こぎん刺しはなぜ愛されるのか。「弘前こぎん研究所」で知る図案の美と作る楽しさ

弘前こぎん研究所に行って来ました

青森県津軽地方に伝わる、こぎん刺し。

南部菱刺し、庄内刺しと並び、「日本三大刺し子」の一つに数えられ、緻密で美しい幾何学模様を生み出す刺し子技法です。

こぎん刺し

そんなこぎん刺しの「研究所」があると聞きつけてやってきたのが、弘前こぎん研究所。

弘前こぎん研究所
弘前こぎん研究所。建物は日本を代表する建築家・前川國男によるもの

こぎん刺しを“研究する”とは、いったい、どんなことをしているのでしょうか。

弘前こぎん研究所の三浦佐知子さんに、こぎん刺しについて伺いながら研究所を案内してもらいました。

津軽女性の花嫁修行の一つだったこぎん刺し

江戸時代後期、津軽地方の農村で生活の知恵として生まれたのが、こぎん刺しです。

当時は厳しい寒さのために綿を栽培することができず、藩令によって農民が綿布の着物を着ることが禁じられていたとのこと。そのため、農民たちの着物は自ら織った麻布を藍染めして仕立てたものでした。

麻布といえば、織り目も荒く、通気性のよい生地です。寒い地方の着物の生地には、正直向いていません。
そこで、何とか少しでも寒さをしのごうと、着物の身ごろ部分に刺し子をするようになったといいます。

「当時の農村の娘たちは、5、6歳になったら、刺し子の手ほどきを受けていたそうです。お嫁に行くまでに刺し子を入れた2枚1組の布地を完成させて、嫁入り道具の一つとして持って行く風習があったといいます」と三浦さん。

弘前こぎん研究所の三浦佐知子さん
弘前こぎん研究所の三浦佐知子さん

制約から生まれた図案の美

こぎん刺しの模様は、「モドコ」と呼ばれる菱形の基礎模様を組み合わせて作成されます。代表的なモドコだけでも30種類ほどあり、その組み合わせは無限大。今でも新たな模様が生み出されるほど、数え切れないものなんだとか。

こぎん刺し
モドコの一部。名前もなく伝わっているものもあるのだそう

それにしても、「防寒」という当初の目的から、どうしてこれほどまでにたくさんの模様ができたのでしょうか。

「色で表現できなかったからこそ、美しい模様がたくさん生まれたんだと思います」

そう三浦さんが語る背景には、江戸時代、津軽藩による厳しい藩政がありました。

津軽藩では、贅沢を禁ずる倹約令が発令され、農民の衣食住に関する制約は大変厳しいものだったそうです。

農民には綿布だけでなく、高価な色染めの着物を着用することも禁止されていたため、着物は藍染めのみ。当初は貴重な木綿糸が手に入らず、刺し子の糸も麻糸だったといいます。

その後、徐々に農民にも木綿糸が行き届くようになり、藍染めの生地に白い木綿糸という、こぎん刺しの定番スタイルができあがったのだそうです。

南部菱刺し
同じ青森でも、八戸がある南部藩で作られていた「南部菱刺し」はとてもカラフル。目数を数えながら横にだけ針を進めるという刺し方は似ていても、出来上がるものは全く別物です

模様に垣間見られる津軽の風土

「所変われば品変わる」という言葉どおり、同じ津軽のこぎん刺しも地域によってその模様に特徴があるといいます。

「弘前城を中心に3つのエリアに分けられます。

お城の東は、平野部の比較的豊かな土地。その余裕もあってか、ここで作られた『東こぎん』には、じっくり取り組むような大柄の模様が多く見られます。

こぎん刺し
大きな模様が特徴の東こぎん

一方、「西こぎん」が作られた弘前城の西は白神山地が広がる山間部。山に入って薪などの重い荷物を背負うことから、擦り切れやすい肩部分には複雑な模様ではなく、簡単に直しができる縞模様が採用されています。

