食品サンプルはどこで作られている?
今や、海外観光客のお土産としても人気の食品サンプル。
最近ではスマホケースや文房具、アクセサリーなどの雑貨になっていたり、店頭で使われるサンプルの枠を超えて個人で購入できるアイテムも多く展開されています。
子どもから大人にまで注目される、本物さながらの食品サンプル。どのようにして作られているのでしょうか?その最先端の現場へお邪魔してまいりました!
食品サンプルのパイオニア「イワサキ・ビーアイ」
1932年 (昭和7年) 創業の食品サンプルのリーディングカンパニー・株式会社 岩崎。「イワサキ・ビーアイ」のブランド名で親しまれ、日本国内だけでなく海外からも絶大な評価を得て長きにわたり業界シェア1位を堅持し続けています。
その実績と技術で、博物館で展示される化石や植物などのレプリカや、学校や病院での教材や資料、演劇などの小道具の製作など、食品サンプルの枠を超えた数々の製品・作品を生み出している会社です。
TwitterをはじめとしたSNSでの反響をきっかけに、様々なメディアで話題となった同社の個性的な社内コンクール作品でイワサキ・ビーアイの名前を知った方もきっとたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
コンテスト作品では、発想のインパクトが大きいものも多いですが、本物そっくりのリアルさがあってこそユーモアや独自の視点が光ります。その技術によって私たちの驚きと興奮を呼んでいるように感じました。職人さんたちは日々どのようにお仕事をされているのでしょうか。
世界一の工場、ものづくりの現場を体験!
イワサキ・ビーアイの日本最大級の工場を訪ね、職人さんの製作現場を実際に見せていただきました。
案内してくださったのは、広報の黒川友太 (くろかわ・ゆうた) さん。にこやかに迎えていただき、まずはご挨拶に名刺を交換させていただこうとすると‥‥。すごいものが現れました!
社内の職人さんにお願いして、オリジナルで作ってもらったのだそう。お腹が空いている時に見ると辛くなりそうなくらいリアル。さっそくユーモアたっぷりです。そして、工場エントランスに並ぶ作品にも数々の遊び心が。
工場内に入るまでにも見所が多く、なかなか前に進みません。食品サンプルは店頭でお客さまを惹きつけて店内へと誘うきっかけを作りますが、私も思いっきり惹きつけられてしまいました。ひとしきり拝見したところで、いざ工場内へ!
ここは厨房?料理しているかのように作られる食品サンプル
広々としたフロアには、型を作るセクション、型にビニール樹脂を流し込んで固めるセクション、色付けをするセクション、盛り付けをするセクションなどが並びます。台の上には仕上げ途中の様々な料理やスイーツが並んでいて、さながら巨大な厨房のようです。
本物を使う!究極のリアルを追求した型作り
まずはじめの工程として、料理のパーツの型を起こします。飲食店のお客さまからの発注をもとに、営業さんがスケッチを描き、写真を撮影し、見せたいところなどをヒアリングした資料を作成します。
それを元に製作‥‥とはならず、驚くべきことに、実際の料理を工場へ持ち帰り、実物そのものにシリコンをかけて固めて型を取っていくのです。
お店で提供している料理と同じになるようにとリアリティを追求した結果、このやり方に行きついたのだとか。溶けてしまう素材や、麺類など汎用性のある素材以外は全て細かく型を起こしていきます。
「生もの」は本当に難しい。“らしさ”を追求する色付けの世界
型が出来上がると、次は型にビニール樹脂を流し込んで、サンプルの形を作っていきます。
この後、出来上がったものに塗料を吹き付けて着色するのですが、固まる前の樹脂にベースの色を付けておくと、より本物に近い雰囲気を作り上げられるのだとか。樹脂にベースとなる色を混ぜ込んでからオーブンで熱を加え、硬化させます。
オーブンで熱を加えることで固まるビニール樹脂。加熱後に色味が少し変化するので、仕上がりの状態を予測しながら色を混ぜています。1つのパーツに複数の色を付けたい場合は、部分的に型に流し込んでは加熱する工程を繰り返して仕上げていきます。
形が出来上がった樹脂に色をつけて、本物に近づけていきます。
着色を担当する職人さんにお話を伺うと、大根の煮物など、味が染み込んでいる様子を再現するのが難しいとのこと。透明感を残した奥行き感と醤油や出汁などが染み込んだ美味しそうな雰囲気を出すには、樹脂を固める時の色付けと、後から吹き付ける着色作業との連携が重要と解説していただきました。
そして何より一番難しいのは、「神様が作ったもの」なのだそう。生魚など人間が手を加えていないものの「らしさ」追求は腕の見せ所。ウロコの色合いや質感を再現するには観察力と感性を磨く必要があるとのことでした。
本物にしか見えないタマゴサンド!料理の工程が参考になることも
こうして出来上がった各パーツをお皿の上に盛り付けたり、組み合わせて料理を仕上げていきます。
お米が炊き上がったご飯に変身するように、実際の調理の工程に近い形で仕上がっていくものが様々あり、とても興味深いものでした。中でも印象的だったのが、サンドイッチの製作工程でしたので、ご紹介させてください。
こちらのサンドイッチは、焼き色を付けた白いパンに、カットした具材パーツをはさんで糊付けしています。さて、中心のタマゴペーストの部分はどのように作られていると思いますか?
