夏の特別な一日を、何度でも。本格「流しそうめん」が家にやってきた

夏が来れば思い出す。

祖父母の家に集まり、親戚みんなで食卓を囲んだこと。その夜にいとこ達と花火をしたこと。夏祭りで買ったりんご飴を落として泣いたこと。川べりでキャンプをしてアブに追いかけられたこと。はじめて飯盒で炊いたご飯が美味しかったこと。

今でも鮮明に覚えている、少し特別な夏の日の記憶です。

自分の子ども達はどうだろう。ふと考えて、今のところどんなことが心に残っているか尋ねてみると、「じぃじとばぁばの家に行ったこと」と、やはり実家への帰省が人気。

その後、少し考えてから「あの、お友達の家でやった流しそうめんも楽しかった」との答え。2年前の夏、地元の友人家族のはからいで経験したはじめての流しそうめんが、とても印象に残っているようでした。

「またやってみたい!」

そう言われても、マンション住まいをしていると、なかなかやる機会がありません。竹を使った本格的なものとなると、なおさらハードルが上がります。どうにか家で手軽に、かつ本格的な流しそうめんが楽しめないものか…。

なんと、そんなわがままな願いに応えてくれる卓上流しそうめんセットが登場したというので、家族でやってみました。

※卓上で楽しむ 白竹の流しそうめん

きれい!天然の竹やヒノキに興奮

届いたセットを見た子ども達の第一声は「きれい!」。そうめんを流す水路部分には白竹、給水用の桶には木曽さわら、桶と水路を支える台には吉野ヒノキが使用されていて、天然の素材の風合いや手触りをさっそく気に入った様子。

思いのほかコンパクトな収納で到着
セットはこんな感じ(右奥の受け用の桶は別売り)
触ってみたり
においをかいでみたり

まずは組み立てから。

特別な道具は不要で、あっという間に完成します。水路は真っ直ぐ一直線にすることもできますが、今回は机のサイズや形状なども考慮して、折り返してセットしました。

完成!(受け用のざるは私物)

いざ、流しそうめん!

具材とつゆを用意して、そうめんを茹でて、給水用の蛇口付き木桶に水を入れれば準備完了。もう待ちきれない様子の二人に急かされながら、流しそうめん開始です。

卓上では初めての流しそうめん。木桶からの水でうまく流れるのかと、少しだけ心配していましたが、その点はまったく問題ありませんでした。

蛇口の開けぐあいで水量を調整しつつ、そうめんの量をいろいろと変えてもスムーズに流せます。

スタート!
勢いよく流れて
流れて、、、
なぜか一投目はスルー

最初は少し戸惑いつつ、二人ともすぐにコツを掴み、「次は俺!」「次は私!」と大興奮。自然と交代制になるなど、卓上ならではの作法も生まれていました。

取れた!
取れた!!
喜びの舞い

上手に取れた時の喜びが食欲を増加させるのか、いつもよりもハイペースでそうめんを食べ続ける二人。「のり追加して!」と薬味のオーダーも忘れません。

待ち構えればいいと気づく
ざるから取ればいいと気づく
美味しい

その様子を見て、流し役に徹していた妻も食べる側に参戦。「早く!次!」と、さらに場のペースが加速していきます。

適宜、木桶に水を追加しつつ、足りなくなってきたそうめんを慌てて茹でつつ、あっという間に時間が過ぎていきました。

大量に取る。水も一緒についてくるので、つゆは濃い目がおすすめ
適宜、給水しつつ

結果、「流しそうめん、久しぶりだけど楽しかった!」と、狙い通りみんな大満足で終了しました。

天然素材ながら、さっと洗って乾かせば何度も使えるのもこのセットの特徴。

ちょうど、実家の父から「お中元にそうめんを送る」と連絡がありました。すぐにまた、流しそうめんの出番がやってきそうです。

特別な夏はまだまだ続きます。

<関連特集>
そうめん、しようよ

<関連商品>
・卓上で楽しむ 白竹の流しそうめん
・さわらの飯台 一尺

文:白石雄太

規格外品の価値を‟見直す”。工芸の入り口としての「みなおし品」

産地に眠ったままの規格外品の価値を見直す

品質や機能は正規品と変わらないけれど、見た目の問題によって市場に流通しない商品。

そんな「規格外品」について、どんなイメージを持っていますか?

