手仕事とデジタル技術、そして清らかな水から生まれた「手漉き和紙のミャクミャク」【大阪・関西万博 特別企画】

日本全国、そして世界各国から多くの人々が集う、2025年大阪・関西万博。

日本のものづくりの魅力を楽しく感じてもらいたいという思いを込めて、2025大阪・関西万博公式ライセンス商品として、工芸の技で豪華に表現したミャクミャクのオブジェ5種を制作しました。

今回はその中から、「手漉き和紙のミャクミャク」に焦点を当て、その魅力を支えるものづくりの現場をご紹介します。

和紙で作った、素朴な愛らしさをもつミャクミャク

文字を書き記すための道具として、障子や襖紙、提灯などに欠かせない資材として、時には祭礼の道具として。かつては暮らしのそこかしこで重宝されていた「和紙」。

時代が進む中で、いつしか見かける機会が少なくなってしまいましたが、和紙がもつ素朴な風合いや温かみといった魅力は、今だからこそ私たちの心に響くのではないかと思います。

そんな和紙の可能性を追及し、新たな魅力の発見に力を注ぐ愛媛県西予市の和紙工房「りくう」さんとともに、日本国際博覧会(通称:大阪・関西万博)の公式キャラクターであるミャクミャクを作りました。

手漉き和紙のミャクミャク

和紙ならではの素朴な愛らしさをもつミャクミャク。その制作現場の様子をお届けします。

人の手とデジタル技術が作り出すフォルム

りくうでは、デジタルデータをもとに創造物を制作する「デジタルファブリケーション」の技術を取り入れ、立体物で和紙を表現することにも挑戦しています。今回のミャクミャクでは、ベースとなる形状を3Dプリンターで出力。そのベースに和紙を漉いていくという流れで制作が進められました。

出力されたベース。3Dプリンターの構造上、自立するためのサポート材という部分がついた状態で出力されるため、まずはそれを丁寧にカットしていく
素材の種類、色、メッシュの形状など、何十体もの試作を繰り返した

「3Dプリンターの出力データを作る際に、規則的なものであれば、条件を指定してコンピュータに自動で形状を組んでもらうことも可能です。

今回も、一度は規則的な三角形のメッシュ構造で作ろうとしましたが、その場合どうしても仕上がりがカクカクした印象になってしまって、ミャクミャクの丸い愛らしさを損ねてしまう。

そこで、すべての線を一本ずつ手動で引いて、細かい角度も調整して、丸みがきちんと表現できるデータを作成しました。

ベースの素材については、様々な色や材質を検討した結果、透明な樹脂を採用しています」

そう話すのは、主に3Dプリンティングを担当する寺田天志さん。

寺田天志さん
右側が、白い樹脂を用いて三角形の規則正しいメッシュで作成したもの。樹脂の色が目立ちすぎるほか、少しとげとげした印象がある

ミャクミャクのベースを一体出力するためにはおよそ8時間ほどかかり、日中にデータを調整し、夜のうちに出力しておくことで、翌朝に確認することが可能になります。

そこに和紙を漉いてみて、感触を確かめる。そこからまた細かい微調整をして、夜に出力し、翌朝確認をする。この繰り返しで少しずつ、ミャクミャクのベースとしての理想を追い求めていきました。

デジタル技術を活用するとはいえ、素材への理解、扱う道具への理解は必要不可欠で、これも間違いなく職人技であると感じます。

漉いて乾かして、また漉いて。前例にない和紙作り

そしてベースの設計が固まってはじめて、肝心の和紙の工程が本格的にスタート。

「メッシュ状のベースに和紙を漉くのはとても難しいんです。

片面ずつ、漉いては乾かしてを繰り返して、少しずつ厚みを出していきますが、その途中で反対側がぼろっと剥がれて落ちてしまうこともあります。

また、複雑な立体のため、和紙の繊維が溜まりやすい部分とそうでない部分があって、それらを均一な厚みに仕上げていくのに試行錯誤を繰り返しました」

りくうの和紙デザイナー 佐藤友佳理さんはそう振り返ります。

和紙デザイナー 佐藤友佳理さん
小さな容器の中に水を張り、原料の楮を溶かして攪拌させたところに、ミャクミャクのベースをいれて片面ずつ漉いていく。使用している水は、名水百選にも選ばれている地元の湧き水「観音水」
はじめに水にくぐらせた後は、本当に少しずつ丁寧に水をかけて進めていく

