何もほしがらない人への贈りもの【母の日特別エッセイ】

「今年の母の日は何を贈ろうか」。そんな風に悩むひとときも、相手の暮らしを想う大切な時間。作家・文筆家の安達茉莉子さんによる、母の日のエッセイをお届けします。



私の母は、もっとも贈りものに困る人だ。こだわりが強いとか、好みがうるさいとかそういうわけではない。いつ聞いても、特にほしいものはないそうなのである。

母はどこか不思議な人だ。私の実家は九州の山間の集落にあり、家には田んぼや畑がある。文学少女だった母は、インドア派で、家にはいつも母が集めた絵本やミステリー小説が多くあり、私もそれらを読んで育った。茉莉子という私の名前も、作家の森茉莉さんからとったという。

生き物が好きで、珍しい鳥や金魚、亀、猫、犬、なんでも育ててきた。いつかはアボカドを種から育てていた。今は元保護猫を飼って、大事にしている。死んでしまったまた別の猫にも、毎日遺影に向かって話しかけているという。

何かを育てるのが好きだが、見返りは求めない。贈りもの以前に、母は何もほしがらない人だ。特別無欲というわけではなく、私の目から見ると、母はなんだかいつも満たされているように見える。今あるもので十分足りているし、特にほしいものはないという。

記憶をたどっても、母に何かを求められたり、頼まれたりされたことはない。私が大学進学で上京する前、実家にいたときは、もちろんゴミ捨てや洗濯物の片付けなどの家事はやってと言われていたが、母個人に対して何かやってほしいとお願いされたことはない。マッサージや、冬に家の外にストーブの灯油を入れにいく作業くらいだろうか(母は寒いのも暑いのも嫌いだ)。

プレゼントに何がいいか聞くと、いつ聞いたって、「何もいらないよ」としか言わない。それでも何かあげたいので、頭を悩ませて探す。だけど母はこだわりがない。「なんでもいいね、これでいいね」が口癖。清貧を好む思想というわけではなく、ただ単に欲や執着がない。もしかしたら、何がほしいか考えるのも少し面倒くさいのかもしれない。

さらに、こだわりはないようでいて、好きと嫌いのセンスは、母ワールドにはっきり存在しているようで、贈っても結局大して使われないことも多い(娘は気づいている)。私のセンスは微妙に母とずれていて、私が良いと思ったものを贈っても、なんだかいつも、的を外している気がする。

それでは母の生活や趣味に有益なお役立ちグッズを贈ろうと思うと、母は自分に必要なものは、大抵既に揃えてしまっている。ストレスや不快なことが嫌いなので、早々に自分で適当に見繕ってしまうのだろう。贈りものをする隙が、ない。全方位にとっかかりがないのだ。

あまりにも難しいので、昨年、誕生日のプレゼントは何がいいか聞いたら、珍しく明確な回答があった。「何もいらないけど、しいて言うならバラかな」と。バラの花束かと思いきや、欲しいのはバラの苗だそうだ。

母は花も好きで、せっせと世話をしている母ガーデンに植えるという。そう来たか。バラの苗、そんな、誰が贈っても同じそうなものを‥‥。ちなみに、娘がくれたから特別喜ぶという性質は母には恐らくない。バラはバラ。どんな苗にも公平に分け隔てなく接する母だ。

だけど、その時に気づいた。母は、特別なものは求めていないが、母が日々愛でているものは、たしかに存在する。ならば、不足を補うという発想で贈りものを選ぶのではなく、ただ美しかったり、かわいかったり、美味しかったりする、普遍的に素敵なものを贈れば、ただ愛でるように、喜んでくれるかもしれない。

そういえば、以前、母が拙著『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)を読んで感想をくれたことがあった。「まりの本を読んで、家の食器を新調してみたよ」とあった。あまり何かに影響されることのないマイペース・マイワールドの母にしては、珍しい。

