“しっくりくるお茶”ってなんだろう。お茶の愉しみを広げるワークショップレポート

お気に入りの場所でくつろぎながらお茶を飲む。家族や友人と机を囲み、お茶を淹れ合って過ごす。

お茶の時間は、かしこまった準備や工夫が無くても成立する、とても自由で大らかなものです。

ただ、時には一歩踏み込んで、自分の好きなお茶、好みの茶器といったものに想いを馳せてみると、その時間がより一層、素敵なものになるかもしれません。

先日、そんなお茶の愉しみ方を一段掘り下げるワークショップが開催されました。

講師は、奈良県で「自然栽培」のお茶づくりをおこなっている健一自然農園の伊川健一さん。お好みの湯呑選び、番茶の飲み比べ、そして自分だけのオリジナル番茶づくりまで。お茶の新たな魅力に触れるワークショップの内容をレポートします。

※本ワークショップは、阪急うめだ本店9F祝祭広場で開催の「6日間限りの家政学校 by 中川政七商店」の中でも、11/11(月)に実施予定です。ご予約の詳細はこちらからご覧ください。

気分や味わいを左右する、茶器選び

健一自然農園 伊川健一さん

「お茶は加工方法や飲み方によって千変万化するもので、その愉しみ方も本当に様々です。その中で今日お伝えするのは、“お番茶の愉しみ方”。

産地も形も大きさも違う、個性あふれる9種類の湯呑を用意したので、お好みのものを選んでください。その湯呑でお番茶を飲み比べていただきます」

そんな伊川さんの案内から始まったワークショップ。まずは番茶を味わうための湯呑選びを通じて、自分の感覚に向き合っていきます。

用意された9種類の湯呑。中川政七商店から10月に新発売されたもの
色や形、サイズもさまざま

「色や形などの見た目、手に持った時の感覚など、なんとなくしっくりくるなというものを、ぜひ直観で選んでみて下さい」

そうは言っても、個性豊かな湯呑に目移りしてしまい、なかなか選びきれない参加者の方々。伊川さんがそれぞれの湯呑について解説しつつ、選び方をサポートしていきます。

一つずつ手に取りながら、今日の自分に合った湯呑を選んでいく

「たとえば、少し『ほっこりしたい』という時は、手ですっと包み込めるサイズの、このあたりがおすすめです。この高台がついているものはやや高貴な印象があるというか、逆に『凛としたい』時にいいかもしれません。

これなんかは面白い形で、なにか面白いことや発想を引き出してくれそうですよね」

と、湯呑の違いで心持ちにも影響が出るという話に皆さん興味津々。

さらに、「香りを感じやすいのは、筒形のもの。真上に香りが上がってきます。色味をしっかり見たいときは、下地が白のものが良さそうです」という風に五感への影響も聞いて、本命の湯呑を絞り込んでいきます。

それぞれの湯呑に特徴があり、あれこれ考えて選ぶだけでも楽しくなってくる

自分に“しっくりくる”お茶を見つける「自分番茶探し」

湯呑を選び終えた後は、番茶の飲み比べ。土瓶で淹れた4種類の番茶を味わって、自分に“しっくりくる”お茶はどんなものなのかを探していきます。

「しっくりくるお茶って、日々変わるもので、時間や体調によっても変化します。

今日は、少し集中してお茶と向き合っていただいて、今のご自分に合うお茶というものがなんなのか、問いかけていただければと思います」

直火にかけられる土瓶でお茶を淹れ、南部鉄器のウォーマーで保温。時間が経っても渋くなり過ぎず、長く楽しめるのも番茶ならでは
番茶を飲む前に、瞑想などでも使われる「ティンシャ」という道具を鳴らす趣向。目を閉じて音だけに集中して深呼吸をすると、余計な情報が遮断され、お茶と向き合う準備が整う

今回飲み比べをしたのは、青柳番茶・ほうじ番茶・天日干し番茶・茶の木番茶という4種類。

それぞれの番茶を飲んだ後でどんな気持ちになったか、「美味しい!」という体への浸み込み具合はどうだったか、一杯ずつメモを取りながら自分の気持ちや感覚を整理していきます。

