料理の所作が変わる、気の利く暮らしの道具たち

料理との付き合い方は人それぞれ。楽しみですることもあれば、家族のために頭を悩ます方もいるでしょう。

どんなシーンであれ、もっと美味しく仕上がったり、もっと料理中の所作が楽しくなったりしたら、いいことだと思うのです。

そこで今回は、おいしい料理をつくるための、暮らしの道具を集めてみました。

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蒸し野菜に最適な、電子レンジでも使える「わっぱセイロ」

 

デトックス効果もある温かい野菜料理。蒸し野菜を作るのに最適な「わっぱセイロ」があります。「足立茂久商店」のセイロは、一つひとつが手作りです。

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産地:新潟

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トーストが美味しく焼けるという不思議な金網の秘密

 

京都の「金網つじ」。エッセイストの平松洋子さんの著書、「おいしい日常」の表紙も飾りました。

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産地:京都

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使ってみました。飛騨が生んだ調理道具、有道杓子

 

飛騨高山の「奥井木工舎」がつくる杓子。この凹凸が具材との当たりを和らげ、身を崩さずにしっかりキャッチする役目を果たすそう。

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産地:飛騨高山

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伊賀焼や萬古焼の特徴から知る、わざわざ土鍋で作りたい料理

 

「鍋」料理の印象が強い土鍋。実は暑い日であっても、土鍋は大活躍することをご存知でしょうか。

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炊事、洗濯、掃除、工芸。「MESHザル」

 

どこの家庭にも一つはあると思われるのが、ザル。どこにでもある道具だからこそ、小さな違いが使い勝手に関わります。

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産地:京都

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気になった記事はありましたか?読み返してみると、また新しい発見があるかもしれません。

それでは、次回もお楽しみに。

三種の神器、勾玉をつくり続ける出雲の工房へ

三種の神器「勾玉」

今回は、神話のふるさと、出雲のそばで今も作り続けられている「勾玉」のお話です。

前編では今も皇室や出雲大社に勾玉を献上している日本で唯一の作り手・めのやさんのご案内で、勾玉の産地・玉造のパワースポット、玉作湯神社を訪ねました。

ご案内いただいた株式会社めのや5代目の新宮寛人さん。神社の由緒を解説くださっています
ご案内いただいた株式会社めのや5代目の新宮寛人さん。神社の由緒を解説くださっています