たとえば野菜などの場合、「味が良ければ見た目は気にしないのに」という人も多く、昨今ではフードロスの観点からも注目され、規格外品を流通させる取り組みが活発におこなわれています。

一方、工芸の世界ではどうでしょうか。

自然の素材や原料を使用して手仕事で仕上げるという特性上、形や色が‟ゆらぐ”こともまた、工芸の大きな魅力のひとつ。

しかし、そんな中でも作り手たちは非常に厳しい検品基準を設けてものづくりに取り組んできました。その結果、基準から外れたものはB品(規格外品)としてはじかれて、産地に眠ったままになっているというのが現状です。

それは、すべてを‟ゆらぎ”として許容してしまわない、真摯なものづくりがおこなわれていることの証左とも言えます。その反面、工芸品の見た目に関して、使う側の目線とは少し離れた、やや過剰な基準を設けてしまっている場合もあるのかもしれません。

中川政七商店では、産地で眠っている規格外品の価値を見直して、それぞれ一点ものの味わいのある商品「みなおし品」としてお届けする取り組みをおこなってきました。

「みなおし品」が、工芸の魅力を知る入口に

私たちが「みなおし品」の取り組みをスタートしたのは2021年。福井県鯖江市で越前漆器を作り続けている漆琳堂さんと、規格外品について会話したことがきっかけでした。

当時、漆琳堂の代表 内田さんの話を聞いて印象的だったのは、規格外品が発生する主な要因が作り手のミスによるものではないということです。

越前漆器

たとえば、漆器に用いる木材を仕入れたとき、加工前に内部がどんな状態かを判別することはできません。それを一つひとつ丁寧に削りだし、うつわの形にして初めて、木の癖や傷、木目の状態が判明します。

手間暇かけて加工しても、基準から外れているものはその時点で規格外となり、仕入れた材料は返品もできない。こうした自然の素材の状態に由来する、どうすることもできない規格外品が非常に多いと聞き、とても驚きました。

そこで考えたのは、これまで弾いてしまっていた規格外品の価値を見直して、最後まで仕上げて販売できないかということ。

木地を削り出してはじめて浮かび上がってくる、木の癖や傷(青くマークした部分)

その表情を、一点ものの味わいとして楽しんでくれる方もいるのでは。正規品より安い価格を設定することで、はじめて漆製品を手にするきっかけになるかもしれない。また、規格外品である理由を明示することで、正規品の検品基準の高さについても改めて理解していただけるのではないか。

そんな思いで「みなおし品」を販売し、結果、これまでに多くの好意的な反響をいただきました。

仕上げると、こんな具合に

今後も、工芸の魅力である味わい、ゆらぎについて皆さんからのフィードバックもいただきながら、作り手とも確認しあいながら、「みなおし品」の取り組みも続けていく予定です。

※「みなおし品 てなおし品」特集はこちら

「買う」目線での厳しい検品

工芸の現場において、どんな基準で検品がおこなわれているのか。「みなおし品」の取り組みを共にしている中外陶園さんに聞いてみました。

SETOMANEKI

やきものの街 愛知県瀬戸市で縁起置物や季節飾りなどを作り続けてきた中外陶園さんが、新しい招き猫のカタチとして提案しているのが、陶磁器製の「SETOMANEKI」 。シンプルでモダンな曲線美と、豊富なカラーバリエーションが特徴で、どんな部屋にもなじむ愛らしい置物です。

この「SETOMANEKI」も、自然の土や釉薬を用いて仕上げる過程で、若干の個体差が生じます。商品の特徴・味として楽しんでいただける一方で、細かなチェックをおこない、‟ゆらぎ”の範囲を厳密に見定めています。

代表的な検品項目のひとつが「鉄粉」の有無。土に含まれる鉄分が、焼成時に黒い点となって表面にあらわれることで、赤土などにはより多く含まれていて出やすくなるのだそう。