どう感じたかをメモしながら、しっくりくるお茶を探していく

「最初の青柳番茶は秋に摘まれる葉っぱで作ったもので、今日の中では唯一焙煎していないお茶です。緑の風味が強く感じられるかもしれません」

ーー「最初はすっと爽やかな感じで、でも段々と甘くなってきました。なんとなく夏っぽい気もして、秋に摘まれたと聞いて意外な気もします」

「ほうじ番茶は梅雨の頃に葉っぱを摘みます。製茶方法は途中まで青柳番茶と同じで、最後に焙煎して仕上げています」

ーー「美味しいです!なんとなくミルクのような甘さも感じる気がします」

ーー「青柳はすっきりした気持ちになって、これは落ち着くというか、飲んだ後の気分が全然違います」

「茶の木番茶はお茶の木そのものを召し上がっていただいているようなお茶です。3年以上かけて育った茶の木を収穫して、結構太い枝や幹も全部、薪の火で焙煎しています。そこに、玄米や黒豆といった穀物をブレンドしました」

ーー「すごく懐かしい、祖母の家に帰った時の感覚というか。ウエハースのような甘さも感じます。一番深く向き合えたというか、浸み込んできたと思いました」

ーー「私も懐かしくて、毎日飲みたいです。でも、一番癒されたのはほうじ番茶かもしれません」

お茶を飲み、感じたことを言葉にしていく参加者の皆さん。番茶の違いに驚きながら、自分の感覚と向き合っていきます。

好きなお茶と、今の気分で飲みたいお茶が異なっていたり、お茶の味と自分の状態に対する解像度が上がっていく様子が印象的でした。

集中して番茶を味わう
体が求めているお茶を飲むと、すーっと浸み込んでくる感覚がある
すっきりとした「青柳番茶」を午前中、リラックスしたい夜の時間に「茶の木番茶」というように、時間帯で飲み分けるのもおススメだと話す伊川さん

自分だけの「フレーバー番茶作り」

最後は、用意された奈良県由来の香りをブレンドし、自分だけのフレーバー番茶を作るプログラム。プレーンな状態の茶の木番茶に、好みの香りをブレンドしていきます。

用意されたフレーバーは、「ごぼう」「柿の葉」「トゥルシー」「橘」の4種類。すべて奈良で栽培し、加工されたもの
香りや見た目の好みで選んでいく。どのくらいの量を配合するのかも悩みどころ

「基本は一種類ですが、二種類くらいブレンドしても大丈夫です。

トゥルシ―は鮮烈な香りで、癒し効果があるとされています。ごぼうは有機栽培の夏ごぼうを使っていて、お味噌汁に入れたいくらいですね(笑)。

香りづけとしてはごぼうを入れつつ、見た目のあしらいで橘を少し入れる、というのもいいのかなと」

ここまで、番茶の飲み比べを通じて自分の好みや今の状態を確認してきた参加者の方々。4つのフレーバーに悩みつつも、自分が好きな香りはこれだと思う、とワークショップ開始時よりも少し自信に満ちた表情で選んでいきます。

互いに作ったお茶の香りを嗅ぎ合って違いを愉しんだり、お茶がある空間の安心感から、参加者同士も打ち解けた様子が見られました。

彩りも美しい、オリジナルフレーバー番茶
お茶の名前を命名し、茶缶に入れて完成

オリジナル番茶が完成し、いよいよワークショップも終わりの時間へ。

お茶請けのお菓子をいただきながら、お気に入りの番茶をおかわりしつつ、和やかな雰囲気で雑談を交わします。約2時間のワークショップで、お茶を注ぎ合いながら過ごした時間は終始、大らかなものでした。

自分の好みや感覚を見つめることで、お茶を愉しむ時間がさらに豊かになる体験をした参加者の方々。皆さんもぜひ普段の暮らしの中で、少しだけ深く自分のことを見つめ、お茶やお茶の道具に触れてみてほしいと思います。

もっともっとお茶を好きになってくれたら、茶園にも遊びに来てほしいと伊川さんは目を輝かせます。

「お茶って、まず植物を育てる農業の部分があって、加工は職人的というか工芸的な部分で、最後の淹れ方・飲み方のところでは料理の要素もある。

複雑な要素が一体になっているのがお茶なので、いくらやっても奥行きがあって、本当に面白いです。

ぜひ茶園にもお越しいただいて、お茶に関わるもっとたくさんのことを経験していただく機会があれば素敵だなと思います」

文:白石雄太
写真:奥山晴日

※本ワークショップは、阪急うめだ本店9F祝祭広場で開催の「6日間限りの家政学校 by 中川政七商店」の中でも、11/11(月)に実施予定です。ご予約の詳細はこちらからご覧ください。

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【あの人の贈りかた】自分の想いを重ねた、相手に嬉しいもの(スタッフ大久保)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は商品企画・デザイナーの大久保がお届けします。

