シフォンケーキが膨らまないのはなぜか?
店頭に並ぶ製菓グッズを見て、急に心が踊りだす‥‥
日常的にお菓子作りをしていないものの、なんだかチャレンジしたくなってきました。
かくいう私は、シフォンケーキに挑戦して、見事に失敗。メレンゲもしっかり泡立てて、レシピ通りに作ったのになぜ‥‥。
調べていると、「お菓子作り成功の秘訣は道具にある」との情報を目にしました。いったいどういうことなのでしょう。
専門家に尋ねるべく、食にまつわる道具の一大問屋街「かっぱ橋道具街」へ。
成功のカギをにぎる製菓道具のこと、詳しく聞いてきました!
訪ねたのは、かっぱ橋の老舗製菓道具店「馬嶋屋菓子道具店」。同店で製菓道具の開発や研究をされている櫻井裕 (さくらい ゆたか) さんに教えていただきました。
その教えは、作りたいお菓子によって適切な素材を選ぶという「型」に着目したもの。つまり、大事なのは形状よりも素材だったのです。
焼き菓子の決め手は「熱通り」
「レシピ通りに作ったシフォンケーキが膨らまなかったんです」と相談すると、櫻井さんは「原因は大きく2つ考えられます」と答えてくれました。
「まずは熱通りの問題。
シフォンケーキをはじめ焼き菓子は、しっかりと焼き上げることが膨らみや味に直結します。指定の温度で充分に焼き上げられるかは、生地を流し込む型の素材次第なんです」
熱通りがよい素材は銅を筆頭に、アルミ、鉄 (アルタイト、ブリキなど) 。ステンレスやシリコンゴムは焼き菓子には不向きなのだそう。
シフォンケーキならば、アルミ型で
「熱通りの良さがメレンゲの膨らみを助けるシフォンケーキは、アルミの型がいいでしょう」
そう教えられ、熱通りの良い銅ではないの?と思うと、実はそうもいかないよう。
「生地が型に張り付くシフォンケーキ型は洗う必要がありますから、錆びにくいアルミがベストなんです。
銅は高価なので、銅製の道具も多くありません。また、錆びやすいので水洗いできません。プロが銅素材の型や天板を使うのは、パリっとした仕上がりが重要なカヌレやフランスパンを作るときですね。使用後は、拭き掃除のみで保管します」
表面加工や油分にご用心
「もう一つの失敗原因として考えられるのは、生地の油分やコーティング加工です。
シフォンケーキは、型に張り付きながら生地を支えて膨らんでいきます。型離れを良くしようと型の表面にバターやオイルを塗ったり、油分を含む抹茶やココアなどを加えたり、型の表面にすべりやすい加工がさていたりすると膨らみにくくなってしまうんです」
昨年の私は、シリコンゴムの型を使った上、後片付けを楽にしたい誘惑に負けて型に薄くバターを塗って抹茶シフォンを作りました。どうりで膨らまなかったわけです‥‥。
「シリコンの型は、専用のレシピを使ってくださいね。強力粉を入れるなど、膨らむ力を助けて作る方法もあります。
また、型離れしやすいようにコーティング加工されているシフォンケーキ型もあります。この場合も、膨らみにくくなるのでレシピの工夫が必要です」
失敗しないシフォンケーキ作りについて納得したところで、他の素材や加工についても教えていただきました。
マドレーヌや食パンには、鉄製を
「銅やアルミには劣るものの熱通りが良く、衝撃に強い鉄素材は、マドレーヌやフィナンシェ、食パンなど万能に使えます。
ただし、湿気ですぐに錆びるため注意が必要です。生地を流し込む前に薄く油脂を塗って型離れしやすくし、使用後は拭き掃除のみ。紙などに包み、風通しの良いところで保管するのが理想的です。
表面に残った油分が型に馴染むことで、型離れ効果とサビ予防の役目をしてくれます。長く使うほどに、使いやすい道具に育てていけるのです。
汚れがひどい時は、柔らかいスポンジで水洗いして、すぐにオーブンの予熱で水気を取り除いてください」
コーティング加工で型離れを助ける
シフォンケーキ以外の多くの焼き菓子で重要なのが、焼きあがった際に型からきれいに取り外せること。
