まだ知らない沖縄と出会う旅。平成の歌姫へ贈られたアクセサリーや、1年待ちの竹かご

人気の観光地、沖縄ですが視点を変えてみるとまだまだ知らない場所やものも多いのではないでしょうか。

独特の文化が根付く沖縄。深く知ると、世界に誇れるものづくりが数多くありました。

尊敬できるものづくりの現場を訪ねる旅。今日はそんなご提案です。

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沖縄県が安室奈美恵さんに贈ったクガニゼーク

平成の歌姫に沖縄県が贈ったもの。それは世界でただ一人の職人が生み出す「永遠の約束」:金細工またよしの「房指輪」と「ジーファー」

 

安室奈美恵さんの引退に、出身地である沖縄県は「県民栄誉賞」としてあるものを贈りました。

それは美しい純銀のリング「房指輪」と髪飾り「ジーファー」。それらを作ることのできるたった一人の職人を訪ねて沖縄へ。

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沖縄の美しいかご、布バーラ (ウーバーラ)

沖縄でただ一人が受け継ぐ竹細工。「1年待ちの竹かご」が生まれる工房へ

 

沖縄本島でただひとり、沖縄の竹細工を受け継ぎ生業とする方がいます。見とれてしまうほどに美しいその竹かごを作るのは、かご編み職人の津嘉山さん。

竹細工の需要が減る一方で、津嘉山さんの作るものは早くとも半年〜1年以上待ちという人気。工房を訪ね、津嘉山さんが作る、沖縄の竹かごを見せていただきました。

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味噌めしや まるたまのカレー

やちむん まさひろ工房

 

どこか暖かく、どこか懐かしい。

沖縄の素材だけで丁寧につくられた器は、その土地を包む空気と同じ、大きな優しさがあります。

「まさひろ工房」仲村まさひろさんは、沖縄読谷村の北窯に学び、20年ほど前に独立。その窯出しを訪ねました。

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東道盆 沖縄

琉球王朝の最高傑作を、現代のマンション住まいに。21世紀に蘇った幻の「東道盆」プロジェクト

 

琉球王朝時代、中国の大使をもてなすために使われていた蓋つきの器「東道盆」。

それを単なる復刻ではなく、現代の暮らしで使える形で蘇らせた人がいます。その作り手を訪ねました。

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沖縄 LIQUID

日本最前線のクラフトショップは、日本最南端にあった

 

「飲む」をテーマにしたモノ・コトの専門店、LABO LIQUID 沖縄。

ここには、日本のものづくりの最前線が集まっていました。

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沖縄へ旅するなら、お目当ての場所に加えて、ぜひ今回紹介した場所もコースに加えてみていただけると嬉しいです。それでは、よい旅を!

地酒を地元作家の酒器で飲むと、なぜ美味しいのか。その理由、加賀・山中温泉の『和酒BAR 縁がわ』で分かります

「この店のために山中温泉を選ぶ」というファンがいるほど、引きの強いバーが石川県加賀市・山中温泉にあります。

それが、『和酒BAR 縁がわ』。和酒=つまり日本のお酒の中でも「日本酒」に特化したバーで、昼から営業しているため観光客も訪れやすく、もちろん地元客にも愛されているお店です。

マスターの下木雄介さんは利酒師の上級資格である「酒匠」の資格保持者で、お店のこだわりは「地元のお酒を地元の作家や職人が作った酒器で提供する」こと。なぜ和酒バーはこれほどに人々を魅了するのでしょうか。

