道の駅で見つけた「高島ちぢみ」。工芸品との出会いを楽しむ宝探しの旅

こんにちは。元中川政七商店バイヤーの細萱久美が、「日本各地、その土地に行かないと手に入りにくいモノ」を紹介します。

SNSユーザーも日本の人口の半数を越えたらしく、簡単に様々な情報を得られるので、アナログな私でさえも主にInstagramを利用して、モノやコトの情報を得られて便利な時代だなとは思います。

ただ、ネットや都心の小売店に出ているモノは、それなりに発信力もあるむしろメジャーなモノと言えます。全国にはまだまだそこに乗っかってないモノや、供給的にも乗っかれないモノがたくさんあります。

もちろん地方にもメジャーを目指して頑張っているメーカーもありますが、ローカルに限定して頑張るのも悪くないと思います。こちらの立場としては、マイナーを見つける醍醐味や、現地で買う体験の楽しさがありますね。

ところで、私は運転が出来ません。免許はありますが、20年以上運転していないので完全にペーパードライバーです。

都会は電車移動で問題ないですが、地方に行くと運転が出来たらなと思うことが多いです。公共機関ではどう頑張っても行けない目的地も少なくなく、最近の欲求として地方に行ったらなるべく「道の駅」に立ち寄りたいということがあり、フツフツとペーパードライバー講習の必要性を感じています。

現在は、地方に車で行く機会があっても運転は誰かに頼らざるを得ず、そして道の駅を見つけると半分無理やり立ち寄ってもらいます。たまに迷惑かなと思いつつも我慢できません。

道の駅は、ご存知の通り、地元の野菜や畜産、グロサリーなどご当地食材の宝庫。新鮮な野菜や果物も魅力的ですが、見たことのないグロサリーやお菓子などで惹かれるパッケージを見つけるとワクワクします。

それと、店舗の端に追いやられがちな工芸品も必ずチェック。デザインは素朴ながらもキラリと光るご当地の技術を見つけることがあります。

そしてかなりの確率で、価格がびっくりするほど安い!ここは本当に日本?と疑いたくなることもあります。

今回紹介するのは、そんな道の駅で出会った「織物」です。滋賀県は琵琶湖周辺に道の駅が多い気がしますが、高島市にある道の駅で、地元織物で作った洋服コーナーの一角がありました。

「高島ちぢみ」というちぢみ生地を使った、Tシャツやらステテコなどが置いてあり、何気なく価格を見たら、Tシャツで1000円以下でした。

「やす!!」と驚き、軽くてシャリ感のある涼しげな触り心地に、夏の寝巻きに間違いなく気持ち良さそうと買い求めました。案の定、今年のような熱帯夜には最適です。汗が引かないお風呂上がりでもベタつかず、吸水速乾力があります。

滋賀県高島市「高島ちぢみ」のTシャツ

琵琶湖の湖西地方の高島では200年以上も昔から楊柳と呼ばれる織物工業が盛んだったそうです。楊柳はクレープとも呼ばれ、強い撚りをかけて布を織り、その撚りを生かしてしぼを作ります。

伝統的には綿素材で作られていて、肌着やステテコなどに用いられてきました。その伝統は地場産業として今日へと受け継がれ、今では国産の縮生地の約9割が高島で作られていることも調べてみて初めて知りました。

同じちぢみでも、湖東地方の麻を使う近江ちぢみは、麻を使うだけに高価格ですが、高島ちぢみは綿なのでお手頃なのでしょう。

それにしても不思議な価格ですが、作りの工夫やら道の駅ということもあるのかもしれません。私が知らなかっただけで、高島ちぢみも地域ブランドとして活性化の動きがあり、注目度は上がっているそうです。

滋賀県高島市「高島ちぢみ」のTシャツ

価格のことで言うと、会津の道の駅でも30円の国産菜箸を発見して驚愕しましたが、道の駅だとあり得る価格なのでしょうか。産地に利益を残そうと思うと、適正価格は違ってくる気がしますが、道の駅ならではの驚きの楽しさはあります。

