2か月ごとに異なる日本を巡る。学生が本気で経営する地域産品ショップ「アナザー・ジャパン」開業

ある時は「地元」に帰ったような安心感を、またある時は「旅先」で感じるわくわくを。

東京駅に隣接する新しい街「TOKYO TORCH」の一画に、そんな不思議な体験ができる地域産品のセレクトショップ「アナザー・ジャパン」がオープンしました。

2027年度の正式開業に向けて開発が進むTOKYO TORCH街区

同店にはTOKYO TORCHの開発を進める三菱地所がプラットフォームを提供し、小売業のノウハウ教育と経営サポートとして中川政七商店が参加しています。

そして、プラットフォームと教育を提供された上で実際の運営を担っているのは、なんと全国から集まった18名の学生たち。

コンセプト策定から商品選定、仕入れ交渉、店頭での接客、売上管理やSNS等を通じたプロモーションまで、まさに店舗経営のすべてを学生たち自身の手でおこなっていることが、「アナザー・ジャパン」最大の特徴です。

取り扱う商品は、日本各地から選りすぐった地域産品の数々。

2か月ごとに特集地域と販売商品が入れ替わる仕組みで、九州・沖縄地方の産品を集めた”アナザー・キュウシュウ”を皮切りに、”ホッカイドウ トウホク”、そして”チュウブ”、”カントウ”、”キンキ”、”チュウゴク シコク”と続きます。

取材時には、初回となる”アナザー・キュウシュウ”が開催中(2022年8月2日~10月2日)。「宴」というテーマの元で集められた産品、約350点が出迎えてくれました。

「アナザー・キュウシュウ」で購入できる商品たち

お酒や酒器、おつまみなどを揃えた「宴の乾杯」、華やかなアクセサリーや洋服が並ぶ「宴の装い」、特色あるうつわを集めた「宴の宴席」などなど。店内の棚は「宴」にひもづくさまざまなシーンごとに分けられており、それらを巡りながら、九州・沖縄の魅力ある品々に触れ、買い物を楽しむことができます。

”アナザー・キュウシュウ” の商品をセレクトしたのは、九州・沖縄地域出身の3名の学生。

「自分たちの目で見て、職人さんと話をして、素直に良いと思ったもの、心に残ったものをセレクトしました」

そう話す彼女たちは、実に80日以上も現地に滞在し、商品のセレクトから仕入れ交渉までをおこないました。

熊本県天草に伝わる「天草更紗」の布。一度途絶えてしまったが、ひとりの職人によって復元されている
天草更紗を胸にあしらったTシャツを紹介する、長崎出身の山口さん

全国的に有名な焼き物もあれば、はじめて目にするような美しい布も。九州と聞いてイメージするものもあれば、予想外の驚きをもたらしてくれるものも。

改めて自分たちの出身地と向き合い、その魅力を全国に届けたいという純粋な衝動があるからこそのラインアップになっていると感じます。

長崎「瑠璃庵」 ステンドグラスのランプ。赤と白のアナザージャパンカラー
鳩笛や尾崎人形などの愛らしい郷土玩具も

実際のところ、地元の魅力を発信したいという学生の想いに心を動かされて、商品の取り扱いを認めてくれた作り手さんもいたそうです。

「”がんばってよ!”と逆に応援してくださる方もいて、本当にありがたい気持ちです。このお店で、商品や地域の魅力を伝えることが一番の恩返しになると思うので、気持ちを込めて販売していきます。

自分たちで選んで、交渉して仕入れている商品なので、思い入れも強く、色々とお話しできることもあります。ぜひ店頭で話しかけてください」

とのこと。各地域の産品が並ぶ店内をまわり、それらを選んだ学生たちのリアルな想いを聞く。そのことを通じて、実際の産地を巡り職人と触れ合った彼・彼女らの追体験ができる。そんな魅力を持ったお店だと感じました。

47都道府県の形状をかたどった木製絵馬のディスプレイ

各地域の産品が購入できるだけではなく、週末には手仕事の体験ができるなどのワークショップも開催。また、店内併設のカフェ「KITASANDO Kissa」では特集地域にちなんだ食材を活かしたメニュー等が提供されます。まさに一年中、さまざまな角度から日本を楽しむことができるお店となっています。

絵付け体験のワークショップ
ティー&コーヒースタンド「KITASANDO Kissa」(撮影:西岡潔)
企画展のスケジュール

その地域出身の人には懐かしく、そうでない人には新しい。訪れる人や時期によって異なる体験を味わえる、少し不思議なセレクトショップ「アナザー・ジャパン」。

地元や日本のことをもっと深く知りたい、もっと多くの人に好きになってもらいたいと集まった学生たちが本気で経営するお店です。ぜひ同店を訪れて、“もうひとつの日本”を感じてみてください。