さまざまな職を経て、日本酒の道へ。

下木さんは1984年、地元の山代温泉生まれ。日本酒バーを営むぐらいですから、さぞお酒が好きだったのかと思いきや、もともとお酒は嫌いだったとか。

地元の高校卒業後は工場や清掃業など、お酒とは関係のない仕事を転々としたそう。21歳で金沢に出て酒屋でアルバイトするうちに、日本酒の奥深さに魅了されました。

以降、「地元でバーを開きたい」という夢を持つようになり、小売酒屋、酒問屋を経て、東京・品川のオーセンティックバーで1年半修業。

2013年に石川県で初めて、日本酒と焼酎唎酒師 の上級資格となる「酒匠」を28歳の若さで取得。そして2014年、『和酒BAR 縁がわ』を開業しました。

建物は築50年ほどの民家を改装
奥には隠れ家的な気持ちになれる個室もある

「つくり手に近いから、日本酒がいいんです」

「なぜ日本酒の道を選んだのですか?」という問いに、下木さんは「日本酒は、つくり手に近いから」と即答しました。

実は下木さん、とにかく探究心が旺盛で、分からないことがあると、すぐに聞きに行かないと気が済まない性格。例えば、お客さんに「どうしてこの銘柄は燗には向かないの?」などと尋ねられたら、その場でつくり手に電話をして聞きます。そうしないと自分も納得して提供できないからです。

でもそれがウイスキーだと、スコットランドまで聞きに行かなければならない。「答えがすぐに返ってくるのが日本酒。また、答えが必ずあるのも日本酒」と下木さん。

日本酒で日本一になったら、世界で一番になれる。

そして、日本酒の道を進んだ理由はもう一つあります。それが「日本酒で一番になれば、世界で一番になれる」こと。

2018年、加賀市より日本初の「sake-ist(日本酒家)」として認定された証書。

ウイスキーやビール、ワインなど他のお酒は世界がフィールドですが、日本酒はすべての学び場が日本にある。なおかつ日本酒は世界でも通用する酒文化です。

「ウイスキーなどは答えに辿り着くまでに膨大な時間がかかり、その時間をかければかけるほど評価される世界。対して日本酒は、興味を持った時にアクションを起こせば、すぐに答えが出る。自分が知識と経験値を積んだことが、すぐに結果に現れます」

酒器は、お酒の“愛のキューピッド”!?

「つくり手に近い方が良い」のは酒器でも一緒。地元のお酒を、地元の九谷焼や山中漆器などの伝統工芸品で提供する理由にも、「つくり手が近いことで、より酒器の想いをききとりやすい」という意図が込められています。

「酒器とは、蔵元の想いをより素敵に伝えるためのもの」と下木さん。どういうことでしょう。

日本酒の味の感じ方は、酒器の形状によって変わると言います。

例えば、天面(飲み口)が外側に開いた盃で飲むと、含み香(口に含んだ時に広がる香り)が強調され、香り高い吟醸酒が一層フルーティーになります。

一方、天面が内側にすぼまった盃は、含み香が柔らかくなります。これで山廃純米のように旨味と酸味が主張するお酒を飲むと、最初のアタックが和らげられ、奥深い余韻となって残るのだそうです。

(※日本酒と酒器の合わせ方について、下木さんに教えていただいたポイントは、後日アップする別の記事にまとめました)

「とすると、酒器の形状によってお酒の長所が際立ち、短所が目立たなくなるのですか?」と聞くと、「そうではありません。酒器は、お酒が告白する時に、成功するシチュエーションを作ってあげるためのものです」という面白い答えが返ってきました。

つまり、お酒はそのままではちょっと主張が強かったり、クセがあったりする場合もある。そんなお酒の主張やクセを「欠点」として隠さずに、「こんな捉え方をすれば素敵だよ」と視点を変えて飲み手に伝えてあげるのが酒器の役割。なるほど!

蔵元の想いが込められたお酒を、その想いを素敵に伝えられるよう、下木さんが形状をオーダーして作家や職人に作ってもらう。何度も試作をし、そのやりとりは1年に及ぶこともあるそうです。

酒器のつくり手も「近い」ことが大切なのだと、話を聞いて納得しました。

ちなみに下木さん、酒器の職人にも、分からないことが発生したら夜中の2時でも「分からん、教えて!」とドアを叩くこともあるそうです(笑)。

僕が美味しいと思うお酒ではなく、今日美味しいお酒を。

また「お酒は自然に影響されるものです」と下木さん。お店を開いてから半年経った頃、あるお客さんが熱燗を飲んで「たしかに美味しいんやけど‥‥もっと季節を感じなさい」と言ったそうです。

「その意味がよく分からず、季節を感じようと店のすぐ側にある長谷部神社に毎日お詣りしました。そのうちに『あ、そうか』と思った。今日のこの気温、この湿度で、美味しいお酒って変わるのだと」

