鋳造の技巧が生み出す、銀白色の輝き「錫のミャクミャク」【大阪・関西万博 特別企画】

日本全国、そして世界各国から多くの人々が集う、2025年大阪・関西万博。

日本のものづくりの魅力を楽しく感じてもらいたいという思いを込めて、2025大阪・関西万博公式ライセンス商品として、工芸の技で豪華に表現したミャクミャクのオブジェ5種を制作しました。

今回はその中から、「錫のミャクミャク」に焦点を当て、その魅力を支えるものづくりの現場をご紹介します。

高岡銅器の老舗メーカー・能作が手がける、錫の工芸

手にとるとずしりと重く、やわらかな凹凸の肌が放つのは清潔でやさしい輝き。金属であるのにどことなく温かみを感じる「錫」は、その表情の他、錆びない・朽ちない・使えば使うほど味わいが出ると、古来から使われてきた素材のひとつです。

金・銀に次ぐ高価な金属でありながら、今では暮らしの道具にも用いられている錫。この素材を使って今回、富山県の能作(のうさく)に「大阪・関西万博」の公式キャラクターであるミャクミャクをつくっていただきました。

富山県高岡市に本拠地を置き今年で創業から109年を迎える能作は、高岡銅器の製造を手がける鋳物メーカー。高岡銅器とは富山県高岡市でつくられる金工品の総称で、江戸時代に加賀藩が土地に産業をうむため、鋳物師を大阪から呼び寄せたのがはじまりといわれています。

株式会社能作 5代目 能作千春さん

能作での鋳物づくりは、まず「原型」と呼ばれるおおもとの型を原型師が仕上げ、そこから金属を流し込むための鋳型をつくるところから始まります。

鋳型は生型(なまがた)と呼ばれる、砂に水や粘土を混ぜたものを押し固めてつくる型が一般的ですが、近年では技術研究によりシリコーンを用いる独自の鋳造法もあるそう。表現に合わせながら、使用する型が選ばれます。

砂でつくられる鋳型の例(写真提供:能作)

鋳造に用いられる金属は真鍮や錫、青銅など。

なかでも錫は、他の金属と比べて融点が低く、厚さによっては人の手でも曲げられるほどやわらかな素材といわれます。

その分、加工は粘土を削るような感覚で、目詰まりを起こしてしまうため、代表の能作千春さんいわく「一般的な硬い金属の研磨加工とは天と地ほど違う」そう。

「錫ってやわらかい他にも、いろんな素材特性があるんですよ。抗菌作用がある金属なので、花器にすると花が長持ちするといわれていたり、入れ歯ポットをつくると水が衛生的に保たれるような効果があったり。最近は医療部品の製造も行っています。ただ、これを合金にすると抗菌活性値も変わってきてしまいます。

あとは熱伝導率が高い素材なのも特徴のひとつ。夏場に冷蔵庫で1~2分冷やした錫のカップを使えば、冷たいビールをおいしく飲んでいただけると思います。

他にも、銀と違って黒ずみや錆びも出にくくて、経年劣化しづらいのも特徴ですね。それは今回のミャクミャクのように、置きものや愛でるものにとっては嬉しいポイントですよね」(能作さん)

溶かす前の状態の錫

錫で作る、工芸のミャクミャク

話を聞くにつれ、ますます気になる錫のミャクミャク。商品開発チームの吉田和広さんに、今回のものづくりについても教えてもらいました。

「一番難しかったのは原型をつくるところ。中川政七商店さんからデザイン案を頂いた後、肘の部分のしずくが落ちるような表現をどうやって可能にするのかや、専門的になるのですが、固まった鋳物を引き上げるために型をどううまく外せる仕様にするのかなど、関係者と頭を悩ませました。」(吉田さん)

元となる素材を溶かすところからはじまる、錫のミャクミャクのものづくり。溶解温度が1000度ほどの真鍮は炉を使って溶かされますが、一方で、錫には小さな鍋を用います。

これは錫の溶解温度が231.9度と真鍮に比べて非常に低い分、1、2度の温度変化によってすぐに固まるため。溶かした後、手早く型に流し込むために、小回りのきく鍋を使って溶かすのです。

錫を溶かす様子(撮影:浅見杳太郎)

鋳造の難しさにも職人たちが培ってきた技が光ります。

先ほどもお伝えした通り錫は融点が低いため、型に流しこむ速度によっては途中で固まってしまい、最後までいきわたらないこともあり得るそう。また、逆に温度が高すぎると表面が焼けてしまう事態にもなるといいます。

