【ハレの日の食卓】奈良のお茶農家・嘉兵衛本舗さんの「番茶ぜんざい」

季節の行事や家族の誕生日、人生の節目になるようなタイミング。
ハレの日は、食卓もいつもより少し特別です。

この記事はそんなハレの日の過ごし方が気になって企画した、この時期だけの短期連載。
暮らしを楽しむ作り手さんに、どんな料理でハレの日の食卓を囲んでいるのか教えていただきました。

今回は、奈良県吉野郡にて、江戸時代から伝わる天日干しのかへえ番茶を中心に製造販売する、嘉兵衛本舗さんの「ハレの日の食卓」を訪ねます。

今回の取材先:

嘉兵衛本舗
長女・上野知佳さん(左)、次女・堤有佳さん(中央)、三女・井川恵里佳さん(右)

奈良県吉野郡大淀町にて、江戸時代から伝わる天日干しのかへえ番茶を中心に製造販売する他、中川政七商店の番茶シリーズでは「天日干し番茶」や季節限定の「ゆず番茶」を手がける。



有佳さん:

嘉兵衛本舗は江戸時代からお茶にまつわる商いをしており、厳密な記録は残っていないのですが、私たちで恐らく14~15代目になると思います。加工場に隣接しているこの場所は、私たちの実家であり、今は両親と三女が同居している家。三人とも結婚しているので、長女の知佳と次女の私は、それぞれ自宅から出勤してるんです。普段は畑や加工場に出勤してお昼休憩にここ(自宅)に来てお茶を飲み、また畑や加工場に出るというスケジュールが多いですね。

知佳さん:

うちをご紹介いただくときによく「老舗」って言っていただくんですけど、もともとのルーツは兼業農家なんですよ。お茶の他には野菜も作っていれば林業もやっていたし、おばあちゃんは養鶏もしていたし。2代前までは基本的に兼業で、そのうちの一つとしてお茶を作っていた歴史があります。その後、父の代からお茶だけに取り組むようになり、私たちもそれを受け継いで六次産業としてお茶の生産から加工、販売までしています。

有佳さん:

看板商品である「かへえ番茶」は、昔ながらの天日干しで製造しています。昔は三姉妹ともお茶業を継ぐつもりはなかったので、それぞれ会社員になったり専業主婦になったりとまったく違う道を歩んでいたのですが、大人になり仕事休みのタイミングなどで事業を手伝ううちに、うちのお茶の特殊性や良さがわかるようになって。

天日干しは外に干すので、雨が降っていたら作業が出来なくて、仕事は天気に左右されるんです。そういった大変さもあるし、手作業なので手間もかかる。子どもの頃は「どうして天日干しなんて面倒なことをするんやろ?機械でやればいいのに」って思っていましたが、手作業で天日干しをするのとしないのとでは、味はまったく違う。携わるほど父の代で嘉兵衛本舗を終わらせたくないと思うようになり、姉と妹を誘って、自分たちが継ぐことの覚悟を決めました。

知佳さん:

私も「うちのお茶をなくしたくない」とはずっと思っていたんですけど、最初は(自分たちで続けることが)出来ると思ってなかったんです。やりたくても私一人では難しいし、妹2人はそれぞれ家庭を持っていて子育てもしているので、誘えずにいました。だから、妹が「一緒に継ごう」って声をかけてくれたときは嬉しかったですね。

恵里佳さん:

普段は畑に出たり加工や出荷作業をしたりしているほかに、手づくり市とか番茶フェアとか、それぞれが気になるイベントを見つけてきては、出展することもあります。父も昔、お客さんと対話をしながらお茶を提案したい気持ちから、そごう百貨店さんのイベントでお茶の販売をしていたことがあったんです。その気持ちは、私たちも大事にしていますね。

有佳さん:

うちではもちろん煎茶なども作っているんですけど、人気なのはやっぱり番茶。父の代では煎茶を強い柱にしようと頑張ったみたいなんですけど、それでも番茶の人気は根強かったみたいです。その理由、つまり天日干しならではの良さを紐解いたのが、私たちという感じですね。色んな方とのご縁も番茶(の製造や販売)から生まれることが多いですし、嘉兵衛本舗にとっては本当に欠かせない、大切なお茶です。

恵里佳さん:

今はうちの要である天日干し作業は三人でやっていますが、その他にそれぞれ役割分担をしていて。長女はブランディングや全体の統括、加工場での作業を担当していて、次女は社外対応や新規お取引の契約まわり、私は通信販売の出荷作業や経理を主に担当しています。

有佳さん:

そうですね、でも一番大事な三女の役割は、長女と次女の緩衝材になることかもしれません(笑)。

知佳さん:

姉妹でやっているとどうしても、ストレートな物言いになってしまいがちですからね(笑)。そうやって三人のバランスがとれて、うまくやれている。姉妹で事業をやってるってなかなか珍しいとは思うのですが、私は子育ても落ち着いて、これからの生きがいをお茶に注げるのがすごく嬉しいし、ありがたいし、何より楽しいんです。これも妹が誘ってくれたからですよね。小競り合いはありますが(笑)、それぞれの存在にすごく助けられています。

嘉兵衛本舗さんの、ハレの日の食卓

知佳さん:

父から言われた言葉に「農業は待ってくれない」というものがあって。どうしても天候で動き方が決まるので、雨の日が続くと天日干しが出来なくて、その後のスケジュールがすごくタイトになる、みたいなこともよくあるんです。だから私たちのハレはお正月だけ(笑)。番茶作りがずっと続くので、皆さんが長期休暇を取られるようなお盆も、ご先祖様を迎える数日だけ少し休むくらいです。

恵里佳さん:

お正月は元日に絶対、三姉妹の家族がみんなここに集まるんです。全員で20人くらいになりますね。

母もおせち料理を作ってくれるし、私たちも各家庭で作った料理を持ち寄って、和洋中すごくたくさんの料理が並んで、もう大パーティー。しかもそれぞれの夫がよく飲む人たちなので、朝からずっと宴会みたいな感じで(笑)。でも私たち姉妹はあまりお酒が飲めないので、代わりに空いた時間に甘いものを食べたりしています。

有佳さん:

嘉兵衛本舗の「天日干し番茶」を使ったおぜんざいは、そのときに食べている定番のおやつ。いつものぜんざいを番茶で炊くと香ばしさが出て、あっさりしているのにコクや風味が増すんですよ。

使った小餅は、懇意にしている近所のお餅屋さんのもの。嘉兵衛本舗さんの天日干し番茶を練り込んだ番茶餅(手前)も

有佳さん:

そんな風にワイワイしている様子を父が嬉しそうに見ていたりして。休みこそなかなかゆっくりはとれないんですけど、うちは昔から七夕には父が竹を切ってきて流しそうめんをしたり、クリスマスになったら裏山からモミの木を切ってきたりして、行事を全力で楽しんでいました。そうやって、ハレの日や食べることを楽しんでいた父の精神が、思えば私たちにも受け継がれているかもしれませんね。

嘉兵衛本舗さんの「番茶ぜんざい」

材料(作りやすい量 ※5人分程度):

・番茶…1L(濃さは好みで調整)
・餅…適量
・小豆…200g
・砂糖…120g~200g(好みで調整) ※今回は120gで甘さ控えめにしました
・塩…ひとつまみ

作り方:

