わたしの一皿 夏の南蛮。沖縄の南蛮。

夏は南蛮だ。バテ気味の夏には酢の効いた南蛮漬けがたまらない。

そりゃごもっともだ、と同意してくれる方も多いんじゃないかと思うけど今日はその南蛮の話ではない。さて、みんげい おくむらの奥村です。

みんげいおくむらの奥村さんが使う食材、アスパラガス

北海道に行った写真家の友人からその日の朝に採ったというアスパラガスをもらった。すぐに焼いて味見をしたのだけど、ふだん買うものよりも柔らかで、皮が弾けそうなぐらいの水分に、おったまげた。

聞けば採ったその日なら生でかじってもよいそうな。なんともぜいたくなことですね。

せっかく旅をしてきたアスパラガス。ここならではの料理にしてあげたい。

僕が住む千葉は、九十九里のハマグリがちょうどシーズン。大きなものはシンプルに網で焼いてもおいしいし、あさり大の小さなものはパスタなんかに使いやすい。小さくても旨味がギュッと詰まっているのが九十九里のハマグリ。

みんげいおくむらの奥村さんが使う食材、ハマグリを洗うシーン

ハマグリは軽く砂抜きしたら、貝どうしをこすり合わせて洗う。つるっつるで丸々としたハマグリはとてもかわいらしい。

素材がよいので、つい素材の話に熱が入った。南蛮の話に戻ろう。

今日はうつわが南蛮なのです。南蛮のうつわと言ってもベトナムや中国のものではない。沖縄の南蛮。

南蛮焼は、焼き締めとも言われる釉薬を掛けないうつわのこと。沖縄では酒甕や日常の壷、そして食器が古くから作られてきた。

土の個性や、窯で焼かれた火の風合いがグンと伝わってくるのが南蛮のうつわのおもしろさ。

沖縄本島で南蛮を作っている古村其飯(こむらきはん)さんのうつわを今日は使う。言うまでもないが、古村さんのうつわは沖縄の地元の土からできている。

みんげいおくむらの奥村さんが作る料理

さてと、洗ったハマグリを酒蒸しにする。ハマグリを加熱して、アスパラも入れて、貝が開いたら酒をどばっと。

アスパラは自分から旨味も出すし、ハマグリの海のエキスも吸い込むのでたまらない。

今日はさらに旨味を吸わせるため玄米ならぬ玄麦を入れた。もちろんパスタでもいいんですが。ハマグリから塩気がでるので味付けは最低限の塩だけにとどめること。

みんげいおくむらの奥村さんが作る料理、沖縄の南蛮に盛り付け

出来上がったら汁も残りなくたっぷりと、南蛮の鉢に盛り付ける。

沖縄で作られたうつわだけど、パッと見で沖縄っぽい、という感じがない。それがかえって料理を選ばないからうれしい。

さらに単純に言えば、このうつわは土そのものだから大地のように全ての色を受け止める。合わない料理を考える方が難しい。

このうつわは、土だけで出来ているのに色の変化もあって、素朴なのに品がある。

素朴なのに品があるって、理想的じゃないですか。人間もいっしょ。そんな風になりたいと思うけど、ほど遠い。つくづく残念なことです。

ハマグリをあらかた食べたら、うまみたっぷりの汁を飲もう。南蛮に口をつけて。まだ少しザラっとした土の感触が口にあたる。食事はつくづく、五感で楽しむものなんだな。

土そのものなので、南蛮のうつわは使い始めがザラザラ、ゴツゴツとした風合いがある。今日のものもまだ使い始めなのでそんな感じ。

うつわを洗う際、スポンジで洗うとスポンジが負けてボロボロになってしまう。ではどうするかというと、たわし。たわしでゴシゴシ。

これがおもしろくて、そんな風に手入れしていくと、表面がどんどんツルツルになっていきうつわの風合いが変わっていくのだ。見た目ももちろんだけど、さわった感じまで育つうつわ。そんなのもおもしろいじゃないですか。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

*こちらは、2018年6月25日の記事を再編集して公開しました

線香づくり日本一の淡路島で出会った、知られざる「香りの世界」

香りには気分を変えたり、記憶を呼び覚ます作用があるといわれます。

日本で身近な香りと言えば「線香」。江戸時代から庶民にも広まり愛されてきました。

香りにも様々な種類があり、仏前に供えるだけでなく、暮らしの中で気分転換やもてなしに取り入れる人も増えています。室内でゆったり過ごす時間に良さそうですね。

「線香の香りは3段階で楽しむんです」

そんなことを知ったのは、淡路島でのこと。

実は淡路島は、線香の生産シェアが全国1位。香司 (こうし) という香りのマイスターが日本で唯一存在する、いわば「香りの島」なのです。

淡路島の神社には「香」と刻まれた石碑が建立されています
淡路島の神社には「香」と刻まれた石碑が建立されています

線香メーカーが集まり、人口の4分の1が線香づくりにかかわるという淡路市の江井地区を歩くと、海風に乗って町じゅうにいい香りが漂います。

淡路市の江井地区の街並み
淡路市の江井地区。観光庁の「かおり風景100選」にも認定されているそうです

線香づくりの現場を淡路島に訪ねて、線香の使い方、楽しみ方を教わりました。

日本書紀にも登場する淡路島と香りの物語

淡路島西海岸のドライブコース、淡路サンセットラインを走ると、かわいらしい「枯木神社」があります。

境内からは海が見渡せます
境内からは海が見渡せます

「香木伝来伝承地」として、人の体の大きさほどある枯木をご神体に祀っているそう。実は香り文化と淡路島とのなれそめは、なんと『日本書紀』まで遡ります。そこには、こんなエピソードが。

「推古天皇3年(西暦595年)の夏4月、ひと囲いほどの香木(沈香)が淡路島に漂着した。島民は沈香を知らず、薪と共に竈(かまど)で焼いた。するとその煙は遠くまで類い希なる良い薫りを漂わせた。そこで、これは不思議だと思い朝廷に献上した」
出典:梅薫堂ホームページ

沈香 (じんこう) とは、現在の線香にも好んで使われる香木です。淡路島に流れついたその香木を燃やしたところ、あまりにもよい香りを放つので天皇に献上したとのこと。香りについての記述としては、日本で最も古いのだそうです。

