11月8・9日、いいパックの日。紙の可能性を探求した「紙器具」

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

日本では1年365日、毎日がいろいろな記念日として制定されています。国民の祝日や伝統的な年中行事、はたまた、お誕生日や結婚記念日などのパーソナルな記念日まで。数多あるなかで、ここでは「もの」につながる記念日を紹介しています。

さて、きょうは何の日?

11月8・9日、「いいパックの日」です

11月8日と9日で「11・8・9 (いいパック) 」と読む、語呂合わせ。簡易包装を勧める日として、通商産業省 (現在の経済産業省) が1991年に制定しました。エコへの意識が高まるなか、現在では、シンプルな包装やエコバックの活用といった考えも浸透してきていますね。

これからの「紙」の可能性を考える

一方、デパートで販売されているお菓子や化粧品、大手テーマパークのお土産品の箱など、商品に付加価値や物語を与える役割を担うパッケージも存在します。

さらには、単に「包む」という役割を超えて、ファンデーションのコンパクトとしてそのまま使える紙箱を開発するなど、包材の次の一手を打ち出す会社もあります。

そのひとつが、TAISEI株式会社。精緻な設計と技術による、機能性とデザイン性を追求した美しいパッケージ作りで高く評価され、紙の印刷・加工の世界で確固たる地位を築いています。

製本の技術を活用して作られた化粧品の携帯ケースとして使える紙箱
製本の技術を活用して作られた化粧品の携帯ケースとして使える紙箱

今日は、パッケージ作りの第一線を走るTAISEI株式会社が新たにチャレンジした、時代と向き合って生まれた新ブランド「大成紙器製作所」が生み出した「もの」について紹介します。

「紙器具」を提案するブランド

TAISEI株式会社の1919年創業時の名前である「大成紙器製作所」を掲げたブランドは、紙から生まれる文化を耕し、作り手と使い手を繋げることを目指しています。

彼らがつくる「紙器具」とは、紙を私たちの暮らしに寄り添う道具と考え、その価値を再発見して「伝える・収める・設える」を理念において、つくられた新しい日用品のこと。

紙を筒状に成形する紙管 (しかん) の技術と手仕事を取り入れた小物入れ「TUBE STAND」。ペンを立てたり、机の上の小物をまとめやすいサイズで、2種類を組み合わせて使用することもできます。特許を持つ紙管の技術で型くずれしにくい、しっかりとした作り
紙を筒状に成形する紙管 (しかん) の技術と手仕事を取り入れた小物入れ「TUBE STAND」。特許を持つ紙管の技術で型くずれしにくい、しっかりとした作り
スリットのある引き出し型書類ケース「PULL SHELF」。前面のスリットは書類を入れる窓でもあり、引き出す取手にも。スタッキングした際にも引き出しやすい形
スリットのある引き出し型書類ケース「PULL SHELF」。前面のスリットは書類を入れる窓でもあり、引き出す取手にも。スタッキングした際にも引き出しやすい形
紙ひもの取手がついた書類ボックス「PULL BOX」。手元に引っ張りやすく、箱自体は縦・横のどちらで使っても裏が見えず美しい
紙ひもの取手がついた書類ボックス「PULL BOX」。手元に引っ張りやすく、箱自体は縦・横のどちらで使っても裏が見えず美しい

「『なぜ紙箱屋が一般向けのブランドを立ち上げたの?』とそこら中で聞かれました。
昔ながらの職人気質というか、保守的なところもある業界なので、紙箱を作るならそれに専念して追求するべきという考えの会社さんも多く、かなり特殊に映ったところもあるのでしょうね」

そう話すのは、紙器具の生みの親である、TAISEI社長の細水雄一郎 (ほそみず・ゆういちろう) さんです。

「私たちが大切にしている先代の言葉に“somethig different”というものがあります。

他とは違うこと、新しいことをやってみよう!という考えです。紙の価値を高めていこう、品質の高いものを広めていこう、というチャレンジ精神を持って取り組んでいます」

その言葉の裏には、TAISEIにとっての挑戦だけではない、わたしたち使い手と、業界全体にまたがる「考えのズレ」を埋めていこうという想いもありました。そのきっかけは、細水さんの子ども時代にまでさかのぼります。