「流し方ひとつで、湯ジワ(※金属の流れた跡)が出てしまうこともあるんです。表面の美しさや、最後まで均一に錫がいきわたるかは、やっぱり職人の技術で。温度を測りながら作業はするのですがそれだけではだめで、鋳型の状態や湿度などの環境も加味して、毎回、温度や入れ方、スピードを職人が調整しています」(吉田さん)

職人の手で一つひとつ型に流し込む、ものづくりの“ワザ”。企業秘密により写真でお見せできないのが残念ではありますが、何気ない動作のようにも感じるその工程は、積み重ねた経験が叶えるものでした。

2~3分ほどして固まった後は、型から外して研磨の段階へ。湯(※溶かした金属)の流れた道や、全体の凹凸をなだらかにし、表面の鋳肌を均一に整えていく作業です。

こうして出来上がった錫のミャクミャクがたたえるのは、きらびやかではない、やわらかな表情。使っていくほどに味わいが出るのに、錆びない・朽ちないよさもある、長く暮らしに寄り添うオブジェが完成しました。

ちなみにお手入れも簡単。そもそも経年変化が少ない素材ではありますが、ふきんや眼鏡拭きなどで表面をやさしく磨くことで、より美しい状態を保っていただけます。

「職人が思いを込めてつくる一つひとつの製品の背景には、420年近くの高岡銅器の歴史があって。今回のミャクミャクでも、その歴史だったり技術だったり、それを繋いできた職人の心だったりを感じながら、長く愛でていただけたら嬉しいなと思っています」(能作さん)

銀白色のやさしい光沢感と吸いつくような持ち心地。錫のミャクミャクがある暮らしの景色を想像すると、心が和み、不思議と気持ちが落ち着く感覚があります。

ぜひ暮らしのお守りとして、長くご愛用ください。

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文:谷尻純子
写真:阿部高之

2025大阪・関西万博公式ライセンス商品
©Expo 2025

スタッフに聞く、母の日の贈りもの事情

大切な人に喜んでほしいものの、何を選ぶかが悩ましい母の日の贈りもの。お店ではどんなものが人気なのか中川政七商店のスタッフに教えてもらいました。スタッフのコメントを添えてお届けします。

アームカバー

母の日の贈りものとして、とても人気のアームカバー。「毎年購入しています!」と嬉しいお声をいただくことも多いアイテムです。
日除けとしてはもちろんのこと、冷房対策としてもお使いいただけて、これからの季節にぴったり。
デザインや生地感を豊富に揃えているので、いつものファッションや生活スタイルに合わせてお選びいただけます。
なかには「毎日使うものなので洗い替え用に!」と、複数枚プレゼントされる方も。
お手頃な価格なので日頃の感謝の気持ちを込めて、お花やお菓子などと一緒に贈るのも素敵ですね。

推薦スタッフ:
中川政七商店 東京スカイツリータウン・ソラマチ店 恒松 汐里

<写真の商品>
指が通せるアームカバー  桜墨
ひんやりアームカバー 浅縹
綿麻ふんわりアームカバー 黄/薄緑

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アームカバー

香りもの

いつも頑張ってくれているお母さまやおばあさまにと、自分の時間を楽しめる香りの贈りものが人気です。
お店にはお香やアロマオイルなど色々な香りものを揃えているので、ご家族だからこそ分かるお好みの香りや、お仕事の合間や寝る前にリラックスしていただける香りなどをぜひ見つけていただけたら!
お贈りすることで、お母さまご自身で好きな香りを探しにいく、新たな趣味のきっかけにもなるかもしれません。
また自分が好きな香りを贈って一緒に楽しむのも、素敵な母の日の過ごし方だと思います。

推薦スタッフ:
中川政七商店 札幌ステラプレイス店 森 美沙

<写真の商品>
薫玉堂 試香 朱
瀬戸焼の線香皿 白志野
桜の手彫線香立て

<関連する商品カテゴリ>
香りもの

櫛、ヘアブラシ

身体をいたわるケアアイテムは「贈る相手を大事に思いやる気持ちが込められる」と、母の日の贈りものにもよく選ばれています。
なかでも櫛などのヘアケアアイテムは毎日使う身近なものだからこそ、特別感のある贈りものにするともらった方の嬉しさもひとしお。
髪のお手入れはもちろん、頭皮のケアもできるので、リラックスする時間を贈りたいときにもおすすめです。
場所や季節も問わず長く愛用していただけるところもポイントです。

