涼しく着られる夏の生地「高島ちぢみ」シリーズをリニューアル

今年も夏がすぐそこに迫ってきました。年々暑さが増す日々にまだ涼しい時期から戦々恐々としてしまいますが、心強いアイテムを迎えることでちょっとだけ、そんな暑さを楽しみにしていたりする自分もいます。

最近はいろいろな知恵の詰まった便利グッズがありますよね。新しい商品を手に取るたびに、その技術の進化に感動してしまうほどです。一方で、日本で昔から夏をのりきる術として愛されてきたものもたくさんあります。素足に気持ちいいゴザや、音色から涼をとる風鈴、火照る肌に風をサッとおくる扇子や団扇、冷たい水に浸して首に巻くてぬぐい‥‥。暑さを感じにくい“布”も、その知恵の一つでした。

今回取り上げるのは、そんな夏の生地の一つ「高島ちぢみ」を使って仕立てたシリーズです。凸凹があって肌離れがよく、涼しく楽に着られる高島ちぢみは、日本の夏の家着として長く愛されてきた布。このたび中川政七商店では、当社の夏の定番商品でもある高島ちぢみシリーズを、より快適にご着用いただけるようリニューアルしました。担当をしたのは中川政七商店デザイナーの星野、製造をお願いしたのは、過去の高島ちぢみシリーズから長くご一緒している木村織物さんです。

この記事では改めて高島ちぢみの魅力をお届けするとともに、新シリーズで工夫したポイントもご紹介させてください。



軽くて涼しい夏の布、高島ちぢみ

滋賀県北西部の高島市を産地とする布・高島ちぢみ。豊かな伏流水に恵まれるこの場所は、水にまつわる独自の文化が今でも残り、その清らかな水を使って伝統産業の高島ちぢみも作られてきました。

ちぢみとは、糸に強い撚りをかけて表面にシボを作った織物のこと。高島ちぢみの特徴の一つに「ちぢみ」の名のとおり伸縮性が挙げられますが、これはその撚りによるもので、緯糸(よこいと)に強撚糸(きょうねんし)と呼ばれるぎゅっとねじった糸を使用することで糸が戻る力がはたらき、生地が縮まって伸縮性が高まるというわけです。

「最初は織り上がり幅が165cmある布も、加工した後は強撚糸が縮まることによって100cmくらいになるんです。もともとの織り上がりはかや生地みたいな粗い密度で織られているんですけど、加工するとそれがグッと縮まって今の生地になります。密度を詰めて織っていないので生地が軽いし、風通しもよくて涼しいのが高島ちぢみの良いところです」(デザイナー・星野)

またもう一つの特徴がシボによりできる凹凸。この凹凸が肌との密着を防ぐため、吸湿性・速乾性に優れ、肌着やパジャマなど夏の家着の生地として重宝されてきた歴史がありました。中川政七商店の高島ちぢみシリーズも夏に登場するたび多くのお客様にご愛用いただいています。

リニューアルのポイント【1】伸縮性はそのままに、形態変化を抑える

ご紹介してきたように、織物ながら高い伸縮性を持つのが特徴の高島ちぢみ。動きをじゃませず快適に着られる一方で、その伸縮性の高さゆえに洗濯で縮みやすい特徴を持つ生地でもありました。リニューアルにあたって最も星野がこだわり、また星野と木村織物さんの頭を悩ませたのもこの点です。

「もともとの高島ちぢみシリーズも伸縮性がよくて着やすかったんですけど、どうしてもお洗濯したときの初回の縮みが大きかったんです。形を整えて干したり、着用したりするなかでまた元のサイズに戻っていくのですが、『思っていたより縮んだ』というお客様のお声もいくつかありました。

生地の特徴とはいえ、知らない方にとってはびっくりされるかもしれないですし、できれば洗いざらしで変化をあまり気にせず着られたら、もっと嬉しいですよね。

なので、涼しさや肌あたりは守りながら、お客様が実際使う時により快適に扱えるように、木村織物さんとお洗濯初回の縮みを抑える方法を探っていきました」

生地の特徴をほどよく活かしながら縮率を抑える方法はないかと、星野は作り手さんと模索を続けます。たどり着いたのは生地の段階で洗い工程を増やすこと。生地を織り上げた後、製品へと縫製する前に湯洗いする方法を採用しました。

「高島地方では縮率の平均が8%前後といわれるなか、最終製品を洗ってテストしてみたところ、中川政七商店で開発したシリーズは5%以内に抑えられました。高島ちぢみならではの良さはそのままに、お洗濯後の大きな縮みは以前より軽減できています」

リニューアルのポイント【2】伸縮しても素敵に見える仕立てとシルエット

伸縮率を軽減できたとはいえ、どうしても多少は縮みが発生する高島ちぢみ。星野がもう一つこだわったのは、縮みが発生しても気にならないシルエットに仕立てることでした。

今回の新シリーズでは生地幅をぜいたくに使い、ワイドシルエットに。ゆったりと着られる他に身体のラインをひろいにくい良さもあり、縮んでもフィットしすぎないのでストレスになりません。

