秋の益子陶器市が開催中!目利きに教わる「器の選び方」と「注目作家」

仁平古家具店・pejiteのオーナー 仁平 透さんに聞く、益子焼のこと

今年も陶器市で盛り上がる益子。全国から60万ほどの人が訪れるそうです。

陶器市に行くと、朝淹れるコーヒー用のカップが欲しいなあとか、蕎麦にはまってるから蕎麦猪口も欲しいなあとか、どんなものを仲間にしようか、ひとつに決めるのが悩ましいことも。

それもそのはず。益子には、約250の窯元と、400人前後の陶芸家がいるというのです。益子で生まれ育った作り手でなくても、活躍できる柔軟な風土があり、作り手が全国から集まってくるのだそう。益子で民芸運動を先導した濱田庄司も、生まれは東京でした。

たくさんの作り手が生み出す魅力の中から、運命を感じる一点を選びたい! けれども、やはり悩ましい。

そこで、独自の目利きにファンが多い、仁平古家具店のオーナー・ 仁平透さんに、注目の作家さんや選ぶときのポイントをうかがいました。

益子の仁平古家具店の店主・仁平透
仁平古家具店(にへいふるかぐてん)のオーナー・仁平 透(にへい とおる)さん

001 阿久津忠男さん

益子焼 阿久津忠男さんの食器

1950年、栃木県高根沢町生まれ。青山学院大学卒業後、広崎裕哉さんに師事してものづくりの道へ。益子で1975年に独立・築窯してから、「東京セントラル絵画館」や「日本橋高島屋」など様々な場所で展示や出品がされてきました。

益子焼 阿久津忠男 瑠璃釉コーヒーカップ
益子焼 阿久津忠男の作品

益子焼独特の重厚感があるカップや鉢は、手びねりで成形されガス窯で仕上がります。釉は陶器に吸い込まれてしまうような深い瑠璃色をしています。

益子焼 阿久津忠男 瑠璃釉

「なんと言ってもこの瑠璃釉が特徴です。深みがあって奥行きがありますよね。お店を開く前から阿久津さんが好きで、店のオープン時からずっと取り扱ってます。果物を載せたくなるような料理映えするお皿かなと思います」

002 内田裕太さん

益子焼・内田裕太さん 黒錆のうつわ

1990年栃木県生まれ。2011年に京都伝統工芸大学を卒業し、2年後に益子で制作開始。翌年、真岡市にて独立。

益子焼・内田裕太さんの黒錆のうつわ
益子焼・内田裕太さんの黒錆のうつわ

シックで金属のように発色する「黒錆のうつわ」と自然をイメージした優しげな「色のうつわ」を作っており、ガス窯での焼成を経て一つひとつ違う表情の器が出来上がります。「日々の楽しみになるような器づくりを」という想いが滲みでている作品が印象的です。

内田裕太さん 黒錆のうつわ

「フォルムがきれいですよね。黒錆のシリーズが人気です。使っていく事で黒さが増して、より渋い色になっていきます。外側がマンガン釉で、内側がマット釉ですね。陶器市で目を惹かれ、声を掛けたのが出会いでした」

003 宮田竜司さん

益子・宮田竜司さんの器

1976年東京生まれ。陶芸好きだったお父様の影響を受けて焼き物の世界へ。1999年から高内秀剛さんの元で制作をはじめ、2006年に益子で独立し築窯。高島屋や伊勢丹、三越などの百貨店で個展を行っています。

宮田竜司の器
宮田竜司の器

花が開いたような形が特徴的な器で、「型打ち成形」によって作られています。多角形の器を作る時に使われる成形手法で、ろくろで大まかな器の形状に成形をしてから、石膏で作った型にはめて型打ちをするもの。益子伝統の黒飴釉、灰釉、寺山釉を使っており、凛とした美しさがあります。

宮田竜司の器

「私と同じ、日本の古い陶器が好きな方です。作品を見るだけで、ものづくりが好きなのが伝わってきます。小料理や菓子受けに使うと器が映えていいですね。」

004 久保田由貴さん

益子・久保田由貴の器

神奈川県横浜市生まれ。2014年から鈴木稔さん、2016年から額賀章夫さんに師事をしたのち、2017年に益子で独立。その年の秋に初めての個展が開催されました。

益子・久保田由貴の器
益子・久保田由貴の器

ろくろ成形で、ガス窯で焼成しています。釉薬の流れが作る大胆なデザインは、毎回その時勝負で釉薬を垂らすため、一つひとつ味が異なります。

益子・久保田由貴の器

「もちろん使うものなのですが、ダイナミックな釉には抽象画を見るような楽しさを感じます。デビューして間もないのに、「銀座松屋」の手仕事直売所に呼ばれ、400点の作品をほぼ完売させてしまう人気の作家さんです」

