個性的な布小物を生む「Jacquard Works」を支える、桐生という繊維産地の秘密

ジャカード織生地を使って美しく個性的な布小物を作り出す「Jacquard Works」。その製品に触れるたびに、素直な疑問が頭に浮かぶ……この布、どうやって作っているのだろう、と。

ある生地は空気を含んだようにポコポコとした凹凸をもち、また別の生地はふさふさとしたフリンジが彩りを添える。まるで刺繍やパッチワークなどの装飾を施しているかのように立体的で、豊かな表情を楽しませてくれる。にもかかわらず、これが1枚の生地なんて! 

そこにはおよそ1300年という歴史をもつ繊維の産地・群馬県桐生に受け継がれる分業体制と、専門的な職人技が息づいていました。

ジャカード織物はまるでパズルのように

ジャカード織物とは、1801年にフランスの発明家、ジョセフ・マリー・ジャカール(英語読み:ジャカード)氏が開発したジャカード織機を使って織られた織物のこと(詳しくは「1本1本の糸が織りなす、無限の可能性」を参照)を指しますが、「〝織る〟という工程だけでジャカード織生地ができるわけではありません」とはJacquard Worksのつくり手である機屋「SUSAI(須裁株式会社)」3代目の須永康弘さん。

3代目でマテリアルコンダクターの須永康弘さん(左)とJacquard Worksディレクターの後藤良子さん(右)

端的に言えば、生地の全体像のプランニングにはじまり、組織(織り方)の設計、紋紙やデータの作成、糸の準備、染色、整経、製織、加工、整理、仕上げまで、およそ10の工程を経てはじめてジャカード織物ができあがります。

「どんな生地をつくりたいのか、デザインや質感などの構想を固めたらそれを具現化するために、どんな素材の、どの太さの糸を使うのか?色は?織り方は?加工方法は?と一つ一つの工程を決めていく。まるでパズルのように一つ一つのピースを慎重にはめていくというイメージでしょうか。ありがたいことに、桐生には各工程それぞれに腕利きの職人さんがいる。彼らの知識や技があるからこそジャカード織生地はできるといっても過言ではありません」

今回は、数ある工程の中からいくつかの工房を訪ね、その仕事ぶりを拝見させていただきました。

経糸を整える〝整経〟という職人技

まずは〝整経〟。文字通り、「経(たて)」糸を「整」えるというジャカード織には不可欠な工程です。「たとえば1万本の経糸が必要な織物の場合。すべての糸を同じ張力や密度できれいに並べ、すぐに織り始められるように糸を整えるのが私たちの仕事」と金子整経工場の金子一路さん。

必要な長さの経糸を、必要な本数分用意する。金子整経工場にて。
 1万本の経糸を、一糸乱れぬように並べるのは職人技。美しい……。

難しいのは天然素材や化学繊維といった素材の違いはもちろん、糸に使われる染料や、その日の温度や湿度などによって「糸の動きが変わること。糸って生き物に近いんですよ」と金子さん。きれいに整えるためには静電気や伸縮具合など多くの条件を見極めながら美しく並べる技術が求められる。「ここできちんと糸を整えてくれないとイメージ通りの生地には決してならない。整経は織物の肝ですよ」と須永さんは言います。

理想の色にムラなく染める技術と堅牢度

ジャカード織生地の〝染色〟は主に糸を染める先染めと、織った生地を染める後染めがあり、訪れた星太染工は後者。一つの素材だけならまだしも、Jacquard Worksの製品のように多種類の素材を組み合わせた複合繊維の場合、素材ごとに染料を変え、染める順番を考慮しながら、素材に合わせた染色機を使って求められる色にムラなく染めなければなりません。

圧力をかけながら生地に色を入れていくサーキュラー染色機。小窓から見えた内部の様子。
 求められる色に染めるため幾度となく実験を繰り返す試験室長の浜寄卓哉さん。

染料の分析や染色にまつわるデータ出しを担当するのは、試験室長であり技術者の浜寄卓哉さん。「数種類の染料を組み合わせて理想の色を作ることはもちろんですが、染色は堅牢度も非常に重要。色落ちや色移り、布の強度なども踏まえて生地を染めていきます」。積み重ねてきた知識と長年の経験があってこそできる職人技です。

生地の個性を引き立てる〝整理〟という仕事

また〝整理〟という工程も必須です。「織り上がったままのジャカード織生地はヨレヨレとした状態ですから、熱や圧力をかけるなどして、生地の状態を均一に安定させて綺麗に整えます」とは琴平整理の建部浩幸さん。でも、それだけじゃありません。

