山の中の、みんなの場所。気持ちのいい開放感を味わう「ドライブイン茂木」

その土地の色を感じられるお店を紹介する連載、「さんち必訪の店」。

本日訪れたのは、栃木県芳賀郡茂木町の「ドライブイン茂木」です。

都会の喧騒をはなれ、町の小景がある「ドライブイン茂木」へ

東京から車でおよそ2時間。常磐道から見える景色は、徐々に自然が多くなっていきます。窓を開けると、心地よい茂木の風が吹き抜けてきました。

車一台がやっと通れる道。まだ誰も踏んでいない落ち葉の上を進んでいくと、ついに平屋建ての「ドライブイン茂木」と出会えました。

ドライブイン茂木・看板写真
ドライブイン茂木
ドライブ人茂木
扉のない入り口からするりと中へ

2016年7月にできたドライブイン茂木。この地域に生きる人やこの土地の風景、生み出される作物の「美しさ」を伝えるために始まりました。もともとは瓶詰め工場だけでしたが次々と人が集まり、現在居を構えているのは瓶詰め工場、カフェ、パン屋、古本屋、お菓子屋の5店舗です。その他にも茂木で生まれるものと、できることで土地の魅力を伝えてくれています。

ドライブイン茂木・風
ドライブイン茂木・干しぶどう
ドライブイン茂木・花
ドライブイン茂木・キッチン
ドライブイン茂木・光
ドライブイン茂木
ドライブイン茂木

広さのある、倉庫のような建物。やわらかい光が差し込み、風がゆっくりと通り抜けていきます。「きれい」とか「気持ちいい」とかいう感覚が、素直に開放されていくような、心地よい空間です。

「みんなから頂いた大葉のジェノベーゼソース」「大越さんの那須のオリーブオイル漬け」「富田さんのルバーブのジャム」

雰囲気を味わいながら周囲を歩いていると、農家の方が今日採れた野菜を手にやって来ました。

茂木では、さまざまな作物が育てられています。大切な人においしく食べてもらうため、自然と正直に向き合いながら丁寧に育てる。そうしてできた作物を、自慢しあい、喜びあっているそうです。

ご近所で野菜を育てている大内さんご夫妻
ドライブイン茂木
ドライブイン茂木・毎朝地元の野菜が届く
毎朝、この地で採れた野菜が並ぶ。自ら畑に採りに行くことも多いのだそう。

地元野菜のお料理は、カフェ「雨余花(うよか)」で。眼前に畑が広がるテラス席があり、ゆったりと過ごせます。飲みものはコーヒーからビール、そして「稲葉さんのゆず」「矢野さんのいちごミルク」などが揃っています。

ドライブイン茂木・メニュー
雨余花の風間さん、綱川さんがセルフビルドしたキッチン
ドライブイン茂木・ご飯
地元野菜を使った、「雨余花カレー」と「地元野菜とお肉のごはん」

お腹がいっぱいになり、心地よい秋の陽だまりの下でうとうとしていると、12時から開く落合さんのパン工房「Serendip」に、町の方がふらっと訪れてきました。

オープン前の来客に雨余花の店員さんが「よかったらお茶でもどうぞ」と声を掛けていて、この場所、この地域の温かさを感じます。

「Serendip」に併設されている陶器店「成井窯アンテナショップ」
ドライブイン茂木・Serendip
「Serendip」はパンの他、陶器も取り扱っている
ドライブイン茂木

そして素敵な小屋が目を惹き、つい足を踏み入れてしまったのが古本屋の「ハトブックストア」。建築や文筆、映像をお仕事にされている町田さんがつくったものです。

「Serendip」の設計をした方で、それが終わった後もここの魅力に心惹かれお店を始めたといいます。

入らずにはいられないつくり「ハトブックストア」
ドライブイン茂木・町田さんの古本屋さん

季節の色を大切にしたお菓子屋さん「色実茶寮(いろのみさりょう)」には、店主の磯部さんが茂木のお野菜で作ったマフィンやクッキーが並んでいます。

ドライブイン茂木・色実茶寮
色実茶寮
ドライブイン茂木・ドライブイン茂木・色実茶寮
ドライブイン茂木・ドライブイン茂木・色実茶寮
茂木の食材を生かしたクッキーはお土産に

都会ではありえない魅力を放つドライブイン茂木。上澤さんと町田さんは「地域が元々もっている魅力だと思う」と言います。

ドライブイン茂木

「この地域はちょうど、日本の南北が交わる場所。お茶が採れる最北端だったり、逆に、寒い地方だけで生える木が育つ最南端だったりします。自然がとても豊かだし、人も北から、南からと多様な人が集まっているような気がします。

僕たちが届けたいのは、地域の『風景』です。この美しい風景や、暮らす人たちの自然体の生き方を伝えていきたい。この土地でどうにかして営業をしていきたいというより、ただここで生きていきたいだけなんです。

