こんにちは。細萱久美です。
約1年前の「さんち」にて、「日本のおやつ職人・まっちんと行く、京都の厳選あんこ菓子巡り」のタイトルにて、京都の和菓子屋5軒をご紹介しました。
この記事が好評だったということと、個人的にも久々に他の街の菓子巡りをしたくなり、再度まっちんに協力をお願いすることにしました。
まっちんこと、町野仁英(まちのきみひで)さんは日本のおやつ職人であり、「ツバメヤ」などの商品プロデューサー。中川政七商店でもコラボしている「大地のおやつ」の生みの親でもあります。
日々和菓子やおやつを探求しており、ツイッターでも「おやつイート」を日課にしているそう。
そんなまっちんとは10年来の友人でもあり、味の好みや仕事へのスタンスに共感できるので、いつも刺激をもらっています。
現在は商品プロデュース業が増えている様子ですが、基本的には職人気質であり、好みの店や味の選び方には職人目線が入っています。
普段の食はもっと気楽に選んでいると思いますが、研究目線になると、店構えや店主のこだわり、もちろん味にも筋の通った店が気になると見え、京都のあんこ菓子巡りでも楽しく味わっている私をよそに、集中してエネルギーを消耗していました。
去年の京都に続きまして、今年は大阪を巡ることに。
大阪は和菓子も洋菓子もあり、菓子という括りではないものの、おやつ的食べ物の「たこ焼き」もはずせないということで、ジャンルにこだわらない「大阪おやつ」を巡ることにしました。その中から厳選した5選をお届けします。
まっちんのフィルターを通した、大阪らしさやこだわりのある味と出会えるかとワクワク。
1枚1枚手焼きのたまごせんべい「はやし製菓本舗」
まずは9時半からやっている働き者のお煎餅やの「はやし製菓本舗」さんへ。チンチン電車が走る道から、奥まった筋の商店街に現れた、昭和レトロな店構えに早速心惹かれます。
こちらは昭和8年から続く、たまごせんべいの専門店。朝から店頭で店主の林さんが1枚1枚手焼きする姿が印象的。
正座で淡々と、日々焼き続けているのかと思うと継続のすごさを感じます。
そして、看板商品の「浪花ことばせんべい」に一目で釘付けです。26種類の大阪弁を、一つずつせんべいの表面にコテで焼きつけたもの。昭和38年の大阪万博に向けて「これぞ大阪という名物を」と誕生させたそうです。
数枚ずつ大阪モチーフの紙で包んだものが箱に入っていますが、浪花ことばが番付風になって印刷された和泉木綿の手ぬぐいが包装紙代わりになっている48枚入りの完成度の高さに感心です。
価格もリーズナブルで日持ちもするので、こんなにローカル土産の条件を満たした商品に久々に出会いました。
もちろんたまごせんべいは毎日のおやつにもぴったり。材料は卵、砂糖、小麦粉、はちみつとシンプルで、素朴な甘さは飽きがきません。
浪花ことば以外にも、巻いたおせんべいや豆入りなどもありますが、これぞ大阪おやつ!と言いたい1枚が。ちょっとぽっちゃりした野球少年の焼印入りの「野球せんべい」です。
胸のHのイニシャルは阪神タイガースに違いなし。まっちんと、まっちんのお父さんは超が付くタイガースファンであることも分かって手土産にもなりました。
弟さんがおせんべいを焼いて、お姉さんが販売を担当していますが、作業的には手一杯ということで、卸や催事はしていません。地方発送は出来そうですが、基本的には来店して購入します。
手焼きの風景から、壁に掛かった数々の焼き型、木とガラスのショーケースまで、お店の雰囲気を見て感じながらの買い物が、買い物の基本であることを思い出させてくれます。
そしてお店に買いに来た時は、きっと焼き立ての試食というおまけが。
焼きたての数十秒はまだおせんべいは柔らかくて卵の香りが立ちます。見る見るうちにパリッと固くなるので、これは来ないと味わえない特別な味です。
どちらかと言えば、私の方が盛り上がってしまいましたが、まっちんも好みの様子。派手さはないけど、気取らず飾らずに、日常に当たり前にあるようなおせんべいだという感想です。
昔ながらの古き良きスタイルを守り、この変わり続ける時代の中でも変えない製法や姿勢は、実はかなり貴重な存在。これからも変わらずに守って欲しいという感想は私も全くの同感です。
おやつ?おかず?たこ焼き発祥の「会津屋本店」
2軒目は、大阪おやつとしてはずせない「たこ焼き」です。
ソース味にそこまで馴染みのない私は、たこ焼きはあまり食べる機会がありません。おやつなのかご飯のおかずなのか、果たしてどちらなのでしょう。
そんな疑問も持ちつつも、まっちんお気に入りの「会津屋本店」さんへ。店構えは、よくある感じのたこ焼き屋です。
違いといえば屋根に書かれた「たこやき」の隣の「ラヂオ焼き」という文字。ラヂオ焼きとはいかに。