 琴平整理には、さまざまな要望に応えられるよう多様な機械が用意されている。
桐生の地で約70年にわたり、整理を行う「琴平整理」二代目の建部浩幸さん。

生地をフラットにしたいのか、それともふっくらとさせたいのか。「生地のもつ個性を最大限引き立ててくれるのが整理屋さんの仕事です」と須永さん。糸の伸び縮みや、生地の状態を把握しつつ、「温度や圧力量を変え、ときに糊や柔軟剤、破水剤を使うなどして、求められる風合いに仕立てます」と建部さん。頼もしい限り。

繊細なカット加工を施したジャカード織生地は立体的な仕上がりに。

ほかにも生地の表情を生み出す工程に〝加工〟や〝仕上げ〟がある。生地に光沢を出したり、立体感をもたせたり。Jacquard Worksが得意とするカットジャカードもその一つ。織り上がったばかりの生地は緯糸がつながった状態ですが、カット加工を施して余計な緯糸をカットすると、まるで刺繍を施したかのように模様を浮き上がらせることができるといいます。

緻密な職人技の先に「Jacquard Works」がある

もちろん、パズルのように工程を一つ一つ組み立てることができるのは、織物の構図や組織データを作成する〝設計〟があってこそ。

設計された組織図によって、経糸と緯糸の動きが決まる。まさにパズルのよう!
SUSAIで長年、設計を担当する小島則孝さん。

作りたい生地のイメージを設計者に伝え、それを組織データ化するのがこの工程であり、「いわば最初のキーマンです」と須永さん。このデータを元にジャカード織機に使用する紋紙がつくられ(デジタル織機の場合はなし)、それをジャカード織機が読み取ることで1枚の生地へと製織される。「とても難しいけれど、面白い仕事です」と設計者の小島則孝さんは言います。


繊細にして複雑な工程を経てようやく1枚のジャカード織生地となり、さらにJacquard Worksの製品へと姿を変えていく。なんて果てしない……。ものづくりの奥深き世界は、職人の知恵と緻密な技術の積み重ねでできている。桐生の空の下、改めてそう実感しました。

 SUSAIの工房の上には青空が広がっていた。

<紹介したブランド>

文:葛山あかね
写真:阿部高之


【はたらくをはなそう】EC課 森田康寛

森田康寛
EC課

新卒で金融関連の企業に入社。3年勤めた後、Webデザイナーに憧れて大阪のWeb制作会社へと転職。コーポレートサイトやキャンペーンサイトのデザイン、コーディング等に携わり、4年半ほどWeb制作の経験を積み、2019年9月、中川政七商店にWebデザイナーとして入社。
現在はEC課に所属し、新規Webページ作成やECサイトのUI・UX改善、メールマガジンの配信などを担当している。


肩書はWebデザイナー。

“日本の工芸を元気にする × Web”という、工芸とデジタルを掛け合わせた非常に魅力的な仕事です。

もともと私がWebデザイナーを志したのは、大学時代に独学でWeb制作を学んだことがきっかけでした。新卒で入社した奈良の大手企業では、いずれWeb担当の仕事に就けたらいいなという気持ちで勤めていましたが、やはりWebサイトをつくる仕事がしたい!と奮い立ち、意を決して大阪のWeb制作会社へ転職。

そこでは仕事を通じて実践的なWebの技術を学び、様々な経験を積むことができました。

中川政七商店に入社したきっかけは、当時、30歳を目前にして自分が本当にやりたい仕事は何かを考えたとき、中川政七商店でしかできないことだと思ったからです。

Webサイトを “つくる” だけではなく “育てる” 立場になりたい。

クライアント視点ではなく、実際にWebサイトを利用するユーザーの視点を大切にしたい。

改善を施して洗練させ、素敵なWebサイトに育て上げた結果、ものづくりの人たちにも貢献でき、喜ばれるような仕事をしたい。

そんな思いで中川政七商店に入社しました。

現在は、新規Webページの作成や当社ECサイト(オンラインショップ)のUI・UX改善、メールマガジンの配信を主に担当しています。

Webデザイナーといっても所属はEC課なので、ほぼ毎日メルマガの文章を考えたり、カメラを持つ日もあったりと、多岐にわたる仕事で面白い!

