【旬のひと皿】里芋の共和え

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



顔を近づけ、里芋の面取りをしているとハッとした。
自分の爪が父にそっくりのかたちで、そこに父がいるような感覚になったのです。

爪や手が似ていると思ったのは、父が亡くなってから昔の写真を見返したとき。姿は見えずとも、自分のかたちに父が残っていることに喜びを感じました。

毎年この時期になると干し柿を一緒に作るのが恒例で、柿の皮を剥いている写真を記録していました。その手元を、知らずと覚えていたのですね。

今も生きていれば聞きたいことがたくさんあったなとも思うのですが、自分の記憶と、そして身体にまだ生きているのは心強く、温かい気持ちになったのです。

先日、いろんな方からずっとおすすめしてもらっていた、日本料理のお店へお伺いしてきました。

お父様と娘さんがお二人で切り盛りされるそのお店。外にはきれいな暖簾がかけてあり、一歩入ると店内は隅々まで清潔に磨き上げられている。カウンターはカーブ状にしつらえてあり、棚には漆のお椀やお膳がすっきりとならんでいます。35年続けてこられた時間の織り成す美しさを感じました。

大将は「僕はどこでも修行していません。本を参考にしながら、自分で毎日、一つでもどこかを向上させようと思って仕事に向かっています」とお話してくださいました。

一週間かけて蜜煮にされた花豆や、炭火焼の舞茸が入った澄んだ味のお汁には、ピカピカの銅鍋で丁寧に作られた蕎麦がきが浮かびます。数日たっても忘れられない、どれもシンプルで透き通った味をしたお料理でした。

「僕の料理はおばあちゃんの料理」とおっしゃっていた大将。

家族のために、手間暇かけて料理をしていた少し前の時代。それは不便もあったけれど、身体にも心にも豊かな時間だったのかもしれません。代々続く伝承料理にも本当に感動しました。

帰り際にお見送りしてくださった大将がこうおっしゃいました。「お客さんの喜んでいる顔を見るのが僕、だーいすき!」と。

おばあちゃんも、料理人も、みんな気持ちを込めて料理をしている。その食事が、食べる人のパワーにもなって、また頑張れる。大将に父の姿も重なって、もう一度、父のやさしさに触れられたような気持ちになりました。

仕込みのときの父の姿。大将がくれたあたたかい言葉。料理を食べるのは、一日のなかで長い時間ではありません。けれどその記憶は、永く自分に残っていく。そんな、大切なことに気づかされた日になりました。

<里芋の共和え>

材料(2人分)

・里芋…6~8個
・春菊…1束
・かつお節…2掴み
・白炒りごま…少々
・砂糖…小さじ1
・みりん…小さじ1
・醤油(お好みで)…小さじ1/2
・出汁…適量

今回ご提案するのは、里芋を里芋で和える「共焼き」。むいた皮は捨てずにサクサクのガレットとして食べられるよう、おまけのレシピも用意しました。

作りかた

鍋に湯を沸かして塩(分量外)を入れ、春菊をサッとゆでる。茹でた春菊は冷水にとり、水気を絞っておく。

里芋の皮をむいて半分に切る。鍋にたっぷりの水とともに入れ、水から下茹でする。3割程度まで火が入ればOK。米のとぎ汁があるときは一緒に入れると、ぬめりやアクが取れやすくなるのでおすすめ。

里芋を煮ている間に春菊を食べやすい大きさに切っておく。茹であがった里芋をザルにあげる。

鍋に里芋を入れ、出汁を里芋の半量程度のかさまで注ぐ。砂糖、みりんを入れたら落し蓋をし、少し煮て味をなじませる。

煮ながら味をみて、お好みで醤油を足しさらに煮詰める。味がぼんやりするなと感じた場合は味噌を少し足すと、味が引き締まるのでおすすめ。煮汁が少なくなったら、里芋の半量を軽くつぶす。

火を止めて鍋に春菊を入れ、軽く和える。うつわに里芋と春菊をバランスよく盛り付け、かつお節とごまをかけて完成!