仁平古家具店/pejiteの店主 仁平透

器の選び方

「どうしてだか、しっくり来る。心惹かれる」
器がどれも魅力的で選びがたいと仁平さんに相談したら、難しいことよりも、そんな感覚だけで自分の運命の一点が見つかるはずと教えてくださいました。

良いものを買わないと、なんて気負わずに「なんだか好きだなあ」と思ったものを手に取ってみる。

じっくり見て、それでも連れて帰りたくなったものはきっと、使う時にどこか胸が高鳴るような感覚が湧き上がってくるかもしれません。

< 取材協力 >
仁平古家具店/pejite
オーナー 仁平 透さん

pejite
所在地:栃木県芳賀郡益子町益子973-6
TEL:0285-81-5494
URL : http://www.pejite-mashiko.com
定休日:木曜日

仁平古家具店 益子店
所在地:栃木県益子町益子3435
TEL:0285-70-6007
URL : http://www.nihei-furukagu.com
営業時間/11:00〜18:00
定休日/木曜日

仁平古家具店 真岡店
栃木県真岡市荒町1095
TEL:0285-70-6007
URL : http://www.nihei-furukagu.com
営業時間/13:00〜18:00
定休日/木曜日

文:田中佑実
写真:今井駿介

*こちらは、2018年5月4日の記事を再編集して公開しました。

ガラス作家 安土草多さんの「魔法のランプ」で、暮らしの景色が変わる

オフィスも駅もデパートも無機質な光に溢れている東京で、満員電車から見えた夕日の差しこむ川と土手。普段はなんてことない風景に、一瞬の美しさを感じることがあります。

あぁきれいだなぁと思う、心に留めておきたい景色にはいつも、自分好みの“光”がある気がします。

今日の主役は、真っ白な雪が輝く飛騨高山で出会った、ぽっと心あたたまるような明かり。ガラス作家の安土草多(あづち そうた)さんが作るランプシェードのある風景です。

ガラス作家・安土草多さんのランプシェード

草多さんの明かりにはなぜか、あたたかさで心を溶かしてくれるような優しさがあります。優しさの正体は、ぽてっとした厚みのあるガラスか。それにより柔らかくなる電球の光か。それとも、ガラスのゆがみや気泡か。光の屈折が明かりに加える様々な表情かな。

どれだけ勘ぐってみても正直わからないのです。明かりって本当に不思議と、我に返ってしまうほど、ガラスの明かりに魅了されてしまいます。

草多さんのお父さまはガラス作家として有名な安土忠久(あづち ただひさ)さん。忠久さんの作るグラスは、白洲正子が「へちかんだ(ゆがんだ)グラス」と言って、愛用していたことで知られています。

草多さんの作品すべてを取り扱う「やわい屋」

涼やかさ、鋭さ、気丈さを語られることが多いガラス。そのなかで草多さんの作るガラスには、どこか有機的で、人間らしさのようなものを感じます。その不思議な柔らかさは、草多さんが「自分の手を通すからできるものを」と、常に独自の表現を模索していることにあるのかもしれません。

安土草多さん。大量生産の工場に出向き、自分にしかできないことを探したりも

「昔は均一なものを作ることが難しかったから、そこに価値があったけど。今はもう同じ品質のものを大量生産できるようになりました。ガラスなんか特に、じっくり時間をかけてサイズを測りながら進めれば、ある意味、誰でも作れてしまうんですよね。だから僕は、それとは違うところを目指したい。日々やり方を模索しながら、どんどん更新していってます」

「僕、中学時代に使っていたアフガニスタンのグラスが、すごい好きだったんです。ガラスの中に向こうの土が入った、なんの変哲もないグラスだったんですけど」

「自分でグラスを作っている時に、“俺、あれが好きだった”って、急に思い出したんですよね。でも、たくさん作るために人の手を借りていたら、あのグラスの世界には絶対行けないと、仕事をしていて分かってたんですよ。だから、自分は1人で仕事をして、自分の感性だけに依存したものを作ろうと決めました。自分がこれでいいと決めたものは、それでいいんです」

