漆を使って器をなおす、修復専門家のしごと

こんにちは、さんち編集部の井上麻那巳です。
ここ数年、作家さんや窯元さんとお会いする機会が多くなり、我が家の器はお気に入りのものばかりになりました。でも、お気に入りのものこそ普段使いしようと毎日を過ごしていると「割れ」や「欠け」が避けられません。そうしていくつかは残念な姿に…。割れたり欠けたりしてしまった大切な器を末長く使うべく、漆を主軸にした器の修復専門家、河井菜摘さんを訪ねてお話を伺いました。


器だけではなく、古美術品や茶道具もなおす「修復専門家」。

鳥取の工房で古美術品や器の修復のお仕事をしています。修復の依頼は鳥取、京都、東京の3つの拠点で受け付けているのですが、知らない方から連絡をいただくことも増えました。ひとつだけお持ちになる場合もあれば、10点近くの器を一気にお持ちになる方もいます。

通常の修復の依頼の他に、漆と金継ぎの教室も鳥取、京都、東京の3つの拠点で開いています。普段使いの器だと、どうしても買った金額よりも修理代が高くなってしまうことが少なくないですし、日用品はそれぞれが自分でなおせる方が良いと思っています。私ひとりが手を動かしてなおせる範囲はどうしても限られています。それが、例えば教室で8人が集まって、それぞれが3つの器をなおしたとしたら、全部で24個の器を救えることになる。この先割れたり欠けたりしても強い気持ちを持てるのもとても良いですよね。自分の手の中で変化するものは愛着がわくものですから。

教室の生徒さんたちの器。河井さん自作の室(むろ)にて保管しています。

教室では自分の器をなおすために金継ぎからスタートした人に、どんどん漆の魅力に興味を持ってもらえることも多くって。それがとてもうれしいですしおもしろいです。やっぱりはじめて漆にふれるには金継ぎがいちばんわかりやすく、親しみやすい。漆を勉強したいという方にもまずは金継ぎをおすすめしています。

修理をすることで気がついた漆の表情と、社会と関わっているよろこび

もともと京都の芸大で漆工を学んでいて、作品づくりをしていました。でも、大きな作品をつくるためにたくさんのゴミを出して、売れなければまた梱包をして持ち帰って…なんだか社会に関わっている感触がもてないと自分の活動に疑問を感じたこともありました。

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卒業後、茶道具の卸会社にて古美術品の修復スタッフに入ったことがきっかけで、はじめて修復のお仕事に触れました。その中で、作品づくりでは知り得なかった漆のたくさんの表情を見つけることができたんです。漆自体は形をなさないけれど、時には接着剤になり、時には欠けを埋めたり、時には古色をつけたり異素材を模すこともできて。変幻自在の漆の魅力に改めて気が付きました。それから、修復を専門にやっていきたいなって思うようになって。

作品をつくっているおもしろみと引き換えに副産物としてゴミを生んでいるんじゃないかと悩んだこともあった作家活動から一転して、修復のお仕事は買いなおさずに今あるもので満足感を生み出せるし、絶対的によろこんでもらえる。それは相手にとっても自分にとっても幸せなことだと思っています。

漆のための道具は自作することも多いそう。中には拾ってきたというカラスの羽根も(!)

「金継ぎ」「共直し」「漆修理」、3つの技法で器の修復をしています。

「金継ぎ」は、割れたり欠けたりしているところを漆でくっつけたり埋めたりして、その継いだ部分に金を蒔(ま)いて修復する技法です。金のほかに銀や漆で仕上げることもあります。器のデザインによっては銀もしぶくてかっこいいですよ。教室の生徒さんもほとんどがこの金継ぎを学びに来られています。

欠けたところを埋めたマグカップ。
欠けたところを金継ぎで修復したマグカップ。

割れたり欠けたりしているところを周辺のオリジナルを真似て再現する技法を「共直し」と言います。基本的には金継ぎ同様に漆を使うことが多いのですが、ものによっては漆以外の素材も使用します。左官屋さんが使うような色土や顔料として売られている土や胡粉など、画材になるようなものはなんでもストックして合ったものを試してみながら使うようにしています。

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修復後はどこが欠けていたのかわからないほど。
修復後はどこが欠けていたのかわからないほど。

「漆修理」は、剥がれていたり、割れてしまった漆をその状態を見て塗り直したりしていく作業です。でも、それも方法は色々あって、きれいに新品のように仕上げるのが良いのか、それともオリジナルの古い雰囲気を壊さない方が良いのか依頼主の方と相談しながら決めていきます。

