天理 倉の耕流祭 企画「中川政七商店 倉庫博覧会」開催【イベントレポート】

澄んだ空のもと心地よい秋風が吹く11月。奈良県天理市で初となるオープンドア・イベント「天理 倉の耕流祭」が3日間にわたり開催されました。

工場やものづくりの現場だけでなく、あらゆる場・物・知をひらくことで地域に光を差す試みとなる本イベント。

中川政七商店も、工芸の物流拠点として天理市に設ける自社倉庫「NKG倉庫」をひらき、この機会ならではの企画をご用意して参加しました。その名も「倉庫博覧会」。

倉庫をひらいたイベントは当社としても初のこころみ。来年以降にご参加を検討いただく皆さまに届けばと、この場をお借りして当日の内容をご紹介します。

当日はスタッフたちみんなで倉庫限定Tシャツを着用!

倉庫らしさをダイナミックに表現!トラック演出と、倉庫資材を使った空間づくり

企画の舞台となったのは、2024年6月に稼働をスタートしたNKG(えぬけーじー)倉庫。一風変わった名前は、社名(NAKAGAWA)および、当社のビジョン「(N)日本の(K)工芸を(G)元気にする!」より名付けました。

ここは、中川政七商店のオリジナル商品の物流機能を担うだけでなく、全国各地の作り手の物流まで請け負うハイブリット倉庫。敷地3400坪・延べ床2700坪の3階建てという大規模な空間で、日本の工芸を支えています。

そんな倉庫や物流の妙を体験いただけたらと取り入れたのが「倉庫に関係するものだけを使った空間づくり」です。

例えば入口サインとして飾った巨大のれんは、佐川急便さんに協力いただき、10tトラックに掲示。受付と出口の階段横にはそれぞれ、佐川急便さん、ヤマト運輸さんのトラックを配置し、日々倉庫に行きかうトラックを間近で見ていただける機会を設けました。

会場では空間を3つのゾーンにゆるやかに区切り、展示・ワークショップ・物販のコーナーを展開。それぞれで使用する什器はすべて倉庫にある資材でつくりあげています。

倉庫資材のひとつ、梱包用バンドに天板を重ねた什器
受付やレジ台には段ボールを採用

さらに各コーナーは余り布を用いたのれんで装飾。「ワークショップは紺色ののれんの下で開催します」など、目印の役割もかねてお客さまにご案内していました。

中川政七商店のビジョンや取り組みに出会う「展示スペース」

パレットでつくった階段を上がり、受付で天理 倉の耕流祭のパンフレットを受けとると、まずお客さまをお迎えするのは展示コーナー。

ここでは「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに、工芸をベースにした暮らしの道具を企画し届けている私たちの取り組みと、そこから生まれた数々の品をご挨拶に代えてご紹介しました。

全国約800の作り手とつくる工芸の道具たちのほか、当社のコンサルティング支援を通じて誕生したブランドも。

写真を撮ったりじっくり読み込んだり、思い思いの時間をお過ごしいただいている様子が伺えました。

この後ご紹介する倉庫ツアーも、展示コーナーから出発

応募殺到!即満席となった「倉庫ツアー」

今回、私たちの予想以上に反響をいただいたのが「倉庫ツアー」。イベント発表後は20名×9回の枠が早々に満席となりました。

ツアーでは中川政七商店のビジョンや取り組みについて簡単にご紹介した後、倉庫内でビジョンがどのように意識・体現されているのかをご紹介。1階から3階まで倉庫を巡りながら、各工程の意味や各所での中川政七商店らしい仕掛けをご説明しました。

フォークリフトを使った実演も!

約45分のツアーの最後は、当社のオンラインショップを支える撮影スタジオにも入場いただき、EC課スタッフたちによる撮影を体験。よりよく商品を紹介するための撮影のコツなどをご案内し、参加者の皆さまにお楽しみいただきました。

お子さんも大はしゃぎ。大人も子どもも楽しめる「ワークショップ」

続いてはワークショップへ。今回は中川政七商店によるワークショップを2種類、外部の企業さまによるワークショップを2種類の、計4種類をご用意しました。

中川政七商店のワークショップは楽しんでいただきながら日頃の倉庫業務についてご紹介したいと、代表商品である「ふきん」を用いたものに。ふきんを包みあげる工程を習い、タイムアタックで競い合うものや、倉庫オリジナルスタンプを使いながら自分だけのふきんを仕上げるもの。

どちらも毎回満席となり、大盛り上がりでした!

また当社の段ボールをお作りいただいている高木包装さんによるワークショップは、段ボールを作る工場や、奈良県内のものづくり工場から出る端材を使って、子どもたちが自由に工作。

さらに奈良県内でアートスクールを営むアトリエe.f.t.さんにご用意いただいたのは、工芸を運ぶときに使う箱や紙などの端材を用いたワークショップです。子どもたちが一面にひかれた町フィールドに立体作品を作り、世界でひとつの“ぼくらの天理おもろシティ”を築きあげるワークショップを実施くださいました。

その他にもお子さんが遊べるキッズエリアが登場。奈良県の作り手・A4さんが手がける木製ブロック「tumi-isi(ツミイシ)」を、大きく・やわらかくした「BIG tumi-isi」で遊べるコーナーが誕生しました。