また、肩の縞模様の下に魔除けの意味を込めて「逆さこぶ」という模様が施されているのも特徴です。

西こぎんは、模様が細かく、たくさんの種類の模様を組み合わせて刺しているので、こぎん刺しの中で最も緻密で複雑なものになっています。

こぎん刺し
西こぎんの緻密な美しさは「嫁をもらうなら西からもらえ」と言われたほど

最後の一つは、弘前から離れた津軽地方北部の「三縞こぎん」。3本の大きな縞が特徴です。このあたりは平野部でも風が強く、冷害や凶作で生活も苦しい地域。じっくりとこぎん刺しに取り組むことができなかったのか、残っているものがあまりありません」

こぎん刺し
3本の縞模様が目印。今では貴重な三縞こぎん

ものづくりのハブとしての「弘前こぎん研究所」

こぎん刺しのことがひと通りわかったところで、研究所内の作業場へ。

「研究所」という言葉から、何か文献や資料を紐解いているのかと思いきや、そこでは数名の女性たちが手織り機を動かしたり、麻布をカットしていたり。

弘前こぎん研究所
弘前こぎん研究所

ちょっと想像とは違っていました。

「資料は、初代の横島直道所長が古いものも含めてかなりの数を集めていて、すでにたくさん残っています。今は『研究』というよりは、こぎん刺しを続けていくための商品づくりがメインなんです」と三浦さん。

こぎん刺し
かつては着物に施されたこぎん刺しも今では小物がメイン。これらは弘前こぎん研究所で購入できます
こぎん刺し
くるみボタンも人気。他にもがま口やコースターなど

弘前こぎん研究所では、商品づくりを全て分業で行なっています。

こちらの作業場は、メイン商品である小物類に使う麻の布と木綿糸、図案をセットにする場所。時には帯など特別なものは生地を手織りすることもあるのだそう。

こぎん刺し
刺し手さんに配られるこぎん刺しセット

材料セットは内職の刺し手の方々に届けられ、それぞれのペースで刺し進めてもらいます。

こぎん刺し
刺し手さんからあがってきた生地

刺し終わったら、次は袋物を縫う担当へと渡され、商品としての形に。

現在、およそ100人はいるという刺し手ですが、高齢化で人手が足りなくなると、研究所で講習会を開催。刺し方や模様のつくりをレクチャーした上で、材料の提供までを行なっています。

弘前こぎん研究所は、黙々とこぎん刺しを研究するところではなく、こぎん刺しと地域の人々をつなぐ拠点、いわばハブなのでした。

三浦さんも研究所というハブを通じてこぎん刺しを始めたといいます。

「母親が研究所の下請けで袋ものを縫う仕事をしていたんです。手伝ううちに自分も好きになって、学生のうちに刺し手になっていました」

こぎん刺しはお家での楽しみ

こぎん刺しの道40年という三浦さん。こぎん刺しのどこに惹かれたのでしょうか。

「『伝統を守るぞ』というよりも、手を動かして無心になれるのが好きでやっているんですよね。きっと他の刺し手の人もそうなんじゃないかなと思います。こぎん刺しが地域の人たちの内職で成り立っているのは、お家での楽しみがあるから」

弘前こぎん研究所では、事前に問い合わせ・予約をすれば、グループでのこぎん刺し体験も受け付けているそう。

三浦さんの言葉を聞いたら、私もこぎん刺しをやってみたくなってきました。

<取材協力>

弘前こぎん研究所

住所:青森県弘前市在府町61

TEL:0172-32-0595

営業時間:9:00〜16:30

定休日:土・日・祝祭日

http://tsugaru-kogin.jp/

三浦さんに弘前のおすすめスポットを伺うと、研究所よりもっと古い資料がたくさんあるという私設の「佐藤陽子こぎん展示館」や、弘前の工芸品に触れられる「クラフト&和カフェ 匠館」、こぎん刺しのソファがある「スターバックス 弘前公園前店」を教えてもらいました。こぎん刺し尽くしの弘前の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。