推薦スタッフ:
中川政七商店 新潟ビルボードプレイス店 初見 幸夫

<写真の商品>
天然毛のヘアブラシ ブナ
つげ櫛 手織り麻袋入り

<関連する商品カテゴリ>
美容と健康の道具

このほかにも、中川政七商店では母の日におすすめの商品を多数そろえています。人気の品を詰め込んだギフトセットのご用意もございますので、ぜひご来店ください。

皆さまの母の日がよい日となりますように。

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コンセプトは「日常を豊かにする服」。STAMP AND DIARYによる、遊び心を纏ったシンプルな服づくり

普段使いをしたいけれど、ちょっとした遊び心は忘れたくない。

纏うと少し自信がわいて、心と体がふわりと浮くような服。

このたび、そんなわがままな洋服選びの気分にも寄り添ってくれる洋服ブランド「STAMP AND DIARY」と、中川政七商店がコラボレーションし、ブラウスとカットソーを作りました。

数あるブランドのなかでも、ものづくりに信頼が厚く、中川政七商店のお店でも多くのファンを持つSTAMP AND DIARY。その魅力のもとや、コラボレーションシリーズに込めた想いを取材しました。

消費されず「日常を豊かにする服」を目指す

訪れたのは東京・代官山。やわらかな白の壁に高い天井、時々聞こえてくる笑い声。服の印象にそのままリンクする清潔で軽やかな空間を拠点に、STAMP AND DIARYのものづくりは進められています。

創業11年の同社で代表を務めるのは吉川 修一さん。もともとはアパレルメーカーでの仕事が長く、同社を起こしたのは48歳の時でした。

「会社の名前は、空港の税関で押されるスタンプから。会社員時代に海外出張でヨーロッパに行くことが多くて、税関でパスポートにスタンプを押してもらっていたんです。よく考えてみるとそれが、いろんなきっかけをくれた時間の象徴だなと思って。

日本と海外、日常と非日常を行ったり来たりしたことで、知恵とか知識が得られたんじゃないかなと思うんですよ。いつもスタンプを押されるたびに、自分にどんどん蓄積されていく感覚があって」(吉川さん)

STAMPS 代表取締役 吉川修一さん

会社員時代、海外のなかでもヨーロッパを頻繁に訪れていた吉川さん。通ううちに少しずつ、日本と欧州が持つ消費への意識の向け方に興味が及んでいったと話します。

当時の日本は、今よりももっと“モノ”の消費が優先された時代。ファッション業界でも時間の流れは速く、「作っては売る」という過熱した消費ムードがあったそうです。

対してヨーロッパで感じたのは「いかに時間を豊かに生きるか」。

物を持たない人、親子3代にわたって長く着られる服‥‥。そんな現地の人々の物との付き合い方を知るうちに、吉川さんは日本の消費ムードに疑問を抱くようになりました。

「それで、自分がヨーロッパで感じた空気をもうちょっと洋服で表現したいなって、起業のイメージが出てきたんですね。同じようなスタンスをもつ企業へ転職する選択肢もなくはなかったんですけど、自分の思いを100%伝えるブランドにするのは難しいじゃないですか。

あと、個人的にも親の介護とか子どもの進学とか、いろんなタイミングが重なって。親の介護のなかでは、当たり前ですけど『人って死ぬんだな』とずしりと受け止めたりしました。人生は一回しかない、今が最後のチャンスかもしれないって」(吉川さん)

そうして株式会社STAMPSが誕生し、まもなくして「STAMP AND DIARY」が立ち上がります。コンセプトは「日常を豊かにする服」。会社名と繋いだ「ダイアリー」には、「日常」という意味を込めました。

STAMP AND DIARY独特の、繊細でやわらかな模様が浮かぶテキスタイル

目指すのは、時間の流れをちょっと変えるアパレル。去年も、今年も、10年後も、纏う人の日常を長く豊かにしてくれる“消費されない”服づくりです。

「僕が魅力的に感じるヨーロッパのご婦人方の方々って、着飾ってる“素敵”じゃなくて、自分らしい日常を楽しんでいる空気が“素敵”なんです。その人たちを見ると、素材がよくて、リラックスできるシルエットの服を着ていらっしゃることが多いんですね。それこそが、“デイリー”なんじゃないかなって思ったんですよ。