モノづくりのヒントを宝探しのように見つけられる道の駅探索は今後も続きます。その前に教習所のハードルが‥‥

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
ホームページ
Instagram

文・写真:細萱久美

*こちらは、2018年8月30日の記事を再編集して公開いたしました。


<関連商品>

高島ちぢみのフリーシャツ
高島ちぢみのフリーTシャツ
高島ちぢみのフリーワンピース
高島ちぢみのフリーパンツ

日本のおやつ職人・まっちんと行く、多彩な“大阪おやつ”食い倒れの旅 ~後編~

こんにちは。細萱久美です。

日本のおやつ職人であり、食品プロデューサーの町野仁英(まちのきみひで)さんこと、まっちんと行く「大阪おやつ」巡りの後編です。

前編では、せんべい、たこ焼き、喫茶店のフレンチトーストとまさにジャンルにこだわらないおやつをご紹介しました。今回はどんなおやつに巡り会えるのでしょうか。


味も製法も洗練された和菓子「餅匠 しづく」

「餅匠 しづく」外観

4軒目は、まっちん専門分野の和菓子を選びました。まっちんも私も気になっていた「餅匠 しづく」さんへ。

シュッとしたオシャレな和菓子屋さんかなという予想で伺いました。店の室礼はシンプルでシック。老舗とも違いそうだし、どんな製造背景があるのだろうと気になりました。

こちらのコンセプトは「お菓子で百薬の長を目指す」。なんともインパクトを感じます。

店主ご自身とご家族の病気や奇跡的な回復などの過去の経験から、人の心と体を元気にすることをお菓子を通じて実現させているのだとか。実際、ここのお菓子を食べると元気になるお客様が多いというのが不思議な話です。

「餅匠 しづく」の和菓子

ホームページにも説明がある通り、素材や製法にとんでもなくこだわりを追求しており、確かに餅の「きめ」の細かさは食べたことのない滑らかさを感じました。

まっちんも専門的な目線が鋭く、アクを抜いたあんこの綺麗な味に感心至極。

「餅匠 しづく」の和菓子

お餅はどれも見た目から美しく、味も洗練されており、五感で味わう餅菓子は確かに心と体が喜ぶ気がしました。

店内も美意識に溢れていてストイックな印象もありますが、店主に話を聞くと熱い信念を持った揺るぎない姿勢に感銘をうけます。見掛け倒しではない、独自路線を追求する和菓子の名店を発見しました。

おやつ職人もうなる「ル・シュクレクール」のパン

「ル・シュクレクール」外観

5軒目は、パン屋の「ル・シュクレクール」さんへ。名前からしてオシャレなイメージが、まっちんセレクトにしてはちょっと意外と思った一軒です。

しかし食べたらわかるその本物感。名前のイメージそのままの、パンの本場パリを思わせる味わいと、日本人に変に合わせない小難しい商品名もまた良い感じです。

パン屋「ル・シュクレクール」内観

複数のパンに同じ生地を使っていると思う店もありますが、こちらはそれぞれのパンに合わせた別々の配合生地を使っているとまっちん論。いくつかのパンをいただきましたが確かにそう感じました。客足が絶えない人気振りも納得です。

まっちんは初めて食べた時に衝撃を受けて、このパンの作り手から生まれるパンをもっと知りたいと思ったそうです。ジャンルは違えど、同じ作り手としてその貪欲さに影響を受けて何度も通っているそう。

イートインもできる店内はカジュアルで、接客も程よく抜け感があって心地よいのも大阪ぽい?

「ル・シュクレ・クール」のあんバターサンドとサンドイッチ

おやつとして、あんバターサンドとサンドイッチをぺろり。この美味しさは、全種制覇したいと思う数少ないパン屋です。

色々なジャンルのおやつを食べ歩きした1日でしたが、一つのカテゴリーに止まらない、なんでもござれ感も、大阪の味の魅力かなと勝手に思っています。

庶民的な和菓子であっても、老舗であれば程よく感じるキリッとした緊張感が京都らしさだとすると、なにわ商人のまち大阪はエンターテインメント性や気取らぬ雰囲気が漂い、関東出の私などは新たな発見も多いです。

地域が変われど、まっちんの選ぶ店や味は、ただ者ではない感があります。独自路線を追求していて、いわゆるマーケティング要素はほぼ感じず。

そこでしか味わえない「味」、それだけでなくその味を生み出している「人」と「店」も気にせずにいられません。味・人・店の三位一体で、唯一無二な存在となっていると感じ、その魅力に何度も行きたくなってしまいます。

