ノートやメッセージカード、小物入れなど、いろどりも風合いもさまざまな紙でできたアイテムたち。これらの紙は、野菜や果物などの食べ物から作られているといいます。
その名も「Food Paper」。
紙のさまざまな可能性を模索していこうと、越前和紙の老舗工房・五十嵐製紙が立ち上げたばかりのブランドです。紙文具を中心とした紙製品を展開しています。
ありそうでなかった、食べ物を紙の原料にするというアイデア。そこには、地球規模で私たちが考えなければならない、大きな問題に対する解決への糸口もありました。
減り続ける和紙の原料の代わりとして食べ物を
和紙の原料は、楮 (こうぞ) やみつまた、雁皮 (がんぴ) という植物。
「どれも年々、収穫量が減っています。うちでは楮を自家栽培して原料を確保しているほどです」
そう教えてくれたのは、五十嵐製紙の五十嵐匡美さん。
特に楮は最盛期の1.2%ほどしか採れないとのこと。
さらに、和紙を漉く際、原料の繊維を水中でムラなく分散させるために必要な「ねり」の原料となるトロロアオイも生産農家が激減しているといいます。
和紙そのものの生産が危ぶまれる中、こうした原料不足の問題をなんとかできないか。
五十嵐さんとともにFood Paperに携わる、デザイン事務所TSUGIの新山直広さんは考えました。
「既存の原料と同じような植物性繊維であれば、紙の原料になり得るのではないかと思ったんです。聞けば、小豆や帆立の貝殻などを漉き込んだ襖紙はもともと作っているとのこと。そんな話をしている中で、五十嵐さんの次男・優翔 (ゆうと) くんの自由研究が話題にあがりました」
子から親へ。和紙一家から生まれた新しい紙
小学4年生の時から5年間、優翔くんが取り組んできた「紙漉き実験」。バナナの皮やお父さんが食べたピーナッツの皮や枝豆など、身近な食べ物を使って紙を作ってみては、実験結果をファイルにまとめていたといいます。
できあがった紙そのものはもちろん、繊維の様子がわかる顕微鏡写真、強度や書きやすさのテストなども加えられており、年々レベルアップしていく研究内容。
「食べ物を見かけたら、何でも『ちょうだい』と言っては研究の材料にしていましたね。小さい頃から親が紙を漉いているのを見ているので、知らず知らずのうちに紙に興味があったのかもしれないです」と五十嵐さんは笑います。
この自由研究がヒントとなり、伝統的な手漉き和紙の技術と食べ物という新たな材料を掛け合わせることで「Food Paper」は生まれました。
紙を漉く親の背中を見て紙の研究にハマった息子。
その研究成果が伝統工芸士である親の手によって、新たな価値をまとった紙になる。
Food Paperは、家族で営む和紙の老舗工房だからこそ、実現できたのかもしれません。
紙づくりを通じたフードロス対策にも
Food Paperで使う食べ物は、廃棄される野菜や果物。ヘタなどの不要な部分は取り除きますが、ほぼ丸ごと使っているのだそう。調理時の野菜の端切れも材料として使えるのだとか。世界的に問題となっているフードロスを減らす取り組みのひとつとしても期待できます。
現時点では、ニンジンやタマネギ、パプリカなど12種類の食材を使用していますが、使える食べ物はまだまだたくさん。
「ミックスジュースみたいにいろんな食べ物を組み合わせても色味や風合いが変わって面白いですよね。無限大の可能性がFood Paperにはあると思っています」と五十嵐さん。
食べ物を材料にしているだけに、紙文具だけでなく、食と親和性の高いアイテムにも力を入れていきたいといいます。
たとえば、既にこんなアイテムも。
日々の暮らしの一部だからこそ、食に関するものは明るい未来につながるモノを選んでいきたい。
そんな思いを胸に、小さな和紙工房が見せてくれる紙の可能性にワクワクせずにはいられませんでした。
<取材協力>
五十嵐製紙
福井県越前市岩本町12-14
0778-43-0267
https://foodpaper.jp/
文:岩本恵美
写真:中里楓