海に囲まれた淡路島の風景
海に囲まれた淡路島ならではのエピソードです

プロに聞く、線香の楽しみ方

淡路サンセットラインを南に進んで、線香メーカーが集まる江井地区に到着。いよいよ線香づくりの本場にやってきました。

「香りを3段階で楽しめるのは、日本の線香ならではです」と教えてくれたのは、慶賀堂の宮脇繁昭さん。淡路島に14人いる香司のひとりで、兵庫県線香協同組合の理事長も務められています。

慶賀堂の宮脇繁昭さん
慶賀堂の宮脇繁昭さん。香司として線香の香りをプロデュースしています

「香りの文化も国や地域によって様々です。インドでは香木そのものを焚きますし、日本の線香も元々は中国から伝わってきたものですが、練った材料すべてをスティック状にして少しずつ燃やすのは、日本独自のスタイルです。

日本では、家のなかにいわばお寺のミニチュアとして仏壇をしつらえ、線香をたむけて手を合わせます。この独特の様式には、かすかな煙で長く一定の香りを保てる線香がぴったりだったのです」

そんな線香の香りづくりには、「3段階」を意識しながらの試行錯誤が欠かせないそうです。

「まずは火をつける前に。点火してからは、たちのぼる香りを。そして火が消えたあとの残り香です」

今度線香を使う時は、この3段階を意識してみると一層香りを味わえそうです。

なぜ淡路島は線香づくりのトップ産地になったのか?ヒントはものづくりの現場に

「仏さまを祀る文化には、花、灯りとともに香りが欠かせません。香りによって、気を捧げるのです」と語るのは、いまも手作業での線香づくりを続ける梅薫堂 (ばいくんどう) の吉井康人さん。

梅薫堂の吉井康人さん
梅薫堂の吉井康人さん。慶賀堂の宮脇繁昭さんと同じく香司のおひとりです

手づくりの線香は手間暇がかかるぶん、その肌に機械では表現できないあじわいが生まれます。それが先祖に捧げる気持ちに響くと、手づくりに値打ちを感じるユーザーも少なくありません。

手づくり工房の見学希望者も多く、外国人からの申し込みもよくあるそう。ものづくりの様子を間近で見せていただきました。

梅薫堂は、淡路島における線香製造の黎明期から続く老舗メーカーです
梅薫堂は1850年創業。淡路島の線香づくりの黎明期から続く老舗メーカーです

線香は、香司のつくるレシピを元に製造されます。まずはレシピどおりに材料を配合した練り玉をつくります。

練り玉づくりに使われる「土練器(どれんき)」
練り玉の製造風景

練り玉づくりに使われる「土練器 (どれんき)」は、淡路島の特産である瓦づくりに使われる器具を応用したもの。職人が手触りを確認しながら水などの配合を調整します。

練り上がった大きな塊は「押し出し器」に入る大きさにカットします
練り上がった大きな塊をカットしているところ

線香の成形に使われているのは、昔ながらの「押し出し器」です。

線香の成形に使われているのは、昔ながらの「押し出し器」です

なかには、この「すがね」がセットされています。この細い穴を通って線香の細さになっていくわけです。

「押し出し器」の中にセットされている「すがね」

「押し出し器」から出てくる線香は、まるで麺のよう。

「押し出し器」から出てくる線香は、まるで麺のようです
まだやわらかい線香を、職人が慣れた手つきで切っていきます

まだやわらかい線香を、職人が慣れた手つきで切っていきます。竹製のヘラ、モミ製の乾燥板など、伝統的な木製道具が使われています。

1本1本を、丁寧に揃えます

1本1本を、丁寧に揃えます。

手作業の製作風景
こうした手づくりは、いまや全国でもほとんど見られないそうです

淡路島ならではの気候が活かされているのが「乾燥」の工程。

乾燥されている線香

乾燥が不十分だと曲がったりカビがはえたりすることから、現代では機械乾燥も採り入れられていますが、手づくりでは「べかこ」と呼ばれる格子窓を工房の一面にずらりとしつらえ、自然の風で乾かします。

窓は全て、西向き。淡路島独特の西から吹く風を乾燥に活かすのです。

「べかこ」と呼ばれる格子窓
乾燥はクオリティの決め手。梅薫堂さんの乾燥場でも、西向きの壁一面に「べかこ」の格子窓がしつらえられていました

淡路島で線香づくりが始まったのは明治維新前夜の江戸後期。海運業で栄えたこの地の新しい産業として取り入れた線香づくりに、この西から吹く風はぴったりでした。

乾燥に向いた土地柄ゆえに高い品質の線香づくりを維持できたことが、淡路島を一大産地に押し上げたといわれています。

手作業の製作風景
自然乾燥に費やされるのは最低でも2週間。湿度によってはそれ以上になります
昔の線香づくりが、絵に残されています
線香づくりが盛んだった堺へ技法を学びに行ったのが産業の始まり。繁忙期にはこうして路地裏に線香を並べた風景が見られるそう

素材とブレンドの組み合わせで、バリエーションは無限に

線香に使われる素材はさまざま。たとえ同じ香木でも産地などによって香りは千差万別です。

さらにブレンドの仕方や製造プロセスを変えることで、無限のバリエーションが生まれます。中には、花粉症に効くというユニークな線香もあるそうです。

梅薫堂の線香
梅薫堂の線香は、クス科のタブなど木の樹皮を粉末にしたものに、ビャクダン(白檀)、ジンコウ(沈香)といった香木をブレンドしてつくられています
吉井さんをはじめ、香司の多くが天然素材による線香づくりに力を入れています
吉井さんをはじめ、香司の多くが天然素材による線香づくりに力を入れています
線香が並ぶ店内
淡路島のお土産店の一角。壁一面を埋め尽くすほど種類豊富に線香が並んでいました

香りのマイスターが考える「いい線香」とは

仏前に供える役割だった線香は、いまではお香との境界が薄れ、好みで香りを選び、仏壇でもリビングでも楽しむ時代になってきています。

「バスルームの灯りを消し、キャンドルとお香をつけてバスタイムを楽しむ女性もおられますし、京都に行った際、お手洗いで奥ゆかしい香りに気づいてふと見ると匂い袋がかけてあったこともありました」と宮脇さん。