独自の味を追求しても受け入れられないと意味がないですが、今回訪れた店はどこも顧客に支えられている感じです。

まっちんは消費者としてだけでなく、これらの店から作り手としての刺激を受けているのだと思います。

私も、最近のテーマがいかに独自性を持つかということもあり、やはり刺激を受けたのと、飲食なので必然的にそうなりますが、実際に店に行ってサービスを受けたり、店の雰囲気を感じることも含めて、その店のアイデンティティなのだということを改めて感じました。

<訪ねたお店>※来訪順

餅匠しづく 新町店
大阪府大阪市西区新町1丁目17-17
電話:06-6536-0805
http://nichigetsumochi.jp/

ル・シュクレクール
大阪府大阪市北区堂島浜1丁目2-1 新ダイビル1F
電話:06-6147-7779
http://www.lesucrecoeur.com/

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町野仁英 まちのきみひで

三重県伊賀市生まれ。愛称まっちん。
地元農家で無農薬の米作りを学んだ経験をきっかけに独学で和菓子作りを始め、2004年に「和菓子工房まっちん」を開店。米や豆や粉のおいしさを生かした独自の和菓子を作る。2010年から岐阜県岐阜市に活動拠点を移し、和菓子屋「ツバメヤ」の立ち上げ、商品開発に携わる。2012年より老舗油屋「山本佐太郎商店」とのコラボ商品としてかりんとうやビスケットなどの「大地のおやつ」を生み出し、全国に向けて販売している。商品開発や製造指導を手がける傍ら、職人として日々和菓子やおやつを探求中。
HP:日本のおやつづくり まっちん https://www.mattin.jp/

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
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Instagram

文・写真:細萱久美

わたしの一皿 おだやかならぬ春がやってきた

穏やかならぬ春がやってきた。

いや、春は穏やかなのかもしれないが、人の世は混乱している。外出がしにくいならばせめて家の中を楽しい時間にしたいではないか。

この連載「わたしの一皿」もそんな一助になればこれ幸い。みんげい おくむらの奥村です。

人がいつもよりも少ない魚市場を歩く。飲食店が元気がないというのを実感する。それならせめてもと多めに&いつもよりも良い魚を買ってきた。

そのひとつが今日の主役だが、珍しく切り身。ケチではない。数kgの鰆(サワラ)一匹なんて三人家族ではとても使いきれない。

鰆の切り身

「今日のは脂すごいよ」と店のお兄さんも太鼓判。見た目から、ビシビシ伝わってくる。繊細な身から脂が染み出してきそうだ。

鰆の切り身

つい先日3歳になったうちの坊やは、魚料理が大好きだ。

野菜も大好きで、と言いたいところだが野菜はてんでダメ。これには困っている。

それはともかく、煮付けや焼き物といった魚料理は大人と同じほど食べる。今日はそんな坊やのお気に入りのうつわに魚料理を盛り付けてみた。

熊本・平沢崇義(ひらさわたかよし)さんのうつわ

うつわは熊本のすゑもの亀屋・平沢崇義(ひらさわたかよし)さんのうつわだ。熊本の著名な陶芸家のもとで経験を積み、独立。今は熊本市内の小さな工房で作陶している。

実のところ彼とは歳も近い友人なので、作るうつわのことは贔屓目に見がちになる。そんなわけで、あまり褒めないでおきたいが、坊やが気に入っていることは確かなのだ。

評価はさておいて、彼の焼き物は変化を続けているというのは確かだ。ここ3年は、千葉で僕が選考委員をしているクラフトフェア「にわのわ」にもたまたま参加してくれていて、そこでの定点観測でもそう感じている。

僕が付き合いのある古くからの窯場は、作るうつわに短期間での極端な変化はない。だからか、まだどこか決まったところに着地しない彼の焼き物は見ていて楽しい。

最初からこれだ、と決めて始める作り手もいるだろうが、多くの人はいろんなことをやってから、どこかに落ち着くのではないだろうか。

彼もあっちこっちにと色々動いた後、どこかに落ち着くのだろうか。いや、落ち着かぬままなのか。

そんな事情を知る由もなく、うちの坊やがよく使うのがこの楕円の皿というか鉢というか、そんなうつわ。まだ箸が使えず、スプーンを多様する小人にとっては使い勝手が良いようだ。