これまでも、常識にとらわれない和紙作品を多く手掛けてきた佐藤さんですが、今回のミャクミャクはことのほか難易度が高かったとのこと。

乾かすための専用の治具を手作りしたり、数滴の水を垂らして調整するためにスポイトなどを活用したり、前例にない道具や技法を駆使して仕上げていきました。

専用の治具で乾かしている様子。少しずつ漉いては乾かしてを一日に数回繰り返し、最終的に仕上がるまでに10日以上かかる
ピンセット等を用いて細かく調整して、厚みを均一に仕上げる
別パーツの目や口にもそれぞれ和紙が用いられている

ミャクミャクの神秘的な雰囲気を生み出した、国産楮の素朴な色味と風合い

「使った楮(こうぞ)もすごく良かったんです。地元の保存会が作っている国産の楮を試したところ、一気にクオリティを上げることができました」(寺田さん)

和紙の原料である楮は全国的に生産が激減しており、そのほとんどが海外産になっているという現状があります。

そんな中、今回は愛媛県鬼北町で泉貨紙(せんかし)と呼ばれる和紙の保存活動を行っている鬼北泉貨紙保存会の協力を得て、希少な国産楮を原料として使用することに。

「この地方で栽培された楮を、保存会の方が古式製法にのっとって無漂白で和紙の材料に仕上げてくれています。

和紙の材料として使えるようになるまでにとても手間暇がかかるのですが、素朴な色味と光沢、独特の質感が特徴で、今回のミャクミャクを表現するうえで、非常に大切な役割を担ってくれました」(佐藤さん)

「太陽の光にあてるとすごく神秘的な雰囲気が出ていて、気に入っています」と佐藤さん
少し生成りがかった、和紙ならではの素朴な色味が不思議な魅力を発している

「データ作成には非常に労力がかかりましたが、和紙の風合いと色味、それと透明な樹脂のメッシュが合わさって、キャラクターの愛らしさが表現できたのかなと思います」(寺田さん)

「もともとミャクミャクのことが好きで、その魅力を和紙によってもっと引き出したいと思っていました。

国産楮や3Dプリンターの力も借りて、水から生まれたミャクミャクの清らかさ、精霊のようなイメージをうまくまとめられたのかなと感じています。

手漉き和紙にも欠かせない水は、地上で蒸発して空にのぼって、また雨として降り注いで循環し、脈々と受け継がれてきたものです。清らかな水も、私たちが取り組んでいる和紙作りの技術も、同じように循環して受け継いでいかなければならない。ミャクミャクの制作を通じて、改めてそんな風に感じました」(佐藤さん)

最新のデジタル技術と、丁寧な手仕事に清らかな水、そして希少な原料が組み合わさって、まさに水の妖精のような佇まいのミャクミャクが誕生しました。皆さんにもぜひご覧いただき、その不思議な魅力を直接感じていただければと思います。

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文:白石雄太
写真:阿部高之

2025大阪・関西万博公式ライセンス商品
©Expo 2025

すべてフリーハンド!熟練の技術が生んだ表情豊かな「硝子のミャクミャク」【大阪・関西万博 特別企画】

日本全国、そして世界各国から多くの人々が集う、2025年大阪・関西万博。

日本のものづくりの魅力を楽しく感じてもらいたいという思いを込めて、2025大阪・関西万博公式ライセンス商品として、工芸の技で豪華に表現したミャクミャクのオブジェ5種を制作しました。

今回はその中から、「硝子のミャクミャク」に焦点を当て、その魅力を支えるものづくりの現場をご紹介します。

硝子で作った、水のように美しい透明感をもつミャクミャク

食器や鏡、窓、照明機器、さらにはデジタル機器のディスプレイなど、身近な素材として私たちの生活を支えてくれている「硝子(ガラス)」。

見た目や用途がまさに変幻自在で、実は「個体ではなく液体」ともされる、ものづくりの中でも不思議な存在です。

今回、そんなガラスの不思議さ・魅力を引き出すものづくりを続けているガラスメーカー「菅原工芸硝子」さんとともに、日本国際博覧会(通称:大阪・関西万博)の公式キャラクターであるミャクミャクをつくりました。