あたたかい明かりの奥には、自分の感性や口元・手元の感覚だけを頼りに作る職人の静かに熱いこだわりがありました。

窯も自分で作り、改良を重ねていってる草多さん。環境自体がオリジナルだから、自分のオリジナルのものができると言います。

製造技術について伺うと、「小難しい知識なんて必要なくて、自分が好きだと感じたものを買ったら良いのに」と言いつつも、工場を見せてくださいました。

パイプに溶けたガラスをとり、
ころころと転がして、形を整える
少し吹いて小さな球をつくる。吹く角度によって形が変わるので、いろいろ試す
ガラスに色があるように見えるのは、ガラス自身が熱で発光しているから。「熱を持ってるガラスは美しいですね。それだけエネルギーがある」と草多さん
さらにガラスを盛り付けていく
冷ましながら形を整えたら、型へ
パイプのついてない方に、ガラスの塊をくっつけ、元のパイプの方を切り離す
切り離した側が口元となるので焼き戻して
口元を切る
もう一度焼き戻したら
徐冷炉に入れて、できあがり

ガラスを巻きつけたときの手の感覚。そして吹いた時に口元で感じるガラスの堅さ。それらの感覚を頼りに、作りたいものに合わせて毎回工程を変えていくそうです。ちょっと今日は冷えてるなぁと思ったら、どこかの工程を早くしたり。硬い状態でも作れるものに変えたり。ガラスの温度やとり方、伸ばし方、吹込み方が毎回違うので、ひとつも同じ形にはなりません。

わずか数分で成形が終わる作品づくり。草多さんの一瞬の判断が、一つひとつの明かりの表情を変えます。

安土草多さんのガラスシェード
無機質な部屋の照明を、手仕事のぬくもりを感じる工芸品に変えれば、一人落ちつく自分の時間が演出できそうです

一瞬の積み重ねで奇跡のように生まれたガラス。そんなことはぼんやりと明かりを見ている間は思いもしないのだけれど。

手作りのガラスの照明にして、生活にぬくもりが増えた気がしたのは、見えないところにも人の息がかかっているものだからかもしれません。

< 撮影協力 >
やわい屋
住所:岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
電話:0577-77-9574
営業時間:11:00~17:00
※ やわい屋さんでは、安土草多さんのすべての作品を取り扱っています

飛騨高山・やわい屋
飛騨高山・やわい屋

文:田中佑実
写真:今井駿介

*こちらは、2018年1月18日公開の記事を再編集して掲載しました。1つ置くだけで、お部屋の雰囲気をガラリと変えてくれる明かり。やわい屋でお気に入りを探してみてはいかがでしょうか。

金婚式まで一緒にいたい。50年使えるお掃除道具「鹿沼箒」

季節はジューンブライド。週末に結婚式の予定が続く人もいるかもしれませんね。

さて、嫁入り道具と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?

かつての嫁入り道具といえば、大きな桐のタンス一式に豪華な着物、立派な鏡台、寝具は客用も含めて一式。すべてが収められる食器棚と来客用の食器やカトラリーなどなど。

こうした伝統的な婚姻儀礼としての「嫁入り道具」は、現代のライフスタイルに合いづらくなってきているとはいえ、道具自体を何も用意しないのはなんだか味気ないものです。

一生に一度のことですから頼もしい「嫁入り道具」があれば、新生活もより前向きになれるはず。これを機に“一生もの”といえるようなちょっと憧れの生活工芸品を選んでみてはいかがでしょうか。

儀礼にとらわれず、等身大の目線で、今、あげたい、もらいたい、買いたい嫁入り道具を選びました。

一生もののお掃除道具、鹿沼箒

栃木県鹿沼市が産地の「鹿沼箒(かぬまほうき)」は、1841年頃からつくり始められ嫁入り道具とされてきました。日常で使う道具として重宝されただけでなく、はまぐり型の付け根、麻模様の刺繍がめでたいとされたためです。

子宮を表現しているとも言われる蛤には「子宝に恵まれますように」、ぐんぐんと成長する麻には「子供が健やかに成長しますように」とそれぞれ願いが託されています。

特徴であるぷっくりした蛤型と、麻の模様が二重でめでたい

その独特な形状は、良質なほうき草がとれる水はけのよい鹿沼の土、箒屋千軒と言われるほどたくさんあった箒屋、日光東照宮建設の折に集まった優秀な職人によって育まれたものです。以前は、箒をつくる速さと美しさを競うコンテストも催されていました。

