あけましておめでとうございます。さんち編集部の尾島可奈子です。
「さんち 〜工芸と探訪〜」は本年も1日1日、日本中の工芸産地の魅力を、全国をかけ廻ってお届けします。
愛着のある道具と暮らす毎日と、発見に満ちた産地旅へのおともに。2017年も「さんち」をどうぞよろしくお願いいたします。
さて、新年ひとつめの記事は、新しい年が美しく色どられた毎日になるよう願いを込めて。
きっぱりとした晒の白や漆塗りの深い赤のように、日用の道具の中には、その素材、製法だからこそ表せる美しい色があります。その色はどうやって生み出されるのか?なぜその色なのか?色から見えてくる物語を読み解きます。2017年はじめの色は、「松の緑」です。
祈りの色、松の緑
緑は英語でgreen。もともとgrowなど「育つ」という意味の言葉が語源です。すくすく育つ草の色、というわけですね。日本語でも、元は新芽を指す言葉だったものが、そのまま色名になったそうです。お正月を代表する「緑」といえば、やはり松。今日は古くから日本人の暮らしの中に活かされてきた「松」をめぐる色の冒険に出かけましょう。
松は木材としてはもちろん、樹皮、樹脂、葉や種まで使うところの多い樹木として洋の東西を問わず、古代から人の生活に活かされてきました。古代ローマでは建築物の屋根板に松の樹皮が使われていたと言いますし、日本では縄文時代の遺跡から、加工された松の棒が複数見つかっています。冬でも枯れずに緑を保ち、寿命も長いことから古来中国では特別な木として尊ばれ、日本では神霊が宿る聖なる木と信じられてきました。その風習が今に伝わるのが、お正月の門松です。
門松は、新年を迎えた家に幸いをもたらす歳神様(としがみさま)をお迎えする依代(よりしろ)。松を門前に立てる例が多いことからこの名前がついたそうです。実際には土地によって材料や形状、置き場所も様々ですが、拝み松、飾り松という呼び名もあるように、やはり主役は松。由来は平安時代、貴族がお正月はじめの子(ね)の日に若菜を摘み小松を引き抜いて遊ぶ「子日(ねのひ)の遊び」という年中行事があり、これが後にお正月に松を飾る「門松」に発展したと言われています。松にとっては少しかわいそうに思いますが、貴族たちはこの日に小松を引き抜いたりそれを調理して食べることで、松のような長寿を願ったのでした。
暮らしの中で便利に使うだけでなく、その命の長さや常緑であることを知り、縁起を担いで飾る「松の緑」。どんなことでも何かをはじめることは勇気が要りますが、新しい年を飾る門松には、「松の緑」の力を少し借りて、これからの毎日を元気よくはじめて行こうとする、はるか昔からの暮らしの願いが詰まっているように感じます。新しい年が、明るい色に満ちた、すこやかな一年になりますように。
文・写真:尾島可奈子