文・写真:岩本恵美

*こちらは、2019年5月30日の記事を再編集して公開しました。
(三浦さんは2023年現在、弘前こぎん研究所の職員ではなくなっています)

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〈 関連ニュース 〉

図案としても活用できるこぎん刺し着物の写真集発売。古作こぎんの写真を200点以上掲載

こぎん刺し

青森県の文化財に指定されている「古作こぎん」を多数掲載した、こぎん刺し着物の写真集「コギン<1>」が発売されました。

青森市が所蔵するこぎん刺しの着物を、その布目が見えるほどの拡大写真で多数掲載。着物のオモテとウラを同時に比較できる分冊仕様となっています。私用・商用問わず、図案として活用も可能とのことです。

→記事を見る

素材選びから仕上げまで、国内唯一の一貫生産。Shoji Worksの上質な木製ブラシで服にも自分にも喜びを。

家に帰ってきたら、その日をともに過ごした服にブラシをかけてあげる。

なんだか心にゆとりができ、充足感に包まれる行為だと思いませんか?

「やっている自分にも酔えますよ」

そう笑いながら洋服ブラシのことを教えてくれたのは、老舗ブラシメーカー、株式会社ショージワークスの畦地貴之 (あぜち たかゆき) さん。

株式会社ショージワークスの畦地貴之さん
株式会社ショージワークスの畦地貴之さん

洋服ブラシのいいところ

イメージするだけでも素敵な日課ですが、ブラッシングは服にとってもうれしいことだといいます。

繊維の奥に付着した埃や花粉などが落ちる上に、繊維の流れを整えて絡まりをほぐすため毛玉ができるのを防ぐことができるのだそう。

生地の繊維が整えられることで、光をきれいに反射して艶が出ているように見えたりもするんだとか。

Shoji Works
Photo: (株) 桶屋

「ブラッシングの一番の良さは、やっていて気持ちいいこと。ブラシをかけることで、服に愛着がわきますし、『ボタンがとれかけているな』『ほころびがあるな』とか、細かいところにも気づけます」

まさに、服にとっては「いいこと尽くし」です。

でも、そうは頭ではわかっていても、毎日やるのは大変そう‥‥。

ついついそんな不安が頭をよぎりますが、ショージワークスの洋服ブラシを手にしてみて、不安よりも「ブラッシングしてみたい」「この道具を家に置きたい」という気持ちの方が強くなりました。

自社ブランドだから形にできたこだわり

株式会社ショージワークスは、ブラシ産業が盛んだった大阪市福島区で1925年 (大正14年) に創業。現在は、大阪に本社を残し、工場がある兵庫県加古川に拠点を構えてブラシづくりに取り組んでいます。

「もともとはOEM商品のみを製造していたんですよね。でも、徐々に売上も減少していく中でこのままでは続けられないと、思い切ってオリジナルのアイテムを開発することにしたんです」

「悔いが残らないようにやろう」という思いで立ち上げた自社ブランドが「Shoji Works」。素材や手仕事にこだわり、原材料の仕入れから完成に至るまでの全工程を一貫して自社工場で担っています。木製ブラシを一貫生産しているのは、国内でもここだけなのだとか。

Shoji Works
Photo: (株) 桶屋
Shoji Works
Shoji Worksのアイテム。洋服ブラシのほかにも、ヘアブラシ、ボディブラシなどがあります

ブラシの毛に使っているのは、馬や豚などの動物の毛です。

洋服ブラシには、主に馬の毛を使用。柔らかくてきめが細かく、コシもあり、デリケートな素材の服にも安心して使えるとのこと。試しに毛の部分に触れてみると、確かにほどよい手応えがありつつも優しい触り心地でした。

Shoji Works

ブラシの毛と同じように自然素材にこだわりたいとの思いから、持ち手の部分は木でできています。

木の中でも、洋服ブラシには耐久性が高いウォールナットを採用。木のぬくもりが感じられるとともに、重厚感のある仕上がりになっています。使うごとに変化していく色味も楽しめそうです。