アナザー・ジャパンプロジェクトについてはこちら

<店舗情報>
学生が経営する47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン
・営業時間 11:00~20:00
・住所 東京都千代田区大手町2-6-3 TOKYO TORCH銭瓶町ビルディング1階ぜにがめプレイス

ティー&コーヒースタンド「KITASANDO Kissa」
・営業時間 平日:8:30~21:30/土日祝:10:00~19:00

文:白石 雄太
写真:中村ナリコ

「本って、いいよね。」を増やしたい。本をめぐる環境を整えるため、悩み続けるバリューブックス

“値段はつけられませんが、それでもいいですか?“

読み終えた本を古本屋に持ち込んだとき、こんな風に言われることがある。

大事に読んできて保管状態は良く、思い入れもあったけれど、悩んだ末にスペースの関係で手放すことを決めた。そんな本に対してこう言われると、少し悲しい気持ちになる。

一方、引き取る側はタダで本を仕入れることができて嬉しいのかというと、実はそれも違う。

そもそも値段がつけられないのは、なんらかの理由でその本の販売が難しいから。引き取ったところで、そのまま古紙リサイクルに出さざるを得ないケースが大半だ。手間が増えこそすれ、利益になるということはない。

双方にとって嬉しいことはなにもなく、その本が再び別の誰かの手に渡ることもない。本が本として循環する道はそこで途絶えてしまう。

こう書くと少し大げさに聞こえるかもしれない。しかし、実際に捨てられていく大量の本を目の当たりにすると、きっと見方は変わる。

古本屋が目の当たりにした、捨てられる本の現実

「本の最後を見届ける、古本屋だからこそ気づくことがあります」

そう話すのは、長野県上田市に拠点を置く「VALUE BOOKS(バリューブックス)」で取締役副社長を務める、中村和義さん。

オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する同社の倉庫には、日々多くの本が届く。しかし、そのおよそ半数に値段がつけられないのだという。

VALUE BOOKS 中村和義さん

値段がつけられない一番の理由は、需要と供給のバランスが崩れてしまっていること。発売時にたくさん印刷された本ほど、数年後に中古市場に出回る数も多くなる。そのタイミングでは発売時ほどの需要はなく、供給過多で販売が難しくなってしまう。

「本そのものの価値は変わらないんです。今でも読みたい、手に取れば面白い本がたくさんある。それを何もしないままリサイクルに回すのはしのびない。何かできないかという想いが強くあります」

古紙リサイクルに回される本たち。コンテナいっぱいの本が、一日に一度回収される
日々大量の本が送られてくるVALUE BOOKSの倉庫

保育園や小学校等に本を寄贈する「ブックギフト」、運営する実店舗での取り扱い、パートナー企業のチャネルを介しての販売。同社では、送られてきた本をできる限り本として活用するために様々な取り組みをおこなってきた。

「“従業員の子どもが通う保育園に持っていこうよ!”と、最初にはじめたのが『ブックギフト』です。

ありがとうと言ってもらえればやりがいにもなりますし、最初に本を送ってくれた人たちも、本が必要とする誰かの手に渡ることを喜んでくれる。

コストは発生しますが、それでも“みんなにとってそっちの方がいいよね”と決めて、今も続けています」

上田市にある実店舗のひとつ「VALUE BOOKS Lab.」。“捨てたくない本”ということで、オンラインで値がつけられない本をアウトレット価格で販売している。思わぬ掘り出し物に出会えることも

適切な価格で本を買い取るためにはじめた「送料“有料”化」

送られてきた本をできる限り捨てないというアプローチに加えて、本の買い取り率を向上させる施策にも取り組んでいる。買い取り希望の本を送ってもらう際に、送料無料をやめたこともその一環だ。

倉庫内の様子。本の査定や仕分け、発送などあらゆる業務が効率よく進められるかどうかが最重要

送料無料であれば、“値段がつくかどうか分からないけど、とりあえず送ってみよう”と、気楽に本を送ることができる。しかし、実際のところ無料となった送料は引き取る側が負担している。

