フィギュアスケートの鍵を握る靴の秘密。羽生結弦や宮原知子が頼るブレード職人を訪ねて

羽生結弦選手と宮原知子選手では、スケート靴の「ある部分」が違う

氷上の華とも評される、フィギュアスケート。

「さんち」ではその華麗な技を生み出すスケート靴の刃、「ブレード」に注目。

1ミリの差が演技を左右するブレードの世界を覗いたら、フィギュアスケートの見方がガラリと変わりました。例えば羽生結弦選手と宮原知子選手では、ブレードの「ある部分」が違うというのです。

氷上の華を支える人

「フィギュアスケートはとても華やかなスポーツですが、裏方はもう、みんな血みどろですね。

怪我や足の故障に苦しみ、練習で泣いて。かなりハードなスポーツです」

語るのは櫻井公貴 (さくらい きみたか) さん。

今回お話を伺ったブレード研磨職人の櫻井さん

年間500足もの依頼が全国から届く、ブレード研磨の職人さんです。

お邪魔した工房は、神奈川県横浜市にあるフィギュアスケート用品店の中にありました。

アイススペース株式会社の建物入り口の看板には、華麗なフィギュアスケーターのシルエットが
建物入り口の看板には、華麗なスケーターのシルエットが

ここはかつて浅田真央選手やキム ヨナ選手の靴の相談にも乗っていたブレード研磨職人、坂田清治 (さかた せいじ) さんが開いたお店。

浅田真央選手やキム ヨナ選手の靴の相談にも乗っていたアイススペース
スケート靴の採寸や試着もできるようになっている店内
お店の一角には、キム ヨナ選手が実際に使用した靴が飾られていました
お店の一角には、キム ヨナ選手が実際に使用した靴が飾られていました

櫻井さんは坂田さんの後継者として、全日本選手権に出場するような選手から趣味としてスケートを楽しむ大人まで、スケート靴のメンテナンスを行っています。

日々スケーターと接し、彼らの苦労や悩みも共にする櫻井さんに、演技の鍵を握るスケート靴の秘密について伺いました。

氷上で体勢を美しく保つ難しさ

「トレーナーの方も、フィギュアは難しいって言います。

例えば短距離走だったら短距離、長距離だったら長距離向きの筋肉をつければいいですよね。

ですがフィギュアの場合は男子なら4分半、長い演目の合間合間に短時間でジャンプを連続して飛んでいかなければいけない。走りでいえば中距離走の途中に、短距離のダッシュが混ざるような感じです。

アウターの筋肉をつけて体が重くなっても駄目だし、体幹や、内側のインナーマッスルを鍛えることが求められるスポーツです。

たまに選手でもやるんですけど、つまずくと非常に痛いんですよ。膝を打って息ができなくなるくらいの痛みが走ります」

氷の上という特殊な環境下で、いかに体勢を美しく保ち、イメージ通りの演技ができるか。

その鍵を握るのが、スケート靴。とりわけ氷と接する刃の部分、ブレードです。

この刃の部分がブレード。ここがフィギュアスケート選手の全体重を支えます
この刃の部分がブレード。選手の全体重を支えます

1シーズンを共にするパートナー

「靴は男女ともに色が違うだけで、中身は同じです。外側は革、靴底は樹脂でできています。女子は白かベージュ。男の子は黒ですね」

櫻井さんはブレード研磨だけでなく、選手の足サイズに合った靴選びや、ブレードの取りつけも行います。

「靴は靴、ブレードはブレードでメーカーも異なります。

靴は革と樹脂、ブレードは金属製ですから、異素材同士を組み合わせるときにバランスを見る必要があるんですね。ちょっとずつ調整しながら取りつけていきます」

工具を使って取りつけていきます
工具を使って取りつけていきます

1シーズンにスケーターが使用するブレードは基本的にひとつだけ。トップ選手でもふたつ持っているかどうかだそう。理由は、履いた時の感覚です。

「一足一足、同じフィーリングの靴というのは作れないんです。

靴も人の手で仕上げているので、見た目は同じようでわずかな個体差が出る。

だからたとえピッタリ同じ位置にブレードをつけても、履いた時の感覚が変わってしまうんです」

フィギュアスケートの靴のブレードの付け方
センターをねらって付けるそうですが、靴裏には何も印がありません!「これも全部フィーリングなんですよ。つける位置は作業者の勘です」
フィギュアスケートの靴のブレードの付け方のチェック
狙った通りの位置になっているか、歪みがないかをチェックします

そのシーズンの滑りを大きく左右するブレード。その種類もまた、技と密接に関わっています。

スケートリンクでフィギュアスケート靴を貸してくれる理由

「たとえば一般の人が休日にスケートリンクに行ったら、貸してもらえるのはフィギュアスケートの靴なんですよ。

それは氷上の競技の中で、フィギュア用の靴が最もオールラウンドな、何でもできる形だからなんです。

フィギュアスケートではスケーティングに加えて、ジャンプ、ステップ、スピンが演目に入ってきます。

だから色々な動きに対応できるようになっているんですね」

安定して動きやすいように、ブレードも中心位置に重心がくるように作られているそうです。面白かったのがスピードスケート用の刃との違い。

「『氷上の競輪』と言われるショートトラックはほぼ左回りにしか滑らないので、わざとブレードを付ける位置を左寄りにしたり、斜めに刃を研いだりします。

刃の厚みもフィギア用は3.3~4ミリに対して、スピードスケートなら2ミリ。少しでも抵抗をなくして、タイムを競うためです」

フィギュアスケート用に絞っても、ブレードは5、6種類あるそう。見分け方のコツを教えてもらいました。ポイントは「ロッカーカーブ」と「トゥ」。

アイスダンス用の靴はトゥが無い?