よくよく考えると定番の贈りものかもしれないけれど、食器や、身の回り品を贈るのもいいかもしれない。きっと、今あるものですでに問題なく暮らしは回っている。でも、私が贈る、新入りのものたちを、猫や生き物たちのように、ただ可愛がってくれるかもしれない。よし、日々の暮らしが華やぐような、母のいる風景に合いそうだと思ったものを、贈ってみようか。

今年も母の日がやってくる。どんなに考えても結局悩ましいのだけど、母の日の贈りものをどうしようと考えるこの幸福な悩みが、ずっと長く続くことを、いつも、いつも願っている。

安達さんが選んだ母の日ギフト:

奈良藤枝珈琲焙煎所 ドリップパック アソート珈琲
BARBAR 蕎麦猪口大事典 エキゾチックショート 色絵同 小皿 
かや織の色あわせストール 黄
000 政七別注スフィアプラスシルクリネン ホワイト 80cm

プロフィール:

安達茉莉子
作家・文筆家。大分県日田市出身。著書に『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)『臆病者の自転車生活』(亜紀書房)『世界に放りこまれた』(twililight)などがある。


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【四季折々の麻】4月:風通しよく爽やかに着られる「綿麻のちりめん織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

風通しよく爽やかに着られる「綿麻のちりめん織」

4月は「清明」。うららかな春の陽が心地よい、明るく清らかな月となりました。植物の息吹もそこかしこに見られ、いよいよ春本番を感じますね。

今月は、春のあたたかな陽気から、少し汗ばむ夏まで長く着ていただきやすい、さらりと着られる風通しのよい麻の服を作りました。

生地に用いたのは経(たて)糸にリネン、緯(よこ)糸に綿麻の素材を採用し、ちりめん織にした織物。麻だけでもちりめん織にはできるのですが、シャリ感をやわらげ春にも着やすい生地感にするため、綿と合わせる方法をとりました。やさしい肌あたりで、春のやわらかな気候にもぴったりの生地に仕上げています。

ラインアップは「開襟シャツ」と「開襟ワンピース」、「ロングキュロット」の3種類。きちんとしたおでかけにも着やすい開襟シャツやワンピースを作りたくて、相性のよい生地を検討するなか今回のシリーズに至りました。

実は、3年前に登場してから長くご愛用の声をいただいている本シリーズ。今年は春らしい緑色を加えて展開します。

【4月】綿麻のちりめん織シリーズ

綿麻のちりめん織 開襟シャツ
綿麻のちりめん織 開襟ワンピース
綿麻のちりめん織 ロングキュロット

今月の麻生地

「ちりめん」というと、きものや和小物の「ちりめん」を想像する方も多いかもしれません。

ちりめん織とは強く撚りをかけた糸を織り込んだ織物のことで、生地の表面にシボ感が出るのが特徴。一般的には絹素材のものをちりめんと呼ぶことが多いのですが、今回は綿と麻の糸を使ってちりめんの風合いに仕上げました。

新潟県・見附にある機場で、何度も試織を重ねて丁寧に織っていただいた中川政七商店オリジナルの生地です。

強撚(きょうねん)糸の伸び縮みによる天然のほどよいストレッチ感があり、独特のやわらかさがあって快適な着心地。凹凸があることで肌にあたる面積が少なく、通気性が抜群のため、春から夏まで涼しく着られます。

また麻をとりいれたことでさらりとした心地よさがあり、シワになりにくく乾きやすいことも嬉しい特徴です。

生地を織る前に糸の状態で染める「先染め」を採用することで、奥行きのある色合いに仕上げたのも工夫した点のひとつ。経糸にはリネンのトップ糸(=リネンをワタの状態で染めたもので、メランジ感のある糸)、緯糸には綿麻の染糸を使い、小さな格子柄に仕上げました。

お手入れのポイント

ネットに入れれば、ご自宅の洗濯機で洗っていただけます。目立った皺を伸ばしてから干すとノンアイロンでも着られますし、気になる皺ができた場合はあて布を使用すればアイロンもかけていただけます。