これを防ぐために、土から鉄分を取り除く処理を丁寧におこなっているものの、実際にどうなるか、焼きあがってみるまでは分かりません。中外陶園さんでは普段、猫の顔や手先部分に直径1mm以上の鉄粉が出た場合は規格外という厳しい基準で検品を実施しています。

少し焦げたような跡や、鉄粉が表出した状態

ほかにも、土に含まれる空気が、焼成時に気泡を作り、釉薬の表面に小さな穴をあける「ピンホール」という事象。釉薬を手作業でかけることによる色のムラ。素地の割れやひびなど。各工程でのチェックと、さらに出荷場での検品を経たものだけが正規品として出荷されていきます。

釉薬に指の跡をつけないための工夫
この段階ではまだ、どんな焼き上がりになるか分からない
釉薬の具合が通常より少し強く出ているもの

土の種類や釉薬の色によって、同じような事象が起きた場合にも自然に見えるかどうかが変わってくるため、「自分が買うとしたら」という目線で、とにかくフラットにチェックすることを心掛けているとのことでした。

厳しい検品の結果、一度ははじかれた工芸の品々。それらが本当に規格外なのか、それとも豊かな味わいの一品なのか。「みなおし品」を通じて皆さんの目で確かめていただけると幸いです。

<関連特集>

文:白石雄太

【はたらくをはなそう】管理課 森岡咲菜

森岡咲菜
管理課

2014年新卒で大手コンビニ企業に入社。その後、韓国企業を親会社に持つショッピングモール開発会社に転職し企画業務に従事。2019年中川政七商店に中途入社。


「中川政七商店で働きたい!」と思ったきっかけは、偶然目にした千石さんの社長交代に関するインタビュー記事でした。「中川政七商店」というお店の存在は知っていましたが、会社についてはほとんど知らない状態で記事を読み、千石さんがお話しされている内容に「すごくいい会社だな」と感動にも似た驚きを感じたのを覚えています。そこから淳さんの著書『日本の工芸を元気にする!』を手に取り、読み終えた時には「この会社で働きたい!」という気持ちが湧き上がっていました。

淳さんとは仕事でご一緒する機会はほとんどありませんでした。ただ、著書を読んだり、2024年のエノキアン(1)などいくつかの場面でお会いして感じたのは、周りの人に対して滲みでる温かさがある人だなということでした。そしてその温かさに惹かれて私はこの会社を志望したのだと感じています。それは中川政七商店がこれからもずっと守っていきたい部分ですし、中にいる私たちが大事にしていくべきことだと思っています。

私は現在、管理課で労務を担当しています。毎月の勤怠締めからの給与計算・支給、入社退社手続き、就業規則変更、年末調整業務、健康診断など、従業員に関わる様々な業務を人事連携しながら進めています。またBcorp担当でもありますので、3年後の新基準による再認証に向けての準備や社内におけるBcorpの浸透役も担っています。

今は労務担当ですが、実は業務に関してそこまでこだわりがなく、やらせてもらえるなら「何でもやりたい!」という考えです。なので、ある日突然「明日から経理をやって」と言われても、それはそれで楽しくやれると思います。(笑)

ひとつのことに固執して柔軟性を失うのが嫌で、新しいことや知らないことにどんどんチャレンジしたいタイプです。そうやって色んなことに挑んで、泣いたり、笑ったり、失敗したり、たまに上手くいったりというような時間を過ごし、自分の経験値が上がり成長しているという実感が好きなんです。そんなに大それたことではなく、昨日の自分より今日の自分が1mmでも前に進んでいたら「それで良し」と思います。

今期からチャレンジ目標ができたのも、とてもうれしいことだなと。会社全体がそうやって少し背伸びした目標にチャレンジしていく雰囲気になるの、すごくいいですよね。

仕事は一人ではできず、周りの人と協力しながら前に進めるものだと思っているので、人事労務チームや外注先さんたちとチームワークよく連携が取れているときは、「やっぱり働くことの醍醐味ってこういうことだよな」と思います。その状況をつくりだすために、常に相手の仕事に敬意を払い、相手の状況を鑑みることを忘れてはいけないなと強く感じます。