おまけのレシピ「里芋の皮のガレット」

里芋の皮をよく洗って水けをふき、千切りする。片栗粉・米粉 各小さじ2、水小さじ1と一緒に入れてさっくりと絡める。

フライパンを熱しやや多めの油をひいたら、先ほどのタネを丸く入れて揚げ焼きにする。

片面がカリッと焼けたら裏も同様に焼く。焼き上がった生地はピザ切りで6等分し、小ねぎを入れたぽん酢につけていただく。

うつわ紹介

里芋の共和え

【WEB限定】明山窯 HIJICA シリアルボウル14cm ダークグレー

里芋の皮のガレット

信楽焼の平皿 並白

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【四季折々の麻】11月:あたたかいのに軽く、やわらかな生地感「麻とウールツイード」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2024年11月1日公開の記事を再編集して掲載しました。

あたたかいのに軽く、やわらかな生地感「麻とウールツイード」

11月は「立冬」。寒さがいよいよ本格的になり、冬支度をはじめる月。色づく木の葉を見上げながらお出かけすると、頬にひんやりと次の季節の気配を感じます。

そんな時期に着ていただける服を、麻とウールの糸を合わせて織り上げたツイード生地で仕立てました。両者ともに天然素材で相性も良く、ウールの保温性に麻の吸湿発散性が加わることで、あたたかなのに蒸れにくく、心地好く着られます。重い衣類が多い時期に、ふんわりと軽やかな着心地もおすすめしたいポイントです。

ラインアップは4種類。気温の差が激しい時期に心強い「かぶりベスト」や、ラクに履けつつ形のきれいな「テーパードパンツ」と「ワイドパンツ」、また冬の着こなしで活躍する「ワンピース」を揃えました。

【11月】麻とウールツイードシリーズ:

麻とウールツイード かぶりベスト
麻とウールツイード ワンピース
麻とウールツイード テーパードパンツ
麻とウールツイード ワイドパンツ

今月の「麻」生地

素材に使った麻は、衣類によく採用されるリネン。やわらかな風合いのシェットランドウールとリネンを合わせた混紡糸を用いて、密度を詰めすぎないよう、甘くやわらかに織り上げました。シワにもなりにくく、寒い冬も気持ちよく着られる生地となっています。

シェットランドウールはスコットランドの北にある、寒さや湿度が厳しいシェットランド諸島に生息する羊の毛を用いた糸。海草などを食べて育つため、やわらかい毛質が特徴です。

嵩の高いシェットランドウールから作られるふんわりした糸は、生地を織り上げる際に空気を含み、軽くあたたかな素材感に仕上がります。そこにリネンを混ぜることで、ウールだけで織り上げるよりも耐久性を増して、生地にしなやかさを加えました。

またウールの保温性にリネンの吸湿発散性が加わることで、あたたかなのに蒸れにくい生地となるのも特徴の一つ。屋外ではあたたかく身体を包み、暖房で汗をかいても湿気を逃がしてくれる、この時期に心強い組み合わせの素材です。

素材製造や生地加工は、一つひとつの工程を日本各地の得意な作り手に依頼しました。糸づくりは広島、糸の糊付けは和歌山、織りは岐阜、加工は愛知と、プロの集大成のような生地です。

お手入れのポイント

ウールを多く含むのでドライクリーニングがおすすめ。シワはつきにくいものの、たたみジワなどが気になりアイロンをかける際は、必ずあて布をしてください。

また毎日着たくなる軽やかさではありますが、長く着ていただくために毎日連続しての着用はお避けください。

ざっくりと織られたツイードは糸と糸の隙間にホコリが入り込みやすいため、着用した日は軽くブラッシングをしておき、シーズン終わりにはドライクリーニングに出して保管すると、長くきれいに着ていただけます。

気負わず上品に着られる4アイテム

カジュアルにもきれいにも着られる、冬のお出かけに使いやすい4つのアイテムを揃えました。色展開は生成、グレー、チャコールのナチュラルな3色。ウールの素材感を活かした、自然で上質な印象の色合いに仕上げています。

「かぶりベスト」はその名のとおり、かぶって着られるベスト。後ろの襟元にボタンを一つつけてかぶりやすいよう調整し、パンツにもスカートにも合わせやすい絶妙な丈感に仕上げました。

軽やかな着心地ではありますが、布帛(ふはく:織物のこと)のためニットベストよりもきちんと感を出せるのも嬉しい点。カットソーやタートルネックのセーターなどと合わせて、秋から冬まで長く着ていただけると嬉しいです。