親の我々にとっても、単純にあれこれと使い勝手が良いうつわなので、小人だけに使わせておくにはもったいなくて日々のうちの食卓で活躍している。

塩をふった鰆

鰆は臭み取りの霜降りをした後、塩をふって時間を置く。それをキッチンペーパーで拭き、さっと煮る。

フライパンで鰆を煮る

決して煮すぎてはいけない。鰆のふわっとした身質が損なわれてしまったら台無しだ。

ついでにワカメとネギも煮ておけば一皿で栄養バランスも取れる。坊やがネギには見向きもしないのが残念だが。おいしいんだけどな。

この時期なら煮魚の仕上げに山椒の葉を忘れてはならない。この香り、たまりません。

ところで余談だが、この山椒の葉。スーパーなどでは「木の芽」という名で売られているのを知ったのは大人になってから。

これは地域性はなさそうだから、和食の世界でそう呼ぶのでしょうか。ちょっとした不思議。

うつわに盛り付けた鰆の煮つけ

今日の鰆は身が分厚いから、本当にふわっふわ。口の中で勝手にほぐれていく。こんな鰆にはひさびさに出会った。

友人のうつわ、市場のお兄さんのオススメ。気持ちが温まる一皿になった。

これからしばらく、外食を控えることが続きそうだ。テイクアウトに取り組む飲食店も増えるよう。もしかするといつもよりも家のうつわが忙しくなるかもしれない。

じっくりと家族の料理を作る時にも、持ち帰り容器から移し替える時にも、一枚のうつわが誰かにとって心強い存在であることを願うばかりだ。

手で作られたうつわの多くは、使った時間がそのうつわに投影される。つまり、育つのだ。10年後、20年後、いつかはわからないが、2020年のこの時期をうつわを通じて思い出す日が来るかもしれない。

たかが一食。されど一食。静かに、だけど強くこの難局を乗り切らなければならない。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

中華せいろキホンの使い方は「放置する」だけ。一人暮らしや料理初心者にこそおすすめの簡単料理法

中華せいろを使い始めました

こんにちは。細萱久美です。

それなりの料理好き、そして道具にこだわりたいタイプの私ですが、「せいろ」を手に入れたのは1年ほど前。周りの声を聞いても、「気になっていた」「やっと手に入れた」という感じで使い始める方も少なくない様子です。

なぜ少しハードルを感じるかを考えると、

・かさばる
・扱いが難しそう
・サイズに悩む

などの理由でしょうか。あと「蒸す」調理は、ある程度電子レンジでまかなえるという点で必需品になりづらいのかもしれません。

私は、蒸すこと自体は以前からしていましたが、鍋に付随した蒸し皿で対応していました。せいろは気になりつつも、限りある収納を思うと躊躇しており、今回ようやく手に入れた訳です。

「照宝」の中華せいろ

選んだのは「中華せいろ」

買い求めてみると、まず見た目が美しい。完成された形です。

「照宝」の中華せいろ

私が今回選んだのは中華せいろ。

中華せいろは中国で、和せいろは日本で生まれ、それぞれの食文化に根付いたのかと思いますが、作りがほぼ同じなのが面白いのと、いずれも職人が数作ることで完成されてきた形なのだと思うと、民芸的です。

使い始めてみると、扱いにくさは特に無く、すっかり定番道具として馴染んでいます。

放置するだけの簡単調理。意外な素材にもおすすめな「せいろ」の使い方

蒸すのに、素材は肉・魚・野菜・豆腐・饅頭・点心など万能です。

蒸気で包み込むので、素材がふっくら柔らかく、旨味も逃げていないので美味しく仕上がります。電子レンジよりは時間が少し掛かりますが、時間が経ってもパサつきにくくしっとり感が保たれます。

素材の美味しさを感じられて、カロリーも抑えられるので、健康管理やダイエットにも良いのです。

意外な素材としておすすめは、カンパーニュやベーグルなど固めのパン。数日経って更に固くなったパンを蒸すと、ふわふわもっちりになって、焼くことでは得られない新しい食感を楽しめます。