なお、アイロンをかけるときれいな表面感にはなりますが、つるつるになることはなく、ちりめん織の風合いはちゃんと残るのでご安心くださいね。

リラックス感のある生地を、きちんとしたお出かけ服に

ご用意したのは「開襟シャツ」と「開襟シャツワンピース」、「ロングキュロット」の3アイテム。カジュアルな素材感なので、家着っぽくならないようにとシルエットを工夫して仕立てました。

毎年人気の本シリーズに今年は新緑を思わせる「緑色」が新色で登場。昨年もご提案したベーシックで根強い人気の「黒色」と、涼し気な「空色」と合わせた3色展開にしています。

シャツのデザインでは、若い方も年を重ねた方もきれいに着られる形を意識しました。襟は小さめで首回りがあきすぎないように調整し、身巾はゆとりがありつつももたつかず、ストンと着られるサイズ感に仕上げています。

ワンピースもゆったりしたシルエットではありますが、ウエストに切り替えを入れて少し絞ることで、きちんと感を出しました。少し懐かしい感じもある開襟アイテムを、爽やかに着こなせるようデザインしています。

前のボタンを閉じて着用するほか、ボタンを開ければ羽織りのようにも着ていただけます。

ロングキュロットは、ロングスカートのようなシルエットで着られます。とにかく気負わず履きやすいアイテムなので、春夏のボトムとしてたくさん着ていただけると嬉しいです。シャツとロングキュロットをセットアップで合わせていただくのもおすすめです。

「お出かけにも着られるきちんと感と、着心地のよさを兼ね備えた服を作りたい」と考えて企画した本シリーズ。普段着はもちろん、靴やカバンなど小物で印象を変えて幅広いシーンでお楽しみください。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちのよさがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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麻の老舗が届けたい、麻の魅力をのせた衣「中川政七商店の麻」

1716年(享保元年)に高級麻織物「奈良晒」の問屋として創業し、以来300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。麻を知り尽くした私たちだからこそ伝えたい、うつりゆく季節や暮らしに寄り添う麻の魅力があります。

通気性の高さや生地のシャリ感から夏の素材として想起されやすい麻ですが、実は、ウールと合わせて冬のコートに用いたり、厚手に織り上げた生地を春や秋も着られるボトムスに仕立てたりと、一年を通じて心地好く着られることもぜひお伝えしたい点。

そんな想いから、中川政七商店では「中川政七商店の麻」と名をつけて、麻の魅力を届ける衣服をつくり続けてきました。

デザインを担当する杉浦に、麻の基本と、中川政七商店の麻シリーズのこだわりを聞きました。

日本の衣を長く支える、天然素材

植物繊維の総称である「麻」は、古来より世界各国で用いられてきた天然の繊維。紀元前1万年前には古代エジプトで、その使用が認められたという記録もあるほどです。

日本でも縄文時代には使われていた形跡が残っており、その後、江戸時代には武士の裃として重宝されるなど、武士階級の衣類の中心的存在でした。

また古来「ケガレを祓う」ものとして神事とのつながりも深く、神社でのお祓いに使用する御幣(ぬさ)や、参拝時に鳴らす鈴に垂らされた縄にも麻が用いられています。

今の日本の衣類では綿のほうが多用されていますが、お伝えした通り、昔は多くの場で麻が使われていたのです。

「麻って繊維が強いので、古いものでもまだ残っているんです。正倉院の宝物にも麻を用いた染織品などが残っています。そうやって人の暮らしに寄り添ってきた、歴史の深い素材なんですよ」(杉浦)

ひとことで「麻」といってもその実は20種類近くに分かれ、そのうち衣料用に使われる主な麻には「リネン(亜麻)」「ラミー(苧麻)」「ヘンプ(大麻)」などが挙げられます。