硝子で作った、水のように美しい透明感をもつミャクミャクはどのように生まれたのでしょ

うか。千葉県九十九里町にある「菅原工芸硝子」さんの工房を訪ねました。

菅原工芸硝子の工房。各所でさまざまなガラス商品が作られている

すべてフリーハンドで作られた、技術の結晶

「ガラスで作ればきっと綺麗だろうなと思いました」

菅原工芸硝子の代表取締役社長 菅原裕輔さんは、どこまでの精度でキャラクターを再現できるのかという不安はありつつも、ガラスの魅力を発揮できる機会だと感じて依頼を受けたと言います。

菅原工芸硝子 代表取締役 菅原 裕輔さん

「うちの職人たちも、普段からガラス製品の企画を考えている、新しい挑戦が好きな人たちなので、ミャクミャクの話をしたらその日のうちに試作を始めていましたね。

どうやって作ればいいか普通は想像がつかないと思うんですが、すぐにある程度の形にしていて、自社の職人ながら凄いなと」

あの複雑な形状のミャクミャクをどうやってガラスで作るのか。確かに素人考えでは想像もつきません。


今回の制作を担当したのは、菅原工芸硝子の中でも特に熟練の技術を持ったベテラン職人の塚本さん。ミャクミャクの制作にあたっては型は使用せず、すべてフリーハンド。高温の炉で溶かしたガラスの塊を、何度も温め直しながら伸ばし、曲げ、これまで培ったガラスづくりの経験と技術を注ぎ込んでユニークなミャクミャクの姿を形作っていきました。

ガラス職人の塚本さん
完全にフリーハンドで作られる
形づくるのに適した温度を保つために、何度も何度も温めなおす
時には必要な部分だけをバーナーで温める

「デザインを見て、大まかには作り方のイメージができたんですが、そこから精度を上げていく、作り方を自分の中に染み込ませていくのに苦労しました。

(試作を)30個くらいは作ったのかな。最初のうちは途中で溶けて落としてしまったり。長い時間ガラスを扱うには、温度の保ち方の感覚を自分のものにしないと。パーツによって溶け具合も違うので、それを覚えるために3、4ヶ月練習しましたね」(塚本さん)

ガラスの魅力が詰まった、表情豊かなミャクミャクの誕生

ガラスは約600度まで温度が下がると固まってしまうため、その前に温め直す必要があります。逆に、温めすぎると今度は作った形が溶けて崩れてしまうため、そのバランスを掴むことは至難の業。

作業は2人1組でおこなわれ、パートナーの職人さんが炉から適量のガラスを運んできて、それを塚本さんが受け取り、大小さまざまなミャクミャクの目玉としてボディに取り付けていきます。

ガラスの種を受け取る塚本さん。二人の呼吸が合わないと、たちまち形が崩れてしまう
だんだんパーツが増えていき、温度管理の難易度も上がっていく

「(ガラスの種を)つけてくれる人のタイミングひとつでガラリと変わっちゃうので、パートナーも大切。タイミングが合わないと丸の形も綺麗にならないんですよね。

それから、スムーズに形が作れるようになった後は(ミャクミャクの)表情をしっかり出すことが難しかった。

よく見てみますとね、すごく表情が豊かなキャラクターなんですよ。その豊かさをガラスでいかに表現するか。おなかやおしりの丸み、しずくの部分なんかも全て難しかったんですけど、一番は豊かな表情を出すことでした。

この頃はいい表情が出せるようになってきて、透明感というか、ガラスの良さも感じられる仕上がりになりました。ガラスの面白さが詰まっていると思います」

ガラスづくりにはさまざまな技法がある中で、どれか一つに特化するのではなく、溶けたガラスから形を作るためにあらゆる方法を試したり、開発したりしてきたという菅原さん。その積み上げが今回のミャクミャクに繋がっています。

「本当に色々なものを作っているので、効率を考えるとよろしくない。でも、数や効率では機械に勝てません。大変ですが、人の手で作る意味があるきちんとしたものをこれからも作っていきたいですし、食器以外の空間のためのガラスなど、新たな挑戦も続けていきたいと考えています」(菅原さん)

これまで多種多様なガラス製品を手掛けてきた職人の経験と技術、ガラスという素材ならではの柔らかな丸み、ぽってりとしたフォルム。さらに手仕事の“ゆらぎ”が生み出す、一つとして同じ形のない、硝子のミャクミャクが誕生しました。