パンツは、足さばきのよい「テーパードパンツ」と、ロングスカートのようにも見える「ワイドパンツ」の2種類。

どちらもウエストはゆったり履けるゴム仕様ですが、麻とウールの上質さがあるため、上品に着られると思います。先にご説明したベストとセットアップで着こなしていただくのもおすすめです。

「ワンピース」は袖なしのゆるやかなAライン。身幅をゆったりととっていますが、広がり過ぎず、かわいらしさはやや抑えた形に仕上げています。こちらもカットソーやタートルネックに合わせて、冬の装いを楽しんでいただければと思います。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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【あの人の贈りかた】ちょっとした工夫に、想いをのせる(スタッフ榎本)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は商品企画・デザイナーの榎本がお届けします。

家でも外でも美味しく食べられる「産地のカレー」

年齢を重ねるにつれて、お付き合いのご挨拶や御礼で、ちょっとした贈りものをする機会が増えてきた気がします。相手のことを思いながら選び、渡すこちらも嬉しくなるような、そんな贈りものをしたい。その想いは、若い頃よりもずっと強くなりました。

たとえば、週末をアクティブに、海や山、川といった野外で過ごすのが好きな人には、「産地のカレー」を贈ってみてはどうでしょう。

パッケージを開けた瞬間に広がる、カレーの芳醇な香り。ごろっとした野菜や肉の存在感が際立っており、外で食べるカレーをさらに美味しくしてくれます。

レトルトパウチなので、ハイキングやキャンプにも手軽に持ち運べますし、アウトドアのクッカー鍋などで、パウチごと温められるのも気に入っている点です。

ローカルカレーという少し通好みの贈りものは、「これ、実はね‥‥」と、贈る相手との会話を自然に弾ませてくれるはず。馴染みのある地域のカレーを相手に合わせて選ぶのも、楽しい時間です。

<贈りもの>

・中川政七商店「産地のカレー

お茶の時間が好きなあの人に「奈良の焙じ茶 丸カステラ」

家でお茶をゆっくり楽しむのが好きな方には、「奈良の焙じ茶 丸カステラ」をよく贈ります。

肩肘張らない価格と気軽なパッケージとは裏腹に、箱を開けると、思わず笑顔になるような愛らしい丸いカステラ。しっとりとしたスポンジが驚くほどふわりとしていて、焙じ茶の奥深い香りが広がります。

表面に散りばめられたザラメは、ひと噛みごとにザクザクと小気味よい音を立て、食感のアクセントに。いただく前に温まる程度に少し炙ると、ザラメが溶けてキャラメルのような香ばしさが加わり、焙じ茶の香りと最高の相性を奏でます。

小さいお子さんも喜んでくれる一品です。

<贈りもの>

・中川政七商店「奈良の焙じ茶 丸カステラ

ほんのりと想いを添える手づくりのスプーン

親しい知人や友人の祝い事には、手作りのスプーンを贈ることも。

スプーンは誰でも使うものですし、かさばらないので何本あっても困ることはないかなと思います。何より、削っている時間が好きなので、時間を見つけてはついつい作ってしまいます。

とはいっても作るのは大層なものではありません。身近な木の枝や木端を選び、長い時間をかけずに、あくまで短い時間でささっと作れるものです。

特別なものではなくても、そこに私の手が加わっているということ。日常的に使うものだからこそ、贈りものに一匙そっと忍ばせておくことで、私の想いがほんのり伝わる気がするのです。

贈りものを選んだあとも、その周りのことにちょっとだけこだわってみることがあります。

包み紙やメッセージカードの紙質、ペンのインクの色、結び紐の素材を少し変わったものにしてみたりと、自己流にあれこれ工夫するその時間が、実は贈る人とのつながりを実感させてくれる大切な時間のような気がしています。

以前、お茶の先生に「手づから」という言葉を教わりました。自ら手を動かし、相手をもてなすという意味だそうです。

たとえお店で買ったものをそのまま贈ったとしても、そこに込める本当の真心は、その品を心を込めて選ぶことや、手書きのメッセージ、相手を想いながら包む時間などの一つひとつの小さな工夫に宿るのかもしれません。

