心をくすぐる、香りの景色。編集者・長野宏美さんがしつらう「花草木ポプリ」

ふと視線を向けた時、心がふわりと浮き立つような、日々の暮らしに息づくお気に入りの景色。このたび中川政七商店ではそんな景色をつくる“香り”として、「花草木ポプリ」を企画しました。

香って愉しむだけではなく、植物の素材感を眺めても愉しめる本商品。

自分らしい暮らしの景色をつくるあの人なら、どんなふうに香りをしつらうんだろう?と気になって、発売より少し早く使っていただきました。

訪ねたのはフリーランスの編集者、長野宏美さん。都内ながら緑豊かなエリアにあるご自宅でお話を伺いました。



風が気持ちよく抜けるヴィンテージマンションで、夫と1歳のお子さんと3人で暮らす長野さん。各地で出会い、選び抜かれたアイテムがバランスよく配置されたご自宅は、まるでギャラリーのような印象です。

長野さんのおじいさまは家具職人。その背中を見るうちに自身もまた、ものづくりへの興味が培われてきたといいます。

会社員時代には工芸やまちづくりに携わり、地方の作り手と関わるなか、ものへの愛情はより深まっていったそう。同時に、ものの器である家もまた心地よくしたいと、同じく道具や家具に関心の高い夫とともに自宅をつくりあげてきました。

フリーランスの編集者として活動する今も地方の事業者や作り手と仕事で関わることが多く、自宅に並ぶうつわやオブジェには、そんなお仕事の縁から迎えたものもたくさんあるといいます。

「普段は新しく立ち上がるプロジェクトのディレクションをしたり、販促物の編集をしたり、必要に応じてロケ撮影の立ち合いをしたりもしています。

仕事で地方に行くことも多いんですけど、仕事だからって終わったらすぐ帰るタイプではなくて(笑)。その土地ならではのおいしいものとか独自のお店を調べて、合わせて訪れることもよくあります。

そういうところで出会ったものや、お仕事でご一緒した作り手さんのものを持ち帰ることが多いですね」

「特にときめくのはストーリーがあるもの。作っている方や、製造背景は気になるポイントのひとつです。あとはやっぱり、暮らしを想像したときに使っているイメージがわくかどうかも大事ですね。

旅先での出会いは一期一会なのでその日に迎えることも多いですが、一方で、色や素材まで具体的にイメージしてじっくり探すこともよくあります。探しても見つからない場合は、自分たちで作っちゃえ!となることもあるんです」

少しずつ育ててきた暮らしのなかで、香りものも普段からよく使用するという長野さん。取材当日に出していただいたハーブティーからも、香りを心地よく取り入れるための工夫に出会いました。

「食事からも香りは取り込めると思ってて。特にハーブティーが好きで、自分でブレンドするのもちょっとした実験みたいで楽しいんです。

今日はレモングラスを煮出してお湯に香りをつけてから、グァバ茶を合わせました。硝子のポットでお湯を沸かすとハーブがくるくる回ってその様子もかわいいんですよ。最後にもう一度レモングラスを入れて、香りも見た目も楽しめるようにしてみました」

また、お茶以外でも普段から香りものをよく愛用するそう。

リビングの茶香炉や仕事部屋のお香立て、自分のまわりだけ香らせたいときに使うアロマオイルなど、場所や気分による自分なりの付き合い方もたくさんお持ちです。

「うちは赤ちゃんがいるので強い香りがするものはリビングでは使ってないんです。普段は茶香炉を炊いて茶葉をやわらかく香らせていますね。

一方で、扉で仕切られた仕事スペースではお香やパロサントを炊くこともあります。あとは出がけに練り香水をつけたり、散歩に行く前にアロマスプレーをサッとかけたり。風が吹くと植物の香りとあわさって、すごく気持ちいいんですよ。

他にも、気分転換したいときにロールオンタイプのアロマオイルをつけることもあります」

普段から香りとの距離が近い長野さん。今回の「花草木ポプリ」はどんなふうに取り入れていただいたのでしょう。

「野花が咲いたようなふくよかな香りがいいなと思って、まずは玄関に置いてみました。小分けできるのでトイレなどのコンパクトなスペースでも使いやすそうですね。

特別なときは、一時的にリビングに置くのもいいかも。

もともと別のポプリを使っていて、普段は玄関に置いておき、お客さまが来たときだけリビングに持ってきて香らせていたんです。今回のものはウッドチップとお花の素材感がしっかりあって見た目も華やかなので、お花を飾るような感覚でしつらえるなと思いました」

「私自身、自然のなかに身を置くことがすごく好きで。家探しをするときは公園が近くにあることも大切な条件なんです。さりげない香りとか、目に映る季節の色が気持ちよくって。なので、今回のポプリのような自然の素材感がそのままにある香りものが室内にあると、リラックスできますね」