またワンピースとシャツには前部分にタックを入れたことで、生地の形態変化が多少あっても全体のシルエットが損なわれないように工夫。さらには首元にシャツのようなデザインを採用し、前でボタンをとめるタイプにしたため、夏の暑い日もささっとラクに着脱できます。

「他にも、洗うことによって布が伸びたり縮んだりして、首もとや裾がひらひらした形になってしまうことってありますよね。今回のシリーズはそこもできるだけ防げるように意識していて、ステッチの糸には伸縮するミシン糸を採用しました。そうすることで布だけでなく糸も伸縮するので、シルエットが崩れるのを多少は軽減できると思います」

リニューアルのポイント【3】色落ちしにくく、涼やかな色合い

こだわった3つ目は生地の色。シリーズには紺・薄墨・薄緑・薄紫の4色をラインアップし、先染めの糸を採用して立体的な色みに仕上げています。

「布の色は糸の段階で染めるもの(=先染め)と、織り上がった布を染めるもの(=後染め)のどちらでも表現できますが、糸の段階から染めることで、経糸(たていと)と緯糸の組み合わせで色の表現に幅が出せるんです。

今回の商品では紺と薄墨は縦に黒色の糸を使ってスタイリッシュな色合いに、薄緑と薄紫は白色の糸を使って軽やかな色合いにと、夏らしい爽やかな色を選んでみました。シャツとパンツは上下別の色で組み合わせてもすてきに見えるようにトーンを揃えています。

あとは生地が白化(はっか。少し色が白茶ける現象)しにくいのも、先染めのいいところです」

木村織物さんでの製造の様子(撮影:平田尚加)/読みもの「高島ちぢみ」より

涼やかな着心地と色合い、ゆったり着られるシルエットで、夏の暮らしのお供になる服に仕上げた新・高島ちぢみシリーズ。お部屋着はもちろん、ちょっとそこまでのワンマイルウェアとしても着ていただけます。

「夏ってすごく暑くてやる気が起きない日も多いと思うんですけど、涼しくてゆったり着られる服があったら、夏が心地よくなるかな、夏もいいもんだなと思っていただけるかな、と考えて作りました。

きちんと見えつつリラックスできる服で、肩肘はらないアイテムなので、ご自宅でゆっくり過ごすときや、近所へ出かける際の強い味方のように着ていただけたら嬉しいです」

<関連する商品>

高島ちぢみのワイドシャツ
高島ちぢみのワイドワンピース
高島ちぢみのキュロットパンツ
高島ちぢみのレギンス

<関連する特集>

※記事中の写真でモデルが着用している衣服には、高島ちぢみシリーズ以外の品も一部含まれます。商品ラインアップの詳細は関連特集でご確認ください。

文:谷尻純子

【あの人の贈りかた】幸せな時間にひと役買う品を(スタッフ清水)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は生産管理担当の清水がお届けします。

ストレスのない使い心地を考えた「割烹着」

贈りものを選ぶ際、相手の日常や暮らしを、少し想像してみることにしています。
「日々どんな暮らしをしているかな?」「憧れているもの、好きなものってどんなイメージだろう?」と、さまざまなことに想いを巡らせます。

先日、毎日忙しく家事をする母に「割烹着」を贈りました。
結婚して妻と子どもと暮らすなかで、料理を作ったり、子どもの面倒を見たり、掃除やごみ捨てなど、いろんなことを手際よく同時に進めている妻の姿を見て、妻にも、そして改めて自分の母にも感謝の気持ちがうまれています。

今も忙しく暮らす母。少しでもストレスなく家事ができればな、と考えて選んだのがこちらの品です。

下に着用している洋服の袖までしっかりと覆い、油や水、ホコリなど、あらゆる汚れから守ってくれるのが、割烹着の最大の魅力。

中川政七商店の割烹着は後首ぐりにゴムが入り、後ウエストには紐付きで脱ぎ着がしやすく、さらに袖にもゴムが入っており、水や汚れが袖口から入ってこない作りになっています。

やや厚手の丈夫な生地のため、しっかり使えて、しっかり洗えるのも特徴の一つ。
家事の時間をより快適にしてくれる割烹着です。

丈の短いタイプもあります

<贈りもの>
・中川政七商店「割烹着 ロング丈

幸せを招く猫「SETOMANEKI」

友人や同僚の転職・引っ越しの際には「新天地でも幸あれ」の想いを込めて、贈りものを選んでいます。

「またご飯いこうね」「必ず一緒に仕事しよう!」と言葉をかけて送り出しつつも、お互いに慌ただしく、次に会うことができたのは数年先ということもしばしば。
毎日会って励ましたり、支え合ったりできない分、何か心に寄り添うようなものが贈れたらなと考えていました。

