息子の自由研究と母の伝統技術が生んだ新しい紙。老舗和紙工房から「Food Paper」デビュー

ノートやメッセージカード、小物入れなど、いろどりも風合いもさまざまな紙でできたアイテムたち。これらの紙は、野菜や果物などの食べ物から作られているといいます。

Food Paper

その名も「Food Paper」。

紙のさまざまな可能性を模索していこうと、越前和紙の老舗工房・五十嵐製紙が立ち上げたばかりのブランドです。紙文具を中心とした紙製品を展開しています。

Food Paper
美しい葡萄色のノート (税抜500円)写真提供:Food Paper
Food Paper
みかんからできたサコッシュ (3600円) 。使い込むほどに風合いが増して経年変化が楽しめます。写真提供:Food Paper

ありそうでなかった、食べ物を紙の原料にするというアイデア。そこには、地球規模で私たちが考えなければならない、大きな問題に対する解決への糸口もありました。

減り続ける和紙の原料の代わりとして食べ物を

和紙の原料は、楮 (こうぞ) やみつまた、雁皮 (がんぴ) という植物。

「どれも年々、収穫量が減っています。うちでは楮を自家栽培して原料を確保しているほどです」

そう教えてくれたのは、五十嵐製紙の五十嵐匡美さん。

五十嵐製紙の伝統工芸士、五十嵐匡美さん
五十嵐製紙の伝統工芸士、五十嵐匡美さん

特に楮は最盛期の1.2%ほどしか採れないとのこと。

さらに、和紙を漉く際、原料の繊維を水中でムラなく分散させるために必要な「ねり」の原料となるトロロアオイも生産農家が激減しているといいます。

和紙そのものの生産が危ぶまれる中、こうした原料不足の問題をなんとかできないか。

五十嵐さんとともにFood Paperに携わる、デザイン事務所TSUGIの新山直広さんは考えました。

「既存の原料と同じような植物性繊維であれば、紙の原料になり得るのではないかと思ったんです。聞けば、小豆や帆立の貝殻などを漉き込んだ襖紙はもともと作っているとのこと。そんな話をしている中で、五十嵐さんの次男・優翔 (ゆうと) くんの自由研究が話題にあがりました」

子から親へ。和紙一家から生まれた新しい紙

小学4年生の時から5年間、優翔くんが取り組んできた「紙漉き実験」。バナナの皮やお父さんが食べたピーナッツの皮や枝豆など、身近な食べ物を使って紙を作ってみては、実験結果をファイルにまとめていたといいます。

Food Paper
Food Paper
Food Paper

できあがった紙そのものはもちろん、繊維の様子がわかる顕微鏡写真、強度や書きやすさのテストなども加えられており、年々レベルアップしていく研究内容。

「食べ物を見かけたら、何でも『ちょうだい』と言っては研究の材料にしていましたね。小さい頃から親が紙を漉いているのを見ているので、知らず知らずのうちに紙に興味があったのかもしれないです」と五十嵐さんは笑います。

この自由研究がヒントとなり、伝統的な手漉き和紙の技術と食べ物という新たな材料を掛け合わせることで「Food Paper」は生まれました。

Food Paper
「みかんを使った紙を漉いているときは幸せな時間」という五十嵐さん。みかんのいい香りが工房中に広がるのだそう。写真提供:Food Paper

紙を漉く親の背中を見て紙の研究にハマった息子。

その研究成果が伝統工芸士である親の手によって、新たな価値をまとった紙になる。

Food Paperは、家族で営む和紙の老舗工房だからこそ、実現できたのかもしれません。

紙づくりを通じたフードロス対策にも

Food Paperで使う食べ物は、廃棄される野菜や果物。ヘタなどの不要な部分は取り除きますが、ほぼ丸ごと使っているのだそう。調理時の野菜の端切れも材料として使えるのだとか。世界的に問題となっているフードロスを減らす取り組みのひとつとしても期待できます。

現時点では、ニンジンやタマネギ、パプリカなど12種類の食材を使用していますが、使える食べ物はまだまだたくさん。

「ミックスジュースみたいにいろんな食べ物を組み合わせても色味や風合いが変わって面白いですよね。無限大の可能性がFood Paperにはあると思っています」と五十嵐さん。

食べ物を材料にしているだけに、紙文具だけでなく、食と親和性の高いアイテムにも力を入れていきたいといいます。

たとえば、既にこんなアイテムも。

Food Paper
ストッカー(税抜1300円)。しょうがでできたストッカーはしょうが専用、みかんのストッカーはみかん専用といった具合に、収納する野菜や果物の種類別に用意したくなります。写真提供:Food Paper
Food Paper
写真提供:Food Paper