1. 番茶はあらかじめ作り、冷ましておく。

2. 洗った小豆を鍋に入れ、たっぷりの水を加えて強火にかける。

3. 沸騰したら5分煮立たせる。火を止めて蓋をし、30分ほど置いてアク抜きをする。

4. 小豆をザルにあげて湯を切り、番茶と一緒に鍋に入れる。

5. 火にかけ、沸騰したらとろ火で1時間煮る。

 ※40分ほど煮たら一度かたさを確認し、好みのかたさに煮えていたら次の工程へ。

6. 5に砂糖を加えて混ぜ、最後に塩を入れる。

7. うつわによそい、焼いた餅を入れたら完成。

使った商品はこちら:

漆林堂 真塗り椀 赤
拭き漆のお箸 削り 茶 細め
菓子木型の福よせ箸置き 鶴赤

※その他は取材先私物

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【あの人の贈りかた】新しい生活の幸せを願う、お祝いの品(スタッフ内山)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は商品企画担当の内山がお届けします。

用途さまざまで修理もできる「RIN&CO. 越前硬漆 椀」

我が家の普段のおくりものは、いわゆる消えもの、季節のおいしい何か、が定番です。

それでも、特別な節目の贈りものには、長く使えて、ずっと気持ちが残るものを贈りたい。

例えば、2人目以降の出産祝いによく選ぶのが、RIN&CO.の越前硬漆のお椀です。

初めての子育てには思い描く風景があるだろうから、1人目のときは欲しいものを聞きますが、2人目からは、ソレドコロジャナイ‥‥みたいな返事が本当に多い(笑)ので、この食洗器対応のお椀を贈ります。

おかゆに取り分けのうどん、おやつのぼうろ、デザートのイチゴ‥‥、飯椀とも汁椀とも断言しがたいこのフォルムが何を入れても受け止めてくれて、違和感がありません。もうお茶碗があるなら汁椀に、汁椀も持っていたらおかずの小鉢に、と、何らか使い道が見つかりそうなところも、このお椀を選ぶ理由の一つです。

カラフルな色展開もポイント。このお椀を贈るときは、色違いで上の子にも一緒に贈ることにしています。赤系・青系それぞれ3種類ずつあるので、同性の兄弟でも色違いで選べるのが心強い。

小さな子どもに漆の器は難しそう、と思われるかもしれないけれど、刷毛目の硬漆は傷が目立ちにくいこと、子どものカトラリーは樹脂製や木製が多いため漆を傷つけにくいこと、いざとなったら修理ができるので、思い切って使ってみてほしいことも一緒に伝えます。

漆の食器は傷がついても、お願いすれば、直してもらえることがほとんどです。これから先、その子が傷つくことがあったとき、助けてが言える子でありますように、応えてくれる人に恵まれますように。カードに書く、「たくさんごはんを食べて元気いっぱいに大きくなりますように」の願いの後ろに、そんな願いも込めて選んでいます。

<贈りもの>
RIN&CO. 「越前硬漆 椀」

新しい名前が手になじむことを願って「筆ペン 鹿紋」

幼いころ習字に通わせてもらったはずなのに、毛筆が得意ではありません。

できるだけ避けてきたのに、結婚したらぐんとお付き合いの頻度が増えて、筆ペンで名前を書かなくてはいけない場面も増えました。

この筆ペンは、奈良筆にも使われる天然の破竹を使っています。書道教室は遠い記憶でも、太さや感触を手はちゃんと覚えているもので、この筆ペンだと「手になじむ」感じがして、習った角度ですっと持て、少しだけ上手に書きやすいような気がします。

こちらは、習い事のお友達や仕事で知り合った方の結婚のお祝いに選ぶことが多いです。

お互いに負担にならない価格ながら、桐箱入りで少しかしこまった風情のあるところ、まず誰のお祝いともかぶらない(笑)という安心感、毎日使うものではないけれど、あるといいよね、というところが、友達ほど親しくないけれどお祝いはさせてほしいな、という距離感の方にぴったりかな、と思って選んでいます。

結婚をして姓が変わる方は、最初は書きなれない名字に戸惑うことも多いもの。

わたしは、たった七画のシンプルな苗字になって、はじめはどうにも字のバランスが取れなくて困りました。

ちょっと練習してみようかな、と思わせる、懐かしさのある筆ペンで、早く新しいお名前がその手になじみますように、と願って贈ります。

<贈りもの>
・中川政七商店「筆ペン 鹿紋」

目に入るたび気持ちが晴れやかに「Sghr ミニベース」

ちょっとかたまり感のあるガラス製品が好きなのです。

Sghrさんのミニベースは5つの形がありますが、もう断然、この三角形のフォルムが、手に包んだ時の重量感が、ぶち抜けて好みです。

転職したとか、資格が取れたとか、ちょっとしたお祝いごとがあった友人へ、箱をきれいに包んでリボンをかけて、庭のユーカリや、季節がよければ山藤や山帰来(さんきらい)の小枝、何もないときは、よくできた造花を挟んで、花束代わりに贈ります。

どんな住まいでも置き場所が見つかるサイズ感、お花屋さんでわざわざ買ってきた花よりも、こぼれた花や、折れてしまった小枝が似合う、いじらしさ。

生ける花がなくても、オブジェのようなたたずまいに光が透けるだけで、ああ、なんかもう、きれい、と気持ちがさーっと晴れやかになります。

出しっぱなしで日々の暮らしに置いてこそ、心地よくなじんで、ますます好きになる。そんなアイテムです。

展開は何色かありますが、目に入るたびに、小さなハレの日を思い出して、まっさらな気分になってほしいと思って、選ぶのはいつも透明です。

<贈りもの>
・Sghr「ミニベース 三角形 」
・販売サイト:https://shop.sugahara.com/collection/minivase

※中川政七商店での販売はありません

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 商品企画担当 内山恭子

【わたしの好きなもの】使う度に機能性のよさを実感する「こはぜ留めのコンパクト財布」

使う度に、「やっぱり使い勝手いいなぁ」と思う毎日の必需品があります。その相棒がこちら。こはぜ留めのコンパクト財布です。

使い始めてから3年間、特にこれといった手入れはしていないものの、つややかに馴染んできました。
3年経った今でも、カード決済の時や小銭が増えた時など、コンパクト財布にデメリットを感じそうな瞬間にこそ、使い勝手のよさを感じます。

実は自分がデザインした財布。手前味噌で恐縮ですが、心からお気に入りなので、いち使い手として、「こはぜ留めのコンパクト財布」への愛着をお話させてください。

①必要十分な機能性とコンパクトさの両立

この財布、必要十分な機能を備えながら、その存在を忘れるほどにコンパクト。片手に収まるサイズ感で、中身を入れても2cmに満たないくらいの厚みです。

手ぶらで出かける時、洋服のポケットに入れてもシルエットが崩れないのが非常に快適で気に入っています。使い始めた頃は、ポケットに入れた時の存在感がなさすぎて、「やば!財布忘れた!」「おわ、あるやん」と思うことが何度もありました。

小銭入れの留め具には、「足袋(たび)」の留め具を採用することで厚みの軽減に

この薄さに一役買っているのが商品名にもある「こはぜ」です。これは元々「足袋」の留め具として使われるもの。脱ぎ履きしやすく履いた時に違和感がない機能性を、そのまま財布に活かしました。