Shoji Works
左がウール、右がカシミア用の洋服ブラシ
Shoji Works
持ちやすさや置きやすさ、見た目を追求して生まれた従来の洋服ブラシとは異なる形。幅広い素材の服に使えるよう、柔らかい白馬毛を使用(Photo: (株) 桶屋)

「ブラシのある暮らし」を届けたい

「日本で洋服ブラシが使われるようになったのは、文明開化で洋服が着られるようになってから。ブラシ発祥の地であるヨーロッパに比べたら、日本のブラシ文化の日が浅いのは当然ですが、もっと浸透していけばいいなと思っています。

そのためにも、見た目やデザイン、品質にもこだわって、日々の生活の中になじんでいくものを作っていきたいです」

そうした願いを込めて、最後の最後まで製品に目を行き届かせているのがショージワークスのすごいところ。

徹底した検品をしているため、ブラシの毛の抜けもほぼないのだとか。

愛着を持って長く使える道具なら、日々の服のお手入れも苦にはならなさそうです。

ブラシひとつで生まれる豊かな時間。

まだ経験したことがないという人は、ぜひ一度その気持ちよさを味わってみることをおすすめします。

<取材協力>

Shoji Works

公式サイト

文:岩本恵美

写真:(株) 桶屋、中里楓

これがプラスチック?調理・食事・保存の3役を一つで担う、陶器のような「9°」の器

近年、よく耳にする海洋プラスチックごみ問題。大手スーパーではプラスチックごみを減らすべく、徐々にレジ袋の有料化やプラスチックストローの廃止へと舵を切っています。

このような社会の流れもあり「プラスチック製品は環境によくない」というイメージが先行しますが、本当に「プラスチック」だけが悪者なのでしょうか?

そんなプラスチックのことを、ちょっと違った視点から考えさせられる器を見つけました。

それが「9° (クド) 」の器です。

目指したのはプラスチックらしからぬ器

9°は、都内でプロダクトデザインを手がけるカブ・デザインとデザイン事務所のPORT、富山県のプラスチック製品メーカー、シロウマサイエンスの3社による共同開発から生まれました。

プラスチック (合成樹脂) の付加価値を高めるべく、「素材の寿命と同じくらい長く使い続けてほしい」という思いからスタートしたブランドです。

もともとシロウマサイエンスが食品関連のパッケージに使われるプラスチック部品を製造していたことから、「食」に着目し、ブランド初のアイテムは器となりました。

まず、驚くのがその見た目。

プラスチックといってイメージする、無機質な感じとはまるで違います。ほどよい色ムラで手仕事で作られたような色味です。

9°
9°

「製造元のシロウマサイエンスが白馬岳という山の麓にあるので、その山の自然、『雪』と『大地』と『緑』をイメージした色なんです」

そう教えてくれたのは、カブ・デザインの市橋樹人さん。

カブ・デザインの市橋樹人さん
カブ・デザインの市橋樹人さん

9°の器の見た目にも驚かされましたが、実物を手にしてみて、見た目以上に驚いたのが、その質感でした。

少しざらっとするような、まるで陶器のような感触なのです。

「五感で感じられる部分は、プラスチック感を出さないようにしています。そうすることで愛着を持って長く使ってもらえると思うんですよね。見た目の雰囲気や触ったときのテクスチャーはもちろん、音にもこだわっています」

そう言って市橋さんが9°の器をテーブルに置くと、「コトン」という重みを感じさせる、きれいな音が響きました。

愛着を持って長く使ってもらえるものを

長く使ってもらいたいという思いは、その形にも込められています。

シンプルで飽きのこない、時の風化に耐えうるフォルム。

一見、何の変哲もない形に見えますが、実は隅々まで計算しつくされています。

器の底から口にかけての角度が9度であることから、ブランド名を「9°」にしたといいます。

9°
9°はきれいにスタッキング収納できる角度でもあるそう

また、神前式などで執り行われる日本古来の儀式「三々九度」の「九度」にもかけられているそう。「三々九度」が夫婦や親族の絆を結ぶ「固めの盃」と呼ばれることから、末長く愛されて繁栄するようにという願いも込められているのだとか。

9°

作って、食べて、保存。ひとつで3役を担える理由は素材にあり

私たちが想像するプラスチックの器とは、何から何まで違う9°の器。

ひとくちにプラスチックと言っても、何か特別な素材なのでしょうか?

