クリエイティブユニットTENTに聞く、ポータブルライト「TORCHIN」のあかりが灯るまで

「はこぶ、ともす、ほっとする。」

200年の伝統を持つ「八女提灯」の技術で作られたポータブルライト「TORCHIN(トーチン)」は、どこへでも持ち運べて、やさしいあかりで私たちの暮らしを照らしてくれる。そんな、新しい提灯のかたちです。

作り手は、八女提灯の「火袋」専業メーカーとして1980年に創業したシラキ工芸。

全体プロデュースを中川政七商店が担い、プロダクトデザインをクリエイティブユニットTENTが手がけました。

人の手による伝統の技と、現在のテクノロジーが融合した新しいあかり「TORCHIN」は、どのような経緯で誕生したのか。デザインサイドから見た開発の裏側について、TENTの青木亮作さんと治田将之さんに伺いました。(聞き手:中川政七商店 高倉)

「つくるを、かろやかに」するクリエイティブユニット

中川政七商店 高倉(以下、高倉):

まず最初に、改めてTENTさんのことについて教えていただけますか。

TENT 青木亮作さん(以下、青木):

TENTは、2011年に治田さんと僕、2名のプロダクトデザイナーで結成した会社です。

プロダクトデザイン事務所なんですが、商品デザインだけではなくて、商品自体を考案するところから、どうやって世の中に伝えていくのかという部分までやっているので、敢えてクリエイティブユニットという風に名乗っています。

クリエイティブユニット TENTのお二人。(左)治田将之さん・(右)青木亮作さん

高倉:

WEBページや空間デザイン、実店舗の運営まで、本当に多岐に渡ってやられていますよね。

青木:

そうですね。自分たちのオリジナル商品を作って、在庫して、販売することもやっていて。お客様の手元に届くところまでのすべてというか。なので、うちでデザインの話をする時は、梱包材の話なんかもよく出てきます。

TENT 治田将之さん(以下、治田):

ネコポスの方が良くない?とか(笑)

高倉:

どんな部分にこだわりを持って活動されてるんでしょうか?

青木:

最近は、「つくるを、かろやかに」ということを掲げています。何かを作ることって、大変というか、難しいじゃないですか。

「これは売れるんだろうか?」とか。大きな会社になるほど、頭がかちこちになっちゃって、面白い商品が生まれなくなってしまう。

そうじゃなくて「あれもこれも作ってみよう!」と、かろやかにやっていく中にヒット作も生まれるし、仮にヒットしなくても、一部の人にとっては特別なものになったりします。

「つくるを、かろやかに」することで、暮らしが豊かになったりとか、作るモチベーションが高い人が増えてくれたりすると、世の中楽しくなるだろうという思いがあって、ものづくりに関わっています。

TENT 青木亮作さん

高倉:

なるほど。自分たちで商品を販売するところまでやられているので、説得力があるなと感じます。

青木:

商品を考える時に大切にしているのは、生活実感として普通に欲しいものかどうかです。マーケティングリサーチで出てきた結果と、それが欲しいかどうかは別だと思っていて。「本当に欲しい?」というのを何度も自分に問い直して、考えるようにしています。

治田:

自分はピンと来ていないけど「こういう人だったら欲しいのかもな」というのは危険で、あまり上手くいかないですね。

その意味でも、「ちゃんと生活をしようね」というのを会社のメンバーには話しています。暮らしの道具を作るためには、ちゃんと暮らしていないとアイデアも出ないと思うので。徹夜続きで子どもの顔もまともに見ていない、というのはやめようと。

TENT 治田将之さん

青木:

早く家に帰って、家族と一緒に商品を使ってみるのも大切なリサーチですしね。

「光としてやわらかい」八女提灯に感じた可能性

高倉:

そんなTENTさんと、八女提灯のポータブルライト「TORCHIN」を作りました。こちらからデザインの依頼をさせていただいた時、第一印象としてはどんな想いを抱かれたんでしょうか。

治田:

提灯と聞いて、お祭りで見るような昔ながらの形のものくらいしかパッと思い浮かばなくて。それを今の暮らしにアップデートするということで、イメージにギャップがある分、「上手くいくかもな」っていう予感はありましたね。

青木:

僕は逆に、「え、どうしよう」と思っていました(笑)。提灯の形をどうにかしなければと思い込んでいた部分があって。どういじっても変な風にしかならなさそうで困ったなと。

高倉:

初めてTENTさんの事務所に伺った時に、イメージが湧きやすいようにシラキ工芸さんの既存商品を見ていただきました。ちょうど夕暮れ時で、提灯のあかりが綺麗に見えて、皆さんの反応が良かったんですよ。「あ、なんか提灯のあかり、良いね」って。その時に僕自身「これはいけるかも」って思いました。

中川政七商店 高倉泰

治田:

実際に見ると、思いのほか、ほっとするというか。

青木:

シンプルに「光としてやわらかいんだな」というのが体験できて、だったら「こういうシーンで使いやすいだろうな」とか、伝統を切り離したところにある価値が見えました。

僕個人としては、伝統工芸だから買うとか、日本製だから買う、という感覚を持ち合わせていないんです。わりとシビアな消費者なので、「でも便利じゃないじゃん」で終わってしまう。

そうではなくて、”普通に便利”というのが確立した後に、実は伝統があるとか、実は日本の技術でと言われると、それは良い情報としてポジティブに受け止められる。

今回作る上ではやっぱり、提灯のあかりを体験できたことで、「寝る時に良さそう!」みたいな納得感を最初に持てたことが大きかったかもしれません。

本当に、夕方に打ち合わせして良かったですよね。

治田:

「これ欲しい!」と思ったら、実は伝統工芸のものだった。という順番で、TORCHINも、まずは照明として普通に使いやすいとか、魅力があってほしいと思います。

ゆらぎのある素材と、タッチセンサーの組み合わせ

青木:

普段、ディレクターがいるプロジェクトはお断りすることも多いんです。役割が被ってしまって、ビジョンがブレてしまうので。

でも今回は、高倉さんが終始「皆がやりたいことをやりましょう」というところで一貫していて。その上で、中川政七商店で販売支援していくという出口も明確に固まっていて、やりやすかったです。

高倉:

TENTさんが普段、デザインから販売のところまで一貫して手がけられていることを分かって依頼しているので、あまり方向性を決めつけずにやりたいなとは思っていました。

治田:

職人さんとのやり取りなどは、高倉さんに間に入っていただいて、非常にスムーズでしたね。

高倉:

ちなみに僕の方からは、卓上で使えるサイズ、持ち運べること、おおよその価格感、といった要素だけお伝えしていたかと思うんですが、形状はどんな風に決めていったのでしょうか。

治田:

八女提灯の火袋は、ひごと和紙を使って色々なサイズや形状を作れることが特徴という風に伺ったんです。なので、ある程度幅広いラインアップにしたいなと考えて、最終的には5種類を採用しました。

どれも、今の暮らしに合うようにシンプルな形にしつつ、和紙という素材に対して良い意味で違和感が出ていて特徴的というか。

高倉:

シンプルだけど愛着が湧きます。

青木:

暗いところであかりを点けてみると、本当に良いんですよね。ずっと見てしまう。

高倉:

あとは、タッチセンサー式にしたことも大きなチャレンジでしたよね。

治田:

最初は、持ち運べるだけで十分魅力的だと思っていたんです。でも、癒されたい、ほっとしたい時に、ぽんぽんってタッチするだけで使えたら、より魅力が伝わるだろうなと思って、提案しました。

想像以上に大変ではあったんですが、提灯という工芸品の形の中にタッチセンサーがあるというギャップも面白いし、ぜひ実現したいなと。

青木:

照明の素材が樹脂と金属なら特段難しいことではないんですけど、和紙・木というゆらぎのある素材と組み合わせた時に、精度の差が出るというか、すごく難しかったですね。

最終的に、無理に新しいところにボタンをつけるのではなくて、元々提灯にある上部の穴のところに自然に収まったのは良かったと思います。

気付いたら持ち歩いてしまう。期待値を超えてくる「TORCHIN」の魅力

高倉:

家の中に置いて使う照明器具って、なんとなく機械っぽくない方がいいなと思っていて、その部分をまさに解決して貰えたなと思っています。

TORCHIN(トーチン)というネーミングはどんな風に決まりましたか?

青木:

みんなでたくさんアイデアを出して、その中で選ばれたのが「TORCHIN」でした。

松明のような、棒状の照明をトーチと呼びますよね。灯りを持ち歩く様子がまさにトーチっぽいなと思ったのと、そこに提灯という言葉も掛け合わせて、「トーチン」になりました。読んでみると響きがすごくかわいいなと思いましたね。

高倉:

すごくニュートラルな仕上がりの商品というのもあり、名前に提灯らしさを残したいという想いがあったので、とても気に入っています。

お二人は実際にTORCHINを自宅でも試されたと思うんですが、どんな風に使われましたか?

治田:

夜ご飯を食べたあと、大きい照明は消してしまって、TORCHINをテーブルに置いて使いました。その後はベッドサイドまで持っていって、眠る時まで脇に置いていましたね。

青木:

うちも入眠前というか、子どもは寝てしまって、最後に洗濯物を畳んだりする時間に、TORCHINだけ点けておく。そうするといい具合に眠くなってくるんですよね。

あとは寝かしつけの時に絵本を読むんですけど、寝転がって上を向いて読むときに、TORCHINは上にも光が向いているのでちょうどいいんです。

高倉:

寝る前の時間にいいですよね。三段階の調光機能付きになっていますが、寝室だと一段階目で十分な明るさだと感じました。

治田:

夜、壁際にこれがあると単純に落ち着きます。そういえば最初に試作を家で試した時、これまでの自分の仕事の中で、子どもの反応が一番よかったんです。「提灯かわいい!」って。

青木:

我が家も好反応でした。提灯って、一周まわって新しいんだなって気付きましたね。子どもからすると懐かしいという感覚も無いし、完全にニューマテリアル。

治田:

逆に提灯を知っている世代にも好評で、青木さんのお父さんも褒めてくれてましたね。

青木:

父親もプロダクトデザイナーなんですが、「提灯とテクノロジーが融合している。これは本当にすごいことだ!!」って、興奮していました(笑)。

治田:

幅広い世代に受け入れられそうで良かった(笑)。後は、使っている中で「思った以上に持ち歩いているな、自分」と思いました。

青木:

確かに!僕も、意識せずに毎日移動させちゃってて。気づいたら欠かせないものになっていました。たとえば一人暮らしの方も、これを玄関に置いておいて、帰宅したら点灯させて家に入っていくとか。ひとつめの照明としてもおススメできると思います。

治田:

商品への愛着って、買った時の期待値を上回るかどうかに左右されると思っていて。期待したものを上回ってくると、すごく惹かれるんです。

TORCHINは、ソファーの脇や机の上で使ううちに、どんどん印象が良くなっていって、毎日ベッドサイドに持って行くようになった。想像を超えてきたので、そこは面白かったですね。和紙の力なのか、フォルムなのか、総合的に魅力が出ているんだろうなと思います。

青木:

本当にいい光ですよね。逆に、手仕事であることに価値を置きすぎると損をしてしまうというか。火袋部分の軽さは樹脂では実現が難しいと思うし、落としても割れないし、光の透け方に和紙ならではの良さもある。シンプルにスペックが優秀で、一周まわってハイテクノロジーだと思いました。

高倉:

TENTさんに期待していた部分はまさにそこで。ただ「提灯をベースにした室内照明」と言われてもイメージが難しいところを、上手く作っていただけました。「はこぶ、ともす、ほっとする。」という価値を顕在化してもらえたと思っていて。本当にお願いして良かったです、ありがとうございました。

<取材協力>
クリエイティブユニットTENT

文:白石雄太
写真:中村ナリコ

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進化の核に、技術が残る。和紙のあかりを現代に届ける提灯メーカー・シラキ工芸

