誤しました。
歩きながら凛とした音色に耳を傾けると、気持ちがすっきりするのです。

歩くのが好きで毎朝近所を散歩していた祖母。長く元気に歩いてほしいと願いを込めて、経年変化がより楽しめる真鍮の鈴を贈りました。

<贈りもの>
・中川政七商店「小田原鋳物のお守り鈴 トトロ真鍮」

細やかな気配りで、普段づかいもしやすい「Snow Peak チタンシェラカップ」

「今度一緒に〇〇しませんか?」と、お誘いの意味も込めながら贈りものをすることも。

山登りに興味がある友人に贈ったのが、「スノーピーク チタンシェラカップ」です。

山登りに関係する何かを贈りたいけれど、山登りでしか使わないようなものだと少し扱いに困るかなと思い、普段使いもしやすいものを選びました。

シェラカップとは、山登りやアウトドアの場で使われる金属製のカップのこと。
スノーピークのシェラカップは目盛りが付いていたり、ハンドルが付いていたりと、シンプルなカップながら魅力がたくさんあります。

私も同じものを持っていて、普段は料理の計量カップとして使っています。特別な時にしか使わないものではなく、普段でもしっかり役割があるので常に近くに置けるお気に入りの品。

いつかシェラカップを持って山登りに行きましょうと、自分も楽しみな気持ちを込めて贈りました。

<贈りもの>
・Snow Peak「チタンシェラカップ」

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 商品企画・デザイナー 大久保優希

【わたしの好きなもの】コンパクトな生活サイズにもぴったりの小回りが利く棕櫚箒「Broom Craft 4玉ミドル」

我が家の高校生になる息子には、ハウスダストのアレルギーがあります。

こまめに掃除をするために、スティック型でパワーの強い掃除機を使っていますが、吸引力が強いと排気もそれなりに強い‥‥。掃除機で埃を吸い取ると排気側で埃が舞うのか、掃除をすると咳をします。そして、飛ばされた埃は、隅へ隅へ、逃げるように溜まっていく気が。特に回り階段は、掃除機をかけても埃が取り切れない気がして、本当は箒がいいんだろうな‥‥と、昔から頭にはありました。

室内で使うなら、あこがれの棕櫚(シュロ)の箒がいいな、という気持ちはあったものの、なかなか購入に至らなかったのは、そのサイズ。小柄なわたしには、おしなべて、どれも長いのです。

長柄の箒は幅もあるので、コンパクトな我が家にはオーバースペック。片手用の短いものもありますが、部屋中を掃くなら、やっぱり立ったまま胸元で取り回ししたい。そんな風に、何度か猛烈に欲しいと思う時期がありつつ、その都度見送ってきました。

なので、こちらの4玉ミドルを見たときに思ったのは、「これなら」。
柄が短めで、幅も4玉。よく見る7玉や9玉の箒の約半分です。

からだの小さいわたしにも、これなら。
そんなに広くない我が家でも、これなら。
階段の隅っこも、これなら!

実際使ってみると、予想以上に便利でした。

しっかりとしたコシはありますが、反発はあまりないので、箒を止めたところに埃がぴたっと集まって散らからない。箒って反発力を使うものではないんだな、寄せていくものなんだな、と認識が新たになりました。

階段も、隅っこをサーッと滑らせて、下の段に落としていくだけ。埃がまとまって舞い上がらず、きれいに集まります。柄が短いので階段を下りながらでも掃きやすく、踏板のすべり止めに溜まりがちな埃までスーッと取れました。

居間の掃除をするときも、掃除機をかける前に、椅子の足回りや家具の接地面を滑らせて、時間があれば板目にそって埃をかき出しておくと、すごくすっきりします。

もう一箇所、箒が便利だなーと思ったのが、お手洗いや洗面所。

トイレのかげや、洗面所と洗濯パンの間って、スティック型の掃除機だと、先端を外しても本体が入らないことが多いですが、箒であればそのまま差し込むだけで、埃を絡めとりながら寄せてきてくれます。

さて、掃き寄せた埃やゴミをどうするか。埃をなるべく室内に残したくないので、わたしはちりとりは使わず、掃きよせた埃は掃除機で吸いとって、箒の先も掃除機をかけてしまいます!

