履くほどに柔らくなる、Salvia(サルビア)の「ふんわりくつした」のひみつ

こちらの靴下は、新潟の五泉市にある「くつした工房」二代目の上林希久子さんとご家族がつくっています。

希久子さんが編みたて前の修正、長男は編み立てと調整、長女がつま先を縫い、次男が検品係です。

明るくやさしい彩りのポップなデザインにまずは目がいきますが、特徴は機能性にもあります。履いてみるとその柔らかさと伸びのよさにびっくりするほど、気持ちいい靴下なのです。

この靴下をデザインしたのは、「Salvia(サルビア)」のセキユリヲさん。「古きよきをあたらしく」をコンセプトに、日本各地の工芸の職人さんと一緒に、こだわりのものづくりをされています。

「ふんわりくつした」ができるまで

足元にちらっとのぞく靴下がお気に入りのものだと、なんだか嬉しい気持ちになります。

アースカラーを基調にしたやさしい色使いと、お花や蝶々、しましまなど、どこかレトロで懐かしいデザインの「ふんわりくつした」。

足のしめつけがなく、ふんわりとした履き心地で、履けば履くほど柔らかくなっていく、不思議な靴下です。

そのひみつは、ゴムを使わずに、ゆっくりと時間をかけて編むという、つくり手の希久子さん独自の編み方にありました。

ふんわりくつした

「ずっと靴下をつくりたかった」というセキさんが、数年がかりの作り手さん探しの末、ようやく出会えたのが、希久子さんが営む「くつした工房」でした。

かつて希久子さんのご両親が病気で入院したときのこと。

入院して足がむくんだ両親の姿をみて、「足がむくまない、病気の人にもやさしい靴下をつくりたい」と思ったことが、希久子さん独自のゴムのないストレスフリーの靴下が生まれるきかっけだったそうです。

希久子さんご家族
希久子さんご家族。右から、上林希久子さん、長女さん、長男さん、次男さん

そうして編み出された製法に心を打たれたセキさんは、すぐに希久子さんに連絡を取ることに。

希久子さんのつくる靴下の履き心地のよさ、セキさんのデザインをいかせることや、お互いのものづくりに対する思いが通じ合ったことで、まもなく希久子さんと一緒にものづくりをするようになりました。

以来10年以上のお付き合いとなり、「ふんわりくつした」は今ではすっかりSalviaの人気アイテムに。

履くほどに柔らかくなる理由

足にやさしい、履き心地のよい靴下づくりを日々追求している希久子さん。

くつした工房では、細い糸をたっぷりと使い、昔ながらの機械をゆっくり動かして、1足1足じっくりと編んでいきます。

靴下の編み機
編み機の中央の穴に糸が吸い込まれ、靴下が編まれていきます。

一般的な靴下づくりでは、小さく編んだものを伸ばして均一のサイズにするところ、希久子さんの手法では逆に大きめに編んだものをプレスして縮めています。

その分ものすごく伸びがよく、ふんわりと柔らかな履き心地に仕上げることができます。その編み具合のバランスも、希久子さんが独自に開発した、ならではの製法。

プレス機
プレスの作業は、靴下の履き心地を左右する大切な工程です。

初対面の頃から意気投合したというセキさんと希久子さんですが、「ふんわりくつした」をつくる過程では、履き心地の追求とデザインの表現のバランスで、せめぎあいもたくさんあったといいます。

例えば、デザインが細かければ細かいほど、靴下の裏糸がでてくるため、ちょっとしたことだけれども足には不快だったり、伸びがよくなくなったり、糸が切れる原因にもなる。

履き手が気づかないような細かなところにも目を向け、何度も話し合いを重ねながら、理想の形を見つけていきました。

ふんわりくつした

くつした工房の明るい未来

Salviaとのものづくりをはじめて、「くつした工房」にある変化がありました。

それは、以前と比べて、より希久子さんご自身がつくりたいものをつくれるようになったこと。そして、3人のお子さんが「くつした工房」で働きはじめたことです。

それまではいわゆる受注生産で、時には納期がすごくタイトなものや、量産型のものなど、疑問に感じるような仕事も引き受けていたものの、「ふんわりくつした」づくりがきっかけとなって、希久子さんの中でもつくりたいものの方向性がはっきりとしてきたそうです。