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。その可能性を探るため、ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「和紙」のものづくり。

古くから、文字を書き記すための道具にとどまらず、茶道の懐紙、障子や襖紙、提灯、紙幣、祭事の道具など、暮らしのあらゆる場面に使用されてきた和紙。

今や時代はうつろい、洋紙の登場やライフスタイルの変化を受けて、暮らしの中で和紙を見かける機会は少なくなってしまいました。

そんな中でも、和紙が持つ素材の魅力、職人の技術には、今の日本の暮らしを豊かにする可能性がある。そう信じて和紙と向き合い、各産地で挑戦を続ける作り手たちがいます。

和紙のイメージをぐっと広げるもの。和紙本来の魅力を再認識できるもの。 今まさに新たな挑戦が”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ和紙を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。

八女和紙を用いた「火袋」作りのスペシャリスト

八女茶の産地として知られる福岡県八女市は、実は数多くの工芸品を擁する九州最大の工芸集積産地でもあります。

そのひとつで、ご先祖様を導く盆提灯として長年継承されてきたのが「八女提灯」。

材料となる手漉き和紙の産地や竹林が八女地域にあったことから、提灯作りが始まったとされています。

八女手漉き和紙
手漉き和紙の水源、矢部川

シラキ工芸は、八女提灯の心臓部で、灯りを囲むように袋状になった「火袋(ひぶくろ)」と呼ばれる部位の専業メーカーとして1980年に創業しました。

創業以来、八女の和紙を用いて火袋を作り続けてきた同社が今、これまで培った技術を活かしながら、現代の暮らしに溶け込んだ商品の提案を始めています。

八女提灯の火袋
シラキ工芸

全国に出荷された八女の盆提灯

「やっぱり提灯の一番大事なところだから。あとは、単純にとっかかりやすかったんだと思いますよ」

シラキ工芸 代表取締役の入江朋臣さん

当時の主流は提灯の全てを製造販売するいわば総合提灯メーカーだった中、あえて火袋専業として創業した理由について、シラキ工芸 代表取締役の入江朋臣さんはそんな風に話します。

入江さんのご両親が、それまで勤めていた提灯メーカーから独立する形で立ち上げたシラキ工芸。いずれは提灯全てを手がけたい想いはありつつも、思いがけず火袋の需要が大きく、そのまま専業メーカーとしてやっていくことになったのだとか。

「30〜40年前は、あちこちに提灯を作る職人さんがいた時代です。その頃は全ての工程が地元の八女で完結していて、全国に八女の盆提灯がどんどん出荷されていた。

うちの母親も提灯作りができたので、その技術を周りに伝えて、職人を増やしていました」

円筒型の盆提灯の火袋づくり

業界の通例に反した、自社生産体制の構築

ところがその後、当時の職人たちの高齢化が進む一方で、女性も外に出て働くようになり、内職の担い手がどんどん少なくなっていきます。

盆提灯の需要はまだまだ根強かった中で、先に作り手の不足が業界を直撃。制作工程の大部分は、海外に移ってしまいます。

「自分が30歳の時に、このままだと日本から職人がいなくなることに気付いて、社員として雇用し始めました」

すでに代替わりして、シラキ工芸の二代目になっていた入江さん。 それまで八女提灯の業界では、職人は基本的に外注の内職頼り。その通例に反して、自社生産体制を整える決意をします。

「自社生産にすれば小回りも良くなって、お客様対応もスピーディーになるし、オリジナル商品も作れるだろうと思って、可能性も感じていました。

それと、やっぱり技術を残さないといけないと思ったんですよね。

職人を一人育てるのに3年かかると言われていて、そのリスクを取るような業界ではなかった。

そこを思い切ってやってみようという感じで。火袋を作る人、絵付けをする人。それぞれ育てていこうと。

まず足りなくなっていったのは絵付けの職人で、それを育てるのがとにかく大変で時間もかかりました」

結果、問合せに対して正確に素早く応えられるようになり、顧客も増えていきました。職人の育成も軌道に乗り、今は7名の社員を雇用し、ものづくりに取り組んでいます。

シラキ工芸で働く若い職人たち

若い職人と模索する、新しい提灯のかたち

根強かった盆提灯の需要も、住環境の変化等の影響があり、ここ数年でいよいよ陰りを見せるようになってきました。

「家に大きな仏壇があって、そこに盆提灯を置いて、皆でお盆に集合する。そんな風景がだんだん見られなくなってきました。

置く場所が無いので、まず仏壇が小さくなっていき、それに合わせて、うちでも4.5年前から小さいサイズの盆提灯を作っています」

そうした状況の変化から、盆提灯以外の商品開発を模索し、これまで育ててきた若い職人たちと共に、新しい提灯のかたちを提案し始めました。

その一つが、「はこぶ、ともす、ほっとする」をコンセプトにしたポータブルライト「TORCHIN(トーチン)」です。

「一条螺旋式」と呼ばれる、らせん状の骨組み技術や、そこに張り込む八女手漉き和紙など、提灯の火袋作りの核はそのままに、現代の暮らしに馴染む新しい提灯が生まれました。

「技術の継承を続けていて、火袋の作り方は何十年前とまったく一緒です。

商品の形や見た目は変化していて、今回は特にタッチセンサーまで採用していながら、火袋の張り方はアナログのまま。

その真ん中の技術の部分は残して、チャレンジを続けていきたいと思っています」

そう話す入江さん。新しい商品を開発する中で、八女の手漉き和紙の魅力にも改めて気づいたといいます。

八女手漉き和紙の工房
この工房では、国産楮100%で和紙を漉いている

「癒される灯りというか、絹の提灯とは違った灯りになって、凄く良いなと感じます。

提灯を作る立場からしても、薄くて、強くて扱いやすい。他産地の和紙と比べたわけではないけど、とてもこだわって作ってくれているし、凄い素材ですよね」

「ほかの産地に負けたくない。素紙の良さで勝負したい」と話す手漉き和紙職人
原料の練りの調整が、和紙の品質を大きく左右する

TORCHINには今後、白い和紙だけでなく、さまざまな色に後染めしたカラフルなバージョンも登場予定。提灯とともに、八女の和紙の魅力も改めて世の中に伝わって欲しいと思います。