お子さんの弾んだ声がたくさん聞こえてきて、倉庫全体も和やかな空気に

普段は出会えない商品もお目見えの「お買い物コーナー」

中川政七商店といえば、工芸をベースにした生活道具の販売。ということで、今回は“NKG倉庫店”が特別に開店!通常の店舗で扱っている定番品はもちろん、この機会ならではの商品も登場しました。

発売前から期待の声を多数頂いた中川政七商店オリジナルデザインの倉庫アイテムは、当社の倉庫スタッフが普段より使用するもの。いつものお店では出会えない、まさに倉庫イベントを体現する商品です。

また倉庫に眠っていた道具や服を、お得な価格でご提供するアウトレットコーナーも展開。今はもう出会えない、懐かしいアイテムに目を細めるお客さまもいらっしゃいました。

さらには倉庫ではたらく鹿の刺繍を本企画限定でご用意。当社オリジナルのハンカチや靴下に刺繍した品は、ご用意したそばから次々に手にとっていただく人気アイテムの一つとなりました。

加えて、同じく特別企画として開催した「NKGマルシェ」は、奈良県内の作り手と一挙に出会える機会に。作り手さんからお話をじっくりと聞いた皆さまが、真剣なまなざしでものを選び、嬉しそうに迎えている様子が印象的でした。

会場全体での3000円以上のお買い上げにて1回チャレンジできる「政七福引」も開催

ランチやお茶の時間に。奈良県内の飲食店による充実した「フードエリア」

こんな風に、盛りだくさんのコンテンツでお届けしていた倉庫博覧会。少し疲れた際にはゆっくり休憩いただけたらと、奈良の飲食店さんのご協力のもと、トラックバースにはさまざまな種類のフードが楽しめるコーナーも登場しました。

お昼ごはんになる食事系から、

ホッと一息のおやつまで。

軒下に用意した巨大テーブルでは、ご友人やご家族でワイワイと、またお一人でのんびりと。それぞれの時間を過ごされている方が多数いらっしゃいました。

3日間にわたる開催で、のべ2500人以上のお客さまにご来場いただいた本企画。

初めての開催で至らない点も多数あったかと思いますが、ご参加いただいた皆さまからあたたかいお言葉を頂き、晴れやかな閉幕となりました。

天理市をはじめ、天理市内の事業者の協力のもとひらかれる「天理 倉の耕流祭」は、来年も実施予定とのこと。中川政七商店の企画もさらにお楽しみいただけるよう磨きをかけて、実施できればと思います。

各事業者の「倉」がさまざまにひらかれるこの機会。ぜひ来年のお越しも、心よりお待ちしております。

文:谷尻純子

新年に欠かせないお正月飾り。その由来や飾り方を聞きました

日本では古来より、季節やハレの日に合わせて様々な行事がおこなわれてきました。

願いや祈りの込められたしつらいを飾り、昔ながらの風習を取り入れて 過ごし、それが家族の思い出として残っていく。忙しい現代人にとっては、立ち止まって色々なことに考えを巡らせたり、一呼吸を置くきっかけになったりもします。

その中でも、もうすぐやってくる「お正月」は、新しい年を迎える節目の行事として特に印象的でなじみ深いもの。

慌ただしい日々を過ごす中で、お正月になればゆっくりと、家族との時間や自分のための時間を過ごそう、という風に考えている方も多いのではないでしょうか。

そんなお正月に欠かせないのが「年神(としがみ)さま」をお迎えし、幸多き年にするためのお正月飾り。 「注連縄飾り」「鏡餅飾り」「干支飾り」「熊手飾り」など、色々な飾り物がありますが、何をどんな風に、どんなタイミングで飾れば良いのか、少し混乱してしまうこともあるかもしれません。

今日は、そういったお正月の「飾り物」の由来や飾り方について、和文化研究家の三浦康子さんにお話を伺いました。

お正月には「年神様」をお迎えする

もともとは飛鳥時代に中国から暦や儀式が伝わったことがきっかけで、はじめは宮廷における新年の儀式として、後に庶民にもなじみのある行事として広まっていった正月文化。

三浦さん曰く、日本 の正月文化の背景にあるのは「年神信仰」と「稲作文化」だと言います。

「五穀豊穣の神様であり、ご先祖様でもある年神様を元日にお迎えし、家内安全などの幸せや、その年の魂(生きる力)である年魂(年玉)を授けてもらう、というのが『年神信仰』におけるお正月 の考え方です。

また、農耕社会における『稲作文化』では『米には霊力が宿る』と考えられていて、お米から作られるお餅はハレの日、特にお正月には欠かせない食べ物でした」(三浦さん)

「新年をつかさどる年神様をお迎えし、一年の力や幸せを授けてもらう」というのがお正月の目的で、そのために、年神様と縁の深いお餅や稲がしつらい、行事食などで大切にされているのだそうです。

「鏡餅飾り」は年神様の宿る場所

まさに、その「お餅」が主役となっているお飾りが「鏡餅飾り」。本物 のお餅を飾ることはもちろん、最近では木製やガラス製など別素材で作られたものも登場しています。

家にお迎えした年神様が宿る場所として、「宿でいうと、布団や座布団 のような存在。鏡餅がないと年神様は家に来ても居るところがありません」とのこと。

手軽に飾れる木製の鏡餅飾り(中川政七商店「鏡餅飾り 中」)

