【はたらくをはなそう】中川政七商店 店長 福島良子

福島良子
中川政七商店 近鉄百貨店奈良店 店長

2021年入社 中川政七商店 近鉄百貨店奈良店配属
2022年10月 同店 店長


前職まで、複数の企業で衣食住の主に“住”に関する仕事をしていました。その中で後継者不足や業界の衰退などの理由から廃業を余儀なくされる方々を目の当たりにし、寂しさと悔しさを何度も経験しました。

「次の仕事は微力ながら、ものづくりを支える仕事ができないか」。そんな風に考えていた時、数年前に読んだ『日本の工芸を元気にする!』のことを思い出し、それなら中川政七商店しかないだろう!と入社を決めました。

現在は奈良の店舗で店長として勤務しています。

全国の中でも贈りものを承る件数がかなり多い店舗です。贈りものの用途は様々ですが、そのどれもが人生の大きな節目であることがほとんど。感謝やお祝いなどご自身のお気持ちを形に変えてお相手へ贈る、そのお手伝いをするのが我々店舗で働くスタッフの仕事です。お相手の過ごされる時間をお客様とともに想像しながら、その場にふさわしいものを一緒に選ぶ。お伝えしたものの背景や作り手の気持ちに共感して決めてくださった時には、うれしさとビジョンへ繋がる仕事ができたという喜びを感じます。

ビジョンとどのように向き合うかを考えるのも、店長の仕事のひとつ。お客様のために産地や作り手のことを深く知り、スタッフと意見を交わす。同じ思いでビジョンと向き合ってくれていることを知るとやりがいを感じます。

仕事をする上で日々大事にしていることは『正しくあること』です。

正しさは時・人・状況により正解がひとつではありません。心のように形のないないものを正しく判断することに難しさを感じます。

すぐに答えが見つからない時は勤務先の休憩室から見える古墳を眺め、四季の移ろいなどを感じながら考えを整理します。非常に奈良っぽい方法ですが、私の故郷にも世界最大級の古墳があり子供の頃から慣れ親しんできたため、不思議と気持ちが落ち着くのです。古墳を毎日見ながらのんびりできるのは全国でも近鉄百貨店奈良店だけです。百貨店の屋上からは古墳や若草山、東大寺まで一望できますので、ご興味のある方はぜひ足を運んでいただきたいと思います。

<愛用している商品>

雪音晒の四重ガーゼミニバスタオル

おすすめ理由:「早く乾く」が私のバスタオルを選ぶ基準です。その基準を満たし、フワフワよりさらっと感のあるタオルが好きな私の理想を叶えてくれるのがこのタオル。大きすぎないサイズ感も〇。発売当初から買い足し、愛用しています。

漆琳堂越前硬漆 朝倉椀4.5寸

おすすめ理由:ものづくりと向き合うために作り手の元を訪ねる社内の取り組みで、工房を訪ねた際に一目惚れしました。工程を見学し、漆塗り体験もさせていただいたため思い入れもひとしおです。使うたびに作り手の方々のお顔が浮かびます。

植物由来のシャンプー・コンディショナー

おすすめ理由:この商品に出会うまで、洗髪時や寝起きの髪の絡まりが毎日のストレスでした。洗いあがりはさっぱりしているのですが、翌日のくし通りが全然違います。さわやかな柑橘の香りは毎日使いたくなる大切な要素のひとつです。


中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

麻の老舗が届けたい、麻の魅力をのせた衣「中川政七商店の麻」

1716年(享保元年)に高級麻織物「奈良晒」の問屋として創業し、以来300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。麻を知り尽くした私たちだからこそ伝えたい、うつりゆく季節や暮らしに寄り添う麻の魅力があります。

通気性の高さや生地のシャリ感から夏の素材として想起されやすい麻ですが、実は、ウールと合わせて冬のコートに用いたり、厚手に織り上げた生地を春や秋も着られるボトムスに仕立てたりと、一年を通じて心地好く着られることもぜひお伝えしたい点。