掛け香 (匂い袋) をスーツに忍ばせて商談に出向き、香りに気づいた方との会話が弾む体験をしているビジネスマンも。宮脇さん自身、出張で出かける際などには自ら考案した香りを自分のために持ち歩くのだそうです。

「好きな香りは心地よく、気持ちをやわらげます。その人にとって心落ち着く香りを放つのが、いい線香ではないでしょうか」

線香

『線香に火をつけて手を合わせるのは、忘れることのできない人と、心の扉をあけてお話をするひととき。静寂に気づいたり、大切な何かを感じ取ったりできるんですよ』

これは線香を通じて親交の深いお寺の方から、宮脇さんが言われた言葉だそうです。線香づくりを続けるなかで、常に胸に刻んでいると言います。

灰になるまでのわずかな時間、人の心を落ち着かせ、時に追憶にいざなう線香の香り。

それを司る宮脇さんら「香司」の仕事とは、一体どんなものでしょうか?それは後編でご紹介しましょう。

※後編はこちら:“いい香り”をつくるプロ集団。淡路島にだけ存在する「香司」の仕事とは

<掲載商品>
夏の線香 (中川政七商店)

中川政七商店が淡路島の職人とつくった線香。「初夏にみずみずしく咲き誇る薔薇の香り」「さわやかで情熱的な海の香り」「清涼感をもたらす竹林の香り」「やさしく優雅に香り立つ百合の香り」「静かな水面に清らかに咲く睡蓮の香り」と、夏にふさわしい5種類の香りがセットされています
中川政七商店が淡路島の職人とつくった線香。「初夏にみずみずしく咲き誇る薔薇の香り」「さわやかで情熱的な海の香り」「清涼感をもたらす竹林の香り」「やさしく優雅に香り立つ百合の香り」「静かな水面に清らかに咲く睡蓮の香り」と、夏にふさわしい5種類の香りがセットされています

<取材協力>
兵庫県線香協同組合

http://awaji-kohshi.com/top.php

文:久保田説子
写真:兵庫県線香協同組合、山下桂子

*こちらは、2019年6月13日の記事を再編集して公開しました

曲げわっぱ好きがわざわざ買いに行く、熊本・そそぎ工房の「一勝地曲げわっぱ」が美しい

こんにちは。細萱久美です。

小物整理にはカゴや箱を多用していますが、国内外の曲げ物も多いことに気がつきました。日本では曲げわっぱ、アメリカだとシェーカーボックス、北欧ではヴァッカというそうです。

木の種類やデザインのディティールは違えど、いずれも木を曲げて、基本的には丸い形状に成型するという点で同じ発想の工芸品です。

シェーカーボックス
シェーカーボックス

シェーカーボックスは、19世紀を中心にアメリカで活動していたシェーカー教徒によって創られた木製品。

彼らは生活全般において「simplicity~全てにおいて簡素である事~」を理想とし、装飾性を削ぎ落とし機能性を追求した実用的なものを丁寧に創りだしていました。

シェーカーボックスは象徴的な道具の一つで、ミニマムでありながら美しい。柳宗悦が唱えた民藝の「用の美」に通じるものを感じます。

それは日本の曲げわっぱや北欧のヴァッカなど、世界中の曲げ物にも同様に思うことです。

シェーカーボックスを裁縫箱に活用
裁縫箱などに使用中。中が少々ごちゃっとしていても、蓋をしてしまえばすっきり見えて助かります
蓋なしタイプのヴァッカをお茶道具入れに活用
蓋なしタイプのヴァッカ。茶筒や茶卓などのお茶道具を入れています。移動や掃除もしやすく便利

日本の曲げわっぱの産地は秋田が有名ですが、秋田と北欧のフィンランドは気候や風土が似ているそうで、必然的に類似した生活道具が生まれることは面白いと思います。

公私にわたり工芸に携わる機会も多く、秋田をはじめ日本各地で作られている曲げわっぱにも度々出会います。

接点のあった中では、国の伝統工芸品にも指定されている秋田・大館曲げわっぱ、高知・馬路村の曲げわっぱ、鳥取・智頭町の曲げわっぱ、群馬・入山めんぱ、静岡・井川めんぱ、奈良・吉野の曲げわっぱ、福岡・博多曲げわっぱなど。

他にもまだ存在しますが、これだけ見ても日本中に曲げわっぱが。日本が世界有数の森林国で、木が身近な素材であり、木の文化が根付いていることを感じます。

入山めんぱ
入山めんぱ

ちなみに、「めんぱ」とは木製の曲げものの弁当箱のこと。日本の曲げものは主に弁当箱の用途が多いと思いますが、それは起源を辿っても分かります。

曲げわっぱの歴史は奈良時代まで遡るといわれ、木こりが杉の生木を曲げて桜皮で縫い止めた弁当箱を作ったのが始まりだとか。

現代の曲げわっぱを代表する、大館曲げわっぱの生産が盛んになったのは今から約400年前。領内の豊富な森林資源を利用できる曲げわっぱを下級武士の手内職として奨励したことによります。伝統技法は継承されつつも、一時は熱に強いアルミやスチール、安価なプラスチック製の弁当箱などに押されて曲げわっぱ産業は縮小しました。

今は再び注目が高まっていて、メーカーによっては数ヶ月待ちになる程の人気。本物志向の人が増えていることもありますが、SNSやブログ発信の影響が一番大きい気がします。それだけ美味しそうに見えて、実際に曲げわっぱのお弁当は美味しいのです。

大館曲げわっぱ
大館曲げわっぱ

完全な手仕事なのと、林業の衰退や職人の減少などで、規模縮小となっている産地も多いようで、全体的に入手困難にもなってきています。

実際にいくつかの曲げわっぱを持っていますが、最近出会ったのは、熊本の一勝地にある「そそぎ工房」の一勝地曲げわっぱ。以前からWEBで見て、機能面にも特徴があり気になっていました。