贈りものをするとき、ふと、その言葉を思い出したりします。

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 商品企画・デザイナー 榎本雄

【旬のひと皿】鮭と香草の紙包み焼き

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



窓から入る涼しい風とともに、やっとやっと、秋がやってきました。夏の暑さに加えて秋生まれということもあり、季節が変わるのをまちわびていました。

季節が変わったら挑戦したいなと思っていたのは、奈良を知ること。

旅行で来られる方はしっかり奈良を調べて、計画的にさまざまな場所へ行かれています。そんなお客様とお店でお話しをしていると知らないことも多く、「もう20年近く奈良に住んでいながら、なんてもったいないことを‥‥」と、ハッとしたのです。

というわけで書店へ行き、『奈良の歴史散歩』(山川出版社)という本を購入しました。
(故郷・島根の本も同時に見つけて、倍嬉しい!)

次の休みには奈良市内にある、唐招提寺へ。穏やかな秋の日、平日だったこともあり静かに拝観することができました。森に入ったかと思うくらい緑が深く、手入れの行き届いた木々の足元には、一面に美しい苔が。光に照らされて、なんともいえない穏やかな気持ちになったものです。

ずらりとあちらこちらに並ぶ、国宝の仏像。ちょっと車を走らせただけで、タイムスリップしたかのような日本の歴史に包まれました。まるで、慌ただしい日常をリセットさせてもらえたような時間。初めて御朱印も頂き、帰宅しました。

視点を変えて、気持ちも変えて、近すぎて見えなくなった大切なことや物、場所も見ていきたいなと思ったひとときでした。

今月のレシピで主役にしたのは秋鮭です。昔、お世話になったお店でよく作られていた紙包み焼きを思い出し、私流のレシピにしてみました。だんだんと寒くなってくるこの時期に愉しめるよう、今回はきのこやあさり、マスカット、香草と合わせ、秋をぎゅっと包み込んでいます。

ポイントは少し大きめの紙を使い、なかの空間に空気を入れて、蒸し焼きのようなイメージで作ること。秋鮭はふっくらしっとり、きのこやあさりはおいしいスープを出してくれるといいなと思いながら作りました。

うつわに用いたのは、中川政七商店さんの新作「瀬戸焼の印判角皿」。おいしいパンをおともにして、スープを浸して食べると、可愛い動物が見つかります。

肩の力を抜いて、いろんな場所の食卓で今日もほっとひと息つけますように。

<鮭と香草の紙包み焼き>

材料(2人分)

・鮭…2切れ
・あさり…4粒
・玉ねぎ…1/4個
・きのこ(お好みのもの)…全部で1パック程度
・かぼす(レモンでも可)…1個
・マスカット…6粒
・ハーブ(お好みのもの)…適量
※今回はタイムとローズマリーを使用。なければ乾燥ハーブミックスでも可

◆A
・白ワイン(料理酒でも可)…小さじ1
・塩コショウ…適宜
・酒粕…適宜
・味噌…小さじ2
・バター…10g

◆その他
・バケット…2切れ 

秋の食材をもりもりと入れたひと皿。マスカットは味のアクセントに入れていますが、なければミニトマトに変更するのもおすすめです。

作りかた

鮭に塩(分量外)をして10分ほど置く。あさりは砂抜きをする。玉ねぎはスライスしてから半分に切り、きのこは食べやすい大きさに切る。かぼすはよく洗い、皮つきのままスライスする。

クッキングシートを鮭の1.5倍程度のサイズで、2枚用意しておく。
鮭の水分をペーパータオルで拭き取る。

クッキングシートの中心にオリーブオイル(分量外)をひいて、玉ねぎ、きのこの順にそれぞれ半量ずつ重ねる。都度、塩少々(分量外)をして下味をつける。

続けて、鮭、あさり、マスカット、かぼすの順に上にのせる。ハーブを添えたらAをそれぞれ入れて、お好みで塩コショウをふる。クッキングシートで空気が抜けないように包んだら、端をホチキスでとめる。

160度のオーブンで12分焼く。オーブンがない場合はフライパンに少量の水を入れ、蓋をして蒸し焼きにする。うつわに盛ったら完成!