その状態で販売できない本がたくさん届いてしまうとコストだけがかかり、その他の本の買い取り金額を圧迫してしまう。

販売できない本が負担となり、適切な価格で本が買い取れない。そんな悪循環を改善するために、 バリューブックス は業界の中では異例の“送料有料”に踏み切った。

「きちんと送料をいただく代わりに査定の基準を分かりやすく提示し、簡単に概算金額を算出できるスキャンシステムなども導入しました。

送料がかかってしまう分、きちんと選別した本を送っていただく。その前提で、買い取り金額自体を従来の1.5倍程度に引き上げました」

査定中の様子。こうした業務システムも自社開発している。効率よく、スピーディーに作業できるほど、買い取り価格にも還元できる

結果、送る側の意識も変わり、買い取れる本の割合が10%以上増えたそう。それでも、まだまだ多くの本を捨てるしかない現状はある。

「できる限り、 バリューブックス が活用できる本を送ってもらえるとありがたいです。とはいえ、本自体に罪はなく、どの本も送ってくれた皆さんにとっては思い入れのあるものだと思っています。

極力、本は本のままで次の読み手に渡った方が幸せだと思うので、そのために色々な方法を考えてあがいている最中です」

古本屋の枠組みを超えて動き続ける理由

古本屋として目の当たりにしてきた現実を、少しでもよくしようと模索する バリューブックス 。今年15周年を迎えた同社ではこれまで、上記で触れたこと以外にも実に様々な活動をおこなってきた。

中古バスを改造した移動式書店「ブックバス」、古紙回収に回った本を再生した商品開発、最近では自社での出版・流通事業まで。古本屋としての枠組みを超えた多岐に渡る取り組みの先に、どんな未来を描いているのだろうか。

実店舗「本と茶 NABO」の外観
店内にはカフェスペースも

「弊社は“日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える”というミッションを掲げていますが、もっとシンプルに言えば、“本っていいよね”ということ。

そんな本をより多くの人が読んだり、楽しんだり、それが学びになったり、そんな世界になったらいいなと思っています」

ミッションの“環境を整える”という部分には、自分たちだけではやれないという想いも込められている。

「本は多くの人が手に取るものだし、どんな分野に対しても接続できるものです。とても多くのプレーヤーが関わって、本をめぐる環境というものが出来上がっています。

成熟した業界だけどまだまだ歪な部分も多く残っていて、そこにはよりよい最適解がきっとあるはず。多くの人と協力して少しずつ整えていきたいですね」

新刊市場と中古市場のよりよい関係を目指して

たとえば、一次流通と二次流通の分断は大きな課題のひとつ。出版社や著者の立場からすれば本は新刊で買ってもらうことが重要で、いかに発行部数を伸ばせるかが肝になる。中古市場でいくら本が流通しようとも、彼らには何の収益も発生しないのだから当然だ。

もし、この新刊と中古本のビジネスをうまくつなげることができれば、需要と供給のバランスが大きく崩れて捨てられてしまう本を減らせるかもしれない。ここ数年はそんな取り組みもはじまっている。

出荷前の本
同封される納品書の“ウラ書き”には、おすすめの本の情報などが記載されている。購入した人が新たな本に出合うための工夫のひとつ

「たくさんの中古本を取り扱う中で、特定の出版社さんの本はいつも安定して買い取れるということに気づきました。

こういった本が増えれば、よりよい循環が生まれるのでは、と思って始めたのが『VALUE BOOKSエコシステム』です。

今のところ4社だけのトライアルにはなりますが、その出版社さんの本が バリューブックス で売れた場合に、売上の33%を還元しています」

中古本市場での売上が、新刊業界にも還元される。今はまだ試験段階だが、この関係性が浸透していけば、最初から二次流通のことも考えた出版がおこなわれるようになるかもしれない。そんな可能性も感じられる。

「そうなれば理想ですが、実際はまだまだ。これが正解の形なのかもわかっていません。この取り組みで出版社さん側のビジネスがうまく回る、というところまではいけていないので。

最初に本をつくっている人たちがいるからこそ、僕たちも存在できている。そこに対して何かよりよい形はないだろうかというのはずっと考えています」

15周年を迎えたVALUE BOOKSが、現在の自分たちと本を取り巻く環境を落とし込んだイラスト。中央がVALUE BOOKS。向かって左側の本を作る人たちと結ばれた線が非常に薄く表現されている。“ここを太くしていきたいんです”と中村さんは言う