日々の暮らしの一部だからこそ、食に関するものは明るい未来につながるモノを選んでいきたい。

そんな思いを胸に、小さな和紙工房が見せてくれる紙の可能性にワクワクせずにはいられませんでした。

<取材協力>

五十嵐製紙

福井県越前市岩本町12-14

0778-43-0267

https://foodpaper.jp/

文:岩本恵美

写真:中里楓

「究極のおろし金」は力いらずで洗いやすい。ミシュラン料理人が頼る「紀州新家」とは

大根をすりおろすのって、けっこう大変です。すりおろすのに力が必要だし、おろし器に大根の繊維が目詰まりしてしまうこともあって洗うのが面倒くさい。

そんなこんなで敬遠してしまいがちな大根おろしですが、それでもやっぱり和え物や揚げ物、秋の焼きさんまや和風ハンバーグにだって欠かせません。そんな葛藤を抱えつつ、道具を見直してみれば何とかなるのかも‥‥と見つけたのが、「紀州新家」の純銅手打ちおろし金です。

紀州新家

すり下ろしに力は不要。使用後はサッと水洗いでOK

昔ながらの手打ちおろし金は、下に向かって広がっているちりとり型が主流ですが、紀州新家のおろし金は長方形。

幅がある持ち手部分はしっかりとホールディングでき、力を入れやすいようになっているので、余計な力をかけずにお年寄りや女性でも楽にすりおろすことができます。

紀州新家

嬉しいことに使用後のお手入れも簡単で、食材の繊維が刃に引っかかっていても、使用後は水で流せばするりと落ちていきます。

紀州新家のおろし金は、目立ての角度が違う

こうした使い勝手のよさの秘密は、鏨 (たがね) を使って刃を掘り起こす「目立て」の角度にありました。

これまでの手打ちおろし金は、製作時の打ちやすさから、斜め45度に目を入れるのが一般的。それに対して紀州新家のおろし金は、金板に対して真っ直ぐに目立てされています。それにより目詰まりしにくく、刃に残った繊維質も水の力だけで落ちていくのです。

紀州新家

もちろん、味にも違いが出てきます。

紀州新家

「目の一つ一つが刃となってしっかりと食材に当たるので、食材をつぶさずに『切って擦る』という感覚。食材のよさを活かしたまますりおろせるんです」と、紀州新家の新家崇元 (しんけ たかゆき) さん。

紀州新家の新家崇元さん
紀州新家の新家崇元さん

使う食材や目指す仕上がりによって、目の大きさや角度の研究を重ねてきたといいます。

純銅おろし金の美しさに魅せられて

そんな特殊な目立ての技術を習得するには長年の鍛錬が必要だろうと思いきや、なんと新家さんが本格的におろし金作りを始めたのは2018年だというから驚きです。

「伝統工芸をやってみたいと考えていたんですよね。いろいろとリサーチする中で純銅おろし金に出会い、その美しさに魅せられました。しかも、江戸時代から現在まで受け継がれてきた300年もの歴史ある調理器具で、日本固有の文化。そんな素晴らしいものが高齢化や後継者不足で存続の危機だと知り、独学で作り始めたんです」

紀州新家
2018年度グッドデザイン賞も受賞。おろし金作りを始めてわずか半年のことでした

それまでは建築やガーデニング業に携わってきた新家さん。伝統とは一線を画す、独自の目立ての方法やおろし金の形は、全く別の畑から来た新家さんだからこそ実現できたのかもしれません。

おろし金にも個性あり

現在、目立ての入れ方や大きさによって25種類ほどある紀州新家の純銅おろし金。食材の繊維が少し残ったようなザクザクとした食感に仕上がるものから、口の中でふわっと雪のように溶けるものまで、食材や料理に合わせて楽しむことができます。

紀州新家
紀州新家
中には、すりおろしたものを刷毛でササっと器に移せるおろし金も!

「京都『祇園さゝ木』や東京『くろぎ』など、ミシュラン店の料理人の方々にも使っていただいています。目標は、海外のミシュラン三つ星シェフに紀州新家のおろし金を届けること。

すりおろす文化は日本特有なんですが、フレンチのジュレやスープなどにも応用できると思うんですよね。フードプロセッサーや包丁で刻むのとは違う味わいを求めているシェフにぜひ使ってもらいたいです」

おろし金ひとつで食感や味わいが変わってくるもの。

たかがおろし金、されどおろし金なのです。

料理や食材に合わせておろし金を使い分ける。

プロの腕前ほどとはいかなくとも、そんな「おろしの道」を極めてみたくなる一品です。

 