リネンは一般的な麻の衣料にもよく使われる麻。しなやかでやわらかさがあり、麻のなかではやさしい肌触りなのが特徴です。

一方ラミーはシャリ感が強く、清涼感があるため主に夏の衣料に重宝される素材。硬さがあり、繊維として強さのある麻です。

ヘンプは空気を含む特徴があり、保温性・保湿性に優れているため、特に冬におすすめしたい麻。育つのが早く、サスティナブルな素材ともいわれています。

「麻といってもそれぞれの繊維ごとに特徴も違って面白いですよね。『中川政七商店の麻』シリーズではこれに加えて、糸づくりや織り方、布地にする際の加工など、さまざまな要素を組み合わせて生地の質感をつくっています。日本では麻って夏の素材と思われがちですけど、素材の特徴を活かして夏に限らず楽しんでいただけるご提案がしたいなって」(杉浦)

そんな私たちの暮らしを長く支えてきた麻ですが、植物繊維であるがゆえ、年によっては天候不順による不作があるほか、品質も不安定でよい素材を手に入れるのが難しいことも。

その天然の素材を糸にして織り上げるには、長年の経験から積み上げた職人の技が必要とされます。

「織物や染織工芸は水が豊富な土地で特に栄えたので、日本では琵琶湖のある滋賀県や、大きな河川がある地域に多くの染織産地があります。

当社で使用する麻生地は基本的に機械で織っていただくのですが、機械は自分で素材の特徴ごとの調整まではしてくれません。だから職人さんがスピードを調整したり、糸に油分を含ませて織りやすくしたりと、その設定の塩梅に人の技が出るんです」(杉浦)

麻素材の特徴

麻素材の特徴でよく知られるのは通気性の良さ。けれど実はそれ以外にも、暮らしに寄り添う麻の魅力がたくさんあります。

一つ目は「吸放湿性に優れていること」。一年を通して呼吸している素材ともいえる麻は、夏はさらりと着られて、冬は空気を含みあたたかく着られます。

また「見た目の素材感」も魅力的で、洗いざらしでもさまになるようなシワ感は麻ならでは。綿だと洗濯後のアイロンなしではシワが悪目立ちするような場合も、麻のシワは独特の表情をうむためアイロンなしでも着られます。

加えて麻の生地にみられる「上品なツヤ感」は、カジュアルなアイテムでも上品で大人っぽい印象になる嬉しい魅力のひとつ。

さらに、もとはハリのある生地感ですが、だんだんなじんでやわらかくなるのも特徴で、「経年変化の楽しさ」を感じられます。

「表現するなら『古びる』ではなく『育つ』がしっくりくるような。そうやって着るごとに愛着がわくのも、麻の衣料をもつ面白さですね」(杉浦)

汚れがつきにくく落としやすいといわれる素材のため、「洗濯性のよさ」もぜひ知っておきたい点。洗いに強く、先ほどお伝えした通りアイロンいらずでも着られるため、実は扱いやすい生地なのです。

最後になんといっても伝えたいのは「異素材との相性の良さ」。

「中川政七商店の麻」シリーズでも、麻100%で織り上げることもあれば、綿やウールと合わせながら、生地を開発する場合も多くあります。

「例えば綿と合わせて肌あたりのよさを足したり、ウールのあたたかさを足したり、ポリエステルの強さを足したり。他の素材と糸を混ぜたり、交織(素材の異なる糸で織り上げること)しても麻の特性が失われず、むしろ新しい風合いを生み出せて、お互いを活かしあえる素材なんですよ」(杉浦)

中川政七商店と、麻

“誰とでもうまくやれる、コミュニケーション力が高い素材”である「麻」。中川政七商店ではそんな麻の特徴を活かして、定番の麻衣類と、四季折々の麻生地を用いた洋服のシリーズも展開しています。

例えば、定番の麻シリーズで提案するのは、Tシャツやデニムパンツ、また私たちのルーツ・奈良晒と同じ製法でつくる「手績み手織り麻」を使ったシャツ。長きにわたって麻をお届けしてきた中川政七商店だからこそ、いつもの衣類に麻の魅力を取り入れながら、その着心地や表情を楽しんでいただける一着に仕上げています。

