【地産地匠アワード】常識の先を編み上げる。斜めに寄り添う新発想のユニバーサルニット「Spiral MiGU(スパイラルミグ)」

土地の風土や素材、産地や業界の課題に、真摯に向き合って生まれたプロダクト。

そこには、日本のものづくりの歴史を未来につなぐそれぞれの物語がつまっています。

地産地匠アワード」は、地域に根ざすメーカーとデザイナーとともに、新たな「暮らしの道具」の可能性を考える試みです。

2025年の受賞プロダクトの中から、大阪府泉大津市でうまれた「Spiral MiGU(スパイラルミグ)-インナー・ロングスリーブ-」を取り上げます。それぞれの背景にある物語をぜひお楽しみください。

“不良”をあえて味方につけた、逆転のものづくり

ニットには “斜行(しゃこう)” と呼ばれる現象があります。編み目がまっすぐ揃わず斜めに傾いていってしまうもので、ねじれや歪みにつながるため、通常は“不良品”と判断されてしまいます。この“斜行”を逆手にとり、意図的に活かしてみようと考えて生まれたのが、斜めに巻き付くように身体に寄り添うインナー「Spiral MiGU(スパイラルミグ)」です。

うっすらと見える“斜行”のラインが特徴的な「Spiral MiGU(スパイラルミグ)」。MiGUは、Make it Gentle to Universalの頭文字をとったもの

「現場では『本当に“斜行”でいいんですか?』と何度も確認されました。 普段なら絶対に直すものですから」と笑うのは、株式会社アイソトープの浅田好一さん。大阪 泉大津市のニットメーカーである同社で、営業を担当しています。

これまで、顧客からのあらゆるオーダーに応えてきた浅田さんでしたが、今回は特に異色だったとのこと。

「戸惑いの空気がしばらく続きましたよ。職人さんたちはなかなか納得がいかなくて、どうしてもまっすぐに整え直して完成させようとするので大変でした」と当時を振り返ります。

株式会社アイソトープの浅田好一さん

ことの始まりは、今からおよそ10年前。誰もが豊かなファッションを楽しめる社会を目指す「特定非営利活動法人 ユニバーサルファッション協会(以下、ユニファ)」と、中小企業に技術支援をおこなう「地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター(以下、都産技研)」による共同研究会において、からだを包み込むようにフィットする、誰にでも着やすいインナーの開発がスタートします。

同研究会には、今回の開発の中心メンバーである都産技研プロダクトデザイン担当の加藤貴司さん、ユニファ会員でブローニュ株式会社 社長の川村岳彦さんも参加していました。

地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの加藤貴司さん
特定非営利活動法人ユニバーサルファッション協会/ブローニュ株式会社の川村岳彦さん

「はじめは単純に『斜めだとデザインとしておもしろいよね』という意見からスタートしたんです。それで包帯をイメージして体に巻きつくデザインのカットソーを作ったんですけど、縫い目が肌に当たって違和感がある仕上がりになってしまって。これじゃユニバーサルデザインとは言えないし改善が必要だねとなり再検討しました」(加藤さん)

「そこで、縫い目の当たりが出ない衣料品をもう一度作り直そうということで行き着いたのが、無縫製でニットが編めるホールガーメントという製法でした。僕はもともとニットの会社に勤めてその後独立したので、ホールガーメントの知識も多少は持ち合わせていて。そこは『スパイラルミグ』のものづくりに、少しは役立ったのではと思っています」(川村さん)

 ホールガーメントとは、縫い目のない一体成形で編まれたニット製品やその編み立て技術のことを言います。通常のニットは、前身頃・後ろ身頃・袖などのパーツを別々に編んでから縫い合わせて作られますが、ホールガーメントは最初から丸ごと1着を立体的に編み上げることができます。

数あるホールガーメントが編める工場の中で、川村さんが声をかけたのが前述のアイソトープ。“斜行”という一般常識を覆すアイデアに付き合ってくれる会社は、他にはいないと見込んでのことでした。

縫い目がなくほぼ完成形で出てくる、ホールガーメント

「これまでやっていないことをするので、トライアンドエラーは必ず出ます。アイソトープさんは独自の和紙の糸を開発したり、オリジナル製品を作ったりと常にチャレンジを続けている会社です。新しいものづくりにも根気よく熱心に付き合ってくれると思い、依頼しました」(川村さん)

「お客さんから『作りたい』と言われると、『なんとか作ろう』としてしまいますね。“編めるものは編む”というのが創業者のモットーでもありますので。こちらが諦めてしまうとお客さんも困るじゃないですか。受けた以上は最後までやる。これがその後何かに繋がっていくと思いますし、自分たちの技術も高まるところでもあるので。皆さんと一緒にずっと成長している感じです」(浅田さん)

「スパイラルミグ」の構想から完成まで、約10年。皆が諦めずタッグを組んで乗り越えてきたことで、長く暗い道のりに明るい光が差し込みました。

“斜め”の発想が導いた、ユニバーサルな価値

無縫製ニットのインナー「スパイラルミグ」の最大の特徴は、“斜行”という手法。デザイン性だけでなく、やさしいフィット感を実現した点にあります。

縫い目がないホールガーメントで編み上げている

「布の繊維を斜め45度でカットすると生地が伸びやすくなるんですけど、ニットはさらに伸縮性が高いので、“斜行”で編んだ『スパイラルミグ』は本当によく伸びるんです。女性のSSからLLサイズ、男性のMサイズまで対応できるので、この一枚があれば幅広い人に着ていただけるようになっています」(川村さん)

縫い目がないうえに前後も自由なので、サイズ選びや着る時に迷うことがなく「プレゼントにも向いている」のだとか。

想像以上にやわらかく、気持ちがいいほどよく伸びる

「よく伸びるので、首元を大きく伸ばして下から履くように着てもらうこともできるんですよ。体が不自由な方や腕が上がらない方は袖ぐりが引っかかって洋服を着るのが大変なんですけど、そのような方にも健常者にも“あらゆる人が無理なく自然に着られる”着やすさが大きな特徴です」(加藤さん)

さらりとした優しい肌ざわりで通年着用が可能な「スパイラルミグ」には、さらなる工夫があります。それは“撚り”の違う糸を、部分的に使い分けている点。“撚り”は糸や繊維をねじり合わせることで強度を高めたり、風合いを調整したりする工程のこと。時計回りにひねる“S撚り”、反時計回りにひねる“Z撚り”という2種類があり、どちらかの糸で統一して編むのが通常です。

「“Z撚り”の糸を使って“斜行”で編んだら、着用試験後に『なんかちょっと着づらくない?』となって。よく見ると、片方の腕の肘部分が反対方向へ変に曲がっていたんです。そこを改善するために右袖部分だけ“S撚り”の糸を使って、腕の形がバランスよくなるよう設計しました」(加藤さん)

右腕だけ糸の撚りを変えることで、違和感のない自然な着心地を実現した

「普通は編み地の中で部分的に撚りを変えるなんて、あまりしません。撚りの糸を組み合わせてまで着やすさにこだわったのは、かなりオリジナリティがある部分かなと思います」(川村さん)

ホールガーメント編み機。専用ソフトと編み機を使って縫い目や継ぎ目のない状態で完成させることができる。肌あたりがとてもやさしく、糸や生地の廃棄ロス、縫い合わせる手間のカットができ、注目が高まっている