内装は、カードポケット3つに小銭入れと札入れ。これらが無駄なく配置されています。
普段大きなお財布を使っている方はカード入れが足りないな…と思うかもしれません。実際私も、コンパクト財布を使い始める前は不安でした。でも使ってみると、自分がいかに普段使わないカードをたくさん持ち歩いていたかということに気付かされました。

カード入れが少ないことで、必然的に少数精鋭に絞られます。でも案外それで大丈夫。カードの収容枚数は各ポケット1〜3枚ほど。普段からよく使うものだけしか入れなくなるので、あのカードどこだったっけ….とレジでもたつく気まずい時間がなくなります。キャッシュレスが便利な世の中なので、現金もたくさん持つ必要はありません。薄いのでタッチ決済も財布に入れたままでスムーズにできます。

メインカードは、小銭入れの裏側に。財布を開かなくても出し入れできます。

小銭入れの裏側にもカードポケットがあり、ここに入れておくと財布を開かずにカードが取り出せるので、私はメインで使うクレジットカードをここに入れています。
また、交通系ICカードとタッチ決済型のカードをよく使うのですが、左右に分けて入れることで、どちらのカードも財布に入れたまま使えて便利です。

サイズは、カードと各国のお札が入る最小サイズになっているので、海外旅行に行った時にも活躍してくれました。

②ストイック過ぎないコンパクトさ

企画を始めた当時、世の中では小さなアウトドアギアブランドが続々と素晴らしいデザインのコンパクト財布を発表していて、自分自身も、そうしたコンパクト財布の使いやすさに夢中になったユーザーの一人でした。できるだけ身軽に出かけたい自分にとって、初めてコンパクト財布を使った時の快適さは衝撃的で忘れられません。
ただ、そのコンパクトさゆえに、ちょっとしたストレスを感じることもしばしば。
「自分だったらここをもっとこうするな」なんて妄想をぼんやりと膨らませている時に任せられたのがこの企画です。オーダーは「いい財布。おまかせ」。よっしゃ!と思いここぞとばかりに裏テーマを「自分史上最高のコンパクト財布を作る」と設定しました。
解決したかった課題は、「ストイックすぎず使いやすい」「きちんとした場でも気後れせず使える」の2点です。私を含む、コンパクト財布ライトユーザーが使いやすいデザインを目指しました。

当時私が使っていたコンパクト財布は、軽量コンパクトを追求するストイックさゆえに、独特の使い方が必要だったり、小銭の入る枚数がかなりタイトでした。でも、自分はもう少しゆるく使いたいな、と思っていたので、一般的な財布と近しい配置構成にして小銭入れも大きめにとりました。一般的な財布のように違和感なく使えて、割り勘などで小銭が増えても対応できるサイズ感を目指しました。

③使う場所を選ばない素材感

コンパクト財布を追及して使われるナイロン素材は、軽量でコンパクトさには優れていますが、スポーティな見た目がシーンを選びます。きちんとした場でもかっこよく使える物が欲しかったので選んだ素材は牛革。なかでも均質な表面感が美しいクロム革を使い、表にステッチがほとんど出ないデザインにしました。簡素ながらきちんと感のある佇まいなので、幅広いシーンに馴染みます。長く使うことで育ち、愛着が生まれるのも革という素材のいいところ。

左:3年間使用した者 右:未使用のもの 経年変化は控えめです

全体の大きさよりも使い勝手を優先して、三つ折りではなく二つ折りにしました。お札にクセがつかないので支払い時もスマート。厚みも薄いので、スーツを着るようなシーンでも違和感無く使えるし、ジャケットの内ポケットに入れても気になりません。

作っているのは東京のUNROOFさん。精神・発達障害のある方々を革職人として迎え入れて適正な対価を支払うソーシャルビジネスに取り組む、志ある作り手さんです。細かいディテールのある商品ですが、いつも非常に高いクオリティで製造して頂いています。

一見シンプルで機能性が伝わりづらい商品ですが、使うことで、きっとその使い心地のよさを感じていただけるはず!私自身一番のお気に入りの財布ですし、デザイナーとして自信を持っておすすめできる商品です。

新年におろす財布は「春財布」と呼ばれ、縁起の良いもの。お財布の新調を検討されている方は、ぜひ手に取ってみていただけたら嬉しいです。

<掲載商品>
こはぜ留めのコンパクト財布

【あの人が買ったメイドインニッポン】#15 エッセイスト・平松洋子さんが“一生手放したくないもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

ゲストは引き続き、エッセイストの平松洋子さんです。トークテーマは、「一生手放したくないメイドインニッポン」。

それでは早速、聴いてみましょう。

プラットフォーム

ラヂオは7つのプラットフォームで配信しています。
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平松洋子さんが「一生手放したくないメイドインニッポン」

平松洋子さんが“旅先で出会った”メイドインニッポンは、「ツバメノート」でした。


ゲストプロフィール

平松洋子

東京女子大学文理学部社会学科卒業。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞、2012年『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞、2022年「『父のビスコ』で読売文学賞を受賞。『食べる私』『日本のすごい味 おいしさは進化する』『肉とすっぽん 日本ソウルミート紀行』など著書多数。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回のゲストは、設計事務所imaを主宰するインテリアデザイナーの小林恭さん、マナさんです。
1/5(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら

【地産地匠アワード】「粗削りでもいい。答えを急がない。地域に光をあてる寛容なアワードに」審査員座談会(後編)

※この記事は、中川政七商店が主催する「地産地匠アワード」についての関連記事です。詳しくはこちら


地域に根ざすメーカーと、地域を舞台に活動するデザイナーが共に手を取り、新たなプロダクトの可能性を考えるコンペティション「地産地匠アワード」。

本アワードの審査員4名による座談会。その後編をお届けします。

前編はこちら

機能以外の価値観を大切に育ててほしい

ー地域のデザインやものづくりの課題は、具体的にどんなところだと考えていますか

加藤駿介(以下、加藤):

工芸とか、産地って、基本的に機能的なものではないですよね。50年とか100年前はそうだったと思いますけど、今は違うじゃないですか。

たとえば、陶器のコップには、なにかを飲むっていう機能はあるけど、落としたら当然割れる。そうした時に「割れにくい」とか、そういう機能、新しい技術を目指してしまう。

そうじゃなくて目に見えない美しさ、佇まい、そういったものを育てていかないといけないし、そうしていれば自然と良いものができるんかなって思ってるんです。

工芸や産地の文化とかデザインとか、機能以外の価値観が重要やけど、意外と産地の人たちは気にしていない。

大治将典(以下、大治):

本当は、産地の人たちが「ここが欠点なんです」って言っていることこそが魅力だったりする。その欠点を魅力にひっくり返す力がデザインにはあると思っているし。そこを上手く見立てられるかどうか。

そうしないと「もっと軽く」とか「もっと丈夫に」という方向に走りすぎるんですよね。分かりやすいからだと思うけど、それをやろうとすればするほど、魅力が無くなってしまう。

坂本大祐(以下、坂本):

確かにそうやね。

加藤:

たとえばネジを作るという場合は、それでもいいと思うんです。安価で丈夫で使いやすくを目指すっていうのでいいと思う。

でもそうじゃないから、考えることがもっとあるはずなんです。

僕もそのためにお店をやったりしている。自分たちのものを発表するためではなくて、色々なものの価値観を見せたい。

木本梨絵(以下、木本):

機能を突き詰めた先に機能美みたいなものがあると思っていたんですが、逆に美しさから離れていってしまうんですか?

