愛しの純喫茶 ~函館湯川町編~ コーヒールームきくち

こんにちは。さんち編集部の山口綾子です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。第4回目は、1981年創業の老舗コーヒー店、函館市湯川町の「コーヒールームきくち」です。

鮮やかな黄色いタイル
鮮やかな黄色いタイル

遠くからでも目立つ黄色い外壁に、ピンクとブルーのカラフルなソフトクリームの看板(写真は2017年1月当時のもの。今は茶色の看板になっているそうです)も目を引きます。北海道テレビの人気番組「水曜どうでしょう」のロケ地として2001年に放送されてから、さらに名前が広まり、全国からお客さんがやってくるとか。

中はカウンターと広々とした赤いベロアのソファー席。外とは対照的な落ち着いた大人の雰囲気が漂います。おしゃべりに花を咲かせている地元の奥様方が2組ほど。長年、ほぼ毎日来られるという常連さんもいらっしゃるそうです。

ぶどうが描かれたステンドグラス。夜は灯りがともってさらに良い雰囲気に
ぶどうが描かれたステンドグラス。夜は灯りがともってさらに良い雰囲気に

早速、ソフトクリームとコーヒーを注文。バニラ、モカ、ミックスの3種類から選べます。コーヒールームということで、ここはおすすめのモカソフトを注文。

取材時は雪がちらつく1月、マイナス5℃。名物は外せないと思いソフトクリームを注文したものの、少し寒くなるかなあと心配していた私。かたや外の駐車場では、ソフトクリームを買い求める地元の若者の姿が。テイクアウトは店内でいただくよりも少しリーズナブルだそうで、バニラソフトとモカソフトを1人で食べる強者も!さすがです。地元の方々の寒さへの強さをしみじみ感じていると、お待ちかねのソフトクリームがやって来ました。

見目麗しいソフトクリームです
見目麗しいソフトクリームです

薄い茶色のソフトクリームを一口いただきます。想像していなかったシャリっというジェラートのような舌ざわり。美味しい……!ほろ苦いコーヒーの味がちょうど良く、甘すぎない大人の味。
寒さを気にしていたくせに、ソフトクリームはあっという間に半分になっていたのでした。ああ、美味しかった。
このさっぱり感だと夏は当然のこと、冬でも食べたくなるのがわかります。

メニューには喫茶店定番のナポリタンやカレーライス、エビピラフなどの食事も並びます。
函館空港の近くということもあり、飛行機の時間を待つために立ち寄る人も多いとか。

懐かしさがあふれるナポリタン
懐かしさがあふれるナポリタン

隣を見ると、地元の奥様たちもみんなモカソフトを注文されていました。
老若男女に愛されるソフトクリーム、函館の美味しいものは海産物だけではありませんでした。

コーヒールームきくち
函館市湯川町3-13-19
0138-59-3495

文:山口綾子
写真:菅井俊之

愛しの純喫茶 〜堺編〜 喫茶ラック

こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。第2回目は住宅街にひっそりと佇む、堺の喫茶ラックです。

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阪堺線の高須神社駅から歩いてすぐの住宅地。朝8時、完全にローカルな大阪南部の独特の雰囲気の中、営業しているのか不安になるほどうっすらと書かれた「ラック」の文字。ドアの小さな窓からは中の様子は見えないけれど、「営業中」と書かれた札を頼りに「えい」とドアを開ける。中にはいかにもご近所さんといったリラックスした雰囲気の2人連れと、間違いなく常連であろう年配の女性が店主のおかあさんとひっきりなしにおしゃべりをしていました。店主も彼女も朝からとっても元気。その方の食べ残している玉子トーストがおいしそうで、チラチラと横目で見ながら隣のテーブル席へ。

店内はカウンターを含めて10席あまり。
店内はカウンターを含めて10席あまり。

玉子トーストも気になったけれど、いちばんの人気メニューだという玉子サンドも見てみたくって、玉子サンドとホットコーヒーをオーダーしました。コーヒーはサイフォンで淹れているようで、ちょっと時間がかかりそう。ワクワクしながらお腹を空かせて待っていると、予想通り、隣の常連さんが話しかけてくれました。

「旅行中?どこから来たん?」
「東京からです。昨日から堺に泊まってます」
「はあ〜、ひとりで旅行?えらいねぇ。このあたりは古い建物やなんやも残っとっておもろいやろ。あっちのあたりにこんなんがあってな…」

一言返せば5倍の言葉が返ってくる。さすが大阪…!