“本っていいよね。”を増やすために

自社で出版事業をはじめたのには、自ら一度モデルケースを体感することで、二次流通まで含めた本の売り方を模索する狙いもある。

「実店舗のNABOやLABもそうですが、まず自分たちでやってみる。それが成り立つことではじめてほかの人を巻き込んで次の段階にいけるというか。

出版から二次流通、そしてその先まで考えてやってみて、それで成り立つのであれば、今よりもっと持続可能な社会に近づいていけると思うんです」

NABOに入ると実感する、古本のセレクトショップならではのラインナップ

人によって本に触れる場所はさまざまで、その環境が多種多様であれば、より多くの人が本と出合えるはずだ。

中古書店だからこそ見つけられた本をきっかけに、次はその作者の新刊を買う人もいる。保育園や学校の図書室で出会った本がきっかけで、読書の楽しみに目覚める子どもたちもいる。

本が社会をうまく循環することで、本との出会いが増え、本を必要とする人が増えていく。

「一気には変わらないので、ちょっとずつ、ちょっとずつ。いろいろな人たちと関わって模索しながら、いい循環をつくっていけると理想的です。

これまでお話しした取り組みも、すべてうまくいっているわけではなくて、むしろできていないことがたくさんあります。そんなギャップを抱えながら、それでもよりよい未来のために、腐らずにやっていくしかない。

本当に少しずつですが、チャレンジは続けられているのかなと思います」

日頃から本を読み、楽しんでいる私たち自身も、本を取り巻く環境の一部。本がどうやってつくられて、どんな最後を迎えているのか。改めてイメージしてみると、どこで買うのか、どこで読むのか、誰に譲るのか、一つ一つの選択もきっと変わってくる。

古紙になってしまう本を減らしたい。そして、“本っていいよね。”を増やしていきたい。そんな未来に向かって、 バリューブックス は今日もブレずに悩み続けている。


<取材協力>
「VALUE BOOKS」:https://www.valuebooks.jp/

※VALUE BOOKS×中川政七商店コラボキャンペーン実施中※
中川政七商店では、本の循環する社会を目指すVALUE BOOKSの取り組みに共感し、応援したいと思いました。読み終えた本をVALUE BOOKSにお送りいただくと、中川政七商店で使用できるクーポンが付与されるキャンペーンを実施中です。ぜひこの機会にご利用ください。

キャンペーン詳細はこちら

文:白石 雄太
写真:中村ナリコ

裏も表も前後もないTシャツが、子育てを少し穏やかにする

近頃、娘のやる気が高まっています。

もうすぐ3歳になる娘。

「あれなに? これなに?」
と、なんでも知りたがる 期間を経て、

「あれやる!これやる!」
と、なんでもやりたがる期間に突入。

成長を感じて嬉しい反面、“なんでも”の中にはやってほしくないことも含まれていて、喜んでばかりもいられません。

「それは触っちゃだめ!」
「口にいれないで!」
「キッチンは危ないから来ちゃだめ!」
「ボールじゃないから投げないで! 」

毎日こんな調子で注意することも増え、お互いにストレスが溜まります。

また、頑張っていることを黙って見守りたいのはやまやまですが、つい横から口を出してしまい、それが娘の逆鱗に触れることもしばしば。

「自分で!自分でやるの!!」
―よし、頑張れ、頑張れ。

「できない!できない!!」
― あ、こうやった方がいいよ。

「自分で!自分で!! 」
― いや、だからこうやった方が…

「ぎゃー!!(号泣)」
― ……。

そんなこんなで楽しくも大変な子育てですが、せっかく娘のやる気が高まっているこの機会に挑戦してみたいことがありました。

それが“ひとり着替え”。

はじめての“ひとり着替え”にうってつけ。裏も表も前後もない子ども用Tシャツ


お兄ちゃんの見よう見まねで服を脱げるようにはなっていたので、そろそろ挑戦しても良いかなというタイミング。

ただ、本人は服の前後や裏表なんかがいまいち分かっておらず、それを指摘するとまた拗ねてしまうかも、というのが懸念材料でした。

そこで今回娘に着せてみたのが、「裏表がない注染Tシャツ」。

裏表がない注染Tシャツ

名前の通り、裏表がないつくりになっていて、子どもが間違えることなく脱ぎ着できることが最大の特徴です。

かわいらしい動物の絵柄は、裏表関係なく染められる「注染」という染色技術で描かれており、どちらの面も美しい仕上がりに。

裏返すと、色が反転して楽しめる


Tシャツ本体は、大阪・泉州のブランド「HONESTIES」(オネスティーズ)さんのもの。特殊な縫製技術で裏表どころか前後もなくした、「どう着ても、正しく着られる」Tシャツです。

これなら、娘の思うままに着ても失敗しない!ということでさっそくチャレンジしてみました。

成功体験をきっかけに、少し自信を持った娘

大好きな猫の絵柄

いきなりすべて自分でというのはハードルが高いため、今回はズボンと肌着は着せた状態からスタート。

「にゃんにゃん!泣いてるのかな?」

絵柄に興味津々で、良い感じ。自然とTシャツを手に取って、まずは頭を入れていきます。

いい調子!