そんな時に出会ったのが「SETOMANEKI」。
その名のとおり、焼き物の産地・瀬戸で作られた招き猫です。

SETOMANEKIがそっと家のなかに佇み、大切な相手に福を呼んでほしい。
良い出会いを招き、毎日が楽しく、自分らしく前に進んでほしいと願い、送っています。

上品でカジュアルなデザインであり、カラーバリエーションも豊富。
その人らしさを想像しながら、色を選ぶのも楽しい時間です。

とびっきり応援したい方には「金手」のSETOMANEKIもおススメです。

<贈りもの>
・中外陶園「SETOMANEKI

大切な人と一緒に食べたいケーキ「週末シトロン」

友人のおうちに招いていただいた時や、久しぶりに会う知人への手土産には、肩肘を張らず、それでいて可愛く、テンションの上がる贈りものを選びたいと思っています。

そんなシーンにピッタリなのが「週末シトロン」。
フランスで昔から親しまれている伝統焼菓子「ウィークエンドシトロン」から着想し、作られたケーキです。

「週末に大切な人と一緒に食べたいケーキ」という、素敵な意味が込められているのも気に入っている点。
味や見た目はもちろんですが、贈りものに込められた意味も、プレセントを選ぶ際のポイントとして大切にしています。

すべての工程を手作業で行い、製法にこだわり、保存料などの添加物は不使用。
子どもから大人まで味わえるどこか懐かしく、優しい味が楽しめます。

ウキウキするパッケージの可愛さもあいまって、週末に渡せることを楽しみにさせてくれるお菓子です。

<贈りもの>
・「週末シトロン」
・販売サイト:https://shumatsu-citron.com/

※中川政七商店の店舗では、奈良蔦屋書店でのみシリーズ品「奈良シトロン」の販売がございます

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 生産管理担当 清水優也

【暮らすように、本を読む】#10「ゆるめる・温める・巡らせる」

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。

<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



自然に寄り添うセルフケアで、からだの不調をととのえる

頭痛やPMS、肩こり、花粉症、不眠症‥‥。家事や育児、仕事に追われ、日々を忙しなく過ごしているうちに、気づけば体調を崩してしまうことは、現代を生きるわたしたちにとって珍しいことではありません。

慢性的な不調に対処するひとつの選択肢として、植物の力で、からだをととのえることにフォーカスしたのが本書『ゆるめる・温める・巡らせる』です。著者の鈴木七重さんが植物療法士の視点から、3つのケアを通して、からだの不調と向き合う方法を紹介しています。

「ゆるめる」では、からだとこころの緊張をほぐし、穏やかでリラックスした状態に。「温める」では、からだの内と外の両側から温めることで、冷えを解消し、細胞のひとつひとつを元気に。「巡らせる」では、腸内環境を整え、リンパの流れをよくして、デトックスしながら滞りのないからだにする。

自身の体験談を交えた具体的なケアの方法から、おすすめの精油まで、詳しく解説しています。さらに、ハーブティやバーム、調味料など、身近なハーブや精油を使ったレシピや、今すぐ真似できるストレッチやマッサージ、呼吸法など、気軽に試せるセルフケアも満載。自分のからだの状態を確かめ、たのしみながら実践していくことができます。

不調にあわせた「正しいケア」ではなく、一番大切なのは、自分が「心地いい」と感じるからだの声を聴くことだと、鈴木さんは話します。いわく「不調はからだの状態を知るサイン」。無意識に過ごしていた環境を整え、ゆるめる・温める・巡らせるを意識することで、健やかな状態を取り戻せる。

わたしもさっそく植物の力を試してみたいと思い、からだやこころをととのえる手軽な方法として、直接付けられるロールオンタイプの精油を持ち歩くようになりました。緊張を感じる時や疲れた時に、香りを身につける。すると、強張ったからだが少しゆるみ、こころが軽くなるのを感じます。

新年度を迎え、緊張状態が続く人もいることでしょう。そんな時は、仕事の合間に飲む一杯のハーブティで、おおらかな気持ちを取り戻せるかもしれません。疲れたこころを癒すお守りのように、生活に植物の力を取り入れてみませんか?