熊本を訪れた際に立ち寄れるタイミングがあり工房を見学に。行って初めて分かりましたが、工房は球磨村の一勝地という、森林に囲まれたとても自然豊かな場所にありました。熊本県内最大であり、日本三大急流の一つである球磨川のほど近くで、ドライブにも良さそうです。

一勝地では江戸時代から相良藩の保護の下、『相良の三器具』の一つとして、お櫃や桶、柄杓など、様々な曲げ物が製作されてきたそうな。大館と同様400年の伝統を持ち、熊本の伝統工芸品の一つである「一勝地曲げ」の技術を唯一受け継ぐ曲げ物職人が、そそぎ工房の淋正司さん。

工房には溢れんばかりの木の材料や、製作途中の曲げなどが。訪問した際もお忙しく作業をされていた淋さんですが、作業の手を止めて気さくにお話してくださいました。

この道に入られたきっかけは25歳の頃に曲げ物に魅せられ、師匠の元で修行を積み独立されたのだそう。それから曲げ物一筋37年。某有名な高級列車のオリジナル曲げ物の注文なども受けているそう。

熊本の一勝地にある「そそぎ工房」の一勝地曲げわっぱ
熊本・一勝地の「そそぎ工房」工房内

WEBでも見ていた曲げ物弁当箱も見せてもらいました。機能的な特徴は、二段式の弁当箱が、食べ終わると入れ子になってコンパクトになること。

また側面の曲げ部分にはヒノキを、底面と蓋にはスギを使い耐久性や調湿性に工夫を持たせていること。2種の木を組み合わせて作る曲げ物は珍しい気がします。

二段式の曲げわっぱ
仕舞うときは一段に収納できる
二段重。仕舞うときはコンパクトに

スギやヒノキは温かいご飯を入れても余分な水分を吸収し、適度な保湿をしてくれるため、冷めてもふっくら美味しくいただけます。殺菌効果があることもお弁当には安心材料。

オリジナルで作られている二段弁当箱を購入しつつ、別注にも対応していただけるとのことで、その場で自分好みなサイズと形状で注文をさせていただきました。

購入した弁当箱は男性でも少し大きめ。なので、ちょっとしたお重として、またお茶の時間にお菓子を入れて楽しもうかと思います。

製作は丸太を1年間乾燥することから始まり、断裁・研磨・曲げてしばらく置いてから底を付けて完成。曲げの継ぎ目には山桜の樹皮を使うので、天然素材と手仕事から生み出される逸品です。

とても時間のかかる作業なので、出来上がりを待つ時間も楽しみます。

工房内
淋さんに話を伺いながらオリジナル曲げわっぱを相談中
淋さんに話を伺いながらオリジナル曲げわっぱを相談中

奈良から行くことを思うとなかなか遠い場所ではありますが、100パーセントアナログな曲げわっぱは、それを生み出す職人に会うことで、お人柄すら感じる味わい深い道具だと思います。

<紹介したお店>
そそぎ工房
熊本県球磨郡球磨村大字一勝地610
0966-32-1192

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

ホームページ
Instagram

文・写真:細萱久美

洗剤の新定番。「THE 洗濯洗剤」は自然にも衣類にも人にも優しい

こんにちは、細萱久美です。

この連載では「炊事・洗濯・掃除」に使う、おすすめの工芸を紹介しています。今回ご紹介するのは、洗濯の必須アイテム、洗濯洗剤。

洗剤は消耗品ゆえ、手工芸品とは違いますが、機能性と美しさも兼ね備えた、優秀な洗剤と言えるので、あえて取りあげたいと思います。

その名も「THE洗濯洗剤」。

THE洗濯洗剤

自然保護活動家がつくった洗剤

「THE」の洗剤は中川政七商店でも扱っていますが、リピーター率の高い人気商品です。

「THE」のブランドコンセプトは、「世の中の定番を新たに生み出し、本当に「THE」と呼べるモノを、生み出していくこと」
基本的には1アイテムにつき1種のものが厳選され、開発されています。

この洗濯洗剤は、「THE」が定番になり得る洗剤として開発したものです。

あらゆる洗濯洗剤がある中で、私も発売当初から使い続けているほど気に入っており、恐らく他に浮気することはなさそうです。

日常のものなので使い勝手の良さは欠かせませんが、この THE洗濯洗剤は本当に少量で汚れがよく落ち、精油のナチュラルな香りが好みです。

あと、「THE」ならではの、ボトルデザインの清潔さと格好良さも大きな魅力。消耗品はすぐ手に取れる場所に置いておきたいので、表に出しておけるデザインは重要なポイントだと思います。

THE洗濯洗剤

少量で洗える秘密は、界面活性剤を微粒子化するというナノテクノロジーを導入することにより、少量でも優れた洗浄力を発揮すること。

製造元である「がんこ本舗」という、ちょっと変わった社名の木村社長、通称きむちんが生み出したテクノロジーです。

きむちんとは、実はTHE洗濯洗剤以前からのおつきあい。がんこ本舗の既存商品を店舗で扱わせていただいていました。

この通称からもちょっと想像できるように、かなり個性的でおもしろい社長さんです。特におもしろいのは、がんこ本舗が「洗剤を売らない努力をする洗剤屋」と言われること。

どういうことかと言うと、きむちんは自然保護活動家で、活動の継続と支援を目的に水環境改善につながる生活用品の開発に着手したのが事業の始まりで、1999年に世界で初めてすすぎ1回型の洗濯洗剤を生み出したそうです。

今ではすすぎ1回型は一般的かもしれませんが、実はこれって凄いことなのでは!?と思います。

そしてこの洗剤が最も誇れるのは、その環境負荷の低さ。洗剤は海に流された後、通常は生分解に1ヶ月ほど要すところ、THE洗濯洗剤はなんと7日間で生分解するという速さ。これが洗剤を売らないと言われる所以です。

砂浜

がんこ本舗を訪ねた際にも実験をしてもらったのですが、ここの洗剤は泡がきめ細やかで、泡の量は少なめ。細かい泡で汚れを落とし、少ない泡はキレが良い利点があります。

使われているラベンダー精油は、香りが良いのはもちろん、きめ細かい泡を作る効果もあるという秘密の一つを聞きました。

洗剤を売ってはいますが、実は心地よい生活のお助けや自然に優しい安心感を売っているきむちんにリスペクトしつつ、洗濯物を干したり畳む時の「いつものあの香り」がホッとさせてくれます。

<掲載商品>
THE 洗濯洗剤 The Laundry Detergent

細萱久美 ほそがやくみ


元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
ホームページ
Instagram

文:細萱久美

*こちらは、2018年3月3日の記事を再編集して公開いたしました

学生服はどこでつくられる?進化の歴史と製造の秘密を紐解く

学生時代にお世話になったあの制服、日本のどこで、どうやって作られているか、ご存じですか?

