【わたしの好きなもの】使うことが楽しく習慣になる。三段重ねの漆器「めぶく弁当」

身の回りの道具で、特に長く使っているものはなんだろう。

ふとそんなことを考えて家の中を見回してみたとき、ぱっと目に入ってきたのは普段からよく使っている陶器のカップとソーサーでした。

15年以上前に地元の民藝館で一目ぼれして購入。それ以来、週に数度は必ずこのカップでコーヒーを飲んでいて、日常的に使っているものの中ではかなり長い付き合いです。

元々の佇まいが好みであることに加えて、貫入にコーヒーの色が少しずつしみ込むなどの経年変化も愛おしい部分。なにより、ソーサーとセットで机の上に置くことで、どこか背筋が伸びるというか、少しだけ気持ちにスイッチが入る気がして、使うことが習慣化しています。

飽きがこなくて、楽しみながら使っているうちに習慣となり、自然と長い付き合いになる。最近も、そんな可能性を感じる道具に出会う機会がありました。

「めぶく弁当」

それが、“漆の種”が埋め込まれた会津漆器のお弁当箱「めぶく弁当」です。現在、予約受付中の同商品(※受注生産のため、お渡しは2025年9月ころを予定)ですが、一足先に触る機会を得たので、しばらく使ってみた感想をお伝えします。

佇まいが美しい

「めぶく弁当」は、かつて、武田信玄が好んだとされる“信玄弁当”をモチーフに、飯椀、汁椀、おかず皿が三段重ねになったお弁当箱。蓋も兼ねる汁椀の高台部分には漆の種が埋め込まれていて、そこには「未来でその種が芽吹きますように」という祈りが込められています。

漆の種が埋め込まれている

コンセプトやものづくりの背景も興味深く魅力的な「めぶく弁当」ですが、まず一目見て印象的だったのは、その佇まいの美しさ。

金沢の木地職人 畑尾勘太さんが手掛けた木目の美しい素地は、従来の信玄弁当と比べて柔らかい印象のフォルム。猪苗代町在住の塗師 平井岳さんによって木目の美しさを存分に活かした木地呂塗(きじろぬり)で仕上げられ、現代の生活にもすっと馴染みます。

触り心地が良くとても軽いので、子どもも興味津々でした

お弁当箱として自然の緑の中でも映えるし、家の中でも抜群の存在感でハレの日の特別なごちそうにもぴったり。そして個人的におすすめしたいのは、普段使いの食器として日々活用することです。

不思議と背筋が伸び、食事の満足度が上がる

在宅で仕事をしていることもあり、昼食は一人で取ることが多くなります。

気を抜くと同じようなメニューや外食ばかりで栄養が偏ってしまったり、お昼を取らずに間食だけで済ませてしまったりする日も。

そんな中、いざ漆器のお弁当箱を使って昼食を取ろうと決めると、ふっと背筋が伸びるような感覚があり、「せっかくならおかずをもう一品増やしてみよう」「たまには魚も食べないと」といった気持ちが自然と湧いてきました。

我ながら単純だなと思いつつ、ここは自分の素直な気持ちに従って、あれこれおかずを準備してみることに。気負いすぎても長続きしないのであまり無理はせず、出来合いのお惣菜や晩御飯の残りなんかも加えながらおかずを検討していきます。

白ご飯との相性も抜群

当日のお昼はそれを盛り付けて、ご飯をよそって、汁を注いで。そうしていつもとは少し違った昼食の時間を過ごすと、何とも言えない満足感と達成感が得られ、リフレッシュして午後の仕事に臨むことができました。

お手入れは意外と簡単。漆が育つ楽しみも

食べ終わった後は、そのまますぐに洗ってしまいます。漆器のお手入れは少しハードルが高いイメージもありましたが、実は意外と簡単。油汚れ以外はぬるま湯ですすぎながら手のひらでさっと洗えば綺麗に保つことができて、洗ったあとは蚊帳ふきん等で拭いてあげるだけ。

手で洗っていると、どこに触れても本当にすべすべで、細部まで美しく仕上げられていることを改めて実感します。こうして丁寧に使っていくうちに、漆の艶がどんどん増していくのだとか。

底面まで美しい

漆器を使い、汁やおかずを用意することで、外食やインスタントな食事と比べるとどうしても手間は増えるかもしれません。それでも、敢えて日常の中で少しの手間を省かずに道具や食事と向き合うことは、とても豊かな時間の使い方だと感じました。