「ここの玉子サンドはほんまにおいしいねんで。食べきれんかったら包んでくれるから遠慮なく言い」

そう、大阪のおばちゃんはみんなとってもやさしいのです。

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ここで待ちに待ったコーヒーと玉子サンドの登場です。ふたり分かと戸惑うほどのボリュームで、湯気があがるほどホカホカ、見ただけでわかるほどフワフワ。はやる気持ちを抑えてまずはコーヒーを一口。次に息をふうふう吹きかけながら玉子サンドを食べると、バターとマヨネーズだけのシンプルでやさしい味が口に広がりました。身体の中からあたたまるのがわかります。

44年ほどこの場所でひとりで切り盛りされているというお店。ホカホカの玉子サンドを食べていると次々に常連さんが現れ、店内はますます賑やかになります。「いつものちょうだい」がこんなに似合う店があるなんて、というほど店主と常連さんの呼吸が合っていて、なんだか少しうらやましい気持ちになりました。

なんとも味のある看板です。
なんとも味のある看板です。

喫茶ラック
大阪府堺市堺区北旅籠町東2-1
072-229-7583

文・写真:井上麻那巳

愛しの純喫茶 〜鎌倉編〜 イワタ珈琲店

こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。第1回目はたくさんのカフェがある駅前でもひときわ目立つ老舗、鎌倉のイワタ珈琲店です。

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鎌倉駅東口を出てすぐのにぎやかな小町通り、可愛らしい食品サンプルにレトロなタイポグラフィで「イワタ珈琲店」のサイン。これは名店の予感しかしないと迷わず店内へ入ると、そこは分厚いホットケーキが評判の有名店でした。満席の店内の中、入ってすぐに人数とホットケーキの注文があるかどうか聞かれます。聞けば焼くのに20分ほどかかるとのこと。何の前知識もなく、ランチを食べたばかりでおなかはいっぱいだったけれど、好奇心には勝てずホットケーキとコーヒーをオーダーしました。

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開店前の様子。10時のオープン後は常連さんと観光客の方々で賑わいます。

創業71年の風格はありながら、きれいに手入れされた店内は清潔で、品が良い。その秘密を、3代目店主の岩田亜里紗さんにうかがいました。お店は、形あるものは、どうしても朽ちてしまう。でもお店は変わらないでほしいという昔からのお客さんからの声を受けて、ソファをデザインそのままに復刻したり、テラスを建て替える時になるべく以前の雰囲気を残したりと隠れた努力をしているそうです。昭和23年から働いているスタッフと家族同然に働き、常連さんを大切にする店主の気持ちがお店のひとつひとつを形づくっていました。

そうこうしているうちに、念願のホットケーキが運ばれてきます。60年ほど前から看板メニューのホットケーキは、銅板の上、当時から変わらぬレシピでじっくり焼くこと20分。熱々のホットケーキに大きなバターとたっぷりのシロップをかけて、いただきます。

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ホットケーキばかりに目がいってしまいがちですが、コーヒーは横浜のキャラバンコーヒーによるイワタ珈琲オリジナルブレンド。期待通りの苦味とコクです。

ショーケースに並ぶケーキも懐かしい味でおいしい。
ショーケースに並ぶケーキも懐かしい味でおいしい。

ついさっきランチを食べたことも忘れ、分厚い2枚のホットケーキをペロリ。変わらないために変わっていく老舗の味は、おなかのキャパシティなんてものともしないのでした。


イワタ珈琲店
鎌倉市小町1-5-7
0467-22-2689

文・写真:井上麻那巳