山形県には「山から福がおりてくる」…手仕事伝えるブランドからの“暮らしの提案”

「どうぞ、ゆっくりしていってください」

そう言われて、手招きされた先はこたつでした。

山から福がおりてくる

これは合同展示会「大日本市」でのひとコマ。この一画だけ、まるでおばあちゃんの家のような雰囲気です。

ブース中央には「山から福がおりてくる」というポスターが張り出され、そのまわりには張子人形や織物のバッグ、黒豆茶やカップ納豆汁といった食べ物など、様々なものが並んでいます。

山から福がおりてくる
山から福がおりてくる
山から福がおりてくる

山からの恵みに育まれてきた暮らし

「『山から福がおりてくる』は、山形の手仕事を紹介するブランドです」

そう教えてくれたのは、山形出身・在住のクリエイティブディレクター、吉野敏充さん。

どうりで取り扱うアイテムが幅広いわけです。

山から福がおりてくる・吉野敏充さん
吉野敏充さんは、「山から福がおりてくる」のロゴデザインやPR、販売などを担当しています

もともと、山形の工芸品の新たな商品企画やリブランディングを手がけてきた吉野さん。個々に活動している手仕事の工房や職人たちをまとめて、「山から福がおりてくる」の名のもとに山形の手仕事を広く紹介しています。

「山形には、山や雪に囲まれた中で培ってきたものづくりがたくさんあります。それらを『福』ととらえて、ふだんの暮らしの中に取り入れていくことを提案していきたいんですよね」

山から福がおりてくる
ブランドロゴは、太陽、雨、山、川、土と、山形の自然を表現したそう

山形のモノ、体験を届ける

山形には兼業農家が多く、農家の夜仕事や冬仕事をベースにしたものづくりが多いとのこと。

こうした地域の暮らしに根付くものづくりの文化を絶やさぬよう、受け継いでいくことも「山から福がおりてくる」の一つの使命だといいます。

こちらの珍しい形をした注連縄 (しめなわ) も、そんな山形ならではの手仕事の一つ。地域の藁職人に学び、作り方を継承しています。

山から福がおりてくる
米どころである山形県庄内地方に伝わる、米俵をモチーフにした注連縄。五穀豊穣の願いが込められています

ある時は、山形で様々なものづくりをしている人たちを引き合わせることで新たなプロダクトを生み出すことも。

山から福がおりてくる
木工職人と蔓細工職人によるコラボアイテム。東北地方の木材で作った箸と最上地方のヤマブドウの皮でできた箸留め兼箸置き
山から福がおりてくる
最上地方に伝わる長沢和紙と藁の水引を組み合わせた熨斗袋。謙虚さや潔さが漂う風合いです (写真提供:山から福がおりてくる )

また、ある時は、伝統的な山形のものづくりに現代的な発想やデザインを取り入れた新しい提案もしています。

山から福がおりてくる・ツルヤ商店 猫ちぐら
明治40年創業の籐工芸の老舗、ツルヤ商店の職人による猫ちぐら「nejiro」。既存商品として作られていた脱衣かごを見て、「これを重ねたら猫が入るのでは?」とひらめいたんだとか (写真提供:山から福がおりてくる )
山から福がおりてくる
手編み草履の老舗、軽部草履からの「若い人に草履を履いてもらいたい」という相談から生まれた「irozori」。カラフルでポップなデザインだけでなく、通常、真ん中にある鼻緒の位置を少しずらして、草履を履き慣れていない人でも最初から履きやすいように工夫を施してあります
山から福がおりてくる
工房ストローが作る藁細工のオーナメントを吊り下げてモビールに (写真提供:山から福がおりてくる )
山から福がおりてくる
犬や猫、馬など様々な動物をかたどったオーナメントの組み合わせは自由。インテリアとして現代のお部屋にもなじみそうです