非常に繊細な、和紙の後染め工程

「この会社でチャレンジを続けられるのも、職人の雇用を始めて、それが上手く流れるようになったからこそだと思います。

新しい商品をつくると、色んな人と出会えて、それがとても面白いし、その分、負担も大きい(笑)

あとは、竹をなんとかして復活させたいという想いがあります。

元々、和紙があり、竹林があって、提灯が盛んになりました。今、和紙はなんとか続いていますが、竹はほぼ全て中国産です。

竹林も荒れてしまっていい竹自体がないし、竹ひごを薄く、細く加工できるところもない。 中々ハードルが高いですが、いつか地元の竹林の復活にも取り組めるといいなと考えています」

培ってきた技術を軸に、現代に提灯のあかりを届けるシラキ工芸の挑戦は続きます。

<取材協力>
シラキ工芸

文:白石雄太
写真:藤本幸一郎

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デジタルとアナログで“今”に向き合う。和紙の表現を広げ続ける・和紙工房「りくう」

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。その可能性を探るため、ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「和紙」のものづくり。

古くから、文字を書き記すための道具にとどまらず、茶道の懐紙、障子や襖紙、提灯、紙幣、祭事の道具など、暮らしのあらゆる場面に使用されてきた和紙。

今や時代はうつろい、洋紙の登場やライフスタイルの変化を受けて、暮らしの中で和紙を見かける機会は少なくなってしまいました。

そんな中でも、和紙が持つ素材の魅力、職人の技術には、今の日本の暮らしを豊かにする可能性がある。そう信じて和紙と向き合い、各産地で挑戦を続ける作り手たちがいます。

和紙のイメージをぐっと広げるもの。和紙本来の魅力を再認識できるもの。 今まさに新たな挑戦が”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ和紙を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。

和紙の儚さ・柔らかさ・繊細さ・温かみを現代の表現に変換する

愛媛県西部に位置する山あいの町、西予市宇和町明間(あかんま)地区。名水百選にも選ばれた「観音水」が湧くこの地域で、新たな和紙作りに取り組んでいるのが、和紙デザイナーの佐藤友佳理さんです。

観音水

高校卒業後、一度故郷を離れてロンドンでモデルとして活躍。東京でデザインを学んだ後に愛媛に戻り、自身の祖父母が暮らしていたという家に「和紙工房りくう」を開きました。

和紙工房りくう

「和紙という素材を用いたものづくりに向き合い、約15年が経ちました。その間、私が常に考えていたのは、どうすれば今の時代の人たちに好んでもらえるものが作れるか、ということです」

和紙を“残すこと”自体を目的にするのではなく、まず第一に、きちんと時代に求められるものづくりであること。そう考えて、日々ものづくりに取り組んできたといいます。

和紙デザイナー 佐藤友佳理さん

「現代の住環境の中で、和紙というものは段々見られなくなっています。でも、その素材の魅力である儚さ・柔らかさ・繊細さ・温かみといったものは、時代を問わず、私たちの精神に寄り添ってくれるものだと思うんです。

その素材の魅力を、いかに現代的な表現へと変換し、磨き上げられるか。

そこで自分には何ができるだろうと考えて、新しい素材や、デジタルファブリケーション*など新技術を加える形で日々研鑽しています」

*デジタルファブリケーション:デジタルデータをもとに、なにかしらの創造物を制作する技術のこと
和紙の原料である楮(こうぞ)

現代の暮らしに求められる和紙づくり

その言葉の通り、「りくう」では、ゼオライトという鉱石を用いた「呼吸する和紙」や、3Dプリンターを活用した「立体手漉き和紙」など、これまでにない形状や表現で、現代の暮らしに求められる和紙の可能性を追求してきました。

(c)ITOMACHI HOTEL 0   photo by Yoshiro Masuda
(c)ITOMACHI HOTEL 0   photo by 山山写真館
愛媛県鬼北町の泉貨紙(せんかし)保存会の協力の元、デジタルファブリケーションを駆使し、立体的な和紙の表現の幅がぐっと広がった

「手仕事の世界では量を追い求めることが難しいので、価格の折り合いがつかないケースも多くあります。その結果、生業として立ち行かなくなったり、後継者不足の問題が起きてしまったり。

『りくう』が目指したのは、小〜中量生産で、見たことのない新規性があるものや、心の癒しに作用するような品質の高いものをご提供するということでした。

少々高価でも、皆さんに納得して頂けるような価値のあるプロダクトを作ることを心がけ、そこに共感してくださる方の元へ届ける。それが、『工芸』が生き残る一つの道だと思っているからです」

耐熱ボトルで楮を約2週間漬けこむことで、ゼオライト鉱物が楮繊維に付く
ゼオライト鉱物が付いた状態の楮を観音水に溶かし、和紙を漉くことで、「呼吸する和紙(ゼオライト和紙)」に。湿度調整や消臭機能、独特の透明感などの付加価値を和紙にもたらしている

3Dプリンティングで広がる和紙の表現

そんな中、主に3Dプリンティングの技術を用いて「りくう」のものづくりを支えているのが、佐藤さんのパートナーでもある寺田天志さん。

寺田さんは東京都文京区にある都立工芸高校で、アナログとデジタル双方を行き来するものづくりを学び、一旦は3Dモデラーとして企業に就職し、車の3Dモデリングを担当。次第に、その技術を活かして自分の手でものづくりがしてみたいと考えるようになり、その手段として当時登場したばかりの3Dプリンターに着目しました。