ぜひ皆さまもその目で、職人技が可能にした唯一無二の存在感を確かめてみてください。

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文:白石雄太
写真:阿部高之

2025大阪・関西万博公式ライセンス商品
©Expo 2025

縁起の良い“願掛け”の文字が記された、色とりどりの「だるまのミャクミャク」【大阪・関西万博 特別企画】

日本全国、そして世界各国から多くの人々が集う、2025年大阪・関西万博。

日本のものづくりの魅力を楽しく感じてもらいたいという思いを込めて、2025大阪・関西万博公式ライセンス商品として、工芸の技で豪華に表現したミャクミャクのオブジェ5種を制作しました。

今回はその中から、「だるまのミャクミャク」に焦点を当て、その魅力を支えるものづくりの現場をご紹介します。

丸くて愛らしい縁起物「高崎だるま」のミャクミャク

丸くて愛らしい形状と、転んでも起き上がるイメージで古くから縁起物として親しまれてきた「だるま」。

だるまの一大産地である群馬県高崎市でつくられるものは特に「高崎だるま」として知られ、鶴と亀を表現した眉毛と口髭の意匠や、さまざまな願掛けを込めた文字入れなどが特徴です。

高崎だるま。吉祥や長寿を意味する鶴と亀が眉毛と口ひげに表現されている

今回、高崎で手仕事のだるまづくりを続ける「三代目だるま屋 ましも」さんにお願いし、日本国際博覧会(通称:大阪・関西万博)の公式キャラクターであるミャクミャクのだるまをつくっていただきました。

ミャクミャクの立体感をだるまの中で表現する

「だるまには基本の形状があるので、その中にどうやってミャクミャクの豊かな表情や立体感を落とし込めるか。そこが一番苦労したポイントです」

三代目だるま屋 ましもの代表、真下輝永さんがそう話すように、だるまと言えば誰もが思い浮かべる特有の丸い形をしています。そこに複雑な立体であるミャクミャクのイメージを当てはめるために、デザインを試行錯誤したとのこと。

「三代目だるま屋 ましも」真下輝永さん

「使用しているだるまの型は、鼻の部分が平らになっているタイプのものです。

その型の上できちんと立体感が出せるように何度も検討を重ねて、ミャクミャクのだるまをつくるならこの形・デザインしかない、というところにたどり着けたと思っています」

だるまにもさまざまなサイズや型が存在する

デザインの落とし込みはできたものの、普段のだるまの絵付けとはまったく勝手が違うため、技術の高い絵付師さんにしか再現できないのだとか。

熟練の技によって高い精度で出来上がっていくミャクミャクのだるま。でもそこに手仕事ならではの少しのゆらぎもあって、一層愛着が湧いてきます。お気に入りのものを選ぶ楽しさもありそうです。

手仕事による絵付けの様子
基準となる見本を参照しながら作業を進めていく
左右非対称のデザインで、丸い部分もそれぞれ正円では無いため、さまざまな角度から眺めてバランスが崩れないように絵付けしていく
使い込まれた絵の具入れ。調合にレシピはなく、職人の感覚で色をつくる

高崎だるまの大切な要素「願掛け」を色別に

ミャクミャクだるまのもう一つの特徴は、それぞれの色ごとに異なる「願掛け」の文字が入っていること。青色には“福”、赤色には“勝”など、色のイメージと合わせた縁起の良い一字が記されており、「高崎だるま」らしい、願いの込められた商品に仕上がりました。

それぞれ異なる文字が入った「ミャクミャクだるま」。願いが込められていることが、だるまならでの特徴

「高崎だるまではこの言葉も大切な要素。勢いのある字体で、縁起の良い言葉を入れて願いを込める。やっぱり縁起物ですから、“願掛け”をしているということが重要です」

「2025大阪・関西万博  会場内オフィシャルストア  西ゲート店  KINTETSU」展示用の特大だるまに文字を描く真下さん
特大だるまには「万博」の文字が

「今回のように、だるまをベースにした新しいものを生み出す機会をいただけるとすごく勉強にもなるし、とてもありがたいと思っています。

こういったことをきっかけにだるまのことをもっと知ってもらいたいし、だるまの形状だったり、願いを込めるということだったりは海外でも通用する気がしていて、これからは海外も含めて広げていけると嬉しいですね」

真下さんは最後に、自身の願いをそんな風に話してくれました。

伝統的な「だるま」の中にふしぎな生き物「ミャクミャク」が入り込んだミャクミャクだるま。手仕事の技が光る工芸品として、願いの込められた縁起物として、皆さまのお手元で愛されるものになれば嬉しく思います。