「今までにない新感覚な香りもいいなと思った点のひとつです。ヒノキやヒバのような木の香りが好きなので、ちょっと安心する感覚もありつつ、お花の香りもしっかり香ってて。それが今までにない組み合わせだなと思いました。

玄関に置いていると、夫も、帰ってきたときにすごくいい香りって言ってくれて。爽やかさと華やかさがバランスよく融合していて、男女問わず好まれる香りなのかなと思います」

「まずはそのまま楽しんで、香りが弱くなってきたら好みのアロマオイルを少し足すのもいいかもしれません。そうすると見た目のかわいさを保ちつつ、長く香りを楽しめそうですね」

暮らしのリズムに合わせて、香りものの使い方も自分らしく調律していく長野さん。

今回のポプリも佇まいのよいオブジェや道具とともに、暮らしの景色をつくる香りとしてお楽しみいただきました。

心地よい暮らしを彩るアイテムとして、ぜひ皆さまのご自宅でも、華やぎや安心を添える香りのしつらいになれたら嬉しく思います。

<関連する特集>

<関連する商品>
木々と野花のポプリ
木々と野花のポプリと硝子の蓋物 セット

文:谷尻純子
写真:枠谷結也

香りを暮らしに取り入れる。「花草木ポプリ」監修、fragrance yes・山野辺喜子さんインタビュー

ふと視線を向けた時、心がふわりと浮き立つような、日々の暮らしに息づくお気に入りの景色。

このたび中川政七商店ではそんな景色をつくる“香り”として、香って愉しむだけではなく、植物の素材感を眺めても愉しめる「花草木ポプリ」を企画しました。

香りの監修を手がけていただいたのは、フレグランスブランド・fragrance yesの代表である山野辺喜子さんです。

入浴剤にお香、アロマオイル、ファブリックスプレーなど、いろいろな「香りもの」があふれる今の暮らしですが、意外とその取り入れ方は曖昧なもの。

この機会に改めて、香りものと上手に付き合うコツや、そのなかでもポプリならではの魅力が知りたいと、都内にある山野辺さんのラボを訪れました。

“YES”と言えるものづくりを

都心にありながら、静かな空気に包まれたコンパクトなラボ。ドライフラワーやウッドチップ、アロマオイル、蒸留器が所狭しと並ぶその場所に、フレグランスブランド・fragrance yesの活動拠点はあります。

「もともと私自身にアレルギーがあって。肌の荒れやかゆみに悩んでいたのが、今の活動につながるきっかけなんです。

強い薬を使えば一時的によくなりはしますけど、すぐにまた繰り返してしまう。結局は対処療法じゃなくて、自分で心と体をととのえていくのが大事だなと気付いて、植物療法や自然療法を取り入れはじめました。

そのうち、少しずつ自分がよくなるにつれて、他の方にもこの経験を届けたいと思うようになって。それで植物の精油を取り入れたスキンクリームを作ったり、セルフケアの方法を伝えたりするワークショップを開催しはじめたんです」

心と体を根本からととのえたいと植物の力を用いるようになった山野辺さん。自分に合った取り入れ方を模索するなかで、植物がもつ薬効成分だけでなく香りにも興味が向くようになったといいます。

「最初の頃はもう何でもいいからって感じで使ってたんですよね。だけどその香りが刺激的すぎてストレスになり、使うのが嫌だなと思うこともあって。せっかく自分をととのえるために使うものなら心にも気持ちのいい香りであってほしいと、調香もするようになりました」

そうして全国でワークショップを続けるうち、徐々に参加者から商品の購入を希望する声が届くように。そんな期待に応えるため、2014年にフレグランスブランド・fragrance yesが誕生したのです。

取り扱うのはアロマオイルやファブリックスプレーなど、暮らしに心地よい香りもの。天然素材にこだわり、できるだけ余分なものを入れないことを大切に、セルフケアによって日々の暮らしにエネルギーを取り込めるブランドづくりを進められています。

「ブランド名の『イエス』は、誰に何を聞かれても『イエス』と答えられるものづくりや活動を大事にすること、つまりお約束の『イエス』からつけました。

あとはもうひとつ、使っていただく皆さんにもご自身が食べるものや肌に使うものを選ぶときに、できるだけ『イエス』と言える選択をしてほしいなって思いも込めています」

身近な香りを、暮らしに無理なく取り入れる

今ではご自身のブランドを進める傍ら、他ブランドの香りものを企画・監修することも。香りのプロと信頼の厚い山野辺さんに、香りものとの付き合い方も教えてもらえたらと話を続けました。