「今日お店にいた僕が美味しいと思うお酒と、外で今日という日を生きてきたお客さんが美味しいと思うお酒は違う。つまり、『僕が思う美味しいお酒』じゃなくて、『今日美味しいお酒』を提供するべきなのだと。僕はそこで自己と離脱できたんですよ」

そんな意味もあって、作家に酒器をつくってもらう際にも「自然」をモチーフにしたフォルムでオーダーすることもあるそう。

熱燗用に九谷焼職人にオーダーした、花の蕾をかたどった酒器もその一つです。

九谷焼職人で伝統工芸士の前田昇吾さんにオーダーした酒器

日本酒は、出身地のタイプに近いものから。

下木さんは物腰が柔らかく、決して薀蓄を押し付けたりせず、日本酒の面白さを優しい加賀ことばで話してくれます。日本酒に不案内な方でも心配は無用。

「何を飲んでいいかわからない人は、どうすればいいですか?」との問いに、こう答えてくれました。

「まずは出身地を聞きます。生まれてから3歳頃まで住んだ場所の味覚が体に合うはずです。ワインは単発酵であり自然に造ることも可能ですが、日本酒は並行複発酵であり、自然に造ることはできない。だからこそ造形美であり、人間の意思が入る。土地が人間をつくり、人間にはその土地の個性が出ます。その個性と近しいものを石川県の地酒で合わせてあげるだけです。

例えば、北海道でも北部の出身だったら、柔らかな旨味が主張し、余韻に控えめな苦みがやや長く続くものを軸に考える。南部なら、含み香にフルーディーな香りが広がり、酸味はやや控えめで全体的にシャープな印象のものを軸に考える。それを石川の地酒に当てはめておすすめします。

自分で日本酒を選ぶ際には、実家から一番近い酒蔵の銘柄を知っておけば、好みのタイプを探す指標になると思います」

実はこのお店、山中温泉に詳しい知人に教えてもらったのですが、その後も再訪しました。酒器やお酒の選び方について下木さんの丁寧な説明を聞くと、日本酒への興味がどんどん掻き立てられるのです。もっと日本酒を知るために、山中へ行きたい! そんな旅に誘い出してくれる一軒です。

<取材協力>
和酒BAR 縁がわ
石川県加賀市山中温泉南町ロ82
0761-71-0059
14時~24時
木曜休
https://www.facebook.com/washubarengawa/

文:猫田しげる
写真:長谷川賢人

 

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〈 日本酒をもっと楽しむ 〉

全国津々浦々、育まれた日本の文化ともいえる「日本酒」を、もっと楽しむ旅と工芸たち。

 

菊正宗の樽酒工房で知った、酒をうまくする樽ができるまで

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樽酒と言えば、おめでたいもの。特別なイベントの時にだけ、鏡開きをして飲むお酒。なんとなく、そんなイメージがあると思います。実は、それは樽酒のひとつの姿でしかありません。

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ポケットに漆器をしのばせ、今宵もまた呑みに行かん

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「こぶくら」──そんな可愛らしい名前の漆器があると知ったのは、岩手県二戸市浄法寺を旅したときだった。

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「徳利」の起源がわかる? 九谷焼の“香りまで美味しくなる”徳利

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創業140年目を迎える石川県能美市にある九谷焼の老舗、「上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま)」の徳利をご紹介したいと思います。

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指名買いする全国の「ご当地和菓子」特集。旅先で教わった6つの楽しみ方

旅先での休憩やお土産に、嬉しいのはやっぱり甘いもの。

ケーキや洋菓子も好きですが、たまにはしっとり、その土地らしい和菓子を旅のおともに。

編集部が取材先で出会ったおすすめと、和菓子を美味しく味わうためのコツをご紹介します。

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<プロに教わる>
日本のおやつ職人・まっちんと行く、京都の厳選あんこ菓子巡り

まっちん

元中川政七商店バイヤーの細萱久美が、その道のプロとめぐるあれこれ。

「まずは長きに渡る友人でもあり、仕事でもお世話になっている『まっちん』こと、町野仁英(まちのきみひで)さんが認める『和菓子』は如何に、ということで京都を一日食べ歩きして『これ』と言う逸品を探すことにしました」