<取材協力>

紀州新家

和歌山県橋本市向副1039

0736-33-2877

https://www.kisyushinke.com/

文:岩本恵美

写真:中里楓

*こちらは、2019年9月20日の記事を再編集して公開いたしました。

プロに聞く、小さなスペースでも楽しめる「めでたい正月飾り」

12月も半ばを過ぎ、街の様子も慌ただしくなってきた今日この頃。暦のうえでは、13日はお正月を迎える準備を始める「正月事始め」でした。

鏡餅に注連縄 (しめなわ) 飾り、松飾りなどを供えるしきたりは、新たな年の神さまを家にお迎えするためのもの。年神さまをお迎えして、昨年の実りと平穏に感謝し、新しい年がよい1年となるようにとの願いを込めてお供えします。

令和最初という節目のお正月。新年を気持ちよく迎えるためにも正月飾りは欠かせません。そこで、正月飾りを探しに中川政七商店 渋谷店へ。辻川副店長に、現代のライフスタイルに合う、小さなスペースでも楽しめるおすすめの正月飾りを教えてもらいました。

中川政七商店 渋谷店では「正月のしつらい」展が開催されています
中川政七商店 渋谷店では「正月のしつらい」展が期間限定で開催されています

毎年飾れる「小さな鏡餅飾り」

正月飾りの中でも定番なのが鏡餅飾り。年神さまとご先祖さまにお供えし、家内の繁栄や長寿などを祈るものです。

丸いお餅が2つ重なっているのは、「円満に年を重ねる」という意味があるのだそう。

こちらの「小さな鏡餅飾り」は、そんな祈りの形を木で表現した鏡餅飾りです。

「干支ものではないので、毎年飾れます。経年変化が楽しめるのは木製ならではですよ」と辻川さん。一つずつ、職人の手で木からくり抜いて作られているので個体差があるのも面白いところなんだとか。

小さな鏡餅飾り
木のぬくもりのある雰囲気とすべすべとした手触りが心地いい

その上に飾るコロンとした橙 (だいだい) は、三重県伊賀市の伊賀組紐。橙 (だいだい) は1本の木に何代もの実がなることから家族繁栄、代々(だいだい=橙) 家が続くようにという願いが込められているといいます。

正月飾り

一つひとつの飾りに込められた願いを知ると、飾る作業も楽しくなりそうです。

中川政七商店 渋谷店の企画展・お正月
鏡餅飾りの製造工程の展示(中川政七商店 渋谷店/2019年)

玄関や水回りにおすすめ「小さな注連縄飾り」

小さな注連縄飾り
「小さな注連縄飾り」

注連縄 (しめなわ) は、神さまがいる神聖な場所を示すもの。かつては、正月になると注連縄を家の周りや座敷に注連縄を張り巡らせて邪気を祓い、年神さまを迎えていたといいます。それが次第に簡略化されて、現在のような注連縄飾りとなったのだそう。

「小さな注連縄飾り」は、藁を輪の形に編み、長い房を垂らした輪飾り。縁起物として手績み手織り麻の橙とゆずり葉のお飾りを組み合わせています。

小さな注連縄飾り

「和洋どちらの部屋にもなじむデザインがうれしいところ。玄関はもちろん、台所やお風呂などの水回りに飾ってもいいんですよ」

フックなどに引っ掛けられる紐がついているので、場所を選ばず気軽に飾れるようになっています。

長く楽しめる「花の内の餅花飾り」

花の内の餅花飾り
「花の内の餅花飾り」

岐阜県飛騨高山で昔から作られている餅花飾りは、餅を花に見立て、花が咲かない雪国の冬に彩りを添える正月飾りです。

ひな祭りの時期まで飾られ、かつてはひな祭りで餅の部分を食べるという習慣もあったのだとか。

「花の内の餅花飾り」は、飛騨高山の山で採ってきた木の枝に、「よしま農園」のおばあちゃんが餅を一つずつこねてつけています。こちらは食べることはできませんが、正月飾りのなかでは比較的長く楽しめるという点は同じ。正月から1月末までの「花の内」と呼ばれる時期まで飾れるものです。

花の内の餅花飾り

「白い餅が雪のようにも見えるので、クリスマスの時期から飾るのもおすすめです。一つひとつ枝ぶりが違うので、その表情もぜひ楽しんでみてください」

財運アップの願いを込めた「枠飾り 小 子」

枠飾り 小 子
「枠飾り 小 子」

昔から縁起物とされてきた干支。その年の干支を飾ることで「家内安全・商売繁盛」、人に授けることで「招福祈願・安寧長寿」という意味があるそうです。

2020年の干支は、財運と五穀豊穣の神「大黒天」の使いといわれている子(ねずみ)。そのいわれにちなみ、「枠飾り 小 子」では財運に恵まれるよう願いを込めて米俵とねずみを組み合わせました。