そもそも、バリエーションも使い方も、今やとにかく情報があふれている香りもの。自分にとってのひとつを、どんなふうに選んでいくのがよいのでしょう。

「香りものを暮らしに取り入れるよさは、とにかく自分の心がととのうこと。

仕事にしてもプライベートにしても、ともすればずっとスイッチオンの状態が続いてることってあると思うんです。それを緩めるのはなかなか難しいけれど、例えば自宅に帰ったときに玄関からふといい香りがすると、『ああ帰ってきた』ってちょっと緩みますよね。

あるいは寝るときの枕元に香りを置くことで、日中に溜め込んだ不要なエネルギーとか、モヤモヤした感情がそっと消えていったり。

そうやって、自分の気持ちを調整したいときに使っていただくのがよいと思います。

最初から個性的な香りを選ぶと苦手意識が出てきちゃうかもしれないので、木々や柑橘、ハーブのような、身近な香りから始めていただくのがおすすめです」

「それと、どんなタイプのものを選ぶかも大事ですよね。

もし香りものの利用にあまり慣れていないなら、自分の暮らしに無理なく取り入れられて、気分が向いた時に使えるものがよいと思います。まずはハンドソープをお気に入りの香りにしたり、好きなタイミングで自分のまわりだけシュッと香らせられる、アロマスプレーなんかも取り入れやすいですね。

あとは今回ご一緒したようなポプリも、手軽に利用できるのでぜひ使ってみてもらえたら。

好みの量をうつわに入れて置くだけで手軽に部屋を香らせられますし、小さなうつわに小分けしてお手洗いや洗面台みたいな、少し気分を変えたい場所に置いておくのもおすすめです。

今回のセット商品のように蓋があるうつわの場合は、お出かけの際や香らせたくないときは蓋をかぶせておけば香りもやわらぎ、長持ちします」

香っても、眺めても心地よい「木々と野花のポプリ」

山野辺さんが香りをつくる際に意識しているのは、「心と体にすっとなじむこと」。それはつまり、無理をせず、自然に手が伸びる香りです。

このたびの「花草木ポプリ」の「木々と野花のポプリ」についても、国産の木々をベースに、野花の香りを合わせ、さりげなく香って暮らしに心地よいことを目指して調香いただきました。

「中川政七商店さんならではの香りをどう表現できるか、たくさん調整を繰り返しました。さりげないけれど程よく華やかで、かわいらしい香りに仕上がった印象があります。

華やかな香りなので気分が明るくなりますし、やさしさもあるので、例えば就寝前や休日にそばに置くのもおすすめです。

少し疲れちゃったり、傷ついちゃったり、そんなときに自分を慰めてあげる、元気を出してあげるようなイメージの香りになっていると思います」

また香って心地よいことはもちろん、ポプリならではのよさは「佇まい」と山野辺さん。特に「花草木ポプリ」では、暮らしの景色を彩るしつらいのように飾れることにもこだわりました。

「香りって普段は目に見えませんけど、ポプリだと素材感が見えるので『ここに香りがいるんだな』って可視化できますよね。今回のポプリは特に見た目がかわいらしいので、香っても眺めても楽しんでもらえると思います。

玄関やお手洗いに置いていただいてももちろん素敵なんですけど、個人的にはリビングに置いてあげるのもいいのかなって。

日々暮らしているお部屋のなかにちょっとやさしい香りが漂うとか、目に入ったときに『かわいいな』と思えるものが身近にあるって、それこそ心がととのう時間になると思うんです」

気分を変えたりくつろいだりと、心のリズムをそっと調律してくれる香りもの。

今回のポプリもそんな存在として、木々や野花の華やかな姿と、ときめく香りが、皆さまの心と暮らしの景色を心地よく彩れたら嬉しく思います。

<関連する特集>

<関連する商品>

木々と野花のポプリ
木々と野花のポプリと硝子の蓋物 セット

文:谷尻純子
写真:枠谷結也

【四季折々の麻】8月:風が通り抜けて涼しく着られる「麻のかや織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2025年7月1日公開の記事を再編集して掲載しました。

風が通り抜けて涼しく着られる「麻のかや織」

8月は「立秋」。暦の上では夏の暑さがピークを迎え秋へ向かっていく季節ですが、今年も暑さは長引きそう。そんな残暑も、心地よく過ごせる麻の服をつくりました。

展開するのは7月に引き続き、目の粗いかや織の生地を採用して仕上げた「麻のかや織」シリーズ。「ブラウス」と「ギャザースカート」「羽織ワンピース」の3アイテムに、8月から新たに「ローブ」が加わります。

いずれの服も、縫製後には洗い加工をかけてふんわりとした風合いに。かや織の透け感、風に揺れる様子を愉しんでいただける夏の服です。

【8月】麻のかや織シリーズ:

麻のかや織 ローブ
・麻のかや織 ブラウス    
・麻のかや織 ギャザースカート
・麻のかや織 羽織ワンピース   

※「ブラウス」「ギャザースカート」「羽織ワンピース」はオンラインショップでは完売いたしました。各店の在庫状況についてはお立ち寄り予定の店舗へお問い合わせください。

今月の「麻」生地

かや織は「風は通すが蚊は通さない」と重宝されてきた蚊帳(かや)に使われる、目の粗い薄織物。中川政七商店の代名詞といえる「ふきん」にも使っている布地です。

今月の麻生地ではその通気性のよさを活かしつつ、強度・透け感など洋服に適した密度になるよう織り上げました。

目の粗い生地は縫っているときに歪みやすく、実はかや織は、縫製に高い技術を要する織物。加えて繊細な生地でつくる洋服のため、縫製の仕様にも注意が必要です。今回は作り手さんにご協力いただき、縫い合わせに力がかからないデザインや、力がかかった際も生地を傷めにくい縫製仕様など、手間のかかる方法を選択することで完成しました。

素材は麻のなかでもリネンを採用。ラミーやヘンプなど麻にも様々な種類とそれに応じた特徴があるなかで、リネンは洋服によく使われるさらりとした風合いのよい素材です。

今回は糸の状態で染めた「先染め」のリネン糸を用いて、やわらかな複雑さを持つ表情の生地を織りあげました。一見すると一色に染めたように見えますが、実はタテ糸とヨコ糸の色を微妙に変えており、色に奥行きを持たせています。

先染めは生地の状態で染めたものに比べて色落ちしにくいのもポイントで、汗をかいて洗濯が増える夏の衣類にうれしい生地です。

さらには薄地で織り目の粗い生地のため、洗濯後の乾きが早い点も魅力の一つ。麻素材を使っているためさらに乾きが早く、洗うほどにやわらかくなっていきます。

お手入れのポイント

お洋服を長くご愛用いただけるよう、基本的には手洗いをおすすめしています。目の粗い生地のため、ひっかけには要注意。脱水時はネットに入れるようお願いします。

干し方はお好みで。形を整えて乾かせば自然なシワ感になりますし、さらにシワ感を楽しみたい方は、手で絞ってシワをつけて干してみてもよいでしょう。シワ感がお好みでない方は、乾いてからアイロンをかければ上品でなめらかな印象となります。

ふんわり、肌離れよく着られる夏の服

ゆったりとしたシルエットにデザインしているため、肌離れがよく、とにかく涼しい今月の麻の服。色展開は定番色として毎年人気の「紺」と、爽やかな印象を引き立ててくれる「水色」、また装いに華やかさを添える「薄紫」の三色をご用意しました。

8月から展開のローブは、長袖ですがゆったりしていて風通し抜群。襟元を伸ばせば首を覆うことができ、日よけはもちろんクーラーよけにもおすすめです。

朝晩の少し冷えるときには袖を伸ばし、昼には袖口をロールアップして涼しげに。ふんわりしていてシワ感も気にならないので、クシュッとまとめてカバンにポンと入れられるのが嬉しいところ。旅行にも気軽に持っていけます。

気温が下がってきたら長袖のカットソーの上に着ていただいても。夏から秋まで長く着られる一枚です。

「ブラウス」はすとんとしたシルエットで、とにかく涼しいイチ押しアイテム。すっきりと着られる丈感で、パンツにもスカートにも合わせやすいように作っています。同じシリーズのブラウスとギャザースカートを上下で合わせ、セットアップにするのもおすすめです。

「ギャザースカート」は、足首が見えるぐらいの丈感で、足さばきよく履いていただけます。表地に透け感があり涼し気ですが、裏地がついているのでインナーは透けません。ウエストはゴム仕様のため楽な履き心地で、裾広がりのシルエットで体型も選ばずきれいに着用いただけます。

「羽織ワンピース」は前を開けても閉じても着られます。ボタンを開けて着れば、ロングカーディガンのような装いに。Tシャツとパンツ、といったラフな格好にも羽織るだけで、よそ行き感が増すアイテムです。

ふんわりしていてシワ感も気になりにくいため、クシュッとまとめてカバンにポンと入れ、ぜひ旅行にもお持ちください。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちのよさがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

特集サイト:中川政七商店の麻

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

<関連する特集>

【旬のひと皿】スイカのスムージー

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



「奈良にはいろんなお祭りがあっておもしろいんですよ」と、とある方から教えてもらいました。例えば毎年7月7日には吉野町のお寺で「蛙飛び行事」なるものがあるそう。

少し検索しただけでも、全国でもこちらのお寺さんだけの珍しい行事だということがすぐに出てきました。長く住んでいても知らないことが多く、お祭りといえば花火と屋台だけではない、長年、毎年行われている行事があるのだなと楽しくお話を聞かせてもらった日でした。