自分だけでは気づけなかった神社の見どころに感激していましたが、

「すぐ近くに、昔の勾玉づくりの工房跡や地元の人も知らない勾玉の原石採掘跡が見学できる公園がありますから、見に行ってみましょう」

新宮さんによる勾玉づくりの産地・玉造の案内は次へ次へと続きます。

お参りの後は勾玉のふるさと・玉造をマニアック探訪

まず訪れたのは神社からも徒歩圏内の「出雲玉作史跡公園」。

一面芝生の公園内に、突如として舞台のようなものが現れます。これが勾玉を作っていた工房跡地。

勾玉を作っていた工房跡地。思った以上に広々としていました

また少し歩くと、今度は茅葺の小屋が。実際の工房を再現したものだそうです。

復元された工房も建っていました

さらに離れたところには、かつての工房内を見学できる施設が。広さ、見た目、内部と段階的に展示を分けて設置しているのが面白い。

床がやや斜めになって、四方のくぼみに作業中に使う水が流せるようになっています
床がやや斜めになって、四方のくぼみに作業中に使う水が流せるようになっています

「ここからほど近いところにも、実際に勾玉の原石を採掘していた跡を見られる公園があるんです。行ってみましょうか」

採掘跡、という響きに冒険の匂いを感じて、ぜひ!と新宮さんの車で山道を登ります。

向かった花仙山 (かせんざん) は、見た目はなだらかな里山といった雰囲気。

勾玉の原石であるめのうの中でも希少な青めのうがこの山で見つかったことで、玉造一帯は勾玉づくりの産地として発展していきました。

山の中腹で車を降り、まず目に飛び込んできたのが宍道湖を臨む絶景です。

地元の人も滅多に訪れないという、知る人ぞ知る「めのう公園」。花仙山の中腹にあります。展望台から宍道湖の絶景が

地元の人も滅多に訪れないという、知る人ぞ知る「めのう公園」。新宮さんの後ろをついていくと、何やらトンネルのような場所が見えてきました。

新宮さんの後ろをついていくと、何やらトンネルのような場所が見えてきました
ドキドキしながら、中へ
ドキドキしながら、中へ

この場所こそ、かつての採掘現場の跡。目をこらすと壁に青めのうのような鉱石が見えました。

トンネルの奥は、かつての採掘現場の跡。目をこらすと壁に青めのうのような鉱石が

入り口に戻ると、「採掘の時に出ためのうの破片がこの辺りにあるはずですよ」と新宮さん。「ほらそのあたりに」とトンネル脇の地面を指差します。

トンネル脇の地面を指差す新宮さん。「採掘の時に出ためのうの破片がこの辺りにあるはずですよ」

宝探し気分で地面を見ていくと…あ!

あ、あった!本物の青めのうです
あ、あった!本物の青めのうです

古墳・弥生時代から花仙山で始まっていためのうの採掘。伺ってきた勾玉づくりの歴史と自分のいる現在が、指先で繋がったような感じがしました。

勾玉の作り方を今につなぐ工房へ

歴史にとっぷりと身を浸した後は、今、実際に行われている勾玉づくりの現場へ。

宍道湖ぞいに建つめのやさんのファクトリーショップ「いずも勾玉の里伝承館」を訪ねます。

ガラス張りの工房で、湖を背景に職人さんたちが手を動かす姿はまさに玉造の勾玉づくりを象徴しているようです。

ガラス張りの工房から、宍道湖が見渡せる

「めのう細工を行っているところは他の地域にもありますが、勾玉が作れる職人がいるのは、全国でもうちだけです」

その人数はわずか4人。今回は特別に工房内に入って、その勾玉づくりの様子を間近で見せていただきました。

始まりはこんなフラットな板状です
始まりはこんなフラットな板状です
大小さまざまな勾玉の原型。天然のものなので、色味に個体差が出て同じものはふたつとないそうです
大小さまざまな勾玉の原型。天然のものなので、色味に個体差が出て同じものはふたつとないそうです
大まかに形を切り出した後は、段階的に道具を変えながら研磨を繰り返します。摩擦熱を抑えるため片手で水を含ませながら、形と表面を整えていきます。
大まかに形を切り出した後は、段階的に道具を変えながら研磨を繰り返します。摩擦熱を抑えるため片手で水を含ませながら、形と表面を整えていきます。
穴を穿いているところ
穴を穿いているところ
使う道具も様々
使う道具も様々
だんだんと形になってきました
だんだんと形になってきました
研磨の板をより粒度の細かいものに変えて磨きをかけます
研磨の板をより粒度の細かいものに変えて磨きをかけます
磨いた部分がわずかに色が変わっているのがわかります
磨いた部分がわずかに色が変わっているのがわかります

5代目玉人の誇り

勾玉づくりゆかりの神社、実際の工房や採掘跡、現在のものづくりの現場と、新宮さんのご案内で玉造の勾玉づくりをめぐってきました。

改めていただいた名刺を拝見すると、新宮さんのお名前の上に「第五代玉人」と記されています。

新宮さんの名刺

「玉人 (ぎょくじん) って、勾玉などを作って献上する人の役職名なんです。祖父も父も、代々玉人を名乗ってきました。

三種の神器は、古代の日本文化の象徴的存在です。そのうちのひとつをやらせていただいているという自負を持って、勾玉づくりを続けています。

勾玉を知れば、そこから日本の古代史や神話が見えてきます。私たちが何を大切にして生きてきたのか。ご先祖様が思い考えていたことに思いをはせるきっかけになればいいなと思います。

他の伝統的な工芸品を作られている職人さんたちにも、ぜひ勾玉づくりを見に来て欲しいですね」

神話にも登場する、日本のものづくりの原点のひとつ。たしかに私も、今回の取材を通して今までと違った視点で三種の神器や神話の世界に親しめました。

出雲を旅するときは、ぜひ一緒に勾玉のふるさと・玉造も訪ねてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>
株式会社めのや
https://www.magatama-sato.com/(いずもまがたまの里伝承館)

文・写真:尾島可奈子

※こちらは、2017年10月25日の記事を再編集して公開しました。

底引き網を支える漁師のおもりが、歯ブラシスタンドになるまで

あなたの地元はどんなところですか?

