【季節の手ざわり】進化する素材、麻を纏う

こんにちは。中川政七商店ラヂオの時間です。

中川政七商店ラヂオ「季節の手ざわり」は、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
季節の移ろいを感じ暮らしを整える、そんなひと時をご一緒しませんか。

4月、「卯月」。
新年度には、職場や学校で新しいスタートを切る方もいらっしゃるかもしれません。
この時期、二十四節気では「清明」と呼ばれています。
万物が清らかでいきいきした様子を表す「清浄明潔」という 言葉を省略したもので、晩春の季語のひとつです。「清らかで明るい」という字の通り、清々しい陽気になり、草木が芽吹き、花が咲き、鳥や蝶が舞う…、心が華やぐこの時期にぴったりの言葉ですね。

今回は、中川政七商店のルーツである「麻」をテーマに、「進化する素材、麻を纏う」をお送りします。


ナビゲーター:クリス智子
ハワイ生まれ。大学卒業時に、東京のFMラジオ局 J-WAVE でナビゲーターデビュー。現在は、同局「GOOD NEIGHBORS」(月曜〜木曜13:00〜16:00)を担当。ラジオのパーソナリティのほか、MC、ナレーション、トークイベント出演、また、エッセイ執筆、朗読、音楽、作詞なども行う。得意とするのは、暮らし、デザイン、アートの分野。幼少期より触れてきたアンティークから、最先端のデザインまで興味をもち、生活そのもの、居心地のいい空間にこだわりを持つ。ラジオにおいても、居心地、耳心地の良い時間はもちろん、その中で、常に新しいことへの探究心を共有できる場づくりを心がける。


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進化する素材「麻」を楽しむ衣服

「麻布Tシャツ」

→商品はこちら

麻のインナー「更麻」

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麻デニム

麻デニムパンツ

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お便りを募集しています

番組内でご紹介させていただく、リスナーの皆さまからの投稿を募集しています。
「わたしの心地好い暮らしをつくる道具」をテーマに、お気に入りのアイテムや、しつらいの風景、意外な使いかたなど、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いをお聞かせください。


次回「季節の手ざわり」は、5月5日(金)配信を予定しています。

「中川政七商店ラヂオ」では、別番組「工芸うんちく旅」も配信中です。
こちらは、工芸好き男子二人が日本全国の工芸産地を訪ね知った工芸のうんちくを語る番組。
次回は4月8日(金)配信予定です。

お楽しみに。

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【職人さんに聞きました】一生ものの「竹の収納籠」ができるまで

なるべく天然素材に囲まれて暮らしたい。
少しずつ、家具や暮らしの道具を買いそろえて、自分の好きな素材を身の回りに置けるようになってきました。
何を取り入れると心地好いかはそれぞれですが、天然素材好きならついつい集めてしまうのが、籠ではないでしょうか。

あらゆる物を受け止め、程よく目隠ししてくれる大らかさが頼もしくて、気が付けばふたつ、みっつと増えています。

籠と言っても、色々ありますよね。
竹、あけび、籐、い草、やまぶどう...どんな素材にもそれぞれの魅力がありますが、今日はその中のひとつ、中川政七商店からこの春発売となる、竹籠についてお話していきます。

初めて見た時、その美しさにほれぼれしてしまった編み目の精緻さ。
産地を訪ねてみれば、作りがいいものとはこのこと、と納得のものづくりを見せていただきました。

竹籠が作られる場所を訪ねて大分県の山里へ

竹と言えば、大分県別府市。
作り手である竹工房オンセの高江雅人さんの工房は、別府から山に車を走らせ、30分ほどの山里に位置します。

「若い頃から、自然の中で、なるべく自給自足で暮らしていきたいというのが夢でした。土に近い暮らしをしたかったんです。
それに沿う形で土地を買って、まずは家を自分の手で作るところから始めました。
竹職人になったのはその後ですが、幸い職業も自然の物を扱えているからか、楽しくやれています」