私の生まれ育った島根の町でも県を代表する七夕行事があります。旧暦の七夕の日(8月6日)の夜に平和を願い、浴衣やはっぴで着飾った子どもたちが笹竹に短冊や提灯などの七夕飾りをつけ、お囃子をしながら山車とともに商店街を練り歩くというもの。450年も続くお祭りです。

夏休みに入ると、お祭りの日までは毎日、午前中は準備に出かけていました。そのお祭りに欠かせないのがスイカの形をしたスイカ提灯。子どもたちの持つ笹竹や、各家庭の軒下に吊るされるものです。

手づくりなことも相まって、可愛らしいあたたかい光が灯る夜の景色。毎年お祭りには行けずとも必ず思い出す素晴らしい夏の思い出です。

毎年続けていけるのは、地元の皆さんのお力があってこそだと思います。全国の様々な行事がこの先も続くことで、各々の世代みんなが同じ経験をして育っていく。当然のようで当然ではない、貴重な経験をさせていただいたなと地域の方には感謝しかありません。

お祭りの翌日にはスイカを切って各家庭に配ってもらいました。ビックイベントが終わってしまった寂しさと、楽しかったお祭りを思い出して食べる夏のスイカはとってもおいしかったものです。

年齢を重ねた今はというと、暑さも年々増してきて、仕事おわりのスイカに助けられています。

暑いところから帰ってきて、冷えたスイカにかぶりつくのが最大限にスイカのよさを味わえるとは思いますが、今回はちょっと趣向を変え、少し塩分も加えてごくごく飲めるスイカのジュースを作ってみました。

<スイカのスムージー>

材料(2人分)

・スイカ…1/8カット
・クランベリー…お好みの量
・ハーブ(今回はミントとタイムを使用)…適宜 ※飾りに使用
・豆乳…200ml(スイカの半分程度の量になるように)
・はちみつ…少々
・塩麹…少々

作りかた

スイカは皮部分を切り落としたら、飾り用に真ん中の甘い部分を切り分けておく。時間があれば、切り分けた部分を凍らせてスイカ氷にするのもおすすめ。その他の部分は小さくカットし、種を取り除く。

クランベリーがあれば一粒を4等分に切っておく。

ボウルに種をとったスイカ、豆乳、はちみつ、塩麹を入れる。ハンドブレンダーを使い、果肉感が残るよう軽く攪拌する。

グラスに入れ、取り分けておいたスイカ、クランベリー、ハーブを飾って完成!

うつわ紹介

切子の足つきグラス 丸ちらし

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【あの人の贈りかた】使い方も、タイミングも。頼りになる懐の深さ(スタッフ横山)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は経営支援課・コンサルタントの横山がお届けします。

安心できて、手放せない肌ざわり「かや織ケット」

仕事の関係で出会う、おすすめしたい事業者さんやいいブランドがたくさんあります。また自分自身も、そういったブランドや商品を探したり、買ってみて使ったりするのが趣味になっていて、気がつくとスマホのメモにストックをすることがくせになりました。

いろんな産地で出会う、いい事業者さんのブランドや商品。もっと多くの人に知ってもらいたいので、贈りものができる機会はチャンス!とばかりに張り切ってしまいます。

(たまに空回りも…)

なので、贈りものをするときは相手のことを思いながらも、今までのストックから知ってほしい地域のいいものを、事業者やブランドの背景と一緒に伝えたいと考えています。「こんないいものを知ってほしい!使ってほしい!」、そんな想いで選んでいます。

中川政七商店の定番商品であるかや織ケットは、昨年子どもが生まれたのを機に購入。その使い心地の良さに惹かれ、贈りものでも定番になりました。

ふわふわの肌触りは、赤ちゃんの肌にも優しく、うちの子は気に入っていつも握っています。(ちなみに、このケットのかや織生地は、最初からふわっとしているのですが、使えば使うほどにさらにふわふわになっていきます!)