加藤:

離れるというよりは、どっちかになってしまう。

たとえば、この“アール”をどういう意図でデザインしたのかみたいな時に、機能でもあるし美しさでもあって、両立している。他方で、意図しない手仕事の揺らぎがなんとなくしっくりくることもある。この二つはそんなに離れていないと思うんです。

美しさと機能は両立するけど、みんなどちらか、特に機能に振り過ぎる。

木本:

「世界最軽量!」とかが分かりやすいってことですかね。

加藤:

そういうイメージですね。

木本:

なるほど。

ブルーノ・タウトが桂離宮のことを書いている本を読んで面白かったのが、この線とこの線を引いたら綺麗な斜めになりますみたいな、めちゃくちゃ合理的に引かれた線がある一方で、どうにも説明できない非合理な線もある。「なんでここなの?」みたいな。

合理的なものの中にめちゃくちゃな非合理が介在しているのがあの美しさの根源だって書いていて。日本の美意識の中に、合理と非合理の介在のさせ方っていうのが、オリジナリティとしてあるのかなって思ったりすると、ものづくりも建築も、全部繋がる部分があるような気がしました。

早急に答えを求めすぎない。ここから新たに生まれる産地があってもいい

大治:

僕の好きな哲学者の國分功一郎さんが最近『目的への抵抗』という本を出していて、

目的ってどうしても手段と一致しちゃうんだけど、でも目的外にもいいことあるでしょって仰っていた。それって凄く工芸に通じるなと。

目的から始まってもいいんだけど、そこからはみ出てもいい。その間に抜け落ちていることとかもあるよねと。

今の表現の仕方って、あまりにも分かりやすい方にいきすぎている気がするんです。バズんなくていいのにと思っちゃう。

木本:

みんな、答えが欲しいんだなと思っていて。

SNSに投稿する前に、バズるかバズらないかって分かるんです。投稿の中で、「こういうことがあった。つまり、こういうことなんだ」ってキャッチーな結論を入れるとめちゃ伸びるんですけど、逆に、「これは、こうではないだろうか?」みたいな余白を入れるとぜんぜん伸びない。余白を考えることが面倒になっちゃってる。

さっきの「世界最軽量」が分かりやすいというのも、答えがすぐ見つかることを欲してしまっているからなのかなって。そうすると、差し出す側も「すぐに答えを出さなければ」と思ってしまう。

でも、“問い”の価値ってあるはずで、みんなが速く答えを欲する世の中に、出し手側が迎合しすぎると怖いなって、最近凄く思います。

坂本:

実際のところ、地産地匠的なアプローチって、そんなに一朝一夕ではできないものだとは思ってて。昨日今日に出会って、一ヵ月経ったらプロダクトができて、売れました。ってことにはならへんやろうなと。これまでやってきた実感としてそう思うかな。

木本:

このアワードも、答えを求めすぎないというか。「売れそうだね」とか「量産見えてるね」とかで選ぶと急ぎすぎなので、「うーんこれはちょっと、でも、気になるなぁ」みたいなものに、「気になるで賞」みたいなものをあげるべきというか。

坂本:

「育てま賞」とかね。

木本:

完成度の高いものばかりが受賞作に並ぶのも、このアワード自体が答えを求めすぎているようになってしまって、違う気がします。

大治:

ほかのコンペだと新規性ってすごい大事なんだけど、今回は求めなくていいのかもしれない。既にあるプロダクトの「ここだけちょっと変えました」みたいなものも、それによって「めちゃめちゃよく見えるね」とか「こんな使い方あったっけ」となれば全然受賞していいと思うし。

見立て力ってデザイン力とほぼ一緒だと思うので。

加藤:

みなさん、審査員とか慣れてるんですか?

大治:

10年近くやってるからそれなりに。

審査の時になにが面白いかって、みんなのメガネが借りられること。僕から見たらこうなんだけど、みんなはどうだろう。そこでどんどん考えが混じるのが、めちゃめちゃ面白い。自分の脳みそがアップデートされる。

木本:

少し前に、とある広告賞の審査をやったんです。

その賞の場合は、選んだものが来年の広告の指針になるというか、こういうことをすればいいんだってみんなが思って広告を作りはじめる。

なので、「来年の広告ってどうなって欲しいんだっけ」「これは、誰に光を見せたいのか」「確かにいいんだけど、誤解を生まないか」みたいなことをずっと話し合うんです。

この地産地匠アワードも同じで、選んだものが未来のものづくりへのメッセージになっていくと思う。この先もずっと続いていって、“第60回地産地匠アワード”とかになっていくはずだから。

坂本:

俺はその頃にはおらんと思うけど(笑)。

でも、確かに!めっちゃ同感。

大治:

賞のラインアップとかバランスも凄く大事だと思うんですよ。賞が増えたり減ったりすることもあり得る。

木本:

そうですね。多様に選べるのがいいなって。

大治:

高岡クラフトコンペも、「個人的な視点賞」という名前で、審査員がそれぞれあげるものを作ったんですよ。

でもやっぱり、一等・二等・三等みたいなのは、合議で決めた方が面白くて。審査員一人のコンペってあんまり面白くない。可能性が見えないし、練られてないなっていうのがすぐ分かるから*。

※地産地匠アワードの第一回に関しては、グランプリ1点/準グランプリ1点/優秀賞3点/その他審査員特別賞を選出予定です

加藤:

長いスパンで考えて、選びたいなっていう気がしますね。

大治:

これがこの産地の始まりです。今は作り手2人ですけど、10年後には何百人になっているでしょう。みたいなね。

坂本:

確かに産地って、できあがったものだけを見てきたけど、本来はスタート地点があるもんね。今からその産地が始まったっていい。

大治:

僕が関わってきた十数年前とかは、産地問屋が弱くなって、メーカーが自分でプロデュース力を身につけなきゃいけない時代。今はいよいよ問屋が無くなって、工程ごとに分業制でものづくりしていた一社一社が団結しなければいけなくなってきた。

「俺たちのこの技術だけじゃ、産地のもの作れないよ!」ってなってる時に、新しいアイデアがデザイナーの方から出てきて「あ、そうか!」みたいなことが生まれればいいなと思います。

産地の人の見立てだとそれは商品になんないでしょ、っていうことも、見る人によっては全然なりえる。

坂本さんが話していた城谷さんの事例とかでも、それまではダメだったものに対して、逆に「そこが綺麗じゃん」と言えたわけで。

坂本:

そうそう。ロット によっては商品として違うものに見えるレベルなんですけど、それを是として捉えられる。それが良さなんだと。

本来はそうやって新たに見立てられたりして、産地の中でアップデートを続けられていたんでしょうね。それを手助けしてあげられたら。

大治:

昔は近くないと物理的に厳しかったけど、今は流通やデジタルツールがあるから、この技術とあそこの技術を組み合わせて、ということがやりやすい。

いわゆる下請けをやっていたところで、一社だけではプロダクトが作れないところもあるし。だから、トリオで応募するのもいいんじゃないですか?(笑)

坂本:

確かに。それはいい!