中川政七商店の定番服。左は「手織り麻を使ったフリルシャツ」、右は「麻のデニムパンツ」

また、四季折々のコンセプトでつくる「毎月の麻」シリーズでは、毎回、その季節にまつわる言葉とビジュアルを沿えて展開。麻と別素材を合わせたり、麻の特徴にスポットをあてたりと、いろいろな織り方や加工方法で季節に合わせた麻をご提案しています。

「日本には四季があって、気候や、植物の移ろいを表す二十四節季などの美しい言葉もありますよね。そうやって季節の移ろいを楽しみながら、旬の食材を食べたり季節に合わせたしつらいをするように、服にも季節を上手にとりいれて、その時季の風景に自然と溶け込む佇まいになるように『毎月の麻』シリーズは企画しています。

あとは気候だけじゃなくて『新年はこんな服が着たい』といった風に、暮らしや気分に寄り添えるよう生地やデザインを考える月もありますね。そうやって素材や色、形を毎月検討しながら、麻の魅力をもっと知れる機会になればと思ってつくっています」(杉浦)

その懐の広さこそ、他の素材にはない麻ならではの大きな魅力。

江戸時代に麻の商いからはじまった中川政七商店は、これからも、過去にも、未来にも思いをはせながら麻のものづくりを丁寧に続け、皆さんに麻の魅力をお届けしてまいります。

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麻とはどんな素材なのか?日本人の「服と文化」を作ってきた布の正体

文:谷尻純子

「かしゆか商店リアルストア」がついに開店

「古今東西 かしゆか商店」は、ライフデザインマガジン『Casa BRUTUS』の連載から生まれた、日本各地の伝統工芸の「粋」を集めたバーチャルショップです。店主兼バイヤーのPerfume・かしゆかさんが、2018年から全国80カ所以上の産地を巡り、誌面で工芸品を紹介してきました。

このたび、その7年間の軌跡をまとめたムック本の発売を記念し、中川政七商店の全国4都市の直営店で「かしゆか商店 リアルストア」を開店することとなりました。記念すべき一カ所目である「中川政七商店 渋谷店」にて2025年3月12日に開店した様子を、速報でお届けします。

「リアルストアになって、旅の中で自分の目で見てきた商品が一堂に会して並んでいるのを見ると、本当に嬉しい。それぞれの職人さんの姿やお話ししてきたことの思い出が蘇ってきます。いらっしゃるお客様には、手仕事の魅力が詰まった商品たちをぜひ手にとってみていただきたいですね」とかしゆか店主。

会場では、誌面で取り上げた全国54カ所の作り手による工芸品を展示販売。さらに、中川政七商店と共に開発した8種のオリジナル商品も、数量限定で登場しています。

リアルストアのオープンに先駆け、「福だるま」とも呼ばれる群馬県の伝統工芸「高崎だるま」に店主自ら点睛。こちらはリアルストアに展示しています。

「だるまに目を入れる時はみなさんに見守られていたこともあって、真ん中にきれいに入れようと、とても集中して描きました。全部のショップを回り終えたら、もう片方にも目を入れたいですね」

オリジナル商品はこちら。かしゆか店主が日本各地で出会った工芸とともに開発しました。

店主の好きな「藤色」「亜麻色」「白練」をキーカラーにした和紙箱や組紐のストラップ、コーヒーをたっぷり飲める九谷焼マグカップに、愛猫リヨンをモチーフにした高崎だるまなど、かしゆかさんが全国を巡った思い出をそばに感じていただけるラインアップです。

リアルストアはこの後、奈良・広島・福岡へと巡回していきます。お近くの地域や旅先のお店で皆さまのお越しをお待ちしています。

※一部商品は欠品しています。入荷予定日については、中川政七商店InstagramおよびXにて順次お知らせいたします。

「かしゆか商店 リアルストア」開催概要

イベント会期:
【東京】3月12日(水)~4月8日(火)中川政七商店 渋谷店
【奈良】4月16日(水)~5月6日(火)中川政七商店 奈良本店
【広島】5月14日(水)~6月3日(火)中川政七商店 ミナモア広島店(特設区画内)
【福岡】6月11日(水)~7月1日(火)中川政七商店 福岡天神店(特設区画内)