さらに当社では、力を入れた商品の発表に加え、毎年ユニークな取り組みが立ち上がっています。

最近では『SaDo』という新プロジェクトのWebページ制作にも携わる機会があり、日々刺激を感じながら仕事に取り組んでいます。

仕事に取り組む際、私の中でずっと大切にしている言葉があります。

「美は細部に宿る」。

細部まで妥協せずに仕上げることで全体の美しさが高まる、という意味。

建築の世界から生まれた言葉で、一般的には“神は細部に宿る” というのが正確なのだそうですが、大学時代に教授から教わって以来ずっと心に残っている言葉です。

Webデザインに携わることで、この言葉の重さを痛感しました。

1ピクセルのずれでも違和感を与えてしまうほど顕著に、小さな妥協が全体の美しさを崩してしまうのです。

デザインだけではなく、日々の仕事や他者とのやりとりにおいても同様。

これでいいや、というちょっとした妥協で成果が出なかったり、はたまた悪い印象を与えて信用を失うことすらあると思います。

このメールの文章でちゃんと内容が伝わるかな。

そんな些細なことでも細部に目を配ることで、相手への思いやりにも繋がり、お互いに気持ちよく仕事ができると思います。

と言いいつつも、細かいことばかりに夢中になっていては、仕事は終わりません。

全体を俯瞰し、物事を判断する能力も大切。

妥協はしない、でもやり過ぎずしっかり成果が出る力量を。

無理をしすぎず、適切なバランスで意思決定をすることも重要だと考えています。

間近で新しい日本の工芸が産声を上げる環境に身を置けるのも、中川政七商店ではたらくうえでの楽しい一面。

新作商品の説明会に参加するたび、この素敵な商品たちをしっかり全国のお客様の手元に届けたい!そんな風に気持ちが搔き立てられています。

どうすれば商品の魅力がより伝わるのか。

どうすればECサイトを快適にし、お客様に楽しくお買い物をしていただけるのか。

マーケティングはもちろんWebサーバーの知識も必要になるなど、年々仕事の幅が広がってきて戸惑うこともたくさんあるのですが、今まさに「Webサイト(ECサイト)を育てる」ことに携われていると実感を得ています。

自分自身も成長しながら、もっと中川政七商店のECサイトを育てていきたい。

その成長によって、お客様がよりお買い物を楽しんでいただけるように。

そしてその結果、日本の工芸を元気にすることに繋がれば、これほど誇らしいことはありません。

<愛用している商品>

食洗機で洗えるひのきのまな板

おすすめ理由:朝のお弁当づくりには「小」、夕飯には「大」と、食材やシーンにあわせて両方のまな板を使いわけています。4年以上使っていますが、黒カビは生えていません。薄くて軽く、食洗機にも余裕で入るのでとても重宝しています。

丈夫でへたりにくいキッチンスポンジ

おすすめ理由:今まで使ってきたスポンジの中で、圧倒的に最強。ずっと使っていてもへたったりボロボロになる気配がありません。買い替え時がわかりません。

茶巾生地のコーヒーフィルター 円錐形

おすすめ理由:ゴミを減らす目的で購入。使い捨ての紙のフィルターと異なり何度も使え、お手入れが簡単なのもうれしいポイント。段々とコーヒー色に染まっていき、経年変化も楽しめます。


中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

【わたしの好きなもの】使うことが楽しく習慣になる。三段重ねの漆器「めぶく弁当」

身の回りの道具で、特に長く使っているものはなんだろう。

ふとそんなことを考えて家の中を見回してみたとき、ぱっと目に入ってきたのは普段からよく使っている陶器のカップとソーサーでした。

15年以上前に地元の民藝館で一目ぼれして購入。それ以来、週に数度は必ずこのカップでコーヒーを飲んでいて、日常的に使っているものの中ではかなり長い付き合いです。

元々の佇まいが好みであることに加えて、貫入にコーヒーの色が少しずつしみ込むなどの経年変化も愛おしい部分。なにより、ソーサーとセットで机の上に置くことで、どこか背筋が伸びるというか、少しだけ気持ちにスイッチが入る気がして、使うことが習慣化しています。

飽きがこなくて、楽しみながら使っているうちに習慣となり、自然と長い付き合いになる。最近も、そんな可能性を感じる道具に出会う機会がありました。

「めぶく弁当」

それが、“漆の種”が埋め込まれた会津漆器のお弁当箱「めぶく弁当」です。現在、予約受付中の同商品(※受注生産のため、お渡しは2025年9月ころを予定)ですが、一足先に触る機会を得たので、しばらく使ってみた感想をお伝えします。

佇まいが美しい

「めぶく弁当」は、かつて、武田信玄が好んだとされる“信玄弁当”をモチーフに、飯椀、汁椀、おかず皿が三段重ねになったお弁当箱。蓋も兼ねる汁椀の高台部分には漆の種が埋め込まれていて、そこには「未来でその種が芽吹きますように」という祈りが込められています。