妹の罪悪感と、エコ素材としての紙

TAISEI社長の細水雄一郎さん
TAISEI社長の細水雄一郎さん

「今では笑い話なのですが‥‥私の妹は幼い頃、わが家が悪いことをしていると悩んでいたそうなんです。環境問題が大きく取り上げられる時代に紙箱を作る家業に罪悪感があった、と。

でも実は、紙って非常にリサイクル率の高い素材なんです。紙製品全体の6〜7割がリサイクルされています。箱の内側に使われている厚紙などは、ほぼリサイクル紙。

省資源で軽くて、捨てやすい。そして何度も循環させられます。そのため、樹脂や缶などの素材から紙のパッケージに切り替える商品も増えています。何かを包む必要があるとき、紙は環境にとっても良い選択肢なのです。

ただ、デジタル化の波もあり、印刷物が全体的に減ってきているために、質の良い古紙が集まりにくいというのが最近の課題です。そうなると、循環が滞ってしまいますから、古紙でまかなえていたシーンであっても、新品の紙をつくるときの原料であるバージンパルプを使わなければならない状況すら生まれてしまう。

今の状況を見ていて、自分たちの会社のことだけでなく、業界全体を考えて元気にしなければならない。そして健全な循環をさせていきたい。そう考えるようになりました」

「自分たちが好調な時にこそ、業界全体を考えた次の一手に出たい」と細水さんはいいます。そうして考え抜いた末にたどり着いたのが、「紙の道具」だったのだそう。

生活で使われる道具から、紙の良さを伝えていきたい

大成紙器製作所

「化粧品のケースとして使える紙箱の開発などを通して、紙の利点や機能について改めて考えるようになりました。これを違う形でも活かせないか?と。

コストの低さ、素材の軽さ、気軽に扱えること、エコな点など紙の強みは色々とあります。紙の可能性はまだまだ広げられるはずです。

紙の価値をもっと高めて広げていけないかと考えた時に、パッケージのような間接的な商品だけではなく、一般のお客様にとっての直接的な商品そのものを作って魅力を伝えていくことを思い立ちました。もっと生活の中で役立ててもらえる商品が作れるのではないかと。

紙以外の素材で作られることが一般的な生活道具、たとえば収納アイテムなどを紙で作ってみてはどうかと開発が進んでいきました」

紙で作られた道具は、軽くて扱いやすく、素材ならではの風合いが空間に柔らかい印象を与えてくれるものでした。

紙の特性を生かした道具づくり。これから生まれる「紙器具」も楽しみです。

<取材協力>

TAISEI株式会社

<掲載商品>

PULL BOX (大成紙器製作所)

PULL SHELF (大成紙器製作所)

TUBE STAND (大成紙器製作所)

文・写真:小俣荘子

 

こちらの記事は2017年11月の記事を再編集して掲載いたしました

 

敬老の日に贈る。メガネの聖地で作られた美しい携帯ルーペ

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

たとえば1月の成人の日、5月の母の日、9月の敬老の日‥‥日本には誰かが主役になれるお祝いの日が毎月のようにあります。せっかくのお祝いに手渡すなら、きちんと気持ちの伝わるものを贈りたい。この連載では毎月ひとつの贈りものを選んで、紹介していきます。

敬老の日に、元気な日々を過ごすための贈りもの

今回のテーマは「敬老の日」です。

「敬老の日」は、1947年に兵庫県の多可郡野間谷村 (たかぐんのまだにむら、現在の多可町八千代区) で、「老人を大切にし、年寄りの知恵を借りて村作りをしよう」と、9月15日に敬老会を開いたのが始まりといわれています。

当初は「としよりの日」、その後は「老人の日」と呼ばれましたが、1966年に祝日法で国民の祝日として「敬老の日」と定められました。祝日法が改正された現在は、9月の第3月曜日に制定されています。

「多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う」とされる敬老の日。国が定める「高齢者」は65歳以上ですが、現代の日本では、いつまでも若々しくてお元気な方々がたくさんいらっしゃいます。

結婚や初孫、還暦や古希、喜寿といった節目をきっかけにお祝いを始めることが一般的ですが、両親や祖父母、お世話になっている人生の先輩に対して感謝を伝え、これからも元気で日々を楽しんでくださいね、という思いが伝わるお祝いを贈りたいですね。