9°

「『エンジニアリングプラスチック』と呼ばれるSPS樹脂を使っています。高い成型技術を必要とするもので、車の内部パーツなどの工業部品に使われることが多いです。

PP (ポリプロピレン) などのいわゆる汎用プラスチックと比べると耐熱温度が−20℃〜220℃と高く、強度もあって耐久性が高いのが特徴ですね」

耐熱温度が幅広いだけに、冷凍も電子レンジによる加熱も可能。電子レンジで調理して、そのまま食卓に出したり、余った料理をそのまま冷凍・冷蔵したりすることができます。

9°
写真提供:9°

また、強度や耐薬品性にも優れているので、食洗機や食器乾燥機はもちろん、塩素系漂白剤も使えるとのこと。後片付けやお手入れにも手間がかかりません。

ひとつで「調理」「食事」「保存」と3つの役割を果たしてくれるので、食事の時間にゆとりが生まれそうです。

どんなシーンで使えるかを提案するレシピも

器のサイズは直径90mmと150mmの2種類。「1人分の食事」というコンセプトで作られています。

9°
上が「U90」、下が「U150」。Uは「器」の頭文字、数字は器の直径を表しています

9°では、使うシーンにあわせてレシピも開発。Webサイトで公開しています。

これから寒くなる季節には、小さい方にお酒を入れて電子レンジでチンして燗酒にしてみるのもおすすめだそう。ふたの部分をプレート代わりにしてお好みの肴を盛れば “ひとり晩酌セット”が簡単にできちゃいます。日本酒でなく、ホットワインにチーズ、なんていう組み合わせもよさそうです。

ただモノを作って終わりでない、使い手に寄り添う気持ちがうれしいところです。

大量消費でないプラスチックの時代へ

「プラスチックに希少性はないですが、デザイン的にも自由度が高くて、大量生産にも向いている素材です。もはやプラスチックなしでは生活できないくらい、僕たちの身のまわりにはプラスチック製品であふれています。

便利な素材であることには違いないので、その上手な使い方を考え直すべきだと思うんですよ。

プラスチックの製品も、愛着を持って長く使ってもらえれば、安易に消費されないと思うんです」

9°
写真提供:9°

技術の力で機能性を、デザインの力で愛着を生み出し、プラスチック製品を末長く使ってもらえるものにした9°。

日々の食卓に豊かさと便利さを届けてくれる9°の製品は、プラスチックのことを改めて見直す機会になりました。

<取材協力>



公式サイト

文:岩本恵美

写真:中里楓

まだ見ぬ自分の魅力に出会うため、伝統工芸の“品格”を身につける。「HiN」伊万里焼のジュエリー

伊万里焼のアクセサリーブランド・HiN(ヒン)