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産地:京都

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<和菓子の本場に行ってみる>
和菓子でめぐる出雲・松江

出雲松江の和菓子

松江は、京都や金沢と並ぶ日本三大菓子処のひとつ。出雲は「ぜんざい」発祥の地だと言われています。

今日は歴史をなぞりながら、和菓子と土地の美味しい関係を覗いてみましょう。

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産地:出雲・松江

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<食べ方も楽しんで>
くるりと糸で切っていただく、北海道秘伝の甘味。

北海道の銘菓「五勝手屋羊かん」

旅先で見つけた美味しそうなお菓子。本格的なお菓子の味はそのままで、小さなサイズのものがあるといいのにな、と私はよく思います。しかも、パッケージも素敵だとなお嬉しい。

そんな想いを知ってか知らずか、嬉しいサイズのお菓子を見つけました。

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産地:函館

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<季節を味わう>

雪やこんこ。雪降る季節に楽しみたい、冬の特別な和菓子

冬の和菓子

日本人は古来から、雪の美しさを工芸やお菓子でも表現してきました。

今日は、家でぬくぬくしながら楽しめる冬景色、もうまもなく去ろうとしている冬ならではの「雪をモチーフにした和菓子」をご紹介します。

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産地:金沢ほか

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<菓子木型で、手作りにチャレンジ>

伝統の菓子木型を使って、自分で作る和菓子体験

菓子木型

今、菓子木型を作る職人さんは全国でも数人。そのうちの一人、四国・九州では唯一の職人である市原吉博さんのすすめで、市原さんの工房から歩いてすぐの「豆花(まめはな)」さんへ。

市原さんの娘さんがオープンさせた、木型を使った和三盆づくりの教室を訪ねます。

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産地:高松

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<カウンター席で、出来立てを堪能>

樫舎の菓子こよみ

樫舎のカウンター席

古都奈良で絶品のお菓子を提供する「萬御菓子誂處 樫舎(かしや)」。

こちらでは、ご主人の喜多さんがつくりあげるお菓子を目の前のカウンター席でいただくことができます。季節や気候に合わせて、食べごろの素材を使ったさまざまな食感の和菓子。その和菓子にのせられた歳時記をお届けします。

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産地:奈良

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気になった記事はありましたか?見ているうちに、口の中が甘ーくなってきました。はやく食べたい。

今度の旅も、美味しい出会いがありますように。

鎌倉をよく知る人が勧める「日帰り鎌倉旅行」の観光地めぐり

旅をするとき、訪れたいのは必ずしも観光地には限らないと思うのです。

その土地に詳しい人から聞く話は興味深く、安心感も手伝って、それなら行ってみたいと感じる場所も多いもの。

そんなふうに考えて、今回は「鎌倉を旅する」というテーマで、地元の人におすすめの場所を聞いてみました。

地元の人も、観光客も楽しめる、鎌倉のスポットを紹介します。

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イワタ珈琲 鎌倉

鎌倉で70年。鉄板メニューのホットケーキは欠かせない〈 イワタ珈琲店 〉

朝10時にオープンする老舗・「イワタ珈琲店」鎌倉駅を降りてすぐ。旅のはじまりにどうでしょう。

看板メニューのホットケーキは、60年ほど前から変わらぬレシピです。熱々のホットケーキに大きなバターとたっぷりのシロップをかけてどうぞ。

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鎌倉 もやい工藝

手しごとの体温を感じに。〈 もやい工藝 〉

県外からのファンも多く訪れる、工芸店。店内には、店主が選りすぐった日本全国の手仕事が集まります。

鎌倉駅から歩いて約15分、鎌倉の代表的な見どころ・銭洗弁天への道すがらにあるので散歩にもおすすめです。

駅まわりの喧騒が嘘のような、静かで落ち着いた環境です。

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手紙舎 鎌倉

15坪のロマンティック空間〈 手紙舎 鎌倉店 〉

由比ガ浜通りにある老舗書店の跡地に2017年にオープンした手紙舎鎌倉店。

手紙社の創業者 北島勲さんと渡辺洋子さんがセレクトしたイラストレーション、器、手仕事の道具・作品のショップとともに、小さな喫茶スペースも設けられます。

手紙社の中では最も小さな15坪のお店ですが、だからこそ作家の息吹が凝縮したような、ロマンティックな空間を楽しめることでしょう。

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鎌倉 松原庵

古民家の良さを生かしたそば店〈 鎌倉 松原庵 〉

“蕎麦前”という江戸時代からの粋な蕎麦の食べ方はご存知ですか?