その後、徳島県神山町に移住。3Dプリンターを用いて、国の重要無形民俗文化財にも指定されている「阿波人形浄瑠璃」のプロジェクトに携わるようになります。

寺田天志さん

「最初に 浄瑠璃人形を見たときに、カシラの形状が車の形状と似ていて、車のモデリング技術を活用すれば『3Dプリンターで作れそうだな』と思ったんです。それで実際に作ってみて、職人さんに見せに行ってみると、『精巧にできている』と評価してもらえて。

その職人さんが凄くオープンマインドな方で、僕がプリンターで作った人形にナイフを入れて修正してくれたりして。気付いたらその人の弟子のような感じになっていました。

実際の人形師の方に受け入れてもらえて、凄く励みになりましたね」

3Dプリンターの強みは、複製ができること。寺田さんが作った浄瑠璃人形は、地域の学校の授業などにも活用されているそう。

「本物の人形は文化財で触ることができないので、3Dプリンターで精巧に作ったものを近くで見て、触ってもらい、伝統文化について知るきっかけにしてもらっています」

人形師とほぼ同様の組み立て体験ができるキットの制作に携わる

「最近では、漫画ONE PIECEが原作の新作人形浄瑠璃*でも人形を制作しました。次世代に人形浄瑠璃を継承するための、現代にフィットした浄瑠璃舞台。そこに3Dプリント技術を活用して人形を供給する現代的なメソッドが確立できたのは、人形制作の保険的な形として意義のあることだったかなと思っています」

*熊本の清和文楽館で2024年3月末~上演中(2024年7月現在)。熊本県の重要無形文化財である「清和文楽」(人形浄瑠璃)の魅力を、新しい世代や海外の方などにも知ってもらい、後継者育成等につなげるための取り組み

人形作りを通じて3Dプリンターの扱いや素材の理解を深めていった寺田さん。同時に伝統工芸の面白さにも惹かれていきました。

ちょうどその頃、「立体に和紙を漉きたくて、3Dプリンターを扱える人を探していた」という佐藤さんと出会い、「りくう」の和紙づくりの挑戦が新たな段階に進み始めました。

新たな道具、技術を手にした二人は、和紙の新しい表現をより一層追求できるようになっていきます。

「りくう」と中川政七商店が共に作った「立体手漉き和紙の一輪挿し」
寺田さんの3Dモデリング技術を活かして成型された立体のベースに、佐藤さんがひとつずつ手で和紙を漉いていく。「曲面」を漉くことは非常に難しい
少しずつ漉いて、天日干しで乾かして、また少しずつ漉くという方法で、繊維がすべての面に定着するように工夫している。非常に時間を要する作業
片面ずつ漉いていくが、気を付けないと反対の面を漉いたときにもう片面の和紙繊維が剥がれてしまう。慎重に少しずつ漉いていく
非常に繊細な設計でベースを出力している
3Dプリンターでの制作はその都度、素材や機械の設定を全て実験しながら進めていく、とても根気の必要な作業。段々とノウハウが溜まり、やれることの幅が広がってきたそう
真鍮の持ち手をつけるための穴も、すべて手作業であけている

和紙の「今」に向き合い、産地や人に良い影響を

佐藤さんは元々、和紙の産地として知られる愛媛県 内子町五十崎(いかざき)の出身。生家の近くにも和紙の工場があり、小さい頃からその存在を身近に感じていました。

「ショップもあったので、好きな便箋や巻物状の和紙を買ってきて、筆で絵や手紙を書いていました。少し絵具が滲む、あの和紙独特の使い心地が好きで。

五十崎では、毎年5月5日(こどもの日)に和紙で作った凧を上げる大凧合戦という催しもあって、図工の授業で自分の凧を作ったり、大凧に、スポンサー企業のロゴや文字を描くアルバイトをしたりして、楽しかった記憶があります」

一方で、伝統的な和紙づくりの知識や経験を積んでいない自分が、果たして和紙に関わって良いのだろうかと、凄く葛藤があったとも話します。

「愛媛に戻ってきて14年。そのことについてはずっと考え続けています。でも今は、自分には自分の役割があると、少し納得して前に進んでいるところです。

デジタルファブリケーションを取り入れることもその一つ。

デジタル技術はこれからの工芸の表現方法を押し上げ、広げてくれるものとなっていくはずです。 率先して新技術を取り入れ、その恩恵を暮らしに実装・還元していくことが、私たちにとって何よりワクワクする挑戦だと感じています」

明間集落
祖父母の家の中にも、和紙が使われている

「綺麗な水を飲ませてもらい、和紙を漉かせてもらえることを当たり前だと思わないように。豊かな自然、土地の恩恵に改めて感謝しながら、私たちが出来る目の前のことに集中し、これからも一生懸命に取り組んでいきたいと思います」

かつて、祖父母が暮らし、自身もお盆や正月に帰省した思い出の土地。そこで自分たちが「今」に向き合い、活動し続けることで、土地や工芸に携わる人たちに何か良い影響を与えられると嬉しい。 そんな想いで、「りくう」の二人はこれからも進んでいきます。

<取材協力>
りくう

文:白石雄太
写真:田ノ岡宏明

<関連する商品>
・立体手漉き和紙の一輪挿し 吊り型
・立体手漉き和紙の一輪挿し 置き型

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和紙の“あたりまえ”を取り戻す。越前和紙の老舗・山次製紙所

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。その可能性を探るため、ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「和紙」のものづくり。

古くから、文字を書き記すための道具にとどまらず、茶道の懐紙、障子や襖紙、提灯、紙幣、祭事の道具など、暮らしのあらゆる場面に使用されてきた和紙。

今や時代はうつろい、洋紙の登場やライフスタイルの変化を受けて、暮らしの中で和紙を見かける機会は少なくなってしまいました。

そんな中でも、和紙が持つ素材の魅力、職人の技術には、今の日本の暮らしを豊かにする可能性がある。そう信じて和紙と向き合い、各産地で挑戦を続ける作り手たちがいます。

和紙のイメージをぐっと広げるもの。和紙本来の魅力を再認識できるもの。 今まさに新たな挑戦が”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ和紙を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。