バケットを添え、ぜひスープをパンにつけながらお召し上がりください。

盛り付けが面倒な場合は、紙で包んだままうつわに載せても。絵柄入りのうつわなら、食べ進めるとかわいい景色が浮かびますね

うつわ紹介

瀬戸焼の印判角皿 鹿麻花、虎唐草

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

料理研究家・ツレヅレハナコさんがつくる、「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」を使ったレシピ

家事に仕事にと忙しく、思い通りのリズムとはいかない毎日。

心も体もくたびれてしまい、ヒットポイントはゼロに近い。けれど、そんな日こそ野菜をしっかり摂って体がよろこぶものを食べたいと、台所によろよろと向かう日もしばしばです。

この秋、新発売となる「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」は、毎日の料理の強い味方になればと開発したもの。野菜をもりもりのせても蓋の閉まるサイズ感や、土鍋ならではの機能性が特徴で、“土鍋まかせ”で手軽に料理が完成します。

監修をお願いしたのは、文筆家・料理研究家のツレヅレハナコさん。その気構えず、自由で楽し気な食卓にはファンも多く、台所道具との付き合い方にも信頼の厚い方です。

ハナコさんなら、この鍋で何をつくるんだろう。できたてほやほやのサンプルを、一足お先に使っていただきました。



「つい手にとっちゃう“いい”道具」を目指して

「台所に住みたい」と普段から話すほど台所愛の強いハナコさん。自宅を建てる際も台所のつくりに最もこだわったといいます。

広くとった台所スペースにはコツコツ集めてきた調理道具がずらり。特に目を惹くのが、その数なんと30を超えるという様々な鍋です。台所の手前には専用の陳列棚も設けられ、鍋愛の強さを伺えました。

「鍋って本当に万能で、焼きも炒めも蒸しも、もちろん煮ることもできます。フライパンのほうが簡単という方もいらっしゃるとは思いますが、私は普段からいろんな料理を鍋でつくってますね。

あと、鍋にはその土地の文化を表すものが多くて、そこも鍋の好きなところ。旅先の文化を持ち帰れるという意味でも鍋を迎えちゃいます」

そんなハナコさんに今回監修をお願いしたのは、その名も「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」。そもそもどうしてこの鍋に至ったのでしょう。

「一人暮らしをはじめるときに軽い気持ちで買った土鍋があったんですけど、気づいたらその鍋ばっかり使ってて。普通の一人鍋より少し大きめのサイズ感で、野菜がたくさん入れられるので、一人の日の食卓にも二人分の煮物なんかにもぴったりだったんです。

ただ、容量や重量が使いやすい一方で『もう少しこうしたいな』と思う点もありました。道具づくりをご一緒する機会を頂いたことを機に、一人の食事も気負わずつくれてたっぷり栄養が摂れるような、使いやすい鍋があったらと思ってご相談したんです」

「使いやすさ」を言語化しながら、あらゆるポイントに工夫を重ねた今回のひとり土鍋。特にこだわった点をハナコさんに紹介していただきましょう。

「まずは大きさと形。ふつうの一人土鍋って少し小さいものが多くて、例えば一人分のうどんをつくりたくても具材や水分があまり入らないんです。対してこれは一般的なサイズよりもやや大きめで、さらに底を直角に近い形に仕上げたことで、インスタント麺や冷凍うどんが横向きにすっぽり入ります。

うつわのようなフォルムの蓋も、デザインと機能性の両立を目指してこだわりました。少し異国のような雰囲気もあってかわいいですよね。蓋って平べったいものが多いですけど、栄養をたっぷり摂れるようにと蓋は高めにして、具材をたくさん入れても閉まるサイズ感にしています。

持ち手もあえて大きくとって、掴みやすい形に。裏返して置いたときに安定感がありますし、この蓋を取り分け皿や丼のように使っていただくこともできるんです。食器らしく見えつつ、蓋としても成立するようにと調整を重ねた部分ですね」」

「土鍋なのにそんなに重くないところもこだわった点のひとつです。作家もののようなどっしり感や繊細さも素敵ですが、今回の土鍋は毎日気負わず使えるものがいいなと思って。土鍋の機能は十分あるのに、さっと取り出せて気軽に使えます」