あとは、やはり労務は会社の職場環境にも関わるので、みんなが健やかに楽しそうに働いているのをみるとうれしいですね。私も過去に体調を崩してしまい、3か月ほどお休みをして戻ってきたのですが、それって誰にでも起こり得ることだと思っていて。キャリアはマラソンなので調子が良い時もあれば、悪い時もある。調子が悪い時はエネルギーをチャージして、また元気になって戻ってきてほしいなと。なのでみなさんが「また戻って働きたい」を思える環境をもっと作っていきたいです。

<愛用している商品>

〇空紡糸のラグランワイドプルオーバー

おすすめ理由:肌が弱めな私でもノーストレスで着られる一着。これ1枚でも着られるので、春に向けて別の色も買い足そうと考えています。

○産地のおやつ 本葛入り寒天もち

おすすめ理由:うちの姉がドはまりしまして。たまに会いに行く際に「お土産何がいい?」と聞くと、決まってこの商品をお願いされるように。噛み心地がよくさわやかな味ですよね。

○丈夫でへたりにくいキッチンスポンジ

おすすめ理由:みなさん推してらっしゃるので、もう私が言うまでもないかもしれませんが、毎日使っても本当にへこたれないです。なので本当に変え時がわからない、、、。家族にも配って布教しました。



中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

  1. 2024年9月に奈良・京都で開催された、エノキアン協会の総会。中川政七商店がホスト役を務めた。 ↩︎

【旬のひと皿】ホタルイカと旬の果実の酢味噌

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



旬のひと皿 ホタルイカ

‟わたしのお父さんは夜中の1時ごろまで仕事をしてから帰ってきます。”

 小学生の時、父の日に向けた課題で書いた一節だったと思いますが、これを読んだ父は「よく見ているなぁ」と、喜んでいました。(実際には、その時間にはいつも寝ていて、帰ってくるところは見ていなかったのですが) 

父がいなくなり、母と2人で蕎麦屋を営むようになって、今年の春で10年が経ちたちました。当時はあまりに突然の事だったので、気を紛らわす為にも、何とか日常を取り戻すためにも、3週間で店を再開することに。まだ四十九日も過ぎておらず、蕎麦を打つ練習はしていたもののお客さんにご提供をしたことのない状態からのスタート。

営業に必要な分量の蕎麦を打つことは体力的にもとても厳しく、そしてご提供できるレベルの麺に仕上げることもができず、精神的にもきついダブルパンチ。そんな状態でも、通ってくださっていたお客さんが一緒に悲しんでくださり、たくさん励ましてくださいました。毎年、命日になるとお菓子を届けてくださる方もいらっしゃって、10年もの間覚えてくださっていたかと思うと感謝の気持ちでいっぱいです。大変で泣いた日もありましたが、蕎麦を打って、打ち続けたことで得られたご縁の方がはるかに多く、蕎麦という食べ物に救われています。 

先日、おつかれさまの慰労会として、大好きなご夫婦が営まれるレストランへ母と2人で伺いました。季節の花をさりげなく描いているメニューにお食事がスタートする前からワクワクし、ひと皿ひと皿に素材への想いとリスペクトを感じ、目の前で丁寧に仕上げられるお料理を口に入れる度に、「あぁぁぁ」と体中に感動が染みわたりました。

少し大きめの深みのあるお皿に盛りつけられていたのは、イカと八朔のひと品。マスタードと、上質なオリーブオイル、少し酸を効かせたそのソースに衝撃が走りました。「ソース持って帰りたいです!シェフ!」。

そして仔牛のメインのお料理。綺麗なすばらしい火入れにうっとり。デザートには奈良の苺「古都華」をその場でコンポートにして、桜の冷たいアイスクリームに温かな真っ赤な苺のソースがかけられていました。すばらしい、長い時間を料理に捧げてこられたシェフのお料理を目の前で見ながら体験することができ、帰宅した後も幸せな余韻が長く続きました。 