耳につけていなかったら、まるでミニチュアの和皿のように見えるピアス。

これは、国産磁器の原点である佐賀県・伊万里の焼き物「伊万里焼」のアイテムです。

職人の手によって牡丹の花や孔雀の羽根が繊細な筆づかいで絵付けされています。

HiN
写真提供:HiN
HiN
HiN
ピアスのほかにも、イヤリングやリング、ネックレスも。全て伊万里焼です

「和皿に多く見られる桔梗皿や木瓜 (もっこう) 皿、六角皿などの縁の形をモチーフに、和皿とジュエリーの曖昧な境界に遊び心のあるデザインにしています」

そう話すのはブランドを手がけた岡部春香さん。

伝統工芸の技術や日本各地の素材を現代のライフスタイルにアップデートしたアイテムを展開するジュエリーブランド「HiN (品:ヒン) 」のデザイナーです。

HiNのデザイナー、岡部春香さん
合同展示会「大日本市」に参加したHiN。右がデザイナーの岡部春香さん

日本に潜む素敵なものを掘り起こしたい

日本の伝統工芸に秘められた「品格」を現代のライフスタイルの中で表現したい——。

そんな思いを込めて、2018年11月に岡部さんが立ち上げたHiN。

HiN

岡部さんは、大学時代にファッションデザインを専攻し、パリへも留学。ところが、ファッションの早すぎるサイクルが自身のデザインのスタイルに合わないと感じ始め、卒業後は別の仕事を選んだといいます。

「でも、やっぱりデザインの仕事に携わりたくて、商品企画の仕事に転職したんです。その仕事の中で伝統工芸に興味を持ち始めて、自身の表現にあったファッションとプロダクトデザインを掛け合わせて、『HiN』を立ち上げました」

なぜ「伝統工芸」や「産地の素材」に着目したのでしょうか。

「伝統工芸の技術や昔からある素材そのものは、とても魅力的です。それをいまのライフスタイルにアップデートすることにチャレンジしたいと思いました。それと、日本人として、日本に潜む素敵なものを私自身も探したかったんですよね」

HiNとして、工芸の技術を用いたプロダクトを作ることが一貫したテーマではあるものの、自分が魅力的だと思ったものを選んでデザインに落とし込んでいきたいといいます。

人それぞれの美しさや美意識に寄り添うジュエリーを

先ほど紹介した伊万里焼のアクセサリーは、HiNのファーストコレクション。

ブランドの名刺代わりともなるファーストコレクションに岡部さんが選んだのは、佐賀県伊万里市の窯元・畑萬陶苑でした。

「伊万里焼は素材が上質で、色鮮やかな絵付けに華やかさもある。そういう意味で、自分が伝えたいと思っている日本の美意識や品格を体現するのにぴったりでした。

数ある窯元の中から畑萬陶苑さんとの企画に至ったのは、繊細な絵付けの技術と釉薬の使い方が独特なプロダクトに魅了されたからです。見ているだけで癒しになるような、上品でやわらかな釉薬の色。光の当たり方によっても違った表情を見せます」

HiN
HiN
下絵付を施した状態

伊万里焼のアクセサリーは、和洋のスタイルを問わず、ふだん使いから、結婚式などのハレの日まで活躍してくれそうです。

「プロダクトとして日本の美意識や品格が感じられるものを作りたいのはもちろんですが、身にまとう人それぞれの個性が生み出す美しさ、美意識に寄り添うようなジュエリーをデザインしていけたらと思います」

HiN
写真提供:HiN

セカンドコレクションは、陶磁器とはまた別の伝統工芸の素材を考えているとのこと。

今度はどんなアップデートを見せてくれるのでしょうか。次なる「品」が楽しみです。

<取材協力>

HiN

公式サイト

文:岩本恵美

写真:中里楓



<掲載商品>

【WEB限定】YURAI 六角イヤリング
【WEB限定】YURAI 木瓜ピアス

子どもが舐めても安心。石ころみたいな形の積み木「tumi-isi」

川原に転がる石ころのような形に切り出された木製ブロック。ランダムなフォルムとやわらかなカラーリングが相まって、何かしらのオブジェのように見えますが、実は積み木です。

エーヨン「tumi-isi」

「tumi-isi (ツミイシ) 」と名付けられたこちらのプロダクト。一見すると積み上げることなんて無理そうなほど不揃いなブロックが、積み木として成り立っているのはなぜなのでしょう。