私はいま、地元の町を出て東京で暮らしています。

たくさんの人が集まる場所で暮らしていると、出身地の話をする機会が多くなるもの。

そんな時、せっかくなら話のネタになるようにと、特産品や地元出身の有名人、観光スポットと呼べそうなところなど、どうにか絞り出して話をしています。

でも、地元を思い返して実際に頭に浮かぶのは、父親とよく行った喫茶店の建物や、部活帰りに寄っていたコンビニの駐車場など、なんでもない景色ばかり。

今日は、そんななにげない原風景のひとつで、最近あまり見かけなくなったある焼き物の話をお届けします。

港で見かけた、漁師のおもり

漁師のおもり
底引き網漁に使われる「おもり」

こちら、海の近くに住んでいた人であれば、見覚えがあるかもしれません。

写真のものはできたばかりでピカピカですが、漁に使われる“おもり”です。

子供の頃、港や海岸に行くと、使い込まれて色あせたこいつがよく落ちていました。懐かしい。

ボロボロに朽ちた漁具
こんな風に、網と一緒にボロボロに朽ちた状態でよく見かけていた

実はこのおもり、鉄や鉛ではなく陶器でできています。

なぜ陶器なのか。どうしてこの形なのか。

考えてみると、落ちているものを見てばかりで、使われているところは見たことがありません。

関東でも千葉の船橋漁港でまだ使われていると聞き、さっそく見に行ってきました。

一度も割れたことがない。耐久性にすぐれた必要不可欠な漁具

船橋漁港
船橋漁港

使っているおもりを見せてくれたのは、船橋市漁業組合で常務理事をつとめる吉種勇さん。漁業歴30年以上のベテラン漁師です。

漁師の吉種勇さん
漁師の吉種勇さん

「瀬戸が見たいんだって?そんなら俺の船に行こう」

そう言ってさっそく漁船に案内してくれる吉種さん。

どうやらこの漁港では、あのおもりは“瀬戸”と呼ばれているようです。瀬戸の方で焼いているらしい、という情報だけ聞いて、そう呼んでいるのだとか。

実際には、岐阜県の多治見で焼かれているものが入ってきているはずなのですが、その話は後ほど。

ともかく船に行ってみると、ありました。その日の漁で使われたばかりの現役バリバリのおもりたち。

まさに使われたばかりの網と重り
まさに使われたばかりの網とおもり

自分が地元で見ていたものよりも新しいのか、まだ綺麗な色をしています。

「ずいぶん丈夫だから、10年に1度くらいしか取り替えない。たまに、乱暴にあつかって割れたって話も聞くけど、この船ではまだ1回も割れてないんじゃないかな。

綱の方がぼろぼろになったんで、最近一部だけ交換したんだけど」

漁師のおもり
この一部だけ交換したそう

ほとんど割れることもなく、海中でも平気。陶器であるのが信じられないほどです。

ちなみに、吉種さんたちがおこなっているのは、底引き網漁。

網を海底に沈めて、船で引っ張りながらその網に入った魚をすくい上げる漁法で、スズキやコハダなどを狙います。

「鉛だけだと重すぎて船で引けないから、陶器のおもりをメインでセットして、必要に応じて鉛を追加して使ってるんだ」

おもりは一定間隔でつけておかないと、網が浮いて魚が逃げてしまう。すべてを鉛にすると、重すぎてダメ。そこで、陶器のおもりとあわせて使って調整しているそう。

おもりのつけ方と鉛の割合は、人それぞれ
おもりのつけ方と鉛の割合は、人それぞれ

陶器のおもりが必要な謎がひとつ解けました。

「親父の代からずっと使っていて、どんな風に何個つければ漁がうまくいくっていう経験が蓄積されている。だから、無くなると困っちゃうな」

おもりをつける間隔や、鉛と陶器の割合などは、漁師さんによって違います。このおもりを今後も使っていきたいと、吉種さんは言います。

漁師のおもりは、無くなってしまうかもしれない

しかし、実はいま、漁師の数が減少している中で、このおもりの需要は激減しています。

このままではいずれ無くなってしまうかもしれません。

波風をものともしない耐久性や、どこか愛らしいその見た目。その特性は別の方法でもいかせるのではないかと、新たな挑戦をしている窯元が、岐阜県多治見市にありました。