そんな想いから、中川政七商店では「中川政七商店の麻」と名をつけて、麻の魅力を届ける衣服をつくり続けてきました。

デザインを担当する杉浦に、麻の基本と、中川政七商店の麻シリーズのこだわりを聞きました。

日本の衣を長く支える、天然素材

植物繊維の総称である「麻」は、古来より世界各国で用いられてきた天然の繊維。紀元前1万年前には古代エジプトで、その使用が認められたという記録もあるほどです。

日本でも縄文時代には使われていた形跡が残っており、その後、江戸時代には武士の裃として重宝されるなど、武士階級の衣類の中心的存在でした。

また古来「ケガレを祓う」ものとして神事とのつながりも深く、神社でのお祓いに使用する御幣(ぬさ)や、参拝時に鳴らす鈴に垂らされた縄にも麻が用いられています。

今の日本の衣類では綿のほうが多用されていますが、お伝えした通り、昔は多くの場で麻が使われていたのです。

「麻って繊維が強いので、古いものでもまだ残っているんです。正倉院の宝物にも麻を用いた染織品などが残っています。そうやって人の暮らしに寄り添ってきた、歴史の深い素材なんですよ」(杉浦)

ひとことで「麻」といってもその実は20種類近くに分かれ、そのうち衣料用に使われる主な麻には「リネン(亜麻)」「ラミー(苧麻)」「ヘンプ(大麻)」などが挙げられます。

リネンは一般的な麻の衣料にもよく使われる麻。しなやかでやわらかさがあり、麻のなかではやさしい肌触りなのが特徴です。

一方ラミーはシャリ感が強く、清涼感があるため主に夏の衣料に重宝される素材。硬さがあり、繊維として強さのある麻です。

ヘンプは空気を含む特徴があり、保温性・保湿性に優れているため、特に冬におすすめしたい麻。育つのが早く、サスティナブルな素材ともいわれています。

「麻といってもそれぞれの繊維ごとに特徴も違って面白いですよね。『中川政七商店の麻』シリーズではこれに加えて、糸づくりや織り方、布地にする際の加工など、さまざまな要素を組み合わせて生地の質感をつくっています。日本では麻って夏の素材と思われがちですけど、素材の特徴を活かして夏に限らず楽しんでいただけるご提案がしたいなって」(杉浦)

そんな私たちの暮らしを長く支えてきた麻ですが、植物繊維であるがゆえ、年によっては天候不順による不作があるほか、品質も不安定でよい素材を手に入れるのが難しいことも。

その天然の素材を糸にして織り上げるには、長年の経験から積み上げた職人の技が必要とされます。

「織物や染織工芸は水が豊富な土地で特に栄えたので、日本では琵琶湖のある滋賀県や、大きな河川がある地域に多くの染織産地があります。

当社で使用する麻生地は基本的に機械で織っていただくのですが、機械は自分で素材の特徴ごとの調整まではしてくれません。だから職人さんがスピードを調整したり、糸に油分を含ませて織りやすくしたりと、その設定の塩梅に人の技が出るんです」(杉浦)

麻素材の特徴

麻素材の特徴でよく知られるのは通気性の良さ。けれど実はそれ以外にも、暮らしに寄り添う麻の魅力がたくさんあります。

一つ目は「吸放湿性に優れていること」。一年を通して呼吸している素材ともいえる麻は、夏はさらりと着られて、冬は空気を含みあたたかく着られます。

また「見た目の素材感」も魅力的で、洗いざらしでもさまになるようなシワ感は麻ならでは。綿だと洗濯後のアイロンなしではシワが悪目立ちするような場合も、麻のシワは独特の表情をうむためアイロンなしでも着られます。

加えて麻の生地にみられる「上品なツヤ感」は、カジュアルなアイテムでも上品で大人っぽい印象になる嬉しい魅力のひとつ。

さらに、もとはハリのある生地感ですが、だんだんなじんでやわらかくなるのも特徴で、「経年変化の楽しさ」を感じられます。

「表現するなら『古びる』ではなく『育つ』がしっくりくるような。そうやって着るごとに愛着がわくのも、麻の衣料をもつ面白さですね」(杉浦)

汚れがつきにくく落としやすいといわれる素材のため、「洗濯性のよさ」もぜひ知っておきたい点。洗いに強く、先ほどお伝えした通りアイロンいらずでも着られるため、実は扱いやすい生地なのです。

最後になんといっても伝えたいのは「異素材との相性の良さ」。

「中川政七商店の麻」シリーズでも、麻100%で織り上げることもあれば、綿やウールと合わせながら、生地を開発する場合も多くあります。

「例えば綿と合わせて肌あたりのよさを足したり、ウールのあたたかさを足したり、ポリエステルの強さを足したり。他の素材と糸を混ぜたり、交織(素材の異なる糸で織り上げること)しても麻の特性が失われず、むしろ新しい風合いを生み出せて、お互いを活かしあえる素材なんですよ」(杉浦)