普段なら、色々触っているうちに裏表がひっくり返ってしまったり、前後を間違えたりしてしまうのですが、なにしろ裏表前後が無いのでなんの心配もありません。

「上手~! !すごいね~!」
親バカ全開で気持ちよく応援しながら見守ります。

次は腕を入れて…
あれ?
冷静に!

予想外のミスに一瞬慌てる場面もありましたが、褒められて気分が良かったのか諦めずに自力で修正。無事に最後まで着ることができました。

着れた!

猫の絵柄が後ろに来るように着たので「にゃんにゃんがいないー! 」と泣きそうになるも、「後ろにいるよ」と教えてあげると、「後ろにいるー!」とニコニコ。

実際のところ、Tシャツを一枚着れただけではあるものの、本人にとってはとても嬉しかったようで、この日は終始ご機嫌でした。

気分を良くしたのか、突如絵本を読み聞かせてくる
終始ご機嫌です。娘はちょうど100cmくらい。サイズは90-100のものを着ました
せっかくなので、猫を前にして着なおしてみた

穏やかに見守る素晴らしさ。親にも嬉しい体験に

最初は、洗濯の際に何も考えずに洗えることが、親側の一番のメリットかなと思っていました。

それも間違いなく大きなメリットですが、実際に着せてみた後は、娘が自信を持つきっかけになったこと、それを見守れたことが何より大きかったと感じています。

「どう着てもいいんだ」という余裕が親の側にもあることで、少し間違えそうになっても余計な口出しをせず、ストレスを感じること無く見ていられました。

別日に着た「犬」バージョン


引き続きやる気に満ちている娘。今後も色々なことができるようになっていくその過程をなるべく穏やかに、娘の成長を信じて見守ることを心がけていきたいと思います。

<掲載した商品の一覧ページはこちら>
裏表がない注染Tシャツ

文・写真:白石雄太

【わたしの好きなもの】ミントスプレー

夏の必需品は、眠気覚ましにも最適!

毎年夏になると持ち歩くミントスプレー。
シュッとひと吹きしたらひんやり。冷たいものをあてて冷やすのとは違って、清涼感を与えてくれます。
私は腕の内側にかけるのがお気に入りで、真夏の汗ばむ日中に爽やかな気分にしてくれます。



そして、私にとって最大の効果を発揮してくれるのがドライブです。
車の運転が好きで、遠出をすることもしばしば。しかし休憩しながらでも長時間のドライブは疲れるもので、そういう時に首の後ろにひと吹きすると、シャキッ!!と疲れがすっきりとれる感じがします。着けた後は、じわーっとやさしい湿布をしている感覚にります。



病院や整骨院でも取り扱いのあるマッサージ用のジェルと同じ成分でつくられているので、 首から肩にかけてマッサージ用としても安心して使えます。
頭と目もすっきりして、この使い方は夏限定ではなく、仕事中にも年中お世話になっています。 ガムやコーヒーなど、いろいろなリフレッシュの方法がありますが、私にはミントスプレーが一番効果があるんです!この効果を流用して、子供の勉強中にも使ったり(笑)

最近では、マスク生活にも活用中。


除菌効果ではなく、香りでマスクが爽やかに使えたらいいなーと思って、マスクの外側に吹きかけて、揮発するのを少し待ってから着けてみると、マスクの嫌な匂いもなくなって、メントールのスッとした香りで清涼感のあるマスクに。
(※内側にかけると刺激が強いので、外側に少しずつ調整しながらお好みでご使用ください。)


手のひらサイズでバッグに入れて気軽に持ち歩けるし、今年も夏の必需品として大活躍中です!

編集担当 平井

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ミントスプレー

やわらか立体ガーゼマスク 普通サイズ

“穴”を開けることで美しくなる。異色の技法が生む「ボーラレース」


衣服、寝具やインテリアなど、さまざまな場面で私たちの暮らしを支え、彩ってくれる「布」。改めてそれらを眺めてみると、実に多様な特徴を持っていることに気づきます。

気候や文化、つくり手の工夫などの影響を受け、日本の各地で個性豊かな「布ぬの」が生まれてきました。

その魅力を多くの人に知ってもらいたい。好きになってもらいたい。そんな想いで「日本の布ぬのTシャツ」をつくりました。

今回選んだ3つの「布ぬの」の歴史や特徴、つくり手の想いを取材しています。ぜひご一読ください。

富山のレース工場 ルジャンタンがつくる刺繍レース

ボーラレースを中央に配置した「布ぬのTシャツ」

今回は、富山県のレース工場ルジャンタンがつくる「ボーラレース」を紹介します。その名前の通りレース生地の一種ですが、一体どんな「布」なのでしょうか。同県小矢部市の工場を訪ねました。