鏡餅飾りは前提として家に何個飾ってもよく、メインのものは神棚か床の間のどちらかが望ましいんだそう。もしくはリビングの中で、年神様が滞在しても落ち着いていられる場所を選んで飾ります。飾る方角は特に気にしなくても大丈夫ですが、玄関に置くのは失礼に当たるので控えるべきなのだとか。

「供えた鏡餅をおろして食べることで力を頂く」ので、本物のお餅の鏡餅を飾った場合は、鏡開きをして食べるのが習わしです。

大小二段になっているのは陰と陽を表す。「橙」(だいだい:代々家が続きますように)や「ゆずり葉」(子孫繁栄)、「裏白」(潔白な心や夫婦円満、長寿)などを添え、三方などにのせて供える。(中川政七商店「漆の鏡餅飾り」)

大掃除をしてから12月28日までに飾っておく、もしくは12月30日に飾り、鏡開きをする1月11日 にしまってください。

結界の役目を果たす「注連飾り」と、目印となる「門松飾り」

注連縄に縁起のいいお飾りをつけた「注連飾り」は、「ここから先は神の領域である」と示すもの。「大掃除を終えて年神様を迎えるのにふさわしい清浄な 場になったこと、ここから先は悪いものが入ってこないことを神様に示す」ために、一般的には玄関先に飾ります。

(中川政七商店「輪飾り」)

「門松飾り」は、「年神様を家にお迎えする目印」で、飾る場所は「最初に年神様の目に入る場所に置くのが基本」とのこと。門がある場合はその外側に、マンション住まいであれば自宅の扉前に、もし外側が無理なら 玄関の内側に置いてもよいそうです。

「外に置くのが基本ですが、神様はお見通しなので、内側でも問題なく気づいていただけますよ 」

いずれのお飾りも、大掃除をしてから28日までの間に、もしくは30日に飾って、松の内が終わる時に外します。

一年中飾っておける「干支飾り」と「熊手飾り」

自分の生まれ年と紐づいていることもあって、私たちにとってなじみが深い存在である「干支」。

「本来、干支は十干と十二支を組み合わせたもので60通りありますが、一般的には十二支のほうで言います。たとえば、2026年の干支は丙午(ひのえうま)ですが、一般的には午年と言っています。」

十二支は、年月日を数えたり、時刻や方角などを表したりするために誕生したといいます。

「字が読めない庶民にも分かりやすいようにと、十二支に動物があてがわれました。やがて、目に見えない気持ちや願いをモノやコトに表す日本人の精神性と結びつき、干支の置きものが『その年の福を呼び込む存在』として飾られるようになりました 」

(中川政七商店「張子飾り 首ふり午」)
(中川政七商店「うれしたのし杉干支飾り 午」)

そんな「干支飾り」は、”不浄”の場所とされるお手洗いを除けば好きな場所に飾ってよく、年末や年明けに出してきて一年間飾っておいて問題ないとのこと。飾った後にしまっておいて、12年後に改めて使用しても大丈夫です。

「縁起熊手(熊手飾り)」は、そもそもは11月の酉の日に、神社でおこなわれる酉の市で入手するもの。農具である熊手に縁起物をたくさん付け、「様々な福をかき集める」と見立てて、商売繁盛や招福の飾りとされました。

「福をかき集めることから、玄関や、縁起のよい方角である東や南に向けて飾ります。また、できるだけ高い場所に飾るとよいとされています」とのこと。

干支飾り同様に一年間飾っておいても問題ありません。

酉の市で授与される熊手飾り。こちらは毎年買い替えるのがよい とされる

歴史や背景を知り、「現代の暮らしにおいてどう考えるか」を判断する

様々なお正月飾りに関する、背景や意味、飾り方などをお聞きしてきました。お正月文化が成立した時代と比べると、私たちの暮らし方は大きく変わっていますし、正月飾りの素材やデザインも移り変わっています。

その中で、「『現代の暮らしにおいてどう考えるか』を自分が判断していくことが大切」だと三浦さんは話します。

正月飾りは年神様をお迎えするための神聖なものなので、毎年、新調するのが本来の考え方です。ただし、最近ではインテリア性の高いお飾りが増え、素材も変わり、一度迎えたお飾りを、再利用したい人も増えています。

「ものを大切にして長く使う」というのも日本的な美徳なので、その気持ちを大事にして再び使う。伝統を重んじて、新しい年を清らかに整えて迎えたい方は新調する。どちらも間違いではないので、 由来や本来の意味を知ったうえで、ご自身の価値観に照らし合わせて、ご判断いただければと思います。

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<監修>

三浦康子/和文化研究家、ライフコーディネーター

古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などでレクチャーしており、行事を子育てに活かす「行事育」提唱者としても注目されている。
All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭をとるなど活動は多岐にわたる。
著書:『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)、『かしこい子に育つ季節の遊び 楽しい体験が心を豊かにする12か月の行事育』(青春出版社)
監修書:『きせつのしつらいえほん』(中川政七商店)、『おせち』(福音館書店)、『季節を愉しむ366日』(朝日新聞出版)ほか多数。

「驚きと喜びのある物づくり」で、人の手のぬくもりと文化を未来へつなぐ。COCHAEと作るお正月飾り

新年を祝い、しつらいを楽しみ、よい一年になることを願うお正月飾り。

今年のお正月は、昔から続くお飾りを、今の暮らしに寄り添うようアップデート。「驚きと喜びのある物づくり」をモットーとするCOCHAEさんとともに、運を開くきっかけとなるようなお正月飾りを作りました。