ニット産地・泉州の底力が現れた、技術と職人の協働

大阪府南部に広がる泉州地域は、日本三大綿織物産地のひとつ。古くは和泉木綿をきっかけに綿織物産業が発展し、タオルや毛布などさまざまな繊維製品を生み出してきました。なかでも特徴的なのは、“織物”と“編み物”の両方が発展を遂げた珍しい産地だということです。

この繊維の産地・泉大津に拠点を置くアイソトープは、糸の企画から製品製造、物流まで一貫して行うトータルニットメーカー。年間およそ800型のオリジナルアイテムを国内で企画・生産し、約50台の編み機を備えている会社は泉州でもそれほど多くありません。

泉大津市にある、アイソトープの工場
ホールガーメントは専用のソフトで設計図を作るところからスタート。同じ図柄でもこの組み方で、編み上がるスピードや傷の出現など仕上がりに違いが出る
糸のセットや機械の調子の確認、メンテナンスまですべて行う

今回の開発においても、アイソトープの技術力と地域の連携が大きな役割を果たしています。


たとえば、今回は綿100%の強撚糸を使っているため、そのままではどうしても“ごわつき”が出てしまいます。そこで浅田さんが編み立て後の縮絨(しゅくじゅう/織物や編み物をお湯・摩擦などで縮ませて目を詰める加工)で風合いを調整する方法を提案。編み立てはアイソトープ、縮絨は近隣の外注職人が担当するチーム体制で、求める風合いを実現しました。


縮絨は単なる洗い作業ではなく、洗い加減や溶剤を細かく調整しながら何度もテストを重ねて理想の状態へ仕上げます。これは日頃から産地内で多様なオーダーに応えてきた経験があるからこそ可能な技術です。


「“少しふわっと”、“シャリ感を残して”と伝えるだけで、その通りに仕上げてくださいます。実際に都産技研の方で風合いの測定試験をおこなってみたところ、ざらつきが減っているデータが出ましたし、電子顕微鏡で拡大すると繊維もふわっとほどけていました」(加藤さん)

ニットは機械調整や糸のゲージ、目の詰め方や洗いの方法がわずかに変わるだけでサイズが変わる繊細なものです。

「糸は“生き物”なので、同じ糸で仕上げてもサンプルのサイズがばらつくことがあるんです」(浅田さん)

失敗したもの、作り直したいものは、糸をほどいて再度編み立てる

「それでもほぼ同じ仕上がりにできるのが、アイソトープさんのすごいところ。同じ機械を持っていても、この精度はなかなか出せません。編み立てから仕上げまで全工程を熟知している、産地ならではの技ですね」(加藤さん)

針の洗浄クリーナー。針に溜まる埃やゴミの掃除を手作業ですると半日かかるところが、数分で完了することができる。この機械を備えているところは少なく、近隣の会社から洗浄を依頼されることも多々ある

一方で泉州のニット産業は、人材不足や後継者問題を抱えています。 

「若い人が製造現場に来ないですし、後継者がいなくて廃業する工場も多い。全国の産地が同じ悩みに直面しています」(川村さん)

「機械化である程度は補えますが、縮絨や仕上げの技術は人の手と経験に頼る部分が大きい。ここが途切れてしまうと、品質維持が難しくなってしまいます。今後どう次世代につないでいくかが、私たちの大きな課題です」(浅田さん)

未来をつなぐ、新しい挑戦と可能性

「今回のプロジェクトのチームメンバー、よく考えたら面白い組み合わせですよね。だって、普通のデザイナーと工場の組み合わせじゃなくて、競合の可能性もあるわけですから」(川村さん)

その言葉どおり、アイソトープと川村さんの会社・ブローニュは、ニットの企画から生産・販売まで行う同業者。そこに、加藤さんが所属する都産技研が地域の枠を超えて参加。さらにコアメンバーの他にも、東京、大阪の多くの人たちの協力がありました。

アイソトープのショールーム

「何度も東京から大阪へ来ていただいて、現場を見ながら本当にたくさんの試作と修正を繰り返しましたね」(浅田さん)

「10年単位のプロジェクトは、民間企業だけではなかなか難しいこと。皆さんと同じ目線で製品開発に深く関わり産地の技術にスポットを当てて、産地をもう一度活性化させて人を呼び込むきっかけをつくりたいという思いもあって向き合い続けられました」(加藤さん)

このロングスパンの開発に関わったメンバーの中には、残念ながら完成を待たずに亡くなった方もいらっしゃるとのこと。

「今回の受賞を墓前に報告しに行きたい」と話す姿から、プロジェクトに込めた思いの深さを感じました。

「NGとされていたものを“むしろ面白い”と捉えて新しい価値にしていく。そこにデザインの可能性があると思っています」(加藤さん)

 「ここで終わりではなく、着やすさや機能性を高めながらさらに発展させていきたい。まだまだ伸びしろがあります」(川村さん)

今後は色や形のバリエーション展開、他のアイテムへの応用も視野に入れているとのこと。

「スパイラルミグ」の静かな挑戦は、単なるニットを超えて、産地の技術と人を未来へつなぐ大きな一歩となり、未来へ向けて動き始めています。

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文:安倍真弓
写真:黒田タカシ

 【地産地匠アワード】眠っていた糸や生地に息吹を与えて、紡いで。使い続けたくなる、カラフルな「三河軍手」

土地の風土や素材、産地や業界の課題に、真摯に向き合って生まれたプロダクト。

そこには、日本のものづくりの歴史を未来につなぐそれぞれの物語がつまっています。

地産地匠アワード」は、地域に根ざすメーカーとデザイナーとともに、新たな「暮らしの道具」の可能性を考える試みです。

2025年の受賞プロダクトの中から、愛知県西尾市でうまれた「三河軍手」を取り上げます。それぞれの背景にある物語をぜひお楽しみください。

地元の糸と技とデザインで、軍手に新たな価値を吹き込む

「もう一度リベンジしたいと思ったんです」

そう笑いながら話すのは、愛知県西尾市にある石川メリヤスの大宮裕美さん。祖父の代から軍手の製造を営んできた会社で代表を務めています。

大宮さんは、軍手の国内での生産が衰退している現状に悔しさと危機感を抱いていました。

石川メリヤスの社長・大宮裕美さん。三代目として石川メリヤスを受け継ぎ、常時100種以上の軍手、靴下などのニット小物を生産している

そこで新たな顧客層を開拓しようと、軍手にブランドネームタグをつけて個包装にしたギフト商品を展開しましたが、思うような成果は得られず。商品づくりを見つめ直すきっかけにはなりましたが、現状を打破できなかった結果に、もやもやした気持ちが残ったといいます。

転機となったのは、地元の繊維商社から「カラーネップ糸」という色とりどりのデッドストック糸を紹介されたことでした。その糸を見て「軍手に使えば面白いものができる」と直感。軽やかで温かみのある風合いとカラフルな見た目から、大人も子どもも手に取りたくなる新しい軍手のイメージが浮かびました。

カラフルな繊維の粒(ネップ)が入った、「三河軍手」の原料となる特紡糸。ネップが入ることで表情や温かみが加わり、独特な風合いが生まれる

ちょうど地産地匠アワードの募集があり「カラーネップ入りの軍手を作ってリベンジしたい」と考えた大宮さん。しかしデザイナーとの協業方法が分からず諦めかけた時、奇遇にも地元のファッションデザイナー・久保田千絵さんと再会します。