日常でも気負わず着られるし、例えば外出や食事の場合は華やかなアクセサリーを加えるだけで印象も変えられる。それって、素材がよくないと成り立たないんですよね。だからうちでは素材にこだわるし、日常で着心地がいいことも大事にしたいと思っています」(吉川さん)

ところで取材を進めていて感じたのは、職場の雰囲気のよさ。明るい空気が流れる理由を尋ねてみると、「会社に来ても楽しい、家に帰っても楽しい。それが一番最高だと思うんです。そういう会社になりたいですね。ミーティング中でも別のフロアから笑い声が聞こえたりすると、僕自身、すごく自分が豊かになるというか」と回答が。

服をつくるときに大切するスタンスが、会社の運営でも同じように大切にされている。簡単なようでいて難しいその体現と、のびやかな会社の空気に、ますますファンになってしまいそうです。

倉庫に眠る、アーカイブ生地を使った服

中川政七商店ではこれまで直営店やオンラインショップでSTAMP AND DIARYの服を販売させてもらってきました。

今回はその一歩先へ進んで、洋服づくりをご一緒することに。用いたのは中川政七商店の倉庫に眠るアーカイブの布たちです。

日本の染織技術で織り上げたそれらの布を、STAMP AND DIARYが誇る独特のデザインに落とし込み、春の終わりから長い夏まで存分に楽しめるブラウスとカットソーに仕立てていただきました。

「自分たちでもブランドの10周年のときに、過去のアーカイブ生地を使ったアイテムをつくったんですよ。それがお客様にすごく人気で。

その時使った生地は、僕がブランドを立ち上げる時になけなしのお金で初めて作った尾州の布で、いろんなことを教えてもらいながら織り上げていただいた思い出深いものでした。たくさんつくったから残ったんですけど、それって『余った古い布』ではなくて『宝』なんですよね。

つくり手さんが真摯につくったものは、余ったから安くするという考え方ではなくて、きちんとお客様に評価してもらえるようなデザインにして、価格も見合うものでご提案したいなと思ってずっと残していたんです」(吉川さん)

その考え方は中川政七商店とも共鳴し「新しく生み出すだけでなく、残っているものにも目を向けたものづくりを」と企画したのが、今回の「めぐり布ブラウス・カットソー」です。

皆さんより少し先に服を手に取り、感じたのは、“緊張しないときめき”。

一枚ではインパクトのある柄も、ポケットや袖に用いることで程よく着やすくなり、個性豊かな染織を纏うことも気後れせず、存分に楽しめそうな仕上がりとなっています。

「中川政七商店さんの生地を最初に見て触れた時、生地からとてもエネルギーを感じました。きっと多くの方たちが携わって生まれた貴重な生地だからこそ、惹きつけられたのだと思います。

こうした生地を使った、日常着としてのアイテムが出来上がりました。着ると少し豊かな気持ちになってくれたら、この上なくうれしいです」(吉川さん)

つくる人への尊敬を忘れず、手に取る人の心を豊かにする遊び心もあわせもつ。中川政七商店としても大事にしたい矜持が、STAMP AND DIARYの手がける服には詰まっています。

創業から貫く「洋服で豊かを目指す」というSTAMPSの思い。今回のコラボレーションシリーズが皆さまの日常を豊かにして、長くご愛用いただける服になれば嬉しく思います。

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めぐり布 身頃刺繍ブラウス
めぐり布 袖刺繍ブラウス
めぐり布 ドローストリング付きカットソー
めぐり布 ポケット付きカットソー

文:谷尻純子
写真:戸松愛

【旬のひと皿】春野菜とそばがきの豚汁

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



私の営む店の前には子ども園があり、子ども達の様子を毎日見て過ごしています。そこへ通うお子さんのお母さんがお店に来てくださったことをきっかけに、5歳の男の子と友達になりました。このエッセイをはじめた頃にも登場した“5歳の友達”です。

店の前をおうちの方と通る時は、外から「ななさーーーん」と大きな声で元気に声をかけてくれます。園のみんなとお散歩へ行く時にも大きな声で外から呼んでくれるので、店の奥の方にいてもすぐに分かり、飛んで出ます。

まわりのお友達もつられて、十数人の園児たちが一斉に大きな声で呼んでくれる日もあり、かわいい元気な声に嬉しい気持ちでいっぱいになっています。子どもちゃんたちありがとう!