やけど跡で変色してしまったお盆。
やけど跡で変色してしまったお盆。
塗り直し後。ところどころ欠けていたところも修繕しピカピカに。
塗り直し後。ところどころ欠けていたところも修繕しピカピカに。

こんなのなおらないよねって思われていても、大体どんなものでもなおります。

無理難題な修復はおもしろいですね。昔のものは天然の素材で作られているものがほとんどなので、素材に無理をさせてないんです。だから、結構ボロボロになっても、どういう形であれなおります。どんなに傷がたくさんあっても、そこを丁寧に埋めたり磨いたり塗り直したりすることで蘇るんですよね。

なおすことはおもしろい。割れたり欠けたりしているものが、そこをくっつけてあげるだけで、バァッと息をふきかえすようで。本当に単純なおもしろさとよろこびを感じます。


河井さんのお話を伺い、はじめて実際の修復の作業を見せていただきました。器の「割れ」や「欠け」はある種、自然の業で、誰かにコントロールされてできたものではありません。人の手によってデザインされ、つくられた人工物である器に偶然による意匠が華やかに施される金継ぎ。そんな金継ぎのビジュアルにも、それほどにひとつの器を大事にすることにもずっと憧れていました。

ひとつの器を自分で選んで自分で使って自分で壊してしまって、その時のショックがあるから価値がある部分もあるんだと、修復の新たな一面にも触れることができました。


河井菜摘(かわいなつみ)

鳥取、京都、東京の3拠点で生活をし「共直し」と漆を主軸とした修復専門家として活動。陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いの器から古美術品まで600点以上の修復を行う。修理の仕事の他に各スタジオでは漆と金継ぎの教室を開講し、漆作家としても活動している。
kawainatsumi.com

文:井上麻那巳
修理写真提供:河井菜摘

厳島神社から新年へ羽ばたく干支の張り子

こんにちは、さんち編集部の庄司賢吾です。
もう2つ寝るといよいよお正月、酉年の幕開けですね。酉は古くから伊勢神宮の神の使いとされていて、また「とりこむ」という意味合いで、たくさんの幸運や福をとりこむという縁起の良い干支でもあるそうです。
そんな酉年に向けて、皆さんもう新年への準備は万端でしょうか。
私事ですが、毎年お正月に家で飾るための「干支の張り子」を集めています。あの独特な質感とカラフルな色合いが可愛く、新年を華やかに彩ってくれるので、気づけば毎年買ってしまっています。来年のために下調べをしていると、酉の張り子を数多くつくっている、とても気になる産地を見つけました。
その名も「宮島張り子」。その可愛らしさに一目惚れし、厳島神社のほど近くの1つの工房だけでつくられているというその張り子を求めて、広島県は宮島を訪ねました。

鳥と暮らす島、宮島

宮島口からフェリーに乗り、肌をなでる海風に吹かれながら揺られること15分。途中気持ちよさそうに飛んでいる鳥たちとすれ違いながら、平日にも関わらず観光客で賑わう宮島に到着しました。世界遺産に登録されて以来外国人観光客も増え、島の風景もがらりと変わったということ。商店街に並ぶもみじ饅頭や牡蠣の串焼きの香りに後ろ髪を引かれながら、逸る気持ちを抑えつつ宮島張り子の工房に急ぎます。
「はるばる宮島まで良く来たねぇ」
晴れやかな宮島の気候のように温かく迎えてくれた田中司郎さんは、この工房で40年間宮島張り子をつくり続けています。

干支の張り子の絵付けでお忙しいのに快く迎えてくださった田中さん。
干支の張り子の絵付けでお忙しいのに快く迎えてくださった田中さん。

元々宮島は「神の島」として、神職や僧侶ですら島に渡るのは祭祀の時のみで、人が住み始めたのは鎌倉末期頃になるそうです。江戸時代には収穫を祝い子孫繁栄を祈る「亥の子(いのこ)祭り」が行われていて、そこで使う飾り面としてすでに張り子がつくられていたと伝えられています。
「ここの張り子全体の6割以上が鳥でね。それで1ヶ月に鳥だけで300個ほど出ますね。今年は特に来年の干支が酉なので、干支分だけで1000個も注文が来てます」
その言葉通り、工房の中には鳥の張り子がずらりと飾られています。その丸みを帯びたフォルムやカラフルな色使いに心躍ってしまいます。

個性溢れる張り子たち、あなたはどの張り子がお好きですか?
個性溢れる張り子たち、あなたはどの張り子がお好きですか?