暮らしに佇まいよく馴染む「ソフトパックティッシュのカバー」

奈良に引っ越してきて5年目。もともと人付き合いは多い方ではないですが、家族や友人と距離が離れて会う機会が少なくなりました。
なかなか話す時間はないけれど、だからこそ、贈りものには想いを込めたい。最近はそんな風に考えています。

贈りものをするときに心がけているのは、「自分のほしい」と「相手の嬉しい」が重なっていること。
「自分のほしい」だけでは押しつけがましく、「相手の嬉しい」だけでは何かもの足りない。
大切な誰かを想う贈りものは、押しつけがましくないけれど自分の想いが乗ったものにしたいと思ってます。

中川政七商店に入社して一年ほど経った頃、東京に住む友人の誕生日に贈ったのが「ソフトパックティッシュのカバー」です。

まずおすすめしたいのは、綿と麻でできたタイプライター生地。シワ感のあるサラッとした生地と、ティッシュカバーにした時の柔らかな形が自分の好みど真ん中で、開発当時から発売したら絶対買いたい!と思っていました。

生活感が出やすくインテリアを損ないがちなティッシュを、空間に馴染ませてくれる穏やかな色味も特徴です。

以前から当社のことを知り、商品を使ってくれていた友人。ティッシュカバーがなくても困ることはないかと思いますが、もらったら喜んで使ってくれるかもと、自分の想いを込めて贈りました。

<贈りもの>
・中川政七商店「ソフトパックティッシュのカバー」

経年変化が楽しめて、心地よい音色「小田原鋳物のお守り鈴」

毎年、年末には茨城の実家に帰ります。私の帰りをいつも楽しみに待ってくれている祖母。
今はこんな仕事をしているよと伝えたく、自分のデザインした商品のなかから、直近で発売されたものを贈っています。

この前の年末に贈ったのは、「小田原鋳物のお守り鈴 トトロ真鍮」。

トトロの愛らしい見た目が目を引きますが、余韻のある凛とした音色も心地よい。
室町時代から続く小田原鋳物の伝統を受け継ぎ、風鈴やおりんなどの鳴物を作ってきた工房では、余韻のある凛とした音色にこだわり工房独自の配合で鳴物を作っています。

作り手さんいわく、少しの形の違いや溝の入れ方で鳴り方が全く違うのだとか。トトロのこの鈴も音色にこだわり、丸みのある形と溝の入れ方を試行錯誤しました。
歩きながら凛とした音色に耳を傾けると、気持ちがすっきりするのです。

歩くのが好きで毎朝近所を散歩していた祖母。長く元気に歩いてほしいと願いを込めて、経年変化がより楽しめる真鍮の鈴を贈りました。

<贈りもの>
・中川政七商店「小田原鋳物のお守り鈴 トトロ真鍮」

細やかな気配りで、普段づかいもしやすい「Snow Peak チタンシェラカップ」

「今度一緒に〇〇しませんか?」と、お誘いの意味も込めながら贈りものをすることも。

山登りに興味がある友人に贈ったのが、「スノーピーク チタンシェラカップ」です。

山登りに関係する何かを贈りたいけれど、山登りでしか使わないようなものだと少し扱いに困るかなと思い、普段使いもしやすいものを選びました。

シェラカップとは、山登りやアウトドアの場で使われる金属製のカップのこと。
スノーピークのシェラカップは目盛りが付いていたり、ハンドルが付いていたりと、シンプルなカップながら魅力がたくさんあります。

私も同じものを持っていて、普段は料理の計量カップとして使っています。特別な時にしか使わないものではなく、普段でもしっかり役割があるので常に近くに置けるお気に入りの品。

いつかシェラカップを持って山登りに行きましょうと、自分も楽しみな気持ちを込めて贈りました。

<贈りもの>
・Snow Peak「チタンシェラカップ」

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 商品企画・デザイナー 大久保優希

小さな人形に込められた技術と想い……埼玉 津田人形の衣裳着雛作り

怪我や病気から守られますように。

幸せな人生を送れますように。

雛人形は、子どものすこやかな成長を願って飾られます。

できればそれは、親から子への想いを紡ぐ媒介として、時代を超えて愛される、いつまでも飾りたくなるものであってほしい。

そんなことを考えて生まれた、「草木染めの衣裳着雛飾り」。

染織ブランド アトリエシムラで染めた草木染の裂(きれ)を用いて衣裳着(いしょうぎ)雛人形を仕立てたのは、江戸節句人形の作り手、「蓬生 津田人形」。

埼玉 川越にある津田人形の工房を訪ねて、人形の制作工程やものづくりについて伺いました。

※「草木染めの衣裳着雛飾り」先行ご予約会はこちら

一枚の裂から着物を作り上げる。衣裳着人形づくりの裏側

人形の土台に彫りこまれた溝(木目)に布を入れ込んでいき、人形のかたちに沿って衣裳を貼り重ねていく「木目込み人形」。それに対して「衣裳着人形」は、縫製した着物を、本当に人間が着るように人形の胴体に着付けて作るお雛様です。