「注ぎ口があるのもこの土鍋ならでは。例えば汁物の場合、食事の最後に残った汁を土鍋から直接うつわに注げます。ちょっとしたことなんですけど、実はこういうのがすごく便利ですよね。

あとこれ、蒸気抜きの役割も果たしていて。蒸気を抜く穴ってふつうは蓋につきますけど、今回は蓋をうつわのようにも使いたいなと思ったので、あえて蓋に穴をあけなかったんです。でも蒸気は抜かないと溢れちゃうから、注ぎ口をつけて解決しました」

「料理の仕事をしていると、『いい道具の条件って?』と質問を受ける機会も多いのですが、私の答えは『ふと気づけば毎日のように手にとっちゃう道具』が『いい道具』。

今回ご一緒した土鍋もそんな存在になればいいなと、つい手にとる理由を何とか言語化しながら作りあげました。ぜひいろんな料理に使っていただけると嬉しいです」

「野菜がたくさん食べられるひとり土鍋」でつくる、手軽なレシピ

たくさんの調整を重ねて誕生したひとり土鍋。特におすすめの3つのレシピを、ハナコさんに教えていただきました。

ごま豆乳タンメン風うどん

<材料(1人分)>

・鶏もも肉…100g
・キャベツ…100g
・長ねぎ…10cm
・にんじん…50g
・ニラ…1/4束
・きくらげ(乾燥)…3g
・うどん(冷凍)…1玉
・豆乳(無調整)…1カップ
・水…1/2カップ
・オリーブオイル…小さじ1
・塩、こしょう…各少々

◆A
・すりごま…大さじ2
・みそ、みりん…各大さじ1

<作りかた>

1. 鶏肉は皮を取りひと口大に切る。キャベツは3cm角、長ねぎは斜め薄切り、にんじんは拍子木切りにする。ニラは3cm長さに切る。きくらげは水(分量外)で戻し、ひと口大に切る。

2. 土鍋にオリーブオイルを熱し、鶏肉、キャベツ、長ねぎ、にんじん、きくらげを炒める。全体がしんなりしたらニラを加えて塩、こしょうをふり、蓋に一度取り出す。

3. 土鍋に水を入れ、沸騰したらうどんを入れてほぐす。3分ほど煮て豆乳、Aを加える。沸騰直前まで温め、炒めた具材をのせる。

「この土鍋を一番使うのはやっぱりうどんやラーメンだろうなと、一つめのレシピは冷凍うどんを使ったものにしてみました。具材にしたのはたっぷりの炒め野菜。土鍋は空焚きNGのものも多いですが、今回のものは焼きの工程にも対応しているので安心して使えますね。具材を炒めたあとは蓋をバットとして使うと、同じ鍋でそのままスープまでつくれます。洗いものも少なく済むし、そのまま食卓に運べば冷めずに食べられるのも嬉しい点です」

和風鍋焼きビビンパ

<具材の材料(作りやすい量)と作りかた>

◆小松菜のごま和え

小松菜1/2束はさっと茹でて3cm長さに切る。ボウルにすりごま大さじ2、しょうゆ、砂糖各小さじ1を混ぜ、小松菜を加えて和える。

◆にんじんの塩きんぴら

にんじん150gはスライサーでせん切りにする。フライパンにごま油小さじ1を熱し、にんじんを加えて炒める。塩、七味唐辛子少々を振る。

◆紫キャベツのだし酢びたし

紫キャベツ1/4個(約300g)は千切りにして塩小さじ1をまぶし、10分ほど置いて水けを絞る。保存容器にだし汁2カップ、酢1/4カップ、薄口しょうゆ大さじ3、砂糖大さじ2を混ぜ、紫キャベツを30分以上漬ける。

◆しっとり鶏そぼろ

耐熱ボウルに鶏ひき肉200g、しょうゆ大さじ2、砂糖大さじ1を入れて全体を菜箸でよく混ぜる。小麦粉小さじ2を加えてさらに混ぜ、ラップをふんわりとかけて電子レンジ(600W)に2分かける。一度取り出して混ぜ、さらに2分かける。