中川政七商店と、麻

“誰とでもうまくやれる、コミュニケーション力が高い素材”である「麻」。中川政七商店ではそんな麻の特徴を活かして、定番の麻衣類と、四季折々の麻生地を用いた洋服のシリーズも展開しています。

例えば、定番の麻シリーズで提案するのは、Tシャツやデニムパンツ、また私たちのルーツ・奈良晒と同じ製法でつくる「手績み手織り麻」を使ったシャツ。長きにわたって麻をお届けしてきた中川政七商店だからこそ、いつもの衣類に麻の魅力を取り入れながら、その着心地や表情を楽しんでいただける一着に仕上げています。

中川政七商店の定番服。左は「手織り麻を使ったフリルシャツ」、右は「麻のデニムパンツ」

また、四季折々のコンセプトでつくる「毎月の麻」シリーズでは、毎回、その季節にまつわる言葉とビジュアルを沿えて展開。麻と別素材を合わせたり、麻の特徴にスポットをあてたりと、いろいろな織り方や加工方法で季節に合わせた麻をご提案しています。

「日本には四季があって、気候や、植物の移ろいを表す二十四節季などの美しい言葉もありますよね。そうやって季節の移ろいを楽しみながら、旬の食材を食べたり季節に合わせたしつらいをするように、服にも季節を上手にとりいれて、その時季の風景に自然と溶け込む佇まいになるように『毎月の麻』シリーズは企画しています。

あとは気候だけじゃなくて『新年はこんな服が着たい』といった風に、暮らしや気分に寄り添えるよう生地やデザインを考える月もありますね。そうやって素材や色、形を毎月検討しながら、麻の魅力をもっと知れる機会になればと思ってつくっています」(杉浦)

その懐の広さこそ、他の素材にはない麻ならではの大きな魅力。

江戸時代に麻の商いからはじまった中川政七商店は、これからも、過去にも、未来にも思いをはせながら麻のものづくりを丁寧に続け、皆さんに麻の魅力をお届けしてまいります。

<関連特集>

<関連記事>
麻とはどんな素材なのか?日本人の「服と文化」を作ってきた布の正体

文:谷尻純子

「かしゆか商店リアルストア」がついに開店

「古今東西 かしゆか商店」は、ライフデザインマガジン『Casa BRUTUS』の連載から生まれた、日本各地の伝統工芸の「粋」を集めたバーチャルショップです。店主兼バイヤーのPerfume・かしゆかさんが、2018年から全国80カ所以上の産地を巡り、誌面で工芸品を紹介してきました。

このたび、その7年間の軌跡をまとめたムック本の発売を記念し、中川政七商店の全国4都市の直営店で「かしゆか商店 リアルストア」を開店することとなりました。記念すべき一カ所目である「中川政七商店 渋谷店」にて2025年3月12日に開店した様子を、速報でお届けします。

「リアルストアになって、旅の中で自分の目で見てきた商品が一堂に会して並んでいるのを見ると、本当に嬉しい。それぞれの職人さんの姿やお話ししてきたことの思い出が蘇ってきます。いらっしゃるお客様には、手仕事の魅力が詰まった商品たちをぜひ手にとってみていただきたいですね」とかしゆか店主。

会場では、誌面で取り上げた全国54カ所の作り手による工芸品を展示販売。さらに、中川政七商店と共に開発した8種のオリジナル商品も、数量限定で登場しています。

リアルストアのオープンに先駆け、「福だるま」とも呼ばれる群馬県の伝統工芸「高崎だるま」に店主自ら点睛。こちらはリアルストアに展示しています。

「だるまに目を入れる時はみなさんに見守られていたこともあって、真ん中にきれいに入れようと、とても集中して描きました。全部のショップを回り終えたら、もう片方にも目を入れたいですね」

オリジナル商品はこちら。かしゆか店主が日本各地で出会った工芸とともに開発しました。

店主の好きな「藤色」「亜麻色」「白練」をキーカラーにした和紙箱や組紐のストラップ、コーヒーをたっぷり飲める九谷焼マグカップに、愛猫リヨンをモチーフにした高崎だるまなど、かしゆかさんが全国を巡った思い出をそばに感じていただけるラインアップです。

リアルストアはこの後、奈良・広島・福岡へと巡回していきます。お近くの地域や旅先のお店で皆さまのお越しをお待ちしています。

※一部商品は欠品しています。入荷予定日については、中川政七商店InstagramおよびXにて順次お知らせいたします。

「かしゆか商店 リアルストア」開催概要

イベント会期:
【東京】3月12日(水)~4月8日(火)中川政七商店 渋谷店
【奈良】4月16日(水)~5月6日(火)中川政七商店 奈良本店
【広島】5月14日(水)~6月3日(火)中川政七商店 ミナモア広島店(特設区画内)
【福岡】6月11日(水)~7月1日(火)中川政七商店 福岡天神店(特設区画内)