6歳になった友達は卒園し、この春ピカピカの1年生になります。毎日会うことがなくなってしまうので、何か一緒に思い出を作りたいなと思いました。「料理に興味なんてあるかな?」と思いましたが、お母さんを通じて聞いてもらうと「やりたい!」と言ってくれ、今回の「旬のひと皿」を一緒に作ることに。お誘いした私自身もわくわくし、撮影の日を楽しみにしていました。

今回のレシピはその友達が「豚汁と蕎麦が好き!」ということで、季節の野菜を入れた豚汁にそばがきを浮かべてみることにしました。そばがきは冷めると固くなりますが、温かい汁物に入れれば、ほわほわ柔らかい時間が長く楽しめます。

「包丁は大丈夫かな?」「怪我をさせては大変だな」と、私が提案したものの不安に思い、一緒に料理をする際の段取りを考えていたのですが、とても上手に野菜やお揚げさん、お肉を切ってくれて、一緒に作る時間や楽しさ、温かさが「おいしい」を作っていくのだなと感じました。

途中、その場にいるみんなで味見をし、おいしいねを共有できて嬉しかったです。

お野菜も季節ごとに変えれば旬を楽しめ、何より一日一杯のお味噌汁を飲むことは身体にもとってもよいと思います。楽しい時間を一緒に過ごさせてもらい、思い出のひと皿ができました。

一緒にお料理をしてくれてありがとう。また一緒にごはんを作ろうね。小学校入学おめでとう!これから先、楽しいことや嬉しいことがいっぱいいっぱいありますように!

<春野菜とそばがきの豚汁>

材料(2人分)

・豚バラ薄切り肉…適量
・春キャベツ…1枚
・新玉ねぎ…1/4個
・菜の花…2本
・ごぼう…10cm程度
・油揚げ…1/2枚
・味噌…適量
・出汁…360ml

◆そばがき

・そば粉…大さじ2 ※ない場合は米粉や小麦粉でもOK
・水…適量(今回はそば粉の3倍程度の量を使用)

作りかた

豚肉と春キャベツ、新玉ねぎ、菜の花はそれぞれ食べやすい大きさに切る。ごぼうをささがきにして水にさらす。

油揚げは熱湯をかけて油抜きし、食べやすい大きさに切る。

「ふわふわして切りにくいね」と、6歳のお友達。

鍋に少量の油(分量外)を入れ、ごぼうを炒め蒸しして香りを出す。ごぼうがしんなりしてきたら豚肉も入れて炒める。

出汁を注ぎ、軽く沸騰するまで火にかける。少ししてから灰汁をとり、新玉ねぎを入れてしばらく煮る。春キャベツ、菜の花、油揚げを加えたら味噌を溶き入れて火を消す。

小さめの別の鍋を用意し、そばがきを作る。鍋にそば粉を入れて火にかけ、少しずつ水を加えてダマにならないように練っていく。ゆるさはお好みで。

※小麦粉や米粉を使用する場合は鍋に入れて練り上げず、すいとんを作る要領で、粉を水で溶き別鍋で茹でてから汁に加える。水を粉の同量弱くらいで溶くと、ゆるくて形は整えられないが汁に入れた時に柔らかく食べやすい。

うつわに豚汁をよそい、真ん中に先ほど作ったそばがきを入れて完成!

6歳の友達からもらった折り紙の手紙。「おいしーのつくろーね」

うつわ紹介

食洗機で洗えるお椀 ハンノキ
陶器の箸置き

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

何もほしがらない人への贈りもの【母の日特別エッセイ】

「今年の母の日は何を贈ろうか」。そんな風に悩むひとときも、相手の暮らしを想う大切な時間。作家・文筆家の安達茉莉子さんによる、母の日のエッセイをお届けします。



私の母は、もっとも贈りものに困る人だ。こだわりが強いとか、好みがうるさいとかそういうわけではない。いつ聞いても、特にほしいものはないそうなのである。

母はどこか不思議な人だ。私の実家は九州の山間の集落にあり、家には田んぼや畑がある。文学少女だった母は、インドア派で、家にはいつも母が集めた絵本やミステリー小説が多くあり、私もそれらを読んで育った。茉莉子という私の名前も、作家の森茉莉さんからとったという。