富山県小矢部市にある株式会社ルジャンタン

「ボーラレースは、穴の開いたレース生地のことです。ボーラというのは、生地に穴をあける錐(キリ)のことですね」

そう話してくれたのは、ルジャンタン代表取締役社長の髙畑剛さん。元々勤めていたレース工場が閉鎖したことを受けて1987年に同社を創業。30年以上にわたり、小矢部の地でレース生地を手がけてきました。

ルジャンタン代表取締役社長の髙畑剛さん

カーテンや布団のシーツ、女性の衣服などのイメージがあるレース生地ですが、大きくは機械レースと手編みレースに分類され、機械レースはさらに幾つかの種類に分かれています。

ルジャンタンの工場内。左右に見えるのがレース機
複雑な柄も見事に表現できる刺繍レース

その機械レースの中で同社が専門としているのが、生地に刺繍をするタイプの「エンブロイダリー(刺繍)レース」と呼ばれるもの。

「ボーラレース」も刺繍レースの一種で、生地に穴を開け、その穴を糸でかがりながら刺繍を施していきます。

錐(ボーラ)で穴を開け、その周囲をかがって刺繍していく

人間の根源的欲求につながる「ボーラレース」の美しさ

同社 専務取締役の髙畑哲さん曰く、「ボーラレース」の魅力は「豪華で高級感のある仕上がりになる」こと。

かつて車のシートカバーにレース生地が多く用いられていた時代にも、「ボーラレース」は高級感があるということで好評だったそうです。

ルジャンタン専務取締役の髙畑哲さん

「諸説ありますが、紀元前の頃から衣服の穴をかがって繕うということがおこなわれていて、そこから発展したものがレース生地であるとも言われています。

穴を上手に活かして美しく見せるというのは、どこか人間の根源的な欲求につながる行為・デザインなのかもしれないですね」と哲さん。

剛さんも「そう考えると、穴をかがってつくる『ボーラレース』こそ、最もレースらしい特徴的な生地と言えるのかもしれない」と応えます。

生地に穴を開けるという異色の技法でつくられる「ボーラレース」
「日本の布ぬのTシャツ」に使用した生地

熟練の技が必要な”パンチング”という工程

「ボーラレース」も含めて、ルジャンタンの刺繍レースは、基本的に専用のレース機を用いてつくられます。機械とは言っても、その設定やデザインデータの作成は難しく、一筋縄ではいきません。

デザインが決まったら、そのデザインを刺繍でどうやって再現するのかという設計図のようなものが必要です。そのための工程がパンチング。

機械が刺繍する際にどんな順番で、どれくらいの間隔で針を入れていけばデザインを忠実に表現できるのか。それを頭の中でシミュレーションして、実際に手縫いで針を入れているかのように入力していく作業になります。

6倍のサイズで出力したデザインを、専用のシートにトレースした後、ペンのようなもので一点一点、針の場所を打っていく
パンチングによって取り込まれたデータ。どんなに複雑な柄でも、すべて一筆書きでつながっている必要がある。非常に緻密な作業
複雑な柄であればあるほど、パンチングの難易度も上がり、時間も必要になる
レース機で動かせるプログラムの関係上、データはいまだにフロッピー保存とのこと

実際にパンチングが完了し、データ上は完璧な設計図ができたと思っても、いざレース機を動かしてみると思ったような仕上がりにならないことも多いといいます。

「規則正しいシンプルな柄の繰り返しの場合、パンチングを打つ回数は少なくなりますが、いざ機械を動かしたときに柄のズレが目立ちやすい。

刺繍していくとどうしてもベースの生地を引っ張ってしまうので、コンピューターの画面通りというわけにはいきません。画面上はわざとズラしたデータをつくって、それでやってみたら仕上がりは上手くいった、ということもあります」(哲さん)

規則正しい柄の場合、生地の伸縮によるズレが目立ちやすく、機械の微調整が重要になってくる

素材の生地の厚さ、伸縮性、刺繍糸の太さや生地との相性。こういった条件によって仕上がりは毎回変わってくるそうで、機械側の設定をこまかく調整できなければ成り立たないとのこと。