さらに、「売っておしまい」ではなく、山形のものづくりを未来につなげていく取り組みとして、「モノ」だけでなく「体験」も提供していこうとしています。

山から福がおりてくる
山菜採りや山伏体験など、山形の自然や文化が感じられる体験を多数用意

「いまはモノがあふれる時代。これから先、ずっとモノだけを売り続けるのは難しいと思うので、山形に足を運んでもらい、体験を通して山形やモノのよさを伝えられたらと考えています」

こうして様々な形でたくさんの人たちと協力する中で、改めて見えてきたことがあると吉野さんは言います。

「つくる人が皆やさしい。マイペースだから作業は決して早くはないんですけど、僕らが提案することを嫌がらずにやってくれるんです」

地域の人たちが惜しみなく共有してくれる、“山から届いた福”の数々。

そんなやさしさあふれる福のおすそ分けにあずかったら、なんだかいいことがありそうな気がします。

芽吹きの季節、山からの福をたっぷり享受してみたくなりました。

<取材協力>

山から福がおりてくる

http://yamakarafuku.jp/

文:岩本恵美

写真:志鎌康平 (トップ写真) 、中里楓

歩きやすく、疲れにくい革靴を。靴職人の理想を形にした「SLOW FACTORY」の日常靴

靴選びって、難しい。

特に革靴は、靴擦れもしやすくて、自分にぴったりの履き心地のものを見つけるのは至難の技です。

オーダーメイドの靴を作れたらいいのかもしれないけれど、お財布にはあまりやさしくないし‥‥。

そんなことを考えているとき、目に入ってきた革靴がこちら。

SLOW FACTORY

「これしか履かない。と、靴職人は思った。」

靴職人がそう思いながら作ったという、理想の革靴「SLOW FACTORY (スロウファクトリー) 」です。

SLOW FACTORY
1足18,000円 (税抜) 〜と、革靴にしては買いやすい価格なのがうれしいところ

靴職人が考える理想の革靴とは、いったいどんな靴なのでしょうか。

目指したのは「気負わずに履ける革靴」

SLOW FACTORYは、上履きやスニーカーでおなじみのメーカー、ムーンスターが手がけるシューズブランドの一つ。2019年に立ち上がりました。

ムーンスター
ムーンスターの上履き「スクールカラーM」は、1964年からの定番商品。2013年度グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞しました
SLOW FACTORY

「ちょっと意外かもしれませんが、実はうちでは60年前くらいから革靴も作っているんですよ。佐賀に革靴専門の工場があるんです」と、ムーンスター ライフスタイルマーケティング部の田中貴子さん。

「30年ほど前にその工場で働く一人の靴職人が思い描いた理想の革靴。それがSLOW FACTORYの原型となるアイデアです。

気負わずに履ける、足の疲れない革靴。

でも、その理想の革靴を作るには、工程も多いうえに、職人の高い技術力も必要でした」

当時は“理想の革靴”を作れる職人が少なく、数もたくさん作れないため、商品化には至らなったといいます。

それでも、ゆっくりでもいいから、本当にいい靴を届けたい。

そんな強い思いから、SLOW FACTORYは動き始めました。

SLOW FACTORY

高い屈曲性とホールド感が生んだ履き心地のよさ

SLOW FACTORYの靴で着目したいのが、靴の甲の部分。縫い目が外側に見えています。

SLOW FACTORY

こうして靴の上部にあたるアッパー部分の革の端を外側に出して縫う製法を「ステッチダウン製法」といいます。つま先立ちも楽にできるほど屈曲性が高いことから、子ども靴やデザートブーツなどに使われることが多い製法です。

SLOW FACTORYのすごいところは、ひと手間かけて、さらに屈曲性をアップさせているところ。

ステッチダウン製法では、アッパーのまわりをぐるりと全て縫っていくのが一般的ですが、足の動きに合わせて屈曲するべき部分だけが曲がりやすくなるよう、ステッチダウン製法をかかと以外の部分だけに施しているのです。