特設サイト:
https://nakagawa-masashichi.jp/kashiyuka-shoten

お問合せ先:
中川政七商店 渋谷店 03-6712-6148

小さな花器からはじめる、花のある暮らし  

暮らしに花を取り入れたい。でも、どんな花瓶を用意すればいいのか分からないし、きちんとお手入れできるのか不安もある。そんな方におすすめしたいのが、小さな花器とともにはじめる方法です。

誰でも気軽にはじめられて、お花の魅力を楽しむことができる。そんな花のある暮らしのポイントについて、花の定期便サービス「LIFFT」などを運営する「株式会社BOTANIC」さんにお話を伺いました。

※BOTANICさんの取り組みや想いについてはこちらのインタビューをご覧ください

少量のお花がさまになる、小さな花器から始めてみる

「最初は、小さな花器に少量のお花を生けるところから始めるのがおすすめです。

一輪挿しや小さな花器は、少量のお花でも飾りやすいようにデザインされているので、一種類のお花をシンプルに入れるだけでさまになります」

LIFFTの企画やSNS運用を担当する、BOTANICの谷田部京子さんはそんな風に話します。

株式会社BOTANIC 谷田部京子さん。LIFFTの姉妹ブランド「ex. flower shop & laboratory」代々木上原店 副店長

いきなり立派な花瓶を用意したり、たくさんの花を組み合わせたりする必要はなく、気に入った一種類の花を、気軽に飾る。そう考えると、確かに始めやすいかもしれません。

「小ぶりなものであれば飾る場所の制約も少なくて、ご自宅の雰囲気やインテリアに合わせて好きな場所に置けることも取り入れやすいポイントですね。

予算的にも揃えやすいものが多いので、いくつか用意しておくとバリエーションも出せて楽しみも広がります」

「専用の花器が無くても、たとえば小さな空き瓶だったり、使っていないグラスやボウルだったり、お花と相性の良いものが家の中に眠っていることもあります。

店頭で気になったお花を選んでいただければ、飾り方やお手入れ方お手入れ方法をお伝えしますし、もし使ってみたい花器や食器がある場合、それに準じておすすめすることも可能です」

と話すのは、BOTANIC代表の上甲知規さん。ご自身も、家にあるグラスを花瓶として使うこともあるのだそう。花器として使えるもののバリエーションがいくつかあれば、花を選ぶ際の「うまく飾れるだろうか?」という不安も小さくなると感じます。

BOTANIC 代表取締役CEO 上甲友規さん
取ってのついたマグカップも、花との相性が良い

長持ちしやすい花や、季節ならではの花がおすすめ

自分の気に入ったものを気軽に選んで良い。ということは踏まえつつ、初心者におすすめのお花があるとすれば、どんなものなのでしょうか。

「最初に選んでいただくのであれば、長持ちしやすいお花というのも良いのかなと思っています。

そもそも、切り花はすぐに枯れてしまうんじゃないかと心配する方もいらっしゃると思いますが、実はそんなことはないんです。種類や季節によっては2週間から1か月近く持つこともあります。

その中で、最初は特に長持ちしやすいお花を選んでいただくと、安心して楽しめるかもしれません。

あとは、季節を感じられるということと、色々なお花があることに触れていただけるので、その時期にしか店頭に並んでいないお花を選んでいただくこともおすすめしています」(谷田部さん)

花屋さんの店頭には、たくさんの花々が並ぶ。直感で好きなものを選びつつ、季節のものや、長持ち度合いを尋ねてみるのがおすすめ
自宅のインテリアや、使いたい花器のイメージに合わせて提案してくれることも

せっかくであれば、できるだけ長く楽しみたい。そういった意味では、確かに長持ちしやすいものを教えてもらえると安心できます。

花によっては適切な水の量が異なるなど、お手入れ方法も少しずつ変わってくるのですが、一種類ずつ生ける場合はそこもシンプル。お手入れがしやすいことも、花の長持ちに直結するポイントとのこと。

「すでに咲いているお花も、八分咲きくらいで売られていることが多いので、そこから綺麗に開ききる過程を楽しんでいただいたり。

切り花の状態からどんどん二番花、三番花と咲いてくるものもありますし、最終的にだんだんと枯れていく過程も含めて、一種類の切り花からでも、わびさびのようなものが感じられると思います」(上甲さん)