そう話すのは、竹工房オンセの代表、伝統工芸士の高江雅人さん。

高江雅人さん。背景に写る家は、丸太を購入して少しずつ自分で建てていったそう

竹籠と言えば、人が手で編んでいるのだろうという想像はつきますが、意外と編む以外の工程は知られていないものです。

現場を見せていただくと、1から10まで自然と向き合う、本当に手間ひまのかかるお仕事。じつは、編むまでの素材の準備だけで工程の半分ほどを費やすと言います。

竹を割って、、、

剥いで、、、

薄くして、、、
この間にも、選別したり面取りしたりと細やかな作業が沢山あります。

「竹はものすごく弾力があって、人と一緒で1本1本性質もちがう。全然思うようにならないんですよ。
だからこそ面白くもあって、飽きずに40年近く続けてこられたのかもしれません」

ままならなさが面白いのだと、あるがままの自然に向き合い、カラッと笑う姿が素敵ですが、完成した収納籠は“美しい”の一言に尽きます。
ものづくりにどんなこだわりがあるのか聞いてみました。

こだわりは、美しさと耐久性の両立

「こだわったのは、まず見た目の美しさ。そして、数十年と使っていただけるような耐久性です。
もともと自分の仕事として籠バッグを作ることが多いので、普段から大切にしている点でもあります」

「竹は昔からあるので、日用雑貨としては、人の歴史とともにずっとあるものですが、日用品を超えて、芸術性をもつのは日本ならではの特性ですね。

今回の編み方は“四つ目編み”と言って、シンプルな技法で、竹の素材感がよく出ています。編もうと思えば誰にでも編めるくらいのシンプルさなのですが、隙間を均一に美しく作るのは意外と難しい。“四つ目にはじまり、四つ目に終わる”と言われるような奥深い技法でもあります。
工程ごとにチェックを重ねながら、美しく仕上げることに注力しました」

「また、今回の収納籠は、物を入れたまま運べるように、耐久性のある設計にもこだわっています。
取手は籐で巻き付ける前に、竹釘で打ち付けて強度をあげました。籐も太いものを使い丈夫に仕上げています。

実際に検証はできないのですが、30年使っても大丈夫だったと言っていただけるように、丈夫な作り込みをしています」

外側からは見えないが、実は竹の釘を打ち付けて、補強されている
工房で重いものを入れて、耐荷重チェックをしている様子

「普段作っている籠バッグは、それこそ持ち歩くものなので、耐久性は大切です。ひとつ作るのに時間もかかるし、せっかく購入したのにすぐに壊れてしまっては僕らとしてもやるせない。
安心して長く使ってもらいたいから、強度のある設計をしています」

その美しさと耐久性のこだわりが何より活きているのが、取手の部分です。

「一周ぐるっと巻きついているだけなんですが、これが大変で。
竹は弾力性があるから、自然に作ると形が丸くなるんです。今回の商品は四角いので、それにあわせて均一の隙間でまっすぐ付けるのに、神経を使いました」

今回の製造に併せて作った、四角い形を出すために押さえこむ器具

「この籠のために、新しい道具を作ったりして。竹の張りで丸くなろうとするところを、ぐーっと押さえこむ器具を作って、ドライヤーであぶりながら角を出しました。
編み方も含め一見シンプルな籠ですが、この籠をひとつ作るために、いろんな器具を作っています」