生まれたての頃はおくるみに、保育園に通い始めた今はお昼寝ケットとして。これがないと寝ないほどで、もう手放せません。このケットは丸めるとコンパクトになるので、いつものカバンに入れたり、旅行の際に持ち運んだりする際にかさばらないのも助かります。

手放せないほど気に入っているので、他の人にもこの心地よさを体験してほしい。そんな思いから、身近な人の出産の際には贈るようになりました。

ケットとしてはもちろん、吸水性もいいのでタオルとしても使えます。出産祝いなどで既にケットを贈られていたとしても、「タオルとしても使えますよ」と一言添えれば、贈る側も安心。贈る人も贈られる人も、様々な使い方で日常に寄り添ってくれる、そんな懐の深さも魅力です。

<贈りもの>
・中川政七商店「かや織ケット 鹿」

奈良の物語ごと味わう「ocasi シルクチーズケーキ」

食の贈りものとして定番にしているのが、中川政七商店がプロデュースする奈良の菓子店「ocasi」のシルクチーズケーキと大和橘ジャムのセットです。

チーズケーキは「シルク」という名前の通り、なめらかな舌触り。軽いのにコクはしっかりと感じられ、ほどよい酸味が後を引きます。そして、このセットの本当の魅力は「大和橘」のジャムです。

聞き慣れないかもしれませんが、大和橘は日本最古の柑橘と言われ、今ではあまり作られていない希少なもの。独特の酸味と苦味のバランスが絶妙で、どこか山椒を思わせるような、ほかにはない香りも特徴です。

この大和橘を育て、歴史を紐解き、広める活動をしている方々が奈良にいます。「なら橘プロジェクト」という取り組みです。

ただ美味しいだけでなく、大和橘と奈良のストーリーとともに味わってもらえる。今自分が奈良で働いていることもあり、この土地の魅力を一緒に伝えられるのが、私がこのセットを選ぶ理由です。

パッケージのデザインも上品で、贈った方からは「見た目も素敵」とよく喜んでもらえます。冷凍で届くので、遠方に住む友人や実家の家族へも、相手の都合のいいタイミングで解凍して味わってもらえるのも嬉しいポイントです。

<贈りもの>
・ocasi「シルクチーズケーキ ハーフサイズ・ 大和橘ジャム セット」

記憶に残る贈りものとして「谷町納豆」

仲のいい友人や、私と「好きなものの感覚が近い」と感じる人には、少し「個性的で心に残るもの」を贈りたい。そんな時に選ぶのが、今住んでいる近所で見つけた「谷町納豆」です。

この納豆、1,200円と納豆にしては少し高価な品。そのインパクトに加え、楽しみ方の幅が広いのが魅力です。個人的におすすめしたいのは、塩で食べる方法。特に岩塩がおすすめです。納豆の旨みが引き立ち、日本酒との相性も抜群なのです。

実はこの谷町納豆は、日本酒の種類が豊富で美味しい居酒屋さんが作り始めたもの(いまは納豆に集中するため休業中)。そう聞くと、その説得力も増します。タレがついていないのも珍しい点で、そのまま何もつけずに食べても、豆本来の旨みがダイレクトに感じられ、納豆の奥深さに気づかされます。

そして、この納豆の大きな魅力は、冷蔵庫で保管している間に発酵が進み、少しずつ味が変化していく点。

清潔な状態を保つため毎回新しいスプーンを使うなど注意は必要ですが、時間が経つほどに粘りや風味が強くなるのが、個人的にはたまりません。発酵が進んできたら鰹節と海苔と少しの醤油を混ぜて食べるのが、私の中での究極の楽しみ方です。

納豆好きの方への贈りものには「長熟納豆」もおすすめ。発酵が進んでいてくせがあるけれど、旨味が強くてとっても美味しいんです。

たまに限定のお豆を使った納豆も登場するのですが、それも買いに行けるこの近所の特権を活かして、たくさんの人に知ってほしいと思っています。

単なる納豆ではなく、五感で味わい、変化を楽しむ体験を贈れる。そんな「記憶に残る」贈りものをしたい時に、迷わず選ぶ一品です。

<贈りもの>
・らくだ坂納豆工房「谷町納豆」

※中川政七商店での販売はありません

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 経営支援課・コンサルタント 横山遼大朗

変化することこそ、伝統を守ること。本藍染めを未来へつなぐ、奈良・INDIGO CLASSIC【すすむ つなぐ ものづくり展】

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、その可能性を探るため、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「藍」のものづくり。

植物を発酵させることでできる、生きた染料の藍。
日本には江戸時代に広まり庶民の暮らしに根付いて以降、めぐる季節と共に、そして人々のいとなみと共に藍のものづくりはありました。

土からはじまり、また土に戻る。
素朴な自然から生まれた色だからこそ、私たちは心惹かれるのかもしれません。

かつて「ジャパンブルー」と称されたほど各地で親しまれていた藍染めですが、今では暮らしの変化とともに伝統的な植物染料での染めは減りゆき、化学染料を用いた染めが主流となりました。

そんななかでも、過去から続く藍染めの技や産地の景色を未来へつなぐ作り手たちがいます。
挑戦を重ねて”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ藍を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。

“伝統”を知らずに、染めの世界へ

強い陽ざしのもと、鮮やかな緑が一面に広がる藍畑。そこで一人もくもくと刈取機を動かすのが、今回「藍」のものづくりでご一緒した作り手のひとり・小田大空(おだ・おおぞら)さんです。