「身近なところでは、スーパーマーケットなどで数本のお花がセットになって販売されているものがあると思います。ああいったものを、セットのままではなく、一本ずつ小さな花器に分けて生けてみるのもおすすめです」(谷田部さん)

花が美しく見える長さを意識して生ける

最後に、花が綺麗に見える生け方について聞いてみました。

「基本は、花器の高さに対して、お花の出ている部分の割合が1から1.5くらいの比率で生けてあげるのが綺麗に見えるポイントです。

切り花の多くは、30センチ程の長さで販売されているので、細長い10から15センチほどの花器であれば、買ってきたお花をそのままストンと生けられます。

もう少し背の低いものや口の広がったタイプの場合は、必要に応じて茎を短くカットしてください。生けた後は、茎を定期的に1、2センチずつ斜めに切って断面を新しくすることで、お花を元気に保つことができます。

長さに合わせて生けるうつわを変えられると、一番おさまりが良いですね」(谷田部さん)

細長く、口がすぼんでいるものは、そのままストンと生けやすい。<掲載商品>瀬戸焼の花入れ 徳利型
茎を切り、短くなってきたらさらに小さな花器へうつしていく。雑菌が繁殖しないよう、水に浸かる部分の葉っぱを取り除いておくことが重要。<掲載商品>でく工房 つぼみ一輪瀬戸焼の花入れ 鳥型信楽焼の花入れ 鼓型

少し余裕が出てきた時には、小さな花器に加えてミドルサイズのものがひとつあると、さらに楽しみ方が広がるのだとか。

長いものを一本から生けられる、ミドルサイズの花器は重宝する。<掲載商品>信楽焼の花入れ 水差し型

「一本でも、花束でも対応できるミドルサイズの花器があるととても便利です。

買ったばかりの長い時はミドルサイズに生けて、短くなってきたら小さい花器に移していったり。もしくは、この枝の部分無い方がすっきりするかも、といった時に思いきって切ってしまって、切った方は小さな花器に分けて生けることもできます」(上甲さん)

「ミドルサイズのものでボリュームを出すときも、はじめのうちは一種類のお花で本数を増やす方が飾りやすいです。その方がシンプルに綺麗に見せやすく、お手入れも楽なので。

だんだん慣れてきて種類を増やしていく場合には、今度は逆に単調にならないようにお花の形を変えてみたり、質感の違うものを色々入れてみたり、そんな風に試してもらえると良いのかなと思います」(谷田部さん)

ボリュームを出す場合も、まずは一種類でまとめると綺麗に見せやすい
慣れてくると、さまざまな種類を組み合わせてみる
花が散りはじめたら、花びらを浮かべて楽しむことも

花の蕾が開く様子を日々眺められたり、自宅にあった何気ないうつわが花瓶として輝いたり、近所の野花や季節の変化に敏感になったり。暮らしに花を取り入れると、思ってもみなかった楽しい経験がどんどんと増えてきます。

一種類のお気に入りの花と小さな花器をキーワードに、ぜひ皆さんも花のある暮らしを自分のペースでスタートさせてみてください。

「本当に一輪からでも、好きなお花を一緒に考えさせていただきたいと思っています。普段お花を買う習慣がない方にも、ぜひ気軽に取り入れていただきたけると嬉しいです」(上甲さん)

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<取材協力>
BOTANIC

文:白石雄太
写真:奥山晴日

品よく着られる定番の一枚。大人ための、杢Tシャツ

年齢を重ねたことで、年々悩ましくなる自分に似合う服選び。
30代後半の今、顔や体とのバランスをとる難しさを日々痛感しています。

個人的にはシンプルな服ほどその難易度が高く、昔愛用していた服を着てもぼんやりした印象になったり、少し疲れて見えてしまったり。いつのまにか、しっくりこなくなっているのです。

そんな悩みを持つ私にも「これなら長く着られそう!」と思える服が、中川政七商店から登場しました。その名も「大人の杢(もく)Tシャツ」。デザイナーが「大人の女性が定番にできる一枚をつくりたい」と、糸からオリジナルで開発したTシャツシリーズです。

杢ならではの奥行きある生地の表情を楽しめながらも、カジュアルさは控えめに。品よく着られる一枚のこだわりを、デザイナーの田出に教えてもらいました。

開発のきっかけは「大人に似合うTシャツをつくりたい」

そもそも「杢糸」とは、一本の糸にいろいろな色が入るように、色の異なるワタを混ぜてつくる糸のこと。一色のワタでつくる糸とは異なり一本に複雑な色感が出るため、そのまま編み上げるだけで生地の表情に奥行きが出るのが特徴です。