同じ中学校の出身というご縁もあり、以前から面識のあった二人。久保田さんは昨年秋に、自身で展開していたブランド「Rosey Aphrodina (ロジィ アプロディーナ)」でパリファッションウィーク中に開催されたファッションショーへ出展 。帰国後に心境の変化があり「今後は地元の企業をデザインの力で応援して、ものづくりを盛り上げていきたい」と考えていたタイミングでした。

デザイナーの久保田千絵さん。ウェディングドレスや七五三など「ハレの日」の衣裳を主軸に、自身のブランド 「Rosey Aphrodina」を展開している

「パリでのファッションショーという自分史上一番大きな挑戦を終えて、応援してくださったお礼と報告、今後の動きを伝えるために裕美さんを訪ねたんです。そこで地産地匠アワードの話を聞いた時、私が考えていたことと重なっていたので、すぐに『一緒にやってみましょう!』と盛りあがりました」と久保田さんは振り返ります。

早速カラーネップ糸を見せてもらった久保田さんは「この糸の色味や質感は、軍手でこそ映える」と確信。

「糸の魅力と石川メリヤスさんのものづくりの力が、軍手ならきちんと伝わる」と、あえて軍手にこだわりました。

技術とデザインが重なり合い、新しい挑戦がスタート。家族や市のサポートも受けながら、製品はもちろん、アワードのプレゼン資料やロゴデザインを形にしていきました。

全7色の「三河軍手」。使うシーンを思い浮かべながら選ぶのも、楽しみになるカラーバリエーション

こうして生まれたのが、今回優秀賞を受賞した「三河軍手」。カラーネップ入りの特紡糸を活かした、カラフルで軽く、やわらかな肌ざわりが特徴です。手にフィットしてはめるのが嬉しくなるような、地域の技術と思いが詰まった、新しい“あたたかさのかたち”が完成しました。

三河地方で育まれてきた、繊維リサイクルの精神

愛知県東部に位置する三河地方は、かつて日本の繊維産業を支えてきた重要な地域のひとつでした。温暖で日照にも恵まれたこの土地に8世紀末ごろ漂着した崑崙人(こんろんじん/インド人と言われる)が綿の種を持ち込み、日本における綿花栽培がはじまったとされています。特に西尾市の天竹神社周辺はその舞台と伝えられ、「三河木綿」に代表される紡績と織物文化が花開いていきました。

愛知県西尾市にある天竹(てんじく)神社。日本で唯一、綿の神様をお祀りしている
神事に使われる「和綿」。一般的に栽培されている「洋綿」と、葉の形や綿の実の付き方など違いがある
綿を使う全国の会社からも大切にされていて、大宮さんも今回のアワード祈願とお礼でお参りしたそう。久保田さんが主催したイベントでは、ここで育てられた綿を使って糸紡ぎのワークショップが行われた

戦後のガチャマン景気(「織機をガチャンと織れば、万の金が儲かる」という意味)と呼ばれる繊維産業の好況を経て、昭和の高度経済成長期、特に昭和50年ごろには「特紡(特殊紡績)」が盛んになりました。

これは繊維産業の製造工程で出てくる落ちワタや裁断くずのほか、使い古された衣類の繊維を「反毛(はんもう)」という工程によってワタの状態に戻し、再び糸に紡ぐもの。時代の流れとともに綿だけでなく化学繊維も含むようになった「特紡糸」を使って軍手などを作り、三河地方は日本でも有数の繊維リサイクルの中心地となりました。

「この地域ではリサイクルやSDGsが注目されるずっと以前から、捨てるはずのものまで有効活用して無駄を出さない知恵が根付いていたんですよね。資材を繰り返し大切に使い、さらにできあがった製品も長く使えますから」(大宮さん)

「昔から三河の人たちは“もったいない”を自然に実践していたんだと思います」(久保田さん)

石川メリヤス工場周辺。山も海も近く、豊かな自然に囲まれた温暖なこの地域で三河木綿が育まれ、繊維産業が発展した

ところが繊維業の主流が海外生産へと変わってきたことから特紡糸の原料が集まりにくくなり、現在は反毛業者や紡績工場などが年々減少しています。

「昔は岡崎市(※西尾市と隣接)の労働人口の7割が繊維関係だったのに、今では1割もいないかもしれないと聞きました。一般的な軍手にもっとリサイクル原料を使いたくても、糸にできる環境がどんどんなくなってきているんです」 そう言って繊維業界の現状に肩を落とす大宮さん。

この地の人間の知恵と技術で紡がれ続けてきた、特紡糸での「三河軍手」作りに、新たな価値と希望を見出しました。

使い捨てられない、ぬくもりを宿した軍手

「三河軍手」の主役となる特紡糸はリサイクル繊維を独特の風合いに仕上げるため、ひとつとして同じ表情のものはない個性を持っています。

「編みムラや色の混ざり方が異なるのも、この手袋ならではの“味”になります。同じ色でもネップの入り方で印象が大きく変わりますし、クラフト感と温かみのある風合いもそれぞれの表情を生み出していると思います。

カラーバリエーションも7色ご用意したので、選ぶ楽しみが増える。デッドストック糸を使っているので、糸がなくなればその色は生産終了です。自然に限定色となり、次の色に目を向けていただくことになる。そしてまた新たに気に入ってくださる方の元へ届く。その一期一会も、この手袋の魅力だと思っています」(久保田さん)

糸見本からも、そのふっくら感がわかる特紡糸

「三河軍手」の編み立てには、構造が50年前からほとんど変わらない、昔ながらの軍手用の機械が使われています。最新の機械では扱いにくいムラのある糸も、古い機械であれば調整を加えることでうまく編み上げることができるのだとか。

「特紡糸はさまざまな繊維が混ざって繊維の方向もバラバラなので、空気を含んでふっくらやわらかく仕上がります。軍手にすると厚みと軽さで手をやさしく包み、安全性も備わるんですよ」(大宮さん)

石川メリヤスの工場内。140台ほどの編み機が賑やかに稼働して、自動で製品を作る光景は壮観
上部のキャリッジが高速で左右に動き、ニットが編まれていく
編み機の針。1本1本規則的に動く。糸の特性によってはこの針が折れることも。機械と糸の特性を熟知して細かく調整するのは、職人技ともいえる知識や経験が必要とされる

「『手ざわり』と言うように、手にはめれば、特紡糸の魅力である柔らかさや軽さが一番よく伝わります。だからこそ、この糸を活かすには手袋や軍手が最適だと思うんです。シンプルで無駄がなく、それでいてふわふわ。いろんな作業に適しています」(久保田さん)

指先から編み始める軍手。目の数や段数の数値を変えることで、長さや幅が自由に調整可能
手袋の形まで編みあがると、自動販売機のようにスルンと機械下部から出てくる

構造自体は一般的な軍手と同じですが、糸が変わるだけで、“何かが違う”と感じられる存在感がにじんできます。サイズはS・M・Lの3種類。手首部分にサイズによって異なるバイカラーのステッチをあえて目立つ色で施す遊び心のある工夫で、見た目の楽しさと実用性が両立しています。