蒸す際は、野菜は直接入れて蒸しても大丈夫ですが、クッキングペーパーを敷くと取り出しやすく便利。水分・油分の出る肉や魚はお皿の上に載せて蒸します。

蒸気が出始めたらせいろをセットして、5~10分。放置しておくだけの簡単調理。

蒸気がワクワク感を増します。開ける時は、素材の良い香りが立ってそこからご馳走という感じです。

見た目良く、開けるワクワクも手伝って、来客時のメニューにも最適。実は簡単調理なのに、なぜか手の込んだ料理に見えてしまうのも嬉しい点です。

「照宝」の中華せいろ

実はお手入れも簡単な“蒸す”道具「せいろ」

確かに嵩(かさ)はありますが、通気の良い場所に保管するのが好ましいので冷蔵庫の上に置いています。軽いので高いところにも気兼ねなく置いています。

お手入れは、そこまで汚れる調理はしないので、拭いたりさっと洗ってしっかり乾かせば問題ありません。

水につけっぱなしや洗剤は嫌うので、拭くだけの方がむしろ良く、調理中に蒸気で自然と殺菌されるので、不衛生にはなりません。

多機能の道具ではないので、とても便利!という実感ではありませんが、蒸すという一機能には抜群のパフォーマンスを発揮する道具だと思います。個人的には多機能な便利グッズよりも、何かに特化した道具の方が分かりやすくて好みです。

簡単で美味しいので、むしろ一人暮らしや料理初心者にこそおすすめしたい料理道具なのです。

愛用は「照宝」の中華せいろ

私は、全国からプロや料理好きが通う、せいろと調理道具の専門店「照宝」の中華せいろを愛用。横浜中華街でお店を構えて半世紀以上になる老舗です。

抗菌効果もある国産のヒノキを使い、しっかりと厚みのある素材を熟練の「曲げ」の技術でつくられたせいろは一生もの。自分の生活に馴染むのか試すために、お手頃なせいろからトライするのも良いと思います。

サイズとして、私はやや大きめの24センチを使っていますが、少量や一人分を蒸す際には小振りの18センチを1段や2段で使うのもコンパクトで良いと思います。

私もそろそろ追加しようかと考えています。置き場所を検討しつつ‥‥。

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
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Instagram

文・写真:細萱久美

*こちらは、2019年7月22日の記事を再編集して公開いたしました。

日本のおやつ職人・まっちんと行く、多彩な“大阪おやつ”食い倒れの旅 ~前編~

こんにちは。細萱久美です。

約1年前の「さんち」にて、「日本のおやつ職人・まっちんと行く、京都の厳選あんこ菓子巡り」のタイトルにて、京都の和菓子屋5軒をご紹介しました。
この記事が好評だったということと、個人的にも久々に他の街の菓子巡りをしたくなり、再度まっちんに協力をお願いすることにしました。

まっちんこと、町野仁英(まちのきみひで)さんは日本のおやつ職人であり、「ツバメヤ」などの商品プロデューサー。中川政七商店でもコラボしている「大地のおやつ」の生みの親でもあります。

日々和菓子やおやつを探求しており、ツイッターでも「おやつイート」を日課にしているそう。

3じのビスケット
大地のおやつシリーズ「3じのビスケット」

そんなまっちんとは10年来の友人でもあり、味の好みや仕事へのスタンスに共感できるので、いつも刺激をもらっています。

現在は商品プロデュース業が増えている様子ですが、基本的には職人気質であり、好みの店や味の選び方には職人目線が入っています。

普段の食はもっと気楽に選んでいると思いますが、研究目線になると、店構えや店主のこだわり、もちろん味にも筋の通った店が気になると見え、京都のあんこ菓子巡りでも楽しく味わっている私をよそに、集中してエネルギーを消耗していました。

去年の京都に続きまして、今年は大阪を巡ることに。

大阪は和菓子も洋菓子もあり、菓子という括りではないものの、おやつ的食べ物の「たこ焼き」もはずせないということで、ジャンルにこだわらない「大阪おやつ」を巡ることにしました。その中から厳選した5選をお届けします。