美しい茂木のゆるぎない土を根底に、自然や人と一緒に暮らしていったり、地域と地域が出会う場所になっていけたらなと思います」

ドライブイン茂木
ドライブイン茂木
ドライブイン茂木

「その上でやれることが、瓶詰めや料理、パンやお菓子を作ること。また、麦や野菜も育てています。他にも、地元で採れたお茶を自分たちで揉んで淹れたら美味しいはずだから囲炉裏を作ったり、この土地で採れる粘土で陶器を作ってみたり。ここの大きな壁で映画を観たら気持ち良いだろうなぁと思って、上映会を開いたりもしています。

今、ここには、可能性しかないんです。未来しかない。

だからこそ、この場所でできることを自分たちなりに最大限に楽しみながら生きています」

囲炉裏を置く小屋。これらは全て古い納屋の古材を利用して建てている

「僕らはここで生きていきたいだけ」という言葉で、ここの居心地の良さのわけが分かったような気がしました。

こうあらなければならないとか、こうすべきとかではなく、自然と肩肘張らずに生きている人たちが作る空間。そこはいるだけで、そのままで良いと認められているようです。等身大でいられる場に、じんわりと気持ちが満たされていきました。

ドライブイン茂木・雨余花
栃木県芳賀郡茂木町町田21
0285-81-5006
info@uyoka.com
営業日:火・水・金・土
※各店舗の営業日がことなることがあります
営業時間:
雨余花・町田古本店:10時-16時
Serendip(パン):12時-16時

文:田中佑実
写真:今井駿介

宍道湖七珍、最高のシジミ汁で〆る松江の夜

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

旅先で味わいたいのはやはりその土地ならではの料理です。あとは地酒と地の器などがそろえば、もうこの上なく。産地で晩酌、今夜は松江で一杯。

なんでも松江には”スモウアシコシ”と呼ばれる宍道湖の珍味があると聞いて、昭和39年創業の「やまいち」さんののれんをくぐります。

宍道湖に注ぐ川沿い、新大橋のたもとにたつ「やまいち」さん。看板に宍道湖に沈む夕日が注ぎます

まだ夜と言うには早い、午後4時半。カウンターに腰を落ち着けると、目の前にはたっぷりと盛られた大皿料理、味のある手書きのお品書き。

この景色だけで幸せな気分になりますが、さらに目を引いたのがカウンター奥で湯気を立てるおでん。

おでん

松江の居酒屋さんでは冬に限らず、一年中おでんが並ぶのだそうです。

まずは地酒「豊の秋」を頼みつつ、お目当ての「スモウアシコシ」と、おでんも何品か食べたいな。ご主人におすすめを尋ねます。

―今日は、赤貝とモロゲエビだね。モロゲエビは今が出始めで、揚げると甘みが出ておいしいよ!

モロゲエビ!これこそがお目当ての「スモウアシコシ」のひとつらしいのです。

松江には淡水と海水の混ざる宍道湖が育んだスズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミがあり、これらは宍道湖七珍と呼ばれます。あまり多いので、地元の方は相撲発祥の地とされる松江らしく「スモウアシコシ」と覚えるそう。

まずは大皿にたっぷりと盛られていた赤貝で一杯
宍道湖七珍のひとつモロゲエビは、地元出西窯の器によそわれて出てきました

唐揚げでいただいたモロゲエビは、はじめカリっと、奥歯でじゅわっと、噛むほどにうまみが口の中に広がります。宍道湖の恵みに感謝せずにはいられません。

お酒と旬の一品で程よく体も温まってきたところで、先ほどからグツグツと幸せな音を立てているおでんを頼みます。

大きな具には女将さんがハサミを入れてくれる

お任せで選んでくれたのは里芋、春菊、厚焼き玉子、それに丸ごと一杯のイカ。春菊はさっと出汁にくぐらせれば十分。厚焼き玉子はやまいちさんオリジナルの具材だそうです。

イカは大皿に並んでいたものを出汁で茹でてから出してくれます。

おでんの具材

しっかり出汁がしみた里芋と玉子焼き、シャキッとした歯ごたえの春菊、プリップリのイカ。美味の前では言葉はいらず。お酒もお箸もよく進みます。

さてお腹もふくらんで、最後はもちろん宍道湖七珍、シジミで〆を。ふっくらしたシジミが溢れるほどに入ったお味噌汁で堪能します。

漁獲量日本一、宍道湖のシジミがたっぷり

合わせ味噌にシジミの出汁が効いて、沁みる美味しさとはまさにこのこと。宍道湖の恵みにまたしても感謝して、ごちそうさまです。

美味しいものたちとのご縁を授けてくれた出雲大社にお礼参りに行くべきか、そんなことを思いながら、お店を出るとちょうど日が沈む頃合い。お店から川沿いを歩くと、遠くに宍道湖へ沈む夕日がみえました。

「ばんじまして」と、出雲の夕方のあいさつを使ってみたくなる

こちらでいただけます

やまいち
島根県松江市東本町4-1
0852-23-0223


文:田中佑実
写真:尾島可奈子