岡山を拠点に活動するデザイン・ユニット「COCHAE(コチャエ)」さんの事務所を訪ね、デザインへの思いやものづくりの背景を伺いました。

伝統の息を今に映す、COCHAEの“あそびのデザイン”

郷土玩具の魅力に惹かれ、「忘れられかけた伝統や地域に根ざした文化を発掘し、継承していきたい」との思いから“あそびのデザイン”をテーマに活動するCOCHAE。その仕事場には、壁一面の本棚にどこか懐かしくかわいらしい人形やパッケージが並び、紙や木などで作られた生き物たちが顔をのぞかせます。

「パッケージのお仕事も多いんですが、専門というわけではないんですよ」と笑う、軸原ヨウスケさん。

COCAEの軸原ヨウスケさん

東京でCOCHAEを結成した後、2011年の震災を機に生まれ故郷の岡山へ拠点を移し、紙のプロダクトや新しい視点を持った玩具・雑貨の開発、商品企画、展示など、幅広い活動を行っています。岡山を訪れたことのある人なら、お土産売り場で軸原さんがデザインした愛らしいパッケージを目にしているかもしれません。

現在はメンバー3人で活動中。今年新たに加わった長友真昭さんは、長年廃絶していた久
米土人形を軸原さんとともに復刻するなど、立体造形の分野でも活躍しています。

COCAEの長友真昭さん

「古い玩具の中にあるモダンで新しいエッセンスを見いだしたくて。逆に、モダンに見えるけど土着的な要素や手仕事を感じるものにも惹かれます。その両方向から近づけるプロダクトづくりやデザインがしたいですね」と軸原さん。

軸原さんのコレクション。「“新しいけど惹かれるような玩具的魅力がある”ものづくりがしたい」と軸原さん

COCHAEが目指すデザインは、手に取った人が幸せな気持ちになり、運を開くきっかけとなるようなもの。その想いに中川政七商店が強く共感したことから、今回の企画はスタート。COCHAEの“楽しいデザイン”に奈良県香芝市の福祉施設Good Job!センター香芝の個性豊かな手仕事が加わり、より楽しくおめでたい、お正月に限らず長く飾っていただける縁起物が生まれました。

中川政七商店ともCOCHAEとも、それぞれ交流があった、奈良の「Good Job!センター香芝」。

「Good Job!センター香芝さんの施設で初めてものづくりを見た時、ものすごく感銘を受けたんです。福祉の現場で地元の素材を活かして、しかもきちんと量産する仕組みが本当に素晴らしくて。あの場に“ネオ郷土玩具” のような空気を感じました」と軸原さんは振り返ります。

郷土玩具の魅力に、自然に惹かれていったという長友さん。今回の企画に関しては、「玩具の実践の場になると思って、挑戦しない手はない」と感じたのだとか

ご神域の杉から生まれた、午の干支飾り

干支飾りは、2026年の干支・午(うま)をモチーフにした木製の置物です。世界遺産・春日大社(奈良市)の境内の杉を使用しています。
(※春日大社の杉の木については、こちらの読みものをご覧ください)

COCHAEさんとGood Job!センター香芝さんは以前にも春日大社境内の杉を用いて「コッパン人形」という人形を制作しており、その技法を、今回の干支飾りにも応用しました。

「コッパン人形」。大正時代中期に生まれた木端(こっぱ)人形を模して作られている

「コッパン人形を作る時も顔はスタンプで描きました。今回、Good Job!センターさんのスタンプ使いがさらに進化していて素晴らしいなと思いましたね」(軸原さん)

干支飾りの模様は、オリジナルのスタンプで表現

「デザインとしては、杉の模様が最初にできました。他にも杉の模様で何かできないかと検討しましたが、もう少しリアルな杉になるとスタンプでの表現が難しくて。杉の木を三角形で抽象化して、そこから模様を展開していきました。色も、微妙なトーンを含めて最後の最後まで意見を出し合い、検討を重ねて決めています」(長友さん)

頭や足の部分の塗分けにはマスキングテープを活用
「頭に塗っている三角形が立体感を生み出すポイントなので、マスキングテープで綺麗に塗ってもらえるのはありがたかった」と長友さん

スタンプの押し方や力加減によって、同じ形でも一つひとつ表情が変わります。また、制作で意識したのは「工程を減らす」こと。色数や手順を整理し、福祉の現場で無理なく“同じに量産できる工夫”を検討しました。

「手仕事のプロダクトとして、きちんとしたもの作る。今回それが実現できたと思います」(軸原さん)

量産の中にも人のぬくもりを感じられる、優しく力強い作品に仕上がりました。

「程よい複製感」を楽しむ、紙と印刷の力

熊手飾りは「福をかき集める」などの意味を持つ縁起物。お正月だけでなく日常にも飾れるよう、普段の暮らしの中でも願いたいモチーフを考えてお飾りを選定しています。

ふっくらとした笑顔で幸福を呼ぶと言われている「お福」を中心に、「鯛」「鶴」などを配置。上部のスペースには、「天神」「富士山」など、自身や家族に合った願いのモチーフを選んで、オリジナルの熊手飾りを作ることができます。縁起物としての本質を大切にしながら、家庭でも飾りやすい形を探りました。 

COCHAEでデザインした、熊手を彩る縁起物たち

「飾りを熊手にただ挿せばいいと思ったら大間違い。(笑)