機械で編み上げた後は、手作業で縫製。手首部分は輪ゴムを入れてロックミシンで縫い付け、仕上げていく

「従来の軍手にも手首のステッチで色分けしているものはありますが、今回はデザインとして昇華されていて嬉しいですね。私たちだけでは、この完成形にはならなかった。久保田さんがここまで軍手の価値を引き上げてくださいました。デザインの力ってすごいなと改めて感じています」(大宮さん)

「この商品では実用性のある軍手らしさを活かしながらも、作業用という枠を超えていきたいと考えていました。通勤や自転車、防寒やDIY、ちょっとした外出やギフトにも使える存在にしたかったんです。

あくまで軍手だけど、デザインの力でスポットを当てて新しい価値に気づいてもらえたらと。リサイクルやSDGsにももちろん意義はあるけど、“素敵だから選ばれる”ことが大前提だと思うので。ただのエコではなく、気づいたら環境にもやさしかった。そんなあり方が理想です」(久保田さん)

編み傷や目の飛びがあれば、手作業で丁寧に修理。とても細かく技のいる作業。どうしても直らない場合は、自社のマルシェでB品として特別価格販売を行う

「弊社は、初代である祖父のころから品質を大事にして『使う人のためのものづくり』をモットーとしています。

繊維商品では、売り物にしていいかどうかのジャッジは最終的に“自分が使いたいかどうか”、“買った人がどう思うか”になるんですよね。反毛屋さんや紡績屋さんをはじめ、最後に検品や出荷する人まで、同じ感覚でものづくりができるのは大切なことなのかなと思っています」(大宮さん)

作り手の思いと工夫が詰まったこの「三河軍手」は、作業にも、日常にも、プレゼントにもなじむ新しい軍手。単なる日用品ではなく、愛着を持って長く付き合いたくなるような “使い捨てられないアイテム”へと進化しています。

価値あるブランドとして、「Bマーク」から広がる未来

東京の大学を卒業後、そのまま一度は東京で商社に勤めていた大宮さん。

高校卒業と同時にファッションを学ぶために上京し、自身のファッションブランドを立ち上げて活動している久保田さん。

二人とも西尾市から外へ一度出たことで、かつて繊維産業で栄えた地元の誇らしいところが見え、産業の状況や大切なものをより感じることができたのかもしれません。

地元である三河地域の歴史や現状について、熱く語る二人

「地場産業を存続させることは、常に大事だと思っています。糸を作っている人や反毛屋さんの仕事をもっと知ってほしいし、岡崎や西三河、西尾が繊維産業から始まったことも広く伝えたいです」(久保田さん)

この思いを、久保田さんはデザインでも表現しました。それはロゴに小さく加えられた、オリジナルの「Bマーク(Ⓡ同様、○の中にBの文字)」という印です。

「Aランクから外れた糸はB格と呼ばれて格下扱いされますが、実は風合いがとてもよい糸なんです。だからロゴへ『Bマーク』を入れて、価値のあるものだという認定印のようにしてみてはどうかなと考えました。 これに関わり働く人へのリスペクトや、働く人自身の誇りにもつながる。お客さまもマークがついている商品を選べば、リサイクルに貢献できた小さな喜びを感じられる。捨てられるかもしれなかった糸が使われていることも伝わりやすいのかなと」(久保田さん)

商標登録を表す「Ⓡ」マークのように、B格の糸を使いながらも価値あるものへと昇華させた商品に付けることを考えて、ロゴに加えた、「Bマーク」。オリジナルで久保田さんが提案する

「残糸や売れ残りもこの『Bマーク』をつければ、価値を見出した商品として届けられるのでは」と大宮さんもうなずきます。 今後は軍手に限らず靴下や帽子など、「Bマーク」ブランドのラインアップ拡大も視野に入れています。

石川メリヤスのオリジナル商品。手袋だけでなく靴下や小物も編むことができるため、「Bマーク」を付けた商品の今後の展開にも期待が高まる

危機を迎えている産業に新たな息吹をもたらし、再起の道を開いて次代へつなぐ。その強い意志とひと針ごとに込められた温もりが、人と町、そして未来を再び結び直し、新たな物語を紡ぎはじめています。

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文:安倍真弓
写真:黒田タカシ

120年変わらない「渦巻」に込められた技と想い……金鳥が大切にする「日本のものづくり」

年々長くなっている、日本の夏。

はやばやと6月には猛暑日が訪れて、9月や10月に入っても蒸し暑い日が続いていく。

だんだんと暑い時期が長くなるにつれて、昔から夏に活躍してきたさまざまな暮らしの道具の存在感が高まっているように感じます。

たとえば、澄んだ音色で風の訪れを知らせる風鈴。見た目にも涼やかなガラスのうつわ。通気性や吸水性にすぐれた天然素材の敷物や衣類などの、涼をとるための道具たち。

そして、長らく日本の夏の風物詩として親しまれ、頼りにされてきた、蚊取り線香「金鳥の渦巻」もそんな道具のひとつです。

実は、蚊取り線香は日本で誕生し、日本で大きく発展した商品。製造元である金鳥(大日本除虫菊株式会社)は今も国内の自社工場で、徹底した品質管理のもと「金鳥の渦巻(防除用医薬部外品)」を作り続けています。

同じように「日本のものづくり」をつなぐ企業として、中川政七商店は金鳥に深く共鳴し、2018年からはご縁があって毎年コラボレーションを実施してきました。

2018年に初めてコラボレーションした際に作った金鳥柄のふきん

今回は、金鳥が大切にしているものづくりや中川政七商店とのコラボレーションについて改めてお話を伺うべく、大日本除虫菊株式会社 商品企画担当の中野千恵さん、広報担当の加原朋子さんを訪ねました。

左から、大日本除虫菊株式会社 中野千恵さん/加原朋子さん

100年以上続く金鳥のシンボル「ニワトリ」マークと工芸の出会い

「私たちにとってこの“ニワトリ”の意匠はとても大切なものなので、そのデザインを色々なアイテムに落とし込むということは、過去にはほとんどやってきませんでした。

それがここまで長く続くというのは、当初は想像していなかったですね」

2018年の第一弾以来、中川政七商店とのコラボレーションを担当されている中野さんはそんな風に振り返ります。

コラボがスタートしたばかりの頃は、社内承認を得るのにドキドキしていたと話す中野さん

ひと目見れば誰しもが「金鳥の蚊取り線香!」と思い浮かべるほど、そのイメージが浸透しているニワトリのマーク。

1910年に商標登録されて以降、細かい表現の修正はありつつも、ニワトリ自体を変えることはなく100年以上使用され続けてきた、まさに金鳥のブランディングの根幹とも言えるものです。本来の商品以外での利用に慎重だったという話も頷けます。

それが、気づけば今年でコラボレーションも8年目。作ってきたアイテムは30種類を優に超える人気シリーズになりました。

歴代のコラボ商品の一部

「弊社のマークやデザインを、本当に細かい部分まで丁寧に再現していただいていますし、新たなモチーフを検討する際も、金鳥の歴史や過去の資料を深く読み込んでいただいて、社員よりも詳しいのでは?と思うくらいです(笑)。

データが存在しない過去のパッケージなどは、現物や写真を見ながら新たに描き起こしてもらうこともありました。そしてそれがさまざまな工芸の品に落とし込まれていて、もはやアートの域に入っているというか。御社だからこそなのかなと感じています」(中野さん)