漆の種が埋め込まれている

コンセプトやものづくりの背景も興味深く魅力的な「めぶく弁当」ですが、まず一目見て印象的だったのは、その佇まいの美しさ。

金沢の木地職人 畑尾勘太さんが手掛けた木目の美しい素地は、従来の信玄弁当と比べて柔らかい印象のフォルム。猪苗代町在住の塗師 平井岳さんによって木目の美しさを存分に活かした木地呂塗(きじろぬり)で仕上げられ、現代の生活にもすっと馴染みます。

触り心地が良くとても軽いので、子どもも興味津々でした

お弁当箱として自然の緑の中でも映えるし、家の中でも抜群の存在感でハレの日の特別なごちそうにもぴったり。そして個人的におすすめしたいのは、普段使いの食器として日々活用することです。

不思議と背筋が伸び、食事の満足度が上がる

在宅で仕事をしていることもあり、昼食は一人で取ることが多くなります。

気を抜くと同じようなメニューや外食ばかりで栄養が偏ってしまったり、お昼を取らずに間食だけで済ませてしまったりする日も。

そんな中、いざ漆器のお弁当箱を使って昼食を取ろうと決めると、ふっと背筋が伸びるような感覚があり、「せっかくならおかずをもう一品増やしてみよう」「たまには魚も食べないと」といった気持ちが自然と湧いてきました。

我ながら単純だなと思いつつ、ここは自分の素直な気持ちに従って、あれこれおかずを準備してみることに。気負いすぎても長続きしないのであまり無理はせず、出来合いのお惣菜や晩御飯の残りなんかも加えながらおかずを検討していきます。

白ご飯との相性も抜群

当日のお昼はそれを盛り付けて、ご飯をよそって、汁を注いで。そうしていつもとは少し違った昼食の時間を過ごすと、何とも言えない満足感と達成感が得られ、リフレッシュして午後の仕事に臨むことができました。

お手入れは意外と簡単。漆が育つ楽しみも

食べ終わった後は、そのまますぐに洗ってしまいます。漆器のお手入れは少しハードルが高いイメージもありましたが、実は意外と簡単。油汚れ以外はぬるま湯ですすぎながら手のひらでさっと洗えば綺麗に保つことができて、洗ったあとは蚊帳ふきん等で拭いてあげるだけ。

手で洗っていると、どこに触れても本当にすべすべで、細部まで美しく仕上げられていることを改めて実感します。こうして丁寧に使っていくうちに、漆の艶がどんどん増していくのだとか。

底面まで美しい

漆器を使い、汁やおかずを用意することで、外食やインスタントな食事と比べるとどうしても手間は増えるかもしれません。それでも、敢えて日常の中で少しの手間を省かずに道具や食事と向き合うことは、とても豊かな時間の使い方だと感じました。

準備の時間、食事の時間、そして片付けの時間を経ることで気持ちの切り替えにもつながって、結果的に仕事の効率も上がるような気がしています。

手間をかけて向き合いたくなる美しい道具。冒頭で触れたカップ&ソーサーのように、いつまでも飽きがこなくて、楽しみながら使うことが習慣となり、自然と長い付き合いになる。そんな予感を強く感じる商品でした。

<関連商品>
【予約商品・WEB限定】めぶく弁当(来年2025年9月ごろお届け予定)

<関連特集>

文:白石雄太

自分のために飾りたい、雛飾り。「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅に飾ってもらいました

大人が愉しむ、自分のための雛人形

雛飾りは、親が子どもの健やかな成長を願って贈るものというイメージがありますが、大人になっても、季節のしつらいとして、自身の幸せを願う飾りものとして愉しむことができます。

今年度発売された「草木染めの衣裳着雛飾り」は、紬織の人間国宝 志村ふくみさんの芸術精神を受け継ぐ、アトリエシムラとのコラボレーションで生まれました。

植物の生命(いのち)をいただく草木染めは、二つとして同じ色に出会えない、まさに一期一会の色。その特徴を生かして織り上げた生地には、微妙な濃淡が生まれ、見る人を惹きつけています。

植物の生命をいただき、染められた糸は、丁寧にすべて手織りで仕立てられます

歳月が経つほどに、色の変化を愛でることができる草木染めの雛飾りは、まさに大人が自分のために飾りたい雛人形。

今回、中川政七商店の中川みよ子さんにお声がけし、「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅に飾ってもらいました。