特設サイト:
https://nakagawa-masashichi.jp/kashiyuka-shoten

お問合せ先:
中川政七商店 渋谷店 03-6712-6148

品よく着られる定番の一枚。大人ための、杢Tシャツ

年齢を重ねたことで、年々悩ましくなる自分に似合う服選び。
30代後半の今、顔や体とのバランスをとる難しさを日々痛感しています。

個人的にはシンプルな服ほどその難易度が高く、昔愛用していた服を着てもぼんやりした印象になったり、少し疲れて見えてしまったり。いつのまにか、しっくりこなくなっているのです。

そんな悩みを持つ私にも「これなら長く着られそう!」と思える服が、中川政七商店から登場しました。その名も「大人の杢(もく)Tシャツ」。デザイナーが「大人の女性が定番にできる一枚をつくりたい」と、糸からオリジナルで開発したTシャツシリーズです。

杢ならではの奥行きある生地の表情を楽しめながらも、カジュアルさは控えめに。品よく着られる一枚のこだわりを、デザイナーの田出に教えてもらいました。

開発のきっかけは「大人に似合うTシャツをつくりたい」

そもそも「杢糸」とは、一本の糸にいろいろな色が入るように、色の異なるワタを混ぜてつくる糸のこと。一色のワタでつくる糸とは異なり一本に複雑な色感が出るため、そのまま編み上げるだけで生地の表情に奥行きが出るのが特徴です。

一本の糸になる前の色ワタを紡いだ糸巻。最終的にはグレーの生地になる

その独特の生地感から、一般的にはカジュアルな印象に仕上がるものが多い杢Tシャツですが、今回、中川政七商店ではあえて「大人に似合う」をコンセプトにつくりました。

展開するのは生成・グレー・黒の、杢ならではの三色。ベーシックに着られて、それでいて大人っぽい。普通っぽいけど、少し違う。そんなふうに、基本を押さえつつも中川政七商店らしい色表現を追求しています。

「はじめは大人が着られそうなTシャツをつくりたいと思ってたんです。自分もどんどん年齢を重ねて、 普通のTシャツを着るとどうしても家着っぽくなるというか。首まわりのバランスや顔うつりが結構難しくて。

なかでも杢Tシャツは特に、着たい気持ちはあるもののアメカジのような印象になってしまって、着づらさを感じていたんですよね。そんな背景から、大人が着てもきれいに見える杢のTシャツがあったらいいなと挑戦してみたのがきっかけでした」(田出)

そう話す田出が、大人に似合う一枚をつくるために何よりもこだわったのが糸づくり。糸の色がそのまま表情に現れる杢生地だからこそ、理想の色合いを表現するために既成の糸は使わず、色ワタの配合からつくり手さんと一緒に取り組みました。

パートナーとして糸づくりをお願いしたのは1918年の創業以来、大阪で紡績業を営む大正紡績。その丁寧なものづくりに国内メーカーからの信頼も厚く、大手メゾンからも引き合いの多い紡績の老舗メーカーです。

「大正紡績さんとご一緒するのは今回のTシャツがはじめて。素材への向き合い方が真摯な企業だと伺ったのがきっかけで、お声がけさせていただきました。糸の調子とか、素材になるワタの選び方とか、細部まで丁寧に取り組まれているとお話に聞いて」(田出)

人の手が生み出す丁寧なものづくり

大正紡績ならではの丁寧なものづくりに助けられながら、随所にこだわった今回の杢糸。例えば素材は綿を基本にしつつも、アクセントとしてリネンを1%ほどだけ混ぜることで、色の出方を調整しています。