数少ない鹿沼箒の職人、丸山早苗さん

柄の付け根をつくる際には、一般的な箒ではほうき草を「組む」と言いますが、鹿沼箒は草の皮を割いた上でそれを「編む」と言います。編み込まれているため、丈夫で30年50年と使い続けられます。

“心の穢れを掃く”とも言われる箒とともにこれからの毎日を歩み始めれば、仲良く金婚式だって迎えられそうな気がしますね。

ほうき草の皮を割いていく繊細な作業で丈夫な箒ができあがる

長年使い続けると箒が徐々に減って短くなりますが、止め糸を解くだけで箒が半分ほどに減っても使い続けることができます。頑張った証が刻まれていくようで、お掃除にも念が入ります。

鹿沼のおばあちゃんはとても短くなった箒を使っているそう

「美しいこと」を追求した鹿沼箒は、お掃除するとき目に入る箒の“表面”がより美しく見えるように作られています。右手で持った時、三角に飛び出た“ミミ”が上に来るのが表の目印です。毎日のお掃除が楽しみになるようなちょっとした工夫が嬉しいですね。

毎日、美しい編みや柄を見ながらお掃除ができるのが嬉しい

お気に入りの一本を職人さんから買う。よく見て、よく掃く。そんな単純なことで、日々の暮らしが豊かになっていきそうです。これから始まる新しい暮らしが、鹿沼箒でより素敵な毎日になりますように。

<取材協力>
きびがら工房
栃木県鹿沼市村井町229-10
0289-64-7572

文:田中佑実
写真:西木戸弓佳

*2017年11月21日の記事を再編集して掲載しました。蒸し暑い日が続きますが、箒でお掃除をしたら、気分もさっぱり、晴れ晴れしそうですね。

かわいいは繊維(いや、正義!) 手紙社による「布博」の雑貨と生地たち

全国各地で行われるいろいろなイベントに実際に足を運び、その魅力をお伝えする「イベントレポート」。

今回は、2018年2月17日 (土)・18日 (日) に開催された「布博 in東京 vol.10」に行ってきました。

布博

可愛いがあふれる「布博」

「布博」は、今回で誕生からちょうど5年。主催するのは「東京蚤の市」など人気のイベントを手掛ける手紙社さんです。

「美しいデザインに触れることや装うこと、自らの手で暮らしを彩ることの楽しさを伝えたい」

そんな想いが込められたイベント会場は、個性的な洋服やテキスタイルなどを扱う73組の出展者の他に、「ブローチ博」、「耳飾りパーティー」、「靴下パーラー」といったブースも設置され一目惚れしてしまうもので溢れていました。

布博2018 アクセササリー

作り手と出会い語り合う

作り手と気軽に話せるのも、このイベントの嬉しいところ。この生地はどうやって作られているんだろう。このボタンはどんな風に使おうかな。そんなことをやりとりしながら会場を歩いていると、頭のなかが可愛いでいっぱいになって幸せな気持ちに。

遊び心がくすぐられる「POTTENBURN TOHKII」

メッシュを使った立体感のあるお洋服に、今回の布博のステージ装飾を担当した「POTTENBURN TOHKII」さんで出会いました。

メッシュを洋服にしたのは、鳥よけネットをホームセンターで見かけ、グッと心惹かれたのがきっかけだそう。レースや漁網などに用いられるラッセル編みのウールメッシュで、年代物のラッセル機を使う京都の工場で作られています。

「粉雪が解ける前に、シロップをかけたら食べられる」や、「小さい頃、道路の白線の上だけを歩いて喜んでた。またもう一度歩いてみない?」など、人をクスっとさせたり、興奮させたりするものが毎回の作品のテーマ。「生地の上で落語をしているみたいな感覚」と話してくださいました。

究極の肌触り「tamaki niime」

「tamaki niime」さんの播州織を生かしたふわっと柔らかなショール。

兵庫県西脇が産地の播州織は、糸を染めた後に織る先染め織物で、メーカーでオーダーされたものを規格通り織るのが当たり前だったそうです。

そのルールの中でデザイナーの玉木さんは、播州織の特徴を活かしつつ、歴史や伝統にとらわれることなく、新しいモノづくりを常に模索しながら、究極の肌触りを目指しています。