一本の糸になる前の色ワタを紡いだ糸巻。最終的にはグレーの生地になる

その独特の生地感から、一般的にはカジュアルな印象に仕上がるものが多い杢Tシャツですが、今回、中川政七商店ではあえて「大人に似合う」をコンセプトにつくりました。

展開するのは生成・グレー・黒の、杢ならではの三色。ベーシックに着られて、それでいて大人っぽい。普通っぽいけど、少し違う。そんなふうに、基本を押さえつつも中川政七商店らしい色表現を追求しています。

「はじめは大人が着られそうなTシャツをつくりたいと思ってたんです。自分もどんどん年齢を重ねて、 普通のTシャツを着るとどうしても家着っぽくなるというか。首まわりのバランスや顔うつりが結構難しくて。

なかでも杢Tシャツは特に、着たい気持ちはあるもののアメカジのような印象になってしまって、着づらさを感じていたんですよね。そんな背景から、大人が着てもきれいに見える杢のTシャツがあったらいいなと挑戦してみたのがきっかけでした」(田出)

そう話す田出が、大人に似合う一枚をつくるために何よりもこだわったのが糸づくり。糸の色がそのまま表情に現れる杢生地だからこそ、理想の色合いを表現するために既成の糸は使わず、色ワタの配合からつくり手さんと一緒に取り組みました。

パートナーとして糸づくりをお願いしたのは1918年の創業以来、大阪で紡績業を営む大正紡績。その丁寧なものづくりに国内メーカーからの信頼も厚く、大手メゾンからも引き合いの多い紡績の老舗メーカーです。

「大正紡績さんとご一緒するのは今回のTシャツがはじめて。素材への向き合い方が真摯な企業だと伺ったのがきっかけで、お声がけさせていただきました。糸の調子とか、素材になるワタの選び方とか、細部まで丁寧に取り組まれているとお話に聞いて」(田出)

人の手が生み出す丁寧なものづくり

大正紡績ならではの丁寧なものづくりに助けられながら、随所にこだわった今回の杢糸。例えば素材は綿を基本にしつつも、アクセントとしてリネンを1%ほどだけ混ぜることで、色の出方を調整しています。

理想の色糸が完成するまでに重ねた試作回数はなんと4回。同社いわくこれだけの試作回数はあまり例にないそうで、その話を伺うだけでも妥協せずに突き詰めたものづくりを感じます。

配合率を変えながら、理想の色を目指して試作を繰り返した

また糸にするワタはそのまま使用するのではなく、すべて一度晒してから使用。手間も時間もかかる方法ですが、これも、理想の生地づくりのためにと選んだ工程です。

「多くの杢糸では素材そのままのワタを使用するんですけど、うちの糸はワタを晒してから色を染め上げました。その方が微妙な色の表現ができるし、晒すとワタがきれいになってやわらかくなるから、洗濯をしてもふんわりした風合いが続くんです。大人が着るなら見た目だけではなく肌触りまで意識したいなと思って、この方法でお願いしました」(田出)

さらには大正紡績さんいわく、「通常の杢糸では原綿(げんめん=葉ごみを落としていないそのままのワタ)を80%ほど、葉ごみを落としたワタを20%ほどの割合で混ぜることが多い」そうですが、今回は贅沢に葉ごみのないワタを100%使用。その分もちろん工数は増えますが、糸の表情がなめらかで上品になり、カジュアル感を軽減できるのです。

左が葉ごみが着いた状態のワタ、右が今回使用しているワタ

「大量生産とは真逆で、人の手をかけて、小規模で細やかな対応をしてくださる大正紡績さんだからこそ、今回のものづくりが叶いました。

あとは少し古い機械を使っておられるので、糸がやわらかく仕上がるのも同社と取り組む魅力のひとつですね。大人に着てもらう服なら、高級じゃなくてもいいんだけれど、上質さは叶えたくて。ものを触ったときに本当に『気持ちいいね』って言えるものにしたかったんです」(田出)

糸にした際に色のバランスが偏らないよう、ワタを混ぜる機械へかける前には人が配置を調整
古い機械でやわらかに糸を紡いでいく

ワタをさらし、葉ごみをとり、リネンを混ぜ、そして、古い機械をゆっくり操りながら、人の手で丁寧に作業を進めるつくり手さんのもとでうまれた杢糸。完成した生地は纏うとふんわりと気持ちよく、洗っても風合いが持続します。