重なりやバランスを考えてうまく配置しないと、取り付けにくくなるし落ちてしまうんです。モチーフの提案やサイズ感など難産でしたが、最後は中川政七商店さんの方でサイズ調整をしていただいて、うまく収まったのでよかったです」(長友さん)

どんな素材でどのような表現、作り方で仕上げるのかが悩ましく、何度も試作を重ねて構造やサイズを微調整しました。「お福」以外のモチーフは紙製で、ここにもCOCHAEさんの技とアイデアが光ります。

「懇意にしている岡山の印刷会社の凸版印刷機を使うと、面白いものができるはずという直感があって。味気ないものにはしたくなかったので、紙の質感から、インクの色、エンボス(型で押して凹凸をつける立体加工)や箔押し(熱と圧で箔を転写し輝きを加える印刷加工)などを提案して、質感も色も印刷加工も、それぞれ違うものにしています。

子どもの頃に衝撃を受けたビックリマンチョコのおまけのキャラクターシールのワクワク感のように、印刷の面白さが出せたらと思いました」(軸原さん)

古い凸版印刷機の可能性に着目し、印刷会社と共同で紙と印刷、雑貨と喫茶が楽しめる「備前凸版工作所」も運営中

「紙も、つるつるのものやざらざらのもの、金ぴかのものなどがあって。それぞれの紙で使う色の数を決めて、その中にモチーフをはめ込んで印刷をしてもらいました。紙が変わると発色も変わるので、同じ赤でも鯛のツヤが違って見える。そんな見え方なども一つひとつ調整しています」(長友さん)

細部にわたりこだわりをちりばめたモチーフ。昔ながらの凸版印刷を使うことでかすれやにじみ、平面と立体のメリハリがある豊かな表情が生まれました。

かすれやにじみなどの風合いも魅力的な凸版の印刷物

「凸版は手仕事みたいに一枚一枚ガチャンガチャンと印刷しているので、 “程よい複製感”があるんですよね。まるで版画作品みたいな。古い技法ですが、通常の印刷とは違う個性や新しさが出せるところが興味深いです」

そう軸原さんが語る「程よい複製感」が、完全な均一ではなく少しずつ異なる表情の“ゆらぎ”を生み、手仕事と機械の間にある美しさと魅力を与えています。

伝統の先にひらく未来

日本の文化の中で育まれてきた、工芸や郷土玩具。時代が移り変わる中で、残念ながら失われてしまったものも多くあります。

「全国の玩具を見ると、廃絶したものが本当に多くて。それらを復元・再生していく夢もありますし、アーカイブとして残していきたい。まずは紙作家の大先輩の写真集と展示を企画しています。紙なのに彫刻のようで、本当に格好いいんですよ」(軸原さん)

軸原さんが魅力を感じるという、台湾の出版社「漢聲(ハンシェン)」の書籍。「ここに載っている技法を見れば人形や手芸も再現できそうだし、まるで映画を見ているような本なんです」と、大いに参考にしている

既に実行していること、今後やってみたいことが盛りだくさんなCOCHAEのお二人。過去の文化をそのまま懐古するのではなく、現代の感性で新しい命を吹き込んでいく。紙や印刷、木、土といった素材を通じて、地域の職人や福祉施設とともに新しい価値を生み出していく。それは人の手のぬくもりと文化を未来へつなぐ試みです。

COCHAEさんが生み出す作品は、懐かしさと新しさが交差する、日本の今のものづくりを静かに映し出しているのかもしれません。

そんなCOCHAEさんと一緒に作ったものをはじめとして、今年もたくさんのお正月飾りをご用意しました。「今までお正月飾りを飾ったことがない」という方にもぜひ手に取っていただいて、晴れやかで幸せな気持ちが一人でも多くの方のもとへ運ばれることを願っています。

<取材協力>
「デザイン・ユニット COCHAE」

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文:安倍真弓
写真:黒田タカシ

手作業とオリジナルの道具から生まれた、個性と温もりが宿るお正月飾り

新年を祝い、しつらいを楽しみ、よい一年になることを願うお正月飾り。

今年のお正月は、熊手と干支飾り、昔から続くお飾りを、今の暮らしに寄り添うようアップデート。晴れやかな毎日を願った、縁起物を作りました。

この製作現場が奈良県香芝市にあるということで、早速訪ねてみました。

あらゆる人が集い、能力が広がる、開かれた空間

お伺いしたのは、「Good Job!センター香芝」さん。障がいのある方たちとともにアート・デザイン・ビジネスの分野を超え、社会参加と新しい仕事づくりを行う拠点として、2016年にオープンしました。木造の建物は温かみのある外観で、中に入ると大きな窓から光が差し込み、カフェやショップ、工房、事務所がゆるやかにつながる見通しの良いワンフロアが広がっています。

外観からも視界の開けた気持ちよさが伝わる、Good Job!センター香芝さん

「福祉施設は社会資源として、公民館のようなコモンスペースの役割も果たせるはずです。仕事を生み出すためにはさまざまな人と関わることが大切。あらゆる人たちが集い、買い物もできる“開かれた場”にしようと、多様性のある面白い空間にしました」と話すのは、同センターで企画製造ディレクターをつとめる藤井克英さん。

別棟には広々とした制作スペースやアトリエも備わり、全国約140の福祉施設や企業とのコラボによる多彩な商品、そしてGood Job!センター香芝オリジナルプロダクトも含めた約2,000種類を扱う流通拠点としての機能も担っています。