コットンの栽培、糸の染め、織り。そのすべてを行う工房には、迫力のある1965年製の力織機が。織っている姿は蒸気機関車が動く様子に似て、シンボリックな存在だそうです。

巻いた時の驚くような軽やかさと独特の優しい風合いは、織機のスピードをギリギリまで低速にしてゆっくりと織っていくから。工房にある6台の織機の経糸は1台ごとに違う種類で、横糸は数本ごとに変えて作っています。

様々な糸の組み合わせが、運命を感じる一本がある所以です。

心地よく伸びてくれる靴下「salvia」

生地がやわらかくどこまでも伸びる「ふんわりくつした」は、東京・蔵前にアトリエを構えている「salvia」さんで作られています。

「古きよきをあたらしく」をコンセプトに、各地の伝統工芸や地場産業を活かして作られた靴下、手ぬぐい、ブローチは、自然モチーフのデザインでどれも柔らかい印象を感じます。

履き心地も可愛さも満点の「ふんわりくつした」。“体調を崩して入院していた家族のために、足がむくまない靴下を作りたい”という新潟の「くつ下工房」の想いがもとになったものだそうです。

使う糸は、普通の靴下に使う糸より2倍ほど長く、糸に負担をかけないようにゆっくりと編んでいきます。非常に長く仕上がった靴下をプレスで縮めて出来上がり。ゴムは入っていないけれどトルコアイスのようにぐーんと伸びて、靴下のなかで指を自由に動かせるので、窮屈さを一切感じません。

心にぎゅっとくる陶ボタン「フルコチエ」

次に出会ったのは、「フルコチエ」さんの一点一点違う表情を見せる陶ボタン。

“手にとって触れたくなるような心にぎゅっとくる素敵なもの”を作りたいとおっしゃるフルコさんのボタンは、小さなからだに魅力がつめ込まれ、目にすると可愛くて仕方なくなってしまいます。

一点ずつ土を練って、形をつくり、絵付をして、窯で焼き、金を焼き付けることで完成。金のポイントがアクセサリーのように、きらっと光るので、洋服のボタンを付け替えたら可愛いに違いない!ブローチか髪留めにするのもいいかも!と、使い方を考えて楽しい気持ちがむくむくとわいてきます。

虫食いが可愛くなる「DARNING BY HIKARU NOGUCHI」

最後に目に飛び込んできたのは、「DARNING BY HIKARU NOGUCHI」さんの美しいマフラー。

ニットデザイナーの野口さんは海外でも活躍されている方で、イギリスやスコットランドの最高級の天然繊維で編まれたマフラーは冬の気分を数段上げてくれそうです。手袋、帽子、さらには補修も手掛けています。

補修といっても、修繕したことが分からないように仕上げるものではありません。野口さんが行うのは、衣類の虫食い穴やほつれを繕うダーニング。あえて洋服とコントラストになるような糸を使ってステッチを強調していき、新しい可愛さを足していくものです。野口さんがニットのダメージを悲しんでいたときに、イギリスの友人が伝授してくれたそう。

当日はワークショップが開催されており、参加していた皆さんは穴のあいたデニムやニットを持ち寄り、鮮やかに蘇らせていました。

八王子の木工工房で作られたダーニングマッシュルームと呼ばれる台に布をかけ、柄の部分にゴムを巻き布を固定したら、その上でチクチクと針を進めていきます。

糸が終わったら色を変えてみたり、ゆがんでもそれが可愛さになったり。ゆるっと気ままなダーニング。刺繍がそれほど得意じゃないと言っていた方も楽しんでいるようでした。

 

一目惚れしたものについて、少しドキドキしながら作り手に聞く。そうすると、あぁ可愛いと思ったものと関係が深まったようで、より愛も深まっていきました。

 

<取材協力>
布博 in 東京 vol.10
会期:2018年2月17日(土) 〜 18(日)
会場:東京流通センター
イベントHP

主催:手紙社

<開催予定>
「布博 in 京都 vol.5」開催
会期:2018年3月10日(土)〜11日(月)
会場:京都市勧業館「みやこめっせ」(京都市左京区岡崎成勝寺町9−1)
イベントHP


文:田中佑実
写真:西木戸弓佳

ローカルマガジン『飛騨』の、読者が絶対に参加するしかけ

旅をするなら、よい旅にしたい。じゃあ、よい旅をするコツってなんだろう。その答えのひとつが、地元の人に案内してもらうこと。観光のために用意された場所ではなくて、その土地の中で愛されている場所を訪れること。