とある日の営業後にふと時計を見ると深夜1時すぎ。あの頃の父と同じ生活を今、私もしているなと思いながら一日が終わります。また10年、蕎麦のようにほそくながくお店を営んでいきたい。 

今回は大好きな古都華と、ホタルイカを酢味噌和えに。大きなホタルイカは内臓をがたくさん詰まっていてソースのよう。さっと気軽に、火を使わずに作れるひと皿です。 

<ホタルイカと旬の果実の酢味噌>

材料(2人分)

・ホタルイカ…10杯
・新玉ネギ…1/2個
・いちご…2~3個(大きさにより、お好みで。少し酸味のある果物がおすすめ) 
・スナップえんどう豆…5個

◆酢味噌
・白味噌…大さじ1
・砂糖…大さじ1/2
・酢…大さじ1/2

作りかた

新玉ネギの芯は取らず、くし切りにする。蒸し器に入れて、塩少々(分量外)をしてから、串がすっと入る程度まで火を通す(蒸しの場合、10分ほど。電子レンジで軽く温めるでも可)。

蒸し器が無い場合は、電子レンジでも

スナップえんどう豆は上下の筋を取り、2分ほど塩ゆで(塩は分量外)してから氷水に落としておく。

次に、ホタルイカの下処理をしておく。

ピンセットなどを用いて、目玉とくちばし、骨を取る。

酢味噌の材料をすべて混ぜ合わせる。目安は、白味噌と砂糖、酢が2:1:1の割合。お好みでからしを加えても。

いちごはへたを取り、縦4等分に切る。

スナップえんどう豆を氷水から出し、食べやすい大きさに切る。

お皿に盛り付けて、完成。

うつわ紹介

・明山窯 TEIBAN WARE リムプレートM


写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【旬のひと皿】ふきのとう味噌とだし巻き玉子

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で季節の料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



「もうすぐ春ですよー」と小声でこちらにお知らせしてくれるような存在のふきのとう。

小さくてコロンとかわいい姿を野菜売り場で見かけると、ぼんやりしていた頭にスイッチが入り、うれしさのあまりついつい沢山かごに入れてしまいます。「また季節が変わるなぁ」と思いながら、帰宅するとすぐに調理にとりかかります。

春の苦みのあるお野菜は油ととても相性が良いので、油を少し多めに入れてからませてからふきのとう味噌を作ります。味噌は本当にさらっと、ふきのとうの味をサポートする程度に入れるだけ。

気温が上がると急成長して、花が一気に咲いてしまうため、毎年良い状態のふきのとうが売り場に並ぶ期間はまちまち。何度か出会えると「あぁまた会えた!」という気持ちになります。

なかなか出会えないレアキャラのふきのとう。少し多めにふきのとう味噌を作っておくと、いろいろと楽しめるのでおすすめ。ごはんにちょこんと乗せたり、菜の花と一緒にパスタにしても春を満喫できるひと皿になりそうです。お酒のおともに小さな豆皿にすこし盛ってちびちび食べるのもいいなぁ。

ふきのとうの香りや味を消さない程度にお味噌を入れて、苦みが強すぎる場合は少しお砂糖を入れて食べやすくしてみてください。蕎麦屋の定番だし巻き玉子に今回は合わせてみました。ちょっと添えるだけで季節も感じられる、玉子の甘味とたっぷりお出汁のだし巻き玉子。

寒さでちぢこまった身体も心もちょっとだけ和らげてくれる一品になればいいなと思っています。

<ふきのとう味噌とだし巻き玉子>

材料(2~3人分)

◆ふきのとう味噌
・ふきのとう…5個
・味噌…大さじ1/2
・砂糖…適量(お好みで) 

◆だし巻き玉子
・玉子…3個
・出汁…75ml
・そばつゆ…30ml(ご家庭の麺つゆでOK。濃縮タイプは、希釈した状態の分量)

作りかた

まずは、ふきのとう味噌から。ふきのとうを水でさっと洗い、土がついていないか確認する。根元を取り、半分に割る。

根元の黒い部分を取る

鍋にお湯を沸かし、塩少々(分量外)を入れふきのとうをさっと茹でる(大きさにより、30秒から1分ほど)。お湯から上げたら冷水に落として水気をしぼり、ざっくりみじん切りに刻んでおく。