ご紹介した本

・鈴木七重『ゆるめる・温める・巡らせる』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『ゆるめる・温める・巡らせる』

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。

VALUE BOOKS
長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp

文:北村有沙
1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。

【はたらくをはなそう】中川政七商店 店長 中西敦子

中西 敦子
中川政七商店 神戸大丸店

2017年   中川政七商店神戸大丸店 アルバイト入社
2019年   中川政七商店神戸大丸店 エキスパート
2019年夏  中川政七商店神戸大丸店 店長

2000年春、神戸の和菓子屋に就職。販売職で店長を経験し、2017年1月退職。以前から関心のあった日本のものづくりに関わりたいと思い、2017年2月に中川政七商店 神戸大丸店のアルバイトスタッフとして入社。2019年1月に正社員となり、現在に至る。



昔から日本各地でつくられているうつわが好きで、丹波焼の産地に地元が近いのもあって陶芸体験や窯元へ出向いて気に入ったものを買ったり、旅先でその土地のうつわをお土産にしたりすることが楽しみのひとつです。

そんな私にとって中川政七商店は、日本各地でつくられているものに日常のなかで出会える、楽しい場所でした。

転職活動を始めたころに偶然、中川政七商店のスタッフ募集案内を見つけ、改めてお店について調べてみたところ、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを知り、なんてすてきなビジョンなんだと思ったことを覚えています。

「17年間培ってきた接客力で、日本の工芸を元気にすることができたら楽しいだろうな」と思い、面接を受けアルバイトとして入社しました。

やさしい先輩方に恵まれ、楽しく働かせてもらうなかで、「ビジョンに対してもっと深く学び、関わり、お客様を増やしたい」「日本のものづくりのすばらしさを伝えていきたい」と思うようになり、2019年に正社員となって、その夏に神戸店の店長になりました。

入社してからずっと変わらず大切にしているのは、「お客様も、働く私たちも楽しいお店」でありつづけることです。

「暮らしのものを買いに」「洋服を買いに」「贈り物を買いに」「季節のものを買いに」「お出かけしたら立ち寄るお店」というように、お客様の暮らしにあたりまえにある存在になりたいと思っています。

お店に来て日本のしつらいに触れたり、ものづくりに触れたりしながら、会話や空間も楽しんでもらいたい。「日々の暮らしをこんな風にしたい!」と想像し、わくわくしてほしいと思いながらお店づくりも考えています。

また、働くスタッフさんにも工芸の伝え手として、日本のものづくりに貢献しているやりがいを感じてほしい。まずはチャレンジしてから考え、それぞれの得意を発揮して、苦手なものはみんなで助け合うことも意識しながら働いています。

店長になってもうすぐ5年。

販売だけでなく、戦略を考えたり、スタッフさんの育成も行う毎日です。

300年以上続く会社の一員となり、その長い歴史の一員になれていることに大きな責任も感じますが、大好きな日本のものづくりを多くの方に広めるお仕事ができていることに幸せや誇りを感じています。

これからも、ご来店くださるお客様や一緒に働くすべての方に感謝の気持ちを忘れず、お店に立ち続けたいと思います。

<愛用している商品>

更麻 ショートスリーブ 白

夏場の蒸し暑くべたつく時期、一日中サラサラ肌で過ごせるところが一番のおすすめポイントです。麻と聞くと「ちくちくするのかな‥‥」と思われがちですが、更麻はふわふわ!敏感肌の方でも安心していただけると思いますので、お店でぜひ触ってみてください。洗濯後の乾きが早いこともうれしいですし、とにかく丈夫。5年使っていますがほとんど変化のない状態で今も使えています。私にとって手放せないもののひとつです。

motta010

麻のハンカチを中川政七商店で初めて買って、使いはじめました。吸水力に感動して今は毎日mottaです。手を洗ってハンカチで拭くとき、なんとなくいつまでたっても水気がなくならないなぁといった経験ってありませんか?mottaは手を拭いた瞬間にスッと水分を吸い取ってくれます。

一部の店舗では刺繍のサービスもあり、私は旅先で、刺繍の対応をしている店舗や刺繍入り限定ハンカチを見つけると購入して、お土産にしています。

もんぺパンツ

入社してしばらくは自分が履くと野暮ったくなるんじゃないか‥‥と避けていたもんぺパンツですが、数年前に試しに買ってみたら、いまやほぼ毎日もんぺパンツを履くほどはまっています。

季節に応じてシリーズの入れ替えもあり、そのたびにどんどん買い足しているほど。

夏場はタイプライター生地やシャンブレー生地を使った軽やかな素材のもんぺパンツを前開きシャツやカットソーと合わせ、冬は厚手の生地のものをニットと、また春秋はベストと合わせるなど、本当に年中活躍します。仕事中も履きますし、プライベートでは長めのトップスに合わせて使うことが多いです。



中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

【わたしの好きなもの】落ち着いたピンク色が着まわしやすい「極薄綿のチュニック 桜」

あっという間に大好きな桜の季節が過ぎ、新緑のまぶしさに目を細める時期となりました。最近の奈良は日中だと半袖で過ごせるような日も多く、いよいよ暑い夏が来るぞ‥‥と既に心は夏へ向かっています。

この季節はいつもの道に小さな息吹が次々と咲き、外を歩けば晴れやかな気持ちに。花がそれぞれの色を装うように、私自身もまた、明るい色を身にまといたくてうずうずしていました。