きれいに見せられるシルエットで、長く着られる定番に

「大人が着ること」を意識した点は生地感以外にも及びます。そのひとつが、大人にとって使い勝手がよく長く着られるシルエット。ゆとりは持たせつつも程よくきちんと感もあるよう、首元の高さや詰まり具合、身幅のとり方などに調整を重ねました。

「ゆったり着られるけど、きれいに見せられるシルエットにしたいなと思って。例えば首もとって、あき具合によってはずるっと伸びたり横に広がったりしちゃって、少しだらしない印象になってしまいますよね。今回はそうならないようなリブの高さや詰まり具合にしています。

あと、長袖と半袖の二つの形をつくったんですけど、長袖の方は丈感を工夫してあえて前後をずらしました。はじめは長めでつくってたんですけど、それだとカジュアルさが出てしまって。裾を出して着るとカジュアルになるし、ボトムスに入れてブラウジングするのも塩梅が難しいですよね。

だから今回は前を少しショート丈にして、スカートと合わせてもバランスがとれて履けるけど、しゃがんだときに背中は見えないような絶妙な丈感にしています」(田出)

さらには、日本で糸づくりから縫製まで仕上げた質のよい品ではありますが、定番の一枚として色違いや形違いも買い足せるように、手に取りやすい価格帯を目指したのもこだわったポイント。仕立てる際に生地のとりかたを工夫し、端切れの量をできるだけ控えめにするなど、手ごろな価格に近付けられるよう努めました。

こうして出来上がった「大人の杢Tシャツ」。最後に田出さん、どんな着方がおすすめでしょうか。

「もちろん普段から着ていただけるんですけど、上品に着られるように仕上げたので、ジャケットを羽織ったりシャツの中に着てもらったりもして、いろんなコーディネートに合わせていただけたらと思います。何にでも合わせられる、心強い一枚にしていただければ嬉しいです」(田出)

これまでなかなか出会えなかった、シンプルななかに上質さや着心地の詰まったTシャツ。年を重ねても楽しく、自分らしいスタイリングを叶えるような、ワードローブの定番になりますように。

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大人の杢Tシャツ 半袖
大人の杢Tシャツ 長袖

文:谷尻純子
写真:森一美(大正紡績 取材写真)、枠谷哲也(モデル写真)

個性的な布小物を生む「Jacquard Works」を支える、桐生という繊維産地の秘密

ジャカード織生地を使って美しく個性的な布小物を作り出す「Jacquard Works」。その製品に触れるたびに、素直な疑問が頭に浮かぶ……この布、どうやって作っているのだろう、と。

ある生地は空気を含んだようにポコポコとした凹凸をもち、また別の生地はふさふさとしたフリンジが彩りを添える。まるで刺繍やパッチワークなどの装飾を施しているかのように立体的で、豊かな表情を楽しませてくれる。にもかかわらず、これが1枚の生地なんて! 

そこにはおよそ1300年という歴史をもつ繊維の産地・群馬県桐生に受け継がれる分業体制と、専門的な職人技が息づいていました。

ジャカード織物はまるでパズルのように

ジャカード織物とは、1801年にフランスの発明家、ジョセフ・マリー・ジャカール(英語読み:ジャカード)氏が開発したジャカード織機を使って織られた織物のこと(詳しくは「1本1本の糸が織りなす、無限の可能性」を参照)を指しますが、「〝織る〟という工程だけでジャカード織生地ができるわけではありません」とはJacquard Worksのつくり手である機屋「SUSAI(須裁株式会社)」3代目の須永康弘さん。

3代目でマテリアルコンダクターの須永康弘さん(左)とJacquard Worksディレクターの後藤良子さん(右)

端的に言えば、生地の全体像のプランニングにはじまり、組織(織り方)の設計、紋紙やデータの作成、糸の準備、染色、整経、製織、加工、整理、仕上げまで、およそ10の工程を経てはじめてジャカード織物ができあがります。

「どんな生地をつくりたいのか、デザインや質感などの構想を固めたらそれを具現化するために、どんな素材の、どの太さの糸を使うのか?色は?織り方は?加工方法は?と一つ一つの工程を決めていく。まるでパズルのように一つ一つのピースを慎重にはめていくというイメージでしょうか。ありがたいことに、桐生には各工程それぞれに腕利きの職人さんがいる。彼らの知識や技があるからこそジャカード織生地はできるといっても過言ではありません」