機械を使っているとはいえ、ひと針ひと針、慎重に縫い進めていく作業になります。

SLOW FACTORY
ステッチは、かかと部分の手前までになっています
SLOW FACTORY

一方、かかと部分は革の端を内側に包み込むようにしてつり込む「つり込み式」を採用。こうすることで、かかとのホールド感が増し、かかとがぶれにくくなるんだそうです。

SLOW FACTORY

「この“縫いと留め”は、熟練の靴職人でないとできない難しい手技です」

SLOW FACTORY

ゆっくりでも、着実にものづくりを続けていこうとするSLOW FACTORYの意思がそこにはありました。

少しずつでいいから、一歩でも前へ。

履き心地がよいのもさることながら、履いている人の気持ちをも前へと後押ししてくれそうです。

SLOW FACTORYの革靴を履いて、いつもよりももっと遠くへ足を運んでみませんか。

<取材協力>

ムーンスター

https://www.moonstar.co.jp/

SLOW FACTORY ブランドサイト

https://www.moonstar.co.jp/slowfactory/

文:岩本恵美

写真:ムーンスター提供、中里楓

「この綿を一度着たら、戻れなくなる」HAAGの普段着、やわらかさの秘密

たくさんのものであふれる時代。

膨大な選択肢の中から、本当に自分に合うものを選ぶのはなかなか難しいことかもしれません。

そんな中、これなら迷いなく長く使っていけそうだと思えるものに出会いました。

アパレルブランド「HAAG (ハーグ) 」のデイリーウェアです。

HAAG

触り心地はまるでカシミヤのよう‥‥。そこには綿という素材の本質的な心地よさが宿っていました。

HAAG
綿(コットン)で作られたスウェットや靴下などのプロダクト

原点は赤ちゃん用の肌着

HAAGは三重県に拠点を構える「スマイルコットン社」が手がけるオリジナルブランド。社名と同じ「スマイルコットン」という特別な綿生地を使っています。

「この綿を一度着たら、戻れなくなりますよ」

そう自信をもって話すのは、スマイルコットン社の片山英尚さん。

スマイルコットン社の片山英尚さん
スマイルコットン社の片山英尚さん

スマイルコットン社がある三重県北部は、明治以降、紡績業がさかんな地域だったそう。

「戦後、祖父が機械編みであるメリヤスニットの工場を立ち上げ、父が『肌にやさしい、カシミヤタッチの綿生地をつくりたい』とスマイルコットンの原形を作りました。でも、1970年代当時は大量生産、大量消費の時代。技術面でもコスト面でも折り合いがつかず、手応えはありませんでした」

それからおよそ20年後。

時代とともにニーズも変化。その肌触りのやわらかさと軽さが注目され、ベビー用肌着として商品化がスタート。

そんな赤ちゃんのデリケートな肌にも安心して使える素材・スマイルコットンに、デザイン要素をプラスして生まれたのがHAAGでした。

やわらかさの秘密は糸にあり

そもそもスマイルコットンと通常のコットンの違いは、なんなのでしょうか。

HAAG
左がスマイルコットン、右が通常のコットン。同じ10gの重さでも、スマイルコットンの方がボリューム感があり、ふんわりとしていることがよくわかります

その秘密は糸にあります。

糸というのは、わたの繊維を「撚る(よる)」というねじり合わせる作業をすることでできるものですが、その撚りをほぐして戻すことで繊維と繊維の間に空間ができ、ふんわりとやわらかい肌触りを生み出しています。