そんな旅がしてみたくて、全国各地から地元愛をもって発信されているローカルマガジンたちを探すことにしました。

今回は、岐阜県高山市の『飛騨』。袋とじをペーパーナイフで切らなければ読めないスタイルが特徴です。

飛騨産業が発行するローカルマガジン・飛騨

『飛騨』を発行しているのは、家具メーカーである「飛騨産業」。1920年(大正9年)創業、飛騨の木工文化をけん引する老舗です。

デザイン会社のDRAFTを経た富田光浩(とみた みつひろ)さんが、偶然出会った家具に惚れこんだのがきっかけで、2011年に誕生しました。

「飛騨の素晴らしい文化、暮らし、風土、手仕事の世界を多くの人とわかちあいたい」との思いのもと、小説やエッセイ、地元で愛されるお店を紹介しており、そこからは町の人の吐息を感じます。

飛騨産業が発行するローカルマガジン・飛騨/イラストは牧野伊三夫さん
封筒から取り出すと温かみのある絵と文章、飛騨をすぐそこに感じます

表紙や挿絵を担当するのは画家・牧野伊三夫(まきの いさお)さん。ぬくもりのある絵に魅了されて購読している人もいるそう。さらにドキュメンタリストの瀬戸山玄(せとやま ふかし)さんら、合わせて6人の手練れが集結。2012年には優れた広告やデザインに贈られる「ADC賞」を受けるなど評判の高さが伺えます。

飛騨産業が発行するローカルマガジン・飛騨
繊維のあるざらざらとした質感に、紙も木からできているんだなあと再認識
飛騨産業が発行するローカルマガジン・飛騨
一枚一枚切っていると、だんだん愛着が

贅沢な作り手たちが生み出したのは、切らないと読めない状態のままの製本。手に取ったら少し中身を覗き見たりして、今号は何が書かれてるだろうなんて。袋とじになっている部分を一つひとつ切っていくのは、工作のようで、本作りに参加している体験に心躍ります。

毎号たくさんの読者の声が届くというのも、「切る作業」によって読者と伝え手にコミュニケーションが生まれているからかもしれません。

最新号の特集には、飛騨産業の家具を愛用する読者たちの物語が。飛騨を起点に繋がる様々な人と物がそこに
飛騨産業が発行するローカルマガジン・飛騨
通販で購入できる、杉の木でできたペーパーナイフも素敵です

ここにあります。

飛騨産業のショールームではバックナンバーの閲覧も可能。蔦屋書店の一部店舗やその他にも本屋、雑貨店で配布されています。
飛騨産業のHPはこちらから。
http://www.kitutuki.co.jp/

文 : 田中佑実

皆さん、新酒ができましたよー!

どこからか吹いてくる冷たい風と年末の慌ただしさに、早足で町を行く。そんな日々に「新酒ができあがりました!」と吉報が入りました。

新酒とは、新米でつくった今年の日本酒のこと。日本酒の年度は、米づくりの周期に合わせて7月始まり6月終わりの1年間。新酒がつくられるのは寒い季節で、現代では11から3月が多いようです。

まだ熟成が進んでいない新酒のおいしさは、舌に刺激が残るような荒々しさや、弾けるほどの若々しさ。フレッシュな味わいを堪能するには、やっぱり冷酒で。キリっと冷えた日本酒を片手に、あっつあつの鍋を味わうのは、最高の冬のひとときです。

日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会

杉玉は新酒の完成を告げる、冬の風物詩

ところで。酒屋さんで見かけるこの丸いもの。これがなにかご存知ですか?