そもそもなぜ鳥のモチーフが多いのでしょうか?
「瀬戸内は元々温暖で、鳥が多く住んでるんです。ヤマガラ、ツクシガモ、ウグイス、オオルリ…。その子らをモチーフにしてつくっているうちに、宮島張り子=鳥っていうイメージが定着したんだと思います」
宮島は鳥が住む島として有数の島で、周囲30kmの小さな島の中で山地から水辺、市街地に住む鳥の種類の多くが見られることは、全国的に見ても稀だそう。それは宮島に、人の手が入っていない原始林があり、豊かな水に恵まれ、鳥の住み易い環境が整っているからに他なりません。古くから宮島では人と鳥との生活が近く、そのために特産品のモチーフとしても鳥が多く見られるということです。

40年以上前に一番最初につくったという鶏(にわとり)。
40年以上前に一番最初につくったという鶏(にわとり)。

「それに、鳥ってカラフルで可愛くデザインできるから、やっぱり売れるんだよね。だから鳥ばっかりつくってる」と言って、田中さんは朗らかに笑っていました。商いとして成立したのは始めて10年になってからやっとということで、宮島張り子を守り続けるためにも売れるデザインを今でも試行錯誤して模索しているということです。

「一番人気はフクロウ。『不苦労』ということで縁起物として根強い人気があって、フクロウだけで10種類も出してます」
宮島にはアオバズクというフクロウが住んでいて、緑色に山が染まる5月頃に丘と丘とで「ホッホウ、ホッホウ」と鳴きっこしている様子が見られるようです。デザインも可愛く縁起物となれば、フクロウの人気が出るのも当然ですね。

実際に宮島に住んでいるというアオバズクもカラフルに。
実際に宮島に住んでいるというアオバズクもカラフルに。

とある有名な観光ガイドブックで紹介されて以来、宮島のお土産としてもフクロウ張り子は人気者になっています。どこかで見たことがあると思ったら、広島旅行の際に見たガイドブックにその可愛いデザインを見つけたことを思い出しました。

この色合いのフクロウ、旅行ガイドブックで見たことありませんか?
この色合いのフクロウ、旅行ガイドブックで見たことありませんか?

一味違う、宮島張り子

普通の張り子は木型に紙を貼り重ねながら形をつくるところを、宮島張り子は土人形と同じつくり方をします。つまり、型の外側ではなく、内側に紙を貼ってつくる手法です。まずは片方ずつ石膏(せっこう)型をつくって内側に和紙やクラフト紙を貼りつけ、パーライトという軽い素材も混ぜながら固めていきます。逆側の型でも同じことを繰り返し、最後に1つに合わせることで完成です。
木型は外側に向けて紙を貼ってつくっていくために細かい部分の表現が出にくいのに対して、表面の紙を残して内側につくっていく宮島張り子は、線でもでこぼこでも細部の形状を残し易いのが特徴です。また、型の外側に貼るなら和紙が良いとのことですが、内側に貼る際には濡れてもパリッとした感じが残るクラフト紙の方がズレずに貼り易く適しているそうで、独特な質感はその違いからも生まれているようです。

土人形と同じ手法でつくられるという宮島張り子。
土人形と同じ手法でつくられるという宮島張り子。

「ちょうど酉の絵付けの追い込みをしてるところなんです」ということで、その様子を見させていただきました。

絵付けの順番を今か今かと並んで待ちます。
絵付けの順番を今か今かと並んで待ちます。

デザインのアイディアは画用紙にまとめられていて、この絵だけでも鮮やかで可愛く家に飾りたいほど。紙に色を落とし込みながら色の配置をイメージし、それを石膏型でつくられた張り子の真っ白いキャンバスに描き移していきます。

独特の味があるイラストスケッチ。色の配色の大枠を決めます。
独特の味があるイラストスケッチ。色の配色の大枠を決めます。

「まぁ紙に描いても結局は張り子に描くときに直感で色の配置は変えていくんですけどね」と、閃きを大切にする田中さん。デザインを考えている時間が一番楽しく、そして一番苦労するところだということです。美大出身のセンスを感じましたが、バリバリの経済学部ということでした。

絵付けはポスターカラーとネオンカラーを使います。効率的に仕事をするために、張り子を1つずつ塗っていくのではなく、たくさんの張り子を並べて同じ色で塗る部分を一気にまとめて塗っていき、それを繰り返していきます。思い切りよく、しかし繊細な筆使いで、白い張り子に表情を付け足していきます。

これだけの量の張り子を一度に絵付けをしていきます。
これだけの量の張り子を一度に絵付けをしていきます。
全ての張り子の同じ色を一息で塗っていきます。
全ての張り子の同じ色を一息で塗っていきます。