「最初に寸法を取って裁断してね、縫製して、着せてみて、おかしな部分があれば寸法を調整する。そんな試作を何回も繰り返して、イメージ通りのお人形に仕上げていくんです」

そんな風に話してくれたのは、津田人形の二代目 津田有三さん。同じく人形師だったお父様(初代 津田蓬生)の手伝いからこの世界に入り、60年以上も人形作りに携わってきました。

津田有三さん(二代目 津田蓬生)
和紙で作る型紙。新しい人形を作る際には、一から寸法を割り出して、調整しながら作成していく。小さなお人形を作るために、非常に多くのパーツが必要

まずは着物に必要なパーツを割り出し、型紙を作成。次に「袋貼り」と呼ばれる方法で紙の四辺にのり付けをして、裂に貼り付けていきます。

「全体をのり付けすると、人形がこわばっちゃうんでね。特に今回の裂は絹の紬ですよね。それを活かすために、自然なシワが出る方がいいので、うちではこのやり方で貼っています」(有三さん)

型紙の四辺に、木の板のような道具で丁寧にのり付けをして、裂に貼っていく「袋貼り」
できるだけ裂が無駄にならないように。かつ、衣裳にした時にグラデーションや模様がきちんと見えるように、この段階で計算して貼り付けていく。長年の経験のなせる技
よどみない手つきで、すーっと裁断していく

裁断が終わると、裂に裏地をつけていき、そしてミシンで縫製して着物に仕上げていく工程へ。

数多くのパーツを、人形に着せたときの色柄の向き、体とのバランスなども考慮に入れながら縫製していきますが、その設計図は有三さんの頭の中にのみ存在します。

小さい人形の着物、襟の部分が特に難しい
いくつものパーツを縫製し、男雛の衣裳が仕上がっていきます

衣裳着雛の常識にはない、「次郎左衛門」をベースにした手描きの顔

雛人形のお顔ですが、木目込み人形であれば手書き、衣裳着人形の場合にはガラスの入れ目、というのが一般的になっています。

ただ、今回中川政七商店が実現したかったのは、写実的な印象が強いガラス目のタイプではなく、もう少し柔らかで、素朴な表情のお雛様。

そこで、衣裳着人形ではあるものの手描きのお顔での制作を検討し、中でも「次郎左衛門(じろうざえもん)」と呼ばれる、元禄時代に考案されたお雛様のお顔をベースにすることを決めました。

丸っこい輪郭に、細い筆で目や口を描き入れて作られる、柔らかな表情が印象的なお顔です。

頭(カシラ)と呼ばれる人形の頭部に関しては、衣裳づくりとは別に専門の職人さんが存在します。今回、その制作を担当してくれたのは、人形づくりの産地 岩槻にある大生人形。

「カシラのことならなんでもできるように、体制を整えています」

と、大生人形の代表で、自身も伝統工芸士として頭づくりに携わる大豆生田さんは話します。

大生人形 大豆生田 博さん(雅号:大生峰山)

大生人形は元々、手描きではなくガラスなどの入れ目の頭を得意としていた工房でした。しかし、産地である岩槻の中でも、手描きができる職人がどんどん少なくなっていき、このままではいずれ作れる人がいなくなってしまうという状況に。

そこで大豆生田さんは、専門の職人から技術を学び、自社でも手描きのカシラを手がけられる体制を整えました。

薄い墨を少しずつ、塗り重ねて顔を描き入れていく。それによってグラデーションが出て綺麗に仕上がるとのこと

「次郎左衛門をベースにしつつ、さらに表情が柔らかいお顔になっているかなと思います。

柔らかい眉毛にしようか、少しきつめにしようか、とフリーハンドで調整していくので、小さいお顔は特に難しいですね」

一つひとつ手描きで仕上げられ、まったく同じ顔は二つとありません
現在は石膏製のカシラが主流。かつては桐塑(とうそ:桐の粉と糊を練り合わせたもの)のカシラが主流だった