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文:白石雄太
写真:阿部高之

2025大阪・関西万博公式ライセンス商品
©Expo 2025

【はたらくをはなそう】中川政七商店 店長 福島良子

福島良子
中川政七商店 近鉄百貨店奈良店 店長

2021年入社 中川政七商店 近鉄百貨店奈良店配属
2022年10月 同店 店長


前職まで、複数の企業で衣食住の主に“住”に関する仕事をしていました。その中で後継者不足や業界の衰退などの理由から廃業を余儀なくされる方々を目の当たりにし、寂しさと悔しさを何度も経験しました。

「次の仕事は微力ながら、ものづくりを支える仕事ができないか」。そんな風に考えていた時、数年前に読んだ『日本の工芸を元気にする!』のことを思い出し、それなら中川政七商店しかないだろう!と入社を決めました。

現在は奈良の店舗で店長として勤務しています。

全国の中でも贈りものを承る件数がかなり多い店舗です。贈りものの用途は様々ですが、そのどれもが人生の大きな節目であることがほとんど。感謝やお祝いなどご自身のお気持ちを形に変えてお相手へ贈る、そのお手伝いをするのが我々店舗で働くスタッフの仕事です。お相手の過ごされる時間をお客様とともに想像しながら、その場にふさわしいものを一緒に選ぶ。お伝えしたものの背景や作り手の気持ちに共感して決めてくださった時には、うれしさとビジョンへ繋がる仕事ができたという喜びを感じます。

ビジョンとどのように向き合うかを考えるのも、店長の仕事のひとつ。お客様のために産地や作り手のことを深く知り、スタッフと意見を交わす。同じ思いでビジョンと向き合ってくれていることを知るとやりがいを感じます。

仕事をする上で日々大事にしていることは『正しくあること』です。

正しさは時・人・状況により正解がひとつではありません。心のように形のないないものを正しく判断することに難しさを感じます。

すぐに答えが見つからない時は勤務先の休憩室から見える古墳を眺め、四季の移ろいなどを感じながら考えを整理します。非常に奈良っぽい方法ですが、私の故郷にも世界最大級の古墳があり子供の頃から慣れ親しんできたため、不思議と気持ちが落ち着くのです。古墳を毎日見ながらのんびりできるのは全国でも近鉄百貨店奈良店だけです。百貨店の屋上からは古墳や若草山、東大寺まで一望できますので、ご興味のある方はぜひ足を運んでいただきたいと思います。

<愛用している商品>

雪音晒の四重ガーゼミニバスタオル

おすすめ理由:「早く乾く」が私のバスタオルを選ぶ基準です。その基準を満たし、フワフワよりさらっと感のあるタオルが好きな私の理想を叶えてくれるのがこのタオル。大きすぎないサイズ感も〇。発売当初から買い足し、愛用しています。

漆琳堂越前硬漆 朝倉椀4.5寸

おすすめ理由:ものづくりと向き合うために作り手の元を訪ねる社内の取り組みで、工房を訪ねた際に一目惚れしました。工程を見学し、漆塗り体験もさせていただいたため思い入れもひとしおです。使うたびに作り手の方々のお顔が浮かびます。

植物由来のシャンプー・コンディショナー

おすすめ理由:この商品に出会うまで、洗髪時や寝起きの髪の絡まりが毎日のストレスでした。洗いあがりはさっぱりしているのですが、翌日のくし通りが全然違います。さわやかな柑橘の香りは毎日使いたくなる大切な要素のひとつです。


中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

小さな花器からはじめる、花のある暮らし  

暮らしに花を取り入れたい。でも、どんな花瓶を用意すればいいのか分からないし、きちんとお手入れできるのか不安もある。そんな方におすすめしたいのが、小さな花器とともにはじめる方法です。

誰でも気軽にはじめられて、お花の魅力を楽しむことができる。そんな花のある暮らしのポイントについて、花の定期便サービス「LIFFT」などを運営する「株式会社BOTANIC」さんにお話を伺いました。