そんな気持ちで最近迎え、夏まですごく使えそう!と周りにもおすすめしているのが「極薄綿のチュニック 桜」。昨年、この「わたしの好きなもの」の連載で同じ部の同僚がおすすめしていて、「なになに‥‥これは気になるな」と、ひそかに狙っていたお洋服の色違いです。

こちらのモデルさんは「濃紺」を着用

購入するぞと決めてはいたものの、悩んだのは色味。いつもの私ならベーシックな「濃紺」や「ライトグレー」を選ぶのですが、今回はええい!と春の勢いで「桜」を選びました。

実は、大人になって避けるようになっていたピンク色。もともとレースやピンク、花柄が大好きだった私ですが、30代半ばになってからは「かわいすぎるかな?」「自分に似合っているのかな?」と不安な気持ちが勝ってしまう。かわいいとは思いつつも遠ざかるようになっていたけれど、こちらは落ち着いたピンク色なので「私にも着られるかも」とちょっと勇気を出してみたのです。

着てみてまず驚いたのは、生地の気持ちよさ。極細の糸を編み立てた極薄綿は、さらさら・しっとりした肌触りで着ていて本当に快適です。

風通しがよくひんやりした肌触りなので、春にはカーディガンと合わせてレイヤードしたり、夏にはキャミソールの上からさらりとかぶって涼しく着たりと、長いシーズン着られそうなのもお気に入りです。

以前に取材へ伺った、世界のメゾンも愛する和歌山のニット生地メーカー・エイガールズさんが作った生地なのも、頼もしい限り。
ストレッチ性がよく動きをじゃましないので、どんな場面にも気兼ねなく着て行けます。

洗いにくい服は極力着たくなく、だからといってカジュアルすぎる綿Tシャツばかり着るのはちょっと飽きてしまうしなぁ‥‥という悩みも、形態安定加工を施すことで洗濯してもヨレにくく作られている、この服があれば解決。

上品な透け感で繊細な雰囲気がありつつも、じゃぶじゃぶ洗えるので「どの服を着ようかな」と朝クローゼットで悩むときパッと手に取りやすい気軽さがあります。

コーディネートが難しいかも?と少し心配していたピンク色も、大人っぽい色味とシンプルながら二の腕や肩を華奢に見せてくれるデザインもあってむしろ使いやすく、ある日はデニムスカートと合わせて着たり、

またある日はちょっとハードな印象のサロペットスカートと合わせて着たりと、手持ちのいろんなアイテムと合わせて楽しんでいます。どちらもスカートに裾をインして着ていますが、生地が薄いのでもたつきがなく、すっきりと着られるのも嬉しい!

中川政七商店のお洋服と合わせるなら、個人的には「播州織の高密度テーパードパンツ 生成」がおすすめ。どちらとも着心地がよいので休日にゆったりと着るのはもちろん、ストールやブローチを足してお出かけ服としても楽しみたいです。

おうち仕様はこんな感じでゆるりと
お出かけ仕様では「リネンキュプラの格子ストール」「小さな工芸のブローチ 籐」「ラッセル編みのショルダーバッグ」を合わせて。チュニックなのでお尻もすっぽり隠れます

※ちなみに私は身長160cm、普段のお洋服サイズはS~Mです

シンプルで着まわしのきく服は贈りものにも喜ばれそう。私も大活躍のピンクに続いて、次の色はどうしようかな‥‥と、実はもう一枚狙っています。

編集担当:谷尻

日本の森を“食べて”未来へ繋ぐ。山に眠る草木に新しい価値を創出する日本草木研究所【奈良の草木研究】

工芸は風土と人が作るもの。中川政七商店では工芸を、そう定義しています。

風土とはつまり、産地の豊かな自然そのもの。例えば土や木、水、空気。工芸はその土地の風土を生かしてうまれてきました。

手仕事の技と豊かな資源を守ることが、工芸を未来に残し伝えることに繋がる。やわらかな質感や産地の景色を思わせる佇まい、心が旅するようなその土地ならではの色や香りが、100年先にもありますように。そんな願いを持って、私たちは日々、日本各地の作り手さんとものを作り、届けています。

このたび中川政七商店では新たなパートナーとして、全国の里山に眠る多様な可食植物を蒐集し、「食」を手がかりに日本の森や林業に新たな価値を創出する、日本草木研究所さんとともにとある商品を作ることになりました。

日本の森にまなざしを向ける日本草木研究所と、工芸にまなざしを向ける中川政七商店。日本草木研究所さんの取り組みは、工芸を未来へ繋ぐことでもあります。

両者が新商品の素材として注目したのは、中川政七商店創業の地である奈良の草木。この「奈良の草木研究」連載では、日本草木研究所さんと奈良の草木を探究し、商品開発を進める様子を、発売まで月に1回程度ご紹介できればと思います。