「よく見ると、フィギュアスケートの刃って氷にぴったり接地しているのではなく、つま先とかかと部分は少し浮いているんです」

たしかに、フィギュアスケートの靴の刃がゆるやかにカーブしています
たしかに、刃がゆるやかにカーブしています

「ロッカーカーブといって、このカーブのきつさや取り付ける位置によって、すべりやすさや用途が変わってきます。

他にも、ジャンプやステップの際に氷をつかむ、つま先のトゥ部分もブレードによって変わります。アイスダンス専用の刃は、ジャンプを飛ばないのでトゥがほとんどありません」

このつま先のギザギザが、ジャンプやステップの際に氷をつかむきっかけとなる
このつま先のギザギザが、ジャンプやステップの際に氷をつかむきっかけとなる

「トゥが大きいとジャンプのきっかけがつくりやすく、氷を叩いたときに靴が横滑りせずにしっかり飛べるようになっているんですね。

だからジャンプ向けになるとトゥがどんどん大きくなっていきます」

羽生選手が使っているブレードはジャンプに特化している

これが選手デビューで大半の人が使うブレードです、と見せてくださったのがこちら。

「中級者向けのコロネーションエースというブレードです」

どのあたりが中級者向けなのでしょう‥‥?
どのあたりが中級者向けなのでしょう‥‥?

「このブレードで大体、ダブルジャンプまでは飛べる感じですかね。

ジャンプのしやすさ、スピードの出やすさ、ステップ、スピンどれをとっても全部星3つ。

クセがなくて、滑りやすさを重視したブレードです。9割ぐらいの選手が入門で使っていますね。

それから選手がステップアップして3回転や4回転ジャンプを目指そうとすると、ちょっと癖があるブレードを選ぶようになっていきます。

ステップをうまくやりたいとかジャンプを究めたいといった用途や個人の好みに合わせてブレードに変えていくんです。

日本選手でいうと、この『パターン99 (ナインティナイン) 』は、羽生くん、真央ちゃんが使っているブレードです」

先ほどのタイプと違い、わかりますか?
先ほどのタイプと違い、わかりますか?

「トゥが大きくなっていて氷をつかみやすい。ジャンプに特化しているブレードですね」

たしかに手前の「パターン99」の方がギザギザがはっきりしています
たしかに手前の「パターン99」の方がギザギザがはっきりしています

「一方これは『ゴールドシール』といって、トゥが小さい」

ズラリ、と並べてくださったブレード。一番手前が「ゴールドシール」。見た目にはほんのわずかな差です
ズラリ、と並べてくださったブレード。一番手前が「ゴールドシール」。見た目にはほんのわずかな差です

「スピンやステップがしやすいブレードです。よく滑るので、スケーティングがうまくないと使いこなせません。

キム ヨナや荒川静香さん、前回のソチ五輪で男子シングル銀メダリストのパトリック チャンが使っていますね。

ロッカーカーブもゴールドシールの方が角度がきついんです。つまり前後にグラグラ動きやすい。

見た目では分かりづらいんですが、実際に滑ると全く違うんですよ。車を替えたような違いです」

選手は自分の癖や飛び方に合わせて、先生やお店で相談してブレードを選ぶそう。

「どのブレードを選ぶかは、大きな決断です。

ブレードを変えてみたら、スケートは滑れるようになったけれどジャンプが全然とべなくなってしまったとか、そういうことが起こります」

刃の状態を整える研磨職人の仕事

選手がタイミングをはかってジャンプに飛び上がる瞬間のことを、櫻井さんは「しめる」という言葉で表していました。

「選手はジャンプのタイミングをコンマ1秒でしめていくんです。タイミングがわずかでもずれると全然飛べなくなっちゃうんです。

しめられずにジャンプが飛べないのをパンクする、とも言いますね。しめきれないと回転が足りずに降りてきちゃったり」

見た目にはわかりづらい、けれども履いたらわかる、滑ればわかる、1ミリの差が演技の成否を左右する、感覚の世界。

しかし選手の全体重を支えるブレードは、氷の上を滑れば滑るほど、摩耗してコンディションが変わってきます。

この刃の状態を整えるのが、研磨職人である櫻井さんの仕事です。

「実はブレードの刃は、U字にくぼんでいます。実際に氷の上を滑るのは、ブレードのエッジの部分なんです。

左右のエッジをよりたててあげると、氷への噛みつきがよくなります」

しっかり使い込んだスケート靴の裏側。エッジが摩耗して、刃全体がフラットになっているのがわかります
しっかり使い込んだスケート靴の裏側。エッジが摩耗して、刃全体がフラットになっているのがわかります

このエッジの具合、演技中にどう「止め」を作りたいかによっても、好みが分かれるそうです。

エッジが深いほど氷との摩擦が大きくなるのでカチッと止まりやすくなり、浅いと靴は横滑りしながら止まります。

選手でいえば羽生結弦選手はしっかりエッジを際立たせるタイプで、宮原知子選手はエッジはちょっと浅めが好みだそう。

「選手は、感覚だけで滑っています。体調やメンタルにとても左右されるスポーツです。

だから僕は、選手がいちばん気持ちよく滑れる状態の刃をイメージして研いでるって感じですかね。

自分が研いでもらったときのイメージとか、あの時はこういう感じだと滑りやすかったな、と選手だった頃のイメージを持っていることが、研磨に活きている思います」

そう、実は櫻井さん、大学時代に全日本選手権にも出場した、元フィギュアスケート選手なのです。

別記事では、選手だった櫻井さんがブレードの研磨職人になるまでのお話も交えながら、研磨の技に迫っています。
こちらからどうぞ。

<取材協力>
アイススペース株式会社
神奈川県横浜市神奈川区広台太田町4-2 ベルハウス神奈川202
http://www.ujt.co.jp/shopinfo.php

文・写真:尾島可奈子
* こちらは、2018年2月8日の記事を再編集して公開しました

夏のお出かけに。人気の「かご」はスイカ用でした

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

自然の素材で編んだ「かご」。素材をていねいに準備し、ひと目ひと目編まれたかごはとても魅力的です。かごは大切に手入れして使えば愛着もわき、またそれに応えるかのようにいい味を出してくれます。