昭和、平成と進化してきたその姿は、まさに世相を映す鏡。新しい令和の時代には、どんな姿になっていくのでしょうか。

日本の制服の歴史と変遷を知ることができる全国唯一の「ユニフォームミュージアム」があると聞き、岡山県玉野市を訪ねました。

岡山が学生服のメッカなわけ

「ユニフォームミュージアム」がある岡山県は、実は制服づくりのメッカ。日本全国の学生服の8割がここ岡山県で作られています。

学生服の大手三大メーカーも岡山県企業。その一つ「トンボ学生服」で知られる株式会社トンボが、ミュージアムを運営しています。

トンボ玉野本社工場
トンボ玉野本社工場。300名の従業員が月産12万点の制服の生産に従事。創業から140年の自社の歴史を紹介する「八正館」、日本で唯一の「ユニフォームミュージアム」が敷地内にあり、広報にも力を注いでいる
1996年(平成8年)のトンボ創業120周年記念事業として設立された「ユニフォームミュージアム」
1996年(平成8年)のトンボ創業120周年記念事業として設立された「ユニフォームミュージアム」。日本の制服の歴史と変遷を知ることができるほか、近代制服のルーツとなった英国制服も展示。通常は学校、流通関係の団体のみ見学可能

岡山県は「晴れの国」と呼ばれるほど温暖で雨の少ない地。特に、瀬戸内海に面した沿岸部は綿花の栽培に適していたことから、江戸時代から綿織物の生産が行われてきました。

岡山産の綿は繊維が太く、足袋の裏のような厚手で丈夫な綿織物の産地として栄え、時代と共に学生服やジーンズなどが製造されるように。

トンボも1876年(明治9年)の創業当初は足袋を製造していました。明治、大正、昭和と時代が進むにつれ、国内で洋装が普及。
需要が先細りする足袋に代わり、綿糸という資源と厚手の生地を扱う技術を生かすことのできる新たな製品として着目したのが学生服でした。

こうして1930年(昭和5年)、「トンボ学生服」として制服の生産と販売がスタートします。

足袋の製造道具
1876年に三宅熊五郎が16歳の時に三宅商店として創業。熊五郎の母方の実家が足袋を製造しており、そこで修行し、材料が入手しやすいことから独立したのが始まり
「キラクたび」のロゴマーク
1910年(明治43年)「キラクたび」を主要商標として登録。洋装化に伴い、足袋の消費が減退するのを見越し、足袋から制服へ切り替えたが、ピーク時には年間216万足の足袋を生産していた

【昭和】詰襟とセーラー服からあるきっかけでブレザースタイルへ

「学生服といえば、今でこそブレザースタイルが人気ですが、昭和の学生服の定番は詰襟とセーラー服。トンボでも当初は詰襟のみを製造していました」

株式会社トンボ岡山本社の恵谷栄一取締役
株式会社トンボ岡山本社の恵谷栄一取締役の案内で玉野本社工場内の「ユニフォームミュージアム」を見学。飛鳥時代に始まった日本の教育の歴史と、時代ごとの学生のスタイルを再現した展示品が並ぶ

ピーク時は岡山県内で年間1000万着以上を生産。詰襟の生地の大半は黒色ですが、黒の色味にも種類があり、社内では黒い生地を手にしながら「これは赤い」「これは青い」と社員は色味の区別がつくのだそう。

「制服に変化が起こるきっかけとなったのが1964年(昭和39年)の東京オリンピックの開催でした。海外の選手団が入場行進をする際のユニフォームが注目を集め、制服やユニフォームのカジュアル化・スポーティー化が一気に普及したんです」

ブレザータイプの制服を採用する学校が徐々に増え始めます。詰襟、セーラー服一辺倒だった制服は次第に、学校ごとの特色を反映した「別注化」が加速していきました。

「制服で学校を選ぶ」先駆けはこの学校

1986年(昭和61年)、従来の学生服のイメージを覆す革新的な制服が登場します。それが東京の喜悦学園が採用した紺のブレザーとタータンチェックのスカートというスタイル。

喜悦学園が採用した紺ブレザーとタータンチェックのスカートの制服
喜悦学園が採用した紺ブレザーとタータンチェックのスカートの制服

それまでの制服と一線を画す都会的で洒落たデザインはたちまち女子生徒たちの注目を集め、東京で大人気の制服に。

制服の人気は学校のイメージにも変化をもたらし、入学志願者が激増。見た目の影響と効果はあなどれません。

平成に入ってからもブレザースタイルの人気は衰えることなく、飛躍的に全国へと普及。制服で学校を選ぶ傾向も高まっていきました。

【平成】時代を映し、ファッション化する制服

平成を代表する制服となったブレザースタイルでは、ルーズな「着崩し」が流行。

シャツの外出しに始まり、リボンやネクタイをゆるめ、スカートの丈はどんどん短くなり、ルーズソックスとの組み合わせが一世を風靡。男子生徒のパンツはウエストよりも下の腰で履く「腰パン」スタイルが流行しました。

制服がファッションとして、学校以外の場所や学校が休みの日にも着るものへと変化していったのです。

1995年(平成7年)以降の女子高生の制服姿
1995年(平成7年)以降、安室奈美恵のファッションが人気となり「アムラー」が登場。影響を受けた女子高校生たちはこぞって制服を着崩す方向へ
ルーズソックス
着崩し女子高生の間で爆発的に流行したルーズソックス。制服のファッション化の象徴といえる