藍の葉を育て染料をつくる「藍師」、染めを行う「染師」と分業が一般的な藍染め業界で、小田さんが代表を務めるINDIGO CLASSICは、種をまき藍の葉を育てるところから染めまでを一貫して行う稀有なチーム。取材の日は藍の葉の収穫作業が行われていました。

藍染めの産地・徳島で修行をしたのち地元である奈良で事業を始めた小田さん。藍染めとの出会いは大学生の頃、たまたま母親に連れられて訪れた藍染め体験でした。けれどその時はまだ、藍染めの背景にある「工芸」や「伝統」についてはまったく知らなかったと笑います。

「僕、藍色ってずっとかっこいいものだと思ってたんですよ。色自体が好きというか。当時は伝統工芸とかそういう側面を知らなくて、単純にファッション的な要素の一部だと思ってたんです。デニムと藍の違いも理解をしてなかったし。アパレル的な視点から藍に注目しはじめて、そっからって感じですね」

はからずも藍染めに興味を持った小田さんでしたが、在学中の就職活動で藍の仕事を探すも見つからず、一度はアパレル企業へ就職。そこからも毎年求人を探し、ようやく3年目の春、徳島の地域おこし協力隊で藍染めの仕事を見つけます。

すぐに徳島へ仕事を移した小田さんは、そこではじめて「どうやら伝統工芸が背景にあること」「伝統的な植物染料での染めと、化学染料での染めがあること」を知りました。

「徳島では藍畑で藍を育てるところから染料をつくって染めるところまで経験したんですけど、『染めだけやれたら楽しい』みたいなモチベーションで協力隊に行ったんで、一年目とかは正直、畑仕事が全然楽しくなかったんですよ。

でも始まってちょっとしてから面白さに気づいてしまって。『これ、畑から染めをやらへんかったら自分でやる意味がないかも』みたいな考えになったんです。

きれいに染めようと思うとそもそも藍をうまく栽培しないといけないんですけど、自然のものなのでコントロールできない領域があまりにも大きいんです。ただ僕は、自然の影響が大きすぎるっていうのが逆にめっちゃ面白くて。『これは100点出すまでやめられへんな』って思いましたね」

産地ではない奈良で、本藍染めの工房を開く

そうして約2年半の修業を経て、地元・奈良で、種まきから染めまで一貫して行うINDIGO CLASSICを起業。

今では化学染料が多く用いられる藍染めですが、日本では長い歴史の間、植物がその原料として利用されていました。植物を染料にした伝統的な藍染めは「本藍染め(または正藍染め)」と呼ばれ、INDIGO CLASSICもこの本藍染めを手掛けています。

藍の葉を育て、

葉を発酵させて染料である蒅(すくも)をつくり、

そして染め上げる。

おおまかにお伝えすると藍染めにはこの3つのステップがありますが、冒頭でお伝えした通り藍染め界は分業制がスタンダード。すべての工程を一社で手掛けるINDIGO CLASSICのような作り手は珍しいとされています。

また産地としては歴史のない奈良に、その活動の拠点を持っているところも特筆すべき点のひとつ。日本で広く知られるのは徳島で、染料づくりも染めも、多くの作り手がここを拠点に取り組みます。そんななかなぜ、奈良に工房を開いたのでしょう。

「徳島には有名な作り手さんがたくさんいますからね。そこで勝負しても、僕がクライアントなら自分に頼まないと思ったんですよ。

でも奈良に開いたら関東とか関西からも工房を訪ねやすいし、他に同じようなとこもあんまりないし。地元に想いがあるとか、全然エモーショナルな理由じゃないんです(笑)。あくまでビジネス的な視点が大きいです」

成果が出るのは一年半後。腹をくくって楽しめるか

縮小傾向の藍染め業界ではありますが、決して新たな作り手の挑戦がないわけではありません。ではなぜ、作り手が一向に増えないのか。その大きな理由を小田さんは「独立直後だと作れる染料の量が少ない」ことと話します。

「作り手が増えないっていうより、うまくいかないっていう表現の方が合ってるかもしれない。染められる量って染料の量に比例するので、まずは染料を確保することがめっちゃ大事なんです。染料は買えもするけど、独立した直後ってお金がないので自分でつくるしかないじゃないですか。

でも収穫機がないと藍の葉の刈り取りがきついんですよね。とはいえ収穫機も結構な価格やから、だいたいは手刈りしか方法がなくなっちゃって、蒅をつくれる量が少なくなるんです。そうすると当然売上も上がらないから投資もできなくて、事業が大きくなっていかない。