「日本全国、かご編みめぐり」は、日本の津々浦々のかご産地を訪ね、そのかごが生まれた土地の風土や文化をご紹介していきます。

岡山県倉敷に「スイカかご」を訪ねます

今回訪ねたのは、岡山県倉敷市。江戸時代に幕府直轄の「天領」として栄えた町です。倉敷川沿いの柳並木に白壁のお屋敷が美しい美観地区は、そぞろ歩きを楽しむ人で年間を通じて賑わいます。

倉敷の美観地区
川沿いの柳並木
白壁の街並み

今日お会いする作り手さんとも、美観地区で待ち合わせ。白壁に反射する太陽光がジリジリと暑く、ああ今こそスイカが食べたい、と思っているうちに集合場所に現れたのは、20代半ばくらいの、一人の青年。

その人こそが今日ご紹介する「スイカかご」を倉敷でただ一人作る、須浪隆貴 (すなみ・りゅうき) さんでした。

倉敷「須浪亨商店」 須浪隆貴さん

スイカかごは、その名の通りスイカを入れるためのかごですが、その見た目の可愛らしさから最近は買い物かごやお出かけ用にアレンジして使う人も多く、本来の使い方とは違ったところで人気を集めているかごです。

作っているのは倉敷にある「須浪亨 (すなみとおる) 商店」。隆貴さんはその5代目として、スイカかごをはじめとする い草を使った倉敷独自のかご「いかご」を作り続けています。

「今も、八百屋さんでビニール紐にくくられたスイカを見かけますよね。うちで作っているスイカかごも、元は八百屋さんでスイカを手渡す時に使っていたものがルーツなんです」

かごを作っている工房へと車で向かいながら、さっそくお話を伺います。

「持ち運びのためだけでなく、持ち帰って井戸や川で冷やす時に、流されないようにするためのカゴだったんですよ。当時のままだとあまりに荒物っぽいので、現在はもう少しデザイン性のある編み方に変えています」

スイカかご以外にも、買い物かごや醤油の一升瓶が入るサイズのびんかごなど。須浪亨商店の商品ラインナップはどれも、かつてはご近所への買い物に当たり前に使われていたものばかりです。

昭和20年~40年頃にかけてごく普通に買い物かごとして使用されていた「いかご」。スイカかごはその変形版と言えます
昭和20年~40年頃にかけてごく普通に買い物かごとして使用されていた「いかご」。スイカかごはその変形版と言えます
もともとお醤油持ち運び用だったビンかごですが、最近はワインなどの贈りものに使う人も

サイズの大小を合わせると全部で10種類ほどの「いかご」の編み方を隆貴さんに教えたのは、お祖母様の栄さんでした。

「うちはもともと畳や花むしろ (染色した い草で編む装飾的な敷物。「花ござ」とも) を作っていたんです。いかごは、畳に使えないようない草の余りを使って作る生活の中の道具で、いわば本業の傍でやるお小遣い稼ぎ。祖母が内職的にやっていたのを、子どもの頃から手伝って、自然と編み方を覚えていきました」

工房で出していただいたお茶のコースターも、近くの花むしろ工房「三宅松三郎商店」さんのもの

隆貴さんの生活に当たり前にい草があったのには、そしていかごが倉敷で生まれたのには、理由があります。

倉敷独自の「いかご」が生まれた理由

岡山は、日本でも有数のい草の産地。中でも隆貴さんの工房からも近い早島というエリアで、い草作りが盛んになりました。

「このあたりは早島 (はやしま) 、児島 (こじま) 、水島と島がつく地名が多いんですが、どこも干拓地なんです。もともと海だった場所なので、塩気が多くてお米はとれません。それで植えたのが、い草と綿です。

児島はそこから繊維産業が発展して、児島デニムが生まれました。クラレやクラボウといった大手企業も倉敷の繊維産業出身なんですよ。一方のい草は、畳や花むしろ、そしていかごになりました。

カゴの素材としては、実際は竹や山ぶどうの方が強度があるんです。けれど、この一帯には山がありません。一番よくとれる素材が、畳作りの余りで出るい草だったんですね。これなら原価もかからないし、縄状にすれば丈夫になります」

そんな倉敷の地で1886年に創業した須浪亨商店も、本業は畳や花むしろの製造。いかごは傍らで副業的に作っていましたが、4代目を継いだ隆貴さんのお父様が若くして急逝。お祖母様の栄さんは自分一人でも作ることのできるいかご作りだけは絶やさず、隆貴さんが20歳の時に、そのバトンを受け継いだのでした。

5代目と呼ばれて

「もともと椅子や焼き物、家具や器が好きで、プロダクトデザインに興味があったんです。彫金の専門学校に通ったり自分でデニムを縫ったりしながら、継ぐ時に役に立つかもしれないなとグラフィックの勉強もしていました」

現在、隆貴さんは24歳。10代には自分の好きなことを吸収しながら家業を継ぐことも意識し、20歳で家業を継いでからはそれまで内職工賃ベースだった商品の値段を見直し。本業としてやっていけるよう基盤を整えます。日々のかご作りはもちろん、全国の卸先さんとの受注やりとりやホームページの開設まで、全てを一人で切り盛りしてきました。

飄々とした語り口でこれまでを語る隆貴さんですが、伺った全てのことを、わずか4年間で、たった一人でやってきたことを思うと、腹におさめている覚悟と結果を出していく行動力に、ただただ驚くばかりです。

一方、案内された工房では若者らしい一面も。各地から自然と集まってきたというかごのコレクション棚にはキャラクターのぬいぐるみなどがちょこちょこと並び、床に積まれた商品のそばにはゲーム機のコントローラーが置いてありました。

旅先などで珍しいものを見つけるたびに増えていくというかごコレクション。本やぬいぐるみと一緒に棚に並んでいます
作り途中のいかごのそばに、ゲーム機のコントローラーが