筆だけで描いていると単調になるのが嫌だということで、丸い模様は筆の木の部分を削って塗ることもあるそうで、「いびつさ」を出すことを考えているということです。
「それぞれ表情が違って、ちょっと間の抜けた顔をしていた方がおもしろいでしょ?」と、絵付けに没頭しながら話してくれる田中さん。
全てを同じように塗るのではなく、少しずつ意識的に塗る位置を変えることで個性を出していきます。最後に目を塗ることで命を宿し、酉の張り子は外の世界に羽ばたいていきます。

今年の干支の張り子はポップでカラフル。全国で待っている人の元へと飛び立ちます。
今年の干支の張り子はポップでカラフル。全国で待っている人の元へと飛び立ちます。

「酉年だから注文がいつもより多くて、仕事納めが年をまたいじゃうな」と、どこか嬉しそうに筆を走らせます。
その愛らしさに魅了されて1つ買いたいと申し出ると、注文数しかつくっていないということで買うことができませんでした、残念。
こんなに可愛くてつくり手の想いの詰まった張り子と共に迎える新年は、きっと幸せなものになるはず。一目惚れした干支の酉張り子は、鳥と人が共に生きる宮島で、年の瀬の今日も1人の職人の手で絵付けの追い込みがせっせとされています。

文・写真:庄司賢吾

自分の分まで欲しくなる、かわいいお年玉袋・ぽち袋

こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
子どもにとってのお正月の大イベント、お年玉。小さなポチ袋を手に、今年はお年玉で何を買おうかとワクワク悩んでいる姿は微笑ましいものです。ところでぽち袋の「ぽち」とはもともと関西弁で「心づけ、祝儀」の意味。大人同士でもちょっとしたお礼やお心づけに使えるので、素敵なものを手元に置いておくと意外と便利です。そんなお年玉袋・ぽち袋、近頃では色々なデザインのものが出回っていますが、ついつい自分の分まで欲しくなってしまう、ちょっと上質なものを集めました。

KIOKUGAMI 和菓紙三昧(わがしざんまい)の和菓子型から生まれたぽち袋

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芸術家・永田哲也さんによるアートプロジェクト、KIOKUGAMI 和菓紙三昧(わがしざんまい)から生まれたポチ袋です。思わず触りたくなる大胆なエンボスは和菓子の木型によるもの。古くから祝いの気持ちを託し、鶴や亀、松竹梅など、縁起のいい動物や植物をモチーフにつくられてきた和菓子ですが、それらの型が持つ「記憶」を紙を媒体にして写し取ることから「記憶の紙」と呼んでいるそうです。この大胆なエンボスを実現するのは「西の内紙(にしのうちがみ)」と呼ばれる手漉きの和紙。独特の光沢と強くしなやかな風合いは茨城県から生まれています。

TESUKI paper worksの手染め、手漉き和紙の状袋(じょうぶくろ)

左から、墨+雲母(うんも)、群青(ぐんじょう)、柿渋(かきしぶ)、黄土(おうど)+雲母、胡粉(ごふん)+雲母。
左から、墨+雲母(うんも)、群青(ぐんじょう)、柿渋(かきしぶ)、黄土(おうど)+雲母、胡粉(ごふん)+雲母。
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ひとつひとつ表面の質感が違います。
ひとつひとつ表面の質感が違います。

鹿児島で活動するTESUKI paper worksによる手染め、手漉き和紙の状袋(じょうぶくろ)です。状袋とは古い言葉で封筒のこと。あえて状袋と名付けられたこの封筒は、名前の通り昔ながらの製法を大切につくられています。原料の煮熟(しゃじゅく)から紙漉き、染めまでひとつひとつが手作業。こんにゃく引き、藍泥染、柿渋染など全て天然素材から染められ、しっとり落ち着いた色合いとアンティークのような質感は、これぞ大人のポチ袋にぴったりです。

真工芸(しんこうげい)の十二支ぽち袋

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飛騨高山に工房を持つ真工芸(しんこうげい)からぽち袋をご紹介します。木版手染のぬいぐるみが人気の真工藝ですが、なんとも言えない愛らしいぬいぐるみの表情がそのままぽち袋にデザインされています。厚めのふっくらした和紙に鮮やかな色使いがかわいらしい雰囲気です。

自分の名前に入っている「巳」はついついひいきしてしまう。
自分の名前に入っている「巳」はついついひいきしてしまう。

高橋工房の北斎漫画ぽち袋

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創業安政年間の高橋工房によるぽち袋です。図案はご存知、葛飾北斎の「北斎漫画」。葛飾北斎といえば「冨嶽三十六景」が代表作として広く知られていますが、この「北斎漫画」も江戸の当時から現在にいたるまで多くのファンを生み、いわば絵の百科事典として親しまれています。男性でも使いやすい渋いぽち袋です。