「デザインや素材が変わった場合、必ず機械をさわります。糸のしめ方、針の種類、ボーラの大きさ。すべて調整します。太い糸の刺繍は特に難しいので、機械のさわり方を分かっていないとなかなかできないと思います」(剛さん)

機械の細かい調整にも経験と技が必要

ものづくりの取材に行くと職人さんはみな、さまざまな道具を自分たちの手になじむように調整し、カスタマイズして使っています。今回のレース機も、その意味ではまさに職人の道具と言えるもの。

長年使い込まれた機械が、手入力されたパンチングデータをなぞって刺繍を施していく。その様子を眺めていると、そこに熟練の職人の姿が浮かんでくるような不思議な感覚を覚えます。

富山で刺繍レースをつくり続ける理由

従来から繊維業が盛んだった北陸地方。そこに、洋装化の広まりとともに起こった需要の高まりを受けて、レース工場も増えていきました。

しかし、90年代をピークに需要は減少に転じ、国内レース産業には厳しい状態が続いています。東京商工リサーチが出している調査によると、レース生地の出荷額はピーク時の95年には538億円。そこから2020年には101億円と、5分の1にまで落ち込んでいます。

「レースは後加工の生地なのでどうしても価格的に高くなります。バブル経済の後のニーズに合わない部分もあって、安価な製品を求められる部分は海外の工場に移ってしまいました。刺繍レースの機械もピーク時は国内に800台あったものが、今は200台くらいと言われています」(剛さん)

剛さんがルジャンタンを創業してから今年で35年。その間、多くの同業者や関係会社も撤退・廃業していったといいます。

その中で、時には撤退する工場から機械を譲り受けるなど、少しずつ自分たちでできることを増やしながら、質の高い刺繍レースづくりを続けてきました。

「外注先さんがどんどん廃業してしまって、それならばその仕事も自分たちで引き受けようと。最近では廃業してしまうキルティング屋さんから機械を買い取って、それをレースに活かした商品をつくっているところです」(哲さん)

キルティング機の導入で、新しい表現も可能になってきている。子どもの登園バッグなどを手芸でつくりたいという需要も増えてきたそう

元はといえばルジャンタンも、剛さんの勤め先の廃業からスタートしています。市場的にも厳しい中、レース会社を続けることに葛藤は無かったのでしょうか。

剛さんは、「レース以外は考えたことも無かった」と答えます。

「簡単な仕事がないんです。どんな風に工夫して、これまでの経験の引き出しを開けて、実現するか。いくつものやり方があって、いまだに分からないことが山ほどあります」と、常に研究と工夫が必要な仕事に、大きなやりがいを感じていると教えてくれました。

難易度の高い表現にも果敢に挑んできた

これまでで特に大変だった仕事や大きな挑戦について聞くと、二人で顔を見合わせて笑いながら「それは、たくさんありますね」と一言。

「受けた仕事はどうやれば実現できるか。必ず一度は受け止めて考えるようにしています」と哲さんは言います。

たとえばあの生地はここに苦労した。この柄の時は直前まで無理だと思った。あの会社からの注文には頭を抱えた。

たくさんのエピソードを本当に楽しそうに振り返る二人を見て、心から仕事を楽しんで、真摯に向き合っている印象を受けました。

進化を続ける日本の刺繍レース

ルジャンタンでは、小口の注文等にも対応できるよう、通常の半分のサイズに改造したレース機なども稼働させており、それを活かして生地のオンライン販売も早くから実施しています。

レース生地には根強い手芸需要があり、コロナ禍においては、手芸好きの一般顧客へのオンライン販売が好調に推移したそうです。

細かい検品や仕上げの補修は人の手で
過去に手がけた生地のサンプルたち。新たな生地に挑戦する際、過去の事例が参考になることも

そうした営業努力や、キルティング刺繍など新しい技術・機械の導入、そして質の高い刺繍レース生地の製作を続けているルジャンタン。

刺繍レースは、いわゆる伝統工芸品のような、その土地固有のものづくりではありません。ただ、この会社でしかできない仕事を、富山の地で愚直に追及し続けている。

その様子を見聞きして、これは紛れもなく日本のものづくりであるし、日本の布だと強く感じられた取材でした。

皆さんもぜひ、今回のTシャツや、ルジャンタンのオンラインショップなどを通じて、ボーラレースをはじめとしたレース生地の魅力・面白さに触れていただければと思います。

<取材協力>
株式会社ルジャンタン
富山県小矢部市宮中9-2
0766-68-3051

ルジャンタン オンラインストアはこちら

写真:直江泰治
文:白石雄太

節分の豆まきに「枡」を使うのはなぜ?邪気を払う縁起物の意味と作り方

日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。

晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台、のように「ハレ」は、清々しくておめでたい節目のこと。こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどをご紹介します。