準備の時間、食事の時間、そして片付けの時間を経ることで気持ちの切り替えにもつながって、結果的に仕事の効率も上がるような気がしています。

手間をかけて向き合いたくなる美しい道具。冒頭で触れたカップ&ソーサーのように、いつまでも飽きがこなくて、楽しみながら使うことが習慣となり、自然と長い付き合いになる。そんな予感を強く感じる商品でした。

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【予約商品・WEB限定】めぶく弁当(来年2025年9月ごろお届け予定)

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文:白石雄太

自分のために飾りたい、雛飾り。「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅に飾ってもらいました

大人が愉しむ、自分のための雛人形

雛飾りは、親が子どもの健やかな成長を願って贈るものというイメージがありますが、大人になっても、季節のしつらいとして、自身の幸せを願う飾りものとして愉しむことができます。

今年度発売された「草木染めの衣裳着雛飾り」は、紬織の人間国宝 志村ふくみさんの芸術精神を受け継ぐ、アトリエシムラとのコラボレーションで生まれました。

植物の生命(いのち)をいただく草木染めは、二つとして同じ色に出会えない、まさに一期一会の色。その特徴を生かして織り上げた生地には、微妙な濃淡が生まれ、見る人を惹きつけています。

植物の生命をいただき、染められた糸は、丁寧にすべて手織りで仕立てられます

歳月が経つほどに、色の変化を愛でることができる草木染めの雛飾りは、まさに大人が自分のために飾りたい雛人形。

今回、中川政七商店の中川みよ子さんにお声がけし、「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅に飾ってもらいました。

好きなものを好きな時に、自由にしつらう

「普段から、お気に入りを自由にしつらうのが好きなんです」

そう話すみよ子さんのご自宅は、ご本人の好きなものであふれていました。

リビングにある棚には、様々な年代・種類のうつわや、飾りものが並んでいます。

リビングの飾り棚には、ガラス、漆、絵付けの磁器などが並ぶ

「その時々に合わせて、新しいもの、古いものを問わず、自分の気持ちが動いたものを置いています。リビングに飾っておくと、いつも目に入るから楽しいでしょう。

いまのお気に入りは、茶道の際に、うつわを温めた水をいれる建水(けんすい)。さまざまな素材や形があるんですよ。だから見つけると、つい集めてしまいます」

自宅になった柘榴(ざくろ)の実

「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅にかざってもらいました

雛飾りを、自宅でどんな風に飾って楽しむのか。みよ子さんに、ご自宅内のいくつかの場所を選んでいただき、実際に飾っていただきました。

まずは、お客様を迎える玄関。良い気を呼び込むという意味でも大切な場所です。

玄関を入ってすぐ脇にある木の台に敷板を置き、土壁を背にしてお雛様を飾ってみます。戸から漏れる控え目な陽の光で、空間がよりしっとりと、落ち着いた雰囲気になりました。

家族が一番長い時間を過ごす、リビング。

テレビの上部にある飾り棚に、他のお飾りとともに置いてみました。

淡い色合いの衣裳なので、洋風の部屋にも馴染みます。また奥行きが約15cmとコンパクトなので、ちょっとした棚にも収まり、一緒に飾っているインテリアの邪魔をしません。

雛飾りといえば、和室の床の間。

「季節のぼかし染めタペストリー(桜雲)」を一緒に飾れば、桃の花が咲いたように一気に華やかな空間になります。高さのある木の台を用意して、タペストリーとのバランスを考えて飾りました。

「ここに飾っても素敵なのではないかしら?」と読書スペースにある棚にも飾ってみました。本棚にはお父様から譲り受けた本が大切に収められています

 「糸の一本一本が異なる色合いで、生地の濃淡が本当に美しいですね。つい見入ってしまいます。

以前は、雛飾りを節句に合わせて子どものために飾っていました。最近は子どもが独立しても、大人のしつらいとして自分のために飾っている方もいらっしゃると聞きます。

今回こうして飾ってみて、季節のしつらいとしてのお雛様を飾るのも素敵だな、と感じました」

<掲載商品>
草木染めの衣裳着雛飾り
季節のぼかし染めタペストリー(桜雲) 

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150年続く伝統の和凧を後世へ。名古屋 凧茂本店の凧作り