HAAG
繊維間に空間ができることで、スマイルコットンはやわらかさだけでなく、保温性や吸水性、速乾性にも優れているそう

HAAGのアイテムやパッケージにあしらわれている数字は、糸の太さを表すもの。糸からこだわって作られていることを物語っています。

HAAG
数字は、製品に使われている糸の番手 (太さ) を表すもの。数字が大きくなるほど、糸の太さは細くなります。着心地を考えて糸を使い分けているのだそう

日々身につけるものだからこそ、ストレスなく

HAAGというブランド名には、「スマイルコットンの生地でハグされて笑顔になってほしい」という願いを込めたとのこと。

HAAG
HAAG

「どんなに素材がよくても、使ってくれる人や身につけてくれる人がいてはじめてブランドとして成り立つと思うんです。食べものと同じです。食べてくれる人がいるから、美味しいってわかる」

そんな思いから、HAAGでは「肌にやさしく」というコンセプトを第一に、普遍的でありつつもカラーやフォルムに現代らしさを取り入れたデイリーウェアを展開しています。

HAAG
スウェットジップパーカー。ダブルジッップ&形崩れしない二枚仕立てのフードがうれしいところ
HAAG
トレンドのテーパード型のスウェットパンツ
HAAG
片山さんがお風呂上がりに履いているという靴下。「ふかふかで絨毯をはいているかのよう。とても暖かいけど蒸れませんよ」

アトピーや敏感肌の方はもちろん、日々身につけるものだからこそ、違和感やストレスのないものを求めている人へ。

まずは、その手触りをぜひ体感してみてください。

きっと誰かにも教えたくなるはずです。

<取材協力>

スマイルコットン

三重県三重郡川越町豊田一色234-1

http://i-haag.jp/

文:岩本恵美

写真:スマイルコットン提供、中里楓

原点はオードリー・ヘップバーン!“つっかけ”を進化させた「HEP」のサンダル

ピンポーン。

「お届け物です」

「はーい」(あ、靴履くの面倒だな。一瞬だけ、つま先立ちなら、このままでもいっか。エイ!)

なんてこと、ないですか?

玄関につっかけでも常備しておけばいいのですが、靴を出しっぱなしにしておきたくなかったり、玄関の雰囲気に合うつっかけと出会えてなかったり‥‥。

こだわりというのは、他人からするとどうでもいいような、細かいところに常にあるものかもしれません。

ですが、そんな細かいこだわりを満たしてくれるサンダルを見つけました。

奈良の川東履物商店が手がけるオリジナルブランド「HEP (ヘップ) 」のサンダルです。

HEP

日本ならではの履物文化、ヘップサンダルとは?

川東履物商店がある奈良は、雪駄や草履から便所サンダルまで、古くから地場産業として履物の生産がさかんな場所。川東履物商店も、1952年の創業以来、履物づくりを生業としてきました。

「こういうサンダル、昔、おじいちゃんやおばあちゃんの家で見ませんでしたか?」

どこかで見たことのあるようなサンダルを手に、そう話すのは、川東履物商店の川東宗時さん。

HEP
HEPを手がける川東履物商店の川東宗時さん
川東履物商店の川東宗時さん

川東履物商店が商店街の靴屋さんや町のホームセンターなどに卸してきたサンダルは、いわゆる「つっかけ」。またの名を「ヘップ」や「ヘップサンダル」と呼ばれるものです。

意外なことに、「ヘップサンダル」の名は、女優のオードリー・ヘップバーンの名前からとったものだそう。

映画「ローマの休日」で、オードリー・ヘップバーンがつま先部分の開いたバックレスのサンダル、今でいうミュールのようなサンダルを履いていたことから、日本でその形のサンダルを「ヘップサンダル」と呼ぶようになったといいます。

「ヘップサンダルは、実は日本だからこそ定着した生活道具なんですよ」と川東さん。

日本家屋の構造上、母屋と離れに分かれていたり、お風呂やトイレなどの水回りが外にあったりなど、内と外の往来が多かったことから、さっと履いて行き来ができる履物として重宝されてきたといいます。