Good Job! センター香芝 企画製造ディレクターの藤井克英さん
ものづくりの拠点と地域に開かれたカフェがゆるやかにつながり、さまざまな楽しみ方ができる

ここには10代から70代まで、さまざまな特性を持つメンバー(利用者)が通っています。

「メンバーと施設が、“利用する人”と“支援する人”という2点だけでなく、もう1つの点、“一緒に誰かへ届ける”という共通の目的を持つ。そのことで、関係は線から面へと広がり、対等で協働的なつながりが生まれると思っています」と藤井さん。

そのために力を入れているのがものづくり。環境が整えば、『色を塗る』『テープを剥がす』などそれぞれの能力を発揮して様々なものづくりに貢献できます。

「だからこそボランティアやスタッフも含め、“できるときに、できることを、できるだけ”してもらっています」

現在約45名の利用者が登録し、分業して手仕事をおこなっている

「『障がい』と聞くと、“できないこと”を思い浮かべがちですが、私たちは“できる可能性”に目を向けてきました。『自立』には、できないことをできるようにするだけではなく、“できないことを誰かに託す”という形もある。互いに補い合うことで“できる環境”が生まれ、その選択肢の多さこそが自立の豊かさにつながるように思います」

“できること”を通じて人と社会がしなやかにつながる。その思いが息づく制作の現場は、実際どのように動いているのでしょうか。

作業しやすい仕組みも道具も、オリジナルで作る

現場では、ちょうど午(うま)の干支飾りが制作されていました。マスキングテープで塗り分けを工夫しながら一つひとつ丁寧に色を塗り、終わるとテープを剥がす。作業はできる人が、できることを分担して進められます。

「デジタル工作機なども揃っているので、機械で加工してスタンプを作りました。従来なら筆で職人さんが感覚的に描いていた部分をマスキングをして塗り分けたり、スタンプを使ったりして表現しています。こうした道具があることで、どの部分に何を施すのかが視覚的に分かり、作業しやすくなる。量産のためにも、こういった道具づくりから工夫しています」

本格的なデジタル工作機器を備え、デジタル技術と手仕事を活かした商品を開発している

これまでに培った経験を応用し、デザイナーと相談しながらスポンジ素材を用いて版画のような風合いを生み出しました。完成までには多くの試作を重ねたといいます。

胴体部分は模様のスタンプ、目の部分は雫型のスタンプ、黒目は綿棒を使うなど、パーツによって道具を使い分ける

「工房にはレーザーカッターもあるので、まずはテストピースを使ってスタンプの再現性を確認しました。そこから微調整を繰り返して、ようやく完成形にたどり着いたんです」

サンプルも自作し、まずはこちらで練習をおこなった
張り子で作られる人気の郷土玩具「鹿コロコロ」制作の様子

工房には多くのオリジナル道具や商品パーツが並び、「商品の数と同じくらい道具がありますよ」とのこと。

「塗装したものを乾かすためにホルダーを作って吊るしたり、リンゴ飴のように突き刺してみたり。ちょっとした“遊び心”を加えて、作る工程そのものも楽しめるよう工夫しています」

使用したあとの端材も、他の作品に活用できる
「鹿コロコロ」を乾かしているところ。開きやすい足を固定するジョイントパーツやホルダーも自作。ずらりと並ぶ姿もキュート

作り手に寄り添う工夫と楽しむ気持ち。その想いが商品の温かみにもつながっているのかもしれません。

丁寧な手作業に個性と温もりが宿る

工房の奥では、熊手の主役「お福」の絵付けが行われていました。立体的な形に合わせて作ったオリジナルのガイドで下書きをし、ほっぺや唇は木の棒で作ったスタンプを使って均一に仕上げます。目や髪の毛など細かな部分は、メンバーが一筆ずつ丁寧に描いていました。

自作の透明な立体ガイドで、各パーツの位置が分かりやすい

「今回は顔の表情がとても大事なので、手描きがふさわしい。描き手の技術が要になりますから、目の太さやカーブ、髪の毛の繊細なラインが描けるメンバーにお願いしています」。

集中力が求められる繊細な作業です。

お福の表情を描く西村さん。自身でも絵を描き、オリジナルキャラクターやぬいぐるみなどを制作するなど、創作の幅を広げているそう

西村さんは伝統工芸やこけしに関するレクチャーを受けるなど経験を重ね、今では均一で美しい仕上がりを実現できるまでになりました。センターでは張り子人形の依頼も増え、国内外から注目されています。

春日大社の神域で育った杉の木を使って

午の干支飾りの素材は杉の木ですが、実はちょっと特別な木が使われています。

「世界文化遺産・春日大社(奈良市)の境内で育った杉なんですよ」と藤井さん。

Good Job!センター香芝の運営母体が所属している別団体「あたしい・はたらくを・つくる福祉型事業協同組合(通称:あたつく組合)」に、春日大社が「障害のある人の仕事づくりに役立ててもらいたい」との思いから譲った木だといいます。

2016年、春日大社の神苑「万葉植物園」で、台風などの被害により倒木や枯損木(こそんぼく)となった杉の間伐が行われました。それまでは園内で循環利用されていて、外に出ることはありませんでしたが、活用方法を模索する中で「あたつく組合」に声がかかったそうです。譲り受けたのは樹齢30〜100年ほどの杉、約30本。