クラフト的なものづくりとは、不可抗力を魅力に転嫁すること

大治:

アワードの応募対象である「日本各地の風土や手仕事が活かされたプロダクト」って、どこまでが範囲なんだろう。

たとえば今、「クラフト」っていう言葉を、珈琲とかビールとかの人たちも使っている。

その中で、あらためて僕たちが使う「クラフト」の定義をどうしようかとずっと考えていて、最近結論が出たんです。不可抗力を受け入れて、活かしているかどうかだなと。

不可抗力が工芸の“揺らぎ”という現象の原点になっていて、そこにレバレッジを効かせているかどうか。それがクラフト的なんじゃないかと思います。

逆に、工業に近づいていくほど、不可抗力を抑えるし、活かそうとも思わない。

素材の難しさや、手で作ることの難しさを、どうやって魅力に転嫁しているかが、クラフト的なものづくり。

結果、できあがったものを指して「クラフト」と呼ぶのではなく、その作り方(行為)を動詞的に「クラフティング」と呼ぶのがいいんじゃないかなって。

そう思えば、応募できる人も増えると思うし。「自分たちは工芸っぽくないしな」じゃなくて「あ、大丈夫、作り方がクラフトっす! 」くらいの。そうすると規模とかも関係なくなってくる。

着地点もばらばらでいいんですよ。つぶが揃わないことが揺らぎになるだろうし。

その中でも見た人に前知識がなくても魅力的に見えるかどうかは大事で、そこは繊細だと思っています。

で、これも早急に答えを見つけなくて大丈夫。

アイデアって一人で考えるものではなくて、場が生むものなので。この4人で審査しながら、一緒に考え続けていけば、工芸やクラフトの響きが変わるんじゃないかなって。

クリエイティブ側に求められる「カロリー」を使う覚悟

坂本:

これから応募する人に向けて、特にクリエイティブ側に言えたらいいなと思うのは、「どれだけカロリーを使っているか」。それに尽きると思ってて。

その土地にいるかどうかも、距離が近ければ行きやすいというだけの話。近い人にアドバンテージはあると思うけど、ただ近いからと言ってカロリーを使っていなければ意味が無いし。
根性論的に聞こえるかもやけど、「時間」と「熱量」をどれだけ費やせるかって、やっぱりアウトプットに大きく作用するんちゃうかな。

大治さんが5時間でも「通勤」て言っているみたいに、カロリーは使うけど、そのことを面白がって、「それでもやるぜ!」っていう。腹のくくり方というか、覚悟はあった方がいいんじゃないかなと、俺は思う。結局、プロダクトになった時にその部分が見えてくるはず。

加藤さんはどう思う?

加藤:

僕の場合、相手にとっても自分にとっても、何がベストかっていうのを常に突き詰めるので、カロリーというか、予算とか時間とか関係なしに、やりがちです。(笑)

坂本:

別にそれを推奨したいわけじゃないんやけどね。(笑)

加藤:

はい。(笑)

でも、それくらいの気持ちがないと無理です。だいたいの人は、仕事やからっていう線引きでやめちゃうことが多い。

そうじゃなくて「やりたいからやる!」っていう熱量があるのは大事です。大変ですけど。

だから、ちょっと心配なのが、産地(メーカー)側とデザイナー側に温度差がある場合。どちらかがやらされてる感が出ちゃうと健全じゃないので。

坂本:

それはもう初めからコンビにならない気もする。

大治:

その関係性も啓蒙できるようになればいいよね。基本的にはデザイナーもメーカーも対等であるべき。でも、戦う相手ではない。一緒にやるべき相手。

僕たちの上の世代って、デザインというものを社会に認めさせる必要があって、ファイタータイプが多かった。今はそうじゃなくて、一緒に生き残らないと。

メーカーもデザイナーもそう思っている人が増えたとは思うけど、大きいところだと、まだ理解されてなくて、デザイナーを「作業をお願いする人」みたいに思っているケースもあると思うし。

間口の広い、寛容で多様なアワードにしていきたい

木本:

私がひとつ気にしたいのは、このアワードが、限られた世界に突き詰めていくニッチなものなのか、広げていく民主的なものなのか。ここをメッセージとして整理しておきたいんです。

民藝と工芸の違いを言語化できない人のほうが世の中には圧倒的に多いじゃないですか。そういう人たちがこのアワードを見た時に「なんか選民的なことやってるな」ではなく、「今までは地域のこと分からなかったけど、ちょっと興味あるし、やってみようかしら」くらいに気軽に参加できる。そうやって多くのデザイナーさんが関われる寛容なアワードでありたい。

もちろん、審査員にプロが集まっているから、間口を寛容にしてもプロフェッショナルなものは残るはずだし。

「地域のものづくりって関わりにくい」と思っていたような人が、この機会に応募してくれれば。母数の大きい方がクオリティの高いものになるし。

この第一回のアウトプットが二回目以降を左右すると思うので、(工芸の仕事に直接関わっていない)私が審査員としている意味として、ある程度民主化できる可能性を広げておいた方がいいと思っています。

大治:

いわゆる工芸のコンペみたいな“キレッキレ”なものが一等賞じゃなくて、「これで大丈夫?」みたいなものを一等にしたいんすよ。ほんとに。

ホームセンターに売っててもいいし、工芸の店にあってもいいし、なんか買いたいし。みたいなものが理想かもしれない。

一方で、工芸が「背景の無いグッズ」と化して魅力が無くなることには危惧がある。工芸が工芸のままであって、生きている人を感じるか。工芸の顔をして「ただの量産品じゃん」ていうものも本当に多いので、そうなってほしくないなって。

木本:

そうですね。

専門性と歴史を知ってるかと泥臭さ、みたいなところだけがフォーカスされない方がいいのかなって。

たとえば、距離が近い人にアドバンテージがあるかもしれないけど、パリに住んでる人が「Zoomで全部やっちゃいました!」みたいな場合も評価に値するかもしれない。

その場に住んでること、近いことがすべてではないかもしれないし。

その辺が広がると、中川政七商店がやるアワードっぽいなと思います。そのバランスが取れるといいなって。

加藤:

どんなものが出てくるんですかね。まったく想像できない。どれくらいの幅があるのか、楽しみです。

ー最後に、応募者や、興味を持ってくれる方へのメッセージをお願いします。

坂本:

審査員コメントにも書きましたけど、「地産地匠」って、「地」が二回も出てきている。それはやっぱり、地域にこれからフォーカスを当てるべきなんじゃないの、っていうのを伝えていくアワードだからだと思うんですよ。

そこに光が当たって、そこを見る人が増えるということ。それをやるべきだっていうことがアワードを通して伝われば。

そして、たとえば大治さんみたいなスタンスで地方のものづくりに向き合ってくれる人。そういう人が増えることを望んでいる。

俺らの時代は正直、食べていけるまで時間がかかった。なので、そうなれるまでが近く感じられれば。そういう道を選べるんだ、やっていいんだ。という風に背中を押したい。そんなアワードになればいいなって思います。

木本:

今だからこそ、軽やかでありたいなと思って。

日本は200年くらい鎖国していたからこそ、意味がわからないユニークネスが爆誕しているのが面白いところで。その鎖国が解かれて、世界と瞬時につながれて、今やあらゆる文化とか土地が溶け合っている。

その中で、「うちのオリジナリティを守るんや!」と固執したところで無理なんです。むしろ溶け合ってしかるべき。この時代だからこその、間違った使い方とか、ルールを破っていること、そういうことが許容されるのがこのアワード。というのが今らしいのかな。