特に映画が公開された1950年代から数十年は、女性が主に家事を担っていた時代。

食事の支度をするとなれば、板の間と土間の台所を行ったり来たり。

洗濯を干すにも縁側と庭を行ったり来たり。

ちょっとご近所までという時にも、気楽に履けるサンダルとして日本の家庭で長年親しまれてきました。

ヘップサンダル
さまざまなデザインのヘップサンダルが増えていき、日本の家庭に広まっていきました

サンダルの代表ブランド入りを目指して

そんな昔から日本に根付いてきた生活文化としてのヘップサンダルを現代の生活に合うようにアップデートしたのが「HEP」です。

「スリッパや足袋、ビーチサンダルなど、履物って日本発のものが実は多いんです。でも、クロックスやビルケンシュトックみたいに、サンダルといって皆が思い浮かべる日本のブランドってないですよね。だからこそ、日本の文化的文脈をくんだヘップサンダルで、サンダルブランドの代表のひとつになりたいんです」

ブランドデビューを飾る1stシリーズ「BLACK PLAIN」は、手入れが楽な人工皮革製でヘップサンダルの気軽さはそのままに、置きっぱなしにしていても玄関の美観も損なわないシンプルなデザイン。カラフルで装飾が多めになりがちなヘップサンダルをミニマルに仕上げました。

HEP
HEPの記念すべき1stシリーズ「BLACK PLAIN」

シチュエーション別に考えられたデザイン

デザインは全部で4パターン。ドライブ、コンビニ、銭湯、玄関と、シチュエーション別にイメージを膨らませたデザインになっていますが、使い方はあくまで自由だそう。

HEP
「DRV」は運転手の間で愛用されてきたドライビングサンダルが原型。2WAYで使えるバックバンド付きで、アクセルやブレーキが踏みやすいようにソール部分が斜めになっているのが特徴です
HEP
ヘップサンダルのザ・定番的なデザインの「CVN」
HEP
「SNT」もヘップサンダルらしさ全開のデザイン。遠い昔にどこかで見たことがあるようなレトロなシルエットです
HEP
ギブス用サンダルをモデルにした「GNK」は、甲の高さに合わせてマジックテープで調整できるのがうれしいところ

贈り物としても活用してほしいと、引き出し式の箱に収められているのも従来のヘップサンダルとは一線を画します。

HEP
百貨店の包装紙のように高級感を出したというデザインの箱。シューズブラシや消臭剤など、玄関まわりの細々としたものを収納するのにもよさそうです

ユニセックスとなっているので、結婚や新居のお祝いにもぴったり。デザイン違いで夫婦茶碗ならぬ、夫婦サンダルとして贈るのもすてきです。

HEP

もちろん、自分への贈り物にも。

春ももうすぐそこです。

新しい季節に、新しい場所へ。

HEPのサンダルなら、思いつくまま気の向くままに、最初の一歩を踏み出せそうな気がします。

<取材協力>

川東履物商店

奈良県大和高田市曙町15-33

https://www.hep-sandal.jp/

文:岩本恵美

写真:川東履物商店提供、中里楓

ハレの日に贈る、縁起のよい布。つづれ織から生まれた「sufuto」

高い技術力が求められるという美術織物の中でも、最高峰と言われる「つづれ織」。

その名前には、馴染みがない人がほとんどかもしれません。

「非日常のものを多く作ってきたから、きっと知られていないんですよね」

そう話すのは滋賀県で唯一、つづれ織を継承する清原織物の清原聖司さん。

つづれ織はもともと、天皇や大名など上流階級の人たちに献上されるような特別な織物とされていました。現代でも、ふくさなど特別な時の小物や、祭礼、劇場など、どちらかというと日常ではない「ハレの場」で使われています。

そんなつづれ織をもっと私たちの日常に寄り添うものにしたいと、清原さんは新たなブランド「sufuto (すふと) 」を立ち上げました。

sufuto
sufuto

つづれ織とは?

そもそもつづれ織とは、いったいどんな織物なのでしょう?