春日大社

世界文化遺産のご神域から木を運び出すには、さまざまな許諾を受ける必要がありました。運搬や製材にも多くの費用がかかるため、クラウドファンディングを立ち上げ、「春日大社境内の杉プロジェクト」として活動を開始。

木の管理や活用を検討し、返礼品の制作まで実施。原木はまず2〜3年かけて自然乾燥させ、その後製材・加工を経てさまざまなアイテムに生まれ変わりました。

返礼品となった、枡や名刺ケース、表札

中川政七商店でもこの取り組みを知り、新年を祝う干支飾りにふさわしい素材だと考え、使用させていただくことになりました。一般に出回る植林材と異なり、春日大社の杉は自然のままの木。節や虫食い、色むらもありますが、それこそが唯一無二の個性です。「木目や風合いの違いも楽しんでもらえると嬉しいです」と藤井さんは話します。

自然に育った個性と力強さを宿す、春日大社境内の杉

このプロジェクトを通じて、春日大社をはじめ多くの企業や団体とのつながりが生まれ、思わぬ仕事にも発展しているそうです。

「規格が揃っていない木は敬遠されがちですが、私たちはそこにこそ価値を感じています。端材も含めてすべて無駄にせず活用する予定です。営利目的ではなく、神社の思いを受け継いで取り組めるのは、福祉だからこそかもしれません」

晴れやかな毎日を願った、賑やかで楽しいお正月飾りたち。Good Job! センター香芝の手仕事によるあたたかい作品で、新しい年を迎えてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>
「Good Job!センター香芝」
奈良県香芝市下田西2-8-1

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文:安倍真弓
写真:黒田タカシ

【旬のひと皿】里芋の共和え

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



顔を近づけ、里芋の面取りをしているとハッとした。
自分の爪が父にそっくりのかたちで、そこに父がいるような感覚になったのです。

爪や手が似ていると思ったのは、父が亡くなってから昔の写真を見返したとき。姿は見えずとも、自分のかたちに父が残っていることに喜びを感じました。

毎年この時期になると干し柿を一緒に作るのが恒例で、柿の皮を剥いている写真を記録していました。その手元を、知らずと覚えていたのですね。

今も生きていれば聞きたいことがたくさんあったなとも思うのですが、自分の記憶と、そして身体にまだ生きているのは心強く、温かい気持ちになったのです。

先日、いろんな方からずっとおすすめしてもらっていた、日本料理のお店へお伺いしてきました。

お父様と娘さんがお二人で切り盛りされるそのお店。外にはきれいな暖簾がかけてあり、一歩入ると店内は隅々まで清潔に磨き上げられている。カウンターはカーブ状にしつらえてあり、棚には漆のお椀やお膳がすっきりとならんでいます。35年続けてこられた時間の織り成す美しさを感じました。

大将は「僕はどこでも修行していません。本を参考にしながら、自分で毎日、一つでもどこかを向上させようと思って仕事に向かっています」とお話してくださいました。

一週間かけて蜜煮にされた花豆や、炭火焼の舞茸が入った澄んだ味のお汁には、ピカピカの銅鍋で丁寧に作られた蕎麦がきが浮かびます。数日たっても忘れられない、どれもシンプルで透き通った味をしたお料理でした。

「僕の料理はおばあちゃんの料理」とおっしゃっていた大将。

家族のために、手間暇かけて料理をしていた少し前の時代。それは不便もあったけれど、身体にも心にも豊かな時間だったのかもしれません。代々続く伝承料理にも本当に感動しました。

帰り際にお見送りしてくださった大将がこうおっしゃいました。「お客さんの喜んでいる顔を見るのが僕、だーいすき!」と。

おばあちゃんも、料理人も、みんな気持ちを込めて料理をしている。その食事が、食べる人のパワーにもなって、また頑張れる。大将に父の姿も重なって、もう一度、父のやさしさに触れられたような気持ちになりました。

仕込みのときの父の姿。大将がくれたあたたかい言葉。料理を食べるのは、一日のなかで長い時間ではありません。けれどその記憶は、永く自分に残っていく。そんな、大切なことに気づかされた日になりました。

<里芋の共和え>

材料(2人分)

・里芋…6~8個
・春菊…1束
・かつお節…2掴み
・白炒りごま…少々
・砂糖…小さじ1
・みりん…小さじ1
・醤油(お好みで)…小さじ1/2
・出汁…適量

今回ご提案するのは、里芋を里芋で和える「共焼き」。むいた皮は捨てずにサクサクのガレットとして食べられるよう、おまけのレシピも用意しました。

作りかた

鍋に湯を沸かして塩(分量外)を入れ、春菊をサッとゆでる。茹でた春菊は冷水にとり、水気を絞っておく。

里芋の皮をむいて半分に切る。鍋にたっぷりの水とともに入れ、水から下茹でする。3割程度まで火が入ればOK。米のとぎ汁があるときは一緒に入れると、ぬめりやアクが取れやすくなるのでおすすめ。

里芋を煮ている間に春菊を食べやすい大きさに切っておく。茹であがった里芋をザルにあげる。

鍋に里芋を入れ、出汁を里芋の半量程度のかさまで注ぐ。砂糖、みりんを入れたら落し蓋をし、少し煮て味をなじませる。

煮ながら味をみて、お好みで醤油を足しさらに煮詰める。味がぼんやりするなと感じた場合は味噌を少し足すと、味が引き締まるのでおすすめ。煮汁が少なくなったら、里芋の半量を軽くつぶす。

火を止めて鍋に春菊を入れ、軽く和える。うつわに里芋と春菊をバランスよく盛り付け、かつお節とごまをかけて完成!