ヒバの木でできたねずみの部分は、滋賀県で一つひとつ糸鋸を使って手作業で仕上げ、米俵に見立てた美しい水引は、長野県の伝統工芸、飯田水引でできています。

枠飾り 小 子

「玄関先の靴箱などのちょっとしたスペースに絵のような感覚で飾れて、この一品だけでもめでたさが一気に出ます。置いてもいいですし、背面に金具があるので壁に掛けて飾ることもできます」

枠飾り 小 子

いろんな使い方ができる「注染手拭い 宝づくし」

縁起物の干支をもっと手軽に取り入れたいという人におすすめなのが手拭いです。2020年の干支、子をあしらった手拭いを正月飾りとしてタペストリーにしてみてはいかがでしょうか。

注染手拭い 宝づくし
ねずみと共に、縁起ものである小槌や七宝袋、松竹梅などをあしらった「注染手拭い 宝づくし」

「すっきり飾れる手ぬぐい掛け」を使えば、手拭いが絵のように簡単に飾れます。

注染手拭い

磁石でくっつくようにできた木材の間に手拭いの両端を挟むだけ。

注染手拭い

「干支の手拭いを壁にかけるだけで気軽にお正月気分が味わえます。正月飾りの時期が終わったら、ハンカチとして使ったり、手土産を包んだりと、幅広い使い方ができるのもいいですよね」

糸自体を染める注染の手拭いは、絵柄の裏表がなく暖簾としてもおすすめとのこと。使い道がいろいろあるからこそ、贈り物にも喜ばれそうです。

今回紹介した他にも、店内にはさまざまな正月飾りや干支グッズがずらりと並んでいます。

「狭い部屋だから」と諦めずに開運招福! 自分の家に似合う一品を見つけて、どうぞ素敵な一年をお迎えください。

中川政七商店 渋谷店で見つける縁起のいいお正月飾り

<掲載商品>

小さな鏡餅飾り

小さな注連縄飾り

花の内の餅花飾り

枠飾り 小 子

注染手拭い 宝づくし

<関連特集>

<取材協力>
中川政七商店 渋谷店

文:岩本恵美

出雲大社周辺で立ち寄りたい、お土産・工芸スポット5選。出雲松江の「いいもの」と縁結び

出雲大社前のお土産店「えすこ」、勾玉ゆかりの「玉作湯神社」、松江の人気雑貨店「objects」ほか

クリスマスを過ぎると、街には一気に年の瀬の雰囲気が押し寄せてきます。みなさん、新年を迎える準備は万端でしょうか?

初詣はご近所の神社へという、いつものお正月もいいですが、令和最初という節目の年のお正月は大きな神社に新たなご縁を結びに行くのもいいかもしれません。

今回ご案内するのは出雲大社へのお参り旅。出雲ならではのうさぎモチーフのお土産や松江の縁結び神社、工房見学とお買い物が一緒に楽しめる窯元まで、初詣と一緒にぜひ立ち寄りたい、出雲松江のさんち編集部おすすめスポットをご紹介します!

うさぎのお守り袋が人気「えすこ 出雲大社前店」

出雲に行く際はぜひ立ち寄りたい「えすこ」

出雲大社からほど近く、モダンな外観が目を引く「えすこ 出雲大社前店」。運営するのは、日本で唯一の勾玉 (まがたま) の作り手、1901(明治34)年創業の「めのや」さんです。店名の「えすこ」とは、出雲弁で“いい具合”という意味なんだとか。

お店の1階には島根の職人が手がけた工芸品や島根県産の素材を使った食品やお菓子、雑貨などのお土産物が並びます。

中でもおすすめは、ここでしか手に入らない「うさぎのカップル」のお守り袋。出雲にまつわる「縁結び」と「兎」というキーワードから着想を得た、出雲ならではのデザインです。

うさぎのカップル お守り袋
こんなかわいい限定アイテムも。中に勾玉が入れられます。「うさぎのカップル お守り袋」(本体価格700円+税)

お店の2階では、好きな天然石を選んで、世界にひとつだけのアクセサリーを作ることも。店名のとおり、“えすこ”なものと出会える場所です。ありがたいことに、年始も休まず営業しています。