家の中を、自分の好きなもので飾る。

何かが便利になったり、家事の助けになったりするわけではないけれど、そうすることで不思議と気分が上がり、活力が湧いてくる。

それは、日々を心地よく暮らしていくためにとても大切なことだと感じます。

古くから人々は、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設えたり、祈りを込めた縁起物を取り入れたりして、家の中を「しつらい」ながら暮らしてきました。 この美しい「しつらい」、飾りものの文化を未来へつないでいくためになにができるだろうか。そう考え、通年で家に飾れるオブジェのような工芸を模索して生まれたのが、こけしや和凧といった縁起物をモチーフとしたインテリア、「鳥こけし」と「飾り凧」です。

今回、「飾り凧」を組み上げてくれたのは、江戸末期創業の老舗、名古屋の「凧茂(たこも)本店」。

150年続く同店の凧作りについて、山田直樹さんに話を聞きました。

家業に戻り10年。一人で組み上げる伝統の和凧

凧茂本店 山田直樹さん

「組み立ては、基本的にこの場所で、僕一人でやっています」

創業150年を超える「凧茂本店」ですが、現在、凧の組み立てをおこなう職人は直樹さんただ一人。凧の紙、竹ひご、凧糸など、日本各地から届いた部材を黙々と組み立てて、出荷までも一人でこなしています。

「祖父の代の頃は、祖父の兄弟など職人が5名くらい在籍していて、一番生産力がありました。内職さんも多くて、複雑な凧も作れていた時代です」

元々、大学卒業後にサラリーマンとして働いていた直樹さんでしたが、10年ほど前に家業である和凧作りの道へ。直樹さんが戻ってきた当時、すでに凧作りの職人は直樹さんのお祖母さま一人だけという状況。

「ポイントを祖母に教わりながら、とにかくたくさん凧を作って。3年目になる頃にこの部屋に上がってきて、一人で凧作りをするようになりました」

それ以来、150年続く家業、そして和凧の技術を絶やさないために、日々凧作りに励んでいます。

定番柄で人気の高い武者絵の六角凧
かつて作られていた複雑な形の凧たち。祖母から教わり切れなかった部分は、こうしたアーカイブを紐解いて、自身で作り方を研究している
固い竹を使用する場合は、ろうそくの火を数時間当てて曲げる必要があったのだとか。「複雑な骨組みの凧は、一朝一夕では作れません」(直樹さん)

繊細な作業が要求される、和凧作りの工程

凧の組み上げは、和紙に竹ひごを通す穴をあけるところから始まります。

「おおよそ25枚くらいの紙を重ねて穴をあけますが、この作業がかなりシビアですね。ここでずれてしまうとやり直しがきかないので」

穴あけの工程
穴の位置がずれると、凧の仕上がりに大きな影響が出る

和紙の穴あけが終わると、竹ひごに糊をつけて張り付けていく工程へ。綺麗に仕上げるため、均一に糊をつけていく必要がある繊細な作業です。

でんぷん糊を水で薄めながら使用

「竹ひごは、必ず皮がついた状態のものを使います。皮がないと柔らかすぎて折れてしまうので。

また、皮がついていない側に糊付けをして貼り付けることで、凧を揚げたときに皮がついている側が下向きになる。そうすると重心が安定して揚げやすくなります」

飾る用途の凧であっても、実際に揚げられるということにこだわっている直樹さん。左右ができる限り対称になっていることや、風を受けやすい反り具合など、きちんと飛ぶ凧を追求することで、見た目にも美しい和凧が仕上がっているように感じます。

和紙の端を折り返して糊で貼り込む工程。ここで竹ひごの反り具合も調整する
乾燥させた後、糸をつけて完成

すべての素材を国産にこだわった、美しい凧

「素材すべてを国産にこだわっていることが、大きな特徴じゃないかなと思います」

直樹さんがそう話すように、凧茂本店の和凧は、和紙、竹ひご、凧糸まですべて国産の素材で作られています。 かつて海外産の竹ひごを試したこともあるそうですが、含まれる水分が多すぎたのか簡単に割れてしまい、仕事にならなかったのだとか。

国産の竹ひごは、京都で加工されたもの。サイズと薄さを指定して発注している
紙は美濃の和紙を使用
紙の印刷は、「刷り込み屋さん」と呼ぶ印刷屋で行うことが多い。一色一版で、鮮やかな色合いに仕上げていることが特徴
中には、10種類以上の版を使用する絵柄もある
干支ものの凧は人気が高い