飴色になるまで。一生ものの暮らしの道具

ままならない素材に向き合いながらも、使う人が心地好いように。美しく使い勝手のよい収納籠は、こうして一つひとつ職人の手で丁寧に作られています。

今回の収納籠は、ひとつ作るのに約1日かかるそうです。
手間ひまかけて作られるもの。使い手としても長い付き合いにしたいものです。

自然の素材は使う中で育つ、という魅力もあると思い、長く使ったものを見せていただきました。

上が18年使った籠バッグ。下が新品の籠バッグ。使い込むうちに飴色に育っていく

左上のものが18年使ったもの。右下の新品のバッグと比べると、色と艶が増しているのがよくわかります。

自分の暮らしを積み上げる中で一緒に育っていくと思うと、未来の暮らしを思い描くのが楽しみになります。

最後に高江さんに、購入される方にお届けしたい言葉はありますか?と聞いてみました。

「竹は一生ものの道具です。飴色になるまで使って育ててください」

自然の素材を活かしながら、人の手で丁寧に編みこまれて出来上がる、「取手のある竹の収納籠」。
ぜひ長く愛用いただけたら嬉しく思います。

< プロフィール>
高江雅人:伝統工芸士/竹工房オンセ代表
「土に近い暮らし」にあこがれ、自給自足の生活をすることを目指して、脱サラ。以来、40年に渡り竹職人として、バッグや花籠を中心とした作品づくりを行ってきた。
現在では、独立を目指す若者が修行に集まる代表的な工房にもなっている。

「土に近い暮らし」を実践される、高江さんの生き方に興味を持たれたかたは、「中川政七商店ラヂオ 工芸うんちく旅」で、より詳しくご紹介しています。
ぜひご視聴ください。

<掲載商品>
取手のある竹の収納籠 大
取手のある竹の収納籠 小

文:上田恵理子
写真:藤本幸一郎

【工芸うんちく旅】合同展示会「大日本市」

こんにちは。
中川政七商店ラヂオのお時間です。

「工芸うんちく旅」は、工芸好き男子ふたりが、日本の工芸産地をめぐり、職人さんや地元の方々から聞いてきたうんちくや小ネタ、地域の風習、食文化などを紹介する番組です。

工芸を中心としたものづくりメーカーが集う展示会「大日本市」

工芸好きアラフォー男子ふたりが工芸産地を巡り、職人さんや地元の方々から聞いてきたうんちくを紹介する番組「工芸うんちく旅」。今回は少し趣向を変え、中川政七商店が開催する小売店向けの合同展示会「大日本市」に出展されている作り手さんたちを取材します。今年の2月に東京・恵比寿で開催された第10回目となる大日本市のテーマは「新しいものづくりが集まる場所」。全国津々浦々から集まった作り手さんたちのブースにナビゲーターの引地海が訪問し、インタビューを実施。その模様をナビゲーターふたりで振り返ります。

初回は、まず京都で400年以上続く香りの総合ブランド薫玉堂(くんぎょくどう)さんをご紹介。お話を伺ったのはブランドマネージャーの負野千早さん。桃山時代文禄三年(1594年)から続く、日本最古の御香調進所として、伝統を受け継ぎながら、その時代にあった香りを作り続けています。美しいパッケージやもともと日本にあった香りの風習など、興味深いお話をたくさん紹介します。

続いて、北海道北見市に拠点を構える環境大善株式会社さんの消臭剤「きえ〜る」について、代表取締役社長の窪之内誠さんにインタビュー。その驚きの天然原料とは!?この商品を開発された窪之内さんのお父様のストーリー、さらにそんなことまで言っていいんですか!?という商品の裏側のお話まで。北海道の地から発信される消臭剤の未来について、語っていただきます。

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ナビゲータープロフィール

高倉泰(たかくらたいら)

中川政七商店による産地支援事業「合同展示会 大日本市」のディレクター・バイヤー。
大学卒業後、店舗デザイン・設計の会社を経て、2014年に中川政七商店に入社。日本各地のつくり手と共に展示会やイベントを開催し、商品の仕入れ・販売・プロモーションに携わる。
古いものや世界の民芸品が好きで、ならまちで築150年の古民家を改築し、 妻と2人の子どもと暮らす。山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。ほとけ部主催。
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引地海(ひきじかい)