長い歴史の中でさまざまな広告にも使われてきた「ニワトリ」マーク

金鳥のマークやパッケージデザインに敬意を持ちながら、単なるグッズではなくしっかりと工芸のものづくりの面白さも感じられるように。その都度デザインや技法を検討し、丁寧にコラボ商品を作ってきたことで、金鳥社内での評価も固まっていったのだそう。

大きなチャレンジとなった、有田焼でつくる「金鳥の渦巻蓋物」(左)、右が本家本元の「金鳥の渦巻 ミニサイズ(缶)」
蚊取り線香も焼き物で表現。取り組み自体はユニークだが、使用した工芸の技術や素材は本気そのもの

「気づけば社内でも当たり前のものとして毎年楽しみにされていて、社用のギフトや個人用に買っている人も多いですね。自分たちの会社のロゴやデザインのものが普段とは違うお店で売られているというのは、誇らしくもあり、とても嬉しいことだと感じています」(加原さん)

天然成分にこだわり続ける、金鳥のものづくり

金鳥の正式な会社名である大日本除虫菊株式会社。ここにある“除虫菊”とは、殺虫剤の原料として世界各地で栽培されているキク科の植物のこと。

金鳥の創業者である上山英一郎氏が縁あってアメリカの植物会社の人物から種子を譲り受け、日本国内での生産がスタート。そしてその除虫菊を原料として、世界初の蚊取り線香を開発しました。今でも、金鳥の渦巻には除虫菊が用いられ続けています。

「通常の『金鳥の渦巻』にももちろん使用していますし、さらに殺虫成分として100%天然除虫菊にこだわった『天然除虫菊 金鳥の渦巻』という商品も展開しています。

蚊取り線香を発明した会社として、天然成分だけを使っても、蚊に対してきちんとした殺虫効力があるものを作ることができる、という自負もありますね」と、加原さん。

もともと研究所に所属しており、蚊のことや線香の成分についても非常に詳しい加原さん

普段、当たり前のものとして接している渦巻型の蚊取り線香ですが、実はその成形には職人による高度な技術を要するのだそう。確かに言われてみると、絶妙な硬さ、細さで綺麗にくるくると渦巻状になっていて、効き目が長持ちする。無駄のない機能美を感じます。

さまざまなバリエーションがある「金鳥の渦巻」。寝ている間も効果が持続するように、長持ちする形状として渦巻が発明された

「粉状にした除虫菊を、タブノキから取れる糊成分などと混ぜ合わせて固めていくのですが、すべて天然成分なので、毎回状態が微妙に違ってきます。それを、担当者の手の感覚でこねる時間や塩梅を調整して、安定した品質に仕上げているんです。まさに職人技だなと。

渦巻状の蚊取り線香になって120年以上経ちますが、基本的な作り方、形状はずっと変わっていません。最初にどうやって思いついたのかと不思議なくらいです」(加原さん)

調整に失敗すると燃え方に影響が出たり、成分の出方が変わったりしてしまうとのこと。防除用医薬部外品として、一定の成分がしっかり出ることを担保する必要があるため、非常にシビアな調整をおこなっているそうです。

また、金鳥が天然の成分にこだわる背景には、殺虫剤を販売するメーカーではあるものの「むやみやたらに使うのはよろしくない」という考えがあるのだとか。

「必要な時に必要なだけ効くように。虫を全滅させるのではなく、生活空間から除ける、というスタンスで商品を作っています。その方が私たち自身や環境にも安心ですし、ひいては殺虫剤への抵抗性を発達させないことにもつながると考えています」

除虫菊を大切にする意味を込めて、パッケージをリニューアル

自然(虫)に対抗するには自然の力を使おうと、天然成分にこだわっている金鳥。改めて除虫菊をもっと大切にしていく姿勢を打ち出す意味もあり、「天然除虫菊 金鳥の渦巻」のパッケージリニューアルを敢行。そのデザイン監修を担当したのは、なんと中川政七商店でした。

右がリニューアルした「天然除虫菊 金鳥の渦巻」のパッケージ。四隅には、除虫菊をはじめとして、配合されている天然原料のイラストが添えられている。左は、この商品のイメージに合うように菊柄をあしらったコラボアイテムのひとつ「瀬戸焼の線香皿」

「パッケージをどうしようかという話の中で、『中川さんにやってもらうのはどうや?』という声が自然にあがってきたんです。

そもそも、パッケージのデザインというものを受けてもらえるのだろうか?と半信半疑のままお願いしてみたところ、快く引き受けていただけました」(中野さん)

デザイン事務所ではないところにパッケージを依頼するのは初めてとのこと

「『レギュラーの蚊取り線香のパッケージをベースにしましょう』という提案をいただいて、除虫菊やタブノキのイラストも描き起こしてもらって。

コンセプトも伝わるし、100年前からあったような、金鳥らしい自然なデザインに仕上げていただけたと思っています」(中野さん)

「日本のものづくりをつなぐ」企業同士として始まった両社のコラボレーション。取り組みを重ねる内に、思っていたよりも深く共通する部分があり、当初は想像していなかったチャレンジもできる関係となりました。

「今回イラストにも起こしていただいた『タブノキ』という糊の原料も、だんだんと需要が少なくなってきているので、弊社が使い続けることで残っていって欲しいと思っています。

タブノキは、八丈島に伝わる絹織物『黄八丈』の樺色の染料にもなる素材でもあって。そういったものを守る助けにもなれば、御社が取り組む工芸との共通点もより深くなるのではと、そんなことも考えていますね」(加原さん)

「個人的には、最近のコラボのデザインに関して、中川さん独自の解釈を入れていただいている割合が増えてきていると思っています。

除虫菊に合わせて菊染めのてぬぐいを作ってくださったり、原料の絵をオリジナルで起こしていただいたり。そういったことがコラボの醍醐味かなとも思っているので、今後もそういったご提案を楽しみにしています。

結果として、工芸についてももっと若い人たちが興味を持つような、そんな入口になっていけると嬉しいですね」(中野さん)

来年は9年目、そしてその翌年にはいよいよ節目の10年目を迎える金鳥と中川政七商店のコラボレーション。120年変わらぬ渦巻と、次はどんな工芸が出会うのか。これからも両社の取り組みにぜひご期待ください。

<関連商品>
金鳥の夏日本の夏 天然除虫菊 金鳥の渦巻レギュラーサイズ10巻と瀬戸焼の線香皿セット

文:白石雄太
写真:直江泰司

それぞれの関わり方で、しなやかに藍染めをつなぐ。藍産地 徳島のいとなみ【すすむ つなぐ ものづくり展】

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、その可能性を探るため、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「藍」のものづくり。

植物を発酵させることでできる、生きた染料の藍。

日本には江戸時代に広まり庶民の暮らしに根付いて以降、めぐる季節と共に、そして人々のいとなみと共に藍のものづくりはありました。

土からはじまり、また土に戻る。

素朴な自然から生まれた色だからこそ、私たちは心惹かれるのかもしれません。

かつて「ジャパンブルー」と称されたほど各地で親しまれていた藍染めですが、今では暮らしの変化とともに伝統的な植物染料での染めは減りゆき、化学染料を用いた染めが主流となりました。