あとは藍の種を3月にまいてから染料として使えるようになるまでって、1年半ぐらいの時間がかかるんですよ。独立してすぐは、次の蒅ができる1年半先まで染められる量の蒅を確保しておくか、生活費の確保のどっちかをしないといけなくて、その問題にもぶつかるんですよね」

当然、小田さんにも同じ壁が現れます。

地域おこし協力隊の仕事でつくる藍の葉や染料は、すべてその地域の持ち物となるため、普通に独立しては生活していける分の染めがすぐにはできない。その問題に当初から気付いていた小田さんは、徳島での修行時代から戦略的に「独立後の蒅をつくっておく」ことをはじめました。

所属していた地域の役場に「刈取機だけ無料で貸してほしい」と交渉し、協力隊の仕事後に自腹で借りた藍畑で藍の葉を育て、蒅をつくる。そうした戦略と努力があってこそ、独立後すぐに染めの仕事に取り組めたのです。

「とはいっても、独立してしばらくは新卒の時の給料にも至らないくらいの額しか稼げなかったんですけどね。でも少しずつ知っていただけるようになって、ようやく生活できるようにはなりました」

先ほどもお伝えしたように、種まきから染めまで一貫して行っているINDIGO CLASSIC。藍染め業界全体を見ても、同じような畑のキャパシティで藍を育て、染めまでを行う作り手は他にあまり例がありません。

「他にあまりないのがどうしてかって言われたら、なんか、腹のくくり方な気がします。藍って生き物なんで、365日、畑とか染料の調子を見る生活が続くんです。単純に大変すぎますよね(笑)。

土をつくるのも基本的には1年で成果が出るようなものじゃないし、蒅も3~4か月は我慢しないとできないし。大変な思いをして育てても、染めてみるとイマイチなことももちろんあります。その答えが種をまいてから1年半後にしか見えないけど、それを『難しいけど楽しい』って思えるかだと思います」

変化を続けることは、伝統を守ること

小田さんにお話を伺っていると、技法は「伝統」そのものながら、「伝統」への向き合い方はあくまで軽やか。「楽しいから自分はこの方法を選択している」という、無理に背負わないスタンスが印象的です。

「『この仕事を今後はどうしたいんですか』ってよく聞かれるんです。あわよくば自分が死ぬまで自分の好きなことで食っていきたいって気持ちはあるけど、その道中で必要とされなくなったら淘汰されても別にいいと思ってます。欲しいと思ってもらえないなら、それってしょうがないことというか。でも、諦めないっていう気持ちですね」

「僕らの仕事で大事なのって作り方とか染め方とかを、お客さんから求められるものにきちんとフィットさせにいくことだと思うんです。

徳島で習った藍染めの世界は、どっちかというと伝統とされるものを守るというか、自分たちがやってきたことを変えないってスタンスだったんですけど、時代に合わせて、お客さんの希望をどう叶えるか考えることを自分たちは大切にしていて。その方が喜んでいただけますよね。

そもそも、藍染めがはじまったときって伝統でも何でもないじゃないですか。昔の人たちが残してくれた理由ってたぶん、時代に沿って求められるものに合わせてきたからだと思うんですよ。

その続けてきたものを守るっていうんやったら、時代に合わせて変化していった方が、守ってきた思想みたいなものにはフィットしてるんじゃないかなって、僕は思うんです」

過去から続く製法を用いながらも、伝統にとらわれないことで伝統を守っていく。そうやって柔軟に受け入れ、つくる、覚悟と好奇心こそ藍を未来へ「つなぐ」ヒントなのかもしれません。

最後に小田さん、私たちが本藍染めを暮らしに取り入れるよさとは何なのでしょう。

「『本物に常に触れ続ける』っていう感覚を持ってもらえたら嬉しいなと思うんです。最初はわからなくても、そばに置くことでちょっとずつ審美眼が鍛えられることってあるじゃないですか。そうやって自分の感覚を磨いていくことで、美しいものを見る目があがる。

別に価格の高いものがいいものってわけではないんですよ。でも、『自分にとってはこれがいい・悪い』の判断が自分でつけられるようになるのは大事だなって。だから僕たちはちょっとだけ背伸びしたら買えるくらいの生活に近いものに挑戦して、できるだけたくさんの方にお届けできたらって思いますね」

歴史や背景ではなく、藍そのものの魅力にとりつかれたからこそ、とらわれずに、しなやかにその技を未来へつないでいく。

すすむ、つなぐものづくりとは何なのか。そのひとつの答えと、これからの工芸の姿がそこに見えました。

<関連する特集>

<INDIGO CLASSICさんが染めた商品>

藍染ギャザーキャミソール
藍染フラットバッグ
藍染タペストリー
藍鹿の一輪挿し飾り
SETOMANEKI earth 藍染 小

文:谷尻純子
写真:奥山晴日