メガネの聖地 鯖江で作った「読む」「見る」のお助け道具

そこで選んだのは携帯ルーペ、その名も「読書グラス」です。

めがね産業110年以上の歴史を持ち、世界三大産地のひとつである福井県・鯖江市。国産品としての国内めがねフレームのシェアは、なんと90%以上を誇ります。そんな鯖江めがねの製法を活かして作られました。

読書グラス
読書グラス。軽くて手に馴染み、扱いやすいのは、長年培ってきた鯖江のめがね作りの技術があってこそ

新聞や書籍を読む際、お買い物の時など、細かい文字が見づらい場面で、さっと手に取って使えるデザインです。本体上部に小さな穴が開いているのもポイント。首から下げたり、手からすべり落としてしまわないようにストラップを通したりできます。

ストラップを付けてすぐに使えるように
紐やストラップを付けて使いやすく

最近、見えにくいけれど‥‥

この読書グラス誕生のきっかけとなったのは、ある先輩女性の言葉でした。

「まだ老眼鏡はかけたくないけれど、かと言って素敵な携帯ルーペにはなかなか巡り会えない。私に合うものが欲しい」

制作チームによる、アクティブな大人の女性がスタイリッシュに持てる携帯ルーペづくりがはじまりました。

目指したのは、使い心地の良さと美しさが共存するもの。

フレームのカーブの角度は、手に馴染むなめらかさと美しさを追求し、何度も調整されました。鯖江の職人さんの腕の見せ所です。レンズの度数は、初めて老眼鏡を使う人が使いやすい度数に設定されています。

大きさは、小さなハンドバッグに忍ばせられるカードサイズ。「おしゃれして買い物にでかけても、店頭で値札が見えない」という声を受けて、お出かけ先で取り出しやすくしました。また、レンズ部分が傷つかないように収納して持ち歩ける、専用の小袋も付いています。

色は鯖江のメガネとしてスタンダードな黒と茶色の2色展開です。

レンズ部分が傷つかないよう、収納して持ち歩ける専用の小袋付き
フレームカラーと合わせた専用の小袋付き カラー:茶

黒のフレーム
カラー:黒

まだ老眼鏡にためらいがあったり、購入に迷っている方も、贈られたら便利で嬉しいもの。贈りものとしても選びやすいように化粧箱も用意されています。

贈りものとして使いやすいように化粧箱に入っています
化粧箱に入っているので贈りものにも

「見える」って、好奇心や楽しみを広げてくれる重要な機能。道具を使うことで、年齢を重ねても毎日を充実して過ごせたら。日々の暮らしの中で役立ててもらえる実用的な贈りものは、お互いにとって嬉しいものですね。

<掲載商品>

鯖江のメガネ屋さんで作った読書グラス(中川政七商店)

文:小俣荘子

こちらは、2017年9月11日の記事を再編集して掲載いたしました。

7月23日、ふみの日。手紙を彩る小さな芸術品「切手」

こんにちは。ライターの小俣荘子です。
日本では1年365日、毎日がいろいろな記念日として制定されています。国民の祝日や伝統的な年中行事、はたまた、お誕生日や結婚記念日などのパーソナルな記念日まで。数多ある記念日のなかで、こちらでは「もの」につながる記念日をご紹介していきたいと思います。
さて、きょうは何の日?

7月23日、「ふみの日」です

「ふみの日」は、日本の郵政省 (当時) が1979年に制定した記念日です。「手紙の楽しさ、手紙を受け取るうれしさを通じて文字文化を継承する一助となるように」という考えのもと生まれました。旧暦で7月は「文月」。23日の「ふみ」の語呂合わせとの掛け合わせなのだとか。