そんななかでも、過去から続く藍染めの技や産地の景色を未来へつなぐ作り手たちがいます。

挑戦を重ねて”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ藍を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。

“生き物”である藍と、人の支援とのつながり

今回訪れたのは、藍染めの染料である「スクモ」の産地として名高い徳島県。高品質な徳島産のスクモは「阿波藍(あわあい)」として全国に知られ、江戸時代以降、日本の藍染め文化を支えてきました。

徳島を東西に流れる吉野川。かつて、吉野川の氾濫が藍の栽培に適した土壌を生み出し、藍の産地として発展した

徳島では今なお、伝統を受け継ぐ藍師(スクモ作りをおこなう職人)や染師、新進気鋭の作り手、地元企業など、様々な人たちが藍に関わり、ものづくりを続けています。

そんな中、障がいのある方たちの「働きたい」という想いを支えながら、徳島ならではの藍を用いたものづくりに取り組んでいるのが、県内の就労支援施設などでつくる特定非営利活動法人「とくしま障がい者就労支援協議会」。

就労支援施設は、障がいのある方が支援を受けながら働く場所で、就労に必要な知識や技能向上のための訓練もおこなわれます。一般的な軽作業などに加えて、同協議会が力を入れているのが藍にまつわる業務や商品の製造です。藍染めや藍染め商品の製造をおこなういくつかの施設に話を聞きました。

指定障がい福祉サービス事業所「ひまわり園」。

「ここは、今は藍染めがメインの施設です。昔は委託の軽作業がほとんどでしたが、協議会が運営する研修会に参加したり、以前の職員から教わったり、文献を参考にしたりして、藍染めについて学びながらスタートしました」

そう話すのは、就労支援協議会に加盟する「ひまわり園」の園長 森洋志さん。委託される作業にはどうしても波があり、安定して施設の利用者の方に仕事をお願いできるように、藍染めによる自主商品の割合を増やしていったとのこと。

「ひまわり園」森洋志さん。「とにかくものづくりが大好き」と言い、その情熱を持って藍染めの商品作りをスタートした

協議会では徳島県からの事業委託を受け、こうした施設に藍染めの技術を学ぶ機会を提供したり、共同受注窓口として藍関連の仕事を受注したりといった活動をしています。

職業指導員の港祐樹さん。「利用者の方と一緒にものづくりができることは楽しい」と話す
藍甕に灰汁を足して染料のph値を調整する。藍の状態が悪く、思うように染められないときは、文献などにあたりながら試行錯誤し、何度も調整を繰り返す
県内の藍師から購入している「スクモ」。藍の葉を発酵させて作られる。近年は需要に対してスクモの生産量が追い付いておらず、藍染めにおける大きな課題のひとつになっている
スクモが納品される袋

「阿波藍というと、濃いブルーをイメージされる方が多いんですが、うちではそこにこだわらず、多様な色味を表現していきたいと考えています。色んな青が出せるんだよって言いたいんです。

藍は生き物だと言われますが、発酵して日々状態が変化する藍と向き合っていると、人の支援にもつながる部分があると感じます。さまざまな色、それぞれの良さを出していくということなのかなと」(森さん)

染めの作業を担当している利用者さん
それぞれの得意なことを活かしてものづくりを進めている
藍染めで表現できるさまざまな”青”

ひまわり園では、分業でおこなわれる藍染めを、個々の利用者さんの個性を活かしながら施設内で完結させられるようにと考えています。比較的、一人で集中して何かに取り組むことが得意な利用者さんが多く、染めの技術も習熟してきているとのことでした。

「青色って、副交感神経に作用してリラックスする色とも言われていて、それも皆が落ち着いて作業できている要因なのかなって思うこともあります。ここは海も近いし、空も、藍染めもあって、青色に囲まれている施設。やっぱり、心が落ち着きますね」(森さん)

福祉の枠を超えて、ブランド力をつける

同じく、協議会に加盟している「グッドジョブセンター(GJC)かのん」の髙橋早苗さんは、自分たちがやっていること、得意なことを発信するように心がけていると話します。

「グッドジョブセンター (GJC)かのん」髙橋早苗さん
「グッドジョブセンター(GJC)かのん」の染め場

同施設は、20年以上前から藍染めの仕事をおこなっている、県内の藍染めをおこなう施設の中では最古参のひとつ。

初期の頃は県内企業からの受託で染めの作業をおこなっており、そこから段々と自社商品を作ろうという機運が高まって、最近では利用者さんの絵を用いたオリジナル商品なども作成しています。

「うちにしかできないものづくりというか。そういったものを発信していって、それを見て『ぜひ作って欲しい』とリクエストをもらえれば対応して。小さい規模の中でうまく続けていければいいなと思っています」(髙橋さん)

利用者の方が描いたイラストから生まれた藍染めのハンカチ
藍染めの生地から部分的に色を落とす「抜染(ばっせん)」という技法で作られています
「グッドジョブセンター(GJC)かのん」の藍甕。こちらも、県内の藍師さんからスクモを購入している
イラストを描いてくれた利用者さん。とにかく猫が大好きで、猫を中心に自分が好きなものを描いているのだとか

「作品を発信して、人気が出て、作家として利用者さんが東京や色々な場所に呼ばれるようになって欲しい。そうすればインプットも増えて、またクリエイティブがどんどん広がっていく。そんな野望を抱いているんです」

と、髙橋さん。障がいの有無は関係なく、その人だからできるデザイン、表現に価値がある。その可能性が藍染めとともに広がる未来を創造するとわくわくしてきます。

協議会 事務局担当として各施設と連携する瀬部さんも、

「福祉の商品という枠を超えて、ブランド化していきたい」

と話します。

「とくしま障がい者就労支援協議会」 瀬部礼子さん

協議会ではそのために、販売会の企画や販売サイトの整備をおこなったり、商品の開発力やクオリティを上げていけるように専門家の指導を仰いだりと、さまざまな取り組みをおこなっているとのこと。

徳島の文化である藍の振興と絡めながら、各施設と協力し、利用者の方々の「働きたい」想いを支え、かつ工賃を向上させることを目指しています。

こちらも、藍染めの商品作りをおこなっている施設のひとつ「ゆいたび」
「ゆいたび」管理者の榎本真大さん。藍染めならではの、価値を感じて選んでもらえる商品作りが大切と話す
ミシンを使った作業ができることが「ゆいたび」の強みのひとつ

一から藍を育て、染めて、販売する。オンリーワンの教育

もうひとつ、藍をつなぐ人々の営みとして紹介したいのが、徳島県立城西高等学校の取り組み。

同校には藍の産地ならではの「阿波藍専攻(植物活用科)」が存在し、藍の栽培から染料(すくも)づくり、染色、そして完成品の販売までを実践しながら藍染めについて学び、広める活動を行っています。

徳島県立城西高等学校

「うちは農業高校なので、自分たちで藍を育てて、すくもを作るところからやっているのが大きな特徴です。100%城西高校産のすくもを使って、染め、加工、販売まで一貫しておこなっています」

城西高等学校で阿波藍を担当する岡本佳晃さんはそんな風に話します。

阿波藍担当 教諭の岡本佳晃さん

現在、城西高校では、水田だった場所を使用して、スクモ用に約6100株の藍を栽培中。乾燥した状態で400kgほどの収穫を目標としています。藍は肥料と水をたくさん必要とする作物のため、土壌のバランスを考えて輪作でやっていく予定とのこと。(毎年藍を植えるのではなく、別の作物と交互に栽培していく)