「昔から変わらないやり方ですけど、これがベストだと思って続けています。今後は凧作りを教えていきたいなと思っていて。夏休みの子ども達に向けたワークショップなどができればいいですよね」

150年続く和凧作りを後世につなげるために、広くその魅力を伝えていきたいと考えている直樹さん。その取り組みはこれからも続きます。

「自分が作った凧が売れるということに対して、不思議な感覚もあるんですよね。

時代とともにお金の使い方も多様化している中で、和凧を買っていただけている。それはすごく価値のあることだと思っています。

純粋にものづくりの楽しさも感じていますが、それよりも今は、感謝の気持ちが大きいというか。凧作りに関わってくださっている方々や、発注してくださる取引先、そして実際に買ってくださる消費者の皆さん。本当にたくさんの方に支えられているということを実感しています」

ご両親とともに。お父様は、凧茂本店の5代目である山田民雄さん

<掲載商品>
飾り凧

文:白石雄太
写真:阿部高之

たくさんの肯定から生まれた、通年で飾れる新しい縁起物……𠮷勝製作所 𠮷田勝信さんインタビュー

家の中を、自分の好きなもので飾る。

何かが便利になったり、家事の助けになったりするわけではないけれど、そうすることで不思議と気分が上がり、活力が湧いてくる。

それは、日々を心地よく暮らしていくためにとても大切なことだと感じます。

古くから人々は、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設えたり、祈りを込めた縁起物を取り入れたりして、家の中を「しつらい」ながら暮らしてきました。

この美しい「しつらい」、飾りものの文化を未来へつないでいくためになにができるだろうか。そう考え、通年で家に飾れるオブジェのような工芸を模索して生まれたのが、こけしや和凧といった縁起物をモチーフとしたインテリア、「鳥こけし」と「飾り凧」です。

今回のプロジェクトでは、東北・山形県を拠点に活動するデザイナー・𠮷田勝信さん(𠮷勝制作所)と協業。フィールドワークやリサーチ、プロトタイピングを得意とする𠮷田さんとともに、こけし文化や凧の起源を深堀りし、縁起物とは?工芸とは?という本質を探りながら制作にあたりました。

どんなことを考え、何を大切にして「鳥こけし」と「飾り凧」が生み出されていったのか。山形県西村山郡にある𠮷勝制作所で話を聞きました。

縁起物は、さまざまなものの関与を受けて生まれる

𠮷勝制作所 𠮷田勝信さん

――最初に「縁起物」というキーワードを聞いた時は、どんな印象を持たれましたか?

「縁起物って立体物であることが多いんですが、その“縁起のよさ”というのは、割と視覚的に表現されていると感じていました。

山形で作られている「削り花」なんかも、そのフワッとした毛先の見た目に縁起のよさが込められていて。立体だけどすごくグラフィカルというか。

そんなふうに、“縁起物を縁起物たらしめているなにか”を視覚的に表現してかたちを作っていくのであれば、プロダクトデザインというよりも、自分の専門領域であるグラフィックデザインとしてアプローチできそうだと思いましたね」

𠮷田さんが収集した縁起物や郷土玩具たち
中央に映っている花のような木地細工が「削り花」

「それと、“縁起”という言葉を調べていくと、外的要因の力を受けてものが立ち上がってしまったこと、というような意味合いがあって。第三者とか、もっと言えば人を超越した力の関与を受けて、制作者も予期していない色や形が生まれたときに、そのものが縁起たらしめられると。それはすごく面白いなと思ったんです。

このプロジェクトでも、職人さんたちの普段の製造工程だったり、使用する素材の特性だったり、中川政七商店の考えや想いだったり、さまざまな関与を受けたものづくりができるといいなと。僕自身もその関与のひとつとして何かが作れたら、それは少し“縁起っぽい”のかな、というところからスタートしています」

――その意味では、作り手の予期しないゆらぎが発生する工芸のものづくりには、もともと “縁起”の要素があるのかもしれません

「今回、榎本さんや渡瀬さん*と会話していて、中川政七商店が考える『工芸』というものが意外と広いということに驚いたんです。

※今回の商品を担当した中川政七商店のデザイナー

僕の中での工芸は、いわゆる伝統工芸的なもの。でもお二人に聞くと、たとえば靴下も工芸であると。靴下工場に行くと、もちろん機械を使っているんだけど、そのオペレーティングには専門の職人さんがいて、いわば道具として機械を使っている。そう考えると、どこからどこまでが工芸っていう線引きは難しいですよね。