3人のお子さんがみんな家業を継がれたのも、きっとそんなお母さんの生き生きした姿を見てきたからなのかもしれない、と思いました。

ふんわりくつした

かわいいだけじゃない。足への負担をいちばんに考えてつくられているから、やさしくて、気持ちいい。

希久子さんが編み出した技術と、セキさんのデザインで、素敵に仕上がった「ふんわりくつした」。

作り手のあたたかさが、そのまま感じられるような手仕事のものを、日々の暮らしに取り入れてみませんか。

<取材協力>
Salvia(サルビア)
http://salvia.jp/

くつした工房
新潟県五泉市船越1177
http://kikuko.petit.cc/pineapple1/

文:西谷渉
写真:中村ナリコ、masaco

【わたしの好きなもの】遊 中川 花ふきん

手土産に重宝する「花ふきん」


お世話になった方にほんの気持ちを贈りたい時や、突然会うことになった久しぶりの友人にちょっと手土産にしたい時、軽くてかさばらない、花ふきんを重宝しています。

花ふきんのいいところは、

荷物にならないこと。
好みがわからない場合も融通が利くこと。
そして、自分が使って良さがわかっていること。

贈り物にはやっぱり、自分がいいと思っているものを差し上げたいと思います。



薄手で大判の花ふきんは、使う人によって何通りも使い道があります。

料理をする人には台所のふきんとして。
お弁当を持つ人にはお弁当包みとして。
暑がりの方にはネッククーラーとして。



「だまされたと思ってお風呂のボディタオルに使ってみて!」とオススメすることもあります。
スタッフさんのお母様に教えていただいたのですが、肌に優しくてこれがまたいいんです。

どう使っていただいても、最後には最高のお掃除ぞうきんとして役目を終えてくれます。

おうちに何枚かストックしておくと、手土産を買いに行く時間がなかった時でも安心です。
賞味期限を気にせず置いておけるところも嬉しいポイント。

1枚で気軽に、または何かと組み合わせて。箱に入れると体裁もよいです。
用途に応じてアレンジがきくので、あれこれ考えるのも楽しい!

目上の方には、たとう紙のパッケージの花ふきんを。

猫派の方には、はにゃふきんは鉄板で喜ばれます。お家の猫ちゃんと同じ柄だとなおよいですね!



20色の花ふきんは、渡す人をイメージして選んでいます。
花柄のパッケージがとびきりかわいい!

差し上げた方から、

「ふきんにこだわってなかったけど、花ふきんを使って違いにびっくりした」
「よかったから私も人にプレゼントしたよ」

と聞くと心の中でガッツポーズです。

遊 中川 本店(奈良町) 桐山



<掲載商品>
花ふきん 松竹梅
花ふきん 格子
花ふきん 紫花

京都で教わる、香りのイロハ。日本最古のお香屋さん「薫玉堂」に聞きました

お香と一口に言っても、線香に文香、印香、虫除け香などさまざま。

そんな日本の香り文化を、創業から420余年守り伝えて来たのが、京都にある日本最古の御香調進所、薫玉堂 (くんぎょくどう) です。

安土桃山時代文禄三年(1594年)に本願寺出入りの薬種商として現在の地に創業。

伝統的な香りを守るとともに、調香体験やお香のみならずフレグランスオイル、ハンドクリームなど、現代の暮らしに溶け込む香りを提案しています。

日本人でも意外と知らない「香りのイロハ」を教わりに、薫玉堂の本店に伺いました。

東京にある薫玉堂 KITTE丸の内店の調香体験に参加した記事はこちら:オリジナルでつくる自分好みの香り。東京駅でできる調香体験へ

ひとりひとりが、自分の香りをもっていた平安時代

「平安時代の貴族にとって自分の身につける香りというのは、とても大切なものだったのです」。薫玉堂のブランドマネージャー、負野千早(おうの ちはや)さんは話します。

「平安貴族の女性は髪も長く、いまのようなドライヤーもありません。平安時代の貴族は、神仏への祈りを捧げる清めの儀式以外で入浴する習慣があまりなかったので、お香を焚きしめて自身の香りを保っていたと言われています。

お香には体の邪気を払う力があるとも考えられていて、ある種のお守りとしても機能していたようです」

また、当時の貴族にはひとりひとりが自分の香りを持っていました。香りが男性や女性としての美の基準でもあり、香りの良い女性は美しい人だとされていたのだそうです。

源氏物語「梅枝(うめがえ)」にもあるように、練香(ねりこう)の香りを競う「薫物(たきもの)合わせ」など、多彩な趣味をもち、風流を知ることも恋愛上手の条件でもありました。

言葉に香りを添えて送る

当時の貴族は異性と手紙をやりとりする際に、香りを焚きしめて送っていたといいます。

「受け取った相手は、和歌や文字の美しさ、焚きしめられた香りの奥ゆかしさなどから相手を思ったそうですよ」と負野さん。

季節をイメージした薫玉堂の「文香」

香りを送る——。文字に香りを添えることで、言葉がより立体的に相手に伝わる気がします。特別な相手に手紙を送る折に、また年賀の挨拶に、ふと文香を添えてもいいかもしれません。

僕は秋のイチョウをイメージした文香を購入し、本の栞がわりに使っています。ページをめくるたびに届く香りが、本から伝わる文章により彩りを与えてくれるのです。

これから読書の秋でもあります。本を読む方にとっても文香は日々の読書を豊かにしてくれるかもしれません。

季節の変わり目に、衣類を守る

虫を除ける効果のある素材を使い、昔と変わらない製法で作られているのが虫よけ香です。

古い本の保存にも活躍しそうです

「フタバガキ科の常緑高木から採取される無色透明の結晶が龍脳と呼ばれていますが、単体ではなかなかパンチのある香りです。しかし他の香りに少量組み合わせるとカドがとれて、一気に香りを引き立てる存在になるんですよ。