和紙なんて、そもそも「あたりまえ」のもの

1500年の歴史がある「和紙のふるさと」、福井県越前市。 その地で明治元年に創業した山次製紙所は手漉きにこだわりを持ち、日々、美しい彩色や装飾が印象的な美術小間紙(びじゅつこまがみ)を手がけています。

同地区に紙漉きを伝えたとされる「紙祖神」川上御前が祀られた大瀧神社
山次製紙所の工房

同社のWEBサイトに記されているのは、「和紙を今の時代の『あたりまえ』にしたい」という言葉。そこにはどんな想いが込められているのでしょうか。

山次製紙所 山下寛也さん

「そもそも、『あたりまえ』のものなんですよ。和紙なんて」

そう話すのは、山次製紙所の伝統工芸士 山下寛也さん。

「書くためだったり、包むためだったりに普通に使われていたもの。それこそ、昔は47都道府県すべてに紙漉き屋さんがあったはずで。

その中で、たまたま越前和紙は今まで残ってきたというか。 ただただ、あたりまえの仕事を、あたりまえに続けてきただけだと思ってるんです」

ずっと変わらない技術や道具で、和紙づくりを「あたりまえ」に続けてきた

かつての日本の暮らしにとって、本当に身近なものだった和紙。その当時からの技術や道具を継承し、手漉き和紙を作り続けている山下さんたちにとって、確かにそれは「あたりまえ」のものなんだなと感じます。

大瀧神社の灯篭にも越前和紙が使われている

一方で、日常生活であまり和紙に触れていない人たちにとってみると、やはり「特別なもの」なのかもしれません。

「そこを、もう一度あたりまえに戻していきたいんですよ。

気付いたら『工芸』とか『伝統文化』とか、持ち上げられるようになって。

産地としては今まで通りのことをやっているだけなのに、ハードルが上がってしまったなぁ、とは思いますね。

結局は、紙がどんどん使われなくなってきているということなので。その上で、どうやって残していくのかを考えていかないと」

和紙づくりに欠かせない、トロロアオイの「ネリ」

これまで脈々と続けてきた、良いものをあたりまえに、ちゃんと作るということ。しかし、それだけでは残っていけないという現実も、見据えています。

「あえて他産地との違いを考えると、越前は、ビジネス的な考え方を持ち込むのが早かったと思っています。数字をきちんと重視してきた。外部のデザイナーとコラボしたり、海外進出に挑戦したり。

だからこそこの規模で残ってこられたし、逆に言えば、それでもこれだけしか残っていない。もっとほかにやり方があるんだろうなと、考えています」

越前和紙独自の「ひっかけ技法」に使用する金型

和紙の原料と言えば「楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)」が代表的です。実は、これらの植物の一部分、靭皮(じんぴ)繊維と呼ばれる表層のわずかな繊維だけが、和紙づくりに使用されています。

希少な原料のため、それだけで紙を漉くとやはりコストが合わないケースも出てきます。

たとえば、お酒などのラベル。商品の顔としてしっかりと質感を出したいけれど、そこまでコストはかけられません。この場合、山次では必要に応じて洋紙に使われるパルプ繊維を組み合わせて漉いているのだそう。

厚みをパルプで出して、表面は楮などの繊維で漉いてコーティングする。そうすることで和紙の質感は保ちつつ、適正価格に抑えることが可能です。 こうした合理的な対応も、手漉き和紙が存続するためには大切なことだと考えています。

和紙を身近に感じてもらう入口に。山次独自の技法「浮き紙」のプロダクト

和紙を身近に感じてもらうために、山次製紙所では日常に馴染む和紙プロダクトを展開しています。

「浮き紙」の茶缶シリーズ
カードケース

和紙に凹凸をつけ、さまざまな柄を表現できる「浮き紙」という独自技法の和紙で、茶缶やカードケースを制作。各所で評判を呼び、これらのプロダクトがきっかけで問合せがくることも増えたのだとか。

「この業界では、問屋さんの見本帳に載らないと流通に乗っていかないのが基本です。

でもこれからは、それだけでは駄目だと思って。どうにか“もの”で見せていけたらとずっと考えていました。

自分たちが自信を持っている『浮き紙』というものを、どうにかして伝えていきたいなと。特に茶缶は、かなり一人歩きしてくれたというか、和紙の魅力を営業してくれていると思います」

通常のエンボス加工と比べて、シャープではっきりとした凹凸加工が可能。以前は、線や丸といった単純な柄しか作れなかったが、技術改良で複雑な柄も可能に。浮いているように見えるところから、山下さんのお父さんが「浮き紙」と命名した
今回、山次製紙所と中川政七商店で作った「浮き紙の扇子」。くっきりとした陰影がアクセントに
アイスキャンディーをモチーフとした団扇も

紙を漉く仕事自体を増やすことが、技術継承の要になる

プロダクトから和紙の魅力が伝わり、その結果としてOEMで紙を漉く仕事が増えていくことが必要だと、山下さんは話します。

「たとえば、原料の作り方みたいな部分は、レシピをきちんと記しておけば残していけるかもしれません。

でも、手で紙を漉くという技術に関しては、体験してみないと分からないので。

うちには、紙漉きのことが本当に好きだという若い子たちが来てくれています。 その子たちにちゃんとお給料を払って、そして技術継承していこうと思うと、紙を漉く仕事がたくさんないと厳しい。

やっぱり紙自体が売れないと駄目なんです」

紙漉き職人の女性。商品デザインも担当している。紙を漉くことが本当に好きだと話す
こちらも、山次製紙所で働く女性。若い世代が現場にいる光景は心強い

「それに、僕たちが紙を漉き続けないと、道具を作る人もいずれいなくなってしまいます」

桁(けた)や簾(す)といった、手漉き和紙づくりに欠かせない道具は、定期的に修理、メンテナンスしながら、何十年も使い続けるのだそう。

紙漉きの必需品「桁」
「簾」

職人によって、使いやすいサイズが違ったり、桁と簾の相性があったり、個別の状態に対応するには豊富な経験と高い技量が必要。しかし、道具の制作と修理だけで生活していくことは、今の時代現実的ではありません。