「頭(かしら)づくりは、その中でもさらに分業になっていて、たとえば私は人形の化粧を担当しますし、妻は結髪といって髪を結い上げる工程をやってくれています」

頭のくぼみの部分に絹でできた髪の毛を埋めていく
本当に人間の髪の毛を結っているかのよう

結髪を担当する大豆生田さんの奥様は元々美容師をされていて、その経験から、結髪の職人としての技術も高いのだとか。

「こんな人形を作りたい」と、昔ながらの髪型の要望を受けた場合には、古い写真などを見ながら試行錯誤して再現することもあるのだそうです。

大生人形ではカシラ作りの技術をつないでいくために、職人の雇用と育成を進めています。また、先達の技術や知見をきちんと受け継いでいくと共に、CGソフトや3Dプリンターなどデジタル技術への対応も進めてきました。

「昔の技法と、最新のテクノロジーと。色々なことをやれるようにしておいて、その上で使い分けていきたいと思っています」

自ら3DプリンターやCGソフトの操作を習得したという大豆生田さん。「カシラのことはすべてできるように」その真摯な姿勢に、津田人形さんたち人形屋さんからも信頼が寄せられています

模様の位置、腕の角度、佇まい。あらゆることに注意を払う着付けの工程

舞台は再び津田人形の工房へ戻り、いよいよ人形に衣裳を着せる工程へと進みます。今回、着付けを担当するのは、縫製して衣裳を作った有三さんのご子息で、三代目 蓬生である津田周一さんです。

津田周一さん(三代目 津田蓬生)

「お人形はご覧の通りもの凄く小さいので、たとえば着物のグラデーションなんかも長さにすればほんの僅かに入っているだけだったりします。

それがきちんと綺麗に見えるように、先ほど父がやったように縫製をして、着せる時もそれを意識して丁寧に着せていきます」

人に着せるように着付けるとはいっても、サイズが小さい分、少しのズレで印象がガラッと変わってしまいます。

「ここが気になるなぁ、ちょっとここを調整してみよう」

そう言いながら何度も微調整を繰り返し、少しずつ少しずつ着物を重ねていきます。

桐の木でできた胴体に、糊や釘を用いて着物を留めながら着せていく。藁の束で胴体を作る場合もあるが、雛人形の場合、着物の枚数が多く、しっかり留める必要があるので桐の木の方がやりやすいとのこと
縫製の時と同じく、襟の部分を美しく仕上げることは非常に難しく技量を要する。少しのズレも許されない

「今回のお雛様はしっかり重ねが入っています。小さなお人形にこれだけ別々の生地を重ねて着せているので、伝統的な衣裳の着せ方に基づきつつ、中に入れる綿の量を調整して分厚くなり過ぎないように仕上げたり、色々と工夫しています」(周一さん)

腕の向きなど、何度も微調整して姿勢を決めていく
頭(かしら)は接着せず、中に詰めてあるい草に差し込んで固定する
有三さん曰く、「着せてはじめて人形の衣裳が分かる」とのこと

着物の模様の見せ方だけではなく、ぴったり着せるのか、少しゆとりを持たせるのか。そんな事も考えながら着付けていきます。

常に新しいものを作り続ける、津田人形のDNA

今回のように新しい人形を作る際、完成形のイメージやサイズを聞いてから、実際の人間の体を基準に計算して、寸法を割り出していくのが津田人形のやり方。

「うちの場合、人間の身体ありきで計算して、寸法を割り出していきます。なので、人間が取れるポーズのお人形は、大体どんなものでも作れるんです」

と、周一さんは話します。

効率や速さを求める場合、決まった型紙で同様の人形を作り続ける方が理にかなっています。

そうではなく、いわばフリーハンド的に、寸法の割り出しからおこなう津田人形のスタイルは、有三さんのお父様、初代 津田蓬生から受け継がれているものなのだとか。

「うちの父は関西の人形屋の息子なんです。早くに両親を亡くしてしまったので東京に出てきて、そこで蓬玉(ほうぎょく)さんという方に弟子入りして、筋が良かったので蓬生(ほうせい)という屋号をいただいて独立します。

東京が焼け野原になってしまったので、疎開先を経て埼玉に工房を構えました。

師匠の蓬玉さんもとても器用な方で、創作人形的なものも含めてありとあらゆるものを作っていて、父もその流れを受け継いだんですよね」(有三さん)

「それに加えて、祖父は自分でもっと勉強しなければと思ったらしく、当時上野界隈にいた彫刻家や画家の人たちのもとにも通っていたらしいんです。

それが他の人形師とは違う、ユニークな基礎を作り上げたのかなと。おかげで私たちも今、なんでも作るスタイルでやれているのかなと思います。

祖父も父も、本当に色々なものに興味を持つんですよね。たとえば黒澤映画なんかを観て、『あの奇抜な見た目の武者を作ってみようか』なんてことがよくありました」(周一さん)