Pomalo 株式会社 クリエイティブ・ディレクター。大学卒業後、広告代理店を経てフリーの編集者に。雑誌やWEBサイト、イベントの企画・制作・プロデュースを手がけ、2019年よりコンテンツ・エンジニアリング・カンパニー Pomalo(ポマーロ)に参加。11歳から17歳までをアメリカ・サンディエゴで過ごした帰国子女。2児のパパで、趣味はお弁当づくりとキャンプ。
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ご質問・ご感想を募集しております

パーソナリティへの質問や、ご視聴の感想、ここに行ってほしい!といったリクエストなど、お聞きしたいこと、お伝えしたいことがあれば、お気軽にコメントをお寄せください。

皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回「工芸うんちく旅」は、3月17日(金)配信を予定しています。

「中川政七商店ラヂオ」では、別番組「季節の手ざわり」も配信中です。
こちらは、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
次回は4月7日(金)配信予定です。

お楽しみに。

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【わたしの好きなもの】酒粕のぬか床 一つ星シェフ監修

毎日漬けて食べたくなる、やさしい味のぬか床

ぬか漬けって実はそんなに好きではありませんでした。
というのも、味の濃い食べ物があまり得意じゃなく、
ぬかの独特な香り、好きだけど強すぎるのはちょっと…
頻繁に食べるのはちょっと…
と、ぬか漬けに対する気持ちはなんとも微妙でした。

お漬物はもう一品ほしいときにさっと食卓に出せて便利だし、素材の味を生かしたまま野菜を摂取したい。
でもどうしても好みの味にならない。
それにかき混ぜたり毎日のお手入れにも自信がない…
そんなループに陥り、ぬか床に興味はあるけど一歩踏み出せない状態が何年も続いていました。

そんな中、最近中川政七商店に入社し、先輩に「酒粕のぬか床」をおすすめしてもらいました。

なにやら、一つ星シェフ鳥羽周作さん監修の、酒粕を混ぜ込んだぬか床だそう。
ぬか床に酒粕…?と思いましたが、先輩曰くふんわり酒粕が香る上品な味、とのこと。
味も手間のかかり具合も気になるので、さっそく会社で試してみることにしました。

ふたつのぬか床の味くらべ

自分の好みの味を探るため、中川政七商店で販売しているもう一種類のぬか床、「ゆずと花椒のぬか床」と比べてみることにしました。

ぬか床というと味のついていないシンプルなものが多い中、味付きで好きなものを選べるのは楽しい。
とはいえ同じ米ぬかを使っているのに味にそんなに差が出るの?と半信半疑です。

左:ゆずと花椒のぬか床 右:酒粕のぬか床

今回は、きゅうり、にんじん、大根、茄子、セロリの5種類ずつを漬けてみました。
見た目に違いはありませんが、容器の蓋を開けたときの香りには差があります。


「ゆずと花椒のぬか床」が華やかで強めの香りがするのに対し、酒粕のぬか床は少しだけ落ち着いた香りです。
蓋を開けた瞬間ふわっと酒粕の香りがただよって、食べる前から期待大…!

ぬかの中から掘り出して、洗って切って、さっそくいただきます。
個人的に今回いちばん気になっているのはセロリ。


さあ、好みの味のぬか漬けにありつけるでしょうか…。

左:ゆずと花椒のぬか床でつけたぬか漬け 右:酒粕のぬか床でつけたぬか漬け

まず初めに、どちらもそんなにぬかの味が強すぎず驚きました。
パン酵母で発酵させたぬか床は、ぬかの独特な香りがマイルドなのだそう。

「ゆずと花椒のぬか床」で漬けたぬか漬けは、ほんの少しピリッとした花椒と唐辛子の味がアクセントになっていて、香り高く華やかです。
しっかり風味がつくので、にんじんや茄子など味のしっかりある野菜が特におすすめです。

一方「酒粕のぬか床」で漬けたぬか漬けは、よりまろやかな味!
酒粕の味が強いのかな?と予想していましたが、本当にふんわり鼻に抜ける程度で、これなら酒粕が苦手な方もおいしく食べられると思います。
なにより味が濃すぎない!
ぬか漬けなのに上品な味で、副々菜として毎日食卓に出しても飽きなさそうです。
こちらは野菜そのものの味がより楽しめるので、大根やカブ、きゅうりなど水分の多い野菜が特におすすめです。
(セロリはどちらもおいしかったです!)

