オチビサンと巡る四季の鎌倉 〜水仙の花ひらく冬編〜

こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
『オチビサン』という漫画をご存知でしょうか。『オチビサン』は『働きマン』などで知られる安野モヨコさんの漫画作品。安野さんが過労に倒れてほとんどの漫画の連載をストップしたとき、唯一連載をやめなかったのが、実はこの『オチビサン』なのです。鎌倉に暮らす安野さんが愛する鎌倉の四季や自然と共に描くオチビサンたち。彼らといっしょに潮風香る古都、鎌倉の街を巡っていきましょう。

6140

鎌倉時代から受け継がれてきた名刀正宗を訪ねて

『正宗』といえば、鎌倉時代に生まれた最もその名が知られている日本刀のひとつ。実は、刀の名前であると同時に刀匠(とうしょう)の名前でもあります。初代『正宗』から数えて24代目となる刀匠が今でも日本刀をつくっていると聞いて、正宗工芸美術製作所に向かいました。正宗工芸美術製作所は鎌倉駅から歩いて5分ほど。踏み切りを渡ってすぐ、左手に見えてきます。

カンカンという音につられて奥へ行くと…

つくってる!と、そのまま工房へお邪魔して見学させてもらうことに。中で作業していたのはこの工房に来て24年目というお弟子さん。刀鍛冶というと怖そうなおじさんをイメージしてしまいますが、とっても気さくな方で、刀鍛冶のことや刀鍛冶になった経緯についてお話してくれました。刀鍛冶になるには実は「美術刀剣刀匠」という国家資格が必要なこと。アメリカに留学中に刀に興味を持ち日本へ帰って来たものの弟子入りはかんたんではなかったこと。笑いまじりに話しながらも手は作業を止めません。

「ちょっと飛びますからね。危ないですよ」と言われた次の瞬間…

うわあああああ
うわあああああ

火の粉が大きく飛び散り、ヒヤヒヤ。ヤケドしないんですかと聞くと、「もうね、ヤケドとヤケドがくっついちゃって、よくわかんないのよ」と笑います。職人の気概を感じずにはいられませんでした。現在は刀匠の資格を持っている人が300人ほど。でも、そのうち今でも刀をつくってる人は150人いるかいないかだそうです。

鋼のかたまりをカットして、折りたたみ、ミルフィールのように層をつくっていきます。この作業をくり返して、最終的には2万もの層ができあがるのだとか。気の遠くなるような回数です。

こちらは5回目が終わったところだそう
こちらは5回目が終わったところだそう

工房見学もひと段落し、お店で完成した日本刀を見せてもらうことに。ガラスケースから出して実際に目の前にすると、圧倒的な存在感に背筋がピンとのびます。と同時に、美しい刀身に鎌倉時代から続く職人の技を感じました。

刀匠の名が刻まれています
刀匠の名が刻まれています

腹が減っては戦はできぬ。鎌倉野菜たっぷりランチ

工房見学についつい夢中になり、すっかり時間はお昼前。見学中は気がつかなかったけれど、すっかりおなかがなる時間になりました。腹が減っては戦はできぬ。鎌倉の歴史と刀匠を技を感じた後は、腹ごしらえに向かいます。

到着したのはなると屋+典座(なるとやぷらすてんぞ)という一風変わった店名の和食屋さん。典座(てんぞ)というのは、禅宗寺院の役職のひとつで、いわゆる食事係の僧なのですが、食事の調理、喫飯も重要な修行とする禅宗では特に重要な役職とされています。その名前を冠したこちらのお店のお料理は、精進料理をベースにした、野菜だけのメニューが評判とのこと。

店内にはめずらしい野菜もゴロゴロ
店内にはめずらしい野菜もゴロゴロ

ランチメニューは月替わりの定食と葛とじうどんの2種類で、どちらもお魚やお肉ではなく、野菜が中心。どれも冷えた身体にやさしいお味でした。

dsc05927_02
1月のごはん。手前のお椀は金時人参のスープ
1月のごはん。手前のお椀は金時人参のスープ
葛とじうどんと旬のお野菜を使った惣菜のセット
葛とじうどんと旬のお野菜を使った惣菜のセット
トロトロで具沢山。あったまります
トロトロで具沢山。あったまります

こだわっているわけではないけれど、鎌倉のお店なので自然と鎌倉野菜が多いとお話してくれたのは、13年前に27歳で独立したという店主のイチカワヨウスケさん。ひとりひとり、毎回異なるもので提供されるうつわは、イチカワさん自らが選び、少しづつ買い集めているそうです。肩ひじはらず、自然体な店主の姿勢が素材のおいしさを引き出すやさしいお料理を生んでいるのかな、と感じました。今年の春頃には野菜をつかったお料理のレシピ本も出版されるとのこと。そちらもたのしみです。