店内に入ると、色々なメニューがありましたが「元祖たこ焼き」「元祖ラヂオ焼き」「ネギ焼き」の3種盛りを注文。出て来た3種盛りには、想像のソースやマヨネーズはなく、サイズも小振りで上品な印象です。
テーブルには、「美味しんぼ」があり、その表紙にはなんと会津屋本店のたこ焼きが。私は読んで分かったことですが、この会津屋本店がたこ焼きの発祥だそうです。
大阪では知る人も多いのかもしれませんが、たこ焼きが生まれた流れは、会津出身の創業者が、昭和8年にまずはたこ焼きの原型のラヂオ焼きを、10年にたこ焼きを作り始めたのだとか。
ラヂオ焼きとは、たこではなくすじコンニャクが入っていて、初めて食べました。
会津屋本店のたこ焼きは、出汁のきいた生地がふんわりトロトロ。紅生姜や青のりも無し。お好みでソースや酢醤油を付けても良いのですが、これはそのままが美味しい。タコの旨みをこんなに感じるたこ焼きは初めて味わいました。
必要十分に削ぎ落とされた味は、お祖父さんである創業者が朝から晩まで毎食たこ焼きを食べて研究を重ねて作られたそうです。
そんな職人気質な姿勢でありながら、手でつまんで食べられる手軽さと、庶民的な価格の気軽さにこだわったたこ焼きが、数あるたこ焼きの中でまっちんが好むことにも納得。
常連の予約も多いと見え、店頭の鉄板ではたこ焼きがひたすら焼き続けられています。そのライブ感のある雰囲気も併せてまっちん一押し。
あっさり軽い、けれどもくせになる、おやつに食べたいたこ焼きとの出会いとなりました。
まるで卵焼き!「アラビヤコーヒー」のフレンチトースト
続いて、3軒目は喫茶で一息。おしゃれなカフェも多い大阪ですが、古き良き時代から続く純喫茶も残っています。
まっちんは大の純喫茶好き。私もオーナーの個性が光る純喫茶には惹かれます。
今回は難波で昭和26年から愛され続ける「アラビヤコーヒー」さんへ。スキー好きだった先代が山小屋をイメージして作られたそうです。
まっちんは何度か来たことがあるそうですが、おやつということで初めてのフレンチトーストを注文。
今時のカフェだとバゲットを使うことが多いフレンチトーストですが、ここでは分厚い食パンが使われています。食べやすいようにカットされてサービスされますが、まず見た目が卵焼きにしか見えません。
そこにメープルシロップをたっぷりかけると、ようやくフレンチトーストに見えてきました。
もっちりしっとり食感の食パンの中の方は白いままなので、シロップをかけてすぐに食べるとあっさりですが、少し置いてシロップを中まで染み渡らせるとジュワッと甘みが広がって絶妙な美味しさです。ぜひ少し我慢して染み込ませてお試しいただきたいです。
自家焙煎のコーヒーは深煎りでもソフトな風味で、やさしさに溢れたフレンチトーストにも相性ぴったりです。
場所柄、常連さんに混じって、観光客や外人さんも来店されるようですが、初めて行った一見の私でも居心地の悪さは一切感じませんでした。賑わいのある難波界隈にあって肩肘張らずにくつろげる雰囲気はまっちんもお気に入り。
内装やメニューに強いこだわりを感じつつも、コーヒー愛に溢れる居心地の良い純喫茶のフレンチトーストはまた食べたくなる懐かしい味がしました。
さて、ここまでバリエーション豊かな3軒をご紹介しました。まだまだ、大阪には個性あふれるおやつがたくさん。後編に続きます。
<訪ねたお店>※来訪順
はやし製菓本舗
大阪府大阪市阿倍野区王子町1丁目7-11
電話:06-6622-5372
会津屋本店
大阪府大阪市西成区玉出西2丁目3-1
電話:06-6651-2311
アラビヤコーヒー
大阪府大阪市中央区難波1丁目6-7
電話:06-6211-8048
http://arabiyacoffee.com/
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町野仁英 まちのきみひで
三重県伊賀市生まれ。愛称まっちん。
地元農家で無農薬の米作りを学んだ経験をきっかけに独学で和菓子作りを始め、2004年に「和菓子工房まっちん」を開店。米や豆や粉のおいしさを生かした独自の和菓子を作る。2010年から岐阜県岐阜市に活動拠点を移し、和菓子屋「ツバメヤ」の立ち上げ、商品開発に携わる。2012年より老舗油屋「山本佐太郎商店」とのコラボ商品としてかりんとうやビスケットなどの「大地のおやつ」を生み出し、全国に向けて販売している。商品開発や製造指導を手がける傍ら、職人として日々和菓子やおやつを探求中。
HP:日本のおやつづくり まっちん https://www.mattin.jp/
細萱久美 ほそがやくみ
元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
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文・写真:細萱久美