この食べ方をお客様に味わってもらうために一品料理の品揃えに注力したお蕎麦屋さんが、鎌倉・由比ヶ浜からほど近い「鎌倉 松原庵」さんです。さて、どのような食べ方が“蕎麦前”なのでしょうか。

地元の美味しいお酒とこだわりの空間と共に味わってみましょう。

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鎌倉 THE BANK

伝説のバー〈 THE BANK 〉

2016年10月、伝説のバーと呼ばれた「THE BANK」が、奇跡の復活を果たしました。

新たなオーナーであり、インテリアデザインを担当したのは、ユニクロのグローバル旗艦店、Nike東京本店など、世界中で活躍されているワンダーウォールさん。
実は、ワンダーウォールさんにとってはじめてのプロジェクトは、2000年に誕生したTHE BANKだったのだそうです(!)

2000年当時の話から再オープンまでの秘話をじっくりとうかがいました。

THE BANKの歴史とともに、鎌倉の夜をお楽しみください。

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すこしずつ暖かくなり、お出かけしたい季節になってきましたね。鎌倉へ旅するならぜひ、お目当ての場所に加えて、ぜひ今回紹介した場所も散策コースに加えてみてはいかがでしょう。それでは、よい旅を!

ホテル「KUMU 金沢」で、上質ローカルな滞在を

みなさんは、旅先でどんなところに泊まりますか?

老舗旅館からオシャレなゲストハウスまで、さまざまな選択肢がありますが、そのまちの歴史や文化、人のあたたかさが感じられる宿は、旅をより思い出深いものにします。

やってきたのは、石川県金沢市。

JR金沢駅前の大きな鼓門を出て近江町市場方面へ。そこから香林坊に向かうオフィス街の大通りを歩いていると、今回ご紹介する「KUMU 金沢」が見えてきました。

「KUMU 金沢」は2017年にオープンしたリノベーションホテル。1972年に建てられた建物で、もともとは繊維関係の企業が入るオフィスビルでした。

「KUMU」という名前には、昔から根づいてきた金沢の伝統を“汲む”場所、地域の人たちとチームを“組む”場所、茶の湯を“酌む”場所など、さまざまな意味が込められています。

エントランスでお茶を点てるKUMUのスタッフ。国内外のさまざまなゲストを迎え入れます

建物に入って目を引く大きな木“組み”の天井も、「KUMU」のコンセプトを表現したもの。

この天井は茶室の美学である「不完全さ、簡素さ」を表現

元の建物の表情を生かしつつ、細部に取り入れられている金沢の工芸技術を見つけるのも、このホテルの楽しみ方の一つです。

目的に合わせて選ぶ宿泊スタイル

早速宿泊フロアへ行ってみましょう。

客室はすべて、最大4人まで泊まれる個室。茶会もできるような炉がある畳敷きの部屋から、2段ベッドのあるリーズナブルな部屋まで、目的に合わせて部屋を選ぶことができます。

立体的なお部屋で上下段計4つのシングルベッドのある「LOFT4」

どの部屋も天井が高いので、2段ベッドが並んでも圧迫感はありません。

広々と開放感のあるウェスタンスタイルの「STANDARD4」

カップルや家族、グループでも楽しめそうです。

リビングや小上がりの畳スペースがある「JUNIOR SUITE:Japanese Style Room」

3階と5階にある共有スペースには、大きなティーテーブルがあります。宿泊客同士が今日の旅の出来事を話したり、明日行く場所の情報交換をしてみたりと、新たなコミュニケーションが生まれそうです。