同じ野菜を同じ時間漬けましたが、不思議なことにぬか床の種類によって浸かり具合が違いました。
すごく大きな差があるわけではないですが、「ゆずと花椒のぬか床」は短時間でしっかりした味、「酒粕のぬか床」はもう少し時間がかかってやさしめの味、という感じでしょうか。

どちらもおいしいけれど、毎日食べることを考えると、わたしは断然酒粕のぬか床派でした。(先輩さすが!)
定期的にぬか床を替えて、味を変えて楽しむのもいいなぁと思いました。
ぜひお好みに合わせてお選びください。

思ったより簡単で楽!

ぬか床は初心者でも始めやすいようになっています。
パッケージを開けて、どっしりと詰まったぬか床を容器に移すだけ。
すぐに漬け始めることができます。

ぬか床の管理に自信がなかった私が、はじめてみよう!と思えたのは、この手軽さがあってこそ。

そしてわたしのぬか床チャレンジを応援してくれているかのようなタイミングで発売されたのが、「かきまぜやすい琺瑯のぬか漬け容器」です!
こちらはぬか床2袋がちょうどよく入るサイズ。

かき混ぜやすさはもちろん、小ぶりなサイズ感が我が家の冷蔵庫にも食卓にもちょうど良い。
取手がないけど口元のでっぱりに指が引っ掛かるから持ちやすく、出し入れも楽にできます。


どうせなら機能も見た目も良いものを!と思い、セットで使うことにしました。

わたしにぬか漬けづくりへの第一歩を踏み出させてくれた 「酒粕のぬか床」 。


お気に入りの味とお気に入りの道具で、わくわくの新生活。
これからぬか漬けライフを存分に楽しみたいと思います!

編集担当 岩井



<関連特集>

「暮らしに定着する」台所道具ができるまで。デザイナー 柴田文江さんインタビュー

料理を作る、食べる、保存する。

日々の食生活の中で、私たちは様々な道具を利用しています。

昔から日本の食生活に寄り添ってきた工芸の道具には、使い勝手の良さに加えて、その存在自体を愛することができる自然な風合いと手ざわりがありました。

愛すべき道具との出会いは、食生活をより豊かにし、暮らしに新しい楽しみを与えてくれます。

日本の工芸に学び、佇まいの良さと機能性を両立した、今の食卓に馴染む道具を作りたい。

そんな風に考えて、今回、「暮らしに定着すること」を大切に多くの商品を手掛けてきたプロダクトデザイナー 柴田文江さんとともに、新たに台所道具を作りました。

「かきまぜやすい琺瑯のぬか漬け容器」と「吹きガラスの保存瓶」

暮らしの中での“ひと手間を楽しみたくなる”二つの道具はどのように生まれたのか。開発の経緯や普段の台所仕事について、柴田さんにお話を聞きました。

■暮らしに簡単に取り入れられる「ぬか漬け」の魅力

柴田文江さん

ーー柴田さんご自身も、ご自宅でぬか漬けを漬けられていると伺いました。

「私がちゃんとぬか漬けを始めてから、ちょうど3年くらいになると思います。

それ以前にもやってみたことはありましたが、休みの日にしか料理をしていなかったこともあって、なかなか長続きしませんでした。

コロナ禍になって、だんだんと家でご飯を作る頻度が増えてきて、『こんなに毎日作っているならぬか漬けもやれるかも』と思い、改めて始めてみたんです。

色々なものを漬けてみて、ゆで卵とか、山芋とか、そんな変わり種も美味しかったんですが、今ではやっぱり定番のカブやきゅうりの出番が多くなりましたね」

ーー自宅でぬか漬けを漬けるのは、少しハードルが高いようなイメージもあります。

「家でぬか漬けと聞くと、とても真剣にやっているように捉えられるかもしれないんですが、そんなことはないんです。慣れてくると、冷蔵庫に入れて結構ほったらかしにできるというか。