竹尾と中川政七商店の万葉集入れ子ぽち袋

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紙の専門商社竹尾と中川政七商店によるコラボ商品。竹尾取り扱いの紙の中から発色の美しいNTラシャを使い、奈良時代に詠まれた万葉集の歌から連想された色がぽち袋に仕立てられています。シンプルなのでグラデーションが美しく映え、使うのももったいないほど。老舗の二社が時を入れ子のようにコツコツとかさね、これからもかさね続けていくというイメージで入れ子のデザインとなっています。ひとつひとつにメッセージカードが付いているので、一筆添えてお渡しできるのもうれしい。

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<掲載商品>

和菓紙三昧
お飾りぽち袋

TESUKI paper works
状袋(じょうぶくろ)

飛騨高山 真工芸
十二支ぽち袋

高橋工房北斎漫画ぽち袋

中川政七商店竹尾 入れ子 ぽち

文・写真:井上麻那巳

三十の手習い「茶道編」二、いい加減が良い加減。

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
着物の着方も、お抹茶のいただき方も、知っておきたいと思いつつ、中々機会が無い。過去に1、2度行った体験教室で習ったことは、半年後にはすっかり忘れてしまっていたり。そんなひ弱な志を改めるべく、様々な習い事の体験を綴る記事、題して「三十の手習い」を企画しました。第一弾は茶道編です。30歳にして初めて知る、改めて知る日本文化の面白さを、習いたての感動そのままにお届けします。

◇茶壺に追われる茶人の正月

11月某日。
今日も神楽坂のとあるお茶室に、日没を過ぎて続々と人が集まります。木村宗慎さんによる茶道教室2回目。前回のお稽古では「錦秋紅葉の11月」と教わったところ。大塚呉服店森村さんのご厚意で紅葉柄の帯を締めて今日のお稽古に臨みます。

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「11月は茶人の正月といってお茶の世界にはとても大事な季節です。炉を開けて冬の、囲炉裏の設えにする『炉開(ろびらき)』と、八十八夜の頃に摘んで半年ほど熟成させた新茶を、茶壺の封印を切っていただく『口切(くちきり)』という行事が行われます。炉開と茶壺の封印を切る口切とは元々別なのですが、一緒になっています。そこに、茶壺が置いてありますね」

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「『ずいずいずっころばし』という童歌があるでしょう。あれは宇治で取れた新茶を信楽焼の茶壺に詰め直して、新緑の間に久能山の氷室に運んで半年熟成させて霜月の声を聞くようになってから、行列を組んで江戸に下ったという話なんです。
行列に道を開ける庶民は、籠の中にいるのが本当に偉いお大名だったら大人しくしています。けれど茶壺一つにさえ平伏させられるのはごめんだからとみんな家に逃げて、戸をピシャッと閉めるのが、『茶壺に追われてとっ(戸)ぴんしゃん』と歌われているのですよ」

へぇ〜、と感嘆の声が室内に広がります。子供の頃に遊んでいた歌が、お茶と繋がっていたなんて。

「炉開の時にいただくお菓子に、亥の子餅(いのこもち)があります。お玄猪(げんちょ)って聞いたことはありますか?お玄猪の節句と言って猪にちなんだ祝儀事です。稲作農耕の日本では、お米が取れることはとても大事なことで、11月の亥の日に、初めてできたお米で小さな碁石大のお餅を作って、それをみんなにふるまうんです。猪って子沢山で生まれた子供が死なないところから、家の繁栄に繋がるといってお玄猪の節句が生まれています。それが炉開と日が近いので、行事が混ざっているんですね。特に猪は愛宕さん、火の神様の使いやというので、囲炉裏を開けたおり、火伏せの願いも込めて、亥の子餅を喜んでご祝儀にいただくようになりました。

織部の器に入った亥の子餅。炉開には織部・因部(いんべ=備前焼)・瓢(ふくべ=ひょうたん)の「三部(さんべ)」を取り合わせるそう。
織部の器に入った亥の子餅。炉開には織部・因部(いんべ=備前焼)・瓢(ふくべ=ひょうたん)の「三部(さんべ)」を取り合わせるそう。

このようにお茶の文化というのは、年中行事と深い縁があるものです。中国から来た行事もあれば、日本にもともとあったものもあって、適当にリミックスしてある。いいかげんが良い加減。厳密にやることではなく、うまく取り込んで、もてなしの中にヒントとして入れていくというのが楽しみ方です。さあ、では一つ目のお菓子、亥の子餅をどうぞ召し上がれ。せっかくだからお菓子を出すところも実践してみましょう」