運営する「めのや」さんを以前さんちで取材した記事はこちら:
「出雲大社が認めた、勾玉づくりのプロフェッショナルとめぐる玉造」

民藝の精神を受け継ぐ「出西窯」で今年のひと皿を手に入れよう

青い器

JR出雲市駅から車で約10分の場所にある「出西窯 (しゅっさいがま) 」は、1947(昭和22)年に5人の若者によって立ち上げられた窯元。柳宗悦らによる民藝運動に影響を受け、今も民藝に根ざした器づくりを続けています。

工房や登り窯は、個人であれば事前の予約や手続き不要で自由に見学可能。しかも職人さんたちに気軽に話しかけてOKという、とてもオープンな窯元なので、はじめて窯元を訪ねるという人にもおすすめです。

併設の「無自性館 (むじしょうかん) 」には、出西窯の器がずらり。出西窯の器でコーヒーをいただける休憩スペースもあり、器の使い心地を確かめることができるのも嬉しいところです。

年始は、工房は1/4までお休みですが、無自性館は1/2から営業。ただし無自性館も1/4までは通常より早めの17時閉館となっているのでご注意を。


「出西窯」さんを以前さんちで取材した記事はこちら:
はじめての窯元めぐり「はじめて買う『出西窯』。作り手と会話して選ぶ醍醐味」

「願い石・叶い石」で縁結び。勾玉づくりの祖人気の、松江の「玉作湯神社」へ

玉作湯神社は、勾玉づくりの祖と言われる神様、櫛明玉命(くしあかるだまのみこと)をお祀りしている神社。

神社の家紋、神紋 (しんもん) にも勾玉が象られている

近年「願いを叶えてくれる石がある」といって話題になり、パワースポットとしても注目を集めています。その不思議な力が宿る石の名は「願い石」。天然の石にも関わらず、ほぼ球体に近い、とても神秘的な石です。

願い石
こちらが「願い石」

もともと「願い石」は、この土地の勾玉職人が「またいい勾玉が作れますように」と感謝と決意を込めてお参りするものだったそう。「願い石」に、社務所で授けてもらう「叶い石」を触れさせて願をかけると願いが叶う、と言われています。

「玉作湯神社」を以前さんちで訪ねた記事はこちら:
「日本最古のお守り「勾玉」の神様を祀る神社へ」

新年に生活道具と新たな出会いを「objects」

古くてモダンな石造りの建物。中に入る前から心が踊ります
古くてモダンな石造りの建物。中に入る前から心が踊ります

JR松江駅から徒歩13分ほど。宍道湖へと流れ込む大橋川沿いに「objects」はあります。どこか趣きがある石造りの建物は、もとはテーラーだったそうで、船室をイメージして作られたという店内も雰囲気たっぷり。

お店では、陶器、ガラス、木工、織物といったさまざまな工芸品を扱っており、どれも店主の佐々木創(ささき・はじめ)さんが全国各地の作家さんや窯元を巡って見つけてきたものです。

その時々の巡り合わせでお店に並ぶ商品が変わるので、季節が変わるたびに何度でも訪れたい場所。夕暮れどきには川辺の美しい景色も堪能でき、松江散策時に立ち寄るスポットとしても最適です。1/1はお休みですが、1/2〜1/4は18:00まで営業しています。

店主の佐々木さんへのインタビュー記事はこちら:
「全国から工芸好きが訪れる、器や生活雑貨を扱うセレクトショップ『objects』」

「理想の店を開くための、移住。人気店『objects』店主が貫く“嘘のないお付き合い”」

ご当地料理をいただくならここ。宍道湖七珍を味わえる「やまいち」

宍道湖七珍、最高のシジミ汁で〆る松江の夜

JR松江駅から徒歩10分ほどの新大橋のたもとに位置する「やまいち」は、地元民に愛されるローカル居酒屋。壁には味のあるお品書きが多数貼られ、カウンターには旬の食材を活かした大皿料理が並びます。

大皿にたっぷりと盛られた今日の料理。どれにしようか目移りしてしまいます
大皿にたっぷりと盛られた今日の料理。どれにしようか目移りしてしまいます

たくさんあって何を注文しようか迷ってしまいますが、そんな時は店のご主人に相談してみるのがベスト。その日仕入れた食材や客の好みからおすすめを教えてくれます。

とはいえ、はじめて訪れたのなら、淡水と海水の混ざる宍道湖ならではの宍道湖七珍、“スモウアシコシ (スズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミ) ”も外せません。年中楽しめる松江おでんや地酒もたっぷりと味わったら、最後はやっぱり具だくさんのシジミ汁で〆ましょう。年始は1/5から通常営業です。

シメの一杯は漁獲量日本一、宍道湖のシジミがたっぷりのシジミ汁
シメの一杯は漁獲量日本一、宍道湖のシジミがたっぷりのシジミ汁

「やまいち」さんを以前さんちで訪ねた記事はこちら:
産地で晩酌「宍道湖七珍、最高のシジミ汁で〆る松江の夜」


出雲大社の参拝記念にぜひ立ち寄ってほしい、出雲松江のおすすめスポット。お参りの参考にして、すてきな一年のはじまりにしてください。年始は営業時間が通常と違う場合があるので、事前のチェックはお忘れなきよう!