屋上のルーフトップでは、定期的にヨガのクラスを開催。天気の良い日は白山が見えることも。

オフィス街にも関わらず高い建物が少ないので、金沢のまちが見渡せます

館内には気軽に使えるシェアスペースも兼ね備えています。

最上階には8名まで利用できるミーティングスペースが。宿泊者以外もレンタルが可能です

各フロアをめぐりながら金沢アートを堪能

「KUMU金沢」では、1階から6階の各フロアに金沢ゆかりのアート作品が展示。階が変わるごとに趣が異なり、訪れる人を驚かせます。

ロビーには、KUMUのグラフィックデザインを手がけた田中義久氏と飯田竜太氏によるアーティストデュオ「Nerhol」の作品

こちらの塔は、よく見ると、一つひとつのパーツが洗濯バサミで組み立てられているという驚きの作品。金沢美術工芸大学出身のアーティスト高本敦基氏によるもので、洗濯バサミはランドリースペースの目隠しにも使われています。

一輪のスイセンの花。こちらは何でできているかわかりますか?

正解は、鹿の骨と角。細かい部分まで、まるで本物のように表現されています。こちらは彫刻家・橋本雅也氏が手がけました。

書家の華雪氏による「牛」という書は、「十牛図」という禅の思想をモチーフにしたもの。

金沢の工芸品である二俣和紙に書かれています

どの作品も空間に馴染むように展示されているのが、「KUMU 金沢」の特徴。アートホテルのように作品が主役ではなく、見る人の心にそっと語りかけてくるようなさりげなさが心地よいです。作品は全部で13点展示。館内を巡りながら鑑賞するのもおすすめですよ。

まちとの接点が生まれるTEA SALON

「KUMU 金沢」でぜひ利用したいのが、1階のTEA SALON「KISSA&Co.(キッサ アンド コー)」。「どうぞお茶でも召し上がれ」という意味を持つ、禅の言葉“喫茶去(きっさこ)”が由来です。

こちらは宿泊者以外のお客さんも利用できるカフェで、抹茶や加賀棒茶はもちろん、抹茶ビールなどのお酒やおつまみなど、金沢を感じられるメニューが揃っています。和菓子は地元金沢の和菓子店「茶菓工房たろう」のもの。茶の文化に和菓子は欠かせないですよね。

金沢のアンティークショップ「ENIGME」が選定したさまざまな器も美しい
地元の金工作家、竹俣勇壱氏がセレクトした茶釜や茶器が目を引きます

初めてここを訪れた宿泊客と地元の人たちとの出会いの場にもなるTEA SALON。地元の人しか知らないおすすめのお店や普段の行きつけの場所など、観光ガイドブックにはないような情報を知ることができるかもしれません。

イベントやワークショップなども定期的に開催しています

滞在することで、自然に金沢のまちとつながっていくような心地よさを感じる「KUMU 金沢」。いつもの旅をより味わい深いものにしたい方に、ぜひおすすめしたい場所です。

<取材協力>
KUMU 金沢 -THE SHARE HOTELS-
石川県金沢市上堤町2-40
076-282-9600
https://www.thesharehotels.com/kumu/

取材・文:石原藍
写真提供:KUMU 金沢

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〈 金沢に行きたくなったら 〉

春の旅行シーズン前に、こんな記事で金沢のおさらいをしてみてはいかがでしょうか。

見て、触れて、食べられる工芸品。金沢・ひがし茶屋街で金箔尽くしの旅

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中川政七塾長が語る。教育事業「コトミチ」の価値と手ごたえ

「中川淳を10人つくってほしい!」

2015年の秋のこと。新潟県三条市の國定勇人市長から、こんな依頼があった。

株式会社中川政七商店会長にして『さんち』の立ち上げ人、「中川淳」改め「中川政七」(2016年に襲名)と國定市長の付き合いは、2011年に中川が「庖丁工房タダフサ」のコンサルティングに携わった時から。

「そんなに簡単に10人作れるなら、うちももう少し楽になってますよ」と胸のうちで苦笑しつつ、「日本の工芸を元気にする!」ためにはできるだけ多く中小工芸メーカーを再生できる人材を育成することが急務だと感じていた中川は、「わかりました」と頷いた。