今回は、ご一緒するパートナー・日本草木研究所さんについてお届けします。



都会に広がる「食べられる庭」

JR五反田駅や都営高輪台駅から徒歩10分強。少し歩けば昼夜問わず、賑やかに人が行き交う場所にあたる。そんな都会に、日本草木研究所が拠点とする「食べられる庭」はあります。静謐な空気をまとう大きなお屋敷と、その横に広がる傾斜のついた山庭。250坪ほどあるその庭には、松や椿に、梅、木蓮、クロモジ、ホウノキ、桜、柚子など、様々な樹種の木々が生き生きと茂ります。

もともとは島津藩の領地だったこのエリアは、都会にあるとは思えない閑静な住宅地。昭和初期から建っているというお屋敷も、代々いろいろな人の手に渡りながら大切に守られてきました。現在はとある方の所有のもと、日本草木研究所が庭の管理を任され、探究活動の場としても活用しているといいます。

「あのクスノキは樹齢300年ほど。お屋敷に寄りかかっちゃってるんですけど、品川区から保存樹登録されているので切れないんです。あっちにあるのは、赤松と黒松。女松と男松の対比として、一緒に植えるのが昔から日本の庭の定番でした。去年の年末には赤松の内皮を材料にお餅を作って、お餅つきをしたんです」

案内をしてくれたのは、日本草木研究所代表の古谷知華さん。2年3か月ほど前に同組織を立ち上げ、以来、日本各地の山に分け入っては、枝葉や木の新芽、樹皮を摘み集め、様々な調理法でその可食性を探ってきました。

生み出すのは森の爽やかな香りがふわりと鼻に抜けるシロップやジン、ほんのりと感じる和の刺激で料理の風味を増す、草木を使った塩・胡椒など。森に新たな価値を見出すとともに、林業従事者にも新たな機会を創出するその活動が今、注目を集めています。

日本の森に眠る、スパイスやハーブの存在を知る

日本草木研究所の活動は、古谷さんがそれ以前から取り組んでいたクラフトコーラの元祖「ともコーラ」にはじまります。大学卒業後に広告代理店に勤めていた古谷さんでしたが、趣味として作り始めたクラフトコーラが友人経由で飲食店のオーナーたちに広まり、正式なプロダクト化に至ったそう。自身の名を冠した「ともコーラ」ブランドを立ち上げ、しばらくは会社員との二足の草鞋を続けていました。

「私の母が食への興味が深い人で食育家庭だったんです。それでお母さんなりのルールがあって、コーラは飲んだ経験がなかったんですよ。

でも大人になって食の文化史を読んでいた時に、コーラは昔、いろんなスパイスやハーブを混ぜて作られてて、薬のような存在だったって話があって。そのコーラなら私も飲めるかもと思って家で作りはじめたのが『ともコーラ』のきっかけなんです。

もともと実家はハーブとかスパイスをホールのままで使うことが日常的にあったので、人よりはちょっと、スパイスやハーブに詳しくて」

当時から古谷さんには、“ハーブとスパイスの師匠”がいたといい、その方から、実は日本の森にもシナモンや胡椒の実があると、話を受けていたといいます。その時は「そんなわけない」と思ったものの、ともコーラの活動を進めるなかで偶然にも、日本のスパイスたちに出会うこととなっていきました。

「ハーブやスパイスは海外でとれるイメージがあるじゃないですか。だから師匠から聞いたときは本当なのかなって思ってて。でもクラフトコーラを作っているうちに、各地域でご当地コーラを作ってほしいって依頼を頂くようになって、そこで出会ったんです。

ご当地コーラを作るために、そのエリアの植生とか果物のリサーチでいろんな場所に行くんですけど、本当にシナモンが高知県の森に生えてたりとか、千葉県の山の方に胡椒が生えてたりとかするんですよ。師匠がまことしやかに言ってた植物たちを、自分の手で持って香りをかぐことができて。

『こんな面白いものがあるんだ!』と思ったんですけど、でも、市場流通はしてないんです。そもそも日本の市場に流通しているスパイスやハーブって海外産のものばっかり。どうしてこれらが流通しなかったんだろうって、文化的な背景でも、味の面でも興味を持ち始めたのが日本草木研究所のきっかけです」

師匠は万葉集に出てくるような和のスパイスやハーブの存在も教えてくれたそう

確かに言われてみれば、森で草木の香りを楽しみ、ひと息ついて目や心を潤すことはあるものの、そこに生えているものを「食べてみたい」と思った経験は、私自身あまりありません。春の山菜や、紫蘇・山椒などの和ハーブのような、食べられると知っている一部の草木を食する経験に留まっていると気づきました。

「何で食べられてこなかったのかの答えは明示されてないんですけど、私が思ったのは、そもそもスパイスやハーブを使う料理を日本が作ってこなかったことが大きいんじゃないかなと。それ自体が西洋文化の到来でしたよね。