なんと突然のご指名で、お菓子を運ぶ役目を拝命。宗慎さんに都度都度ガイドいただきながら、ようようお客さんの前に菓器を運んで、お辞儀をします。

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ふわ、と頭を上げたところで、宗慎さんの指導が。

「お客さんよりホスト側が頭を上げるのが早い。はい、もう一回」

もう一度、相手の気配に集中しながらほんのすこしだけ、ゆっくり頭を上げる。今度はなんとかうまくいきました。しかしまだまだぎこちない。

◇お箸の持ち方にも、ひと手間の贅沢

お稽古は加速していきます。続いてお菓子の取り回し方にも理想の姿があることを、実際にやりながら教わります。

「お箸の持ち方一つでも、ひと手間の贅沢をすることです。左手を器に添えながら、右手でお箸を上から持つ。今度は左手で下から受けるように持ちながら、右手で持ち変える。1回でできることは、2回かけてやるのです。人前で食事をするときには、ひと手間を加えることが動作をキレイに見せるコツです。これで1日3回は、所作を美しく見せる練習ができるんですよ」

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これは何も、美しく見せるためだけではないようです。着物も、畳ですら、何かあってもたいていは復元することができる。けれど、器は元には戻せない。お菓子を取るときにまず器に手を添えるのは、器を何より大事にする、その気構えがあってのことですよ、と教わりました。道具や人に巡らせる気持ちがあってこそ、美しい所作は生まれるのですね。

「お菓子をとったら、懐紙の端でお箸を拭きます。懐紙は分厚いまま、わさ(折山)を膝に向けて置いておく。懐紙の端を1枚取って、お箸の端をちょっと拭きます。これはしっかり拭かなくても良いのです。『できるならキレイにして差し上げたいと思っています』という気持ちの現れです」

ここにも、相手に思いを致す、そんなお茶の精神がさりげなく息づいていました。

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お辞儀をする、お菓子をいただく、簡単なようで、何も考えずには美しくおさまらない。数々の所作を積み重ねていただく亥の子餅は、しっかり甘く、気を張っている体にじんわり染み渡ります。そこに宗慎さんが炉開の解説を続けてくださいました。

「本当はお茶の正月なので、正式にはお雑煮を出すのです。さらに、茶壺を届けに来るお茶屋さんが届けてくれる季節の干し柿と栗を使って、そのお菓子をお茶席でお出しするというのが元々のルールでした。でもそこまでやっていると大層だからどうしたかというと、全部一緒くたに混ぜ合わせたニュアンスで、おぜんざいにしたのですね。蓋つきで温かい、さらにお餅が入っているというのが、日本人にとってはごちそうなんです。お茶のお稽古場で炉開の時によくお出しするのはおぜんざいか、亥の子餅です。

かたくならない程度に、しきたりを生活やもてなしの中に取り込む。お茶の世界はそういうヒントに満ちています。今月はそういうお取り合わせというもの、お茶では年中行事を組みあわあせて色々なことをするんだということをお伝えしたいと思います。この時期だけのお茶菓子もありますから、後で召し上がっていただけたらなと思います」

今日のテーマと次なるお菓子への期待を胸に刻んだところで、次は前回習った「礼」をさらに深く学ぶお稽古。先ほどうまくいかなかったお辞儀への残念もあり、気合が入ります。

◇真・行・草はフォーマル・ユージュアル・カジュアル

「お辞儀には3つの型があります。一番深々と頭をさげるのが真、会釈をする程度が草、草に少し丁重さが加わるのが行です。真・行・草。順にフォーマル・ユージュアル・カジュアルです。面白いのは、真が生まれた後は、行じゃなく草が生まれるんですね。御殿に住む天下人がわざと侘び数寄の草庵を作ったように、ハイエンドが生まれると、カジュアルが出てきます。
行は少し体が起きて、揃えた手が畳にしっかり付いていて、手のひらは浮いた格好です。横の人とおしゃべりができるのが行。目の前に食器があったりして、ちゃんとお辞儀はしたいのだけど諸般の事情で浅くなっています、というのが草です。指先をそっと置く程度。相手が深々としている時にこちらが草で受ける時もあります。いずれにしても心根が軽いわけではないのです」

さぁ、実践の時間です。

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「どの型であっても、相手を大事にするということが大事です。相手が頭を下げている間は、ちゃんと自分も下げておこうということです。髪の毛一本と言うんですけど、客商売の場合は、目上目下が、必ずあります。キレイ事でなく、立場の違いはあるわけです。それを健全に意識して、髪の毛一本頭を上げるのを遅らせる。ほんのちょっと遅れる気配を出すわけです」