虫除けの効果があるので、昔から『虫よけ香』や『衣香(ころもこう)』をたんすに入れるなどして使われていました」

肌寒くなって一気に衣替えの季節にさしかかってきました。

衣服を守るとともに、来年たんすから夏服を出すときにふと香りが開けば、平成の次、「最初の夏」の気分をより高めてくれるかもしれません。

香りを身につける・持ち運ぶ

香りは持ち運ぶこともで忙しい時間の合間にもリラックスすることができます。

「「仕事などで集中したい時は酒粕と乳香(フランキンセンス)、リフレッシュしたい時は柚子とパチョリの爽やかな香りのハンドクリームやソープが合っているのではないでしょうか。

仕事の合間のランチタイムにお香を焚くことは難しいですが、ちょっとした時間に手を洗ったり、ハンドクリームを塗ることはできますよね。私もよく仕事の合間にソープを使いますが、香りがリフレッシュさせてくれます」

塗香袋(左)と塗香入れ(右)

また火を使うことなく、粉状の御香を身体に塗る「塗香(ずこう)」というものがあります。

「お坊さんが身体を清めるために使っていたものですが、最近では和のフレグランスとして一般の方も使われることが増えてきました」。

「塗香」は香木の中でもっとも有名なもののひとつである『白檀』をベースに作られており、『白檀』は昔から邪気を払い体を清めると考えられていました。当時の人々は、邪気を払う香を体に身につけることで、お守りがわりにしていたのです。

現代では、近年ヴィトンなどのハイブランドが香木の一種である「沈香(じんこう)」を香水に使用したり、「白檀」もオイルを抽出して化粧品にもよく使用されているのだそう。

汗ばんだときや、お昼にリフレッシュしたいときに活躍してくれそうです。

自分の空間で香りを楽しむ

お部屋で焚くお香は、部屋を清めるために使われていた側面と、お香がもつ鎮静作用から、日常の中でもっとも時間を使う部屋の中で、気分を落ち着かせ楽しむという側面がありました。

「香木はもともと漢方に用いられるものの中から、香りの良いものが香料として使われていて、基本的にどれもリラックスしたり精神修養の作用があります。

白檀の中でもとくにインドのマイソール地方で採れる「老山白檀」は最高品質とされており、爽やかな香りで眠れないときなどにはいいかもしれませんね。

先ほどお話しした「沈香」も、心臓の動機や息切れに使われる漢方の六神丸、奇応丸などにも配合されていて、香木の気持ちを沈める作用は学術的にも認められています。

アロマになりますが、一般的にはラベンダーが睡眠に良いとも言われていますね。

とはいえ、最終的には『自分の好みの香り』にかなうものはありません。色々な香りを試してみて、自分のお気に入りを探してみるのも楽しいですよ」

もっともリラックスできる浴槽の中で使用する揉み出し式のバスソルト
温めて香りを引き出す「印香」。見た目も楽しめ、部屋に置いておくだけで気持ちが明るくなります

また、自分の家の香りは自分ではわからないものですが、お線香は焚き終わった後でも香りが残っています。これらは自分だけでなく、家を訪れるゲストへのもてなし・しつらえになるんです。

日本最古の御香調進所、香りの秘密

「近年は、良質な天然の香木が手に入らなくなってきています」と、薫玉堂の業務統括部長、山口浩樹さんは話します。

「私たちのお香は、天然の香木を使っているのですが、乱獲によって質の良い香りをもつ香木が激減してしまいました。

私がこの仕事を始めた30年前ですら、『これから香木は採れなくなる』と言われていましたが、近年はさらに顕著になってきています。

最高品質の白檀と言われているインド原産の『老山白檀』は、香木が採れるまで20〜25年以上はかかりますし、現在は資源保護の観点からインド政府が輸出量を管理しています。沈香はワシントン条約によって輸入も厳しく管理されています。

同じく、もっとも高品質な香木とされているベトナム原産の『伽羅(きゃら)』も、今ではなかなか手に入りません」

粉末状の香木に蜂蜜や梅肉を混ぜた練香(ねりこう)。製作中のものを見せていただきました

「香木によって、さらにはひとつの香木でも、場所によって香りが異なる場合があります。同じ香りの製品をつくるために調合を調整しますが、香りは計測することが不可能なので、すべて調合する人間の五感にかかっています。一人前になるまでに10年以上はかかると言われていますが、その調合の具合も、良い香りに触れる経験を積む機会があるからこそわかるもの。

植林もされていますが、どうしても天然のものに叶いません。香木の香りの奥深さがまったく違うんです」

製品の仕上げ作業の様子

「香木の調達も、商社の方々は調達ルートは持っていても、やはり香りは熟練した者でなければ違いがわかりません。ですから、香木の品質も私たちが直接現地で確かめて仕入れますし、その良し悪しを判断するために我々も常に向上しなければいけません」