冷水に落とした後、水気をしぼる

フライパンに油(分量外)をひいて、刻んだふきのとうを軽く炒める。油がなじんだら味噌を加えて、苦みが強い場合はお好みでお砂糖を入れて調整する。※油はなんでもよいが、香りの無いものがおすすめ。

ふきのとうの色を綺麗に保ちたい場合は、ボールなどに移し、氷水にあてて冷やす。

油をしっかり絡めて、味噌を加える。苦みが強い場合はお好みで砂糖も。

次にだし巻き玉子。ボールに卵を割り入れて混ぜ、溶きほぐす。その後、出汁とそばつゆを加えて再度かき混ぜる。

玉子焼き器を熱し、油(分量外)をひいてだし巻き玉子を作る。

最後に、だし巻き玉子をカットしてふきのとう味噌とともに器に盛り付けて完成。

うつわ紹介

・信楽焼の魚皿 並白


写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

創業150年の鍛冶屋が叩き、作る。豊かな表情と強さを宿した「鉄鍋」

家族の団らんやハレの日のごちそうに、すき焼き鍋を囲む。

そんな時、牛肉を香ばしく焼き上げ、料理の味わいをぐっと引き立ててくれるのが鉄鍋です。その魅力を、すき焼きだけでなく日々の焼き料理でも楽しみたい。日常で気軽に使えるように、軽くて扱いやすい鉄鍋が欲しい。

そう考えて作ったのが、調理後そのまま卓上に運び、熱々を最後までお楽しみいただける「鍛冶屋の鉄鍋」です。

ものづくりの現場は、名前にあるとおり鍛冶屋さん。今の時代に至るまで技を受け継いできた鍛冶屋で鉄鍋がどのように作られていくのか、工場へおじゃまして見せていただきました。

要望に応えて何でも作る「野鍛冶」からスタート

訪れたのは、「金物の町」として知られる、新潟県三条市。和釘や刃物、作業道具などの金属製品を作る鍛冶職人が多く活躍してきた歴史があり、隣の燕市とともに、世界に誇るものづくりの町としても広く知られています。

この地で農具や鍋・包丁などの製造、修理を請け負う「野鍛冶(のかじ)」としてスタートし、150年以上にわたって技術を受け継いできたのが「近藤製作所」です。

新潟県三条市にある近藤製作所。立派な梁に歴史の息吹を感じる工場の建物は、建て替えとなった中学校の木造校舎を移築したもの

「三条は川が多く流れていて、畑もたくさんあった。野鍛冶として何でも作っている中でも、畑で使う鍬(くわ)の需要が特に高くて、うちは次第に鍬を専門に作るようになったと聞いています」

そう話すのは、近藤製作所の六代目である近藤孝彦さん。

昔から鍬などの道具は、手入れや修理をして永く使い続けるものでした。しかし時代の流れとともに各地の鍛冶屋が減っていき、今では、鍬の修理や製作を行うところは希少な存在に。そのため、鍬専門の鍛冶屋である近藤製作所には全国からさまざまな注文が寄せられるようになります。そんなお客さまの要望に応える形で、技術を磨き、繋いできました。

近藤製作所六代目の近藤孝彦さん。「うちが鍛冶屋をしていたとはっきり分かるのが六代前までで、それ以前にもやっていた可能性はあります」とのこと

「跡取りがいなくて廃業する同業者も多いですし、農機具の機械化や小型化がどんどん進むのを目の当たりにして、このままじゃまずいと思いました」

鍛冶屋の数も注文数もどんどん減少する中で、近藤さんは、「鍛冶屋だからこそできることがある」と、これまで以上に一人ひとりへ寄り添ったものづくりを考えるようになりました。

「使う人の要望に対して、細かに対応することができるのは強みだなと。今こそ野鍛冶としての原点回帰の時だと考えたんです」

そこで2024年、屋号から名付けた自社ブランド「野鍛冶やまご」を立ち上げました。その第一弾の製品はフライパン。日常でよく使う主婦の声を聞き、細部にわたる使い勝手の好さで根強いファンを獲得しています。