その歴史はおよそ4000年と古く、最古のものは古代エジプト文明の時代にまで遡るほど。

日本へは、1300年ほど前、飛鳥時代に中国から伝わり、京都の御室 (おむろ) が日本におけるつづれ織の発祥地とされています。清原織物も室町時代に御室で創業したのち、拠点を現在の滋賀県守山市に移して、つづれ織を代々受け継いできたといいます。

sufuto

一般的な織物を間近にじっくり見てみると、たて糸とよこ糸が十字にクロスしている様が見えますが、つづれ織は密度の高いよこ糸でたて糸を包み込むように織っているため、よこ糸しか見えません。

そのため、表から見ても裏から見ても同じ模様を出すことができるんだそう。

「使える色数も他の織物に比べて多く、何万色もいけます。そのため、祇園祭などの祭事に使われる幕類や舞台の緞帳など、美術織物に向いているんです」と清原さん。

織るのにも手間がかかるため、昔から高級生地として重宝されてきました。

清原織物
その華やかさから、祭事に使われる幕など神社奉納品にも多く用いられています

ハレの日を飾る「寿布 (すふ) 」という発想

「神社仏閣や劇場などに『保存する』だけでなく、つづれ織を『継続する』ためには作り手である自分たちで発信していかないといけない」

そんな思いから、新ブランド「sufuto」を始めたといいます。

sufutoを手がける清原織物の清原聖司さん
清原織物の清原聖司さん

結納のふくさや帯、祭礼用の幕地や舞台緞帳 (どんちょう) など、つづれ織はハレの場に花を添える織物。そこに改めて気づいた清原さんは、つづれ織を「寿布 (すふ) 」と名付け、sufutoでは祝いの品々を展開しています。

たとえば、出産祝いにぴったりな命名指輪。組紐がついたベビーリングをつづれ織で包んだ命名札とセットにした一品です。生まれ月からイメージされる12色が揃います。

sufuto
背には、子どもの魔除けを願って背守りの意匠が刺繍されています
sufuto

子どもが成長したあかつきには、ベビーリングをネックレスやキーホルダーのチャームとして贈ることができるのも感慨深いもの。

sufuto

新社会人の新しい門出には、手織りのつづれ織で仕立てた名刺入れを。つづれ織は軽量であると同時に、張りと厚みがある織物なのでしっかり強度もあります。

sufuto
sufuto
sufuto
組み合わせをセミオーダーできるイベントも不定期で開催。相手のイメージに合った配色で贈るのもすてきです

人生の節目となるような大切な日を、ハレの日の布「寿布」とともに。

大切な人の特別な時、sufutoの品を贈ってみてはいかがでしょうか。

<取材協力>

清原織物

滋賀県守山市今市町136-1

077-583-5711

https://www.sufuto.jp/

文:岩本恵美

写真:清原織物提供、中里楓

息子の自由研究と母の伝統技術が生んだ新しい紙。老舗和紙工房から「Food Paper」デビュー

ノートやメッセージカード、小物入れなど、いろどりも風合いもさまざまな紙でできたアイテムたち。これらの紙は、野菜や果物などの食べ物から作られているといいます。

Food Paper

その名も「Food Paper」。

紙のさまざまな可能性を模索していこうと、越前和紙の老舗工房・五十嵐製紙が立ち上げたばかりのブランドです。紙文具を中心とした紙製品を展開しています。

Food Paper
美しい葡萄色のノート (税抜500円)写真提供:Food Paper
Food Paper
みかんからできたサコッシュ (3600円) 。使い込むほどに風合いが増して経年変化が楽しめます。写真提供:Food Paper