朝起きて、その日の夜ご飯は家で食べようという時は、お米を研いでから出かけるんです。その時に、ぬか漬けも冷蔵庫から出しておくとちょうどいい具合になるし、外で食べる日は入れたままにしておく。そんな風にしています。

長い出張の時は、古漬けになってもいいようなものを冷蔵庫に入れていったりします。さすがに少しすっぱくなり過ぎたなと思っても、細かく刻んで鰹節に混ぜたりするとすっごく美味しい。

その辺の塩梅というか、調整できるんだっていうのが分かってきました。きっと、皆さんが思っているよりもずっと簡単です」

■かき混ぜやすさを解決した、佇まいのよい「ぬか漬け容器」

ーー今回、ぬか漬け容器をデザインすることになったきっかけを教えてください。

「ぬか漬けは、定期的に底の方からかき混ぜてあげることが大切です。

これまでは四角い容器を使っていたんですが、単純に混ぜにくいのと、どうしても四隅にぬかが溜まってしまって、もったいないなと感じていました。その部分のぬかが役目を果たしていないなって。(笑)

野菜は基本的に丸っこい形だし、容器にも丸みがあった方が効率よく漬けられそう。そんな風に漠然と思っていて、ある時SNSでその気持ちをつぶやいたんです。

そうしたら中川淳さん(※)がすぐに反応してくださって、その流れでデザインする機会をいただきました」
(※中川政七商店 会長 13代中川政七)

ーーかき混ぜやすさと、見た目の美しさと、どのようにバランスを取ってデザインされたのでしょうか。

「まずは目測でアールの角度をある程度決めてから、3Dプリンターで形を出して、実際に手を入れてみながら修正していきました。

かき混ぜやすい丸みをつくるために、通常の、真円のアールでは底が絞られ過ぎてしまって安定感を損ねてしまいます。なので、細かくアールの角度を変化させて安定感を確保した上で、十分な丸みをつけるように工夫しています。

微調整したアールのおかげで、和風過ぎず、極端にモダンでもなく、どこか懐かしい雰囲気を残した佇まいになったかなと思っています。

■ぬか漬けをカジュアルに取り入れられる、ニュートラルなデザイン

ーー容器本体は、野田琺瑯さんがつくる琺瑯製、蓋は木の蓋を採用されています。

「お料理って、もちろんご飯を食べるためにやるんですが、半分は楽しんでやっているものなので、せっかくなら使う道具の質感も含めて楽しみたいんです。

そういう意味で、今回は琺瑯がいいなと思って選びました。におい移りしないとか、塩や酸に強いといった特徴もあるので、機能的にもぴったりだと思います。

蓋は、せっかく新しく作るなら、和風でも洋風でもないものができたらいいなと考えて、主張しすぎない木質の材料を選んでいます。

私はアボカドを漬けてパスタに入れたりもするし、セロリを漬けてピクルスみたいに食べたりもしていて、和食に限らないんです。そんな風にカジュアルにぬか漬けを毎日のご飯に取り入れるには、こういう見た目もいいなって思います」

「コロナ禍になって価値観が変わったのか、身体が心地よいもの、ほっこりしたご飯が食べたい、そんな風に思うようになりました。

誤解されたくないのは、そんなにちゃんとした料理をつくっているわけではないんです。

たとえば昨日は少し忙しかったので、簡単にうどんでも食べようと思って冷凍うどんを温めて、卵くらいは入れたりして。そこでもう一品なにか作るって大変ですけど、カブを漬けていたので一緒に食べたらとてもいい感じで。