そんな津田さん達だからこそ、「こんなものできませんか?」と様々な人形の依頼が日々舞い込んできます。

60年を超えるキャリアを持つ有三さん。まだまだ人形作りへの情熱は衰えていません。

「ある頭(かしら)を見て、この顔にはどんな人形が合うかな、なんて考えて。浮世絵風の顔ならそのようにしてみようかって、息子に相談したりして。時代に合わないよって言われることもあるけど、やっぱり作りたいものを作る。その喜びが無いと。

そして作った人形を皆さんに見ていただいて。そういうのが楽しいですよね。

職人って、決まったものを作ることが多いと思うんだけど、私の場合は違うものを作ってみたいというのがあって。今回も、次郎左衛門の顔で作りたいって聞いて、変わってるなぁと思ったけど(笑)、嬉しかったですね」(有三さん)

そんな有三さんの気概を、周一さんもしっかりと受け継いでいます。

「僕も、なるべく色々なものをやって、技術や経験を蓄積していくのがいいかなと思っています。

この業界も、不況というのもありますが、変化しているタイミングですし、昔と違ってどこにお客さんがいるのか分からない。今回のお話をいただいたように、新しいものを作るチャンスがあるなら、どんどんチャレンジしていきたいと思います」

好奇心にあふれ、新たな挑戦を厭わない二人。その話を聞いているだけで、こちらも前向きな気持ちになることができました。

代々受け継がれてきた人形作りの技術と知恵、そして新しいことに挑戦する姿勢を糧に、津田人形のものづくりはこれからも続きます。

文:白石雄太
写真:奥山晴日

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【わたしの好きなもの】家族と団らんしたくなる、お茶を囲む道具たち

秋を感じる日が少しずつ増えてきました。

毎日の飲みものも、冷えた麦茶が最高!だったのがいつのまにか、あたたかい番茶でほっとしたいな、なんて思うように‥‥。

これまでお茶の時間は、あり合わせのマグカップや耐熱ガラスのコップなどで済ませていました。ところが(私事で恐縮ですが)先日入籍し、お互いの家族を家に招くことが以前より増えたこともあり、これを機に湯呑を揃えることにしました。

来客用に茶托のついた、きちんとした湯呑を5脚ほど揃えようかなとも考えたのですが、お客さんといえどほとんどの場合が家族や友人だし‥‥。
肩ひじ張らないほっこりとしたおもてなしができたらいいな。
それにせっかくなら普段から気軽に使ってあげられるものがいいな。

そんな想いから、個性豊かな5つの湯呑を迎え入れました。

それからすぐに夫の家族が遊びに来てくれたので、さっそくみんなでお茶を囲む時間に。

土瓶は直接火にかけられる大きめのものを。陶器の土瓶でお湯を沸かすとまろやかな口あたりになり、お茶がさらに美味しくいただけます。

今回は簡単にパックの番茶を使いました。土瓶の内側に茶葉が漉せる穴が空いているので、茶葉でも楽に淹れることができます

お湯が沸いたらそのまま食卓に運ぶことで、お茶を出している間も家族と過ごすことができます。

新しい湯呑をお披露目すると、自然と「私これが好き」「これかわいい」と、好きな湯呑を選ぶ流れに。なんだか素敵な時間だなぁと嬉しくなりながら、まずは一杯どうぞ、とお茶を注ぎます。

鉄製のウォーマーの上に乗せておくと60度くらいをキープしてくれるので、あたたかいお茶をゆっくりたのしむことができます。たっぷりの容量のおかげもあり、はじめに沸かした後は立ったり座ったりを繰り返すこともなく、ホストである私もいつもよりのんびり(おやつも多めに)楽しめました。

湯呑が空になったらみんな自分で気兼ねなくおかわりしたり、ついでにどうですか?と注ぎあったり。いつも通りの他愛ないおしゃべりだけど、いつもより穏やかな空気が流れているような、とても心温まる時間を過ごせました。

義母のお気に入りはこちら。段があることで持ちやすい形状と、手で包んだ時のやさしい肌あたりがポイントだそうです
日本茶が大好きな義父は、一杯でたっぷり飲めるものを選びました。柄がいいねと褒めてくれ、何度もおかわりをしながら会話を楽しんでくれていました
やわらかい八角形の足が特徴的なこちらが私のお気に入りです。小ぶりな湯呑だと途中でお茶が冷めてしまうことなく、あたたかいうちに飲み切れる!という点が新しい発見でした

