こんにちは。さんち編集部です。
1月の「さんち〜工芸と探訪〜」は薩摩特集。あちこちへお邪魔しながら、たくさんの魅力を発見できました。
桜島に見守られ、温暖な気候と風土がもたらす恵みで栄えた薩摩。重要な歴史文化を構築した産地でもあります。西郷隆盛や大久保利通といった県を代表する偉人たちが生まれた場所であり、今年は明治維新150周年!NHK大河ドラマ「西郷どん」もスタートし、注目の産地です。
それでは、編集部がおすすめする1泊2日のプランをご紹介します!
今回はこんなプランを考えてみました
1日目:
・椅子好きにはたまらない。鹿児島空港搭乗口のイームズ シェルチェア
・島津家の歴史や近代日本産業の息吹が感じられる名勝地 仙巌園・尚古集成館
・100年の時を経て蘇った美しさを訪ねる。薩摩切子の工房へ
・フェリーに乗ったら必ず食べたい!県民が愛するやぶ金のうどん
・たった一人の女性作家が復活させた、幻の薩摩ボタン
2日目:
・異国情緒あふれる絶景の産業遺構。山川製塩工場跡
・雄大な自然と一つになれる、天然の砂むし場。山川砂むし温泉 砂湯里 (さゆり)
・庭を知ると旅が10倍楽しくなる。知覧武家屋敷庭園
・仏壇屋が挑む現代のインテリア。川辺手練団
このようなラインナップでお届けします。それでは、早速行ってみましょう!
1日目:
1泊2日の薩摩旅は、歩き方記事では初の空港!鹿児島空港からスタート。
【朝】椅子好きにはたまらない。イームズ シェルチェア
鹿児島空港
鹿児島空港の搭乗口にズラリと並んだイームズのシェルチェア。日本のものづくり‥‥からは外れてしまいますが、ぜひ人に話したくなるとっておきのスポットとしてご紹介させてください。
スタート地点が見どころとは、このあとの名所にも期待が高まります!
【午前】島津家の歴史や近代日本産業の息吹が感じられる名勝地
仙巌園・尚古集成館
鹿児島が誇る名勝地、仙巌園へは鹿児島空港からリムジンバスで1時間、車で40分ほど。鹿児島湾を池に見立てた、スケールの大きな大名庭園です。風光明媚な名勝地としてだけでなく、歴史遺産としての価値もかなりのもの。
幕末から近代にかけては、島津家28代斉彬によって富国強兵と殖産興業が推し進められ、園内やその周辺には「集成館事業」とよばれる製鉄やガラス、陶器のほか、造船や大砲などの工場が集まったそうです。
薩摩の雄大な景色と、近代日本の胎動を同時に感じられる場所です。
【午前】100年の時を経て蘇った美しさを訪ねる。薩摩切子の工房へ
島津興業 薩摩ガラス工芸
かつては「幻」と呼ばれていた鹿児島を代表する工芸品、薩摩切子。江戸時代末期に、薩摩藩主である島津家の肝いりで技巧が極められ、薩摩藩を代表する美術工芸品となりましたが、明治以降、幕末の動乱の中で徐々に衰退。
しかしそれから約120年後の1985年、斉彬のゆかりの地である磯 (いそ) を中心に復刻運動が起こり、薩摩切子は鹿児島の誇る新たな工芸品として息を吹き返すこととなるのです。
多くのガラスの専門家が知恵を出し合い、少しずつかつての鮮やかさと輝きを取り戻した薩摩切子。その製造の様子を見学できる場所が、仙巌園から徒歩3分の薩摩ガラス工芸です。