好きなものを好きな時に、自由にしつらう

「普段から、お気に入りを自由にしつらうのが好きなんです」

そう話すみよ子さんのご自宅は、ご本人の好きなものであふれていました。

リビングにある棚には、様々な年代・種類のうつわや、飾りものが並んでいます。

リビングの飾り棚には、ガラス、漆、絵付けの磁器などが並ぶ

「その時々に合わせて、新しいもの、古いものを問わず、自分の気持ちが動いたものを置いています。リビングに飾っておくと、いつも目に入るから楽しいでしょう。

いまのお気に入りは、茶道の際に、うつわを温めた水をいれる建水(けんすい)。さまざまな素材や形があるんですよ。だから見つけると、つい集めてしまいます」

自宅になった柘榴(ざくろ)の実

「草木染めの衣裳着雛飾り」をご自宅にかざってもらいました

雛飾りを、自宅でどんな風に飾って楽しむのか。みよ子さんに、ご自宅内のいくつかの場所を選んでいただき、実際に飾っていただきました。

まずは、お客様を迎える玄関。良い気を呼び込むという意味でも大切な場所です。

玄関を入ってすぐ脇にある木の台に敷板を置き、土壁を背にしてお雛様を飾ってみます。戸から漏れる控え目な陽の光で、空間がよりしっとりと、落ち着いた雰囲気になりました。

家族が一番長い時間を過ごす、リビング。

テレビの上部にある飾り棚に、他のお飾りとともに置いてみました。

淡い色合いの衣裳なので、洋風の部屋にも馴染みます。また奥行きが約15cmとコンパクトなので、ちょっとした棚にも収まり、一緒に飾っているインテリアの邪魔をしません。

雛飾りといえば、和室の床の間。

「季節のぼかし染めタペストリー(桜雲)」を一緒に飾れば、桃の花が咲いたように一気に華やかな空間になります。高さのある木の台を用意して、タペストリーとのバランスを考えて飾りました。

「ここに飾っても素敵なのではないかしら?」と読書スペースにある棚にも飾ってみました。本棚にはお父様から譲り受けた本が大切に収められています

 「糸の一本一本が異なる色合いで、生地の濃淡が本当に美しいですね。つい見入ってしまいます。

以前は、雛飾りを節句に合わせて子どものために飾っていました。最近は子どもが独立しても、大人のしつらいとして自分のために飾っている方もいらっしゃると聞きます。

今回こうして飾ってみて、季節のしつらいとしてのお雛様を飾るのも素敵だな、と感じました」

<掲載商品>
草木染めの衣裳着雛飾り
季節のぼかし染めタペストリー(桜雲) 

<関連特集>

150年続く伝統の和凧を後世へ。名古屋 凧茂本店の凧作り

家の中を、自分の好きなもので飾る。

何かが便利になったり、家事の助けになったりするわけではないけれど、そうすることで不思議と気分が上がり、活力が湧いてくる。

それは、日々を心地よく暮らしていくためにとても大切なことだと感じます。

古くから人々は、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設えたり、祈りを込めた縁起物を取り入れたりして、家の中を「しつらい」ながら暮らしてきました。 この美しい「しつらい」、飾りものの文化を未来へつないでいくためになにができるだろうか。そう考え、通年で家に飾れるオブジェのような工芸を模索して生まれたのが、こけしや和凧といった縁起物をモチーフとしたインテリア、「鳥こけし」と「飾り凧」です。

今回、「飾り凧」を組み上げてくれたのは、江戸末期創業の老舗、名古屋の「凧茂(たこも)本店」。

150年続く同店の凧作りについて、山田直樹さんに話を聞きました。

家業に戻り10年。一人で組み上げる伝統の和凧

凧茂本店 山田直樹さん

「組み立ては、基本的にこの場所で、僕一人でやっています」

創業150年を超える「凧茂本店」ですが、現在、凧の組み立てをおこなう職人は直樹さんただ一人。凧の紙、竹ひご、凧糸など、日本各地から届いた部材を黙々と組み立てて、出荷までも一人でこなしています。

「祖父の代の頃は、祖父の兄弟など職人が5名くらい在籍していて、一番生産力がありました。内職さんも多くて、複雑な凧も作れていた時代です」

元々、大学卒業後にサラリーマンとして働いていた直樹さんでしたが、10年ほど前に家業である和凧作りの道へ。直樹さんが戻ってきた当時、すでに凧作りの職人は直樹さんのお祖母さま一人だけという状況。