「私たちは昔のものを大切につかって、現代の香りも作っています。そういった中で、微妙な変化があると、昔から毎日お使いになられているお客様は気づかれます。そういった方々の期待を裏切らないように、香りの品質を保っていかなければと常に考えています」

「香道には、『六国五味(りっこくごみ)』という考え方があります」。香道の基本を教えてくださったのは、薫玉堂の16代目であり、株式会社負野薫玉堂の代表取締役、負野和夫さん。

「室町時代に将軍の足利義政が銀閣寺を建てて、花道、茶道、能などと同じく香道を作った際に当時良質の香木がとれた場所と香りが分類されました」

「『伽羅(きゃら)』・『羅国(らこく)』・『真南蛮(まなばん)』・『真那賀(まなか)』・『寸門陀羅(すもんたら)』・『佐曽羅(さそら)』の6国と、『甘い』・『苦い』・『酸っぱい』・『辛い』・『塩辛い』の5種類に香りを分類したんです」。

塩辛い香り‥‥。一体どのような香りなのでしょうか‥‥?

薫玉堂の200年以上続く香室「養老亭」

「これらは結局、実際に香りに触れてみないとわからないかもしれませんね(笑)。またこれらも、体系立てて考えるための、香道の中での決まりごとなのです。

どこをとっても同じ香りというのが香道の前提なのですが、実際は同じ香木の中でも採取した木の箇所によって香りは様々です。

『伽羅は甘い香りだ!』と言う人もいれば『爽やかな香りだ!』という人もいる。香木ひとつずつ香りは違っているので、やはり実際に香ってみて気に入ったものを使うのが一番です」。

「私達作り手には、今までお部屋で楽しむ線香といえば太くて短いものという思い込みがありました。なので、4年前にリブランディングを考えた際に、長い線香を作るのは少し抵抗があったんです。

しかし、良いか悪いかは別にして、いまはお仏壇がある家庭が少なく、長い線香もすんなり受け入れられて、かっこいいと言っていただけるのが驚きでした。さらに、短い線香イコールお部屋焚きという先入観がないかたも多く、”お香といえば仏教”とはならないので、あくまでも香りとして、フラットに見ていただける。それが発見でもありましたね」

京都の情景をイメージした香りの線香。カラフルな色合いと可愛いパッケージの、薫玉堂の人気商品です

お香といえば、海外のものや、仏事に使うものをイメージしやすいですが、人気を博している薫玉堂の和の香りには、伝統を守る作り手としてのこだわりや、現代の暮らしに沿う香りへの工夫がありました。

少しずつ肌寒くなり、忙しない師走へと向かうこの季節。朝起きたとき、午後の休憩、お風呂や寝る前の読書の時間など、ちょっとした時間に和の香りを楽しんでみるのもいいかもしれません。

これまで知ることがなかった、「香りのイロハ」。和の香りには、日々の暮らしを少しだけ、しかし確実に豊かにする力がある。

今回薫玉堂のみなさんを訪ね、そう感じたのでした。

<取材協力>

香老舗 薫玉堂 本店

〒600-8349 京都府京都市下京区堀川通西本願寺前
075-371-0162

https://www.kungyokudo.co.jp/

取材・文:和田拓也

写真:牛久保賢二

こちらは、2018年10月25日の記事を再編集して掲載しました。知れば知るほどに奥深い香りの世界。「自分の香り」を探しに行くのも楽しそうですね。



<掲載商品>

薫玉堂 線香
薫玉堂 塗香袋
薫玉堂 ハンドクリーム
薫玉堂 文香 朝顔

「古きよきをあたらしく。」セキユリヲさんに聞く、これからの伝統技術の活かし方

愛されるものづくりには、つくり手の技術とこだわり、そして思いが込められています。

その背景の物語に触れたとき、私たちははじめてそのものの真価と出会えるのかもしれません。

「職人と一緒につくると、一人のときより何倍もクオリティの高いものができた」。

ものづくりの現場を知ったとき、デザイナーのセキユリヲさんは興奮したといいます。以来、日本の伝統技術をリスペクトしながらものづくりを続けます。

そんなデザイナーの目から見た、これからの技術のいかし方とは——?

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今回お話を伺ったのは、雑貨ブランド「Salvia(サルビア)」のセキユリヲさん。東京・蔵前を拠点に、日本各地の職人さんと組んで、日々の暮らしに寄り添うものづくりをしています。

Salviaのものづくりに学ぶ、技術をいかすヒント

商品をつくりはじめるとき、セキさんはまず自分でサンプルをつくるのだとか。

デザインをするだけでなく、あるときは刺繍をしたり、またあるときは織り機を使うことも。

それを職人さんのところに持ち込み、商品化する方法を模索していくそうです。

サンプルまで自分でつくってしまうデザイナーはなかなかいないと思いますが、だからこそ技術的に何ができて何ができないのか、どんな表現の可能性があるのかが、肌感覚でつかめるのだろうなと思いました。