「金属型に、シリコンやテフロンの薄い膜を施すコーティング加工をしている商品もあります。使い始めの空焼きが不要な上、最初から型離れ効果が望めます。
カロリーカットなどの目的で、コーティング加工のものには油脂を塗らずに使う方もいらっしゃいますが、コーティングが剥がれやすくなるため油脂を少量塗ることをおすすめしています」
ただ、プロが使うお菓子型は、コストの観点から加工無しのものが一般的だそう。
「加工無しの型は空焼きが必要であったり、使い始めは型離れしにくいので油脂をしっかりと塗るなどの手間はかかりますが、正しくお手入れしていれば長く使えて、使い勝手の良い型に育ちます」
「すぐ簡単に使いたい」なら加工された型、「長く道具を育てていきたい」なら加工なしの型と、好みで選ぶのが良さそうです。
お菓子にはシリコン加工&拭き掃除
加工が施された金属型選びにはこんな注意点も。
「テフロン加工は水に強いので洗えます。ただし、糖分に弱いため甘いお菓子には不向きといわれています。
一方、シリコン加工は糖分に強いのでフィナンシェやマドレーヌなど甘いお菓子に最適です。でも、液体に弱いので水洗い、特につけ置きは絶対に避けてください。
加工なしの型同様、原則拭き掃除のみで紙に包んで保管します」
ステンレスやシリコンゴムは、冷や菓子に
「ステンレスは錆びにくく、シリコンゴムは錆びません。
ムースやゼリー、チョコレート、羊かんなど水分の多いお菓子に最適です。特にシリコンゴムは、いろんな形のものがあるので人気があります」
道具選びのまとめ
・シフォンケーキ型は、加工なしのアルミ製がベスト。
・マドレーヌやフィナンシェは、手軽に作るならシリコン加工の鉄製型、プロ仕様で道具を育てるなら加工なしの鉄製型を。
・ムースやゼリー、チョコレートなど冷やしてつくるお菓子には、シリコンゴムやステンレスのものを。
まずこの基本を押さえながら、自分にあった道具を選ぶと良さそうです。
「専門店で買うときは、どんな風に作りたいかをお店の人に相談すると良いですよ。いつでも相談に乗りますので」と櫻井さん。専門店、心強い。
弱点を克服した新しい菓子型
素材や加工とお菓子作りの相性を研究してきた櫻井さん。それぞれに一長一短のある道具を見ていて、ついにこんな商品を開発したそうです。
「銅やアルミより熱通りが劣る鉄に遠赤加工を施し、糖分に強い特殊なテフロンを塗装した金属型を作りました。
強くて扱いやすい鉄と水洗いできるテフロンの弱い要素を克服した、しっかりとした焼き上がりと使いやすさを兼ね備えた道具です」
この『あかがね』シリーズの価格は5千円から7千円程度。銅製品より安価ですが、一般的な製菓道具よりは高額です。
「お菓子作りが好きな中級者以上の方に喜んでほしいと考えています。
世の中には安価な型もありますが、それは金属素材の純度や加工塗料の質の違いが価格差になっています。お菓子の型は値段相応にそれぞれの納得感がありますので、ご自身の作りたいお菓子をイメージして選んでみてください」
「お菓子作りの鍵は道具にあり」
自分の作りたいお菓子ってどんなものだろう?理想の仕上がりや自分にとっての作りやすさを思い描きながら、道具を選ぶのは楽しいものでした。
リベンジを誓う私。アルミ製のシフォンケーキ型を手にお店を後にしました。
<取材協力>
馬嶋屋菓子道具店
東京都台東区西浅草2-5-4
03-3844-3850
*通販もありますのでぜひご利用ください
http://majimaya.jp/
文・写真:小俣荘子
画像提供:馬嶋屋菓子道具店
* こちらは、2019年1月29日の記事を再編集して公開しました
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「この商品は、大発明だと思います。」
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