「枡」は邪気を払い健康を祈る縁起もの

2月3日は節分。豆をまいて、災いをもたらすとされる鬼(邪気)を追い払います。

「鬼は外ー!福は内ー!」。鬼の面をかぶったお父さんをめがけて子どもたちが一生懸命に豆をまくという、サザエさん一家では毎年ひと悶着ありそうな微笑ましい風景は、現在の日本の家庭では少なくなってしまったかもしれません。

節分は立春の前日ということで、昔から大晦日のように考えられていました。節分にまいた福豆を自分の歳の数だけ食べ、次の年も健康に過ごせるようにという願いを込めて、福を取り入れます。

子どもの頃はすぐに食べ終わってしまって「足りない~」と思っていた豆も、三十路に入った頃からは「さすがに多いぞ‥‥」と感じるようになりました。しかし今年もがんばって豆をポリポリ食べたいと思います。

さて、豆まきに欠かせないのが「枡(ます)」。おめでたい席で目にすることが多い枡ですが、元々は穀物やお酒などの体積を計る道具として活躍してきた大切な道具です。

農民が穀物の種をまくとき、収穫量を計るとき、年貢をおさめるときなど、一年を通じて欠かせないもので人々の基準でもありました。

神さまに捧げるお供えものとして米や豆などが入れられた枡は神聖なものであり、「縁起物」として考えられるようになります。それは「ます」という読みが「増す」や「益す」に通じ、「幸福が増す」「益々めでたい」などと、ハレの日にふさわしいものとされてきたから。

また、枡の組み方を見てみると「入」の字に組まれていますね。「大入り」の縁起を担いでいることからも、枡は現在でもさまざまなハレの日に登場しているんです。

枡の角が「入」の字に組み合わさっているのがわかるでしょうか。木を組んでできていることから、木(気)を合わせるという意味合いでも、人々が一致団結するときや夫婦になるとき、枡で験を担ぐのだそう。
枡の角が「入」の字に組み合わさっているのがわかるでしょうか。木を組んでできていることから、木(気)を合わせるという意味合いでも、人々が一致団結するときや夫婦になるとき、枡で験を担ぐのだそう。

全国一の枡の産地、岐阜県大垣市

岐阜県大垣市は、「木枡」の生産において全国の8割をつくる日本一の産地。年間約200万個の枡を全国に出荷しています。

「大橋量器」は、この大垣市で創業以来、日本の伝統の枡を製作してきました。枡の材料となるのは檜(ひのき)。大垣市は木曽や東濃など日本有数の檜の産地に近く恵まれた土地です。

檜材は高級なものですが、枡に使うのは丸太から柱などの建築材をとった後の端材を使うので、環境にもやさしいのだそうです。

左から、一合枡、二合半枡、五合枡、一升枡。一升枡はやっぱり大きいです!
左から、一合枡、二合半枡、五合枡、一升枡。一升枡はやっぱり大きいです!

丁寧に乾燥させた木材から板を切り出して加工していきます。側板に枡の組目となる溝(ほぞ)を掘り、ていねいに糊を塗って組み立てます。

枡はお酒を飲むときに直接口をつけることもあるので、持ったときの手触りだけでなく口当たりも大切。側面を磨いたり、すべての辺(ひとつの枡で12辺!)を手がんなで面取りをする技は、枡職人の腕の見せどころだそう。

良い材料と確かな技で、大垣の枡がつくられているのです。

のりを塗った側板を手作業で組んでいきます。(写真提供:大橋量器)
のりを塗った側板を手作業で組んでいきます。(写真提供:大橋量器)

しっかり組んだあとは、かんながけ。職人技が試されます。(写真提供:大橋量器)
しっかり組んだあとは、かんながけ。職人技が試されます。(写真提供:大橋量器)

木目の美しさ、檜の香、これはいかにも縁起が良さそう!
木目の美しさ、檜の香、これはいかにも縁起が良さそう!

節分の翌日、明日は立春。暦のうえでは春の到来です。まだまだ寒い毎日ですが、あたたかくして気持ちは「ますます」晴れやかに。春を迎えましょう。

<取材協力>
有限会社大橋量器
http://www.masukoubou.jp
枡工房枡屋
http://www.masuza.co.jp

文・写真:杉浦葉子

※こちらは、2017年2月3日の記事を再編集して公開しました。