実際サンプルをつくるようになってから、より自分のイメージを伝えやすく、職人さんとのコミュニケーションもスムーズに進むようになったのだそうです。

そうして、職人さんの技術を最大限にいかした質の高いものが仕上がっていきます。

テキスト
自作のサンプルをもとに、クラフト工房La Manoさんとつくった手織りのマット

また、セキさんはよく現場に足を運ぶそうです。

「職人さんとの話が本当におもしろいんです。こっちが楽しんでると、職人さんもノッてくれますしね(笑)

技術を本当に尊敬していますし、やりとりの工程こそおもしろいと感じてます」

ものづくりの過程では、とにかくいろいろな予期せぬ出来事が起こりますが、試行錯誤をかさねていくうちに、思ってもみなかったような素敵なものができあがっていくのだそうです。

それは決して一方的なコミュニケーションではなく、技術側とデザイン側、お互いのアイディアを取り入れながら相乗効果で生まれる“よりよいもの”をつねに探求しているからこそできること。

「『こんなのできたよ』と言って、全然違うサンプルがあがってくることもありますよ。それってじつは、すごく良くなるきっかけなんですよね」

職人さんとのやりとりについて、本当に楽しそうにお話してくださるセキさん。そうして楽しみながら、ものづくりの現場を知っていく。そこに、よいものが生まれるヒントがあるように思いました。

「結果、こんなすごいものができました、ということももちろん大事なんだけど、そこに至るまでの流れこそがおもしろいし、ものづくりの核心はそこにあるんじゃないかと思うんです」

セキユリヲさん

とはいえ、よいものに辿り着くまでの工程は、ひと筋縄ではいかないことも多いはず。

それでも、ときには大変なことすら楽しみながら、技術やものの魅力を最大限引き出そうとできるのは、セキさんはじめ、Salviaのスタッフたちの根っこにある「つくることや、手を動かすことが好き」という気持ちなのかもしれません。

椅子地に使われているスウェーデン織りのテキスタイルもセキさん作。こちらはSalviaの商品「グランマストール」のサンプルに使われたのもの
椅子地に使われているスウェーデン織りのテキスタイルもセキさん作。こちらはSalviaの商品「グランマストール」のサンプルに使われたのもの

デザインの力がもたらすもの

デザインと技術の組み合わせによって、素敵なプロダクトが生まれるとき、それは単に仕事になるということ以上に、職人さんにとって、良い変化をもたらすこともあります。

セキさんが、10年以上お付き合いしている新潟の小さな靴下工場さんは、Salviaとのものづくりによって、仕事がかわったというつくり手のひとつ。

以前は、いわゆる受注生産で、ときには納期がタイトなものや、量産型のものなど、難しいと感じるお仕事も引き受けていたそうですが、Salviaの仕事がきっかけとなり、やりたいことの方向性がはっきりとし、より職人さん自身がつくりたいものをつくれるようになったそうです。

また、職人さんのお子さんが3人揃って家業を継がれているのにも驚きました。

後継者がいなくて途絶えてしまうつくり手が多いなか、家族全員が継ぐというのは、とても嬉しいこと。

きっと、生き生きと働いている親の姿を見たり、素敵な商品ができあがるのを見ることで、子どもたちも家業の魅力に気づくのだろうなと思いました。

セキユリヲさん

いま、産地で求められているもの

ものづくりをする過程で、いろいろな地方に足を運んだり、職人さんと日々コミュニケーションをとっていると、そのなかで見えてくる、産地の課題もたくさんあるといいます。

職人さんの高齢化に伴う後継ぎの問題や、10数年前から海外製品が入ってきたことによる価格競争で仕事を失ったり、安価に値切られてしまうことも。

そのように苦しい状況が続いていることから、子どもには継がせたくないという職人さんも多いのだそうです。

日本全国でものづくりの担い手が減っている状況を肌で感じているSalviaでは、そうした体制的な部分を改善していかないとなかなか良い循環はつくれないと、日々話し合いを重ねています。

「職人さんの待遇を改善することが必要だと考えています。技術にも敬意を持って、きちんとしたお支払いをするなど。

職人さん、売り手、買う人がみな、おなじく対等な関係という理解が深まれば、社会の仕組みも変わっていくのでは」と、Salviaスタッフの篠田さん。

「人と人の関わりがないと、いいものはつくれない」

ひたむきにものづくりをする職人さんの姿や技術の素晴らしさを知っているからこそ、産地に寄り添ったものづくりを大切にしているSalviaのスタッフたち。

ものには、つくり手の人柄がしっかりと映し出されるといいます。

「人と人の関わりがないと、いいものはつくれないと感じています。

機械を動かしてつくるときも、その機械を動かすのも人の手なので、つくる人によってできるものが全然違うんです。同じ仕様書でつくっても、違う工場では同じようには仕上がらないことも多いです。そういう部分にも、つくり手の人柄があらわれます。

だからこそ、この人とだったら一緒にやらせてもらいたいと思える人柄や、ものづくりへの考え方を大事にしています」

サルビアのふんわりくつした
Salviaのふんわり靴下(写真:masaco)