エーヨン「tumi-isi」
こんな風に橋のような形にも積み上げられちゃいます

子どもから大人まで楽しめる“積む”という行為

「形はランダムなんですが、表面をツルツルにはせずに粗く仕上げているので、ギリギリのところで引っかかって積み上げられるんですよ」

そう教えてくれたのは、奈良県東吉野村に拠点を構えるエーヨンのプロダクトデザイナー、菅野大門 (かんの だいもん) さん。エーヨンは、tumi-isiをはじめ、カッティングボードやステーショナリーなど木材を使った手工業品を主に作っているプロダクトデザインレーベルです。

「一般的な積み木は、水平・垂直がわかりやすいので簡単に積み上げられます。でも、tumi-isiは各ブロックの面の中から積める場所を探していくから、パズルのような感覚があるんですよね。ただ積み上げるというシンプルな行為なんですけど、難易度がやや高い分、子どもも大人もハマるんです」

エーヨン「tumi-isi」

老若男女を問わずに遊べる積み木として、保育園や幼稚園など子どもが集まる場所はもちろん、ミュージアムショップや老人ホームなどにも置かれています。

吉野杉・吉野檜との出会い

tumi-isiは2008年にドイツの国際見本市で発表。その後、世界中で模倣品が出回り、エーヨンではいったん生産・販売をストップしていたものの、2016年に新たなスタートを切りました。

当初は素材に広葉樹を使ったものだけでしたが、吉野杉や吉野檜を使用したtumi-isiをラインナップに加えたのです。

エーヨン「tumi-isi」
カラフルなものが吉野杉や吉野檜を使用したtumi-isi

そのきっかけは、2013年に菅野さんが奈良県東吉野村に移住したことでした。

「吉野の杉や桧を活用したい」という相談を受けるうちに、吉野杉や吉野檜でtumi-isiを作ってみたらどうなるのだろうという思いが湧いてきたといいます。

「広葉樹で作ったtumi-isiは重たくて重厚感があってかっこよかったんですけど、試しに吉野杉や吉野檜で作ってみたら、軽くてグリップも効くので積み上げやすかったんです。これなら子どもが持っても重くないと、素材が商品にフィットした感じでした」

エーヨン「tumi-isi」

和室にも洋室にも合う無国籍なデザイン

展示会などを通して実物を触ってもらいながら、形や大きさ、色の改良を重ねていき、現在の姿にたどり着いたtumi-isi。

一つひとつ手塗りしているという着色には、子どもが舐めても平気なように自然塗料の「バターミルクペイント」を使用しています。カラフルでありながらも落ち着いたトーンの色も特徴の一つです。

エーヨン「tumi-isi」

「モノを作るときは、日本らしさとヨーロッパやアメリカなどの日本ぽくない部分を掛け合わせて無国籍感を出したいと思っています。

だから、tumi-isiも、国産の木材を使って日本で作っているという『日本らしさ』に、日本っぽくない発色の塗料を組み合わせました。

積み木などの子どものおもちゃって家の中でどうしても散らばってしまうもの。これなら、置くところを選ばないし、片付けなくても絵になりますよね」

孫の代まで引き継げる!? サステナブルなおもちゃ

時代や流行に左右されずに生活になじむデザインもうれしいことながら、tumi-isiを長く使ってもらいたいという思いから、エーヨンではメンテナンスも受け付けています。