あとは私たちの民族が肉食じゃなかったのもあると思います。スパイスやハーブは肉のくさみを消すために使われてたので。胡椒が初めて使われたのって江戸時代なんですけど、それって牛肉を食べ始めた頃と一緒なんですよ。牛肉を食べる時に胡椒をまぶして食べたのが、日本人が初めて胡椒に出会った時だったんです。

肉食の文化が弱かったのと、出汁とか味噌のような繊細な“さしすせそ”の世界で生きてたから、使う料理がなかったんだと思うんです。その後、食文化が西洋化したり多様化するなかでハーブやスパイスも使うようになったんだけど、その食文化自体を持ってきたのが海外だから、材料も海外のものを使うようになったんじゃないかなって」

植物仙人や相棒山の山主と、可食植物を探る日々

「日本の森に眠る可食植物の可能性を探り、和製スパイスやハーブとして活用してみたい」。そんな想いから、日本の森の可食性を専門に扱う日本草木研究所を古谷さんは立ち上げます。

最初に同社で開発したのは、自分たちが各地の山々で蒐集したヒノキや赤松、黒松などの木々を蒸留して作る「フォレストシロップ」。「日本の森を飲む」というインパクトある商品は、始動早々から関心を集めました。

「日本の草木に関して、最初はほとんど知識のない状態からスタートした」と振り返る古谷さんですが、徐々に林業従事者や、自身が「植物仙人」と呼ぶその道のエキスパート、また植物学者などの賛同を得て、協力者も増えていきました。

「一番は、私たちに協力してくれる山主さんたちから教わるものが大きいですね。日本草木研究所ではご協力いただいている山々を“相棒山”って呼んでいるんですけど、その山主さんたちって私たちに協力してくれるくらいなので、普通の林業従事者とはちょっと違った感性の人たちで、変な人なんですよ(笑)。その人たちが毎日山に入るなかで『この時期にはこういう植物があって』とか、『実はこれもおいしいから草木研さん使いませんか?』みたいなことを、提案してくださるんです。

だから、私ひとりで学んだり開拓したんではなくて、いろんな人に教えてもらったり提案してもらったりしています」

笑顔で話す古谷さんのやわらかい表情からは、各地の協力者との良好な関係が伺えます。けれど、どんな場でも新しい挑戦に対する批判はつきもの。試みを進めるなかで否定や批判を受けたことはなかったのですか、と伺うと、意外な答えが返ってきました。

「林業従事者って5万人ほどしかいないんですけど、そのなかで草木研って超有名なんですよ(笑)。先日、東京ビッグサイトで日本中の林業従事者たちが集まる展示会があって、そこにトークイベントの登壇者として招いていただいたんです。その後各社さんのブースを回ったら『草木研の人たちですね!』みたいに、どこのブースに行っても言っていただいて。林業業界の有名人みたいな感じなんです(笑)。それにびっくりして。

たぶん林業って携わる人も少なくて、クリエイティビティがこれまではほとんどない業界だったので、『森を題材に、ある程度若い人たちが、何か林業っぽくないことをやってるぞ』って興味を持っていただいているのかもしれません。

だから林業従事者のなかだけでは有名で、ご協力もたくさんいただけるんです。例えば私がSNSで『奈良のヒノキを使いたいです』って投稿したら、15分くらいでフォロワーの山主さんからご連絡を頂いたり。

もちろん活動に懐疑的な方も業界内にはいらっしゃると思うんですけど、そういった方はそもそも私たちに関わられないので、実際にお会いしたことはなくて。声をかけてくださる方は『面白いことやってるから何か一緒にやりたい』って、好意的な方がほとんどなんです」

食べられる草木への興味から、森が持つ課題への責任感に

現在は日本の森に育つ可食植物の商品化に加え、月に一度「食べられる庭」で参加型イベントを実施したり、また山主が見つけたユニークな素材を飲食店向けに卸したりと、活動の幅を広げている日本草木研究所。

その取り組みを進めるなかで、新たな課題感と責任感も生まれていると古谷さんは続けます。

「活動をはじめた頃は森のことも全くわからないし、ただ『スパイスを集めたい』くらいだったんですけど、林業の方々と関わって見えてきた課題がたくさんあって、今はそれに自分たちがどう貢献できるのかについてすごく考えてます。

例えば産業レベルの課題だと林業従事者が少ないこと。あとは収入源の問題もあります。林業の収入源って木を切って売るのと、きのこを栽培する仕事の2種類なんです。今まではそれで回ってきたんですけど、木材の需要も減ってきているなかで、その2つ以外の稼ぎ方を見つけていかなくちゃいけない。

他にも、そもそも木を植える時の樹種にも問題があって。基本的には杉とヒノキを植えるんですけど、どっちも花粉症の原因になるから『これ以上増やしちゃダメだ』って、国が言ってるんです。でも木を切ったらその上に何か植えないと土砂崩れが起きちゃう。商売の話じゃなくて森林保全のために、木は植え続けなきゃいけないんですよ。