◆薬味

大葉2枚はせん切り、みょうが1/2個は小口切りにする。混ぜて水に1分ほどさらし、水けを切る。

◆しらす

20g

◆卵黄

1個分

<作り方>

土鍋にごま油小さじ1を熱して全体に塗り、ごはん300gを敷き詰める。卵黄以外の具材をいろどりよくのせ、弱火にかけて5分ほどごはんを焼く。真ん中に卵黄をのせ、よく混ぜていただく。

「ごはんが焼けるという土鍋の特性を活かして、香ばしい鍋焼きビビンバを作ってみました。のせた具材は、作りおき未満の“仕込みおき”として普段から私の冷蔵庫にスタンバイしているもの。時間に余裕のあるときにつくっておけば、忙しくて料理をつくる気力がない日も、ご飯を焼いて具材をのせるだけで簡単に完成します」

豚肉と野菜の土鍋蒸し

<材料(1人分)>

・豚バラ薄切り肉…150g
・白菜…250g
・パプリカ(赤)…50g
・しめじ…1/2袋
・豆もやし…1/4袋
・青ねぎ(小口切り)…適宜
・酒…大さじ2

◆梅おろしポン酢だれ

・大根おろし…100g
・梅肉…大さじ1
・ポン酢…1/4カップ

◆ピリ辛みそマヨだれ

・みそ、マヨネーズ…各大さじ2
・豆板醤…小さじ1

<作りかた>

1. 豚肉は半分の長さに切る。白菜は4cm角、パプリカは長さを半分に切り3mm厚さの細切りにする。しめじは石づきを切ってほぐす。各たれの材料をうつわに合わせる。

2. 土鍋に半量ずつ白菜、豆もやし、しめじ、パプリカ、豚肉の順で重ね、残りを再度重ねる。

3. 酒をふり、ふたをして弱火にかけて10分ほど加熱する。青ねぎをのせてたれを添え、つけながらいただく。

「高さのある蓋の特性を活かしたレシピ。山盛りに入れてもちゃんと蓋ができるので、蒸し効果が得られるのがこの土鍋のよいところです。ほぼ野菜の水分だけで蒸すのでうまみもたっぷり詰まってますし、シンプルな味をたれで味変することで最後まで楽しく食べ続けられます」

最後にハナコさん、実際に使ってみていかがでしたか?

「まず、見た目がかわいいところが気に入っています。台所に出しっぱなしでもサマになるデザインですし、混ぜご飯や麺類をつくった時にそのまま食卓に出せるのもいいなって。

重すぎず、それでいて丈夫なのも毎日の料理で使いやすいですよね。欠けやすいと使うのも慎重になりますけど、これは日常使いできる頼れる感じがいいなと思いました。

あとは本当にすごくいっぱい入ります。極端な話ですが、雪平鍋くらいは入っちゃうなと。一人用ですけど、二人分くらいの調理は全然問題ない大きさで、ちょうどいいサイズですね。煮物にもいいだろうし、炒め煮みたいな調理にも活用したいです」

何をつくろうかなと迷った日は「今日も、土鍋まかせ」で、とりあえずこの土鍋を取り出してみる。

そんな風に、日々のごはんにそっと寄り添ってくれる、皆さまの頼もしい相棒になりますように。


ツレヅレハナコさん

食と酒と旅を愛する文筆家、料理研究家。著書に『まいにち酒ごはん日記』、『ツレヅレハナコのおいしい名店旅行記』、『ツレヅレハナコのからだ整え丼』など。食や日常を綴るSNSも人気。
https://www.instagram.com/turehana1


<関連特集>

<掲載商品>

野菜がたくさん食べられるひとり土鍋 白

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【四季折々の麻】10月:ふっくらとあたたかく、上品な艶感「綿麻のコール天」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2024年10月1日公開の記事を再編集して掲載しました。

ふっくらとあたたかく、上品な艶感「綿麻のコール天」

10月は「清秋」。残暑もようやく終わり、清く澄みわたる空に爽やかな秋を感じる月となりました。木々が色を染める景色や、遠くから聞こえる虫の声。そんな時季に着ていただけたらと、豊かな空気を吸い込んで出かけたくなるような服を、綿麻のコール天で作りました。

素材に採用したのは、綿と麻を合わせた糸を使って織ったコール天生地。コール天とはいわゆるコーデュロイのことで、日本の遠州地方で作られるコーデュロイを昔からこう呼びます。手間ひまをかけて職人が手がけた、畝(うね)のふっくらとした丸みと艶が特徴です。