ちなみに、改造した変形制服を着る風潮は詰襟・セーラー服が定番だった昭和40年代からありました。

詰襟のカラーや胴体部分、スカートの丈を極端に長くしたり、詰襟の裏地を派手な色や模様入りにしたりといった、反抗心を形にしたツッパリスタイルです。

昭和40年代から平成にかけての半世紀だけ見ても、制服が時代と共に変わっていったことがよくわかります。では、令和の時代を迎えて制服はどのように変わっていくのでしょうか。

【令和】キーワードは「多様性」

「多様性が一つの鍵だと思います。例えばジェンダーレス制服の対応もその一つです。

男女共にスカートかパンツを選べ、上着にある『男前』『女前』という性差による形の違いをなくしてファスナーを付けた兼用型のデザインなどの開発が進んでいます」

パンツ一つとっても研究を重ね、体は女性で心が男性というケースには、男性らしく見えるパンツをデザイン。胴回りと腰回りの差は男女の体型では異なるため、サイズのバリエーションを増やし、自分の体型に合うパンツが選べます。

目に見えるところばかりではない細かい配慮と工夫の根底にあるのは「すべての生徒さんに喜んで着てもらいたい」という思いがあると恵谷さんは語ります。

より快適に、負担の少ない機能性の向上も進んでいます。

例えば、詰襟の素材はストレッチ性の高いニット素材が登場。自宅で丸洗いでき、ノーアイロンは今や当たり前。抗菌防臭、撥水加工、柔らかいカラーなど、毎日着るからこそのさまざまな工夫が施されています。

制服のデザインを決めるのは?

制服のデザインはどのようにして決まるのでしょう。

トンボには企画提案課という部署があり、中学校や高校から聞き取った情報や収集したデータを基に、各校の要望に沿うデザイン・仕様を提案します。

流行や地域性により傾向があるのが色。

「桜の景勝地として全国的に知られる東京都小金井市の中学校へは、桜のピンクを取り入れた制服を提案し、採用されました」

各学校のスクールカラーをベースにしたり、中高一貫校では中学と高校で色違いにしたりするケースもあります。

「デザインについては、新設校は男女ともにブレザーが多いですが、伝統校では女子はセーラー服、男子は詰襟を好む傾向もあります。ただ、最近は伝統を踏まえつつ新規性を打ち出すデザインとして、セーラー服とブレザーを兼用したタイプもあります。

セーラー服とブレザーを兼用したデザインの制服
セーラー服とブレザーを兼用したデザインの制服

スカート丈は膝上か膝下かで印象が変わるため、学校との話し合いで規定の丈を決めていきます。変形されるのを防ぐため、ウエスト部分を巻きこめない仕様のスカートも考案しているんですよ」

ウエスト部分がを巻きこみにくいカーブベルト仕様のスカート
ウエスト部分がを巻きこみにくいカーブベルト仕様のスカート

暑さ対策として夏涼しい冷感素材やシャツの代わりにポロシャツ、日焼けを防止するサマーニットの上着、透けにくいシャツなど、最近では機能性を求める声も増えてきているそうです。

学校の数だけ制服に対する要望があり、多彩。

1万種類以上の生地がある倉庫内の様子
倉庫には学校ごとのリクエストに対応できるよう、1万種類以上の生地が

それだけに、メーカーは学校とのつながり、関係づくりを大事にしつつ、制服を着る生徒はもちろん、教師や保護者の満足度にも気を配る必要があります。

時代が変わっても変わらない質へのこだわり

日本国内で流通している洋服は、98%が海外で生産されており、国内生産はわずか2%。その2%の多くが制服だそうです。

「紳士服メーカーでも生産できるブレザーに対して、セーラー服や詰襟は業界固有の技術が必要で、他の衣料メーカーでは作れません。

さらに、製品の納品が3月から4月初めまでに集中し、採寸から納品まで約2週間という短期決戦。そのため制服は国内生産でないと難しいのです」

トンボ学生服は玉野市の本社工場をはじめとする岡山県内3カ所の自社工場と中四国・九州地区にある6工場で製造。少量多品種、短納期に対応できるのも長年のノウハウの蓄積があり、物流網を独自に構築しているからです。

そんなトンボさんも、足袋を作っていた創業時は、1人で1日3足という生産能力だったそう。

本社工場を見せていただくと、制服が時代と共に進化したように、その生産現場もより早く、より無駄なく質の高い製品づくりができるように技術革新が続けられていることがわかりました。

本社工場の様子
本社工場の様子
これから制服になっていく生地
これから制服になっていく生地
自動裁断前に、パーツごとのラベルが自動で貼られる
自動裁断前に、パーツごとのラベルが自動で貼られる
裁断されて出てきた生地
裁断されて出てきた生地。パーツごとにラベルが付いているので、素早く分類できる
縫製フロアの様子
縫製のフロア。整然と並ぶミシンと黙々と手を動かすオペレーターたちの様子は圧巻。多くが地元出身のスタッフだそう
製作風景
パターン(型紙)を当てる代わりに、プロジェクターから投影されたデータによりボタンのつけ位置をマーキング中。これならパターンを探す手間も減り、紛失や取違いの心配もない

現場では、3年間で平均17センチ身長が伸びるといわれる中学生男子の成長に合わせ、袖の内側を縫い合わせた糸を取れば、そのまま袖丈を最大6センチまで伸ばせる工夫も。

こうした細やかな配慮はほんの一例に過ぎません。素材、デザイン、仕様といった見た目だけでなく、耐久性、着心地といった見えない部分にも専門メーカーならではの技術と工夫が生かされています。

ウエストの寸法出しをする工程の様子
プリーツスカートの折り目にチェック柄がずれないように正確に合わせていき、ウエストの寸法出しをする工程。同じ生地で、サイズが違っても同じように柄を再現していく

自動化され、コンピュータ制御で人手がかからなくなった工程がある半面、着心地を左右する本縫いの工程や検査、仕上げにおいては、今なお経験値の高い人の手、人の目を通したものづくりが行われているのがうかがえました。