<紹介したところ>

えすこ 出雲大社前店

島根県出雲市大社町杵築南841

0853-31-4035

https://www.magatama-sato.com/esuko/

出西窯

島根県出雲市斐川町出西3368

0853-72-0239

https://www.shussai.jp/

玉作湯神社

島根県松江市玉湯町玉造522

objects

島根県松江市東本町2-8

0852-67-2547

http://objects.jp/index.html

やまいち

島根県松江市東本町4-1

0852-23-0223

文:岩本恵美

*こちらは、2018年12月27日の記事を再編集して公開しました。

植物100%のお風呂ハーブ「jiwajiwa」で体の芯から温まる。体にやさしい奈良生まれの入浴剤

すっかり冬めいて、急に肌寒くなってきました。

こんな時は、湯船につかってゆっくり温まりたくなるものです。

世の中に入浴剤は数あれど、体にやさしい日本のハーブを使ったものを見つけました。

「jiwajiwa (じわじわ) 」のお風呂のハーブです。

奈良ゆかりの日本のハーブを使用

jiwajiwaのお風呂のハーブは、合成香料や着色料などの化学成分は一切含まれておらず、自然素材だけでできています。

ラインナップは、吉野ひのき、ゆず・レモングラス、よもぎ・大和当帰葉 (やまととうきば) 、柿の葉 甘茶、びわの葉・ドクダミの全5種類。

jiwajiwa

ヒノキ以外は無農薬で食用に栽培された植物だけを使っているので、万が一、お風呂のお湯を飲んでしまったとしても安心なんだとか。

「どの原材料も、奈良の中部・南部エリアで生産されたものなんですよ」

そう教えてくれたのは、jiwajiwaを手がけるチアフル株式会社の松本梓さん。

チアフル株式会社の松本梓さん
チアフル株式会社の松本梓さん

5つの中でもこれからの寒い季節におすすめなのが、よもぎ・大和当帰葉だそう。

奈良・深吉野 (みよしの) のよもぎと、高取の大和当帰葉の組み合わせは、ぽかぽか温まりたい時にはうってつけなんだとか。

あまり耳馴染みのない「大和当帰」は、奈良では自家用に栽培されていることも多く、根の部分は冷えや生理痛などの女性特有の不調に効く漢方薬として昔から使われてきたといいます。葉の部分は乾燥させてお風呂に入れたり、最近では薬味やみそ汁の具材として食用として使われたりするんだそうです。

jiwajiwa 大和当帰
大和当帰

本当に体にいいものを

30歳を目前に働き方を見直す機会があったという松本さん。

ちょうどその頃に出会ったのが大和当帰葉でした。

「私は奈良出身なのですが、実は大和当帰のことはあまり知りませんでした。ある日、帰省した際に初めて大和当帰葉のお風呂に入って、植物を乾燥させただけのものなのに体の芯からポカポカして衝撃を受けたんです」

jiwajiwa
写真提供:jiwajiwa

この経験に加え、松本さん自身が添加物入りの食品等で体調を崩しがちなこともあり、人の手が加わりすぎていない、なるべく自然なものの方が本当は体にはいいのではないかと思うようになったといいます。

それと同時に、会社員として全国を出張する中で、都市と地方の精神的・経済的ギャップを目の当たりにし、双方のバランスを取るような仕事がしたいと考えるようにもなったそう。

そんな考えに大和当帰が結びついて生まれたのがjiwajiwaです。

地元の人たちの間でしか流通していなかった大和当帰葉の入浴剤を可愛らしくパッケージ化して、県外の人たちにも手にとってもらえるような場所に置けたら面白いんじゃないか。