多治見の高田焼「マル信製陶所」

徳利で有名な高田焼
徳利で有名な高田焼

「マル信製陶所」は、多治見市の高田・小名田地域で受け継がれている伝統の焼き物「高田(たかた)焼」の窯元。

高田焼の窯元「マル信製陶所」
高田焼の窯元「マル信製陶所」

大正時代から高田の地で製陶を開始し、現在、5代目となる加藤信之さんが奥さまと2人で窯を切り盛りされています。

マル信製陶所の加藤信之さん
マル信製陶所の加藤信之さん

長らく陶器のおもりをつくってきました。

「当初は湯たんぽや食器などもつくっていたのですが、先先代(祖父)の頃から陶器のおもりの需要が高まってきて、その生産に集中するようになりました」

最盛期は全国から注文がきていて、「毎日のように集荷のトラックが来ていた」ほど。

ズラッと焼きあがった、おもりたち
ズラッと焼きあがった、おもりたち。最盛期は倉庫に入りきらないほどだったとか

あの船橋漁港にも、加藤さんがつくったおもりが卸されています。

なぜ、この高田でおもりがつくられるようになったのか。ポイントは土でした。

「高田の土は、キメが細かくて粘性が高く、成形しやすい。低い温度でも硬く焼き締まるので、液体を入れる器として最適でした」

高田焼の土
高田焼の土

硬く焼き締まって水に強い。海中で何年使われてもびくともしないのには、土の特性も関係していたわけです。

この高田の土を使い、さらに真空土練機という機械をつかって土の中の空気を抜く。そしてある程度乾燥させてから丸みをつけるなど加工をして、さらに乾燥させて、釉薬をつけてまた乾かして‥‥と、焼くまでの準備が大変。

高田の土を真空土練機に入れる
高田の土を真空土練機に入れると
空気が抜けた状態で出てくる
空気が抜けた状態で出てくる

そうすることで、漁師のおもりとして使える、ぎゅっと焼き締まった塊の陶器がつくれるんだとか。

「密度の高い状態で焼き締めるので、ちょっとやそっとでは割れません」

と言いながら、肩ぐらいの高さからコンクリートの床へ落として見せてくれましたが、確かに割れない。やはりすごい強度です。

現場でもうひとつ気づいたことは、加藤さん夫妻の作業の丁寧さ。

角の丸みをとる作業や釉薬のつけ方などは、おもりとしての働きとは関係なく、もう少し手抜きでもよいのでは、と思ってしまいますが、そこは焼き物として、美しく仕上げたい思いがあるそうです。

おもりを削る作業
おもりを削る作業
オリジナルの道具で削っていきます
オリジナルの道具で削っていきます
穴の口の部分を滑らかに削る機械
穴の口の部分を滑らかに削る機械
穴に通すロープが引っかからないように削っている
穴に通すロープが引っかからないように削っている

このおもりをどこか愛らしいと感じていたのは、この丁寧な仕事ぶりがあったからなんだと、ふと感じました。

釉薬もこうして丁寧につけていきます
釉薬もこうして丁寧につけていきます
奥さま

歯ブラシスタンドと石鹸置き

ただ、丁寧につくり続けても、注文は年々減少するばかり。

「やっぱり、漁師さんの数が減っているのが一番の原因です」

おもりだけでは厳しいと語る加藤さん
おもりだけでは厳しいと語る加藤さん

と、もはやおもりだけを生産しているわけにもいかない状況の中、新たにつくり始めた商品があります。

「歯ブラシスタンド」と「石鹸置き」
「歯ブラシスタンド」と「石鹸置き」

それが、おもりの形をそのままいかした「歯ブラシスタンド」と、新たに形をつくった「石鹸置き」。

もともとは海で使うものだから、耐久性はお墨付きで、水周りもなんのその。重さも適度にある。

漁師のおもりの特性をいかしたアイデアとして、確かに理に適っています。

歯ブラシスタンドは、ほぼおもりと同じ形状で作成。中の穴について、歯ブラシを立てやすいように大きさを微調整しました。

漁師のおもりで作った歯ブラシスタンド
漁師のおもりで作った歯ブラシスタンド
向かって右は、従来のおもり。穴の大きさと、色味がわずかに違います
向かって右は、従来のおもり。穴の大きさと、色味がわずかに違います