まっちんのフィルターを通した、大阪らしさやこだわりのある味と出会えるかとワクワク。

1枚1枚手焼きのたまごせんべい「はやし製菓本舗」

たまごせんべいの専門店「はやし製菓本舗」外観

まずは9時半からやっている働き者のお煎餅やの「はやし製菓本舗」さんへ。チンチン電車が走る道から、奥まった筋の商店街に現れた、昭和レトロな店構えに早速心惹かれます。

こちらは昭和8年から続く、たまごせんべいの専門店。朝から店頭で店主の林さんが1枚1枚手焼きする姿が印象的。

正座で淡々と、日々焼き続けているのかと思うと継続のすごさを感じます。

たまごせんべいの専門店「はやし製菓本舗」製造風景
たまごせんべいの専門店「はやし製菓本舗」製造風景

そして、看板商品の「浪花ことばせんべい」に一目で釘付けです。26種類の大阪弁を、一つずつせんべいの表面にコテで焼きつけたもの。昭和38年の大阪万博に向けて「これぞ大阪という名物を」と誕生させたそうです。

「はやし製菓本舗」の「浪花ことばせんべい」

数枚ずつ大阪モチーフの紙で包んだものが箱に入っていますが、浪花ことばが番付風になって印刷された和泉木綿の手ぬぐいが包装紙代わりになっている48枚入りの完成度の高さに感心です。

価格もリーズナブルで日持ちもするので、こんなにローカル土産の条件を満たした商品に久々に出会いました。

はやし製菓本舗の「浪花ことばせんべい」
はやし製菓本舗の「浪花ことばせんべい」

もちろんたまごせんべいは毎日のおやつにもぴったり。材料は卵、砂糖、小麦粉、はちみつとシンプルで、素朴な甘さは飽きがきません。

浪花ことば以外にも、巻いたおせんべいや豆入りなどもありますが、これぞ大阪おやつ!と言いたい1枚が。ちょっとぽっちゃりした野球少年の焼印入りの「野球せんべい」です。

はやし製菓本舗の野球せんべい

胸のHのイニシャルは阪神タイガースに違いなし。まっちんと、まっちんのお父さんは超が付くタイガースファンであることも分かって手土産にもなりました。

はやし製菓本舗

弟さんがおせんべいを焼いて、お姉さんが販売を担当していますが、作業的には手一杯ということで、卸や催事はしていません。地方発送は出来そうですが、基本的には来店して購入します。

手焼きの風景から、壁に掛かった数々の焼き型、木とガラスのショーケースまで、お店の雰囲気を見て感じながらの買い物が、買い物の基本であることを思い出させてくれます。

はやし製菓本舗

そしてお店に買いに来た時は、きっと焼き立ての試食というおまけが。

焼きたての数十秒はまだおせんべいは柔らかくて卵の香りが立ちます。見る見るうちにパリッと固くなるので、これは来ないと味わえない特別な味です。

どちらかと言えば、私の方が盛り上がってしまいましたが、まっちんも好みの様子。派手さはないけど、気取らず飾らずに、日常に当たり前にあるようなおせんべいだという感想です。

昔ながらの古き良きスタイルを守り、この変わり続ける時代の中でも変えない製法や姿勢は、実はかなり貴重な存在。これからも変わらずに守って欲しいという感想は私も全くの同感です。

おやつ?おかず?たこ焼き発祥の「会津屋本店」

「会津屋本店」外観

2軒目は、大阪おやつとしてはずせない「たこ焼き」です。

ソース味にそこまで馴染みのない私は、たこ焼きはあまり食べる機会がありません。おやつなのかご飯のおかずなのか、果たしてどちらなのでしょう。

そんな疑問も持ちつつも、まっちんお気に入りの「会津屋本店」さんへ。店構えは、よくある感じのたこ焼き屋です。

違いといえば屋根に書かれた「たこやき」の隣の「ラヂオ焼き」という文字。ラヂオ焼きとはいかに。

店内に入ると、色々なメニューがありましたが「元祖たこ焼き」「元祖ラヂオ焼き」「ネギ焼き」の3種盛りを注文。出て来た3種盛りには、想像のソースやマヨネーズはなく、サイズも小振りで上品な印象です。