自分でつくるぬか漬けが本当に美味しくて、炊きたてのご飯があって、お漬物があればそれで済んじゃうというか。洗って切るだけで一品できちゃうのでとても簡単です」

「失敗してもぬかが一気に悪くなることはないし、上澄みを取って色々やっていたらまた復活したりして。そんなに真剣にやらなくてもぜんぜん大丈夫だと思います」

■金具を使わない、お手入れのしやすいガラスの保存瓶

ーー 「吹きガラスの保存瓶」 についてはいかがでしょうか。

「元になった理化学用のガラスを見た時に、実験道具の印象が強いと感じたんです。なので、素材の美しさは生かしつつ、いかにニュートラルにできるか、という部分にこだわって全体をデザインしています。

いい感じに懐かしく、いい感じに現代的で、梅を漬けたりする手仕事にももちろん使えるし、キャンディーやフレーバーティーなんかを入れてもいい。ちょうどよい塩梅の瓶に仕上がりました」

「最初はもう少し底の方を絞った形にしようと思っていたんですが、中川政七商店さんから安定感についてのフィードバックをいただいて。修正してみると『あ、確かにこれもいいよね』となりました。そんな風にやり取りを重ねて良いものを作れたのも楽しかったです。

暮らしに馴染む、長く使っていただけるものになったんじゃないかなと思います」

ーー金具がない保存瓶というのが新鮮に感じました。

「金具とバネで止めているものって、毎日開け閉めしていると意外と大変だったりしますよね。これはすりガラスの摩擦で蓋を止めているので、すっと開けられて中のものを取り出しやすい。煮沸もできてお手入れも簡単だなと思います。

サイズ的には、一人か二人暮らしで梅やフルーツシロップを漬けて、ちょうどよいタイミングで使い切れるくらいの感覚です。私は朝にナッツを食べたりするんですけど、この瓶に入れておいたら密閉できて取り出しやすくて、見た目もきれいでいいなと思っています。

ーー今回、二つの台所道具をデザインされていかがでしたでしょうか。

「ぬか漬け容器は特にそうですが、私自身が本当に使いたいもの、使えるものが作れるということで、すごく面白く、ありがたい機会でした。

二つとも凄く良くできていますし、これからどんな風に使おうかなというのが楽しみです。


琺瑯のぬか漬け容器に木の蓋、そしてガラスの保存瓶。素材はそれぞれ違うけど共通の世界観が出せたと思っていて、この道具がキッチンに並ぶと、雰囲気が優しくなるんじゃないかなと。

形自体に強い主張があるデザインではないので、和洋関係なく、どんなキッチン・台所にも馴染んでくれると思います」

< プロフィール>
柴田文江:プロダクトデザイナー/Design Studio S代表
『エレクトロニクス商品から日用雑貨、医療機器、ホテルのトータルディレクションなど、国内外のメーカーとのプロジェクトを進行中。
iF金賞、毎日デザイン賞、Gマーク金賞、アジアデザイン賞大賞などの受賞歴がある。
多摩美術大学教授、2018-2019年度グッドデザイン賞審査委員長を務める』

文:白石 雄太
写真:元家 健吾

【季節の手ざわり】春の訪れ、桜を楽しむ

こんにちは。中川政七商店ラヂオの時間です。

中川政七商店ラヂオ「季節の手ざわり」は、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
季節の移ろいを感じ暮らしを整える、そんなひと時をご一緒しませんか。

3月、弥生になりました。
「弥生」の「弥」は「いよいよ、ますます」、「生」は「草木が生い茂る」という意味があり、冬が終わって、草木が芽吹く時期を指す言葉です。

中川政七商店の本社がある奈良の東大寺では、3月1日から14日まで「修二会」が行われます。「修二会」とは五穀豊穣、無病息災を祈願する1200年以上も続く仏教の行事のこと。「お水取り」「お松明(おたいまつ)」という名でも親しまれています。
奈良では、「修二会」が終わると、本格的な春がやって来ると言われています。

今日は「春の訪れ、桜を愉しむ」と題してお送りします。


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次回は3月10日(金)配信予定です。

お楽しみに。

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