時代の空気を色濃く反映する制服。

進化を遂げていけるのは、小ロットで多品種、スピードが求められる中で高い品質を維持する専門メーカーの心意気があればこそと言えそうです。

<取材協力>
株式会社トンボ 岡山本社
岡山県岡山市北区厚生町2-2-9
086-232-0368
http://www.tombow.gr.jp/

文:神垣あゆみ
写真:尾島可奈子

*こちらは、2019年5月23日の記事を再編集して公開しました

プロに教わる、服の汚れの落とし方。意外なコツは「ゴシゴシしない」こと

衣替えの季節。キッチンやお風呂場といった家中の汚れはもちろんだけど、お気に入りの洋服の汚れだってなんとかしたいもの。

たとえば、白いシャツの襟ぐりについた黄ばみ。市販の洗剤で洗っても「落ちない‥‥」とがっかりして、泣く泣く「おさらば」なんて悲しい選択を迫られること、ないだろうか。

「さよならしなくても大丈夫!1年越しの黄ばみだってきちんと落とすことができますよ」

なんと!そんな頼もしいことを言ってくれたのは、洗剤メーカー「がんこ本舗」の代表“きむちん”こと、木村正宏さん。

生分解率100%を誇る洗濯洗剤「海へ・・・」や、キッチン洗剤「森へ・・・」シリーズなど、機能的でありながら、水環境改善や自然保護を目的とした製品を数多く生み出し続ける、洗濯のプロだ。

洗剤メーカー「がんこ本舗」の代表きむちんこと、木村正宏さん
かつてはプロの登山家。ヒマラヤ山脈から見た地球の美しさに魅せられると同時に、日常風景の荒廃に愕然。「なんとかしなければ」という思いで、1992年「がんこ本舗」を立ち上げた

そんな木村さんが教えてくれる、洋服の汚れ落としのワークショップ、はじまり、はじまり。

吸着、剥離、溶解‥‥「汚れの落ち方もいろいろです」

まずは、ちょっとした実験から。参加者の手元に配られたのは真っ白な1枚のお皿。

「油性マジックで好きな絵を描きましょう」

ワークショップの様子

そこに水を少し垂らし、消しゴムでこすったり、また新聞紙でふき取ると、あら不思議。すっきりきれいに落ちちゃった。

新聞紙でこするとみるみる落ちていく
新聞紙でこするとみるみる落ちていく

「なにも不思議なことじゃないんです。これは『吸着』という方法。消しゴムや新聞紙に汚れを移動させることで落とすことができるんです」

ちなみにこの新聞紙は、1ページ分を1/4にカットして折り畳んだ、木村さん流“新聞ナプキン”。

がんこ本舗の取締役社長“ハラケン”こと、原誠孝さん。
新聞ナプキンを持っているは、がんこ本舗の取締役社長“ハラケン”こと、原誠孝さん。

木村家では食卓にいつも新聞ナプキンを用意し、食べ終えた皿の汚れを拭くという。この方法を使えば「あとは水でさっと流すだけ。油汚れもきちんと取り除くことができるから、キッチン洗剤なんてほとんど必要ないんです」

なるほど。これなら、油汚れを海に垂れ流しにすることはないのだ。

新聞紙を手でクシュクシュにする
破れないように優しくクシュクシュ

新聞ナプキンを使うときは、破れないほどの力加減でクシュクシュと揉んで柔らかくするのがコツ。このクシュクシュ加減が、後に衣類の汚れ落としにも大切なポイントになるというから覚えておこう。

さて、今度はアルカリ剤を使って。マジックで円を描いた皿に、パウダー状の酸素系漂白剤をふりかけて、

パウダー状の酸素系漂白剤をお皿に入れる
パウダー状の酸素系漂白剤を使用

水を注いで、くるくると馴染ませると‥‥

汚れが浮いてきた様子

汚れが浮いてきた!

「これは『剥離』という落とし方。今度は汚れが水に移動しました。

先ほどの『吸着』もそうですが、お皿から汚れは落ちたものの、それは油が新聞紙なり、水なりに移動しただけ。あくまでも油は油のまま、水は水のまま‥‥この状態で海に流してもいいのでしょうか」

剥離した水を別の容器に移してみると、油と水が分離しているのがわかる
剥離した水を別の容器に移してみると、油と水が分離しているのがわかる

「しかも洗濯をしたとき、布の汚れが水に移動したとしても、脱水時にはその汚れはまた衣類に戻ることになるんです。それでは洗濯の意味がありませんよね」

続いては「溶解」という落とし方。お皿に口紅で3本のラインを描き、①にはサラダ油、②には市販の食器用洗剤、そして③にはがんこ本舗のキッチン洗剤「森へ・・・」をそれぞれかけて指で軽くこすってみると‥‥

③に使用したのはがんこ本舗のキッチン洗剤「森へ・・・」
③に使用したのはがんこ本舗のキッチン洗剤「森へ・・・」

なんと③だけが、きれいな状態に。

③の汚れが落ちている様子

「①と②は原料に油が多く含まれています。洗剤の油と口紅の油が反応して、いわゆるオイルクレンジングみたいな効果が得られます。しかしやっぱり汚れは落ちるものの、なくなりはしません」

では、③はどうだろう。

「③は99%が中性の液体、つまり水です。しかも粒子が非常に細かく、皿の奥にまで入り込んで汚れを落とだけでなく、この洗剤は“水中油滴”という状態をつくることができる。簡単に言えば油そのものを『分解』へと導くことができるんです」

ホワイトボードで説明する様子
水中油滴の状態にすることで、油汚れは100%生分解される
右が、水にがんこ本舗の洗剤を混ぜて振り、泡立てたもの。左は市販の食器用洗剤。写真では分かりにくいががんこ本舗の洗剤の泡は細かい。その粒子は、なんと光の波長よりも小さな領域である400ナノメートルなのだとか
右が、水にがんこ本舗の洗剤を混ぜて振り、泡立てたもの。左は市販の食器用洗剤。写真では分かりにくいががんこ本舗の洗剤の泡は細かい。その粒子はなんと、光の波長よりも小さな領域である400ナノメートルなのだとか

がんこ本舗の洗剤は、海洋タンカーの事故によって流出した油処理の研究から生まれたもの。粒子の細かい泡を生み出すファインバブル技術を開発し、生態系の邪魔をすることなく、海に負担をかけないような洗剤を生み出したのだ。