「スイカかごは季節が限られて工程も他のかごより手間がかかるので、夜寝る前なんかに、ちょっとぼうっとしながら作るんです」

暮らしの延長のようなかご編みの様子を少しだけ、見せていただきました。

かご作りの様子
一番気に入っていると言う椅子に腰掛けてかご作りスタート
かご作りの様子
結び目の位置を確認しながら、紐と紐を合わせて編んでいきます
かご作りの様子
結び目は広げるとこんな感じ
かご作りの様子
するすると結び目が増えていき‥‥
かご作りの様子
あっという間にかごらしくなってきました!
かご作りの様子
あと一息
かご作りの様子
底の部分の紐を切りそろえます
かご作りの様子
最後にくるんとひっくり返して紐端を内側に入れたら完成!
かご作りの様子

紐状のい草がみるみるスイカかごになるまでおよそ30分。前段階の準備の時間を入れて、およそ1個あたり1時間かけて作っていくそうです。い草を紐状にする工程以外は、全て手作業で行われます。

「い草にも質のいい悪いがあって、検品しながら作っていく必要があるんです。その時その時の縄の状態を見分けながら、かご全体でバランスがとれるように編み方を変えたりします」

全体を引っ張りながら、バランスを見ているところ
全体を引っ張りながら、バランスを見ているところ

「だから僕の出来栄えよりも、材料の出来栄えの方が大きいんですよ。材料がよくない時に普通ぐらいにするのが僕の役目です」

倉敷で唯一の「いかご」の作り手

一帯では2・30年前の時点ですでに、いかごを作っているのは須浪亨商店一軒だけだったそうです。つまり、現在いかごの作り手は倉敷に隆貴さんただ一人。

「技術もこれから伝えていかなければと思いますが、あと10年は、修行の期間と思っています。僕個人は、工業製品も好きです。手作りだからいい、ということもないと思うんですけれど、それでも、僕の様子を見て買ってくださる方が少なからずいると思うので、そういう『人くささ』でやっている部分が、あると思います」

言葉を飾らず、時折鼻歌をまじえながら、24歳の青年の手でコツコツと作り上げられるスイカかご。

その雰囲気も手先も飄々と軽やかですが、先のことをたずねたら、

「一生やっていくつもりです」

と頼もしい答えが返ってきました。

<関連商品>
いかごのバッグ

<取材協力>
須浪亨商店
http://maruhyaku-design.com/


文・写真:尾島可奈子


こちらは、2017年8月25日の記事を再編集して掲載いたしました。

暑中見舞いの時期。「文香」でいつもと違う夏の挨拶を贈ってみては。

暑さ厳しい折、いかがお過ごしでしょうか。

ちょうど今頃、二十四節気の小暑 (7月7日頃) から立秋 (8月7日頃) までを暑中と言うそうです。

そんな夏真っ盛りの時期に、「厳しい暑さですがお変わりありませんか」と互いの安否をたずね合うのが暑中見舞い。

定められた記念日がなくとも、季節の移り変わりに合わせて気持ちを形に表して届ける、というのが四季のある日本らしいなと感じます。

そんな夏の挨拶に使ったら喜ばれそうな文房具を、京都で見つけました。

京都の香老舗、薫玉堂が夏限定で販売する、朝顔の文香

白檀をベースに数種類の香りを調合して朝顔の香りを再現した文香。ふっくらとしたシルエットもかわいらしい

文香 (ふみこう) はその名の通り手紙とともに封筒に入れ、相手が開封した瞬間や読んでいる時間に香りを添えるもの。

はがきで送るのが恒例の暑中見舞いですが、今年は夏らしい香りを添えて封書で送ってみるのはいかがでしょう。少し趣を変えるだけで、季節感や気持ちが一層伝わる贈りものになりそうです。

また文香は、手紙以外にもぽち袋に添えたり、手元で名刺入れやお財布、本や手帳にしのばせて淡い移り香を楽しむこともできます。

作り手は、日本最古の御香調進所。

京都は西本願寺前にお店を構える薫玉堂 (くんぎょくどう) は、その創業を安土桃山時代、1594年 (文禄3年) までさかのぼる日本最古の御香調進所。

以前、「きょうは何の日?」のお香の日の回でもご紹介しました。

代々伝わる調香帳 (レシピ) には、長い年月をかけて自然が熟成させた香木をはじめ、薬種として漢方にも使用される植物のことがたくさん記されているそうです (写真:中島光行)
どこか静ひつな雰囲気が漂う、お香の計り売りの様子 (写真:中島光行)

夏らしい香りを添えて、いつもと違う暑中見舞いを

朝顔の文香は、夏だけの限定販売。花言葉は「固い絆」、「愛情」だそうです。

香りは思い出をよみがえらすと言います。同じ香りをわけあって言葉を交わしたら、離れていても、一緒にこの夏を過ごしているような気持ちになれるかもしれませんね。

香りと一緒に封筒に入れるのは、夏らしい絵はがきでも、話したいことがたくさんあれば便せんでも。「お元気ですか?」の思いを言葉と香りにのせて届けたら、それだけでもう、立派な夏の贈りものの完成です。

<掲載商品>
文香 朝顔 (薫玉堂)

文:尾島可奈子
*2017年7月の記事を再編集して掲載しました。今年の夏は特別な暑さが続いています。お互いの息災を確かめ合う暑中見舞い、改めて良い文化だなと思いました。

奥深きそうめんの世界…産地が違うと味が違う!?

こんにちは。さんち編集部です。
この時期によく食べるものといえばそうめん。皆さんが普段食べているのはどこの産地のものですか?