「ポイントを祖母に教わりながら、とにかくたくさん凧を作って。3年目になる頃にこの部屋に上がってきて、一人で凧作りをするようになりました」

それ以来、150年続く家業、そして和凧の技術を絶やさないために、日々凧作りに励んでいます。

定番柄で人気の高い武者絵の六角凧
かつて作られていた複雑な形の凧たち。祖母から教わり切れなかった部分は、こうしたアーカイブを紐解いて、自身で作り方を研究している
固い竹を使用する場合は、ろうそくの火を数時間当てて曲げる必要があったのだとか。「複雑な骨組みの凧は、一朝一夕では作れません」(直樹さん)

繊細な作業が要求される、和凧作りの工程

凧の組み上げは、和紙に竹ひごを通す穴をあけるところから始まります。

「おおよそ25枚くらいの紙を重ねて穴をあけますが、この作業がかなりシビアですね。ここでずれてしまうとやり直しがきかないので」

穴あけの工程
穴の位置がずれると、凧の仕上がりに大きな影響が出る

和紙の穴あけが終わると、竹ひごに糊をつけて張り付けていく工程へ。綺麗に仕上げるため、均一に糊をつけていく必要がある繊細な作業です。

でんぷん糊を水で薄めながら使用

「竹ひごは、必ず皮がついた状態のものを使います。皮がないと柔らかすぎて折れてしまうので。

また、皮がついていない側に糊付けをして貼り付けることで、凧を揚げたときに皮がついている側が下向きになる。そうすると重心が安定して揚げやすくなります」

飾る用途の凧であっても、実際に揚げられるということにこだわっている直樹さん。左右ができる限り対称になっていることや、風を受けやすい反り具合など、きちんと飛ぶ凧を追求することで、見た目にも美しい和凧が仕上がっているように感じます。

和紙の端を折り返して糊で貼り込む工程。ここで竹ひごの反り具合も調整する
乾燥させた後、糸をつけて完成

すべての素材を国産にこだわった、美しい凧

「素材すべてを国産にこだわっていることが、大きな特徴じゃないかなと思います」

直樹さんがそう話すように、凧茂本店の和凧は、和紙、竹ひご、凧糸まですべて国産の素材で作られています。 かつて海外産の竹ひごを試したこともあるそうですが、含まれる水分が多すぎたのか簡単に割れてしまい、仕事にならなかったのだとか。

国産の竹ひごは、京都で加工されたもの。サイズと薄さを指定して発注している
紙は美濃の和紙を使用
紙の印刷は、「刷り込み屋さん」と呼ぶ印刷屋で行うことが多い。一色一版で、鮮やかな色合いに仕上げていることが特徴
中には、10種類以上の版を使用する絵柄もある
干支ものの凧は人気が高い

「昔から変わらないやり方ですけど、これがベストだと思って続けています。今後は凧作りを教えていきたいなと思っていて。夏休みの子ども達に向けたワークショップなどができればいいですよね」

150年続く和凧作りを後世につなげるために、広くその魅力を伝えていきたいと考えている直樹さん。その取り組みはこれからも続きます。

「自分が作った凧が売れるということに対して、不思議な感覚もあるんですよね。

時代とともにお金の使い方も多様化している中で、和凧を買っていただけている。それはすごく価値のあることだと思っています。

純粋にものづくりの楽しさも感じていますが、それよりも今は、感謝の気持ちが大きいというか。凧作りに関わってくださっている方々や、発注してくださる取引先、そして実際に買ってくださる消費者の皆さん。本当にたくさんの方に支えられているということを実感しています」

ご両親とともに。お父様は、凧茂本店の5代目である山田民雄さん

<掲載商品>
飾り凧

文:白石雄太
写真:阿部高之

たくさんの肯定から生まれた、通年で飾れる新しい縁起物……𠮷勝製作所 𠮷田勝信さんインタビュー

家の中を、自分の好きなもので飾る。

何かが便利になったり、家事の助けになったりするわけではないけれど、そうすることで不思議と気分が上がり、活力が湧いてくる。

それは、日々を心地よく暮らしていくためにとても大切なことだと感じます。

古くから人々は、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設えたり、祈りを込めた縁起物を取り入れたりして、家の中を「しつらい」ながら暮らしてきました。

この美しい「しつらい」、飾りものの文化を未来へつないでいくためになにができるだろうか。そう考え、通年で家に飾れるオブジェのような工芸を模索して生まれたのが、こけしや和凧といった縁起物をモチーフとしたインテリア、「鳥こけし」と「飾り凧」です。

今回のプロジェクトでは、東北・山形県を拠点に活動するデザイナー・𠮷田勝信さん(𠮷勝制作所)と協業。フィールドワークやリサーチ、プロトタイピングを得意とする𠮷田さんとともに、こけし文化や凧の起源を深堀りし、縁起物とは?工芸とは?という本質を探りながら制作にあたりました。

どんなことを考え、何を大切にして「鳥こけし」と「飾り凧」が生み出されていったのか。山形県西村山郡にある𠮷勝制作所で話を聞きました。

縁起物は、さまざまなものの関与を受けて生まれる

𠮷勝制作所 𠮷田勝信さん

――最初に「縁起物」というキーワードを聞いた時は、どんな印象を持たれましたか?