必要事項を伝達する道具としてだけでなく、思いを交わしあったり、感謝の気持ちや季節の挨拶を伝える手段として必要不可欠だった手紙。
電話やインターネットなど新しい技術の登場によって、主要な連絡手段ではなくなった一方で、特別感が増しているようにも感じます。送り主の筆跡とともに受け取るメッセージは、まるで贈りもののよう。送るとき、相手のことを思い浮かべながら、どんなしつらえにしようか思いを巡らせる時間も楽しいものです。そんな手紙に彩りを添える存在が切手です。
郵便料金を証明する金券としての役割を超えて、とりどりのデザインで目を楽しませてくれる切手。「小さな芸術品」「紙の宝石」とも呼ばれます。切手の製造元として、日本の切手の歩みや技術情報をはじめ、国内外の珍しい切手を所蔵、展示している国立印刷局の「お札と切手の博物館」でお話を伺いました。

偽造防止とデザイン性を両立する遊び心

切手は、1840年にイギリスで生まれました。日本で最初の切手は明治4 (1871) 年に発行されています。竜が2匹描かれた「竜文切手」です。

日本で最初の切手。偽造防止のための細かい絵は全て手彫りの版で刷られていました

金券である切手は、偽造防止の意味合いもあり、細かい細工や印刷技術をたくさん盛り込んで作られています。さらにはその技術を活用しながらデザイン性の追求も行われました。

日本で最初の多色凹版印刷切手。細かい1本の画線の途中でまったくずれずに色が変わります。色ごとに版を用意する手法では真似できない色表現。とても手間がかかり再現しにくいことから偽造防止効果が高い印刷技法です (日本 10円 1959年)

カナダ 8ドル 1997年

特に高額切手では、偽造防止の工夫と美しさを両立させる遊び心が伺えることも。こちらはカナダの高額切手。細かい文字の印刷や微細な線で描かれる凹版印刷をはじめ、空や草の印刷には小さな熊のイラストのドット (微小連続模様と呼びます) が用いられ、右足の部分には「8」の文字が隠れています。

細かい文字で描かれたイラスト (日本 90円 1998年)

変わった素材を使った切手も

記念切手など特別な切手では、描かれるものだけでなく、素材が風変わりなものも。布やガラス、貝や金属など様々な素材が使われています。また、四角以外の形のものや、特殊なインキを使い、光ったり香りがするものなど日々新しいアイデアの切手が生まれています。

伊勢志摩サミットの記念切手。シルクに印刷されています (日本 2016年)

布で作られた変形切手にビーズがついた立体的な切手

眺めていると、ついつい色々なデザインの切手が欲しくなってしまいます。集めるのも楽しいですし、使うときに選ぶ楽しさもあります。
暑中見舞いやお中元のお礼状、旅先から大切な方へのお便り。この夏は、お気に入りの切手を選んで、誰かに手紙を出してみませんか?

◆平成29年度 第1回特別展
「切手の国の探検隊~めずらしい切手を求めて~」
会期:2017年 (平成29年) 9月3日 (日) まで
開催時間:9:30~17:00
http://www.npb.go.jp/ja/museum/tenji/tokubetu/index.html

<取材協力>
お札と切手の博物館 (国立印刷局)
東京都北区王子1-6-1
03-5390-5194
http://www.npb.go.jp/ja/museum/index.html

<関連商品>
筆ペン
鹿の家族 革巻きペン
名尾手すき和紙 ちぎり便箋
苗字封筒 (ここかしこ)

文・写真:小俣荘子 (切手資料画像:国立印刷局 お札と切手の博物館 提供)

※こちらは、2017年7月23日の記事を再編集して公開しました。

香りをたのしむ蚊取り線香。使い切りに便利な小さな「蚊とり香」の魅力

カラフルな小さな蚊取り線香、“いい仕事”してくれます

青々とした草木の様子や虫の声など、生き物たちの生命力を感じるこの季節。虫除けの対策もしたくなるところです。

せっかく用意するなら、かわいらしいものはないかしら?と思っていたらこんなものを見つけました。

ほのかに香り漂う小巻タイプの蚊とり線香です。赤は朝顔、緑は西瓜、黄は柑橘系、青は海風と、色により香りが異なっていて、柔らかく優しい香りで虫を遠ざけてくれます。1巻が約2時間の燃焼時間なので、ちょっとした屋外でのひとときのお供として活躍しそうです。