先ほどのやり直しが思い出されます。髪の毛一本。うまくいった2回目の時には、自分の動きどうこうよりも、相手の動きに集中していた気がします。

「この3つはお辞儀に限りませんよ。筆文字だと、楷書、行書、草書。道具選びもそうです。物事をやるときに、この3つの型は有効です。服のおしゃれ、着物の取り合わせ、なんでも言える事ではないかなと思います。自分が何かを行動するときに、物事の格を考えるということです。
挨拶は全ての基本です。キレイにお辞儀をすることで、その場の空気が変わります。空気を変えられたら、あとは自由自在ですから。そこから真に振るのか、草に砕けさせるのか。そういう融通の加減を、自分の中で支配する。自分でちゃんと構えを変えられるようになりましょう、ということです」

◇生け花に込める一期一会

「これは吹寄(ふきよせ)。年間通して最もフォトジェニックなお菓子です。農具に見立てた器に入れています。これが実物の道具をそのまま持ってきては、キレイにならないんですね。普段のお仕事もそうなんでしょうけれど、そのままで安住せずに、物事のボジティブなところを抜き出して、人に楽しんでもらえるところまでどう持っていくのかが編集です」

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お菓子の運び方、取り回し方、お茶を点てる実践もかわるがわる行って、この時期の特別なお菓子「吹寄」をいただいたら、いよいよお稽古も終盤。代表で一人、花を活けることになりました。今日はとにかく実践あるのみ、です。

「誰かが花を活けているのを見るでしょう、そうすると今度から、花を見るようになるんです」

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花を活ける際の宗慎さんからのオーダーは一つ。「自分に向けて正面から活ける」ということでした。

「正面があるというのが和花の特徴です。西洋の街ってどの門から入っても、教会のある真ん中の広場に行き着きますね。洋花は360度どこから見ても同じように美しく見せます。対して和花は、山道を辿っていくような見方をしないといけません。それは違う姿で美しく見えるということ。横や後ろから見ても美しいけれど、それは正面であり横であり後ろだということです」

お花を活け終えると、仕上げに少しの水を吹きかけます。

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「花は花を見るのではなくて、最後に打ってある露を見るんです。朝露のおりた清々しいものを活けていますよというメッセージです。それが、お茶会が終わって帰るころには乾いている。一期一会の象徴でもあります。

ーでは、今宵はこれくらいにいたしましょう」

お辞儀の真・行・草も、お箸の取り方も、生け花の露も。言葉の外でホストとゲストの間を行き来する一つのメッセージの形。今日も目に見えるものの意味が一段と濃くなって、お茶室を後にしました。

◇本日のおさらい

一、年中行事や古いしきたりを、良い加減で暮らしやおもてなしのヒントに活かす

一、お辞儀の3つの型を使い分けるように、物事にあたる時は、その格を意識する

一、ひと手間の贅沢が、美しい所作への近道


文:尾島可奈子
写真:井上麻那巳

いのち滴る、漆の赤

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
きっぱりとした晒の白や漆塗りの深い赤のように、日用の道具の中には、その素材、製法だからこそ表せる美しい色があります。その色はどうやって生み出されるのか?なぜその色なのか?色から見えてくる物語を読み解きます。

いのち滴る、漆の赤

万葉集に、こんな歌があります。

旅にして 物恋(ものこほ)しきに山下の

赤(あけ)のそほ船 沖へ漕こぐ見ゆ

”旅に出てやたらに家が恋しい時、山すその方にいた朱塗りの舟が
沖に向かって漕ぎ出していくのが見えて、いっそう寂しくなってくる”

高市黒人(たけちのくろひと)

朱塗りを指す、「赤」。

初回「はじまりの色、晒の白」で、古代日本語に登場する色はたったの4色だったらしいとのお話を書きました。その1つ、アカは明けの色。ヨーロッパ系の言語では赤(red)は血を語源に持つそうですが、日本では太陽が昇り、空が明けていく自然の移ろいと結びついていたようです。

太陽のイメージは「赤」という字の成り立ちにも結びつきます。赤という漢字は「大」と「火」を組み合わせたもの。白川静の『字通』には、「大は人の正面形。これに火を加えるのは禍殃(かおう)を祓うための修祓の方法であり」とあり、災いから身を守る、魔除けの意味が示されます。

「朱・紅・緋」も「赤」と同じく「明(アカ)」が語源。明るいパワーの源のような色は、日本では紅白やお赤飯のようにお祝い事に欠かせない色ですし、アメリカ大統領選などでも政治家がここ一番の演説の際に赤いネクタイをしめるエピソードは有名ですね。