三条市市長の國定勇人さん /写真:三条市提供

ここから、中川が塾長になり経営、クリエイティブ、売場までを考えて結果を出せるプロデューサーを育てる教育プログラム「コトミチ」が始動した。

1期は2016年1月から6月まで計6回開催され、23名が卒業。第2期は2017年5月から2017年10月まで、同じく計6回の講座が開かれ、16名が卒業した。

既に「中川流」の取り組みを始めた卒業生が出てきており、三条市に新しい風が吹いている。

今回は改めて「コトミチ」の成り立ちと意義、目指すものについて話を聞いた。

共通言語を作る

― コトミチのコンセプトを教えてください。

中川:以前から強く感じている課題ですが、ブランディングや新商品の開発を進める時に、経営・マネジメント側とクリエイティブ・デザイナー側は、同じ日本語を話しているようで通じ合えていないんですよね。

そのふたつの人種に共通言語をつくろうということです。
同じ言葉を話して円滑にコミュニケーションができれば、プロジェクトの成功率は絶対上がるはずなんです。

それに加えて、共通のフローを持とうと。それぞれのやり方があると思いますが、それを毎回、毎回持ち込んでも、お互いしんどいでしょう。だから、一定の流れを作りましょうということです。

結果的に、受講生も経営者とクリエイティブ系の人がだいたい半々になりました。

― 経営者とクリエイティブ、それぞれが学ぶ場所や機会は多いと思いますが、肩を並べて一緒に学ぶのは珍しいと思います。

中川:そうですね。その「共通言語」のないメンバーで、決算書の見方からお客さんの手に渡るまで一気通貫で学ぶというのがコトミチの特徴だと思います。

一番気をつけたのは、勉強のための勉強にしてはいけないということでした。それで、授業を聞くだけの講座にならないよう、最終回にプレゼンを持ってきています。

過去2回とも20人くらいの生徒が参加したんですが、途中で事業者とクリエイティブにチームを組んでもらう。いくつかできたそのチームで、自社のビジョンや事業計画を作り直してもらって、最後に新ブランドのプレゼンをしてもらうんです。

毎回8社前後、プレゼンするチームが出てくるんですけど、2つ、3つ筋のいいものがありますね。逆に、イマイチだと思ったものは率直に指摘します。それを事業化したら大怪我するので。

中川政七

経営とクリエティブのリテラシーを高める

― 授業項目は「会社の診断」「ブランドをつくる」「商品をつくる」「コミュニケーションを考える1、2」「成果発表会」の計6回ですが、それぞれの内容を見るととても具体的ですね。「商品をつくる」授業では「売値の決定」「予算と初期製造金額」なども含まれています。

中川:経営、クリエイティブ、売場までを把握するために必要な最低限のリテラシーを身に着けてもらい、ちゃんと結果につながる、事業につながる内容にしました。

例えば、クリエイティブな人は数字が苦手というイメージがありますが、工芸の世界では事業者だって決算書すら見ていないことが多いんですよ。みんな会計士に任せっきりですから。

でもそれじゃいけませんよということ。ただ、ROE(株主資本利益率)とかROY(投資利益率)とかそういう難しいことには触れません。A+B、そこからCを引くと営業利益ですという誰でも理解できるような話をしています。

― ブランドや新商品をつくるために、まずは基礎を固めるということですね。中川さんは受講生に何を期待していますか?

中川:これまで、経営者は経営の言葉、デザイナーはデザインの言葉だけを使ってきました。先述したように、それでは同じ日本語で話しているのにかみ合わないから、何をやるにしても穴だらけになってしまうんです。

だからこの講座を受講する経営者には自分のクリエイティブのリテラシーを高めてもらう、デザイナーには経営のリテラシーを高めてもらう。そうやってお互いに理解できる、わかりあえる範囲が重なり合うようになると穴がなくなって成功する確率が高まります。

中川政七氏の手元の資料とメモ

― クリエイティブ、デザインで大切とされる「センス」とリテラシーは違いますか?

中川:中川政七商店のロゴなどを作ってもらってるクリエイティブディレクターの水野学さんが、「センスは知識からはじまる」と言っていました。

僕も大学は法学部で、最初はデザインについて知識がありませんでしたけど、水野さんと付き合うようになって、たくさんのデザインを見るとだんだんわかるようになりました。それは勉強なんですよ。

例えば、海外に5年も住んでいたらある程度話せるようになるでしょう。それが半年でいけるか、2年かかるか、それがセンスの部分ですけど、センスだけで決まるものだとは思わないほうがいいし、勉強しないと成長しません。

もうひとつ、自分でできることとリテラシーは違います。僕、びっくりするくらい絵が下手なんですけど(笑)、それでもデザインはある程度わかるようになりました。リテラシーというのは理解できるということで、経営者が上手に絵を描く必要はありません。

中川政七氏の手元にある書籍「経営とデザインの幸せな関係」

塾スタイルの価値

― 受講生に共通していることはありますか?