先人の知恵と、自然由来の成分を活かして

製造は、紀州に根差した100年企業「紀陽除虫菊 (きようじょちゅうぎく) 株式会社」。

社名にも入っている除虫菊は、虫が嫌う成分が含まれている部位があり、茎を火にくべるだけでも除虫効果を発揮するといわれているそうです。その除虫菊からつくられた粉末を主成分に、昔ながらの製法の蚊とり線香をつくり続けています。

製品の質を決定づける除虫菊の粉末と燃焼を安定させる木粉、粉同士をつなぐための粉などを配合する作業は今でも職人さんが担当し、品質を保っているのだとか。

丁寧につくられている様子が伺えます。そうしてつくり続けてきた蚊とり線香に香りのエッセンスを加えて生まれたのが「蚊とり香」なのだそうです。

お出かけのお供としても、ちょっとしたお土産としても喜ばれそうな小さな蚊とり線香。優しい香りで、夏のひとときが楽しめそうです。

<掲載商品>
蚊とり香

文・写真:小俣荘子


—— なにもなにも ちひさきものは みなうつくし
清少納言『枕草子』の151段、「うつくしきもの」の一節です。
小さな木の実、ぷにぷにの赤ちゃんの手、ころっころの小犬。
そう、小さいものはなんでもみんな、かわいらしい。

こちらは、日本で丁寧につくられた、小さくてかわいいものを紹介する連載「ちひさきものは、みなうつくし」から、2017年7月3日の記事を再編集して掲載しました。

お中元・お歳暮はなぜ贈る?起源と歴史、現代のルールを知る

6月も半ばを過ぎ、駅やデパートなどで「お中元」の言葉をよく目にするようになってきました。近年では、虚礼廃止ということで企業間のお中元・お歳暮のやりとりは減ってきたものの、やはり「お世話になった方に感謝の気持ちを伝えたい」「夏のご挨拶として贈りたい」と考える方は多く、年間を通じての贈答品の割合データを見るとお中元・お歳暮の時期が最も多くなっています (総務省2015年11月家計調査) 。

思いのこもった贈りものは、やはり嬉しいもの。今日は、お中元・お歳暮の起源や歴史、現代に残るしきたりなどをご紹介します。

お中元の起源

お中元の由来は中国の暦にあります。中国では、古代から旧暦で上元 (1月15日) 、中元 (7月15日) 、下元 (10月15日) の3つにわける歴法があり、道教の教えから中元の日に神様にお供え物をした人は罪を赦されると信じられていました。仏教の影響から盂蘭盆 (うらぼん) の行事と結びついてご先祖様を供養する日になったと言われています。

これが日本に渡りました。日本にも、1年を1月と7月で2つに分けて祖霊を祀るという考え方があったことから、お中元・お歳暮が年中行事として定着していったと言われています。

現代のような、ものを贈りあうスタイルとなったのは、祖霊など神へのお供え物を人々で共に食べる「共食 (きょうしょく) 」をするために配ったり、贈ったりしたことが始まりと考えられています。

主な品目が食料品になったわけ

民俗学者の柳田国男の説によると、餅・米・酒といった食材には特別な力があると考えられていたため、祭りなどのハレの日の祝宴におけるお供えとして用いられ、お供えものを人々で分かち合って食べることで、神と人間との共同飲食をするということが贈答の重要な目的だったと言います。

そのため、ハレの日の食べ物が贈答品として用いられることが慣例となっていきました。

また、交際の観点から柳田国男の研究を引き継いだ和歌森太郎によると、贈答は、お互いに1つの火で煮炊きしたものを分け合うことを簡略化したものであり、そうした食物を共同で飲食することが「つきあい」になると人々が考えたためと言われています。

祭りの場に参加できない人に食料を贈ることは、直接居合わせない人との共食を意味するようになったのです。宗教的な意味合いでの共食に加え、交際の意味合いでも贈答は大事な役割を持ちました。村落社会の中で、個人間、家族・親族や近隣とのつながりを強く持つことになり、共同体意識を高める視点からの共食に発展し、そのことがコミュニティにおける秩序維持の効果もあったと考えられています。

現代では、共食というような本来の意味はほとんど意識されなくなっていますが、依然として食料品がお中元・お歳暮の主な品目として使われていることはこの名残なのかもしれませんね。