僕に近いところで言えば、印刷所もまさにそうで。現代の印刷機は大きくて性能もいいんですが、操作する人は不可欠で、しかも熟練の方かどうかでクオリティがかなり違ってきます。ということは『印刷も工芸なんだ!面白い!』と思って。

伝統工芸的なものではなく、もっと周辺にある靴下や印刷といったものの技術をうまく使って、工芸らしいものや縁起物がつくれたら、工芸の拡張につながるんじゃないかと感じました」

印刷にまつわる機会や道具が並ぶ、𠮷勝制作所の作業場。様々な印刷方法を試したり、山で採集した草木からインクをつくる実験などもおこなっている
自身のバイブルだという「印刷インキ工業史」を読む𠮷田さん。文献にあたって印刷方法やインクのレシピを調べて、実際に試している
クルミやブナなど、山で採取した樹皮の顔料化実験中

原初の凧に込められた「風を見る」祈りをモチーフに

――「飾り凧」はまさに、印刷の技術を用いたプロダクトですね

「『飾り凧』の紙はオフセット印刷で刷っているんですが、流すインクの色を微妙に変えながら印刷するということをやっています。一見すると同じに見えるんですが、実は個体によってむらとか違いが出てくるように設計していて。

要するに、オフセット印刷を工芸的に理解してやってみたというか。足したインクの量とかも職人さんの目分量だし、機械や紙の状態にも左右されるので、印刷物なんだけど、二度と同じものが作れない。

このブレが許容されていくと面白いし、印刷の失敗というものが減るので、資源を大切にするという意味でもいいのかなと思っています」

――風を感じるデザインが印象的です

「凧について調べていくと、はじめは儀礼凧として発生したとされています。見えないはずの風を凧あげで可視化して、その力で幸せを願うというようなものです。その後、幕末の頃になるといわゆる凧あげ遊びのための遊戯凧が爆発的に増え、近代になると電線の影響もあってだんだん飛ばしづらくなっていき、飾る凧が増えていった。

その流れで今回の『飾り凧』は、飾る凧ではありつつ、そこに縁起を込めるもの。

そうなるとモチーフは、最初の儀礼凧にあった、風の力を見るということになるのかなと。 形状は、儀礼凧として考えたときに落ちてしまうと縁起が悪いので、一番飛ばしやすいとされている角凧という形を採用しています」

自然と出来上がった「こけしのようなもの」

――『鳥こけし』のものづくりはどんなふうに進んでいったのでしょうか?

「『鳥こけし』の場合は、まず僕の方でスケッチを描いて、粘土でサンプルを作ってみて。そこからどういう絵付けをするのか、材料の径はどれだけ取れるのか、どの鳥にどの材料を割り当てるのか、といったことを検討しつつ、形をブラッシュアップしていきました」

「そのあと3Dプリンターでモックを出して、それを見本として工人(こうじん)さん*に木地を挽いてもらったんですが、そこでの変化が面白くて。

※こけし工人:伝統こけしを製作する職人

工人さんの手癖なのか、製造工程でどうしても出てしまう形状なのかはわからないんですが、明らかにモックとは違って仕上がってくるんです。でも、その微妙な変化によって、最終的な匂いが不思議とこけしっぽくなっていて、『これはこれでいいか』という感じでGOサインを出したり。そういうことが端々にありました」

3Dプリンターによるモックアップと、仕上がりの比較。くちばしや頭の形状、胴体のバランスなど細かい部分に変化がみられる。サギ(写真左)とフクロウ(写真右)で担当する工人さんが分かれており、絵付けの癖もかなり異なるのが面白い

「こけしを作るための道具や機械で、こけしの工人さんや木地師さんによって木が磨かれていくと、必ずこけしっぽいものが上がってくる。僕としても、敢えてこけしに寄せていくというよりは匂いがつくくらいにしたかったから、それがすごくよかったですね。

結果として、どこの国にあっても不思議ではないものができたというか。日本らしくもあり、欧風でもあり、それでいてこけしの匂いがある、ちょうどよいものができたと思っています」

左から、フクロウ(ケヤキ)/ツル(イタヤカエデ)/サギ(ミズキ)。伝統こけしでよく使用される天然の木材を選定し、絵付けには東北こけし伝統の色絵具を採用。木肌をしっかり見せること、面を塗りつぶしてボーダーを作るといった伝統こけしの意匠にインスパイアされたデザイン

それぞれの解釈や、工芸の匂いを肯定するものづくり

――改めて、今回のものづくりを振り返ってみていかがでしたでしょうか?