「会津屋本店」のたこ焼き

テーブルには、「美味しんぼ」があり、その表紙にはなんと会津屋本店のたこ焼きが。私は読んで分かったことですが、この会津屋本店がたこ焼きの発祥だそうです。

大阪では知る人も多いのかもしれませんが、たこ焼きが生まれた流れは、会津出身の創業者が、昭和8年にまずはたこ焼きの原型のラヂオ焼きを、10年にたこ焼きを作り始めたのだとか。

ラヂオ焼きとは、たこではなくすじコンニャクが入っていて、初めて食べました。

会津屋本店のたこ焼きは、出汁のきいた生地がふんわりトロトロ。紅生姜や青のりも無し。お好みでソースや酢醤油を付けても良いのですが、これはそのままが美味しい。タコの旨みをこんなに感じるたこ焼きは初めて味わいました。

必要十分に削ぎ落とされた味は、お祖父さんである創業者が朝から晩まで毎食たこ焼きを食べて研究を重ねて作られたそうです。

そんな職人気質な姿勢でありながら、手でつまんで食べられる手軽さと、庶民的な価格の気軽さにこだわったたこ焼きが、数あるたこ焼きの中でまっちんが好むことにも納得。

会津屋本店のたこ焼き

常連の予約も多いと見え、店頭の鉄板ではたこ焼きがひたすら焼き続けられています。そのライブ感のある雰囲気も併せてまっちん一押し。

あっさり軽い、けれどもくせになる、おやつに食べたいたこ焼きとの出会いとなりました。

まるで卵焼き!「アラビヤコーヒー」のフレンチトースト

アラビヤコーヒー外観

続いて、3軒目は喫茶で一息。おしゃれなカフェも多い大阪ですが、古き良き時代から続く純喫茶も残っています。

まっちんは大の純喫茶好き。私もオーナーの個性が光る純喫茶には惹かれます。

今回は難波で昭和26年から愛され続ける「アラビヤコーヒー」さんへ。スキー好きだった先代が山小屋をイメージして作られたそうです。

アラビヤコーヒーのフレンチトースト

まっちんは何度か来たことがあるそうですが、おやつということで初めてのフレンチトーストを注文。

今時のカフェだとバゲットを使うことが多いフレンチトーストですが、ここでは分厚い食パンが使われています。食べやすいようにカットされてサービスされますが、まず見た目が卵焼きにしか見えません。

アラビヤコーヒーのフレンチトースト

そこにメープルシロップをたっぷりかけると、ようやくフレンチトーストに見えてきました。

もっちりしっとり食感の食パンの中の方は白いままなので、シロップをかけてすぐに食べるとあっさりですが、少し置いてシロップを中まで染み渡らせるとジュワッと甘みが広がって絶妙な美味しさです。ぜひ少し我慢して染み込ませてお試しいただきたいです。

自家焙煎のコーヒーは深煎りでもソフトな風味で、やさしさに溢れたフレンチトーストにも相性ぴったりです。

アラビヤコーヒーの自家焙煎コーヒー
アラビヤコーヒー内観

場所柄、常連さんに混じって、観光客や外人さんも来店されるようですが、初めて行った一見の私でも居心地の悪さは一切感じませんでした。賑わいのある難波界隈にあって肩肘張らずにくつろげる雰囲気はまっちんもお気に入り。

内装やメニューに強いこだわりを感じつつも、コーヒー愛に溢れる居心地の良い純喫茶のフレンチトーストはまた食べたくなる懐かしい味がしました。


さて、ここまでバリエーション豊かな3軒をご紹介しました。まだまだ、大阪には個性あふれるおやつがたくさん。後編に続きます。

<訪ねたお店>※来訪順

はやし製菓本舗
大阪府大阪市阿倍野区王子町1丁目7-11
電話:06-6622-5372

会津屋本店
大阪府大阪市西成区玉出西2丁目3-1
電話:06-6651-2311

アラビヤコーヒー
大阪府大阪市中央区難波1丁目6-7
電話:06-6211-8048
http://arabiyacoffee.com/

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町野仁英 まちのきみひで

三重県伊賀市生まれ。愛称まっちん。
地元農家で無農薬の米作りを学んだ経験をきっかけに独学で和菓子作りを始め、2004年に「和菓子工房まっちん」を開店。米や豆や粉のおいしさを生かした独自の和菓子を作る。2010年から岐阜県岐阜市に活動拠点を移し、和菓子屋「ツバメヤ」の立ち上げ、商品開発に携わる。2012年より老舗油屋「山本佐太郎商店」とのコラボ商品としてかりんとうやビスケットなどの「大地のおやつ」を生み出し、全国に向けて販売している。商品開発や製造指導を手がける傍ら、職人として日々和菓子やおやつを探求中。
HP:日本のおやつづくり まっちん https://www.mattin.jp/