毎年人気で、中川政七商店でも秋の定番となっているこの生地を用いて、今シーズンは昨年から引き続きおつくりする「イージーパンツ」に加え、新たに「プルオーバーベスト」と「ジャンパースカート」をラインアップ。いずれも着まわしやすく、寒い季節まで長く着られるアイテムを揃えました。

【10月】麻の高密度織シリーズ:

綿麻のコール天 プルオーバーベスト
綿麻のコール天 ジャンパースカート
綿麻のコール天 イージーパンツ

今月の「麻」生地

秋から冬まで長い時期で着られる、綿麻素材の肉厚なコール天生地。

夏のイメージが強い麻ですが、実は秋冬にもたくさん着たいおすすめの素材です。吸湿発散性があるので重ね着する場合もムレにくく、何より上品な艶感で、秋冬らしい落ち着きを纏っていただけます。今回は綿が主流のコール天生地に麻を取り合わせることで、綿の肌あたりのよさと、麻ならではの軽やかで上質な質感をそなえた生地に仕上げました。

国産コーデュロイ、特に遠州のコール天は、一つひとつの工程が丁寧で手が込んでいるのが特徴です。ベースとなるのは、タオルのように糸をループ状にして織り上げたパイル織生地。そこから糸をカッティングして凸凹した畝を作り、全体の糊を洗い落とす「糊抜き」後に、「毛焼き」の作業を施していらない毛羽を落とします。こうすることで、ふっくらとやわらかで、なめらかな生地に仕上がるのです。

完成した生地は艶があるためカジュアルすぎず、上品な“大人のコール天”といった印象に。

現場では腕のよい職人さんの高齢化も進んでいて、「あと何年できるか」という話もよく出ます。ですが一方で、国産のコール天に魅力を感じた若い職人さんが後を担おうとする動きも出てきているそう。いずれにせよ、貴重な生地であることに変わりはありません。

お手入れのポイント

お洗濯はできるだけ手洗いで。脱水で洗濯機を使う際や、洗濯機の手洗いモードを使って洗濯する際は、お洋服を裏返してネットに入れてください。

また着用時や着用後に洋服ブラシを軽くかけてもらうと、毛並みが整い艶も美しくなり長持ちします。毛並みは下から上の流れになっているので、ブラシも下から上にかけてくださいね。

ひと手間かかってはしまいますが、手間をかけることでよい状態で長く着られるはず。お洋服を手入れする時間も楽しんでいただければ嬉しく思います。

きちんと感もカジュアル感も出せる3アイテム

セットアップにブーツや革靴を合わせてきちんと着たり、単品アイテムにスニーカー合わせでカジュアルに着たりと、いろいろな雰囲気をつくれる3アイテムをラインアップ。

色展開は、これまでの生成・墨紺に加え、新色のブルーグレーを加えた3色で、長く着られる色合いを揃えています。特に生成は素材そのものの色合いのため、麻の繊維も混じり杢(もく)感があり、奥行きのある雰囲気でおすすめです。

プルオーバーベストは、かぶりタイプであたたかな一着。肩を覆い、ほどよくゆったりとしたシルエットで気を遣わずに着られますが、コール天の艶感が上品な印象に仕上げてくれます。イージーパンツと合わせてセットアップで着るのもおすすめです。

前も後ろも深くVが入った形で堅苦しさのないジャンパースカートは、下から履いても着られるような、リラックス感のあるデザイン。左右の大きなパッチポケットをアクセントにしました。

ここ数年、なかなか予想できない気候が続いているので、気温に合わせて重ね着したり、薄手のアイテムを合わせたりと、調整しやすいアイテムにしたのもポイントです。秋は薄手のカットソーを合わせ、寒くなればタートルネックニットを合わせるなど、ぜひ長いシーズンでご着用ください。

イージーパンツはとにかく暖かく、秋冬にたくさん履きたい楽ちんシルエットに。シンプルなトップスと合わせてパンツの存在感を引き立てたり、ざっくりしたニットに合わせてほっこりしたコーディネートにしたりと、合わせるアイテムで印象ががらりと変わります。おしりのポケットの毛並みを横に配しているのがポイントです。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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