「私たちがお付き合いする職人さんって、小さい規模の家族や、ひとりでやられてる方が多いんです。

だから、たくさんつくって、たくさん売ってほしいというよりも、自分たちがつくっているものを大事にしてくれる人たちに買ってほしいと思っている方々ばかり。

そんな風に、ものづくりのベースにある大事にしたい部分を共有できる人たちとご一緒させていただいています。そんな職人さんとのつながりを、これからも大切にしていきたいです」

デザインと技術が掛け合わさり、素敵な商品が生まれる。そしてお店で私たちが買うことで産地が少し元気になり、また次のものづくりへとつながっていく。

そんなSalviaの活動を見ていると、ひとつひとつは決して大きな規模ではないものの、人と人のつながりや確かな信頼関係から成り立っていて、とても人間らしい営みだなと感じました。

たくさんものを買って消費するという流れが見直されている中で、古くから伝わる技術をいかして未来へとつないでいくために、Salviaのような活動体から学べることはまだまだありそうです。

Salviaのアトリエとセキユリヲさん

<取材協力>
Salvia(サルビア)
セキユリヲさん、篠田由梨子さん
http://salvia.jp/

文:西谷渉
写真:中村ナリコ

津軽の伝承料理をフルコースで味わえる。「津軽あかつきの会」が仕掛ける、楽しい「食の伝え方」

津軽に寄ったら必ず訪れてほしいごはん処があります。

といっても表立った看板はなく、一見普通のお家。

しかし中に入れば10人近い「シェフ」が厨房を切り盛りする、ここは「津軽あかつきの会」。

「津軽あかつきの会」

会長である工藤良子さん宅を開放して、週に4日、地元津軽の伝承料理を提供しています。

「津軽あかつきの会」

この日お膳に並んだのは春の素材をふんだんに使った16品。

「津軽あかつきの会」のお膳

手がけた「シェフ」はみな、地元のお母さんたちです。

「子どもも手が離れてやっと自分の時間ができたから、ここで料理を勉強させてもらっているの」

長年台所に立ってきたであろうベテランの主婦の方でもそう語るほど、津軽に代々伝わる料理のレパートリーは幅広く、奥深いもの。

作物の採れない冬を越すために、工夫を凝らした様々な保存食が大切に伝承されてきました。

魚を焼いている様子
おかずを盛り付けている様子

そのできる限りを記録し、自ら作って後世に残していこうと工藤さんはじめ有志数人が活動を始めたのは、20年近く前のこと。

地域のお年寄りに伝承料理について聞いてみると、「知らなかった」料理に次々に出会ったそうです。

津軽あかつきの会
津軽あかつきの会
津軽あかつきの会
津軽あかつきの会

米、山菜、豆、海草など、土地の素材を生かし、無駄にせず、美味しく。

流通や食品管理が発達し、保存食の必要性は既にすっかり薄くなっていた時代、「今継いで行かなければ、消えてしまう」と工藤さんたちは危機感を抱いたそうです。

仲間で地域の家々を周って料理上手のお年寄りから伝統的な料理を教わり、地元の道の駅で伝承料理の朝ごはんを提供するように。

早朝から活動するので、「あかつきの会」と名前がつきました。

津軽の代表的な料理のひとつ「けの汁」
この日の食卓にものぼった「けの汁」。津軽の代表的な料理のひとつで、津軽の七草がゆとも呼ばれる、栄養たっぷりの汁もの
けの汁の味付けの決め手となる味噌
けの汁の味付けの決め手は味噌とのこと

2006年には聞き取った料理の作り方をまとめた本も発刊。

活動の一環として開くようになった予約制の食事会は、今では遠方からも人が訪ねて来ます。

調理の合間に予約の電話を受ける工藤さん
調理の合間に予約の電話を受ける工藤さん。もともと年に一度身内で開いていた成果発表の食事会にラブコールが多く寄せられ、3年ほど前からご自宅を開放して誰でも参加できる食事会が始まりました

会のメンバーも次第に輪が広まり、今では29名の方が名を連ねるほどに。

頭にはお揃いのりんごの三角巾
頭にはお揃いのりんごの三角巾

それぞれの都合に合わせ、常時7,8名が入れ替わり立ち代わり、あかつきの厨房に立ちます。

あかつきの厨房に立つ地元のお母さん
あかつきの厨房に立つ地元のお母さん

「作るときはね、お盆と正月がいっぺんに来たような忙しさ。でもそれが楽しいの」

あかつきの厨房に立つ地元のお母さん
あかつきの厨房に立つ地元のお母さん
この日の献立
この日の献立。メニューは材料を見ながらその時々で話し合って決める
ザルには今朝取れた山菜がたっぷり
ザルには今朝取れた山菜がたっぷり
天然の温泉水のみで育つ「大鰐温泉もやし」
ここ数年県外でも人気が高まっているという、天然の温泉水のみで育つ「大鰐温泉もやし」
暁の厨房に立つ地元のお母さん
これはどうしたらいいかな、お互いに声を掛け合いながら、新入りメンバーは先輩に相談しながら、テキパキと同時進行で調理が進んでいきます
旬のふきのとう
旬のふきのとうは‥‥
ふきのとうを油であげる様子
天ぷらに!
もやしの味付け
先ほどのもやし
小鉢に盛り付けられたおかずが並ぶ
だんだんメニューが揃ってきました
彩りを添える葉
彩りを添える葉も自分たちで取ってきたもの
膳上げという台
これは膳上げという台。客人が多い時にお膳を一斉に置ける作りになっており、一般の家庭にも昔はよくあったそう
提供するうつわは全て地域の家や旅館などで不要になったものを活用しているそう