構想から2016年10月の商品発売まで、わずか10ヶ月ほどのことでした。

やさしい香りに嗅覚を研ぎ澄まして

パッケージを開けるとハーブが巾着袋に入った状態になっていて、そのまま浴槽に入れるだけ。巾着からじわりじわりと植物エキスが出てくるので、湯船の中で軽く揉むとやさしい自然の香りが広がります。

jiwajiwa
jiwajiwa
写真提供:jiwajiwa

「現代人の生活は、日々忙しく過ぎていきがちです。jiwajiwaのお風呂に入って、嗅覚をはじめとする五感を研ぎ澄ます時間、自分を見つめ直す余白の時間を持ってもらいたいです」

jiwajiwa
写真提供:jiwajiwa

1袋で2回使えるとのこと。さらにうれしいことに、使用後は天日干ししてしっかり乾燥させれば、靴箱や引き出しなどで消臭剤としても使えるんだそう。

jiwajiwaのブランド名に込めた思いを聞いてみると、「自然の力をゆっくりと感じてほしい。一気には効かないけど、『ちょっとずつよくなっていくよ』と伝えたいんです」と松本さん。

忙しさに振り回されそうな時にこそ、jiwajiwaのお風呂に入ってみる。

じわじわ、ゆっくりでも進んでいればいい。

身も心もやさしく解きほぐされて、はやる気持ちをちょっぴりスローダウンできそうです。

<取材協力>

jiwajiwa

公式サイト

文:岩本恵美

写真:中里楓

あけびかごの聖地・青森の宮本工芸で選び方やお手入れ方法を聞きました

りんご生産量日本一であることから、「りんご王国」と呼ばれる青森県。

でも実は、様々なかごが作られている「かご王国」でもあるんです。

りんごかご、あけびかご、山ぶどうかご。

かご好きにはたまらない、自然素材を使ったかごが今でも作られています。

中でも、弘前を代表するかごの一つが、あけびかご。自生するあけびの蔓を手で編んで作ったかごです。

職人による手作りのあけびかごバッグ
職人による手作りのあけびかごバッグ
あけび蔓
あけび蔓

弘前のあけびかごは、自然素材を使っていながらも丈夫で長持ち。

そんな「一生モノ」のあけびかごと出会いに、作り手で販売もされている宮本工芸さんを訪ねました。

宮本工芸
今年創業70周年を迎えた宮本工芸さん。JR弘前駅から車で5分ほどのところにあります

のれんをくぐると、あけびかごのほか、山ぶどうや根曲竹のかごがずらり。工房の1階奥と2階が職人さんたちの作業場になっています。

何十種類ものあけび・山ぶどうのかごバッグ
何十種類ものあけび・山ぶどうのかごバッグ

工房では一般の人も直接ものを手に取って買い物ができるのがうれしいところ。

あけび蔓細工とこぎん刺しのコラボ商品
あけび蔓細工とこぎん刺しがコラボしたアイテムもありました

あけびかごは弘前のシンボル、岩木山の恵み

そもそも、なぜ弘前であけびかごが作られているのでしょう?

「良質なあけび蔓が岩木山でよく採れるんです。かつては『あけび山』って呼ばれていたくらい」

そう教えてくれたのは、宮本工芸の武田太志さん。

宮本工芸の武田太志さん
宮本工芸の武田太志さん

青森のあけび蔓細工のはじまりは定かではないものの、弥生時代には既に簡単な編み方で背負い袋などが作られていたといいます。

身近にある素材で生活の道具を作るのは、自然な流れだったのでしょう。

岩木山
弘前のシンボル的存在、岩木山。青森県内最高峰の山です

明治に入り、りんご産業が盛んになる中で、あけび蔓細工はりんご農家の冬仕事でもあったそうです。

当時は各種かごをはじめ、茶碗入れや鍋敷き、皿など、身のまわりの様々な日用品をあけび蔓で作っていたといいます。なんと、団扇や幼児が使うおもちゃのガラガラまであけび蔓で作られていたんだとか。

「ちょっと前までのこのあたりの家庭では、家の中にあけびかごが必ずありましたね」

あけびかごは、まさに弘前の風土に根ざしたかごなのでした。

親子3代で使える秘密は、あけびかごの材料と作り方にあり

弘前のあけび蔓は、5、6mくらいと長く、色も揃っているものが多いとのこと。しなやかで、まっすぐなので、編みやすいといいます。質が良くないと曲げにくく、折れやすいのだそう。

あけび蔓
乾燥中のあけび蔓。毎年、9月ごろから雪が積もるころまでに、その年に生えた若い蔓を採取し、十分に乾燥させてから使います

こうした良質な素材も弘前のあけびかごが丈夫な理由の一つといえますが、職人さんの手仕事にもその秘密がありました。

宮本工芸の工房2階にある作業場へ。そこには黙々とそれぞれの仕事に打ち込む職人さんたちの姿がありました。

宮本工芸のあけびかご職人
宮本工芸のあけびかご職人

現在、宮本工芸さんで抱えている職人さんは10人ほど。最盛期には、数百人もの職人さんがいたのだとか。1916年 (大正5年) には520人もの職人が弘前にいたという記録も残っているそうです。