石鹸置きは、シンプルなようで、中心部と外側で厚みが違う焼き物泣かせの形状。

漁師のおもりで作った石鹸置き
漁師のおもりで作った石鹸置き

「厚みが違う部分はどうしても乾き方、縮み方に差が出るので、ひびが入ったり割れやすい。水を切る溝をいつ彫るのか、どんな環境で乾かせばよいのか、試行錯誤して完成しました」

削るための刃もいちから手づくりしています
削るための刃もいちから手づくりしています
綺麗に仕上げるのに試行錯誤が必要だった石鹸置き
綺麗に仕上げるのに試行錯誤が必要だった石鹸置き
との程度乾いた状態でこの溝を彫るのか、正解がわかるまでに一ヶ月かかったとか
どの程度乾いた状態でこの溝を彫るのか、正解がわかるまでに一ヶ月かかったそう
失敗すると、このようにひびが入ってしまいます
失敗すると、このようにひびが入ってしまいます

おもりは、高田伝統の飴色のみの展開でしたが、この新商品たちは飴/粉引/黄瀬戸/海鼠の4色展開。

歯ブラシスタンドと石鹸置き

家の中で使うなら焼き上がりの色味を少しでも鮮やかにと、普段はやっていない酸化焼成という方法で焼き上げるこだわりようです。

船橋漁港の吉種さんにも伝えてみました。

「それはいいアイデアかもしんないね。おもりは、なかなか壊れないもんだから追加の注文も頻繁にはこないだろうし。

うちは息子が漁師をやりたいと言ってくれて、今は一緒に漁に出てる。息子たちの代も底引き網漁を続けられるように、やっぱり無くなっちゃ困るよ。

今のうちにいっぱい注文しておこうかな」

船橋漁協の吉種さん

自分の中に原風景のひとつとして残っていた漁師のおもり。

それがつくられている現場を見る日が来るとは思ってもいませんでした。

漁師のおもり
加藤さん夫妻
加藤さん夫妻

いまだにつくられ続けていること。そして、その優れた特徴をいかし、形を変えて今度は家の中にやってくること。

そう考えるとなにか胸が高鳴ります。

新たな商品として技術や特徴がつながれていく中で、このおもりも、いつまでも残ってもらいたいと思います。

<掲載商品>
漁師のおもりで作った歯ブラシスタンド
漁師のおもりで作った石鹸置き

<取材協力>
高田焼 マル信製陶所
岐阜県多治見市高田町3-88

船橋市漁業協同組合
千葉県船橋市湊町1-24-6

文:白石雄太
写真:西澤智子,白石雄太

日本にしかないスリップウェアの豆皿。中川政七商店とバーナード・リーチ直伝の「丹窓窯」が提案

おかきが、なんだか格好よく見える。

そう感心したのは、白地に格子柄のスリップウェアに、こんもりと盛られた姿を見た時でした。

丹窓窯のスリップウェア

地元で美味しいと評判のおかきを勧めてくれたのは、うつわの作者であり、丹波立杭 (たちくい) 焼の窯元「丹窓窯 (たんそうがま) 」の8代目、市野茂子さん。

市野茂子さん
市野茂子さん

日本を代表する焼き物産地・丹波で唯一のスリップウェアのつくり手で、そのうつわは暮らしに取り入れやすいと人気です。

多くの窯元が軒を連ねる丹波立杭の町。天気のいい日は、外にもこんな産地らしい風景が広がります
多くの窯元が軒を連ねる丹波立杭の町。天気のいい日は、外にもこんな産地らしい風景が広がります
窯に併設されているギャラリー
窯に併設されているギャラリー
丹窓窯