「素材の特性とか、職人さんの解釈や手癖、普段つくっている製品に最適化された製造工程を通ることで、産地のフィルターがかかって、デザインに工芸の匂いがついて返ってくる。その『製造工程が持つ個性』がとても面白かったですし、今後もっと多くの製品を作ってみたいと思いました」

「複製性が低い複製の在り方というか、量産品ではあるんだけど、すべて微妙に違っていて選びたくなる。それってすごく楽しいし、“縁起っぽい”のかなと。

逆に、産業技術というのは複製性をどんどん上げていくものだというのがわかってきて、そうすると失敗という概念が現れてくる。複製性を下げてやると、その失敗が見えなくなるというのがよくて、日ごろから自分のプロジェクトでも、たとえば印刷の複製性をどう下げるかといったことを考えています。

まず製造工程を教えてもらって、ものの作り方を決めて。その中で、乱数の入り込む余地を設けておいて、動かしていく。今回の凧で言えば、サイズや形状、オフセット印刷という手法は決めたうえで、流し込むインクの色や量を変えながら印刷してみる。そうやって乱数を取り込むような作り方をよくやっていますね」

吉田さんがはじめて乱数を取り込むことを実践した、山形「ISKOFFEE」のコーヒー豆 パッケージ。各ブレンドのマークを決めておき、店舗スタッフが直接手描きするという仕様。パッケージの中心に描けるように治具を提供し、誰が描いても様になるよう工夫している。ブレンドによってマークの違いが明らかなので少しのブレは許容できて歩留まりもよく、なによりスピーディー

今回、さまざまな関与を受けたものを作りたいというところで、中川政七商店ともフラットに意見を交わせたし、工人さんとも直接話すわけではないですが、“もの”を媒介にしてコミュニケーションが取れて、そうしてプロダクトが出来上がっていきました。

立体物の場合、それぞれの解釈で出てくる小さな差異が全体にすごく影響してくるところがあって、やっぱり面白いなと。そういった解釈とか、匂いを肯定できたのが、すごくよかったことかなと思います」

<掲載商品>
鳥こけし
飾り凧

文:白石雄太
写真:阿部高之

年始のご挨拶。日本の工芸を、世界へ、そして未来へ。

新年あけましておめでとうございます。

旧年中は中川政七商店をご愛顧いただき、心より御礼申し上げます。

2025年の幕開け、本日より中川政七商店はロゴデザインを一新いたします。

今回のリニューアルは、ぱっと見では気がつかないかもしれません。

でも、よくよく見ればすべて進化しています。

たおやかな線を太く引き直し、鹿は力強く安定感を増して。

その背景には、私たちのビジョンとこれからの挑戦が込められています。

日本の工芸を、世界へ、そして未来へ。

中川政七商店は300余年、日本の工芸に根差した暮らしの道具を作り、日本全国へお届けしてきました。

「工芸は暮らしとともにあるものだから、まずは日本全国へ。」

その想いで60を超える店舗を展開し、地域の暮らしに寄り添ってきました。

しかし、私たちが掲げる「日本の工芸を元気にする!」というビジョンは、もっと遠く、もっと広がる未来を目指します。その道は決して平坦ではありません。

それでも、日本の工芸を次の時代に繋ぐため、いま新たな挑戦へ。

2025年、私たちは日本の工芸を「世界へ」広げていきます。

まずは17年間親しんできたロゴを漸新し、日本の工芸を世界中の暮らしの中へ届ける第一歩を踏み出します。

この変化は、私たちの新しい一歩の象徴です。

ロゴに込めたのは、日本の工芸を未来へ繋ぎ、世界中の暮らしに届けるという決意。見慣れた中にも新しい力を感じられるデザインを目指しました。

例えば、海外の方にも読んでいただけるよう、上部にアルファベットで「NAKAGAWA MASASHICHI」を、下部には創業を示す「SINCE 1716 NARA JAPAN」を描いています。

漢字部分についてもフォントを見直し、より力強さや伝統を感じるものに変更しました。

さらに、「七」の周囲には「日本 工芸」の文字を入れました。これまで以上に覚悟を持ち、改めて「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを背負っていく意思を込めています。