理想の色糸が完成するまでに重ねた試作回数はなんと4回。同社いわくこれだけの試作回数はあまり例にないそうで、その話を伺うだけでも妥協せずに突き詰めたものづくりを感じます。

配合率を変えながら、理想の色を目指して試作を繰り返した

また糸にするワタはそのまま使用するのではなく、すべて一度晒してから使用。手間も時間もかかる方法ですが、これも、理想の生地づくりのためにと選んだ工程です。

「多くの杢糸では素材そのままのワタを使用するんですけど、うちの糸はワタを晒してから色を染め上げました。その方が微妙な色の表現ができるし、晒すとワタがきれいになってやわらかくなるから、洗濯をしてもふんわりした風合いが続くんです。大人が着るなら見た目だけではなく肌触りまで意識したいなと思って、この方法でお願いしました」(田出)

さらには大正紡績さんいわく、「通常の杢糸では原綿(げんめん=葉ごみを落としていないそのままのワタ)を80%ほど、葉ごみを落としたワタを20%ほどの割合で混ぜることが多い」そうですが、今回は贅沢に葉ごみのないワタを100%使用。その分もちろん工数は増えますが、糸の表情がなめらかで上品になり、カジュアル感を軽減できるのです。

左が葉ごみが着いた状態のワタ、右が今回使用しているワタ

「大量生産とは真逆で、人の手をかけて、小規模で細やかな対応をしてくださる大正紡績さんだからこそ、今回のものづくりが叶いました。

あとは少し古い機械を使っておられるので、糸がやわらかく仕上がるのも同社と取り組む魅力のひとつですね。大人に着てもらう服なら、高級じゃなくてもいいんだけれど、上質さは叶えたくて。ものを触ったときに本当に『気持ちいいね』って言えるものにしたかったんです」(田出)

糸にした際に色のバランスが偏らないよう、ワタを混ぜる機械へかける前には人が配置を調整
古い機械でやわらかに糸を紡いでいく

ワタをさらし、葉ごみをとり、リネンを混ぜ、そして、古い機械をゆっくり操りながら、人の手で丁寧に作業を進めるつくり手さんのもとでうまれた杢糸。完成した生地は纏うとふんわりと気持ちよく、洗っても風合いが持続します。

きれいに見せられるシルエットで、長く着られる定番に

「大人が着ること」を意識した点は生地感以外にも及びます。そのひとつが、大人にとって使い勝手がよく長く着られるシルエット。ゆとりは持たせつつも程よくきちんと感もあるよう、首元の高さや詰まり具合、身幅のとり方などに調整を重ねました。

「ゆったり着られるけど、きれいに見せられるシルエットにしたいなと思って。例えば首もとって、あき具合によってはずるっと伸びたり横に広がったりしちゃって、少しだらしない印象になってしまいますよね。今回はそうならないようなリブの高さや詰まり具合にしています。

あと、長袖と半袖の二つの形をつくったんですけど、長袖の方は丈感を工夫してあえて前後をずらしました。はじめは長めでつくってたんですけど、それだとカジュアルさが出てしまって。裾を出して着るとカジュアルになるし、ボトムスに入れてブラウジングするのも塩梅が難しいですよね。

だから今回は前を少しショート丈にして、スカートと合わせてもバランスがとれて履けるけど、しゃがんだときに背中は見えないような絶妙な丈感にしています」(田出)

さらには、日本で糸づくりから縫製まで仕上げた質のよい品ではありますが、定番の一枚として色違いや形違いも買い足せるように、手に取りやすい価格帯を目指したのもこだわったポイント。仕立てる際に生地のとりかたを工夫し、端切れの量をできるだけ控えめにするなど、手ごろな価格に近付けられるよう努めました。

こうして出来上がった「大人の杢Tシャツ」。最後に田出さん、どんな着方がおすすめでしょうか。

「もちろん普段から着ていただけるんですけど、上品に着られるように仕上げたので、ジャケットを羽織ったりシャツの中に着てもらったりもして、いろんなコーディネートに合わせていただけたらと思います。何にでも合わせられる、心強い一枚にしていただければ嬉しいです」(田出)