道具を作れる人、修理できる人は年々少なくなってきているそうです。

山次製紙所の桁を修理している工房。普段は建具屋をメインに営んでいる
非常に繊細な加工で作られている「簾」。修理できる人は全国でも数名しか残っていない

手漉き和紙のプライドを持ち、現代の「あたりまえ」をつくる

「『浮き紙』については、もっと知ってもらうためにデザイン公募の取り組みを始めました。採用されたデザインは、手漉き和紙として仕上げて、11月に行われる工場見学イベントRENEWで展示する予定です」

毎年応募したくなるように審査員の入れ替えなどを工夫していく予定とのこと。どんどん新しい層に浮き紙を知ってもらうきっかけになることを目指しています。

「『浮き紙』だけじゃなくて、たとえば、越前和紙の伝統技法である『透かし』。これについても、魅力をきちんと伝えていくために、プロダクトを考えているところです。 今まで知らなかった人たちが、和紙に気づいてくれる機会を作る。そこで、こんな紙もあるんですよ、と差し出していければ」

現代のクリエイターやデザイナーのアイデアで、新たに面白い和紙が生まれることを狙う

「ここ最近、仕事って面白いなって、思えるようになってきたんです。

普通のことをいつも通りやっているというのは変わらないんだけど、売り上げの数字もそうだし、認められるとか、褒められるとか、そういったことが増えてきたというか。44歳にして、ようやく(笑)。

だから、うちの若い子たちにも、もっと胸を張ってもらいたい。その方が面白いし、生きていきやすいと思う。紙漉き職人で、デザインもできて、人とコミュニケーションもできる。

それは凄いことで、あなたの強みなんだよと、伝えるようにしています」

伝統の技術や文化。経営的な判断。独自の技法。現代に馴染むプロダクト。若い職人の熱意や感性。デザイナーやクリエイターとのコラボレーション。

さまざまなことを考えながら、改めて手漉き和紙を現代の「あたりまえ」にする。そしてさらに新しい文化を築いていく。そんな山次製紙所の取り組みに、これからも目が離せません。

「手で漉いている。そこが僕たちの一番のプライド。原料の問題とか、考えないといけないことはたくさんあるけど、まずは手漉きをしっかり守っていきたいですね」

<取材協力>
山次製紙所

文:白石雄太
写真:田ノ岡宏明

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・浮き紙団扇 氷菓
・浮き紙扇子

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楽しみかたいろいろ。暮らしの道具「てぬぐい」

程よいサイズ感で使い勝手がよく、吸水性や速乾性にも優れている「てぬぐい」。

昔から、日本の生活の中で愛されてきた暮らしの道具です。

最近では、抽象柄・具体柄問わず多様な柄のてぬぐいが登場していて、そのデザインを楽しむことも大きな魅力のひとつとなっています。

その一方で、興味はあるけれど具体的な利用シーンが思い浮かばない‥‥という人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

ぬぐう、包む、巻く、飾る、隠す。

実は非常に多様な可能性を秘めているてぬぐい。おすすめの使い方を幾つかお伝えしていきたいと思います。

「ぬぐう」

て“ぬぐい”という名前にもあるように、何かをぬぐうことは基本の使い方のひとつです。端を縫製していない切りっぱなしのため乾きが速く、タオルやハンカチ代わりに持ち歩いたり、水まわりで使用したりといった場面で重宝します。

水まわりで使う時に、エプロンの腰紐にかけていただくと便利です。

1. エプロンの腰紐にてぬぐいをかけます。

2. ちょうどいい長さになるよう調整して完成です。

「包む」

お弁当箱や水筒、ワインボトルなどを持ち運ぶ際にも、てぬぐいが役立ちます。長さがあるので包むものの大きさごとに調整しながら使えることがポイントです。

ここではお弁当箱の包み方を見ていきます。

1. てぬぐいの両端を内側に折り、適度な長さに調節したら、お弁当をやや斜めにして中央に置きます。

2. 片側の角をお弁当箱にかぶせるように折り、もう片方も反対から同じように折って包みます。

3. 両端を持ち上げ、中央で結んだら完成です。

「隠す」

家の収納かごやバッグの中身など、あまり人には見せたくない場所にもてぬぐいが活躍します。シンプルなデザインのてぬぐいをたたんで被せるだけで、すっきりとした印象に。

ぜひ試してみてください。

1. 隠したいものの大きさに合わせててぬぐいをたたみます。重ねた際の、柄の見えかたにも気を配りましょう。

2. 隠したいものにてぬぐいを被せたら完成です。

「巻く」

家の中だけでなく、アウトドアシーンにもおすすめ。薄くてかさばらないだけでなく、気軽に洗えて乾きが早いのも、てぬぐいのいいところです。

夏の庭仕事やハイキングの際に首にくるっと巻いておけば、汗を拭いたり手をぬぐったりと重宝します。

1. 巻きやすいよう、てぬぐいを縦に細長くたたみます。

2. 首に巻いて両端を結び、ほどよい巻き具合に調整したら完成です。

「飾る」

多様な柄が魅力のひとつであるてぬぐい。インテリアとして、家の中の好きなところに飾っていただくのもおすすめです。

今回は、タペストリーとして吊るす方法をお伝えします。

1. てぬぐいを平らな場所に置き、形をととのえます。しわのある場合は事前にアイロンをかけておきましょう。

2. てぬぐい掛けで上辺と下辺を挟み込みます。

3. 飾りたい場所に吊るして完成です。

お気に入りのてぬぐいを暮らしの中に

最後にお手入れについても少しだけ。

てぬぐいは染物のため、洗濯を繰り返すと色が多少抜けてくる場合があります。余分な染料が抜けて、段々とやさしい風合いに落ち着いていきますので、その経年変化をお楽しみいただけると嬉しいです。極端な色落ちを防ぐために、洗濯前に必ず洗濯表示を確認してください。