一口にそうめんと言っても、実は日本各地にそうめん産地があります。そしてそれぞれに独自の味わいがあるのです。最近ではそうめんの美味しさをさらに引き出す新しい食べ方も登場中。

今日は奥深きそうめんの世界を覗いてみましょう。

近頃はそうめん産地を食べ比べるセットも人気です

誤字から始まった「素麺」

そうめんとは漢字で「素麺」。シンプルな麺、という意味なのかと思いきや、実ははじめ「索麺 (さくめん) 」だったものが、索の字が次第に崩れて「素」麺と誤記したのがそのまま名称となったとのこと。なんだか人間らしくて和むエピソードです。

もともとは中国から伝わったもので、日本伝来はなんと奈良時代。長い長い日本の歴史ともにそうめんあり、ですね。

種類は手延べと機械そうめんの2種類。手延べそうめんは、太い紐状に切った生地に撚 (よ) りをかけ、上下に引き延ばしながら日光で干して乾燥させて作ります。

撚りながら生地を延ばすと、そうめんの中心に細い穴ができます。日本農林規格のJAS(ジャス)ではこうした形状や製法、麺の細さから「そうめん」と「手延べそうめん」に区分し規格化しているそうです。

発祥はあの産地

実はそうめんの産地、西日本に多いのをご存知でしたか?そうめんの原料となる小麦、水、食塩の産地が近くにあることや、そうめん発祥の地とされる奈良の三輪地方も近いことから、近世からそうめんづくりが盛んになったとのこと。

試しに日本三大そうめんを挙げてみると、奈良の三輪(みわ)そうめん、兵庫の揖保(いぼ)の糸、小豆島(しょうどしま)のそうめんと、確かに西日本の名産地が多いですね。

そうめんの生地は小麦粉と水、油と塩で出来ています。素材がシンプルなだけに、土地が変われば選ぶ素材も製法も変わり、産地ごとに独特の味わいが生まれています。

例えば先ほどの三大そうめんのうちソフトなコシでつるんと食べやすいのが中力粉の揖保の糸。強力粉を使う三輪素麺は、極細かつコシが強く、独特ののどごし感が特長。宮内庁御用達品のひとつにも選ばれています。
小豆島の天然の恵みがたっぷりの小豆島そうめんは、ゴマ油が使用されていて独特の風味で長期保存もバッチリです。

そうめん研究家・ソーメン二郎さんに聞く、新しいそうめんの食べ方

こうした産地ごとの味わいを愛し、そうめんの楽しみ方を研究するのがそうめん研究家のソーメン二郎さん。三輪そうめんの里、奈良県桜井市のご出身です。ソーメン二郎さんによると、庶民がそうめんを醤油と共に食べるようになったのは江戸時代の元禄時代からとのこと。

かれこれ300年以上似たような食べ方をしてきたわけですが、ソーメン二郎さんによると今いち押しの食べ方は、オリーブオイルとたっぷりの塩をかけて食べる食べ方だそうです!

実食してみると、お出汁でいただくのとは口に広がる味わいも喉ごしも全く別もの。一気にそうめんが和食の世界から解き放たれました。

他にも夏に合いそうな「カレーにゅうめん」や、人気おかずとのコラボ「冷やしとんかつそうめん」、意外とクセになる?「サバ缶そうめん」などまだまだそうめんには未知の伸び代がありそうです。

ちなみに、茹でた後に急に冷水に入れるビックリ水や、 ボウルに氷水を入れてそうめんを浸すこと、ほぐしたそうめんをぐるぐるとかき混ぜることは味を損ねてしまうそうです!やってしまっていました‥‥。

意外と知らない、知ると楽しいそうめんの世界。いかがでしたでしょうか。お中元でいただくことも多いそうめんですが、理由は形状が細く長く、簡単には麺が切れないために、昔から縁起物として好まれていたためだそうです。

これから帰省シーズンで手土産のやりとりも増える季節。そうめんを手土産に、あちこちの産地を親しい人たちで食べ比べてみるのも、いいかもしれませんね。

<取材協力>
そうめん研究家・ソーメン二郎さん
http://somendo.blogspot.jp/

<関連商品>

手延べならではのコシを味わう「奈良吉野 手延べ葛そうめん 5把」

→商品を見る

新しいそうめんの食べ方を楽しむ「素麺のためのレトルトソース」

→商品を見る

定番のめんつゆで。「吉野杉桶造淡色醤油めんつゆ 5倍希釈 360ml」

→商品を見る

贈りものにおすすめ「高橋優製麺所 島原素麺木箱セット」

→商品を見る

贈りものにおすすめ「素麺とソースの詰め合わせ」

→商品を見る

*こちらは、2017年7月25日の記事を再編集して公開しました

着たい浴衣を自分でつくる。縫い物が苦手な私でもできた体験記

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

様々な習い事の体験を綴る記事、題して「三十の手習い」。今回はもうすぐやってくる夏に向け、裁縫初心者の私が昨年挑んだ、浴衣づくりの体験記をご紹介します。

大人になると、暮らしに必要なものは「買う」ことで手に入れるのが大半です。けれどプロ顔負けの料理で友人をもてなす人や、陶芸を趣味にする人がいるように、自分で何かを「つくる」ことには買うだけでは味わえない大きな喜びがあるのだと、この時身をもって知りました。

私が挑んだのは、着たい浴衣を自分でつくる、という人生初のチャレンジ。しかもミシンは一切使わずに、すべて手縫いです。

縫っている様子

縫いものは全く得意でなかった私が、「自分にあった浴衣が欲しい」の一心で、5日間の講座と針と糸だけで本当に浴衣が縫えてしまうまでの体験をまとめました。

参加した講座は、「自分で縫い上げる~この夏の浴衣づくり2017」という全5回の講座。

東京渋谷を中心に街をキャンパスに見立てた学びの場を提供する「シブヤ大学」と、毎月手作りをテーマにワークショップなどを開催する西武渋谷店の「サンイデー渋谷」とのコラボレーション企画です。

年に1度だけ開かれる講座は、毎回参加者が抽選になる人気ぶり。幸運にも当選した運に感謝して、せっかくなので取材させてもらうことにしました。

浴衣姿で前に立つのはこの講座の講師、和裁士のタミカ先生とアシスタントの渡部あや先生。シブヤ大学の佐藤隆俊さんが授業の取りまとめ役を務められます。

タミカ先生 (右) とあや先生 (左)。毎回違う浴衣を素敵に着こなされています

おしゃれなシブヤ大学の佐藤さん。毎年この講座では「おやびん」の愛称で親しまれているそうです

私を含め9人の生徒さんの参加動機も様々。もともと刺繍が好きな方、娘さんの浴衣をつくりたいという方、昨年からの常連さんも。

全員の自己紹介も終えたところで作業に入る前に「そもそも和裁って?」というお話を伺いました。

和裁って何ですか?