「縁起物って立体物であることが多いんですが、その“縁起のよさ”というのは、割と視覚的に表現されていると感じていました。

山形で作られている「削り花」なんかも、そのフワッとした毛先の見た目に縁起のよさが込められていて。立体だけどすごくグラフィカルというか。

そんなふうに、“縁起物を縁起物たらしめているなにか”を視覚的に表現してかたちを作っていくのであれば、プロダクトデザインというよりも、自分の専門領域であるグラフィックデザインとしてアプローチできそうだと思いましたね」

𠮷田さんが収集した縁起物や郷土玩具たち
中央に映っている花のような木地細工が「削り花」

「それと、“縁起”という言葉を調べていくと、外的要因の力を受けてものが立ち上がってしまったこと、というような意味合いがあって。第三者とか、もっと言えば人を超越した力の関与を受けて、制作者も予期していない色や形が生まれたときに、そのものが縁起たらしめられると。それはすごく面白いなと思ったんです。

このプロジェクトでも、職人さんたちの普段の製造工程だったり、使用する素材の特性だったり、中川政七商店の考えや想いだったり、さまざまな関与を受けたものづくりができるといいなと。僕自身もその関与のひとつとして何かが作れたら、それは少し“縁起っぽい”のかな、というところからスタートしています」

――その意味では、作り手の予期しないゆらぎが発生する工芸のものづくりには、もともと “縁起”の要素があるのかもしれません

「今回、榎本さんや渡瀬さん*と会話していて、中川政七商店が考える『工芸』というものが意外と広いということに驚いたんです。

※今回の商品を担当した中川政七商店のデザイナー

僕の中での工芸は、いわゆる伝統工芸的なもの。でもお二人に聞くと、たとえば靴下も工芸であると。靴下工場に行くと、もちろん機械を使っているんだけど、そのオペレーティングには専門の職人さんがいて、いわば道具として機械を使っている。そう考えると、どこからどこまでが工芸っていう線引きは難しいですよね。

僕に近いところで言えば、印刷所もまさにそうで。現代の印刷機は大きくて性能もいいんですが、操作する人は不可欠で、しかも熟練の方かどうかでクオリティがかなり違ってきます。ということは『印刷も工芸なんだ!面白い!』と思って。

伝統工芸的なものではなく、もっと周辺にある靴下や印刷といったものの技術をうまく使って、工芸らしいものや縁起物がつくれたら、工芸の拡張につながるんじゃないかと感じました」

印刷にまつわる機会や道具が並ぶ、𠮷勝制作所の作業場。様々な印刷方法を試したり、山で採集した草木からインクをつくる実験などもおこなっている
自身のバイブルだという「印刷インキ工業史」を読む𠮷田さん。文献にあたって印刷方法やインクのレシピを調べて、実際に試している
クルミやブナなど、山で採取した樹皮の顔料化実験中

原初の凧に込められた「風を見る」祈りをモチーフに

――「飾り凧」はまさに、印刷の技術を用いたプロダクトですね

「『飾り凧』の紙はオフセット印刷で刷っているんですが、流すインクの色を微妙に変えながら印刷するということをやっています。一見すると同じに見えるんですが、実は個体によってむらとか違いが出てくるように設計していて。

要するに、オフセット印刷を工芸的に理解してやってみたというか。足したインクの量とかも職人さんの目分量だし、機械や紙の状態にも左右されるので、印刷物なんだけど、二度と同じものが作れない。

このブレが許容されていくと面白いし、印刷の失敗というものが減るので、資源を大切にするという意味でもいいのかなと思っています」

――風を感じるデザインが印象的です

「凧について調べていくと、はじめは儀礼凧として発生したとされています。見えないはずの風を凧あげで可視化して、その力で幸せを願うというようなものです。その後、幕末の頃になるといわゆる凧あげ遊びのための遊戯凧が爆発的に増え、近代になると電線の影響もあってだんだん飛ばしづらくなっていき、飾る凧が増えていった。

その流れで今回の『飾り凧』は、飾る凧ではありつつ、そこに縁起を込めるもの。

そうなるとモチーフは、最初の儀礼凧にあった、風の力を見るということになるのかなと。 形状は、儀礼凧として考えたときに落ちてしまうと縁起が悪いので、一番飛ばしやすいとされている角凧という形を採用しています」

自然と出来上がった「こけしのようなもの」

――『鳥こけし』のものづくりはどんなふうに進んでいったのでしょうか?