生き物が好きで、珍しい鳥や金魚、亀、猫、犬、なんでも育ててきた。いつかはアボカドを種から育てていた。今は元保護猫を飼って、大事にしている。死んでしまったまた別の猫にも、毎日遺影に向かって話しかけているという。

何かを育てるのが好きだが、見返りは求めない。贈りもの以前に、母は何もほしがらない人だ。特別無欲というわけではなく、私の目から見ると、母はなんだかいつも満たされているように見える。今あるもので十分足りているし、特にほしいものはないという。

記憶をたどっても、母に何かを求められたり、頼まれたりされたことはない。私が大学進学で上京する前、実家にいたときは、もちろんゴミ捨てや洗濯物の片付けなどの家事はやってと言われていたが、母個人に対して何かやってほしいとお願いされたことはない。マッサージや、冬に家の外にストーブの灯油を入れにいく作業くらいだろうか(母は寒いのも暑いのも嫌いだ)。

プレゼントに何がいいか聞くと、いつ聞いたって、「何もいらないよ」としか言わない。それでも何かあげたいので、頭を悩ませて探す。だけど母はこだわりがない。「なんでもいいね、これでいいね」が口癖。清貧を好む思想というわけではなく、ただ単に欲や執着がない。もしかしたら、何がほしいか考えるのも少し面倒くさいのかもしれない。

さらに、こだわりはないようでいて、好きと嫌いのセンスは、母ワールドにはっきり存在しているようで、贈っても結局大して使われないことも多い(娘は気づいている)。私のセンスは微妙に母とずれていて、私が良いと思ったものを贈っても、なんだかいつも、的を外している気がする。

それでは母の生活や趣味に有益なお役立ちグッズを贈ろうと思うと、母は自分に必要なものは、大抵既に揃えてしまっている。ストレスや不快なことが嫌いなので、早々に自分で適当に見繕ってしまうのだろう。贈りものをする隙が、ない。全方位にとっかかりがないのだ。

あまりにも難しいので、昨年、誕生日のプレゼントは何がいいか聞いたら、珍しく明確な回答があった。「何もいらないけど、しいて言うならバラかな」と。バラの花束かと思いきや、欲しいのはバラの苗だそうだ。

母は花も好きで、せっせと世話をしている母ガーデンに植えるという。そう来たか。バラの苗、そんな、誰が贈っても同じそうなものを‥‥。ちなみに、娘がくれたから特別喜ぶという性質は母には恐らくない。バラはバラ。どんな苗にも公平に分け隔てなく接する母だ。

だけど、その時に気づいた。母は、特別なものは求めていないが、母が日々愛でているものは、たしかに存在する。ならば、不足を補うという発想で贈りものを選ぶのではなく、ただ美しかったり、かわいかったり、美味しかったりする、普遍的に素敵なものを贈れば、ただ愛でるように、喜んでくれるかもしれない。

そういえば、以前、母が拙著『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)を読んで感想をくれたことがあった。「まりの本を読んで、家の食器を新調してみたよ」とあった。あまり何かに影響されることのないマイペース・マイワールドの母にしては、珍しい。

よくよく考えると定番の贈りものかもしれないけれど、食器や、身の回り品を贈るのもいいかもしれない。きっと、今あるものですでに問題なく暮らしは回っている。でも、私が贈る、新入りのものたちを、猫や生き物たちのように、ただ可愛がってくれるかもしれない。よし、日々の暮らしが華やぐような、母のいる風景に合いそうだと思ったものを、贈ってみようか。

今年も母の日がやってくる。どんなに考えても結局悩ましいのだけど、母の日の贈りものをどうしようと考えるこの幸福な悩みが、ずっと長く続くことを、いつも、いつも願っている。

安達さんが選んだ母の日ギフト:

奈良藤枝珈琲焙煎所 ドリップパック アソート珈琲
BARBAR 蕎麦猪口大事典 エキゾチックショート 色絵同 小皿 
かや織の色あわせストール 黄
000 政七別注スフィアプラスシルクリネン ホワイト 80cm

プロフィール:

安達茉莉子
作家・文筆家。大分県日田市出身。著書に『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)『臆病者の自転車生活』(亜紀書房)『世界に放りこまれた』(twililight)などがある。


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【四季折々の麻】4月:風通しよく爽やかに着られる「綿麻のちりめん織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