工房ではこんな細やかな表現が生まれる様子を、誰でも予約なしで見学することができます。器の原型を作る成形から、カット、磨きまで全工程が揃ったガラス工房は全国でも非常に珍しいそうですよ。
>>>>>>>関連記事 :「100年の時を経て蘇った美しさを訪ねる。薩摩切子の工房へ」
「幕末の『下町ロケット』 幻と呼ばれた薩摩切子が、100年後の鹿児島で蘇るまで」
【昼】フェリーに乗ったら必ず食べたい!県民が愛するうどん
やぶ金
次の目的地へ向かうには、こちらでは不可欠な交通手段であるフェリーに乗ります。お昼はどこでいただこうかなと思っていたら、なんと、桜島フェリーの船内にうどん屋さんがあるそうですよ。約15分の船旅で食べきれるようにちょうどいいサイズ。注文してからも、あっという間にできあがります。地元の名産、さつま揚げも乗せられています。
そろそろフェリーが到着しますよ。午後の見どころに向かいましょう。
【午後】たった一人の女性作家が復活させた、幻の薩摩ボタン
絵付舎・薩摩志史
直径わずか0.8cm〜5cmほどの小さなキャンバスに、微細に描かれた文様。
これは「薩摩ボタン」といい、鹿児島の伝統工芸品「白薩摩」に薩摩焼の技法を駆使して絵付けをしたもの。江戸時代末期、ジャポニズム文化の一つとして欧米の人々を魅了しましたが、その後、繊細な技法のため作り手が途絶え、幻のボタンともいわれてきました。
そんな薩摩ボタンを現代に蘇らせたのが、日本で唯一の薩摩ボタン作家、室田志保さんです。
こちらの薩摩ボタンはなんとオーダーメイドが可能だそうです!お伺いする際は、事前にお問い合わせください。
>>>>>>>関連記事 :「「幻の薩摩ボタン」を現代に復活させた、たった一人の女性作家を訪ねて」
【夕方】指宿エリアの宿にチェックイン
明日は薩摩ならではのダイナミックな見どころからスタートする予定です。指宿温泉で、旅の疲れを癒しましょう。
2日目:
【朝】異国情緒あふれる絶景の産業遺構
山川製塩工場跡
指宿市のJR山川駅から車で15分ほど行くと、壁のようにそり立つ山や南国らしい植物に囲まれた土地から、いくつもの湯けむりが立ち上がる不思議な光景と出会う。まるで日本ではないようです。
湯けむりの正体は伏目温泉の湯気。塩工場では、この温泉熱を利用して、1943 (昭和18) 年ごろから約20年間、製塩事業を行ってきました。かつて温泉熱を利用した製塩事業は全国各地で行われていたものの、最後まで稼働していたのは指宿なんだそう。
そんな時代の移り変わりを感じさせる産業遺構が、この山川製塩工場跡です。
【午前】雄大な自然と一つになれる、天然の砂むし場 山川砂むし温泉 砂湯里 (さゆり)
山川製塩工場跡から歩いて3分ほど。鹿児島に来たら必ず体験しておきたい、砂むし温泉です!
伏目温泉の地熱を利用した砂むし場。目の前に広がる海と周辺の南国情緒たっぷりの木々が、どこか異国を感じさせます。
じわりと吹き出す汗で身体の毒素は抜け、心地よい波音が心をほぐしてくれる。心身ともにデトックスできる場所です。湯上がりに小腹が空いたら、温泉熱で蒸した温泉卵やふかし芋がおすすめ。
徒歩圏内には絶景をのぞめる日帰り温泉地「たまて箱温泉」やレストラン「地熱の里」も。こちらでお昼をいただきましょう。せっかくのデトックスあとなので、食べ過ぎにはご注意を‥‥!