あけびかご作りは、材料の準備から編み上げるまで、すべての工程を職人さんが一人でこなします。

あけび蔓の節を取り、出来上がりをイメージしながら、かごのどのパーツにどの材料を使うのかを仕分けていくのは、職人の目利きによるもの。

宮本工芸
節取り作業をする様子
あけび蔓の節取り
オリジナルの節取り器で余計な節をカット

1本、1本、あけび蔓の太さも色も異なるだけに、適材適所で振り分けていくには経験がものをいうそうです。

ある職人さんいわく、

「自然の材料なので、一筋縄ではいかないところがまた楽しいんです」とのこと。

また、かご作りで大切にしていることをこの日作業をされていた3人の職人さんに尋ねると、みなさんが口を揃えて同じことを言っていたのが印象的でした。

それは、「壊れないように作る」ということ。

かごは実用性があってこそ。「いいかご」とは「壊れないかご」なのです。

「親子2代、3代で使えますし、たとえ壊れても修理ができます。蔓が折れたり切れたりしても、そこからほつれてしまうこともありません。それもあけびかごの魅力の一つですね」と武田さん。

材料と作り手によって出てくるオリジナリティー

自生するあけび蔓を使っているので、材料からして一つとして同じものはありません。

採取する年によって、長さや色、ツヤも変わってきます。

「作り手によっても違いがありますよ。個性だらけです。ほとんどのあけびかごは木型を使って編んでいくんですが、同じ木型でも職人さんが違えば全体的な雰囲気が変わってきます。性格が出ますね」

あけびかご作り
あけびかごの木型
大小さまざまな木型がずらり
あけびかごの木型
形によっては、面白い工夫がなされている木型も。上部がすぼまって丸みを帯びた型は金槌で叩くと‥‥
あけびかごの木型
こんな風にバラバラに。編み終えた時に型が簡単に取れるよう、バラシ型になっています

一生モノだからこその育てる楽しみ

「一番の魅力は、使えば使うほど味わいが出てくるところ。ツヤも出てきますし、風合いが変わってきます」

山ぶどうほどに色の変化はないといいますが、あけびかごも年々ツヤが増してくるとのこと。

あけびかご
山ぶどうのセカンドバッグ
こちらは山ぶどうの蔓の皮を使ったセカンドバッグ。よく使うものであれば2年ほどでもツヤが増すそう

こんな素敵な経年変化が楽しめると聞いたら、俄然、自分のあけびかごを育てたくなります。「欲しい!」と思った瞬間でした。

あけびかごバッグ 選び方のコツ

これほど一堂にあけびかごが揃うのを目にする機会はなかなかないもの。選び放題といえば選び放題なのですが、かえって迷ってしまうことも。

そこで、思い切って武田さんに、いいあけびかごの選び方を聞いてみました。

「一つには、蔓がきちんと揃えられているもの。それと、隙間なくしっかり編まれていて、編み目がねじれていないのが、いいかごですね。上手に編まれているかごにはひっかかりがありません。あとは持ち手がきれいかどうかもポイントです。

弘前のスタンダードなあけびかごは、持ち手が固定されずに可動するのが特徴でもあるんですが、そういうものはスムーズに動くかどうか手にとって見てみるといいですよ」

あけびかご
こちらが弘前のスタンダードなあけびかごバッグ
あけびかご
可動式の持ち手はとても緻密な作業で作るのが難しいのだそう

武田さんのアドバイスとお財布事情を参考に、迷うこと30分以上。

「これだ!」というものを見つけました。

あけびかご
絶賛育成中のマイあけびかご。横編みのものが多い中、本体中央が縦編みになっているところとコロンとしたフォルムに惹かれました

あけびかごのお手入れ方法

一生モノを手に入れたからには、末永く大切に使いたいところ。

どうすれば、きれいに使えるのでしょうか。

「湿度には注意してください。シーズンオフには紙袋や布袋などの通気性のいい袋に入れて保存を。ビニール袋だとカビが生えてしまいます。

汚れてしまったらタワシなどで洗います。日焼けしてしまうので、乾かす際は風通しのよい所で陰干ししてください」

武田さんに教えてもらったお手入れ方法をしっかりと頭に叩き込み、帰路へ。

あけびかごとの出会いは一期一会。心から満足いく買い物ができました。

この夏は、どこへ行くにもあけびかごを選んでしまいそうです。

<取材協力>

宮本工芸

青森県弘前市南横町7

TEL:0172-32-0796

文:岩本恵美

写真:船橋陽馬、岩本恵美

*こちらは、2019年6月21日の記事を再編集して公開しました。