中川政七商店とつくった新作の「スリップウェアの豆皿」を取材中、どうぞ一息ついて、と勧めてくれたのが先ほどのおかきでした。

バーナードリーチ直伝、丹窓窯のスリップウェア。

スリップウェアは、生乾きの素地にスリップ (化粧土) をかけ、上から櫛目や格子などの模様を描くうつわ。発祥はイギリスです。

スポイトのほか鳥の羽や竹など、細くてしなる道具を使って線を引いていきます
スポイトのほか鳥の羽や竹など、細くてしなる道具を使って線を引いていきます

母国で途絶えていたこのうつわを日本の丹窓窯にもたらしたのは、柳宗悦らと共に日本の民藝運動をけん引したイギリスの陶芸家、バーナード・リーチ。

昭和42年、運動に賛同し民藝協会に加盟していた丹窓窯をリーチが訪問したことで、窯に転機が訪れます。

ギャラリーに展示されていた訪問の様子
ギャラリーに展示されていた訪問の様子

「セントアイヴィス (リーチ窯のあるイギリスの地名) に来ないか」とのリーチの誘いで、茂子さんのご主人で7代目の市野茂良さんが渡英。リーチが復刻に力を入れていたスリップウェアを、直々に学びました。

窯の看板のかたわらにも、スリップウェアが
窯の看板のかたわらにも、スリップウェアが

「帰国後は主人のスリップをわたしも手伝っていたので、これならできるかなと」

茂良さんが亡くなり跡を継ぐと決めた時、色々な技法のうつわを幅広くやるよりも「これで行こう」と茂子さんが決めたのが、スリップウェアでした。

「もともと丹波には『墨流し』という技法があって、スリップウェアに似ているんです。そういう馴染みの良さもあって」

下地の釉薬が乾かないうちに違う色の釉薬を垂らして、左右にうつわを振って模様をつくる「墨流し」。茂子さんが以前見かけた古いうつわには、スリップウェアのように網目の模様もあったそう
下地の釉薬が乾かないうちに違う色の釉薬を垂らして、左右にうつわを振って模様をつくる「墨流し」。茂子さんが以前見かけた古いうつわには、スリップウェアのように網目の模様もあったそう

茂子さんが8代目を継ぐと、お茶碗や小皿など、それまでの丹窓窯になかった日用の食器のスリップウェアが登場するように。

「イギリスではもともとオーブンに入れるようなお皿とか、大きなものが多いんですね。水差しやピッチャーとか。

だから古いうつわを見ると、ダダッと模様が入って、どちらかというと男性的な力強い印象というかね」

ギャラリーにあった大皿のスリップウェア
ギャラリーにあった大皿のスリップウェア

「でも私は細かいものの方が性に合っているみたいでね。お茶碗とか小皿とか、小さいもののスリップをつくることが多いですね」

丹窓窯

「描く面積が小さいから、線の加減なんかはちょっと難しいんですけど、うち独特のスリップができているんやないかなと、最近は思っているんですよ」

実際の様子を見せていただきました。

「スリップウェア」になる前のうつわ
「スリップウェア」になる前のうつわ

小さな小さなスリップウェアができるまで

模様の下地になる化粧釉をうつわの表面にかけます
模様の下地になる化粧釉をうつわの表面にかけます
丹窓窯のスリップウェア

「生がけと言ってね。かけているときに指のあととか、そういうのが残るんでね。

そのままで乾かして焼いて、指のあとが入ったりしているものも多いんですが、私は、そういうのはあまり好きじゃないから」

スポンジでひょいっ
スポンジでひょいっ

「ちょっと、こうやって修正するんですよ」

大皿のスリップウェアは電動や足を使ってロクロを回して模様をつくるのに対し、小さなうつわは手ロクロで線を引いていきます
大皿のスリップウェアは電動や足を使ってロクロを回して模様をつくるのに対し、小さなうつわは手ロクロで線を引いていきます
スポイトで線を描いたら‥‥
細い竹ですっすと格子柄にしていきます
こちらはフリーハンドで曲線を描いていきます
こちらはフリーハンドで曲線を描いていきます
完成!
完成!
描きたては線が立体的に、ぷっくりしています
描きたては線が立体的に、ぷっくりしています
茶色い下地のバージョンも
茶色い下地のバージョンも

「豆皿というのは、日本の文化ですからね。イギリスにはこういう小さなサイズのスリップはなかったですね。

これはうちでも一番小さいサイズ。色と模様は、はじめての組み合わせです」

焼きあがるとさらに小さい!
焼きあがるとさらに小さい!
白っぽい線は、焼きあがると黄色に
白っぽい線は、焼きあがると黄色に
こちらは下地が黄色に
こちらは下地が黄色に
おせんべいが載っていたうつわの豆皿バージョン
おせんべいが載っていたうつわの豆皿バージョン