お中元の歴史

お供え物を人々で分かち合う共食から始まったと考えられる風習が、次第に、親や仲人、上司などの目上の方、親戚や知人に対して主に餅や米、麺類、酒などの食料を贈る贈答習慣として定着していきました。

15世紀ころにからは、生見玉 (いきみたま) と称して、故人だけでなく、健在である親の無病息災を祈って魚類を贈ることも各地で盛んに行われるように。また、江戸時代になると、商人たちが決算期である中元や歳暮の時期に、お得意先に対して手ぬぐいなどの粗品を配ったことも贈答の活性化につながったと言われます。宗教的意味合いでの贈答時期と、商人たちの配り物習慣の時期が重なったことで、それらが混ざり合っていき、しだいに中元や歳暮という言葉自体が贈答を表す意味へと移り変わって、一般庶民の贈答行事へと広まり現代のお中元の形になりました。

そうして出来上がった贈答習慣としてのお中元。本格的に盛んになったのは明治以降とされています。東京や大阪などの大都市への人口集中にともない、人々の交際範囲が拡大したこと、産業化により中元・歳暮の商品化が開始されたことによります。また、日清・日露戦争後の好景気の時期に次々と生まれたデパートの発展が大きく影響しています。

新聞や雑誌で大々的にお中元・お歳暮向け商品や商品切手 (現代の商品券にあたるもの) の広告を打ち出し、都市部の人々の間に浸透していきました。人々の生活が村社会から、都市型に移り変わったことによって、交際範囲が広がり、各地域ごとの狭い範囲でのルールや相場では対応できなくなり、世間の相場となるような指標を失ってしまっていました。何をどれくらい贈るべきか、デパートの提案が1つの指標として機能した面もあるようです。

現代における、ルールやしきたり

都市化が進み、かつての村落社会でのルールや役割ではない新たな枠組みの中での交換が増えていった明治時代以降のお中元。時代に合わせて少しずつ形を変えながらも現代に受け継がれています。諸説あり、地域やコミュニティによって異なるところが多いのも事実ですが、基本となる部分についてご紹介します。

◆贈る時期
現代では、1年の上半期の感謝の気持ちを込めて7月の初めから15日の間に贈ることが一般的です。ただし、7月に集中して届くことを避ける意図から6月中旬から贈りものを始める事も多くなりました。全国的に見ると、7月1日から15日の間、もしくは8月1日から15日の間に贈ることが多いようですが、地方や地域によって異なっています。一般には、お盆の行事を月遅れで行うところではお中元も月遅れで贈ることが多いと言われますが、関東地方では、お盆は月遅れで行い、お中元は7月15日までに贈ることが多いようです。感謝の気持ちを贈ることが重要なお中元。贈り先の習慣が不明な場合は一般的な時期に贈れば問題ありません。

◆挨拶状
本来、お中元の品は相手に直接お届けするのが基本でしたが、現代ではデパートや産地から直送するケースも増えています。心を込めた贈りもの。その気持ちをお伝えしたい時には別便で挨拶状を出すと良いでしょう。またお中元を受け取った際には、すぐに礼状を書いて送ります。現代では、電話で直接声を届けたり、メールなどインターネットを使ったカジュアルなやり取りで十分な場合もあります。相手との関係性で適度なツールを使って気持ちを伝えたいですね。

◆贈る期間
お中元は、基本的に毎年贈るものです。翌年に贈る予定はなく、特にお世話になった方に今年感謝の気持ちを伝えたい場合は「御礼」「こころばかり」などの表書きで贈ると良いでしょう。
◆熨斗 (のし) ・表書き
熨斗は、紅白花結びののし紙、のし付き短冊で贈ります。
表書きは「御中元」や「お中元」とします。お中元を贈る時期が遅くなってしまった場合は「暑中御伺」として贈り、暦の上では立秋を過ぎても残暑が厳しい時などは9月初旬までは「残暑御伺」の表書きでお届けします。お中元をいただいた際は基本的にお礼状の送付のみでお返しは不要ですが、何かお返しする場合は、お返しとは書かずに「お中元」と表書きして半額程度のものを目安に贈るとよいとされています。