そもそも和裁とは和服裁縫の略で、人々が洋服を着るようになる明治以降に登場した洋服裁縫(洋裁)と、区別するために生まれた言葉。

型紙を使わず直線立ちが基本で、ゆったり仕立てて着付けで形を整えます。和服の中でも比較的仕立てが簡単なものや素材によってはミシン縫いのものもありますが、縫製は手縫いが基本。今回の授業もすべて手縫いで行います。

あや先生手作りの針山のプレゼント。これからの長い道のりの励みになります

「ミシンは一定の速さ、強さで縫うので縫い目が強く、生地を痛めやすいところがあります。一方手縫いは人の手で縫う分、縫いは弱くなりますが、その分生地を痛めないのが特徴です。

ミシンで仕上げたものも素敵ですが、自分の手で縫うと愛着もわきますし、自分のサイズにちゃんとあってきますよ」

講座に参加してまずはじめに嬉しかったのが、事前に伝えておいた採寸結果を元に、先生が一人ひとりにあった採寸表を起こしてくれていたことでした。

一人ひとりに合わせた採寸表 (左奥) と講座のテキスト。これ無くして浴衣づくりは始まりません
一人ひとりに合わせた採寸表 (左奥) と講座のテキスト。これ無くして浴衣づくりは始まりません

自分の体型にぴったりあう、世界に一着だけの浴衣。それだけですでにワクワクしてしまいますが、もうひとつ、自分でつくる浴衣の大きな楽しみが、授業が始まって早々に待っていました。

自分でつくる浴衣の魅力
その一、既製品にない好きな柄に出会える

授業が始まる前から人の輪ができていたのが、ずらりと用意された反物の列。

注染 (ちゅうせん) という裏まで柄が染まる技法でつくられた浴衣用の生地は、今回の講座のために用意された蔵出し品。生徒は気に入ったものをひとつ、選ぶことができます。

あれもいい、こっちも素敵、と誰も選ぶ表情が真剣でした

上手に選ぶコツは、肩など顔の近くに当てて全身の姿見で生地を合わせてみることと教わりました。確かに反物でみるのとまた印象が違います。

希望がかぶったら当事者同士で相談、という緊張感漂う条件の中、幸いバッティングもなく生地セレクトが終わり、私のもとに淡い緑色の反物がやってきました。

幸いバッティングもなく生地セレクトが終わり、私のもとに淡い緑色の反物がやってきました。

いよいよ浴衣づくりのスタートです!

自分でつくる浴衣の魅力
その二、運針 (うんしん) でストレス発散

先生の運針の様子

採寸表を元に恐る恐る生地を裁断しおえたら、いよいよ縫製に入ります。タミカ先生によると、実はサイズを測って裁断するまでが一番緊張するところだそうです。

「縫製に入る前に、運針をやってみましょう」

ウンシン。これが全5回の講座、毎回縫い始める前のお約束。先生が目の前で実演してくれます。

指ぬきを利き手の中指にはめて、針のお尻を固定させます。親指と人差し指は、針の先を持つように

針は動かさずに生地を上下に動かして‥‥
針は動かさずに生地を上下に動かして‥‥

先生の運針の様子

右手の内側に生地をためていきます

ためた生地を伸ばしてみると‥‥

あっという間に並縫いができてしまいました。まるで魔法のよう。

「洋裁は針を動かすけれど、和裁は布を動かします。運針は、手縫いの基本的な縫い方のひとつです」

手に持つ針の位置は固定したまま、もう片方の手で生地を上下させる。と同時に針を持つ手の内に生地を手繰っていくことで針が進み、生地が縫われていく、という仕組みです。

見ている分にはできそうなのに、これがやってみると全く勝手がわからない。

みんなで見よう見まねでやってみます

針のお尻を指ぬきにしっかり当てておくのがポイントなのですが、全く針がじっとしていません。一方で慣れた手つきの先生は、それはそれはあっという間に生地を縫ってしまいます。

「初めはきれいに縫うことよりも、まずはこのリズムや手の動きの感覚を覚えることが大事です。慣れると無心になってやれるので、不思議と心が落ち着くんですよ」

そういえば以前、授業前の精神統一にいいと、朝一番に運針をする学校のニュースを見たことがありました。

裁縫に苦手意識のあった当時は、ただ「大変そうだなぁ」と映像を眺めていましたが、私も講座を重ねるごとにどうにかできるようになると、これが楽しい!

集中してきれいに縫えた時はスカッとして、ちょっとしたストレス発散にも良さそうです。嬉しいことに、並縫いならこれまでの2倍以上の速さで縫えるという成果も。

この間知った手ぬぐい生地を2箇所縫うだけでつくれるあずま袋を思い出し、早速縫いたくなってきました。

自分でつくる浴衣の魅力
その三、ゆっくりだんだん、浴衣になっていく過程

つくり途中の浴衣

普段和服を着ない生活のためもあって、和裁には耳慣れない言葉がたくさんあります。部位の名前だけでも「みやつ口」「くりこし」「おくみ」などなど。どこのことかわかりますか?