端を縫製していないので、最初のうちは糸のほつれが出てきます。気になる場合は、ハサミで切っても大丈夫です。切って洗濯してを繰り返す内に生地の目が詰まり、自然と落ち着いていきます。

ここまで、てぬぐいの活用に関して幾つかの方法をご紹介してきました。他にも工夫次第でさまざまに使える素敵な道具だと思います。

ぜひお好みの柄、お好みの使い方を見つけて、てぬぐいのある暮らしを楽しんでください。

【イベントレポート】「職人さんを囲む食事会」~越前和紙「YURAGU」長田泉さん~

日本の各地で作られ続けている工芸の品々。

それらのものづくりを担う職人さんたちは、日頃どんなことを考えているのでしょうか。

実際に各工芸の現場を訪れて話をすると、そのこだわりに驚かされたり、新しい視点に気付かされたり、刺激を受けることがたくさんあります。

どのようにして技術を磨いてきたのか。風土や素材に対する想い。作り手から見た産地や工芸の特徴。なぜ職人を志したのか。

なるほど!と感動することもあれば、親近感を覚えるような場面もあり、気付けばそれまで以上に工芸や職人さんを好きになっている。そんな素敵な経験を、中川政七商店や「さんち商店街」のお客様にもぜひシェアしていきたい。その第一歩として、「職人さんを囲む食事会」イベントを開催しました。

■「職人さんを囲む食事会」~越前和紙「YURAGU」長田泉さん~

記念すべき一回目のゲストは、さんち商店街でも人気を博している越前和紙のアクセサリーブランド「YURAGU」を手がける長田泉さん。和紙の一大産地、福井県越前市で手漉き和紙づくりを続ける長田製紙所の5代目です。

長田製紙所 長田泉さん

会の前半は長田さんのトークセッション。越前和紙の歴史や特徴、長田製紙所やご自身の仕事のこと、YURAGU開発の経緯など、さまざまな内容を語っていただきました。

「この中で紙漉きを体験したことがある方はいらっしゃいますか?」

この問いかけに半数近くの手が上がるほど、和紙や工芸への関心が高い方々が集まった今回のイベント。

紙漉きの具体的な工程の話や、楮(こうぞ)・トロロアオイといった原料の話など、一般的には少しマニアックすぎるかも、といった内容にも、皆さん興味津々です。

和紙と聞くと、一般的には便箋だったり書道の半紙だったり、手元で使う小さなものをイメージするかもしれませんが、長田製紙所が得意とするのは部屋を仕切る襖(ふすま)に使用する襖紙。

最大で2×3mという非常に大きなサイズの紙を漉いているという説明に、和紙好きの方々も驚きを隠せません。

長田製紙所の工房の様子

「とても大きな紙なので、基本的に二人で漉いています」

そう話しながら、実際の写真や動画を交えて説明する長田さん。

ミリ単位の厚みを調整しながら均一に和紙を仕上げていくために、決まったマニュアルなどは存在せず、経験からくる「勘」が必要とのこと。その途方もない繊細さに会場からはため息が漏れていました。

■愛用品の物語を、作り手から聞く体験

その後もトークセッションは続き、和紙好きの皆さんに囲まれて、長田さんの話ぶりも徐々に熱を帯びていきます。

「和紙作りには、紙を漉いている場面以外にも本当にたくさんの工程があるんです!

原料を釜で煮て、ゴミを取って、繊維をほぐして、細かくして。色を付ける場合は染色もします。模様の付け方も様々で………

もっと詳しく喋ってもいいですか?(笑)」

和紙を愛するあまり、話がとめどなく溢れてくる長田さん。とにかく和紙が好きで、その素晴らしさをもっともっと伝えて、広めていきたい、という気持ちが伝わってきます。

長田さんの熱に打たれて会場も盛り上がる中、2023年に立ち上げたアクセサリーブランド「YURAGU」の話題へ。

「無地の襖紙だけを作っていたところから、曾祖父が柄ものを始め、祖母はバッグや雑貨づくりに挑戦し、父も新たな和紙作りを研究してきました。

『誰も作っていない紙をどんどんやろう!』という社風なんですよね。

そんな中で私自身、もっと気軽に和紙を使ってもらいたくて始めたのが『YURAGU』です。余剰の紙や原料を活用したい想いもありました。

砂や珈琲を練り込んだ紙を使ってみたり、色々な挑戦をしながら、凄く楽しんで作っています」

実際にYURAGUを愛用中の参加者も多く、深くうなづきながら話に聞き入っている様子が印象的でした。作り手からものづくりの背景の話を聞くことでより一層愛着が湧く、そんな体験になっていたように思います。

途中、長田さんが持参した新色や新商品の回覧もあり、「かわいい!」「素敵!!」といった声があちこちから聞こえてきました。

■好きなもので、作り手と使い手が繋がる場

トークセッションの後は質疑と懇談の時間。

和やかな雰囲気で会が進行する中で緊張もほぐれたのか、本当にたくさんの質問が投げかけられていました。

「和紙の需要について」

「海外で作られる紙との違い」

「家業を継ごうと決めたタイミング」

「世界に和紙を売っていく可能性」

「和紙の耐久性について」

専門的な質問も多く、その一つひとつにしっかりと答えていく長田さん。

質問も止まらなければ、それに答える長田さんも止まりません。

気付けばあっという間に予定の時間となり、名残を惜しみつつ閉会となりました。

作り手の想いを直接聞くことで、工芸やものづくりを更に好きになる。そんな特別な体験を届けたくて開催した今回のイベント。

その一方で、使い手に想いをぶつけることで、作り手側のモチベーションや自信が高まる機会にもなり得る。和紙という“好きなもの”で繋がった空間だからこそ、作り手・使い手、双方でポジティブな影響を与え合うことができる。そんな可能性を強く感じたイベントとなりました。

今後もさまざまな作り手さんと共に、プログラムなど工夫をしながら継続的に実施していければと考えています。

※さんち商店街「YURAGU」ブランドページはこちら※