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。お茶も工芸も、好きがきっかけです。好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。素敵な工芸を紹介したいと思います。
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文・写真:細萱久美

アジア最大級の「浜松市楽器博物館」で楽しむ、世界の楽器1300点

さらに音楽の街を楽しむなら、楽器博物館へ

音楽の街として知られる静岡県浜松市。浜松駅のキオスクでも販売されているハーモニカの工房の昭和楽器製造さんにお邪魔したあとは、浜松の公立楽器博物館「浜松市楽器博物館」へ。

「昭和楽器製造が寄贈した歴代のハーモニカも展示されていますよ」と、酢山社長に教えていただきました。

浜松市楽器博物館は、1995年4月にオープンした日本初の公立楽器博物館で、アジア最大級の規模を誇ります。「楽器を通して世界と世界の人々の文化を知ろう」というコンセプトのもと、世界の楽器1300点を地域別、テーマ別に展示しています。

その数の多さと多様さに圧倒されます。個人で楽しむ楽器もあれば、儀式などで使われるものも多く、神様の形をしているなど神聖な位置付けの楽器も様々展示されていました。まずは写真を一挙にお見せしますが、まだまだほんの一部です!

単に音を出す道具、装置であるだけでなく、時には美術工芸品であり、時には畏れ敬う信仰の対象である楽器。遠く離れた地域で近しい形状の楽器が作られていたり、はたまた、同じような楽器でも地域によって意味合いが異なり姿が全く違うものを見比べられるのもとても興味深いです。

展示されている楽器の解説が聞けるギャラリートークが毎日開催されます

楽器を眺めるだけでなく、写真や映像、イヤホンガイドで実際の演奏の様子や音を鑑賞できたり、ギャラリートークと呼ばれる展示楽器の解説 (実演される楽器もあります) の時間が設けられているなど、目でも耳でも楽器や文化に触れることができます。

また、体験コーナーでは実際に楽器に触れることもできます。毎週日曜日にはガイドツアー、定期的にコンサートや音楽家を招いてのトークイベントなども開催されています。

ギャラリートークでの実演の様子。楽器の構造についても解説が聞けます
体験コーナーの楽器

見て、聞いて、触れることのできる博物館。

館内に展示されている映像や音声は実際に浜松市楽器博物館の学芸員の方々が現地まで (時には世界の僻地にまで!) 直接赴いて取材してきたもの。楽器も母体となるコレクションに加えて買い付けてきて増やしていったのだそうです。博物館作りをされた方々の熱量が、濃い展示に繋がっているのだなと感じます。

ここだけで1日中楽しんでいられる、見ごたえたっぷりの博物館でした。

暮らしの中に音楽が溢れる街、浜松

お土産としても発展したハーモニカ。熱意ある収集で見ごたえたっぷりの浜松楽器博物館。どちらからも、その根底にある音楽や楽器への思いが伺えました。

街の中でも、春の浜松まつりの前には何ヶ月もかけて練習するお囃子の音が鳴り響き、秋にはジャズの祭典ハママツ・ジャズ・ウィークが開催され、プロだけでなく地域の大人から子どもまで多くの方々が演奏にも加わり盛り上がります。暮らしの中に自然と溶け込む音楽がそこここに。

帰宅後、私もさっそくお土産のハーモニカを吹きました。自分で演奏してみたくなったり、思わず歌い出したくなったり、音楽がぐっと身近に感じられてウズウズする。浜松はそんな気持ちを呼び起こしてくれる街でした。

<取材協力>

浜松市楽器博物館

静岡県浜松市中区中央3-9-1

053-451-1128

文・写真:小俣荘子

*こちらは、2017年7月28日の記事を再編集して公開いたしました。