何より魅力的なのは、一つひとつ手作業で鉄を叩き鍛造して作ることで、世界にひとつの表情を持つ個性があること。しかも使いながらじんわりと、その人なりの風合いを育てていくことができます。使うほどに愛着がわき、永く使いたくなる。そんな愉しみが鍛冶屋の鉄道具には潜んでいます。

鍛冶職人の技を活かす、プレスと手打ちのハイブリッド製法

鉄製だけど軽くて扱いやすいすき焼き鍋を作りたい。そこに鍬づくりで磨かれてきた鍛造の技術を活かせば、工芸の空気をまとった、永く愛用できる装いになるはず。そんな期待は、実際の製品となって姿を現しました。

野鍛冶の職人が手打ちした不均一な風合いは、そのまま食卓に出してもサマになる佇まいに。いつものハンバーグやナポリタンなども、じゅうじゅうと音を立てる熱々のごちそうへと早変わりします。鍋としてはもちろん、フライパンとしても使える万能選手。永く愛用しない手はありません。

「今回は生産効率などを考えて、プレスと手打ちのハイブリッドに初めて挑戦しました」

プレスの機械

プレスで大まかな形を作った後に、手打ちで叩いて仕上げる合わせ技。手打ちならではの表情や細かい部分の微調整を活かしたまま、生産性を高めることができるハイブリッド製法で、この鉄鍋は作られています。

まず、一枚の丸い鉄の板を熱するところからスタート。600〜700度の高温で赤くなるまで熱し、ちょうどよい色合いになるのを見計らって、プレスをかけていきます。

丸くて薄い鉄板から、丈夫な鉄鍋が作られる
プレスした瞬間、鉄を熱した際にできる酸化皮膜がガラスの破片のように飛び散る
「プレスする金型作りに一番時間がかかりました」と近藤さん。型屋さんとともに試行錯誤を幾度も重ねたそう

火加減で決まる、鉄の表情

プレスした後、火力が安定して熱しやすいコークス(石炭由来の固形燃料)で再び加熱。

「求められた風合いを出すために、火加減の影響もあることに辿り着きました」

火入れの際の火加減が、仕上がりの表情を左右する

熱された鉄を叩くことで生まれる、独特の風合い。素材の個性や職人の叩き方、さまざまな要素によって表情が変化する中で、火入れの温度まで細かく試行錯誤を繰り返し、理想の仕上がりを追求しました。

だんだんと赤く発色していく色味で温度を見極め、冷める前に木槌で何度も叩く。そして次の箇所を熱してまた叩く。その作業を繰り返しながら、全体を鍛えて表情を出すとともに、鍋の形を整えていきます。

赤く熱した部分を木槌で叩くことで密度が増して強度が上がる。油のノリも良くなるそう
外側を叩き終えると、今度は内側からも

「鍛造をし始めた頃は力加減が分からなくて。腕の力に頼って思いっきり叩いていたら、めちゃくちゃ痛くなったんです(笑)」

熱さに負けず、鉄の硬さや温度を感覚で捉え、打ち続ける。そのためには手首のスナップを使った無駄な力を入れないフォームで、正確に、かつ力強く叩く必要があります。

硬い樫の木を使った木槌。変形具合が、熱と衝撃の強さを感じさせる

赤くなった鉄をカーンカーンと叩いて鍛えるたび、煌めきながら四方八方へと尾を引いて飛び散る無数の赤い火の粉。その光景は衝撃の強さを物語るとともに、鍛造の現場の緊張感と熱気を伝えてくれます。

無骨さの中にある、繊細な仕事

この鉄鍋には、他にも多くの鍛冶屋の技術が注がれています。無骨でワイルドなかっこよさに加えて独自の表情をさらに引き出すため、鍋の口を微妙に削り、硬質な鉄に薄さでニュアンスを加えたデザインにしています。この部分はグラインダーで削るのですが、繊細な作業で、匠の技が光るところ。