「過去こうだった」を継続するというよりは、「今の時代にあった今のもの」を作ればいい。それくらいの気持ちで、気楽にやれると素敵なのかなと思います。

加藤:

やっぱり、自分の頭で考えて、自分で手を動かしている人たちを応援したい。やりたいって気持ちがないのに、仕方なくやってるみたいなものがあまりにも多いので。そうじゃなくて、自分で考えてやっている人たちを見たい。粗削りでも全然いいので。

むしろ、最近は綺麗なもの、置きにいったものが多すぎる。駅とかのお土産が分かりやすくて、昔よりパッケージは綺麗になったけど、なんか個人的にしっくりこない「昔のままのがいいやん」ってのがいっぱいある。無いものねだりなのかもしれないですけどね。

大治:

メーカーとデザイナーが一緒にやることが起爆剤になればいいなと思います。 

結局、ものを作っただけでは場所ができない。でも魅力的なものがないと、それもはじまらない。どんなに土を肥やしても、種がないと育たないし、食べたい人がいないと意味が無い。

それを全方位でやらないと駄目だと思っていて、中川政七商店がいるからそれができそうな気もしています。

その産地っぽくなくてもいいけど、そこで始まっていることとは、なにか繋がっていてほしい。繋がっていることが大事という意識は持っていてほしいというか。外側じゃなくて中心ですね。どんなものが集まるのか。たくさんの応募を楽しみにしています。

地産地匠アワードの詳細はこちら

座談会前編はこちら


文:白石雄太
写真:中村ナリコ

【地産地匠アワード】「工芸の“良い間違い”には可能性がある」審査員座談会(前編)

※この記事は、中川政七商店が主催する「地産地匠アワード」についての関連記事です。詳しくはこちら


地域に根ざすメーカーと、地域を舞台に活動するデザイナーが共に手を取り、新たなプロダクトの可能性を考えるコンペティション「地産地匠アワード」。

目指すのは、メーカーとデザイナーが協働してこそ生まれる新しいスタンダードの発見と、地域を率いるものづくりの担い手を広めてゆくこと、そして、完成品の販売による産地の作り手への還元です。

本アワードの審査を務めるのは、ててて協働組合の共同創業者で手工業デザイナーの大治将典氏、焼物の産地 信楽でデザインスタジオ「NOTA&design」を主宰する加藤駿介氏、株式会社HARKEN代表のクリエイティブディレクター 木本梨絵氏、奈良県東吉野のデザインファーム オフィスキャンプを設立した坂本大祐氏の4名。

今回はこの4名の審査員による座談会の様子を、前後編に分けてお届けします。
後編はこちら

審査をする上で大切にしていることや、それぞれが考える地産地匠アワードの意義。地域のデザインやものづくりに対して感じている課題、応募者へのメッセージなど。忌憚ない意見が飛び交う刺激的な座談会となりました。

アワードがきっかけで、産地に新しいつながりが生まれて欲しい

ー今回、「地産地匠アワード」の取り組みを聞いて最初に感じたことや、審査を引き受けた理由を教えてください。

大治将典(以下、大治):

以前は、工芸を評価する場がもう少しあったんです。たとえば日本三大クラフト展*というものがあったりとか。でも、そのうちの2つは終了してしまって、今は「高岡クラフトコンペティション」だけが残っています。

※「日本クラフト展(2020年に59回で終了)」、「朝日現代クラフト展(2009年に29回で終了)」、「工芸都市高岡クラフトコンペティション」

いわゆるクラフトの協会*みたいなものも戦後にできて、ずっと続いていたんですが、ここ数年で解散してしまいました。そんな状況を見ていて、自分としては「変わる必要があるんだな」と思ったんです。

※「日本クラフトデザイン協会(2021年に解散)」「クラフト・センター・ジャパン(2014年に解散)」

今、僕は「高岡クラフトコンペ」の審査員もやっているんですが、これはどちらかというと作家の登竜門的な位置づけになっています。そこで出てきた人たちが、高岡の工芸メーカーと付き合ってものづくりをやっているかというと、そこまでには至っていなくて。そういう風にしていきたいなと思って、中身を変えている最中なんです。

やっぱり、量を作らないと産地を守れないし、作家さんだけでは難しい部分がある。特に今は産地自体に力が無くなっていて、みんなバラバラの状態。産地の再編は必須事項だと思っています。

なので、今回の地産地匠アワードの取り組みを聞いて、これがきっかけで産地の状況に気付いてくれたり、新しい才能が生まれたり、新しいつながりが発生したりすればいいなと強く思いました。

大治 将典(手工業デザイナー/Oji & Design 代表)

日本の様々な手工業品のデザインをし、それら製品群のブランディングや付随するグラフィック等も統合的に手がける。手工業品の生い立ちを踏まえ、行く末を見据えながらデザインしている。
ててて協働組合共同創業者・現相談役。

地方の文化やものづくりが残り続けるためにできること

木本梨絵(以下、木本):

仕事で定期的に通っている島根県の海士町(あまちょう)というところに、そこでしか買えないみりんがあるんです。

宮﨑さん*という方が手がけていて、甘くて優しくて、本当に美味しい。

※夫婦で民泊「みやざきサービス」を営む宮﨑雅也さん

海士町はとてもほがらかな町で、宮﨑さんも「仏なのでは?」という穏やかなパーソナリティーの方。海士町のみりんは、そんな海士町の味がするんです。

また、能登半島にガラス作家の有永さん*という方がいて、薄くて濁りの無い、凄くきれいなガラスを作っている。一度ご自宅にお邪魔した時、家を出て階段を下りると目の前に能登の海が見えて、その海の“シーン”という静けさと、有永さんのガラスがリンクする感覚がありました。

※能登島に工房「kota glass」を構える有永浩太さん

日本以外でも、ノルウェーでブルーベリーを摘みに森に入る機会があって、その時に、ブルーベリーピッカーっていう道具がホームセンターに売っていたんです。ひとつずつ摘むのは大変なので、「ガガガガ!」って一気に収穫できる専用の道具なんですけど。

大治:
そういうローカルって楽しいよね。山形だと、芋煮の具材を買った人に、専用の鍋とか道具を貸してくれたりとか。

木本:
楽しいですよね。

私は、みりんも、硝子も、芋煮の鍋もブルーベリーピッカーも、その土地土地に根差す文化だと思っています。きっと世界中の地方がそういう魅力を持っている。

時間やお金をかけて旅に出た先で、そういった土着のものに出会った時に、自分の旅が豊かに、正当化される感覚があるんです。すごく楽しいし、人がわざわざ旅をする理由のひとつであると思っています。

そんな地方の魅力が単純に無くならないでほしい。30年後も、100年後も、200年後も鮮やかに残り続けてほしい。このアワードがその先駆けになれば、と思って参加しました。

木本 梨絵(クリエイティブディレクター/HARKEN 代表)

1992年生まれ。株式会社HARKEN代表。自然環境における不動産開発「DAICHI」を運営。自らも事業を営みながら、さまざまな業態開発やイベント、ブランドの企画、アートディレクションを行う。
グッドデザイン賞、iF Design Award、日本タイポグラフィ年鑑等受賞。
2020年より武蔵野美術大学の非常勤講師を務め、店舗作りにおけるコンセプトメイキングをテーマに教鞭を執っている。


坂本大祐(以下、坂本):