風通しよく爽やかに着られる「綿麻のちりめん織」

4月は「清明」。うららかな春の陽が心地よい、明るく清らかな月となりました。植物の息吹もそこかしこに見られ、いよいよ春本番を感じますね。

今月は、春のあたたかな陽気から、少し汗ばむ夏まで長く着ていただきやすい、さらりと着られる風通しのよい麻の服を作りました。

生地に用いたのは経(たて)糸にリネン、緯(よこ)糸に綿麻の素材を採用し、ちりめん織にした織物。麻だけでもちりめん織にはできるのですが、シャリ感をやわらげ春にも着やすい生地感にするため、綿と合わせる方法をとりました。やさしい肌あたりで、春のやわらかな気候にもぴったりの生地に仕上げています。

ラインアップは「開襟シャツ」と「開襟ワンピース」、「ロングキュロット」の3種類。きちんとしたおでかけにも着やすい開襟シャツやワンピースを作りたくて、相性のよい生地を検討するなか今回のシリーズに至りました。

実は、3年前に登場してから長くご愛用の声をいただいている本シリーズ。今年は春らしい緑色を加えて展開します。

【4月】綿麻のちりめん織シリーズ

綿麻のちりめん織 開襟シャツ
綿麻のちりめん織 開襟ワンピース
綿麻のちりめん織 ロングキュロット

今月の麻生地

「ちりめん」というと、きものや和小物の「ちりめん」を想像する方も多いかもしれません。

ちりめん織とは強く撚りをかけた糸を織り込んだ織物のことで、生地の表面にシボ感が出るのが特徴。一般的には絹素材のものをちりめんと呼ぶことが多いのですが、今回は綿と麻の糸を使ってちりめんの風合いに仕上げました。

新潟県・見附にある機場で、何度も試織を重ねて丁寧に織っていただいた中川政七商店オリジナルの生地です。

強撚(きょうねん)糸の伸び縮みによる天然のほどよいストレッチ感があり、独特のやわらかさがあって快適な着心地。凹凸があることで肌にあたる面積が少なく、通気性が抜群のため、春から夏まで涼しく着られます。

また麻をとりいれたことでさらりとした心地よさがあり、シワになりにくく乾きやすいことも嬉しい特徴です。

生地を織る前に糸の状態で染める「先染め」を採用することで、奥行きのある色合いに仕上げたのも工夫した点のひとつ。経糸にはリネンのトップ糸(=リネンをワタの状態で染めたもので、メランジ感のある糸)、緯糸には綿麻の染糸を使い、小さな格子柄に仕上げました。

お手入れのポイント

ネットに入れれば、ご自宅の洗濯機で洗っていただけます。目立った皺を伸ばしてから干すとノンアイロンでも着られますし、気になる皺ができた場合はあて布を使用すればアイロンもかけていただけます。

なお、アイロンをかけるときれいな表面感にはなりますが、つるつるになることはなく、ちりめん織の風合いはちゃんと残るのでご安心くださいね。

リラックス感のある生地を、きちんとしたお出かけ服に

ご用意したのは「開襟シャツ」と「開襟シャツワンピース」、「ロングキュロット」の3アイテム。カジュアルな素材感なので、家着っぽくならないようにとシルエットを工夫して仕立てました。

毎年人気の本シリーズに今年は新緑を思わせる「緑色」が新色で登場。昨年もご提案したベーシックで根強い人気の「黒色」と、涼し気な「空色」と合わせた3色展開にしています。

シャツのデザインでは、若い方も年を重ねた方もきれいに着られる形を意識しました。襟は小さめで首回りがあきすぎないように調整し、身巾はゆとりがありつつももたつかず、ストンと着られるサイズ感に仕上げています。

ワンピースもゆったりしたシルエットではありますが、ウエストに切り替えを入れて少し絞ることで、きちんと感を出しました。少し懐かしい感じもある開襟アイテムを、爽やかに着こなせるようデザインしています。

前のボタンを閉じて着用するほか、ボタンを開ければ羽織りのようにも着ていただけます。

ロングキュロットは、ロングスカートのようなシルエットで着られます。とにかく気負わず履きやすいアイテムなので、春夏のボトムとしてたくさん着ていただけると嬉しいです。シャツとロングキュロットをセットアップで合わせていただくのもおすすめです。

「お出かけにも着られるきちんと感と、着心地のよさを兼ね備えた服を作りたい」と考えて企画した本シリーズ。普段着はもちろん、靴やカバンなど小物で印象を変えて幅広いシーンでお楽しみください。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちのよさがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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