城西高校でスクモ用に育てている藍。藍染めに適している白花小上粉という品種。この他に、食用として別種の藍も栽培中

阿波藍担当として着任して4年目になる岡本さん。藍染めの経験がある実習助手の方がサポートでつくものの、まったくの門外漢からのスタートで、最初はとにかく見様見真似、必死に文献やインターネットを調べて指導していったと言います。

実習助手の東龍成さんと2人態勢で阿波藍専攻を受け持つ
実習室。「天然灰汁発酵建本藍染」の文字が掲げられている

著名な藍師である同校の卒業生から話を聞いたり、地域おこし協力隊とコラボしたりと、教育機関であることを活かして専門家たちの協力を得ながら、生徒たちとともに藍染めについて実践し、学んできました。

「阿波藍専攻ができて今が16年目くらいで、僕が担当して4年。まだまだ藍について理解できていない部分も多いですが、自分たちで作ることに重きを置いて、なんとかやってこれました。

藍染めという徳島の文化を学んで、継承する。ここだけのオンリーワンの教育になっているのかなと思います」

この日、授業を受けていたのは、阿波藍専攻の3年生たち。植物活用科として2年間を過ごし、専攻として「阿波藍」を選んだ理由を尋ねてみました。

「もともと農業には興味がありました。その中で特に藍が面白かったのが決め手です」

生徒の一人はそんな風に話し、

「染めている時がとにかく楽しくて、染め方・染める人によって世界に一つの柄になるところが、いいなって思います」

と、染めの楽しさについて強調。染めの楽しさを話してくれる生徒は他にも数名いて、自分の手を動かすこと自体の楽しさが、手仕事の大きな魅力のひとつだと再認識できました。

そのほかには、

「藍染めをやっている高校というのは知っていて、やってみたいと思って入学しました」

「入学前は藍染めのことはぜんぜん知らなくて。本当に気軽に、楽しそうだなと思って選びました」

「マルシェでの販売ができるので、人とのコミュニケーションをそこで学びたかった」

という声も。伝統文化だからと構え過ぎず、いい意味で肩の力を抜いて藍作りや販売を楽しんでいる様子がうかがえました。

卒業後の進路について聞いてみると、

「進学して藍をさらに学びたい」「理学療法士の専門学校へ」「歯科衛生士になることが夢なので、コミュニケーション能力をそこで活かしたい」

と、さまざまな答えが。

自分の進路や経験のためのひとつのツールとして、フラットに阿波藍専攻を選択している印象を受け、人それぞれ、多様な藍との関わり方があるんだなと、その柔軟さが頼もしくも感じられました。

生徒たちが染めた作品。さまざまなデザインが楽しい

藍作りや藍染めを専門とし、生業としている作り手たち。そうしたプロフェッショナルとは違った形で、就労支援施設や学校など、地域の中で藍のものづくりに携わっている人たちもいます。

それぞれのタイミングで藍や藍染めと出会い、それぞれの立場で学び、ものづくりを進める。そしてその活動がまた誰かの目にとまり、藍を知る人、関わる人が増えていく。

そんな、藍との関わり方の多様さ、しなやかさに、産地としての底力、藍のものづくりをつなぐヒントがあると感じました。

<関連する特集>

<徳島の人たちが染めた商品>
・藍染ハンカチ
・藍染守り
※藍染め守りには、城西高校の皆さんが収穫した藍の種が封入されています。

<取材協力>
特定非営利活動法人 とくしま障がい者就労支援協議会
徳島県立城西高等学校

文:白石雄太
写真:奥山晴日

手仕事だからできる“いいもの”を作り続ける。伝統の「江戸硝子」を今につなぐ田島硝子

身近な素材として、暮らしのそこかしこで目にする「硝子(ガラス)」。職人の手仕事で作られたガラスのアイテムは、美しさの中に一つひとつ異なるゆらぎや個性を持っており、非常に魅力的です。

その中で、江戸時代からの伝統を継承し、東京や千葉の一部で作られているのが、国の伝統的工芸品にも指定されている「江戸硝子」。今回、その技術を用いて、食卓に涼しさと特別な色どりを与えてくれる足つきグラスとお皿を作りました。

作り手は、1956年に創業し、江戸硝子の伝統を今につなぐ田島硝子さん。江戸川区にある工場を訪問し、同社のものづくりについて聞きました。

異なる専門技術のプロが集う、江戸硝子の現場

約1,400度の熱でガラスを溶かし、成形していく「江戸硝子」づくり。田島硝子では型吹き、細足、モール、被せ、延ばしなどの伝統技法を継承し、その練度を高めながら日々ものづくりに取り組んでいます。

「みんな一流の職人たちですが、得意な技法・技術というものは各々で若干違うんです。それぞれのプロフェッショナルを育てていかないと、商品のクオリティが高められません」

そう話すのは、田島硝子株式会社の代表取締役 田嶌大輔さん。

田島硝子株式会社の代表取締役 田嶌大輔さん

ひと口にガラス職人といっても、たとえば商品の形状が違えば使う技法も異なります。田島硝子では、各職人の得意な分野をうまく活かしながら、商品ごとに4人一組のチームに分かれて製造を進めています。

田島硝子の工場。中央にある硝子窯に、大小10本の「坩堝(るつぼ)」と呼ばれる陶製の壺が入っており、その中で1400度まで熱したガラスが液状に溶けている

田島硝子が得意とする技法のひとつが「型吹き」。その名の通り、作りたいガラスの形状に合わせた“型”を用意し、その中にガラスの生地を入れ、息を吹き込んで成形する方法です。

「型があると言っても、その型通りに吹くこと自体が非常に難しい。型が計算通りにできていても、職人の力量によっては仕上がりが狂ってしまいます」(田嶌さん)

1400度で溶けた液体から個体へと、リアルタイムに変化するガラスの状態を把握しながら成形していく。無駄のない動きと精度の高さに驚かされます。

チームでの作業となるため、ガラスの種を棹に巻きつける職人の技量が低いと型吹き自体が難しくなり、型吹きが綺麗にできていないと、その次の工程の職人にしわ寄せがいってしまう。個人の技量に加えて高度な連携も要求される仕事です。

水をかけることで、型と高温のガラスの間に水蒸気の膜ができる。そのため、ガラスの表面がなめらかに仕上がる
吹き硝子の型

長年の経験と高い技量を要する「足もの」の製造

そんな江戸硝子の中でも特に難しいとされるのが、「足もの」と呼ばれる、足のついたワイングラスなどの製造です。足の部分を成形するために、引き足やつけ足といったテクニックがあり、一定の太さと長さに仕上げるには長年の経験と高い技量が求められます。

吹き硝子の突起部分を引っ張って伸ばしていく「引き足」。グラスのカップ部分と足につなぎ目がなく、美しく仕上がる
型吹きで突起部分を作り、それを引き延ばして足を作る
足が伸ばせたら、追加のガラス種を巻きつけて底の部分を作っていく。タイミングやガラス種の分量など、ペアとなる職人との阿吽の呼吸が必要