おまけのレシピ「里芋の皮のガレット」

里芋の皮をよく洗って水けをふき、千切りする。片栗粉・米粉 各小さじ2、水小さじ1と一緒に入れてさっくりと絡める。

フライパンを熱しやや多めの油をひいたら、先ほどのタネを丸く入れて揚げ焼きにする。

片面がカリッと焼けたら裏も同様に焼く。焼き上がった生地はピザ切りで6等分し、小ねぎを入れたぽん酢につけていただく。

うつわ紹介

里芋の共和え

【WEB限定】明山窯 HIJICA シリアルボウル14cm ダークグレー

里芋の皮のガレット

信楽焼の平皿 並白

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【四季折々の麻】11月:あたたかいのに軽く、やわらかな生地感「麻とウールツイード」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

※この記事は2024年11月1日公開の記事を再編集して掲載しました。

あたたかいのに軽く、やわらかな生地感「麻とウールツイード」

11月は「立冬」。寒さがいよいよ本格的になり、冬支度をはじめる月。色づく木の葉を見上げながらお出かけすると、頬にひんやりと次の季節の気配を感じます。

そんな時期に着ていただける服を、麻とウールの糸を合わせて織り上げたツイード生地で仕立てました。両者ともに天然素材で相性も良く、ウールの保温性に麻の吸湿発散性が加わることで、あたたかなのに蒸れにくく、心地好く着られます。重い衣類が多い時期に、ふんわりと軽やかな着心地もおすすめしたいポイントです。

ラインアップは4種類。気温の差が激しい時期に心強い「かぶりベスト」や、ラクに履けつつ形のきれいな「テーパードパンツ」と「ワイドパンツ」、また冬の着こなしで活躍する「ワンピース」を揃えました。

【11月】麻とウールツイードシリーズ:

麻とウールツイード かぶりベスト
麻とウールツイード ワンピース
麻とウールツイード テーパードパンツ
麻とウールツイード ワイドパンツ

今月の「麻」生地

素材に使った麻は、衣類によく採用されるリネン。やわらかな風合いのシェットランドウールとリネンを合わせた混紡糸を用いて、密度を詰めすぎないよう、甘くやわらかに織り上げました。シワにもなりにくく、寒い冬も気持ちよく着られる生地となっています。

シェットランドウールはスコットランドの北にある、寒さや湿度が厳しいシェットランド諸島に生息する羊の毛を用いた糸。海草などを食べて育つため、やわらかい毛質が特徴です。

嵩の高いシェットランドウールから作られるふんわりした糸は、生地を織り上げる際に空気を含み、軽くあたたかな素材感に仕上がります。そこにリネンを混ぜることで、ウールだけで織り上げるよりも耐久性を増して、生地にしなやかさを加えました。

またウールの保温性にリネンの吸湿発散性が加わることで、あたたかなのに蒸れにくい生地となるのも特徴の一つ。屋外ではあたたかく身体を包み、暖房で汗をかいても湿気を逃がしてくれる、この時期に心強い組み合わせの素材です。

素材製造や生地加工は、一つひとつの工程を日本各地の得意な作り手に依頼しました。糸づくりは広島、糸の糊付けは和歌山、織りは岐阜、加工は愛知と、プロの集大成のような生地です。

お手入れのポイント

ウールを多く含むのでドライクリーニングがおすすめ。シワはつきにくいものの、たたみジワなどが気になりアイロンをかける際は、必ずあて布をしてください。

また毎日着たくなる軽やかさではありますが、長く着ていただくために毎日連続しての着用はお避けください。

ざっくりと織られたツイードは糸と糸の隙間にホコリが入り込みやすいため、着用した日は軽くブラッシングをしておき、シーズン終わりにはドライクリーニングに出して保管すると、長くきれいに着ていただけます。

気負わず上品に着られる4アイテム

カジュアルにもきれいにも着られる、冬のお出かけに使いやすい4つのアイテムを揃えました。色展開は生成、グレー、チャコールのナチュラルな3色。ウールの素材感を活かした、自然で上質な印象の色合いに仕上げています。

「かぶりベスト」はその名のとおり、かぶって着られるベスト。後ろの襟元にボタンを一つつけてかぶりやすいよう調整し、パンツにもスカートにも合わせやすい絶妙な丈感に仕上げました。

軽やかな着心地ではありますが、布帛(ふはく:織物のこと)のためニットベストよりもきちんと感を出せるのも嬉しい点。カットソーやタートルネックのセーターなどと合わせて、秋から冬まで長く着ていただけると嬉しいです。

パンツは、足さばきのよい「テーパードパンツ」と、ロングスカートのようにも見える「ワイドパンツ」の2種類。

どちらもウエストはゆったり履けるゴム仕様ですが、麻とウールの上質さがあるため、上品に着られると思います。先にご説明したベストとセットアップで着こなしていただくのもおすすめです。

「ワンピース」は袖なしのゆるやかなAライン。身幅をゆったりととっていますが、広がり過ぎず、かわいらしさはやや抑えた形に仕上げています。こちらもカットソーやタートルネックに合わせて、冬の装いを楽しんでいただければと思います。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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