おくみはここ (前身頃についた細幅の布部分) 、と先生が自らの浴衣で説明

さらには動詞も新鮮です。布端を、表に縫い目が見えないように縫うことは「くける」。アイロンをかけることは「きせをかける」。

縫い見本
縫い見本を見ながら箇所にあった縫い方をします

和裁のアイロン台。普段のアイロンとずいぶん様子が違います
和裁のアイロン台。普段のアイロンとずいぶん様子が違います

これが和裁版のアイロン、電気ゴテ。電気の熱で熱された鉄ゴテで、折り目をつけたりシワをとったりします
これが和裁版のアイロン、電気ゴテ。電気の熱で熱された鉄ゴテで、折り目をつけたりシワをとったりします

耳慣れない言葉が飛び交う中で生地を切ったりあっちと縫い合わせたり、としていくので、初めのうちは自分が何をやっているのか、正直わかりません。

先生も、「今はわからないながらも、とにかく先に進めるのが大事です」と、私たちの頭の上の「?」はすっかり見越した上で励まします。

各人の進み具合を見ながら指導に回るタミカ先生

新しい工程に進むごとに、ひとつを見本にやり方を見せてくれます

それが次第に、身頃ができ、袖が完成し、そのふたつを縫い合わせて‥‥と段々浴衣らしくなっていくと、早く完成させたい、先に進みたい、と何よりのエンジンになりました。

はじめは一枚の布だったものを裁断し‥‥

柄合わせを見ているところ
柄合わせを見ているところ

次第に体にあったサイズの布になっていきます
次第に体にあったサイズの布になっていきます

だんだん、衣服らしくなってきました
だんだん、衣服らしくなってきました

もうすぐ完成です!
もうすぐ完成です!

浴衣づくりはその大半はひたすらに黙々と縫う作業で、一見地味です。さらに和服は左右対称なので、授業では半身をやって、もう半分は家での宿題、自分ひとりでやることになります。

回を追うごとに縫う距離が長くなり、縫い方も種類が増え、どんどん多くなっていく宿題。

それでもなんとか次の講座までにやり遂げて持ってきていたのは、何より作る過程が楽しくなっていたこと、そして楽しくなるほどに、今自分がつくっているこの浴衣への愛着がまして、早く完成した浴衣に袖を通したいと思うからでした。

浴衣らしくなってくると、モチベーションがさらに上がります

自分でつくる浴衣の魅力
その四、愛用の道具をおともに過程を楽しむ

そんな地道な浴衣づくりの強い味方が、愛用の道具の存在。参加された生徒さんは、みなさん自分にとって使い勝手のいい裁縫箱を持参されていました。

何事もまずは形から。初回丸腰で参加してしまった私も、持ち運びにかさばらない小さな裁縫箱を手に入れて使うようになってから、縫っている時間がさらに楽しくなりました。

手のひらサイズの小さな裁縫箱を買いました

世界に一着の浴衣を手に入れて

こうして5回の講座を終え、最後は少し先生に補講もお願いして、いよいよ世界に一着、自分のためだけの浴衣が完成しました!

機械を一切使わず、生地を通る縫い目すべてが自分の手で縫ったものだと思うと、我ながら感心するような不思議な気持ちになってきます。

「好きな柄でつくった浴衣が欲しい」

その一心で始めた浴衣づくり。本当に自分で縫えてしまいました。

自分だけの浴衣を手に入れたことはもちろん嬉しいですが、もう一つ嬉しかったのが、「自分の身につけるものを、自分の手でつくることができた」ということ。

服といえば洋服であっても浴衣であっても、欲しいと思えば「買う」のが当たり前の日々の中で、「自分でつくることができる」は大きな大きな発見でした。

手縫いが当たり前だった時代からすれば、呆れられた上に怒られそうな感想ですが、他の参加者の方の表情を見ていると、決してこの嬉しさは、私だけの感覚ではないように思えます。

袖が付いた!とみんなで喜んでいるところ
袖が付いた!とみんなで喜んでいるところ

難しい工程をやっていると、自然と人の輪が

暮らしに取り入れたいものを、自分の手でつくる喜び。さてこの浴衣にどんな帯を合わせようかと楽しみに思う頭の片隅で、次はこんなものを縫えるかもしれないな、と考えはじめています。

<取材協力>
特定非営利活動法人シブヤ大学
http://www.shibuya-univ.net/

西武渋谷店
https://www.sogo-seibu.jp/shibuya/

<掲載商品>
小さな裁縫箱 (遊 中川)

文・写真:尾島可奈子

*2017年8月7日の記事を再編集して掲載しました。季節は春から夏へ。今年もまた、浴衣に袖を通す日が楽しみです。

お茶を美味しくする茶器の選び方

こんにちは。細萱久美です。

みなさんは珈琲とお茶で言えばどちら派でしょうか。私は、外では珈琲も飲みますが、家だとほとんどお茶ばかり飲んでいます。

最近では、勢いのある珈琲に押され気味なお茶ですが、日本では温暖な地域を中心に複数の産地で相当数の銘柄のお茶が作られています。また、お茶を淹れる急須の産地もいくつかあり、常滑、萬古、信楽などの陶器から有田の磁器、鉄の南部鉄器あたりが有名です。

むしろ日常で当たり前に出てくることも多いお茶ですが、それだけ日本には古くからお茶文化がある訳で、個人的に好きなこともありますが、改めてお茶の美味しさ、楽しさを提案したいと思います。

お茶を楽しむために欠かせない茶器選び

ひとくくりにお茶と言っても、煎茶、ほうじ茶、紅茶、フレーバーティー、雑穀茶、ハーブティーなどあらゆるお茶を、時間や気分によって飲み分けています。

珈琲にも産地やブレンド、焙煎などで多種多様な種類と飲み方がありますが、お茶も種類によって形状から違いがあり、香り・味・水色(すいしょく)もそれぞれに特有なものがあります。そこを上手に引き出すのが、お茶を楽しむ醍醐味と言ってよいかもしれません。そしてその醍醐味を味わうには、お茶に合わせて茶器、とりわけ注器を選ぶことが、美味しさを引き出すポイントになります。