紅白花結びののし紙

現代らしい、心をこめた贈りものを

日本の贈答文化は広く、1年を通して数々の贈答習慣があります。誕生日のお祝いやバレンタイン、クリスマスなどイベント事と合わせたものから、お中元・お歳暮のような贈答そのものが習慣となっているものまで様々です。

虚礼廃止が謳われる中、今なお残るお中元の習慣。贈る相手に変化が表れているようです。企業間などお付き合いとしてのやりとりは減少傾向にあり、現代の贈り先の多くは、両親や親族、お世話になった方など、日頃の感謝を伝えたい「気持ちを贈りたい相手」が中心となってきています。

大切な方への素直な気持ちが表れた現代のお中元。贈りものは贈る側も受け取る側も心が温かくなるもの。気持ちの良いお付き合いを続けていきたいものですね。

<関連特集>

<参考文献>
『生活文化を学ぶ人のために』 世界思想社 編者・石川実、井上忠司 (1998年)
『冠婚葬祭の作法』 (株) グラフ社 編者・西本祐子 (2003年)
『こんなときどうする? 冠婚葬祭 伊勢丹の最新儀式110番』 (株) 誠文堂新光社 著者・ (株) 伊勢丹 (2009年)
『暮らしの中の民俗学2』 (株)吉川弘文館 編者・新谷尚紀、波平恵美子、湯川洋司 (2003年)
「ギフト市場白書 2016」 矢野経済研究所 (2016年)


文:小俣荘子

※こちらは、2017年6月21日の記事を再編集して公開しました。

大相撲を支える「土俵」づくりの裏側。間近に見られる「土俵祭」とは?

今日から始まる「大相撲九州場所」。

近年は、若い世代や相撲女子・スー女と呼ばれる女性ファンも増えて注目されていますね。競技としての迫力はもちろんのこと、古式ゆかしい非日常空間に魅了されて通うファンも多いのだとか。

あの土俵は「いつ」つくられている?

相撲になくてはならない土俵。特別なものというイメージがありますが、開催場所ごとに、その都度、新しいものがつくられているんです。

今日は土俵ができるまで、それから本場所初日の前日に行われる神事「土俵祭り」をのぞいてきました。

土俵祭りの様子
土俵祭りの様子。大相撲協会理事長をはじめ、審判部長以下の審判委員と行司、三役以上の力士らが参列します

土の量は40トン!全て手作業で行う「土俵築」

年に6回開催される本場所、さらにはたった1日の巡業であっても土俵は会場ごとに土を運んでつくられます。この土俵づくりのことを「土俵築 (どひょうつき) 」といいます。

神さまを降ろす神聖な場として、また安全に競技が行えるように都度新しくされるのです。

地方では40トンもの土を用いてゼロからつくりあげますが、現在の両国国技館においては、前々場所で使った土俵の表面を20センチメートルほど削り、新しい土を盛ります。この場合でも8トンほどの土が必要となる大仕事。

場所開催前に45名ほどの呼出 (よびだし=取り組み前に力士の名前を呼び上げたり、土俵の上を掃き清めたりする相撲興行の専門職) さんが総出で、およそ3日間かけてつくり上げます。

土俵築きの様子
木製の大タタキ (右手前) は、土を叩いて固める道具。乾燥してできたひび割れなども叩いて補修する。ビール瓶 (左奥)は、土を滑らかに整える仕上げ作業や、俵の形を整える際に重宝する。割れにくい日本のビール瓶は使い勝手が良いため、海外公演の際にも数本持参するのだそう

土俵をつくる際には機械は一切使用せず、すべて人力で行います。トラックで運び込まれた土を一輪車 (台車) で運び、盛り上げて専用の道具で叩いて固めます。そこへ、五寸釘や縄をコンパスのように使って円を描き、土を削り、俵を埋め込み、再度土を叩いて滑らかに整えて完成させます。

土俵づくりの様子
俵の中身は土、砂、玉砂利。これも一つひとつ手作業で詰め、荒縄で縛って仕上げて土俵に埋め込む

土俵の土は「荒木田」という壁土用の土が最適なのだそう。東京都荒川区荒木田原 (現・町屋) の荒川沿岸にあり、きめが細かく粘土質が強いと言われていました。

東京近郊の開発が進んだ現在は、土質が近い関東近郊のものが使用されています。地方での興行の際は、その土地近郊の土俵に適した土が選ばれます。つまり、地域によって土の色も変わるので、場所ごとの土俵の色合いの差に注目してみるのも楽しそうです。