表と裏に掃除機をかけたら、あらかたきれいになるようです。

そして箒の収納場所。

毛先が傷まないように、箒はできれば浮かせて置いておきたい。天然素材なので押し入れや納戸ではなく、風通しのよい場所のほうがよさそう。どこがいいかなーと考えた結果、我が家の箒の定位置はキッチンになりました。

冷蔵庫の側面にマグネットフックをつけて、ほんの少しだけ床から浮かせてかけています。

ここでも、4玉ミドルのサイズ感が威力を発揮して、短い分圧迫感もなく、幅も冷蔵庫の飛び出た部分にシンデレラフィット。

小回りがきく、使い勝手のよい箒。

子どもの頃に出会っていたら、もうすこし掃除が上手な大人になっていたような気がします。

アレルギーは一生のおつきあい。コントロールには掃除の上手さ、マメさも必要です。というわけで、我が家の高校生にも使ってもらって、掃除上手な大人になれるよう、追加教育中です。

小柄なわたしは柄の真ん中当たりを持って掃き、高校生男子は柄の上の方を持って、問題なく使っています。小さめで軽いので、もっと小さいお子さんでも上手に使ってもらえると思います。

現代のコンパクトな生活サイズにぴったりの、コンパクトな棕櫚箒。
音も出ないので、マンションにお住まいの方にもおすすめです。

<掲載商品>
Broom Craft 4玉ミドル

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編集担当:内山

【わたしの好きなもの】理想のエプロンで家事スイッチを入れる「kitten.kyotoのMAKU」

新しいエプロンが欲しくなり、事あるごとに探してはいましたがなかなか決まらず、はや2~3年。お店でいくつも手に取るうちに、「どんなものが欲しいのか具体的に考えず、やみくもに探してるから見つからないのかも」と気がついて、理想のエプロンの条件を改めて挙げてみることにしました。

まず年々重要に感じているのは、肩がこらないくらいの適度な軽さと、動きやすい柔らかさ。
そして床やお風呂掃除の時に屈んだとき、前に垂れて汚れたりしないこと。
さらに、洗いやすいタフな生地で、少しのシミやキズがあっても味わいにしてくれるような懐の深さです。
そして一番大切なのは、着けた時にテンションが上がるデザインであること。

家事道具すべてに欲しい条件かもしれませんが、なかでも特に、私にとってエプロンは、制服のようにわかりやすい”心の家事スイッチ”なのです。

お気に入りの靴を履くと背筋がシュッと伸びるように、少し面倒なこともササッとこなせるパワーがもらえるとベストだなと思います。

はたして理想のエプロンに出会えるのか‥‥と不安に思いきや、ひょんなことからすぐ見つかりました。一目見て、なんて素敵な色!と嬉しくなり、実際に手に取り着用すると、スッキリしたシルエットに満足。しかもディティールにもこだわりがあり、使い勝手も良いのです。

その理想のエプロンがkitten.kyotoのエプロン「MAKU」。

“MAKU”とは“巻く”ではなく、“幕”のこと。なぜ幕かというと、エプロンの足元に幕や暖簾のような中央スリットが入っていることと、さらに両端の紐を引くと寺院にある開いた幕の形になるからだそう。

スリットがあることで、長めのエプロンでも足さばきが良く動きやすいですし、幕を開ければ短くてかわいい形になり、屈み仕事もできちゃいます。

kitten.kyotoは、京都で暖簾や幕などを製造している加藤健旗店さんが、その技術を活かして新たに作ったワークウエアブランド。刷毛で一枚ずつ丁寧に染められた布が美しく、裏側にはわざと刷毛あとを残した耳を使ってあったりと、手しごと好きの私は思わずニヤリとしてしまいます。

普段から店舗の暖簾や祭りの法被などオーダーメイドで受けているからか、「その人らしさ」「お店の顔」を作る視点ならではのオリジナリティがあり、さらには作り手として作業するための使い勝手も工夫するといった視点が、このエプロンを生み出したんだなと感じます。

求めていた以上のエプロンが相棒になってくれて嬉しいのはもちろんですが、末永くお付き合いしたらカッコいい経年変化をしてくれそうで、それも密かな楽しみです。

私と同じくエプロンお探しの皆様。
もしかして、これかもしれませんよ!

<掲載商品>
【WEB限定】kiten.kyoto MAKU.

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編集担当:江藤