じゃあ何を植えるかってところが課題で。林業業界には『杉安牌(すぎあんぱい)』って言葉があるんです。木って育つのは60年後だから、世の中の需要がどうなってるかわからないですよね。60年後でもある程度お金になる木って考えたら、結局杉が安牌だよねって意味です。お金になる樹種じゃないものを植えたら、本当に赤字をたれながしているだけになりますし。

そんなふうに業界人口の問題だったり、仕事の種類が少なかったり、扱う樹種だったり、あとは林業が危険な仕事なので、年を重ねると続けにくいっていうのもありますね。そういった課題に、私たちの活動で何かアプローチが出来たらって思うんです」

その一つの取り組みが、草木を提供する山主たちへしっかりと対価を支払っていくこと。

通常ではほぼ取引価格がつかない木材(丸太)以外の枝葉や実などの部位も、日本草木研究所は、業界では破格の高価格で買い取ります。

同社の商品を多くの人に手に取ってもらうことが、林業が未来に残る手だてとなる。そこには健やかな循環があります。可食植物への興味からはじまった活動は、日本の森を未来へ繋ぐことに想いを馳せるようになりました。

「森の仕事って今は2種類だけど、それが幅広くなって面白そうなイメージを作れたら、もっと林業に興味を持ってくれる方が増えるかもしれないって思うんです。私たちはクリエイティブなアプローチが少し得意で、それが役に立つかもしれない。自分もそうですけど、おしゃれな場所で働きたいとか、クリエイティブな仕事に就きたい気持ちって、あったりするじゃないですか。

林業従事者のなかには『樹木医』って木の博士の資格を持っている方もいるんですが、その人たちも普段は肉体労働が中心で。だけど最近は日本草木研究所に、森の中でのツーリズムとか収穫しながら作って食べるみたいな体験設計の依頼を各所から頂いたりするから、例えばそのなかで森を案内するとか、観光業に携われたりすると、仕事の幅が出て楽しいんじゃないかなと考えたりしています。

そうやって仕事の幅や新しいイメージを作ることに貢献できて、それが豊かな日本の森を残していくことに繋がったらって、林業従事者と関わるなかで思うようになりました」

最後に古谷さん、日本の森ならではの面白さって、どこにあるのでしょう?

「日本って北海道と沖縄で気候も全然違うし、森の多様性って視点だと国が三つあるくらいの植生なんですよ。その土地ごとに全然違う森に出会える面白さがあるのに、森っていうと一概に『花粉が』みたいな言われ方をしたり、国土の7割も占めているのに、そこに経済的な価値はあまりないと思われたりしています。

でも、経済的な価値も捉え方だなと思ってて。例えば森に入ったらすごく癒されたり、ストレスが軽減されたりしますよね。研究によると森に一度入った効果って3か月続くともいわれてるんです。そういう森にいろんな場所で出会えて、お気に入りの森があるのって、楽しいですよね。

それぞれの個性がある日本の森に私たちは食べるところからアプローチして、森への解像度や見る目を変えて、最終的には森の経済価値がちゃんと上がることに繋がったらいいなって思いますね。

もっといろんな視点で価値付けがされて、森が自分たちの暮らしに大事な存在になったり、森へ出かける機会が増えたりしたらいいなって。その一端を超微力ながら支えられたら嬉しいです」

取材当日はまだ冬の顔をしていた食べられる庭の草木たち。これから夏に向けてぐんぐんと成長し、最盛期には庭からお屋敷が見えないほどに繁茂するそうです。

「食べられる」と謳いつつも、実は食べられない植物も生えているといいますが、そこはあえてそのままに。「食べられないからって、昔の人たちが意図して植えたものを自分たちの都合で全部駆逐しちゃうのは何か違うなって。昔を継承しながら新しいものを植えていくってことが出来たらいいなと思ってるんです」と話しながら、古谷さんは庭に植わった木々について魅力いっぱいに教えてくれました。

自分たちの思い通りだけにはしないこと。すくすくと育つ健やかな自然と、過去に暮らした人々の想いに敬意をはらうこと。そのうえで、新しい価値へ楽しく真面目に踏み出していくこと。庭に広がる木々への姿勢は、日本草木研究所の活動そのものでした。



<次回記事のお知らせ>

中川政七商店と日本草木研究所のコラボレーション商品は、2024年の夏頃発売予定。「奈良の草木研究」連載では、発売までの様子をお届けします。

次回のテーマは「草木っておいしいの?」。草木“素人”の中川政七商店スタッフが、日本草木研究所さんに教えていただきながら、草木を食べることについて話を繰り広げます。ぜひお楽しみに。

<短期連載「奈良の草木研究」>

文:谷尻純子
写真:奥山晴日