僕は、どうしても間に合わないものもあると思っていて。

奈良にも素敵な作り手さんがたくさんいますが、たとえば吉野の漆漉紙(うるしこしがみ。※吉野紙とも呼ばれる)を漉く女性の職人さんはついに残り一人になってしまった。60代の女性で、恐らくそのまま途絶えてしまう。そういう話が山のようにある。

無くなっていくものをすべて食い止めるのは無理でも、もう少し、自分たちにできることがあるんじゃないかと考えています。

今回のアワードは、産地だけじゃなく、その魅力を表現するクリエイティブも同時に見つけられるのがすごくいい点だなという風に感じていて。やっぱり、一緒にやる、悩んでくれる、工芸とデザインを繋げてくれる人がいないと厳しいと思うんです。

アワードが続いていく中で地域の取り組みとして素敵なもの、面白いものが積み重なっていけば、道が見えてくるだろうし。

そうするうちに、目指される対象になって欲しいというか。まだまだ都市部のデザインが強いけど、場合によっては最初からローカルのデザインを目指す人が出てきてもいいんじゃないかなと思います。

坂本 大祐(クリエイティブディレクター/合同会社オフィスキャンプ 代表社員)

奈良県東吉野村に2006年移住。2015年 国、県、村との事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画・デザインを行い、運営も受託。開業後、同施設で出会った仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。2018年、ローカルエリアのコワーキング運営者と共に「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を設立、全国のコワーキング施設の開業をサポートしている。
著書に、新山直広との共著「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」(学芸出版)がある。奈良県生駒市で手がけた「まほうのだがしやチロル堂」がグッドデザイン賞2022の大賞を受賞。2023年デザインと地域のこれからを学ぶ場「LIVE DESIGN School」を仲間たちと開校。

産地の環境を残せるタイミングは今しかない

加藤駿介(以下、加藤):

僕はこの中でも産地側の人間というか。代々、信楽で焼き物をつくっている家で、産地の現状を見たり聞いたりしてきました。

ものづくりの産地って、戦後にものが無かった頃は「いいものを作って生活を豊かにしていこう」という志を持ってやっていたんです。70年代くらいまではその状態が続いたんだけど、バブルがやってきて、どんどんビジネス寄りになっていってしまう。考えなくても作れば売れる時代だったというのもあって。

バブルも93年頃にピークを迎えて、その後は人口減少や高齢化などの問題を抱えながら今に至ります。

最近は個人の作家さんが力をつけていて、それ自体はすごくいい流れです。でも、作る人がいて、山もあるけど、土を採る人がいない。原料屋さんにとってみると、バブル期の数字が基準にあるので、いくら作家さんが増えても、当時ほどの量を作ることはないので採算が合わない。

原料を採る人たちの方が先に潰えてしまうんじゃないかと危惧しています。

作る人が自分たちで採ってやらないといけなくなると、結局たくさんの数は作れない。その中で、経済的にどのあたりを目指して活動するのかという、難しい問題に直面している。

それでも産地にはまだ意義があるというか、この環境は残した方がいいと思っていて。他の国に目を向けて見ると、地域単位の小さな集団や個人がものづくりをやって、商品を提案できているというのは、すごく珍しいことだと思うんです。

ヨーロッパとかでも、デザインはするけど制作は別の場所だったりする。日本の産地は、今はまだなんとか高いレベルでやれている。でもこのままだと、20年後はもう無理やなと。手を打つなら今しかないと思っています。

加藤 駿介(デザイナー/NOTA & design 主宰)

1984年、滋賀県信楽町生まれ。大学在学中にデザインを学ぶためロンドンへ留学。東京の広告制作会社に勤務後、地元の信楽に戻り陶器のデザイン、制作に従事する。2017年に自社スタジオ「NOTA&design」、ギャラリー&ショップ「NOTA_SHOP」を設立。
陶器を作る際に粘土同士をくっつけるのり状の接着剤「ノタ」のように、人と人、人ともの、時代や業種など、あらゆるものと考えをつなぐことをテーマにしながら、陶器の制作を中心にグラフィック、プロダクトデザイン、インテリア設計、展示構成、ブランディングなどを手掛け、ギャラリーを併設した「NOTA_SHOP」では、工芸、アート、デザインを分け隔てることなく、様々な作家や商品を紹介している。


大治:

ちゃんと儲かる人が増えれば、材料屋さんも道具屋さんもやめなくて済むよね。昔は100億の企業が一社あって、「みんなで食おう!」だったけれど、それよりも1億の企業が100個の方が地域としていいんじゃないって思う。

坂本:

そういった可能性を持った人たちをたくさん見出せるというか、出会うのが一番の目的なんちゃうかなっていう気もする。もちろんアワードの大賞は決めるんやけど。普段、我々が出会っていく数には限界があるから。

“良い間違い”が生まれる寛容さが、手仕事や工芸の魅力

ー地域のものづくりでこれは良い取り組みだなというものがあれば教えてください

大治:

自分がデザインしたものを持ってきました(笑)。

輪島の四十沢(あいざわ)木材工芸さんというところで作っている欅(けやき)のプレートです。最初に作られていたものがあって、それを僕がデザインし直した経緯があります。

四十沢木材工芸 KITOシリーズ「輪花盆」

元々は、輪島塗の木地の不良在庫なんです。ずっと倉庫に眠っていて、四十沢さんがご自身でなにかやろうとした時に、やっぱり輪島は漆器の産地だから、まずは漆を塗ったりして。拭き漆をしてみるんだけど、どうもまったりしてあんまり納得のいくものができなかったようです。

ある時、四十沢さんの奥さんが倉庫からこれを見つけてきて「オイルだけ塗ってこのまま 売ったらいいじゃん」と。そうしてみたら売れたんです。

で、そこからどうしていくか、展開に悩んでいるという相談が僕のところにありました。

でも僕が劇的に変えた部分ってすごく少なくて。元のものづくりを活かしながら、フチの部分を少し細くしたり、指のかかりを考えて持ちやすく調整したり、ディテールをデザインしました。

というのも、実は元々このお盆のユーザーだったんですよ。良さを知ってるからこそ、使いながら少しずつ気になっていた部分を改良する選択肢をとりました。フチの細さを調整すれば、サイズはほぼ以前のままで、それまで3つしか置けなかった食器が4つ置けるようになったり。そうした微細な調整の積み重ねですけど、ちゃんと、より売れるようになった。

あと、これはNCルーターで加工しているんですが、同じ刃を流用して、別デザインのプレートも作りました。そうすると開発費も抑えることができる。

こういう協業のやり方もあるんだ、という参考例になればと。

木本:

私はこの「たまご包(つと)」を持ってきました。

たまご包(つと)

倉敷にある須波亨商店というところに、須波さん*という作り手の方がいるんです。

※倉敷 須浪亨商店5代目 須浪隆貴さん

倉敷って花ござが有名なんですけど、やっぱり需要は減ってきていて。

そんな中で須波さんは、信じられないくらい大きな鍋敷きだったりとか、凄くかわいい、ちょっと欲しくなる不思議な品をい草でたくさん作っていて。

これは卵を買ったら無料でついてきたものなんですけど、普段は何も入れずにそのまま飾っています。

昔は卵を持ち運ぶための機能が必要とされていたけど、今はインテリアにもなるというか。「卵を入れなければ!」と思わなくていいし、鍋敷きも鍋敷きじゃなくていい。気楽に間違った使い方をさせてくれるような、寛容さがある。