湯呑をお迎えしてから、来客時以外にも夫婦でお茶をのむ時間がちょっとした楽しみになっています。

その日の気持ちにあわせて、湯呑を選んで。
手に持ったときに感じる豊かな素材感にほっと安心して。

毎日の何気ない時間がますますあたたかいものになりました。
今回は悩んだ末に5つの湯呑を選びましたが、これから少しずつ増やしていくのもいいなと、いつかの楽しみにしています。

全9種類の湯呑シリーズ。素材も色もサイズも異なりますが、並べたときには不思議と統一感があります。ぜひお好みの組み合わせを選んでくださいね

<掲載商品>
ころ湯呑 瀬戸焼 口紐黄
ころ湯呑 有田焼 白磁ろくろ
ふくら湯呑 益子焼 白泥掻き
萬古焼の直火土瓶 籐 白釉
南部鉄器の土瓶ウォーマ―

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湯呑・土瓶の一覧はこちらから↓

編集担当:岩井

【あの人が買ったメイドインニッポン】#58 作家の安達茉莉子さんが“一生手放したくないもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

ゲストは引き続き、作家の安達茉莉子さん。今回は「一生手放したくないメイドインニッポン」についてのお話です。

それでは早速、聴いてみましょう。

ラヂオは6つのプラットフォームで配信しています。
お好きなプラットフォームからお楽しみください。

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安達茉莉子さんが一生手放したくないメイドインニッポン

安達茉莉子さんが“一生手放したくない”メイドインニッポンは、「宝島染工の藍染リネンシャツ」でした。


ゲストプロフィール

安達茉莉子

作家・文筆家。大分県日田市出身。大学卒業後、防衛省勤務、兵庫県篠山市(現・丹波篠山市)の限界集落での生活、イギリス大学院留学などさまざまな活動を経験。現在は「MARIOBOOKS」の屋号のもと、言葉とイラストを中心とした創作活動を行なう。著書に『毛布 – あなたをくるんでくれるもの』(玄光社)『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)『臆病者の自転車生活』(亜紀書房)『世界に放りこまれた』(ignition gallery)などがある。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回は、建築家の中村好文さんにお話を聞いていきます。11/1(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら

【イベントレポート】「石」の魅力を語りつくす。石工職人と石オタクによるクロストーク……「ものづくりから覗き見るディープな世界展」

中川政七商店が全国各地で出会い、心を動かされたものづくりブランドを紹介するECモール「さんち商店街」。その初めてのポップアップイベント「ものづくりから覗き見るディープな世界展」が、先日都内にて開催されました。

この企画は、日本各地のものづくりや歴史、風土に魅せられた学生たちが経営するセレクトショップ「アナザー・ジャパン」とのコラボレーションによって実現したもの。

つくり手を招いたワークショップや、特別ゲストによるトークセッション、学生セトラー(※)がセレクトした商品の販売など、さまざまなイベントが行われました。

※アナザージャパンの店舗を経営する学生たちのこと

「石」の魅力を語りつくすトークセッション

その中で開催されたトークセッションのひとつが、「異業種コラボな夜咄会 第一夜:石は語る〜生活に溶け込む歴史〜」。

ゲストは、さんち商店街でも取り扱っている石器ブランド「INASE(イナセ)」を立ち上げた石材店の4代目 稲垣遼太さん。そして、地質技術者として道路やダムなどのインフラ整備における石や水の調査業務を行い、“石オタク”としても知られている長谷川怜思さん。

有限会社稲垣石材店(INASE)稲垣遼太さん
石オタク 長谷川 怜思さん(八千代エンジニヤリング株式会社)

それぞれ異なる「石」の仕事をしているお二人をお招きし、ロマン溢れる「石」の魅力を語り合っていただきました。

「かっこいいですよね。ずっと見ていられます」

自己紹介の中で稲垣さんが見せてくれたのは、石の仕入れのために訪れる採石場の様子。自然物である石には二つとして同じものはなく、一つひとつの形や大きさ、色味を見極めているうちに、気づけば半日ほど採石場にいることもあるのだそう。

京都 鞍馬石の採石場

「地球のすごさを感じます。こういった部分を見せていく活動も、これからどんどんやっていきたいんです」

岩の壁がそびえ立つ迫力のある風景に、会場のお客さんたちも「確かに」と頷きながら耳を傾けます。

愛知県岡崎市で約100年前に創業した稲垣石材店の4代目である稲垣さん。墓石や灯篭といった商品を中心に取り扱う中で、「石が持っている価値や面白さ、そしてそれを加工する職人の技術を多くの人に伝えていきたい」と考えるようになり、石器ブランド「INASE」を立ち上げました。