「丹波は白や黒、灰釉 (はいぐすり) とか落ち着いた色味の釉薬が多いんですが、スリップにするとそこに模様が入って、パッと華やかになるというかね。そういうところが好きですね」

ギャラリーにはさまざまなスリップウェアが並ぶ
ギャラリーにはさまざまなスリップウェアが並ぶ

丹波の系譜を受け継ぎながら、本場イギリス仕込みの、日本にしかない小さな小さなスリップウェア。

丹波焼 丹窓窯の豆皿

箸置きや、調味料受けやお菓子皿に。もちろんおせんべいを取り分けてもいいな。

スリップウェア入門に、はじめての丹波焼の一枚に、友だちに勧めたくなりました。

<掲載商品>
丹波焼の豆皿 (丹窓窯)

<取材協力>
丹窓窯
兵庫県篠山市今田町上立杭327
079-597-2057

文・写真:尾島可奈子

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〈 うつわを集めたい人に 〉

産地のうつわを豆皿で集めたら楽しそう。このうつわに合う料理は?うつわにまつわるアイディア、あります。

日本全国、産地のうつわはじめ

中川政七商店が提案する豆皿

手のひらに収まるサイズがかわいく、何枚でも集めたくなる豆皿。色々なおかずを少しずつ盛り付けて食卓を華やかに見せたり、お気に入りの一枚で取り皿として使ったり。

「産地のうつわはじめ」では、日々の暮らしを晴れやかに彩る、縁起の良い豆皿をご紹介します。

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わたしの一皿 グルグル飛び鉋に納豆グルグル

みんげいおくむら

毎回、読めば読むほどお腹が空いてくる、みんげいおくむら 奥村さんの連載。「今日は小石原焼(こいしわらやき)、太田哲三窯の飛び鉋(とびかんな)のうつわにしよう」

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わたしの一皿 グルグル飛び鉋に納豆グルグル

今日はいつもより気合い入れていくぞ、という一日がある。たまに。

そんな日は決まって納豆を食べる。納豆ご飯か納豆うどんか納豆トーストだ。ねばねばねば。はい、みんげい おくむらの奥村です。

一月は見事に旅と旅の合間に体調をくずし、この連載もついに穴が空いてしまった。関係各位ごめんなさい。ということで気合一発復活ののろしを上げなければならない。

そんなわけで納豆なのだ。今日はトーストにしましょう。こういうのは簡単だからこそ人それぞれこだわりがあるでしょう。

個人的には気分でカレー粉使うかどうかと(今日は使っていない)、納豆にオリーブオイルを混ぜることぐらいかな。

納豆にオリーブオイル、合いますよね。あれ?ご存知ない?

海苔は先のせ。それもちぎらずに。あれ、後から後から自分流が出てくるな。

ちなみにたくあんなど漬物を刻んだものを納豆に混ぜると食感がとてもいい。後乗せで香草もいいし。

で、納豆トーストの時はなぜだかスープではなくだいたい味噌汁飲んでます。あれあれ、さらに話が止まらない。

今日は小石原焼(こいしわらやき)、太田哲三窯の飛び鉋(とびかんな)のうつわにしよう。平たくて、パンのうつわにちょうど良い。

小石原焼は以前に紹介した小鹿田焼(おんたやき)と兄弟窯と呼ばれている古い産地。山をはさんで小石原が福岡、小鹿田が大分、みたいな距離感で実に近い産地。

小石原の陶工が小鹿田に技術を伝えにいったんだそう。こっちが兄貴分ですね。

兄貴のところも弟のところも、あまり知られていないが九州随一の豪雪地帯。12月、1月、2月の訪問は天気予報とにらめっこ。何度も直前で訪問を断念したってことがあるぐらい。

食器棚を見たら同じようなサイズの飛び鉋のうつわが3つあった。こりゃいいや、と並べました。

小石原焼(こいしわらやき)、太田哲三窯の飛び鉋(とびかんな)のうつわ

案外と違いがあるんだ、というのを見てみよう。左は沖縄、真ん中下が小石原、右が小鹿田だ。産地による違いではなく、同じ技法でもいろんな個性が出せるんだ、とそんな風に見てみてもらいたい。