「『鳥こけし』の場合は、まず僕の方でスケッチを描いて、粘土でサンプルを作ってみて。そこからどういう絵付けをするのか、材料の径はどれだけ取れるのか、どの鳥にどの材料を割り当てるのか、といったことを検討しつつ、形をブラッシュアップしていきました」

「そのあと3Dプリンターでモックを出して、それを見本として工人(こうじん)さん*に木地を挽いてもらったんですが、そこでの変化が面白くて。

※こけし工人:伝統こけしを製作する職人

工人さんの手癖なのか、製造工程でどうしても出てしまう形状なのかはわからないんですが、明らかにモックとは違って仕上がってくるんです。でも、その微妙な変化によって、最終的な匂いが不思議とこけしっぽくなっていて、『これはこれでいいか』という感じでGOサインを出したり。そういうことが端々にありました」

3Dプリンターによるモックアップと、仕上がりの比較。くちばしや頭の形状、胴体のバランスなど細かい部分に変化がみられる。サギ(写真左)とフクロウ(写真右)で担当する工人さんが分かれており、絵付けの癖もかなり異なるのが面白い

「こけしを作るための道具や機械で、こけしの工人さんや木地師さんによって木が磨かれていくと、必ずこけしっぽいものが上がってくる。僕としても、敢えてこけしに寄せていくというよりは匂いがつくくらいにしたかったから、それがすごくよかったですね。

結果として、どこの国にあっても不思議ではないものができたというか。日本らしくもあり、欧風でもあり、それでいてこけしの匂いがある、ちょうどよいものができたと思っています」

左から、フクロウ(ケヤキ)/ツル(イタヤカエデ)/サギ(ミズキ)。伝統こけしでよく使用される天然の木材を選定し、絵付けには東北こけし伝統の色絵具を採用。木肌をしっかり見せること、面を塗りつぶしてボーダーを作るといった伝統こけしの意匠にインスパイアされたデザイン

それぞれの解釈や、工芸の匂いを肯定するものづくり

――改めて、今回のものづくりを振り返ってみていかがでしたでしょうか?

「素材の特性とか、職人さんの解釈や手癖、普段つくっている製品に最適化された製造工程を通ることで、産地のフィルターがかかって、デザインに工芸の匂いがついて返ってくる。その『製造工程が持つ個性』がとても面白かったですし、今後もっと多くの製品を作ってみたいと思いました」

「複製性が低い複製の在り方というか、量産品ではあるんだけど、すべて微妙に違っていて選びたくなる。それってすごく楽しいし、“縁起っぽい”のかなと。

逆に、産業技術というのは複製性をどんどん上げていくものだというのがわかってきて、そうすると失敗という概念が現れてくる。複製性を下げてやると、その失敗が見えなくなるというのがよくて、日ごろから自分のプロジェクトでも、たとえば印刷の複製性をどう下げるかといったことを考えています。

まず製造工程を教えてもらって、ものの作り方を決めて。その中で、乱数の入り込む余地を設けておいて、動かしていく。今回の凧で言えば、サイズや形状、オフセット印刷という手法は決めたうえで、流し込むインクの色や量を変えながら印刷してみる。そうやって乱数を取り込むような作り方をよくやっていますね」

吉田さんがはじめて乱数を取り込むことを実践した、山形「ISKOFFEE」のコーヒー豆 パッケージ。各ブレンドのマークを決めておき、店舗スタッフが直接手描きするという仕様。パッケージの中心に描けるように治具を提供し、誰が描いても様になるよう工夫している。ブレンドによってマークの違いが明らかなので少しのブレは許容できて歩留まりもよく、なによりスピーディー

今回、さまざまな関与を受けたものを作りたいというところで、中川政七商店ともフラットに意見を交わせたし、工人さんとも直接話すわけではないですが、“もの”を媒介にしてコミュニケーションが取れて、そうしてプロダクトが出来上がっていきました。

立体物の場合、それぞれの解釈で出てくる小さな差異が全体にすごく影響してくるところがあって、やっぱり面白いなと。そういった解釈とか、匂いを肯定できたのが、すごくよかったことかなと思います」

<掲載商品>
鳥こけし
飾り凧

文:白石雄太
写真:阿部高之