「石でこんなこともできるんだって自分も常に学びながら、熟練の職人との二人三脚でINASEのものづくりに挑戦しています」

ふたつとして同じもののない自然の石の魅力を活かした商品を作るには、高い技術を持つ石工職人の存在が欠かせません
会場に展示されていたINASEの商品

石は本当に面白い

「採石場がかっこいいという話に皆さん頷かれていたので、今日はかなり突っ込んだ石の話もできそうですね」

と、嬉しそうに話し始めたのは、地質技術者で“石オタク”の長谷川さん。

小学生の頃から石に惹かれ、気になる石を見つけては拾って持ち帰っていたという長谷川さん。石好きが高じて、石や地層の地図「地質図」を作成したり、その情報をもとにしたインフラ整備を行う際のリスク調査等を本業としています。

長谷川さんが石の調査を行う際の”三種の神器”。「これがあれば世界中どこでも地質図が作れます」とのこと

「石って、色々な呼び名があると思うんですが、大きく分けると“岩石”と“鉱物”の二種類になるんです。その違いは、例えるなら岩石がおにぎり、そしてお米の一粒一粒が鉱物、というイメージ。

今ここにある石を見てもらうと、中に黒い粒や白い粒が見えると思いますが、こういった鉱物が集まって岩石になっている。なので、同じものは本当に存在しなくて、それぞれが世界で唯一のものです」

と、宣言通りの深い話を、分かりやすく伝えてくれる長谷川さん。

続けて、お気に入りの石Best3の発表や、石の年齢に関するクイズの出題など、会場の人たちの興味を惹きつけていきます。

「石って本当に面白いんですよね。石が元々持っている色つやだけで無限の表現方法があるというか。

その特性と、現代の加工技術を組み合わせて、暮らしに使えるものに落とし込んでいく。やりがいのある素材で、とにかく楽しんでやっています」

と稲垣さんが話すと、

「見た目の話でいくと、太陽光で見ている状態だけじゃなくて、たとえば紫外線をあてると反応する石もあるんですよね。

これとか、ブラックライトをあてると色が変わる部分が見えると思います」

というように長谷川さんも答えるなど、徐々に二人の石への想いもクロスしていきました。

そんな二人に会場からもさまざまな質問が。

“加工の難しかった石や商品はどんなものですか?”

「鞍馬石のお香立てなんかは、非常に難しくて、石を加工する様々な技術を詰め込んで作っています。しかも、その商品に見合った石をひたすら探すところからやるので、なかなか大大変です」(稲垣さん)

”石によって硬さが違うのはどうしてですか?”

「ひとつは材料の違いです。硬い鉱物の代表はダイヤモンド。硬い鉱物が集まると硬い岩石になるし、柔らかい鉱物だと軟らかい岩石になります。

それと石のでき方によって鉱物の配列が変わるので、それによっても硬さや割れやすさが変化します」(長谷川さん)

質問に応じて「これは私から答えますね」というように、それぞれの専門分野を理解しあった二人の様子が印象的な質疑応答でした。

石の価値を伝えていくために

最後に会場から、“稲垣さんに加工してもらうとすれば、長谷川さんはどんな石を選びますか?”というマニアックな質問が。

「難しい…材料の珍しさでいくと、例えば蛇紋岩(じゃもんがん)とか。緑色でかっこいいし、面白いかもしれないですね。

あ、日本全国の石を使った商品というのは、どうですか?」(長谷川さん)

「それは確かに。沖縄の琉球石灰岩とか、北海道の札幌軟石とか、日本全国、北から南まで本当に色々な石があるので。

恐らく職人泣かせではありますけど、やってみたいですね」(稲垣さん)

と、聞いているだけで心躍るアイデアも飛び出したところで、惜しまれながらイベントは閉会。普段、身近なようであまり知らなかった石の面白さや魅力に気づき、石の可能性にとても期待が高まるトークセッションでした。

「岡崎の(石加工の)技術力って、全国でもトップクラスだと思っています。ただ、たとえどんなに美しい石灯篭が作れても、今の住環境では必要とされない。

そのギャップを埋めるために、どんな加工をして、どうやって価値を伝えていくのか。もっと学んで、チャレンジしていきたいと考えています」

今後の取り組みについて稲垣さんはこんな風に話してくれました。

これからのINASEや稲垣さん、長谷川さんの取り組みからも目が離せません。ぜひ注目してください。


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文:白石雄太