そのほか、鹿の描写や麻の葉マークの表現、ロゴ自体の比率など、細かな調整を重ねて、新たなロゴマークが完成しました。

本日以降、順次新しいロゴを使用していきますので、少しずつ皆さまの目に触れる機会も増えてくるかと思います。

新たなデザインへの想い

中川政七商店のクリエイティブディレクションを手掛ける、good design company 水野学氏より、ロゴリニューアルについてメッセージをいただきました。

江戸時代から続く老舗「中川政七商店」に相応しいマークは何かと、
様々な文献を読み漁り、試行錯誤を繰り返し、制作したマーク。
あれから約17年。
成長し続ける中川政七商店と、日本の工芸を元気にするというその志、
そして300年以上も真摯に商いを続けてきた先人の皆様の偉業に
敬意を表しながら、日本の工芸とともに世界へと進出し続ける
中川政七商店に相応しいマークを再編集しデザインを完成させました。

水野学

これまでのロゴに親しんでいただいた皆さまには、見慣れるまで時間がかかるかもしれませんが、日本の工芸を世界へ、未来へ届けるために私たちも一歩一歩進んでいきますので、ぜひ、変わらずご愛顧いただけますと幸いです。

どうぞ2025年も中川政七商店をよろしくお願いいたします。

【はたらくをはなそう】中川政七商店 店長 佐藤美智子

佐藤美智子
中川政七商店 たまプラーザテラス店 店長

2022年 中川政七商店 ルミネ新宿店 配属
2023年 中川政七商店 テラスモール湘南店 配属
2023年 中川政七商店 たまプラーザテラス店 店長


コーラとポテトチップスさえあればいい。


そんな子供時代を、東北の小さな町の仕出し料理店という実家で過ごしました。
学ぶことが好きな私は、大学時代には遊女の美しさを文学から学び、大学卒業後にはアパレルの仕事で9年間、生地作りから販売までを学び、オーガニック食品を扱う小売店ではスローフードの世界を学びました。


そんな私が東京で次は何をしようと思った時にひらめいたのが「住」。これで衣食住コンプリートだな、そんな軽い思いつきが入社するきっかけの第一歩です。コロナ禍に受けた2度のオンライン面談で、和やかな雰囲気の中にも、今まで経験したことがない学びと刺激を得られそうだと感じたことが印象的でした。


「学び続けること」。仕事でもプライベートでも大事にしていることであり言葉です。


中川政七商店の研修では学びの機会が多く、新しい知識や価値観と出会えることに刺激や嬉しさを感じています。そのことを自分だけではなく店舗のスタッフ全員と共有し、目標に向かって試行錯誤しているとまた様々な学びがあり、前に進んでいく楽しさを日々実感しています。


以前、海外のお客様にHASAMIIの赤いマグカップを接客した時のこと。その頃はまだ外国語の翻訳ツールなどは店舗になく、英語圏のお客様との会話は商品のしおりや簡単な英単語を調べてのやりとり。さらに、店舗にご希望のサイズがなく、渋谷店をご紹介することになり、渋谷店の所在地説明なども含めての接客になりました。


後日、再来店され、無事に購入できたことを伝えにきてくださった時は思わず嬉しくなり日々の学びや取り組みが形になった瞬間だと感じました。


いま、コストパフォーマンスや、タイムパフォーマンスを強く意識する機会が多い中、中川政七商店がめざす日々のくらしのあり方は、手間ひまをかけることの豊かさや日本の文化や四季を感じる心地好さにあります。そんな情緒を大切にし、これからも日々の小さな学びや行動を積み重ねて、日本の工芸や日本文化を伝えていきたいと思っています。


でもやっぱり、コーラとポテトチップスも私には欠かせません。


<愛用している商品>

綿麻ガーゼの休日シャツ

シャツのきちんと感、カットソーの柔らかな着心地を同時にかなえてくれます。一枚でも重ね着でも万能で、衣替えせずに常にスタメン選手です。


番茶 大袋 ほうじ番茶

気負わずに淹れて飲める身近さや手軽さが好きで常備しています。朝昼夜とどんな時間帯でも、どんな食事にも合ってしまう相棒のようなお茶なので、大袋がおすすめです。

青森ヒバの消臭ミスト

もともとはヒバの虫除け効果を期待して購入。使ううちに、シュッとひと吹きで包まれるヒバの香りが清々しく、気分転換の目的がメインになりました。部屋の空間にふわーっと漂わせると、森林浴気分になれます。