この赤が美しく映える日用の道具といえば、朱塗りのお椀。お正月にはお雑煮椀としても食卓に華を添える「漆の赤」は、実は黒から始まります。素黒目漆(すぐろめうるし)といって、ウルシの木を傷つけて得た樹液(生漆・きうるし)をかく拌させ、温度を与えて水分を蒸発させることで得られる素黒目漆は、黒に近いあめ色。ここに顔料を加えて、様々に発色させるのです。漆独特の光沢はここから下塗り、上塗りと幾度もの塗りの工程を重ねることで、極められます。

古より人々は漆を、暮らしの様々な道具の補強や装飾に使ってきました。漆の塗膜は熱に強く、耐水性に優れて丈夫で、何より美しい光沢を放ちます。スタジオジブリの映画作品「かぐや姫の物語」( 2014)では漆職人の一家と思われるかぐや姫の幼馴染が出てきますが、原作の竹取物語にも「うるはしき屋を造り給ひて、漆を塗り、蒔絵(まきえ)して」との表現があり、家屋に漆を塗って飾り立てるシーンが描かれています。

今、日本で使われている漆の98%は輸入漆となっていますが、わずかに残る国産漆のうちの6割を生産する漆の産地、岩手県浄法寺の漆器に、古来の日本の「漆の赤」を見ることができます。

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黒の下地がじんわりと透ける赤は、けばけばしくなく、力強く、思わずなぞりたくなるような光沢を湛えます。太陽には手が届かないけれど、これならば。人の命を支える食卓に、漆の赤はよく似合います。

<取材協力>
滴生舎


文:尾島可奈子
写真:眞崎智恵

100年後の工芸のために。絶滅危惧の素材と道具 「NEXT100年」

こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
日本の手しごとが見直されつつある昨今、2016年10月22日より2017年1月29日まで “21世紀鷹峯フォーラムin東京「工芸を体感する100日間」” が開催されています。2015年に京都でスタートしたこの試みは、今年2016年は東京で、2017年は金沢での開催を予定しています。

今回はその中で、12月13日に行われたイベント “絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」” へ行ってきました。

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「100年後の工芸のために」を合言葉に企画、運営されている “21世紀鷹峯フォーラム”。国内外の現代の生活の中に工芸が行き渡るために、よき使い手とよき鑑賞者を生みだし、よいものをつくり続けるための支援を中心に展開されています。 “絶滅危惧の素材と道具「NEXT100年」” では、まさに今途絶えようとしている日本各地の工芸に使われる素材と道具がそれぞれの当事者によるライトニングトーク形式で紹介されました。

漆器づくりに欠かせない道具、漆刷毛。
漆器づくりに欠かせない道具、漆刷毛。
復活を目指して動き出しているという織機の部品、竹筬(たけおさ)。
復活を目指して動き出しているという織機の部品、竹筬(たけおさ)。

「絶滅危惧」というタイトルだけあり、紹介された素材・道具は漆、綿、刺繍針から日本画の絵の具で使用する膠(にかわ)、友禅や絞り染の下絵に使用するあおばな紙、織物の機(はた)の一部品、筬(おさ)まで、工芸関係者でも目にしたことがないような裏方の素材・道具たちが多く、ひとつひとつの取り組みが興味深いものでした。

江戸時代から300年の歴史を持つ伯州綿。
江戸時代から300年の歴史を持つ伯州綿。
伯州綿の種も配布していました。
伯州綿の種も配布していました。
美しい天然顔料。
美しい天然顔料。

当たり前のことではありますが、ものを作るには道具が必要です。私たちが普段使っているものたち。机の上のマグカップも、座っている椅子も、今着ている洋服も、それを作るための道具があってはじめて生み出されています。ひとつひとつは小さな工程や小さな道具でも、たとえそれがひとつでも欠けてしまうと、同じものは作れなくなり、その産業は続けられなくなってしまう。日本の工芸産地はひとりも欠くことのできないリレーのように成り立っています。

桶仕込み保存会のセイラ・マリ・カミングスさん。
桶仕込み保存会のセーラ・マリ・カミングスさん。

お世辞にも華やかとは言えない業界だけれど、間違いなく現在の日本の工芸を支える作り手たちの生の声。縁の下の力持ちのその声は、今にも尽きてしまいそうな産業でも希望を持って未来を拓いていく気概に満ちていました。「日本の工芸を元気にする!」、「あなたと全国の工芸産地をつなぐ」だなんて、時に “負け戦” とも言われる活動をしている私たちも改めて勇気をもらいました。

一方で、まだまだこういった催しに参加しているのは工芸関係者が多いのが現状です。ものがいくら良くてもその良さが伝わらなくてはないものと同じ。100年後の工芸のために私たちができることを改めて考えさせられた1日でした。

21世紀 鷹峯フォーラム

文・写真:井上麻那巳