実際、小石原の中だっていろんな飛び鉋が見られます。鉋という道具自体の違い、刃の当て方、土の違い、ろくろの回転速度などなどなど。一つの技法でも表現は無限とも言える。

実は正直に告白をしますと、小石原焼・小鹿田焼と言えば、な大定番の飛び鉋の柄ですが昔は得意じゃなかった。

なんだろう、この連続的なパターン。目が回るような、うるさいような。

それでも手にして使っていたらなんだか目がなれて、馴染んで、気づけば欠かせなくなった。不思議なもんだな。

皿も決まったし、まずは海苔を焼くところからスタート。

海苔を自分で焼いている人ってあまり多くはないでしょう。我が千葉は海苔の産地なので海苔をもらうことも多い。焼きたての海苔の方がやっぱりおいしい。焼かなきゃいけない海苔、乾海苔。

IHだと焼けないし、困るなぁなんて人もいるかもしれない。しかしだ、オーブントースターで焼けば良いのだ。これ、ものすごく簡単だし、焼きムラが少ないのでいいんですよ。どうぞ覚えておいてください。

今日なら、オーブントースターにパンを入れる前にまず海苔を焼く。焼きすぎてはいけない。さささっと。この辺は何度かやればすぐにわかるはず。

海苔納豆トースト

海苔がパリっとして香りが立ったら、バターやマヨネーズを塗ったパンに乗せ、納豆をぐるぐる、ドカッと。チーズをバサバサ。

はい、海苔焼いて温まっているトースターにパンを入れて焼こう。あとはチーズが溶けて、好みの焼き加減に。焦がしてはならぬ。

海苔納豆トースト

焼きあがったらあとは一心不乱に食べるべし。納豆を一粒も皿に落とさず食べきれると妙な達成感がありますよね。

 

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

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もうすぐひな祭り!事前に知りたい由来やお祝いの方法

2月も折り返し、もうすぐ3月。3月といえばひな祭りですよね。ひな人形を飾って、ひなあられを食べて‥‥、その由来を知っていますか?

本番を迎える前に、ひな祭りの知識を深めてみてはいかがでしょうか。

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ひな祭りの由来と「ひなあられ」の色に込められた願い

ひな祭りと言えば「ひなあられ」。今回の「ハレの日を祝うもの」では、色鮮やかなひなあられのその「色」に込められた願いについて解説いたします。

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産地:東京

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木箱に納まる、ひな祭りの世界観。女性職人がつくる「段飾雛」

木箱に納まる、ひな祭りの世界観。女性職人がつくる「段飾雛」

ひな人形にも色々なものがありますが、今日は一刀彫で作られた小さな段飾雛(だんかざりびな)をご紹介します!名を継ぎ、ブランドを守る想いで活躍される若手女性作家さんを訪ねました。

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産地:奈良・大和郡山・生駒

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初節句に贈りたい縁起物。金沢「加賀八幡起上り人形」とは?

金沢「中島めんや」で絵付け体験、「金沢 うら田」でもなかをお土産に

一見だるまさん?かと思いきや、このお人形は金沢市の希少伝統工芸品「加賀八幡起上り(かがはちまんおきあがり)」。柔らかく愛らしいお顔と縁起の良い松竹梅を身にまとった姿がとってもかわいらしいですよね。金沢のお店では絵付け体験ができるとのこと。いざ、挑戦です!

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産地:金沢

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かわいくてめでたい土人形を、節句のお祝いに

まんまるなフォルムに柔らかな色合いが愛らしい郷土玩具たち。見た目の可愛いらしさだけではなく、それぞれに縁起の良いいわれがあるんです。お祝い事や、大切な人を元気付けるちょっとした贈りものに。ここぞというときの自分自身への験担ぎにもおすすめです!

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産地:山口

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一風変わったおひな様。港町に伝わるご当地ひな祭りを訪ねて

伊豆稲取の「雛のつるし飾りまつり」に行ってきました

早咲きの桜に、旬の地魚、そして、港町のお母さんたちの明るさがにじみ出る雛のつるし飾り。ひと足早い春を感じに、伊豆稲取まで足を伸ばしてみては。これに温泉がつけば言うことなしですね。

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産地:伊豆

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気になった記事はありましたか?読み返してみると、また新しい発見があるかもしれません。

それでは、次回もお楽しみに。