エッジをきかせるかのような鍋の口。立ち上がりの角度にもこだわってデザインをしている

両側に付けた持ち手は、細い鉄の棒をグラインダーで山なりに丸く削り、プレス機で成型をしてから溶接でしっかりと接合。再び滑らかになるようグラインダーで削り、最終形へと仕上げます。

手ざわりがよくなるまで、砥石を変えながら研磨を繰り返す
角張った細い鉄の棒から作られる取っ手。丸みのあるやさしい仕上がりに
角度を埋めるように溶接棒を中に溶かし込みながら、慎重に、持ち手を真っ直ぐ付ける

グラインダーをかけると断面にバリのような粗いエッジが残るため、「砥石の粗さを変えて、3種類のグラインダーできれいにしていきます」とのこと。

使う人を思い、細部にわたって丁寧で細やかな作業を進めていく。無機質な鉄鍋に風合いだけでなく、温かなやさしさがにじみます。 さらに、ブラストという微粒子の砂を吹き付けて汚れや皮膜を除去。この時細かく入る傷は、最終工程となるシーズニング作業で油がなじみやすくなる効果もあるそうです。

シーズニングのために鍋を軽く温め、油をしみ込ませたクロスで拭くと、赤やオレンジ、青みがかった黒、白っぽい色と次々に変化をしていた色が、すっと漆黒のような深みのある黒色に変わり、重厚な風格を見せはじめます。

再び軽く熱した鉄鍋に油をなじませて、完成
ぐっと深い黒色に仕上がった鉄鍋

見た目の印象よりも軽いことも、この鉄鍋の特徴。薄手の鉄板を叩き、強くして作ることでできる限りの軽さを実現しました。持ち手部分を壁などに掛けて片付けることもできます。

「鉄鍋は扱いが難しいと思われている方も多いようですが、使う前にしっかり熱して油を敷き、一度冷ますと油が定着するので、その後再び温めて使うと焦げ付きにくくなります。使った後もお湯とタワシでさっと洗えるので、お手入れもラク。この鉄鍋で、多くの人に鉄の魅力に気づいてもらえるとうれしいですね」

「現代の野鍛冶」としての可能性

鍛冶屋の仕事は一つひとつが手作業で、大量生産には向きません。その反面、使う人の要望に細やかに対応できる強みがあります。本当に欲しいと思える、自分の作業や暮らしに合う一点ものの道具を作ることもできるのです。

その技をさらに磨くため、近藤さんは「越後三条鍛冶集団」に所属し、仲間とともに技の向上と学びを続けています。

「鍛冶集団の知り合いを通じて、いま、第2のオリジナルアイテムとして包丁づくりを試しているんです。うちはこれまでずっと鍬専門でやってきたので、包丁づくりの設備は揃っていませんが、鍛造まではうち、刃付けは知り合いにお願いするという分業の可能性もあるんじゃないかなと考えるようになりました。ものづくりの町である三条だからこそ、作れるものも、方法も、いくらでもあるように思って」

これまで製作してきた鍬のギャラリー。各地の風土や作物によって鍬の形状が変わるそうで、近藤さんも名前を覚えきれないというほど、さまざまな鍬を作ってきた

鍬づくりを中心としたさまざまな注文に応えるうちに磨かれてきた、近藤製作所の鍛造技術。

「うちの初代が野鍛冶としてお困りごとにお応えしてきたように、原点へ立ち返り、一つからでもお客さまが望むものを作る『野鍛冶』を復活させたいですね。燕三条なら何でも作れると思うので、周りと協力し合って新しい取り組みができればと思います」

そんな近藤製作所と作った「鍛冶屋の鉄鍋」。自在に鉄を成形する鍛冶屋の技があるからこそ実現できました。大切な人と囲む食卓の真ん中で、じゅうっと音を立てるごちそうと一緒に。このいい顔をした鉄鍋が、長く寄り添う道具になってくれたらうれしく思います。

<取材協力>
株式会社近藤製作所

<関連する特集>

・はじめての鉄

文:安倍真弓
写真:黒田タカシ