【午後】庭を知ると旅が10倍楽しくなる。
知覧武家屋敷庭園
指宿から車で1時間ほど、次に訪れたのは知覧武家屋敷庭園。7つの庭園からなる国指定の名勝です。
庭園がある南九州市知覧町は国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されており、「薩摩の小京都」とも呼ばれている地域。そこには、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのような景色が広がります。
時代を動かした薩摩藩士たちの勇ましさを随所に感じる一方で、庭園を見渡すと趣を感じずにはいられません。江戸時代に造られた立派な庭と町並みが、当時の姿を残したまま見られるのはとても珍しいこと。知覧の庭も町並みも、行政ではなく、住民の皆さんが管理されているそうです。入園料は、7つの庭園だけではなく、周辺の家々の手入れにも使っているので風情ある町並みに保たれているとか。
江戸時代の面影が残る知覧の町。ぜひその町並みを歩いて、江戸を生きた薩摩藩士の暮らしを肌で感じてみてはいかがでしょうか。
>>>>>>>関連記事 :「庭を知ると旅が10倍楽しくなる。「知覧武家屋敷庭園」の巡り方」
薩摩の旅もそろそろ終盤です。土地の広さゆえに移動が多い産地ではありますが、道中の景色も見ごたえ十分です。
【午後】仏壇屋が挑む現代のインテリア
川辺手練団
旅の締めくくりは鹿児島の伝統的工芸品「川辺 (かわなべ) 仏壇」の歴史や技術を伝える川辺仏壇工芸会館へ。川辺町は古くから信仰心の篤い地域で、平安時代末期ごろから仏壇がつくられるようになったといいます。
一見、洗練された大人たちが集うバーを思わせる空間ですが、仏壇屋さんのショールームなんです。
素敵なデザインのアイテムが並びますが、中にはこういった仏壇のパーツに用いられる技術でつくられたものもあります。
あらゆるものづくりの技術が集結する川辺町の仏壇づくりですが、ライフスタイルの変化で仏壇離れが進み、仏壇産業そのものが縮小傾向にある中、このままではこれらの技術が途絶えてしまうかもしれない。危機感を抱いた川辺仏壇協同組合のメンバーがそうした現状を打破すべく、2016年夏に始動したのがこちらのインテリア製品を手がける「川辺手練団」。
仏壇づくりの技術を活かしながらも、仏壇という枠から飛び出して新たな商品をつくっていこうという取り組みです。職人の高齢化問題や価格、販路などの課題はありつつも、今後も新商品を出していくとのこと。この2月には、パリで開催される鹿児島県の展示会に川辺手練団として出展する予定です。
>>>>>>>関連記事 :「仏壇屋が挑む現代のインテリア。「川辺手練団」、始動。」
時間に余裕があれば、こんなお土産もいかがでしょうか。
丸みのあるシルエットに、穏やかな笑みを浮かべた表情。見ているだけで、思わずこちらも笑顔になってしまう、「オッのコンボ」という名前の郷土玩具です。
このユニークな名前は、鹿児島の言葉で「起き上がり小法師」という意味。その発祥は定かではないものの、少なくとも島津藩の藩政時代には鹿児島地方の家々にあったといいます。
>>>>>>>関連記事 :「台所の守り神、鹿児島の「オッのコンボ」」
こちらも、必ず買って帰りたいですね。
鹿児島県いちき串木野市にある勘場蒲鉾店の「つけあげ」です。
鹿児島県の郷土料理のひとつで特産品でもある薩摩揚。地元では「つけあげ」とよばれていますが、薩摩藩時代、中国や琉球文化との交流から、魚肉のすり身を澱粉と混ぜて油で揚げた「チキアギ」が食べられるようになり、それがなまって「つけあげ」になったとも言われています。県内でも、いちき串木野市は、古くから水産練り製品加工業(さつまあげ・かまぼこ)が盛んで「さつまあげ発祥の地」とも言われています。
薩摩をめぐる1泊2日の旅、お楽しみいただけたでしょうか?
船に揺られて砂に埋まって。南国らしい楽しみもありながら、華やかな薩摩切子や薩摩ボタンの奥には幕末のエネルギーを感じます。
維新150年の今年、ぜひカラフルな薩摩の魅力を訪ねてみてはいかがでしょうか。
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撮影:菅井俊之、尾島可奈子
画像提供:薩摩ガラス工芸、絵付舎・薩摩史志