そこまでこだわるのは面倒‥‥と感じるかもしれませんが、これをきっかけに、まずはお茶を急須でていねいに淹れてみようと思っていただけると嬉しいです。

ちなみにハーブティーは別として、日本茶・紅茶・中国茶などの「茶」はすべてカメリア・シネンシスというツバキ科の茶の樹から作られており、それが土壌や気候、特に製法によってさまざまな種類のお茶になります。

烏龍茶に代表される中国茶は実に1000種を超えると言われており、日本茶とは文化も飲み方も異なるので、今回は日本茶を基本に、私個人がおすすめする茶葉と注器の組み合わせをご提案いたします。写真の器は私物ですが、形の参考としてご覧ください。

日本茶で一般的に普段よく飲まれているのは煎茶、ほうじ茶、番茶、玄米茶などでしょうか。特に緑茶のうま味が好きな方は玉露やかぶせ茶も飲まれると思います。うま味を引き出すには低めの温度、香りや渋味を引き出すには高めの温度が向いているので、玉露は60度、煎茶で約80度、ほうじ茶や番茶、玄米茶は100度に近いお湯で淹れます。お湯の温度は、注器の種類にも関係してきます。

急須

急須(作家:伊藤雅風)

煎茶に向いている注器は、ご存知「急須」です。急須は、注ぎ口と直角に持ち手が付いていて、基本の持ち方は、急須を持つ手の親指で蓋を押さえながら、最後の一滴まで絞り切るので、形・サイズなどの持ちやすさは必ず確認しましょう。

陶器と磁器だと、どちらかと言えば陶器がおすすめです。陶器の粘土素地によって雑味が取れ、角のない味のお茶になると言われています。実際に香りは残りやすいので、洗剤の使用は避けましょう。

急須の有名な産地、愛知の常滑や、三重の萬古焼はいずれも陶器製です。形、サイズも様々ですが、茶葉にお湯が回りやすいことと、洗いやすさの点では、蓋がやや広めの形状が使いやすいと思います。

絞り出し

絞り出し
絞り出し(産地不明)

絞り出しという持ち手のない注器もおすすめの形です。持ち手が無いので置き場所もコンパクト、茶漉しも無く洗うのも簡単です。

こんなミニマムな茶器があると気軽にお茶を淹れられます。ただし、手に持つので熱湯で淹れるお茶には不向き。玉露や煎茶を低温で淹れるのに適しています。玉露などの産地でもある宇治では古くから使われている形です。

絞り出し急須(萬古焼 カモシカ道具店)
絞り出し急須(萬古焼 カモシカ道具店)

こちらは、「絞り出し」に持ち手が付いたタイプ。持ちやすく、お茶を絞り出しやすく、洗いやすい形に工夫されています。絞り出すとは、お茶の旨味を最後の一滴まで絞り出すこと。美味しいお茶を、日々気軽に淹れるには便利な急須です。茶葉も煎茶や玄米茶、ほうじ茶など比較的万能です。

土瓶

土瓶(手前が作家:小川甚八に金継ぎ 奥が京焼き)
土瓶(手前が作家:小川甚八に金継ぎ 奥が京焼き)

熱湯でたっぷりと淹れたいほうじ茶や番茶には、土瓶タイプの注器がおすすめです。

土瓶は、上部に蔓形の持ち手が付いていて、名前からも分かるように、陶器が多いですが磁器の土瓶もあります。比較的大振りなものが多く、茶葉の大きなお茶は入れやすく、茶葉も広がりやすいので美味しく淹れることができます。

厚手だと保温力にも優れ、お代わりも熱いまま。我家の夕食後は、雑穀茶がお決まりで、土瓶にお湯を足しながらたっぷり飲みます。姿もゆったりとおおらかなので、リラックスタイムにはぴったりです。

今ではわずかになった直火にかけられる煎じ土瓶が始まりで、良質な耐火土が採れる伊賀は土瓶や土鍋の産地として有名です。煎じ土瓶は私も使ったことがなく、特殊ではありますが、ちょっとした憧れもあります。

ポット

ポット(作家:加藤財)
ポット(作家:加藤財)

注器の形状で言うと、あとはポットがあります。ポットは、注ぎ口と正反対側に縦のわっかの持ち手がついたもの。ティーポットと言うと紅茶のイメージですが、中国茶を入れる小さめの注器もポットの形状が主流です。

今は、色々なデザインのポットがあって、何専用ということもありませんが、適したサイズ感はあると思います。最近では和紅茶も流行っており、紅茶はポットの中で湯が対流することで茶葉がよく開くため、ある程度大きく、丸みのあるポットが最適です。耐熱ガラスのポットだと、対流がよく見えて楽しいですよ。

番外・耐熱グラス

耐熱グラス(HARIO)
耐熱グラス(HARIO)

注器ではないので番外になりますが、耐熱グラスです。二重構造なので、熱いお茶も普通に持てて便利です。やはり手軽さが魅力のティーバッグもよく飲みますが、ティーバッグでも、きちんと蒸らすと蒸らさないでは味も香りも変わります。

おおまかではありますが、それぞれのお茶に適した注器の紹介をさせて頂きました。お気に入りの茶器を見つけたら、何度か淹れてみてお好みの味わいを見つけましょう。

お茶を淹れることはさほど難しいことではなく、人に淹れてあげる気持ちで淹れるといつもより少し美味しくなるかもしれません。

お茶は喉の乾きを潤す以外に、「お茶の時間を愉しむ」といった、お茶を介して時間や空間を愉しめるものだと思います。ちょっと凝り始めたら、お茶と茶器を取り合わせた気軽なお茶会も楽しいですよ。自分に合ったお茶時間をお愉しみください。

<掲載商品>
かもしか道具店 しぼり出し急須

<関連商品>
耐熱硝子の多用急須
萬古焼の耐熱土瓶

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

ホームページ
Instagram

文・写真:細萱久美

※こちらは、2017年1月14日の記事を再編集して公開しました。お家で過ごす時間が少しでも楽しいものになるように、茶器にこだわってみてはいかがでしょうか。