がんこ本舗の代名詞ともいえる洗濯用洗剤「海へ・・・」詰め替え 450ミリリットル 1,980円(税抜)
がんこ本舗の代名詞ともいえる洗濯用洗剤「海へ・・・」詰め替え 450ミリリットル 1,980円(税抜)
中川政七商店で販売するTHE洗濯洗剤「The Laundry Detergent」もまた環境保全を考慮した優秀品。500ミリリットル 2,500円(税抜)
中川政七商店で販売するTHE洗濯洗剤「The Laundry Detergent」もまた環境保全を考慮した優秀品。500ミリリットル 2,500円(税抜)

「キッチンでもお洗濯でも。汚れを落としたはいいけれど、それで海や自然が汚れるようでは困りますからね」

ゴシゴシこするのではなく“ゆすりをかける”

洗剤の基礎知識を学んだところで、本題の洗濯へ。

木村さんが用意したのは、肉の脂に焼肉のタレを混ぜた液体。これを綿とポリエステル混合の布に塗って、シミのある状態を再現した。

布に汚れをつける様子
こってりとした脂をつけるとなかなか落ちないのだが

ここで使用したのは、がんこ本舗の部分洗い用洗剤「海をまもる シャチッとスプレー」。

中央「海をまもる シャチッとスプレー」ボトル 300ミリリットル 2,800円(税抜)
中央「海をまもる シャチッとスプレー」ボトル 300ミリリットル 2,800円(税抜)

「まずは汚れた部分に洗剤をシュシュッとかけてやさしくゆすりをかけます。強い汚れがあるとどうしてもゴシゴシとこすりたくなりますが、それでは繊維を傷めることに。あくまでも優しくゆすりながら洗浄成分を中にまで浸透させていきましょう」

先ほどの新聞ナプキンを思い出してほしい。新聞紙が破れないほどの力でクシュクシュするのと同じ要領で、生地にゆすりをかけるようにしよう。

「ゆすりをかける」×「ドライヤー」を3回繰り返す

次に取り出したのはドライヤーだ。これで、スプレーした部分に熱を加えていく。

「ドライヤーで熱を加えることで洗剤の温度を上げて、よりその効果を促進させます」

参加者より「ぬるま湯に入れて洗うよりドライヤーがいいんですか?」「スプレー自体を温めてはいけないの?」との質問が。

「ぬるま湯に入れると洗剤成分の濃度がそれだけ薄くなりますから、より効果的に汚れを落とすためには直接塗って温めたほうがいい。またスプレー自体を温めてしまうと成分に影響が出て、これもまた効果が失われることになります」と木村さん。

布にドライヤーをあてる様子
ただし、熱を加えるのはコットンなど熱に強いものだけ。シルクやウール製品の場合は、縮むおそれがあるため、その際はゆすりをかけるだけでOK

この「スプレーしてゆすりをかける」×「ドライヤーで熱を加える」を3回ほど繰り返したら、あとは普通に洗濯するだけ。

布を水で洗う様子
さて、その仕上がりやいかに‥‥
汚れが落ちる前と後の比較
左の状態だったものが、右のように真っ白に

油シミはきれいに落ちていた。

「1回の作業で落ちなければ、これを何回か繰り返すことで、ワインや醤油をこぼしたときのシミから、口紅やファンデーションに至るまで、クリーニング屋さんに出しても落ちなかった汚れが、みーんな落ちますよ」

白いシャツがよみがえる!

当日は参加者に、汚れが落ちなくて困っている衣類などを持参してもらった。
お一人が持ってこられたのは、いや~な黄ばみがついてしまった白いシャツ。

「洗ったときはきれいだったのに、時間が経つとシミや黄ばみができていたってことがあるかもしれませんが、それは完全に汚れが落ちきってなかったから。空気中の酸素と汚れが結び付いて酸化したことによって生じるんです」

先ほどと同じ要領で、汚れている部分にスプレーしてゆすりをかけ、

シャツにスプレーをする様子
スプレーした部分にドライヤーをあてる

ドライヤーで熱する。これを3回ほど繰り返していくと‥‥

シャツの汚れが落ちている様子

こんなに白くなっていた。まだ完全ではないものの、何度か繰り返せば真っ白に生まれ変わるのも時間の問題である。

また、リネンバッグの取っ手の汚れ。よく使う部分だからこそ手垢などで黒く汚れがちだ。

リネンバッグの取っ手にスプレーをかける様子

ここにも「シャチッとスプレー」をシュシュッとかけて軽くゆすり、ドライヤーで熱すること3回。

スプレーした個所にドライヤーをあてる

ここまできれいな状態に。

洗濯とは、好きなものを長く使い続けるためのメンテナンス

ほかにも、木村さんはいろいろな洗濯のコツを教えてくれた。

木村さん

その1 大事な洗濯物はなるべくネットに入れて洗うこと。

「このとき洗濯物にぴったり合うサイズを使うこと。ネットのなかでぐちゃぐちゃになっては意味がありませんから。ちょうどいいサイズのネットにきちんと折り畳んで洗濯物を入れましょう」

その2 色柄ものは裏返して洗う。

「そのまま洗うと色柄が薄くなったり、痛みが早くなりますし、洗剤を生地の中により入れ込むという意味もあります」

その3 干すときにも裏返しのままで。

「色柄側を直接太陽の光にさらさないということもありますが、濡れているときには糸が縮んだ状態。それをきちんと延ばしながら干すために裏側を表に向けて乾かしましょう」

最後に木村さんは言う。

木村さん

「洗濯とは汚れを落とすための作業でもありますが、なにより好きな服を長く着るためのメンテナンスでもあるんです。お気に入りの服がきれいになると嬉しいでしょう。僕自身、黒ずんでいたシャツが白くなるとちょー嬉しいし、ちょー楽しい。みなさんも、ご自分が笑顔になれるようなお洗濯をしていただけたらと願っています」

<関連商品>
THE 洗濯洗剤

<取材協力>
がんこ本舗
神奈川県茅ヶ崎市中海岸2-5-5-112
0467-84-5839
http://www.gankohompo.com

文:葛山あかね
写真:池田昂樹

*こちらは、2018年12月28日の記事を再編集して公開しました