ありそうでなかった、食べ物を紙の原料にするというアイデア。そこには、地球規模で私たちが考えなければならない、大きな問題に対する解決への糸口もありました。

減り続ける和紙の原料の代わりとして食べ物を

和紙の原料は、楮 (こうぞ) やみつまた、雁皮 (がんぴ) という植物。

「どれも年々、収穫量が減っています。うちでは楮を自家栽培して原料を確保しているほどです」

そう教えてくれたのは、五十嵐製紙の五十嵐匡美さん。

五十嵐製紙の伝統工芸士、五十嵐匡美さん
五十嵐製紙の伝統工芸士、五十嵐匡美さん

特に楮は最盛期の1.2%ほどしか採れないとのこと。

さらに、和紙を漉く際、原料の繊維を水中でムラなく分散させるために必要な「ねり」の原料となるトロロアオイも生産農家が激減しているといいます。

和紙そのものの生産が危ぶまれる中、こうした原料不足の問題をなんとかできないか。

五十嵐さんとともにFood Paperに携わる、デザイン事務所TSUGIの新山直広さんは考えました。

「既存の原料と同じような植物性繊維であれば、紙の原料になり得るのではないかと思ったんです。聞けば、小豆や帆立の貝殻などを漉き込んだ襖紙はもともと作っているとのこと。そんな話をしている中で、五十嵐さんの次男・優翔 (ゆうと) くんの自由研究が話題にあがりました」

子から親へ。和紙一家から生まれた新しい紙

小学4年生の時から5年間、優翔くんが取り組んできた「紙漉き実験」。バナナの皮やお父さんが食べたピーナッツの皮や枝豆など、身近な食べ物を使って紙を作ってみては、実験結果をファイルにまとめていたといいます。

Food Paper
Food Paper
Food Paper

できあがった紙そのものはもちろん、繊維の様子がわかる顕微鏡写真、強度や書きやすさのテストなども加えられており、年々レベルアップしていく研究内容。

「食べ物を見かけたら、何でも『ちょうだい』と言っては研究の材料にしていましたね。小さい頃から親が紙を漉いているのを見ているので、知らず知らずのうちに紙に興味があったのかもしれないです」と五十嵐さんは笑います。

この自由研究がヒントとなり、伝統的な手漉き和紙の技術と食べ物という新たな材料を掛け合わせることで「Food Paper」は生まれました。

Food Paper
「みかんを使った紙を漉いているときは幸せな時間」という五十嵐さん。みかんのいい香りが工房中に広がるのだそう。写真提供:Food Paper

紙を漉く親の背中を見て紙の研究にハマった息子。

その研究成果が伝統工芸士である親の手によって、新たな価値をまとった紙になる。

Food Paperは、家族で営む和紙の老舗工房だからこそ、実現できたのかもしれません。

紙づくりを通じたフードロス対策にも

Food Paperで使う食べ物は、廃棄される野菜や果物。ヘタなどの不要な部分は取り除きますが、ほぼ丸ごと使っているのだそう。調理時の野菜の端切れも材料として使えるのだとか。世界的に問題となっているフードロスを減らす取り組みのひとつとしても期待できます。

現時点では、ニンジンやタマネギ、パプリカなど12種類の食材を使用していますが、使える食べ物はまだまだたくさん。

「ミックスジュースみたいにいろんな食べ物を組み合わせても色味や風合いが変わって面白いですよね。無限大の可能性がFood Paperにはあると思っています」と五十嵐さん。

食べ物を材料にしているだけに、紙文具だけでなく、食と親和性の高いアイテムにも力を入れていきたいといいます。

たとえば、既にこんなアイテムも。

Food Paper
ストッカー(税抜1300円)。しょうがでできたストッカーはしょうが専用、みかんのストッカーはみかん専用といった具合に、収納する野菜や果物の種類別に用意したくなります。写真提供:Food Paper
Food Paper
写真提供:Food Paper

日々の暮らしの一部だからこそ、食に関するものは明るい未来につながるモノを選んでいきたい。

そんな思いを胸に、小さな和紙工房が見せてくれる紙の可能性にワクワクせずにはいられませんでした。

<取材協力>

五十嵐製紙

福井県越前市岩本町12-14

0778-43-0267

https://foodpaper.jp/

文:岩本恵美

写真:中里楓