使っていくごとに角が削れてしまったり、表面がツルツルになってしまって積み上げにくくなったりしたブロックを要望に沿って削り直して塗装してくれるとのこと。

tumi-isiを代々受け継いでいって、家族みんなで集まって遊ぶというのも楽しそうです。

エーヨン「tumi-isi」

創造力やバランス感覚を養う知育玩具としてだけでなく、団欒の時間やコミュニケーションを生む積み木。

どうやらtumi-isiにはそんな役割も秘められているようです。

<取材協力>

A4/エーヨン

奈良県東吉野村小708番地

A4/エーヨン公式サイト

tumi-isi OFFICIAL STORE

文:岩本恵美

写真:中里楓

ニットの虫食いも引っ掛けも直せる。体からインテリアまで包むニットブランド「226 (つつむ) 」

みなさん、日本一のニット生産高を誇る産地がどこか、ご存知でしょうか。

答えは、新潟県のほぼ中央、新潟市の南東に位置する、五泉市 (ごせんし) 。

豊富な水資源を活用して古くから絹織物の産地として知られており、戦後はニット産業へと転換して、現在に至るのだそう。

そんな日本一のニット産地から、新しいニットブランドが誕生しました。

その名も「226 (つつむ) 」。

おなかをつつんだり、首をつつんだり、おしりをつつんだり‥‥。

「ヒトと暮らしをニットでつつんで、心地よくユーモアあふれる毎日へと導くこと」がブランドのコンセプトです。

糸、色、柄、形‥‥多彩な表現ができるニット

手がけたのは、五泉市でニットづくりを続けて57年の老舗メーカー・有限会社サイフク。「226」は、ニットポンチョブランド「mino」に続く、同社のオリジナルブランドです。

「『226』は、ニットの魅力や可能性がいろいろあるということを伝えたくて立ち上げました。ブランド名を『226』として幅を持たせることで、様々な「つつむ」製品を展開しています」とサイフクの斉藤佳奈子さん。

サイフク・斉藤佳奈子さん
サイフクの斉藤佳奈子さん

ひとくちに「つつむ」といっても本当に様々です。

サイフク「226」
「かたをつつむ」サイドにスリットが入っているので動きやすいケープ
サイフク「226」
「おしりをつつむ」子ども用パンツは楽に着脱できるよう、伸縮性が抜群
サイフク「226」
「くびをつつむ」80cm、30cm、20cmと、長さの異なるニット編み地をボタンでつなぎ合わせてオリジナルのスヌードが作れます

中でもイチオシは、「おなかをつつむ」、こちらのパンツ。

サイフク「226」
形はワイドタイプとレギンスタイプの2種

斉藤さん曰く「まるではいていないようなはき心地」というほどラクチンなのだそう。

糸はオーガニックコットンで、ゆるめに撚りをかけた芯糸に超長綿を巻いて二重構造にすることで、軽くて肌ざわりのよい仕上がりに。おなかの部分はよく伸びるので、妊婦さんも楽に着られるといいます。

しかも、このニットパンツは、ネットに入れて自宅の洗濯機で洗えるという、お手入れまでもラクチンなアイテムです。

ファクトリーブランドならではのアフターケア

「『お手入れが大変』『ひっかけたらどうしよう』など、お客さんの心のハードルをできるだけ下げたいと考えています」と斉藤さん。

サイフク・斉藤佳奈子さん

そんな思いから、サイフクではアフターケアにも力を入れて取り組んでいます。

虫食い穴や引っ掛けてできてしまった引きつれなど、可能な限り対応してもらえるとのこと。

中には、虫食い穴が10箇所以上あるものや、原形をとどめなくてもいいから何とかしてほしいといった依頼もあるのだとか。

こんな相談ができるのも、自社工場を抱えるファクトリーブランドだからこそ。思い入れのあるものを大事にしていける体制が整っているのは心強いところです。

ニットに秘められた可能性は想像以上

今は体をつつむものを中心に展開している「226」。今後はどんなモノをつつんでいくのでしょうか。

「『これもニットなの!?』というものを作っていきたいです。植木鉢カバーやランプシェードなどのインテリアにも広げていきたい。

それと、ニットには人を癒す効果があるのかなと思っていて、実用的なものでなくとも人の気持ちをほっこりさせてくれるものが作れたらいいですね」

サイフク「226」
試作段階の植木鉢カバー

ニットづくりに長年向かい合ってきたメーカーだからこそ知っている、ニットの長所や魅力。

私たちが知らないニットの楽しみ方は、まだまだありそうです。

<取材協力>

有限会社サイフク

新潟県五泉市寺沢1-6-37

0250-43-3129

サイフクHP

226-knit 公式HP

ニットのアフターケアについて

文:岩本恵美

写真:中里楓



<関連商品>
226おなかをつつむ見せるハラマキ