これまでなかなか出会えなかった、シンプルななかに上質さや着心地の詰まったTシャツ。年を重ねても楽しく、自分らしいスタイリングを叶えるような、ワードローブの定番になりますように。

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大人の杢Tシャツ 半袖
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文:谷尻純子
写真:森一美(大正紡績 取材写真)、枠谷哲也(モデル写真)

【あの人の贈りかた】心地よさや可愛さで、笑顔を届ける

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は人事担当の向井がお届けします。



使い勝手のよさや柔らかな風合いが、いつ贈っても喜ばれる「花ふきん」

わたしが入社したとき、二十年前から変わらずご好評いただいている商品「花ふきん」。
これまで贈った方には必ず喜んでいただけました。

その喜びは次から次へと広がり、「喜んでいただける贈りもの」として選んでもらえる品となり、波紋のようにどんどんファンが増えていく。

贈るほうも、贈られるほうも、心が豊かになる商品だと感じます。

はじめて使ったときの心地よさ、速乾性と吸水性の高さ、使い勝手のよさは忘れられない感覚です。わたし自身、毎日愛用しています。

開封したときは「パリッ」と糊がついている硬めの手触りですが、使えば使うほど、くたっと柔らかな風合いになっていきます。

肌触りがいいので「ふきん」という名にとどまらず、赤ちゃんのバスタオル、お包みや汗取りとしても使えます。

わたしは、食器拭きとしてはもちろんですが、野菜の水切りや蒸しものをする際に重宝しています。
自分が心からいいと思うから、大切な人にもにも使ってほしい。そう思う商品です。

<贈りもの>
・中川政七商店「花ふきん

季節の絵形のかわいさに感動した「絵形香」

はじめて見たとき、可愛らしい季節の絵形に感動したことを覚えています。

その感動がきっかけで、「贈る人にも感動してもらいたい」「喜んでもらいたい」と想像しながら絵形香を選んでいます。

今の季節なら「桜に春鳥」の絵形香。
心がほっこり穏やかになる商品でもあり、飾って季節を感じることもできます。

手紙に添えることもできて、開封するとやさしい桜の香りが漂います。

そして、なにより絵形の生地は手織り麻。中川政七商店の商いの原点です。
その風合いは、シャリ感のある肌触りで心地いい手触りです。

わたし自身は、財布に忍ばせて、季節と香りを楽しんでいます。
とても繊細で、四季とともに“日本らしさ”を感じる贈りものだと思います。

<贈りもの>
・中川政七商店「絵形香」

※本商品はオンラインショップでは完売いたしました。季節によりデザインが異なりますので、その時季のデザインをぜひお楽しみください。

笑顔を届けたいときに贈る「光浦醸造 FLTレモンハート」

つい、ほっこり笑顔になってしまう。

月ヶ瀬のまろやかな紅茶の風味に癒されるとともに、レモンがハートになっている紅茶のカップを手にとると思わず目じりが下がります。

このハートのレモンは、広島県の特別栽培認定を受けている、皮ごと食べても安心の「エコレモン」規格とのこと。丁寧に栽培されたレモンなのですよね。

わたしは、笑顔を贈りたいときに選ぶ贈りもののひとつです。

「おめでとう♡」を伝えたいとき。
「元気を出して♡」と思うとき。
「おつかれさまです♡」を伝えたいとき。

言葉や文字にしなくても、笑顔と幸せを届けられるような気がします。
パッケージも素敵で、紅茶の味を組み合わせて贈ることができます。

贈る方の好みや状況をイメージして、紅茶のお供になるお菓子とあわせて選ぶのも楽しいです。

<贈りもの>
・光浦醸造「FLTレモンハート

※一部の中川政七商店でも販売がございます。詳細はお近くの店舗へお問い合わせください。

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 人事担当 向井淳子