今回は、数ある工程の中からいくつかの工房を訪ね、その仕事ぶりを拝見させていただきました。

経糸を整える〝整経〟という職人技

まずは〝整経〟。文字通り、「経(たて)」糸を「整」えるというジャカード織には不可欠な工程です。「たとえば1万本の経糸が必要な織物の場合。すべての糸を同じ張力や密度できれいに並べ、すぐに織り始められるように糸を整えるのが私たちの仕事」と金子整経工場の金子一路さん。

必要な長さの経糸を、必要な本数分用意する。金子整経工場にて。
 1万本の経糸を、一糸乱れぬように並べるのは職人技。美しい……。

難しいのは天然素材や化学繊維といった素材の違いはもちろん、糸に使われる染料や、その日の温度や湿度などによって「糸の動きが変わること。糸って生き物に近いんですよ」と金子さん。きれいに整えるためには静電気や伸縮具合など多くの条件を見極めながら美しく並べる技術が求められる。「ここできちんと糸を整えてくれないとイメージ通りの生地には決してならない。整経は織物の肝ですよ」と須永さんは言います。

理想の色にムラなく染める技術と堅牢度

ジャカード織生地の〝染色〟は主に糸を染める先染めと、織った生地を染める後染めがあり、訪れた星太染工は後者。一つの素材だけならまだしも、Jacquard Worksの製品のように多種類の素材を組み合わせた複合繊維の場合、素材ごとに染料を変え、染める順番を考慮しながら、素材に合わせた染色機を使って求められる色にムラなく染めなければなりません。

圧力をかけながら生地に色を入れていくサーキュラー染色機。小窓から見えた内部の様子。
 求められる色に染めるため幾度となく実験を繰り返す試験室長の浜寄卓哉さん。

染料の分析や染色にまつわるデータ出しを担当するのは、試験室長であり技術者の浜寄卓哉さん。「数種類の染料を組み合わせて理想の色を作ることはもちろんですが、染色は堅牢度も非常に重要。色落ちや色移り、布の強度なども踏まえて生地を染めていきます」。積み重ねてきた知識と長年の経験があってこそできる職人技です。

生地の個性を引き立てる〝整理〟という仕事

また〝整理〟という工程も必須です。「織り上がったままのジャカード織生地はヨレヨレとした状態ですから、熱や圧力をかけるなどして、生地の状態を均一に安定させて綺麗に整えます」とは琴平整理の建部浩幸さん。でも、それだけじゃありません。

 琴平整理には、さまざまな要望に応えられるよう多様な機械が用意されている。
桐生の地で約70年にわたり、整理を行う「琴平整理」二代目の建部浩幸さん。

生地をフラットにしたいのか、それともふっくらとさせたいのか。「生地のもつ個性を最大限引き立ててくれるのが整理屋さんの仕事です」と須永さん。糸の伸び縮みや、生地の状態を把握しつつ、「温度や圧力量を変え、ときに糊や柔軟剤、破水剤を使うなどして、求められる風合いに仕立てます」と建部さん。頼もしい限り。

繊細なカット加工を施したジャカード織生地は立体的な仕上がりに。

ほかにも生地の表情を生み出す工程に〝加工〟や〝仕上げ〟がある。生地に光沢を出したり、立体感をもたせたり。Jacquard Worksが得意とするカットジャカードもその一つ。織り上がったばかりの生地は緯糸がつながった状態ですが、カット加工を施して余計な緯糸をカットすると、まるで刺繍を施したかのように模様を浮き上がらせることができるといいます。

緻密な職人技の先に「Jacquard Works」がある

もちろん、パズルのように工程を一つ一つ組み立てることができるのは、織物の構図や組織データを作成する〝設計〟があってこそ。

設計された組織図によって、経糸と緯糸の動きが決まる。まさにパズルのよう!
SUSAIで長年、設計を担当する小島則孝さん。

作りたい生地のイメージを設計者に伝え、それを組織データ化するのがこの工程であり、「いわば最初のキーマンです」と須永さん。このデータを元にジャカード織機に使用する紋紙がつくられ(デジタル織機の場合はなし)、それをジャカード織機が読み取ることで1枚の生地へと製織される。「とても難しいけれど、面白い仕事です」と設計者の小島則孝さんは言います。


繊細にして複雑な工程を経てようやく1枚のジャカード織生地となり、さらにJacquard Worksの製品へと姿を変えていく。なんて果てしない……。ものづくりの奥深き世界は、職人の知恵と緻密な技術の積み重ねでできている。桐生の空の下、改めてそう実感しました。

 SUSAIの工房の上には青空が広がっていた。

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文:葛山あかね
写真:阿部高之