※BOTANICさんの取り組みや想いについてはこちらのインタビューをご覧ください

少量のお花がさまになる、小さな花器から始めてみる

「最初は、小さな花器に少量のお花を生けるところから始めるのがおすすめです。

一輪挿しや小さな花器は、少量のお花でも飾りやすいようにデザインされているので、一種類のお花をシンプルに入れるだけでさまになります」

LIFFTの企画やSNS運用を担当する、BOTANICの谷田部京子さんはそんな風に話します。

株式会社BOTANIC 谷田部京子さん。LIFFTの姉妹ブランド「ex. flower shop & laboratory」代々木上原店 副店長

いきなり立派な花瓶を用意したり、たくさんの花を組み合わせたりする必要はなく、気に入った一種類の花を、気軽に飾る。そう考えると、確かに始めやすいかもしれません。

「小ぶりなものであれば飾る場所の制約も少なくて、ご自宅の雰囲気やインテリアに合わせて好きな場所に置けることも取り入れやすいポイントですね。

予算的にも揃えやすいものが多いので、いくつか用意しておくとバリエーションも出せて楽しみも広がります」

「専用の花器が無くても、たとえば小さな空き瓶だったり、使っていないグラスやボウルだったり、お花と相性の良いものが家の中に眠っていることもあります。

店頭で気になったお花を選んでいただければ、飾り方やお手入れ方お手入れ方法をお伝えしますし、もし使ってみたい花器や食器がある場合、それに準じておすすめすることも可能です」

と話すのは、BOTANIC代表の上甲知規さん。ご自身も、家にあるグラスを花瓶として使うこともあるのだそう。花器として使えるもののバリエーションがいくつかあれば、花を選ぶ際の「うまく飾れるだろうか?」という不安も小さくなると感じます。

BOTANIC 代表取締役CEO 上甲友規さん
取ってのついたマグカップも、花との相性が良い

長持ちしやすい花や、季節ならではの花がおすすめ

自分の気に入ったものを気軽に選んで良い。ということは踏まえつつ、初心者におすすめのお花があるとすれば、どんなものなのでしょうか。

「最初に選んでいただくのであれば、長持ちしやすいお花というのも良いのかなと思っています。

そもそも、切り花はすぐに枯れてしまうんじゃないかと心配する方もいらっしゃると思いますが、実はそんなことはないんです。種類や季節によっては2週間から1か月近く持つこともあります。

その中で、最初は特に長持ちしやすいお花を選んでいただくと、安心して楽しめるかもしれません。

あとは、季節を感じられるということと、色々なお花があることに触れていただけるので、その時期にしか店頭に並んでいないお花を選んでいただくこともおすすめしています」(谷田部さん)

花屋さんの店頭には、たくさんの花々が並ぶ。直感で好きなものを選びつつ、季節のものや、長持ち度合いを尋ねてみるのがおすすめ
自宅のインテリアや、使いたい花器のイメージに合わせて提案してくれることも

せっかくであれば、できるだけ長く楽しみたい。そういった意味では、確かに長持ちしやすいものを教えてもらえると安心できます。

花によっては適切な水の量が異なるなど、お手入れ方法も少しずつ変わってくるのですが、一種類ずつ生ける場合はそこもシンプル。お手入れがしやすいことも、花の長持ちに直結するポイントとのこと。

「すでに咲いているお花も、八分咲きくらいで売られていることが多いので、そこから綺麗に開ききる過程を楽しんでいただいたり。

切り花の状態からどんどん二番花、三番花と咲いてくるものもありますし、最終的にだんだんと枯れていく過程も含めて、一種類の切り花からでも、わびさびのようなものが感じられると思います」(上甲さん)


「身近なところでは、スーパーマーケットなどで数本のお花がセットになって販売されているものがあると思います。ああいったものを、セットのままではなく、一本ずつ小さな花器に分けて生けてみるのもおすすめです」(谷田部さん)

花が美しく見える長さを意識して生ける

最後に、花が綺麗に見える生け方について聞いてみました。

「基本は、花器の高さに対して、お花の出ている部分の割合が1から1.5くらいの比率で生けてあげるのが綺麗に見えるポイントです。

切り花の多くは、30センチ程の長さで販売されているので、細長い10から15センチほどの花器であれば、買ってきたお花をそのままストンと生けられます。

もう少し背の低いものや口の広がったタイプの場合は、必要に応じて茎を短くカットしてください。生けた後は、茎を定期的に1、2センチずつ斜めに切って断面を新しくすることで、お花を元気に保つことができます。

長さに合わせて生けるうつわを変えられると、一番おさまりが良いですね」(谷田部さん)

細長く、口がすぼんでいるものは、そのままストンと生けやすい。<掲載商品>瀬戸焼の花入れ 徳利型
茎を切り、短くなってきたらさらに小さな花器へうつしていく。雑菌が繁殖しないよう、水に浸かる部分の葉っぱを取り除いておくことが重要。<掲載商品>でく工房 つぼみ一輪瀬戸焼の花入れ 鳥型信楽焼の花入れ 鼓型