「レストランなどの業務用の仕事の場合は特にですが、長さや容量が揃っていないと不良品になってしまいます。狂わずに足をつけられることが職人の力量ですね」

足の長さが少しでも狂うとグラスの容量や口径にも影響が出てしまうため、一握りの工場、職人のみが対応できる特別な成形方法なんだとか。

足の長さが狂うと、グラスの口径や容量も影響を受ける
「切子の足つきグラス」の型(下)。引き延ばすための突起部分がある

ダイヤの円盤でガラスをカットする「江戸切子」

今回、「切子の足つきグラス」では、「江戸切子」の技法を用いて模様をあしらいました。

「江戸切子」は、硝子の表面に‟切子”と呼ばれる加工を施したカットグラスのこと。田島硝子では約15年前から江戸切子の職人も育成し、社内での製造を開始しました。

切子加工の作業場
工業用ダイヤモンドでできた円盤状の研磨機を用いて表面を削る
カットの目安となる印をつけた後は、フリーハンドで繊細な模様を表現していく

「目が粗いダイヤで粗摺りしたあと、細かい番手のダイヤに変えてなめらかにしていきます。最終的に、研磨剤をつけて丁寧に磨くことで光沢が出てきます。

薬品につけて磨く方法もありますが、うちでは手磨きにこだわってやり続けています」

工業用ダイヤモンドの研磨機。職人の技術に加えて、ダイヤの円盤の種類をたくさん持っていることが、表現の幅を広げるためには重要なのだとか
黒色をきれいに出せることは、田島硝子の強みのひとつ

伝統をつなぐことと、仕事を続けていくこと

こうした江戸硝子や江戸切子の技を習得し、繋いでいくためには、長い年月をかける必要があります。そして、長い年月をかけるためには、その技を必要とする‟仕事”があることが前提です。

当然、常に満遍なくあらゆる商品の注文が来るわけではありません。自身の得意とする部分以外の工程に携わることも必要になりますし、逆に言えば、注文があまり来ない商品に使われる技術の習熟や維持は難しくなってきます。

「注文に応じていろいろな商品を作らなければいけない一方で、一つひとつのクオリティは下げられません。専門技術を伸ばすことと、ある程度は網羅的に技術を習得できることを両立させなければいけない。

そんなことを念頭に置きながら、職人の配置を考えたり、新規の仕事を受けたりしています」

最盛期は50社を超えていたという東京のガラス工場も、今では実質3社のみになってしまったといいます。厳しい状況の中で伝統の技法が今に残っている裏側には、現場の人たちの不断の努力があることを改めて強く感じました。

「大変だけど、面白いんですよ。

一個一個、お客さんから宿題を与えられて、それを具現化するうちにやれることが増えていきました。

お客さんからの注文で、自分たちでは考えられないようなものを作れるし。こんなガラス商品が世の中で求められてるんだ!って驚いたりもします。

これからも、人の手だから作れるいいものを作り続けていく。それしかないですね」

<取材協力>
田島硝子株式会社

<関連商品>
切子の足つきグラス
硝子の涼菓皿

文:白石雄太
写真:阿部高之

【わたしの好きなもの】夏の暮らしに涼しさとワクワクを。「硝子の涼菓皿」

気が付けば今年も夏本番が目の前に。ついこの間まで朝晩の冷え込みに悩まされていたような気がするのですが、季節の移ろいは早いものだなとつくづく感じます。

「過ごしやすい期間がもう少し長くてもいいのに…」

そんな風に先回りしてげんなりする大人を横目に、子ども達は「プール楽しみ!」「夏休みはどこ行く?」などと元気そのもの。

その姿勢を見習いつつ、大人らしくあれこれ工夫も凝らしつつ、夏の暮らしを楽しんでいきたいと思う今日この頃です。

夏を快適に過ごすための方法は多々ある中で、今回おすすめしたいのが、見た目にも涼やかなガラスのうつわを取り入れるということ。

足つきで特別感があり、夏の時間を豊かにしてくれる「硝子の涼菓皿」をご紹介します。

好きな果物を載せるだけで、デザートの時間が少し特別なものに

夏を乗り切るうえで、きちんと食事をして十分な栄養を取ることは必須です。でも、暑くてなかなか食欲が出ない時もありますよね。

そんな時に食器やカトラリーに少しだけ変化を加えてみると、日々の食卓に季節感や彩りが増して、メニューを考えることが楽しくなったり、気分が上がって食欲が出てきたり、良い効果があるなと感じています。

この「硝子の涼菓皿」はその名前にもある通り、涼を感じる冷たいデザートに合わせやすいうつわです。ガラスならではの透明感があり、足つきで高さもあるので、シンプルに果物を載せるだけで美しく見栄えがします。

初夏に美味しいビワ

我が家では食後になにかしらの果物を食べることが多く、この季節はみんな大好きなスイカや、旬を迎えるアメリカンチェリーなどが定番。スイカは食べやすくカットして、アメリカンチェリーは洗って載せるだけですが、どちらもガラスのうつわとの相性は抜群です。

好きな果物はあっという間に食べてしまうので、美しさを楽しむ時間は一瞬。食べ終わった後、次はこんな果物も載せてみたいなと、うつわとの相性で色々と考えるのもまた楽しい時間です。

ヨーグルトやプリンなど、いろいろと試してみたくなる。5歳の娘曰く「足の部分を左手で持つと食べやすい!」とのこと

食卓や家の中に涼やかな季節感を

夏野菜のサラダなど、おかずの一品を盛り付ける際に使用すると、それだけでぐっと季節感が出るのもこのお皿の魅力。高さがあることで平皿などとのバランスも良く、食卓が華やぎます。

食事以外の場面でも、たとえば薄く水を張ることでお花や実ものを生ける花器としても存在感を発揮します。

季節の花を浮かべて

買ってきた当初は丈の長い切り花も、茎を少しずつ切っていくうちにだんだんと短くなっていきます。普段はそれに合わせて小さな花器に入れ替えるようにしていますが、花びらが散りはじめたタイミングでこのお皿に移し替えてあげると、さらにしばらくの間、季節のお花の風情を楽しむことが可能です。

透明なガラスはどんなお花とも相性が良く、その魅力を引き立ててくれます。

切り花が散りはじめたら、花びらを浮かべてみる

そのほか、肉厚で丈夫な仕上がりのため、小物置きとして使うのもおすすめ。高さがあることと、インテリアとしては家の中にあまりないガラスの異素材感も相まって、どこに置いたか忘れがちな鍵などの定位置として活躍します。

「これ作ったから飾っておいて!」と、突然やってくる娘の作品置きとしても優秀。特別感があるのか、娘も満足げ。

とりとめもなく「硝子の涼菓皿」の魅力をお伝えしてきましたが、これひとつあるだけで、これからの季節を過ごす心持ちがずいぶん変わってきました。シンプルでさまざまな用途に使える一方で、透明なガラスならではの美しさ、手仕事によるゆらぎと涼やかな存在感を持った少し特別なお皿です。

また季節が変わる頃には「気が付けばもう冬か」と、相変わらずその早さに驚いている自分が想像できますが、その時に「もう少し夏が長くてもいいのに…」と名残惜しく思えるように、夏の暮らしを楽しんでいきたいと思います。

<紹介した商品>
硝子の涼菓皿

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文:白石雄太