この日来ていたのは偶然にも、工藤さんの中学時代の同級生という女性。かつての学友の活躍を知って、友人を誘って訪ねて来たそうです。

膳をかこんで食事している風景

「このうつわ懐かしいわ」

「こんな風に味付けするの」

やはり地元のお母さんたちでも、知らないレシピばかりのよう。嬉しそうに会話を弾ませながら、一品一品発見を楽しむように食卓を囲んでいました。

食べている間にもどんどん次の一品が運ばれて来ます。食感も味付けもそれぞれに違って楽しめるのに、どれも共通して優しい味わい。

お膳のおかず
実は翌日の献立用だったものを、おまけね、と出してくれた温泉もやし
実は翌日の献立用だったものを、おまけね、と出してくれた温泉もやし

「大事なのは、塩じゃなくて、出汁を効かせること。そうするとしょっぱくなく味が出るの」

保存食には、こうした出汁の準備など下ごしらえが欠かせません。そのため予約は3日前までにとの決まりがあります。

乾物を水で戻しているところ
乾物を水で戻しているところ

何日も手間暇をかけ、10人がかりで作る食べきれないほどのご馳走。それが一人たった1500円で味わえるということに、さらに驚きます。

「お金にならない場所は、楽しくないと誰も来ないでしょ」

大事なのは儲けることより、作る人も、食べる人も、この土地の料理を囲んで楽しい時間を過ごすこと。

20年前に工藤さんたちが願った未来は、明るい食卓の周りにしっかりと実っていました。

津軽あかつきの会 集合写真

<取材協力>
津軽あかつきの会
青森県弘前市石川家岸44-13
0172-49-7002
※食事会は木、金、土、日の12:00~14:00。4名から受付、3日前までに要予約。