店主のイチカワヨウスケさん

あったかくてやさしいごはんですっかり身体もあたたまり、午後は北鎌倉へと向かいます。

オチビサンと巡る四季の鎌倉 〜木々が色づく文学の秋編〜

こんにちは。さんち編集部の井上麻那巳です。
『オチビサン』という漫画をご存知でしょうか。『オチビサン』は『働きマン』などで知られる安野モヨコさんの漫画作品。安野さんが過労に倒れてほとんどの漫画の連載をストップしたとき、唯一連載をやめなかったのが、実はこの『オチビサン』なのです。鎌倉に暮らす安野さんが、愛する鎌倉の四季や自然と共に描くオチビサンたち。彼らといっしょに潮風香る古都、鎌倉の街を巡っていきましょう。

まずは、「花の寺」として知られる光則寺へ。ちょうど長谷寺と鎌倉大仏のある高徳院に挟まれるような立地の小さなお寺です。江ノ電長谷駅を降り、てくてく歩いて5分ほど。秋の紅葉にはちょっと早いですが、徐々に色づきはじめた木々をゆったり眺めるのもぜいたくな時間。

dsc08581

住職さんによると、光則寺は四季を通じて花が咲き、訪れる時期によって全く違う表情を見せてくれるそうです。東京よりも少し遅めの鎌倉の紅葉は、11月下旬から12月上旬が見頃だそう。

どんぐり集め。オチビサンのように夢中になって迷子にならないように。
ちいさな秋、見つけた。

ひんやりした空気の中、光則寺を後に鎌倉文学館へ向かいます。

dsc08630

物語に出てくるような雰囲気たっぷりの坂をのぼると現れる洋館が目的地、鎌倉文学館。旧前田侯爵家別邸であるこの建物は、第16代当主の前田利為氏によって昭和11年に現在の形に建てられました。和洋入り混じる雰囲気たっぷりの建物は、今でもドラマや漫画のモデルに使われることも多いとか。寄木細工の技術を使用した床など、細かいところも洒落ています。

細かい建具のディティールやステンドグラスが美しい。
dsc08759

「鎌倉文士」と呼ばれた川端康成など、鎌倉ゆかりの文学者たちは今ではなんと340名にものぼるそう。常設とは言いながらも季節毎に入れ替えられている彼らの直筆原稿や手紙などを展示する常設展示を見ていると、たくさんの本に目を輝かせるナゼニの顔が目に浮かぶようでした。

ここでしか売っていないという『鎌倉文学散歩』。お土産によいかも。

建物の外へ出て、バラ園でひとやすみ。三島由紀夫の同名の小説にちなんだ『春の雪』や鎌倉ゆかりの名が付けられたバラはちょうど見頃を迎えていました。天気のよい日はこの香りの中お弁当を広げるのもよいなぁと言いながら、おなかをすかせて鎌倉駅へ移動します。

薄いピンクでちいさな「春の雪」はとっても可憐。
dsc08669

賑やかな鎌倉駅に戻ると、小町通りを一歩歩くたびによい匂いが…。食べ歩きの誘惑を振り切り、カウンターだけのちいさなお店、穴子ちらし小町にまっしぐら。今なら食いしんぼうのパンくいの気持ちがわかるかも。ここでいただくのはもちろん看板メニュー、穴子ちらし。穴子と言えば夏に旬を迎えるイメージですが、脂の乗った10~12月を好む方も多いのですよ。前のお寿司屋さんから受け継いだという織部焼の丼ぶりには、この器に再会するためにやってくるファンもいるとかいないとか。

穴子ちらし お椀、お新香付き 1,500円。

元編集者のお洒落なお父さんが切り盛りするランチタイムとは打って変わって、夜は東京で修行を積んだ息子さんが自ら釣ったお魚を料理してくれるそうです。

おなかも満たされたところで、文学の秋へ戻りましょう。新しいお店も目立つ小町通りの中で、ひときわ目をひく古い外観。和紙専門店の社頭は1969年創業の老舗です。当時から川端康成をはじめ、鎌倉の文学者御用達の店として続けてきました。店内には所狭しと千代紙や懐紙などの和紙の小物が並びます。

「もともとは母の趣味ではじめたお店で…」と語る二代目当主は、華やかな千代紙よりも白い和紙に惹かれる。同じ白い紙でも紙漉きはもちろん季節によっても全然違うのよと言ってたくさんの白い紙を見せてくれました。中にはピカソやシャガール、ダリが好んで使っていたという貴重な紙も。それらの紙も約60cm×90cmで4,000円ほどから手に入るというので、手が届かなくはないことに驚きました。

オリジナルの葉書は5枚で324円から。葉書によって金額が違います。
鎌倉駅舎もあります。