日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
軒下に鎮座している、これです
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山

これは酒屋の軒下へ新酒完成のときに飾られる「杉玉」。青々とした球体が目を惹くため、酒蔵であることを示す看板の役目と、「今年の新酒が完成しました!」を伝える目印の役目を果たしています。

その起源は諸説ありますが、なかでも有力とされているのが、お酒の神様が祀られている大神神社(奈良県桜井市)の習慣が全国に広がったというもの。「今年も良いお酒ができますように」と祈願して杉玉を吊るしていたそうです。この神社のご神体は三輪山の杉。それにあやかって杉が用いられてきたとか。また杉はお酒の酸化を防ぐ効果があるとも言われ、杉とお酒の縁は意外にも深いのかもしれません。

酒屋を通り過ぎたときに、緑の杉玉を見て「お、新酒の時期か」なんて言えたらちょっと素敵です。今回訪れた高山は酒づくりに適した気候と水、お米に恵まれた酒どころ。観光地としても人気の高い「さんまち」でも杉玉をいくつか見かけました。古い町並みと杉玉。なんとも風情があります。

日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会

高山を訪れたちょうどその日、200年の歴史をもつ舩坂酒造店の「杉玉奉納会」がちょうど開催されていると聞きつけ急いで向かいました。今年の新酒の完成とともに、去年活躍した杉玉を酒造スタッフで降ろし、新しいものを杜氏と社長も加わって掲げます。

日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
1年間軒下で活躍した杉玉に感謝を込めて降ろしていく
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
毎年杜氏と社長が新しい杉玉を運ぶ
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
非常に重たいので大勢で
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
高山伝統の祝い歌「めでた」を唱和するのが恒例
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会

スタッフさんが身を包む真っ赤な法被と杉玉の緑の鮮やさに感じる賑わい。新緑の杉玉が軒下に上がったあとは、鏡割りが行われ、記念用のオリジナル枡で新酒が振る舞われます。

炊き出しも行われ、酒造スタッフ、近所の人、全国から集まった日本酒好きや外国人観光客が集まる様はさながら大宴会のようです。

日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
日本酒、新酒、杉玉。飛騨高山・高山・舩坂酒造の杉玉奉納会
舩坂酒造店 飛騨杜氏 平岡誠治さん(左)と代表取締役社長 有巣弘城さん(右)

杉玉を見れば、新酒の時期が分かる!?

新調された杉玉の葉は、水分を多く含んだフレッシュなもので、きれいな緑色をしています。深緑の杉玉を見られるのは、なんとわずか数週間。新酒完成の号外は、静かに告げられているようです。

軒下に吊るして程なくすると、葉っぱが枯れて徐々に茶色へと変化していきます。日本酒がワインなどと比べても短い1年で熟成されていく様は、杉玉の色が短い間に移ろう様を表しているかのよう。花見酒、夏酒、秋のひやおろしといった季節によって違う楽しみ方と、杉玉の色の変遷を重ねてみれば、いつもの一杯にも風情が漂います。

杉玉のまんまるさの秘訣

日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
杉玉をつくる中谷紀久雄さん

飛騨高山で杉玉をつくるのは、酪農を営む中谷さん。このお仕事を始めた理由を伺うと、柔らかい口調で答えてくれた姿に、この人柄がまるっこい、きれいな形の杉玉を生むのかもしれないと感じました。

「親父がやってたんだけど、親父が歳とともにつくれなくなったもんで。つくる人がおらんで、周りから頼まれてつくるようになったんよ」

今年で77歳ながら、良質な杉を探しに山奥まで行くこともあるそう。

酒屋にとって神聖な存在の杉玉。京都、大阪、兵庫、静岡、埼玉、福島など、全国の酒造が中谷さんを頼って注文をします。

あの大きな球体はどうやってできてるのだろう。杉玉づくりの工程を少し教えてもらいました。

日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
自ら探し刈ってきた杉の様子を見極める
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
サイズごとの寸法で杉の葉を丁寧にカット
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
針金で束にし、葉先を切って整える
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
針金と金網で作った芯に3本の束を通す。これは約40cmの杉玉の芯
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
中央の芯は意外と小さい
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
束を金網の全面に差しこんで芯に差していく
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
球体になったら形を整え、まんまるに
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
そして完成。まだ緑色の杉の葉は水分を多く含んでいるので重い
日本酒、新酒、杉玉、飛騨高山
「大変やけど他に作る人がおらんでな」と笑う中谷さん。杉玉づくりの後継者を探しているそうです

新酒の完成を告げる、杉玉。この文化が色褪せずずっと残ってくれたらいいなぁ。そんなことを思いながら、さっそく手に入れた新酒を味わうと、年末の焦燥も忘れさせてくれるようなフレッシュさが広がりました。

 


取材協力
舩坂酒造店
岐阜県高山市上三之町105番地
0577-32-0016
営業時間 8:30〜20:00

杉玉製造・販売
中谷紀久雄さん
岐阜県高山市朝日町

文 : 田中佑実
写真 : 今井駿介