土俵側面の様子
つるりと滑らかに仕上げられた土俵の面

土台中央の白い仕切り線は、エナメルを塗って書きあげられる。取り組み終了後、毎日手入れされ美しく保たれるのだそう
土台中央の白い仕切り線は、エナメルを塗って書きあげられる。取り組み終了後、毎日手入れされ、美しく保たれるのだそう

テレビ放送で見る取組では、お相撲さんの迫力のためか大きさを感じなかった土俵ですが、そばで見る土俵はとても大きく存在感のあるものでした。この土俵を人の手で毎回つくっているなんて!と、とても驚きました。一見の価値あり!です。

神様を土俵に降ろす儀式「土俵祭」

さて、この土俵を間近に見て、国技館の雰囲気を味わえる機会があります。それは、「土俵祭」。本場所の初日前日の午前10時から行われ、予約せずに誰でも無料で見学できます。

土俵祭とは、場所中の安全と興行の成功、さらには国家の安泰、五穀豊穣を祈願し、神さまを呼ぶ儀式です。立行司 (たてぎょうじ=最高位の行司) が祭主を務め、脇行司を従えて祝詞を奏上し、供物を捧げます。

正装した相撲関係者が土俵を囲む、厳粛な空気の中で進行されます。

土俵祭りの際の土俵のしつらえ
土俵の上には、7本の幣、榊、献酒の瓶子やお清めの塩などが並ぶ

四方を清めます
清め祓い (榊を用いて四方を清める)

祝詞をそうする祭主
祝詞を奏する祭主

祝詞 (のりと) は、「相撲が始まります。お越しください。土俵の内外で何事もなく場所が終わるようお守りください」と神さまにお願いする内容なのだそう。

四方に白幣を立て、お神酒を注ぎます
四方に白幣を立て、お神酒を捧げる

方屋開口、故実言上
軍配を持って行う方屋開口 (かたやかいこう)、故実言上 (こじつごんじょう) の儀式

「方屋」とは土俵のこと、「開口」とは開くこと。土俵を開く、という意味です。「故実」は昔の儀式や習慣のことで、それを申し上げるという意味。土俵の成り立ちについて、どんなふうにできたか、五穀成就のための儀式であったことなどを口伝で受け継いだ通りの言葉で唱えます。土俵開きを奏じるクライマックスです。

土俵の中に供物を鎮める

これまでの写真でお気付きの方も多いかと思いますが、土俵の中央には四角い穴が開けられています。ここに、神さまへの供物を納めます。これを「鎮め物 (しずめもの) 」といいます。

鎮め物
「鎮め物」をして、献酒する祭主。塩、昆布、するめ、勝栗、洗米、かやの実などの縁起物を鎮め、上から土で埋める

「鎮め物」が埋められている土俵の上で行う相撲。かつて相撲が神事であったことを思い出させる儀式ですね。

最後に関係者一同でお神酒を頂く
最後に関係者一同でお神酒を頂く

こうして儀式を終えると最後は、本場所開始を告げる賑々しい触太鼓 (ふれだいこ) が会場に響き渡ります。

触れ太鼓
呼子さんたちによる触れ太鼓。音を響かせながら土俵周りを三周し、本場所の始まりを告げに町に繰り出していく

さあ、今場所はどんなドラマがあるのでしょうか。楽しみですね。

<取材協力>

公益財団法人日本相撲協会

<参考文献>

『相撲大辞典 第四版』 原著・金指基 監修・公益財団法人日本相撲協会 2015年 現代書館

『日本相撲大鑑』 窪寺紘一 1992年 新人物往来社

『力士の世界』 33代 木村庄之助 2007年 文藝春秋

『大相撲と歩んだ行司人生51年―行司に関する用語、規定、番付等の資料付き』 33代 木村庄之助・根間弘海 2006年 英宝社

『[図解]神道としきたり事典』 監修・茂木貞純 2014年 PHP研究所

文・写真:小俣荘子
こちらは、2018年1月12日の記事を再編集して公開いたしました