少し余裕が出てきた時には、小さな花器に加えてミドルサイズのものがひとつあると、さらに楽しみ方が広がるのだとか。

長いものを一本から生けられる、ミドルサイズの花器は重宝する。<掲載商品>信楽焼の花入れ 水差し型

「一本でも、花束でも対応できるミドルサイズの花器があるととても便利です。

買ったばかりの長い時はミドルサイズに生けて、短くなってきたら小さい花器に移していったり。もしくは、この枝の部分無い方がすっきりするかも、といった時に思いきって切ってしまって、切った方は小さな花器に分けて生けることもできます」(上甲さん)

「ミドルサイズのものでボリュームを出すときも、はじめのうちは一種類のお花で本数を増やす方が飾りやすいです。その方がシンプルに綺麗に見せやすく、お手入れも楽なので。

だんだん慣れてきて種類を増やしていく場合には、今度は逆に単調にならないようにお花の形を変えてみたり、質感の違うものを色々入れてみたり、そんな風に試してもらえると良いのかなと思います」(谷田部さん)

ボリュームを出す場合も、まずは一種類でまとめると綺麗に見せやすい
慣れてくると、さまざまな種類を組み合わせてみる
花が散りはじめたら、花びらを浮かべて楽しむことも

花の蕾が開く様子を日々眺められたり、自宅にあった何気ないうつわが花瓶として輝いたり、近所の野花や季節の変化に敏感になったり。暮らしに花を取り入れると、思ってもみなかった楽しい経験がどんどんと増えてきます。

一種類のお気に入りの花と小さな花器をキーワードに、ぜひ皆さんも花のある暮らしを自分のペースでスタートさせてみてください。

「本当に一輪からでも、好きなお花を一緒に考えさせていただきたいと思っています。普段お花を買う習慣がない方にも、ぜひ気軽に取り入れていただきたけると嬉しいです」(上甲さん)

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<取材協力>
BOTANIC

文:白石雄太
写真:奥山晴日

個性的な布小物を生む「Jacquard Works」を支える、桐生という繊維産地の秘密

ジャカード織生地を使って美しく個性的な布小物を作り出す「Jacquard Works」。その製品に触れるたびに、素直な疑問が頭に浮かぶ……この布、どうやって作っているのだろう、と。

ある生地は空気を含んだようにポコポコとした凹凸をもち、また別の生地はふさふさとしたフリンジが彩りを添える。まるで刺繍やパッチワークなどの装飾を施しているかのように立体的で、豊かな表情を楽しませてくれる。にもかかわらず、これが1枚の生地なんて! 

そこにはおよそ1300年という歴史をもつ繊維の産地・群馬県桐生に受け継がれる分業体制と、専門的な職人技が息づいていました。

ジャカード織物はまるでパズルのように

ジャカード織物とは、1801年にフランスの発明家、ジョセフ・マリー・ジャカール(英語読み:ジャカード)氏が開発したジャカード織機を使って織られた織物のこと(詳しくは「1本1本の糸が織りなす、無限の可能性」を参照)を指しますが、「〝織る〟という工程だけでジャカード織生地ができるわけではありません」とはJacquard Worksのつくり手である機屋「SUSAI(須裁株式会社)」3代目の須永康弘さん。

3代目でマテリアルコンダクターの須永康弘さん(左)とJacquard Worksディレクターの後藤良子さん(右)

端的に言えば、生地の全体像のプランニングにはじまり、組織(織り方)の設計、紋紙やデータの作成、糸の準備、染色、整経、製織、加工、整理、仕上げまで、およそ10の工程を経てはじめてジャカード織物ができあがります。

「どんな生地をつくりたいのか、デザインや質感などの構想を固めたらそれを具現化するために、どんな素材の、どの太さの糸を使うのか?色は?織り方は?加工方法は?と一つ一つの工程を決めていく。まるでパズルのように一つ一つのピースを慎重にはめていくというイメージでしょうか。ありがたいことに、桐生には各工程それぞれに腕利きの職人さんがいる。彼らの知識や技があるからこそジャカード織生地はできるといっても過言ではありません」