文:尾島可奈子
写真:船橋陽馬

樽酒とはどんなお酒?樽酒づくりの秘密と楽しみ方を菊正宗に聞いた

樽酒と言えば、おめでたいもの。特別なイベントの時にだけ、鏡開きをして飲むお酒。

なんとなく、そんなイメージがあると思います。

実は、それは樽酒のひとつの姿でしかありません。

樽酒のイメージ

日本酒をうまくするための樽

そもそも、木製の樽にお酒を入れるようになったのは江戸時代のこと。

お酒を江戸に運ぶ際の容器として、それまでの壺や曲げわっぱに変わって樽が使われるようになったことが始まりです。

当時は樽に入っていることが普通だったために、樽酒という言葉も存在しなかったとか。

その後、時代が変わりびん詰めが主流になってくると、それと比較する形で樽酒と呼ばれるようになりました。

では、ただの容器として使われていた酒樽が、なぜ今の時代にも残っているのか。

答えはシンプルです。日本酒が“うまく”なるから。

樽酒とは、樽に寝かせることで木香がつき、美味しさがプラスされた日本酒のことでもあるのです。

菊正宗酒造 樽酒マイスターファクトリー

うまい酒をさらにうまくする。

そんな樽酒づくりを間近で感じられる場所があると聞き、行ってきました。

樽酒マイスターファクトリー
樽酒マイスターファクトリー

創業350年を超える菊正宗酒造が、“樽酒の魅力”を伝えるために設立した「樽酒マイスターファクトリー」。

日本有数の酒どころ 兵庫県の東灘区。菊正宗の酒造記念館に隣接する場所にあります。

菊正宗酒造記念館
菊正宗酒造記念館

同社の樽酒づくりのこだわりや製法が知れる展示のほか、樽酒に欠かせない“樽”をつくっている様子を間近で見ることができる工房です。

樽酒マイスターファクトリー
予約すれば、見学は無料

施設に入ってすぐに、あたりに満ち渡る木の香りに気づきます。檜(ひのき)ほど強い香りではないけれど、とても心地良い香り。

樽酒の樽材に使用している、奈良県産吉野杉の香りだと教えてもらいます。

樽酒マイスターファクトリー
施設内には木の香りが満ちている

日本酒に木の香りや成分をつけて美味しさをプラスする樽酒。最適な樽の素材は、使用する日本酒の特徴によって変わってきます。

菊正宗では「生酛(きもと)づくり」というこだわりの製法でつくる辛口酒を樽酒に使用しており、この辛口酒を一番うまくしてくれるのが、奈良の吉野杉なのだそう。

くぎ・接着剤を一切使わない、熟練の手仕事

節が少なく、木目がまっすぐで香りが良いことから、酒樽にもっとも適していると言われる吉野杉。

その丸太から、樽材として適した部分を切り出し、厚みと丸みを揃えた杉板を「榑(くれ)」と呼びます。

酒樽をつくる「榑(くれ)」
酒樽をつくる「榑(くれ)」

榑(くれ)を綺麗に揃えるには非常に高度な技術を要します。特に、板同士が接する側面のことを「正直(しょうじき)」と呼び、この面づくりが何より難しいんだとか。

くぎや接着剤を一切使わない酒樽づくり。すべての材料がぴったり合わさらなければ、当然、日本酒が漏れてしまいます。

酒樽は円筒状と言っても、底から上部に向かって広がっている形。なので「正直」は微妙にカーブさせておく必要があり、その仕上げは長年の経験が大きく物を言う部分です。

仮枠の中で、榑(くれ)を組み上げていく
仮枠の中で、榑(くれ)を組み上げていく
簡単に組み上げているようで、素人がやると1時間以上かかるとか
簡単に組み上げているようで、素人がやると1時間以上かかるとか

榑(くれ)を21〜22枚組み合わせて円筒状にすることで、四斗樽と呼ばれる72リットルの日本酒が入る酒樽がつくられます。

踊るように竹をまく、「箍(たが)まき」

樽を固定するのは、細く割った竹を輪っか状に結ってつくる「箍(たが)」。

樽酒マイスターファクトリー
最終的に、7本の箍(たが)をはめて完成となる

結い方も独特で、竹のしなやかさをいかしたその方法は、まるで鞭を振りながら踊っているかのよう。あっという間に竹の輪っかが出来ていきます。

樽に合わせてサイズを決める
樽に合わせてサイズを決める
箍まき
箍まき
リズミカルに竹をしならせながら、結っていきます
箍まき
まるで踊っているよう
箍まき
あっという間に仕上がっていきます

使用する竹を触らせてもらうと想像以上に硬く、とても目の前で軽々と振り回されていたものとは思えません。

この日実演してくれた樽職人の田村さん曰く、この箍(たが)をつくる工程の習得だけで4〜5年かかったそう。

樽が組み上がったあとも、内側、外側、天面、底面と各所を丁寧に削って整えていきます。

人目に触れない部分であっても美しく仕上げる
かんなで削って仕上げていく
酒樽づくり
酒樽マイスターファクトリー

榑(くれ)を削る作業は別にして、熟練の職人で樽の組み上げにおよそ30〜40分。

安定して生産を続けるには、樽職人の人数を一定数確保する必要がありますが、そこには課題も多く存在します。

※関連記事:日本酒を美味しくする「樽」づくり、継承する女性職人の目指すもの

樽職人の道具
道具のメンテナンスも樽職人の重要な仕事

樽ごとに飲み頃を見極める

さて、出来上がった樽を貯蔵する樽場に並べ、ようやく日本酒を入れていきますが、まだ気は抜けません。

樽酒
樽場に並べられた樽酒

いくら樽場の温度や湿度を調整しても、個別の樽ごとに香りのつき方は変わってきます。

樽酒マイスターファクトリー
個々の樽で、樽酒の仕上がりスピードは変わってきます

安定したおいしさを届けるために人の感覚で最適な状態を確かめる。それ以外に、樽酒の飲み頃を見極める方法は無いのだそうです。

自宅で気軽に楽しめる、びんに入った樽酒

こだわり抜いた日本酒を、わざわざ樽に移し替えてまでつくる樽酒。

こうも手間がかかっている様子を見てしまうと、やはり特別な時にだけ飲むお酒なのでは、という気がしてきます。

でも、お酒が樽で運ばれていた江戸時代には、言ってしまえばすべてのお酒は樽酒でした。

灘のお酒が船に乗せられて江戸に着くまで、約10日間。

木の香りがちょうどよい塩梅でお酒に移り、江戸の人たちは知らず知らずのうちに、木香のついた樽酒のうまさに親しんでいたわけです。

そこで、現代でも樽酒を気軽に楽しめるように、最適な飲み頃の状態のまま、びんに詰め替えられたものが「樽酒びん詰(樽びん)」 。

樽酒
びんに入った樽酒

樽酒は、貯蔵期間が長すぎると香りがつきすぎてしまう場合がありますが、びん詰めにしておけばそういったことも防げます。

杉の香りを楽しみつつ、軽やかに飲める辛口のお酒で、日本酒になじみの少ない人にも入門として人気だという、樽酒びん詰。

近年日本酒の種類がどんどんと増える中にあっても存在感は大きく、売り上げはこの10年で伸び続けているんだそうです。

酒樽づくりの現場で目にした、日々技術を磨く職人と、日本酒をうまくするための樽。

樽酒とは、職人がこだわり抜いた専用の樽に寝かせることで、美味しさがプラスされた、日常的に楽しめるお酒のことでもありました。

<取材協力>
菊正宗酒造株式会社
樽酒マイスターファクトリー
http://www.kikumasamune.co.jp/tarusake-mf/

文:白石雄太
写真:太田未来子

こちらは、2019年2月6日の記事を再編集して掲載しました。

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