まずは粘剤を作り、そこに細かく刻まれたゆで卵のような樹脂を合わせて混ぜ込んでいきます。
自宅でタマゴサンドを作る時にそっくりで驚きました。製作する際に、実際のお料理の工程を思い浮かべて、よりリアルな仕上がりで作業効率の良い製作方法を考えていくこともあるのだとか。
仕上げ工程での難しさを伺ったところ、意外なお返事がありました。
苦心するのは、出来上がったサンドイッチを箱などに詰め合わせるところなのだそう。本物を詰めるときは具材の柔らかさを利用してギュウギュウと詰めることができます。
一方で、このふわふわに見えるパンはカチカチ (うっかり失念してしまいそうですがビニール樹脂ですので) 。そのまま詰めようとしても縮んではくれないので、形が崩れない程度に少しずつ削ってパズルのようにはめていくのだそうです。
3Dプリンタでは表現しきれない、「美味しそう」の感性
工場内を見学させていただいた後、工場長の寺島貞喜 (てらしま・さだき) さんのお話を伺うことができました。
「新人の頃は、毎日スーパーや飲食店で食材を眺めていました。食事する時も、どんな風にチーズを伸ばしたら一番美味しそうか?とか、寿司のネタの透明感ってどんなものか?とか、ずっと考えて研究していました。職人は『美味しそうに描く』センスや表現力を培うことが求められます」
「実物や写真を見たままに写す、ただただそのまま作ると『モノマネのサンプル』になってしまって本物の魅力が伝えきれません。一度頭に取り込んで美味しそうな要素を引き立て演出します。3Dプリンタなどで機械的に作ったものより、こうして職人が手で作ったものの方が、魅力や温度感が表現されて、不思議と美味しそうにで映るんですよね。
例えば、シューマイの皮から透けて見える肉の感じ。これを美味そうだなと思うのはどんなところなのか、そこを追求して作っていきます。腕の見せ所です。塗るところ、塗らないところのメリハリや全てを描ききらないでスッキリさせる勇気が必要です。
そうして、クライアントのみなさんの期待や実物以上のものを届けられるようにしています」
工場で働くみなさんの、どうやったらもっと美味しそうに見えるか?と、創意工夫し続ける姿が印象的でした。
社内コンクール作品の展覧会や、食品サンプル作り体験も実施
イワサキ・ビーアイでは、普段の仕事で培った技術や感性を思いっきり使って自由な創作ができる、腕試しの機会として年に1度の社内コンクールが開催されています。
普段のクラアントワークではできないような自由な創作ができる機会。職人さんモチベーションの高さには、そうした気持ちを大切にする風土や環境作りが大きく影響しているようにも感じました。にこやかで雰囲気の良い場で日々生み出されるクリエイティブ。
社内コンクール作品は、「おいしさのアート展」として毎年夏に一般公開されています。子どもから大人まで魅了する食品サンプルの世界。タイミングが合えば、ぜひ訪れてみてください。最新情報は公式サイトから。
◆食品サンプル作り体験
同社の消費者向けブランド「元祖食品サンプル屋」では、一般客向けの食品サンプルや、食品サンプル製作キット「さんぷるん」の販売、昔ながらのロウを使った食品サンプル製作体験も行なっています。大人も子どもも参加可能です。
<取材協力>
株式会社岩崎 (イワサキ・ビーアイ)
文・写真:小俣荘子(一部写真:イワサキ・ビーアイ提供)
こちらは、2017年8月13日の記事を再編集して公開いたしました。