今回は、数ある工程の中からいくつかの工房を訪ね、その仕事ぶりを拝見させていただきました。

経糸を整える〝整経〟という職人技

まずは〝整経〟。文字通り、「経(たて)」糸を「整」えるというジャカード織には不可欠な工程です。「たとえば1万本の経糸が必要な織物の場合。すべての糸を同じ張力や密度できれいに並べ、すぐに織り始められるように糸を整えるのが私たちの仕事」と金子整経工場の金子一路さん。

必要な長さの経糸を、必要な本数分用意する。金子整経工場にて。
 1万本の経糸を、一糸乱れぬように並べるのは職人技。美しい……。

難しいのは天然素材や化学繊維といった素材の違いはもちろん、糸に使われる染料や、その日の温度や湿度などによって「糸の動きが変わること。糸って生き物に近いんですよ」と金子さん。きれいに整えるためには静電気や伸縮具合など多くの条件を見極めながら美しく並べる技術が求められる。「ここできちんと糸を整えてくれないとイメージ通りの生地には決してならない。整経は織物の肝ですよ」と須永さんは言います。

理想の色にムラなく染める技術と堅牢度

ジャカード織生地の〝染色〟は主に糸を染める先染めと、織った生地を染める後染めがあり、訪れた星太染工は後者。一つの素材だけならまだしも、Jacquard Worksの製品のように多種類の素材を組み合わせた複合繊維の場合、素材ごとに染料を変え、染める順番を考慮しながら、素材に合わせた染色機を使って求められる色にムラなく染めなければなりません。

圧力をかけながら生地に色を入れていくサーキュラー染色機。小窓から見えた内部の様子。
 求められる色に染めるため幾度となく実験を繰り返す試験室長の浜寄卓哉さん。

染料の分析や染色にまつわるデータ出しを担当するのは、試験室長であり技術者の浜寄卓哉さん。「数種類の染料を組み合わせて理想の色を作ることはもちろんですが、染色は堅牢度も非常に重要。色落ちや色移り、布の強度なども踏まえて生地を染めていきます」。積み重ねてきた知識と長年の経験があってこそできる職人技です。

生地の個性を引き立てる〝整理〟という仕事

また〝整理〟という工程も必須です。「織り上がったままのジャカード織生地はヨレヨレとした状態ですから、熱や圧力をかけるなどして、生地の状態を均一に安定させて綺麗に整えます」とは琴平整理の建部浩幸さん。でも、それだけじゃありません。

 琴平整理には、さまざまな要望に応えられるよう多様な機械が用意されている。
桐生の地で約70年にわたり、整理を行う「琴平整理」二代目の建部浩幸さん。

生地をフラットにしたいのか、それともふっくらとさせたいのか。「生地のもつ個性を最大限引き立ててくれるのが整理屋さんの仕事です」と須永さん。糸の伸び縮みや、生地の状態を把握しつつ、「温度や圧力量を変え、ときに糊や柔軟剤、破水剤を使うなどして、求められる風合いに仕立てます」と建部さん。頼もしい限り。

繊細なカット加工を施したジャカード織生地は立体的な仕上がりに。

ほかにも生地の表情を生み出す工程に〝加工〟や〝仕上げ〟がある。生地に光沢を出したり、立体感をもたせたり。Jacquard Worksが得意とするカットジャカードもその一つ。織り上がったばかりの生地は緯糸がつながった状態ですが、カット加工を施して余計な緯糸をカットすると、まるで刺繍を施したかのように模様を浮き上がらせることができるといいます。

緻密な職人技の先に「Jacquard Works」がある

もちろん、パズルのように工程を一つ一つ組み立てることができるのは、織物の構図や組織データを作成する〝設計〟があってこそ。

設計された組織図によって、経糸と緯糸の動きが決まる。まさにパズルのよう!
SUSAIで長年、設計を担当する小島則孝さん。

作りたい生地のイメージを設計者に伝え、それを組織データ化するのがこの工程であり、「いわば最初のキーマンです」と須永さん。このデータを元にジャカード織機に使用する紋紙がつくられ(デジタル織機の場合はなし)、それをジャカード織機が読み取ることで1枚の生地へと製織される。「とても難しいけれど、面白い仕事です」と設計者の小島則孝さんは言います。


繊細にして複雑な工程を経てようやく1枚のジャカード織生地となり、さらにJacquard Worksの製品へと姿を変えていく。なんて果てしない……。ものづくりの奥深き世界は、職人の知恵と緻密な技術の積み重ねでできている。桐生の空の下、改めてそう実感しました。

 SUSAIの工房の上には青空が広がっていた。

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文:葛山あかね
写真:阿部高之