中川:皆さん、店やモノについて知識がないということですね。講座の序盤でどんなブランドにしたいかをテーマにすると、よく東京のおしゃれなインテリアショップに置きたいと言います。

でも、「具体的にどこですか?」と聞くと知らない。仮になにか言えたとしても、実際には行ったがないという人が大半です。

それはつまり努力してないということなんですが、「変えたい」と思っているから受講するんですよね。

その気持ちを維持して、実際に一歩を踏み出して変わるために、集団で学ぶんです。入試に向けてみんなで頑張る塾と同じようなもので、僕が塾長です。

マンツーマンのコンサルと違って、塾スタイルは自分でやらないといけないので道を踏み外す可能性は高くなります。そのかわり横のつながりはできる。それまでひとりでもがいていた経営者にとって、共通言語を持つ仲間が近くにいる価値は高いと思います。

インタビューに応じる中川政七氏

― 変化を求める経営者とともに学ぶクリエイティブ系の人たちにとってもメリットは大きそうですね。

中川:間違いありません。今って経営から売り場まで通じた若いアートディレクター、クリエイティブディレクターがいないんですよね。大御所でもそこまで守備範囲の広い人は一握りしかいないんじゃないかと思います。

だから、地方の中小企業と一緒に仕事ができる守備範囲の広い人に出てきてほしいし、20代、30代のグラフィックデザイナーにとって今の時代は大チャンスだと思うんですよ。

特に工芸の産地では、すぐ相談できる、コミュニケーションできる、ブランディングできるデザイナーさんはすごく求められているので。

東京事務所の中川政七氏

最も大切なのは「行動すること」

― 過去2回、講座を担当して手ごたえはありましたか?

中川:行政からの援助はあるとは言え、皆さん自己負担で15万円の受講料を払っています。それなりの覚悟を持って参加しているので、本気度も高いんですよ。毎回、かなりの宿題を出しますが、ちゃんとやってきます。

今のところ脱落者もいなくて、最後まで走りきってくれますね。実際に最終プレゼンの内容がブランドになったり商品化されたりしていますし、良い結果を残しているところも出てきているので、手ごたえを感じています。

僕が大切にしているのは行動することなんです。新ブランドが売れなかったとしても、じゃあどうすればいいかを考えて、もう一度やればいいんです。

失敗なんていっぱいあって、それを糧にして正しく努力を積み重ねればちゃんとよくなる。講座では必勝法ではなくて、その正しい努力をするための型を教えています。

インタビュー中の中川政七氏の手元

もうひとつ、僕と同じようなコンサル的な動きをする卒業生が出始めました。この人なら任せられるなという人には、僕も三条市とは関係ない地域の案件をまわしたりしています。これは市長のオーダー通りですね(笑)

― この教育事業は三条以外でも佐賀で2回、奈良と福井で1回、今年は東京と大阪でも開催されます。全国行脚ですね。

中川:もともとは産地に一番星をつくるということでコンサル事業を始めたんですが、いろいろな産地で一番星だけじゃなく、二番星、三番星が出てこないと産地の再生が間に合わないという現実があります。

だから、塾方式にしてよかったなと本当に思いますね。最初は國定さんに無茶振りされて、「ええっ」て思ったけど(笑)、これだけリアルに動くものが出てくると本当に嬉しいしやったかいがあったなと。

おかげさまでいろいろなオファがーあるんですけど、これからはまずは教育からスタートして、ある程度リテラシーができてから次のステップのコンサルに入ったらもっとよくなるんじゃないかと考えています。

コンサルも、工芸だけではなくて、食や宿まで守備範囲を広げていきます。実際これまでもオファーの6割が食品だったんです。今まで全部断っていたんですけど、これからは違う領域もいろいろなところと連携してやっていきたいですね。

文:川内イオ
写真:mitsugu uehara

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