素材はちゃんと昔ながらのい草で、畳の端っこの部分を有効活用したりしているけど、そんなことを感じさせないようなコミカルなかわいさもある。

それを若い世代の方が黙々と倉敷で作っているって、素晴らしいなと。

大治:

僕も間違えたっていいと思っています。「これは、別にこれでもいいんじゃない」っていう、“良い間違い”がたくさんあった方がいいんですよ。それは、可能性がそこに埋まっているということなので。何かに変わった時にも柔軟に対応できる、生命力がある。

完璧には作れない反面、良い間違いが含まれているようなものが、手仕事には多いんじゃないかなと思います。

木本:

さっきの、漆を塗らないままのプレートとかも、昔の人からするとただの間違いなんだと思うんです。「恥ずかしいことだ」みたいな。でも今だと、木の素地が見えた方がむしろ嬉しい、良い間違いですよね。

大治:

本当にそうなんです。

そんな風にどんどん見立て直していいんだけど、その土地のものづくりである意味の中心は、見つめておかないといけない。外側にあることではなくて、軸にあること。

外側だけがあって、それが「~~焼です」っていうのは、やっぱりぺらぺら。中心の軸がしっかりしていて、その周囲がすごい速さで回っているからこそ、ちゃんと遠心力が効いている。そういうものづくりをしたい。

それが出来れば、どんな風に変わってもいいと思います。

決められた定義が足かせになるなら、外してもいい

坂本:

僕が一番初めにピンときたのは、亡くなられてしまったんですが、長崎で活動されていた城谷耕生*さんの取り組みです。

※城谷耕生さん:デザイナー。長崎県雲仙市に「Studio Shirotani」開設。2020年12月に逝去

これは波佐見焼の食器シリーズなんですけど、面白いのが、いわゆるB品の土を採用していること。それまで、鉄粉が入ってしまった土は波佐見焼では使えなくて、廃棄されていた。でも、グレイッシュな色味もいいじゃないかということで釉薬を変え、鉄粉を表現として取り入れてラインアップしている。

波佐見焼の現場と近いところにいて活動していた城谷さんならではの事例かなと思って、すごく良いなと。

大治:

僕が20代の頃とかに、工芸品をきちんと再ブランディングして、みたいなことをやり始めていた先駆者ですよね。精神的影響をかなり受けてます。地産地匠アワードに、審査委員長として入っていただきたかったくらい。

坂本:

本当に、今回のコンセプトにぴったりハマる人だったなと思います。

大治:

近い話でいえば、有田焼では天草の陶石が使われているんですけど、そこにも細かく等級が決められていて。良い等級の陶石を採ろうとすると、同時に膨大なB・C級のものも採れてしまう。それを精製して、等級の良い部分だけを有田では使っていました。

僕が有田でやっているのは、良くない等級とされてきた陶石を使うプロダクトです。これまで有田焼では使われなかった石ですが、「これも有田焼じゃん」って言わないとダメだと思うんです。

他の産地でも、大館の曲げわっぱなんかは、元々は樹齢200年以上の天然杉だけが使われていたけど、僕が関わり始めた15年前の時点で、樹齢100年前後の材が主流になっていました。そうするうちに、資源保護の観点で国から天然杉の伐採禁止*という通達が出た。今は人工植林の秋田杉を主に使用しています。

※天然の秋田杉について、2013年3月以降の伐採が禁止となった

この状況で素材にこだわってたら、大館曲げわっぱは滅んじゃう。製法や素材が変わることを許容しなければ産地は続いていけません。

その意味で、産地ブランドというのも辞めた方がいい。名前と技法を一緒にするのを辞めればいいのにと思います。じゃないと変われないから。

加藤:

伝統的工芸品とかも、単に国が作った一つの枠組みですもんね。

大治:

指定された当時は夢だったと思うんです。「俺たちにも価値はあるんだ!」っていう。でも、その時定めたルールが、もしも足かせになっているなら、外してもいい。

もちろん、その場所・地域でやっていること自体は誇りに思っていいけど、「~~焼です」ってみんながぼんやり思っている像みたいなものは無くなっていいんじゃないかなと思いますね。

加藤:

僕は信楽にいて、お店もやっているので、よく聞かれるんです。「これは信楽焼ですか?」って。

それは正直、どっちでもいいと思っていて。信楽焼だからいいってことではないじゃないですか。信楽にも色々な作り手がいて多様性があるし。「信楽という地域で作っている状況の方にこそ価値があるんです」って説明するんですけど。

大治:

たとえば僕がデザインした「FUTAGAMI」*のプロダクトも、「高岡銅器だ」みたいなことは敢えて言っていないし、きっと高岡銅器には見えないだろうとも思う。いつか時間が経てばそう見られるのかもしれないけど、その時は高岡銅器ではなくて、“高岡”という風に見えればいいなと思ったりしています。

※富山県高岡の鋳物メーカー「二上」が立ち上げた真鍮の生活用品ブランド

加藤:

それぞれの特徴をいかすのはいいと思うんですよ。信楽だったら大きいものが得意やから、なるべく大きいものを作るとか。

強みをいかすのはいいけど、名前だけで評価するのはナンセンスやなと思いますね。

ただ、たとえば~~焼の組合にしか助成金が下りないみたいなこともあって。それは産地の構造としておかしいと思ってます。

坂本:

産地を名乗ることによって、国からのお金が入りやすい。だから名乗る必要があるっていう。

加藤:

それこそ、もう作り手もいなくて、名前だけ残っているようなものもあって。それを啓蒙するイベントが開かれていたりする。「いやそれ、誰も作ってないですよ」っていう。

大治:

それ、「産地のゾンビ化」と呼んでいるんです。

坂本:

上手いこと言ってるなぁ。

大治:

(笑)。

要するにゾンビが生きている限りは、本当に生きている人たちに支援が行き届かない。

それは病だと思うので、悪しき習慣として断ち切って、本当に応援すべき人を、ちゃんと応援できる仕組みづくりをしないといけないんですよ。

坂本:

産地の再編というか、逆に“産地のための産地”みたいなものは、無くなってもいいのかもしれないよね。

加藤:

それでいうと、僕が昔から気になっていて、いいなと思っているのが新潟の「エフスタイル」*さん。

※新潟生まれの五十嵐恵美さんと星野若菜さんが2001年に立ち上げたブランド。新潟を拠点に、デザイン提案から販路開拓まで一貫して請け負っている。

産地としてものづくりがやれてるというか、自分たちでデザインもしつつ、しっかり周囲の作り手とコミュニケーションしながら一緒にやっている。

ものづくりをする上で産地側のリテラシーも上げていく必要があると思っているんですけど、そう簡単には上がらないので、一緒にやっていくのは重要だなと。

数を追いかけるわけではないし、かと言って一点ものでもない規模感で。あの二人の取り組み自体が凄くいいなと思っています。

大治:

僕も、仕事で産地へ行くことを“出張”じゃなくて“通勤”って言ってるんですよ。「先生が来る」みたいになると嫌なので、通勤。5時間以内なら近いという感覚(笑)。

そういうところからでも、一緒にやっている感覚がないとね。本当のことを教えてくれないし、こちらも本当のことが言えない。“先生”が関わることで広告になっていた時代はいいけど、今は違うので。

後編へ続く


文:白石雄太
写真:中村ナリコ