今年の夏は、本当に暑い日が続きますね。エアコンを一日中つけっぱなし、というお宅も多いのではないでしょうか。
エアコンや扇風機といった家電製品のなかった時代、人々はどのように暑さをしのいできたのでしょうか。
暑さをしのぐ昔ながらの生活の知恵を求め、古来より「夏が暑い街」として知られる京都市を訪ねました。
京町家には、涼しく過ごすための知恵が盛りだくさん
京都市は三方を山に囲まれた盆地。夏は蒸し暑く、冬は底冷えがするという、寒暖差の激しい気候です。
もともとの気候に加えて、京都の町家は「うなぎの寝床」とも呼ばれるように、間口が狭く、奥行きが深い間取りをしています。さらに、隣の家とも接して建てられているため、京都の町家にとって風の通りはとても重要でした。
そのため京都の町家には、少しでも涼しく過ごせるよう、様々な仕掛けが施されています。
例えば、通りに面した窓には「表格子」を取り付けて風が入るようにしたり、家の表から奥までを「通り庭」と呼ばれる土間で貫き、風の通り道を作ったり。
打ち水も、温度差を作って風を起こす、昔ながらの知恵のひとつです。
また、京都の街を歩いていると目に留まるのが、町家の二階に掛けられた「すだれ」。
昔ながらの暮らしの道具であるすだれも、京都の暑さ対策として誕生しました。
近年、すだれは節電対策としても注目されています。エコで涼しいすだれと京都の夏との関係を、老舗すだれ店に教えてもらいました。
京町家の衣替え。五感で涼を感じる京都の夏座敷とは
お話を伺ったのは、竹と京すだれ「西河」の7代目当主、西河雄一さん。
西河は天保2年(1831年)に葦(よし)すだれ商として京都にて創業し、以降180年以上続く老舗のすだれ店です。
「もともと宮中や武家で、身分の高い人と低い人との空間を隔てるために使われていた『御簾(みす)』が、現在のすだれの原型です。明治時代初期に士農工商の身分制度が廃止されたのを機に、当店の2代目が一般の人々も使える暑さよけの道具として、『お座敷すだれ』を考案し、普及させました」
空間を隔てるための道具であった御簾は、実用性のあるすだれとして京都の人々に広く愛されるようになります。
そして、衣替えの時期に建具をすだれに掛けかえるのが、京都の夏のスタンダードになっていきました。
「基本的に、6月1日から9月30日までの衣替えの時期に、京都の町家も夏仕様に変身します。ふすまを『夏障子』(すだれをはめ込んだ戸)に、障子をお座敷すだれに替え、畳の上にはあじろを敷くことで、京都の夏座敷は完成します。風通しも良くなりますし、見た目からも触感からも涼しさを感じられるようになります」
「打ち水や風鈴もそうですが、暑い京都では昔から、五感を通して涼しさを感じる工夫がなされてきたのです」
職人が手作業で作り上げる、純国産のすだれ
西河が取り扱うすだれは、大きさや用途も多種多様。いずれも国産の素材にこだわって、京都の職人の手で作られています。
屋内で使うお座敷すだれには、風通しを良くする効果が。京都産の真竹を使用しており、周囲には西陣織の縁が縫い付けられています。
屋外で使う外掛けすだれは、直射日光を遮るために使用します。国産の葦(よし)やガマで作られ、中でも最高級品には琵琶湖産の葦が使われます。
「それぞれ、職人さんたちが分業で作り上げています。天然の素材を採りに行くところから始まり、皮をむき、竹を割って乾燥させ、選別し、編み、縁や房を付けて、ようやく完成です」
「非常に手間のかかる仕事をしているため、値段もそれなりにします。しかしその分、ホームセンターなどで売られている外国産のものより、見た目の美しさや作りの繊細さといった品質の良さはもちろんのこと、手をかけ丈夫に作られているため、長く使っていただけます」
西河さんによれば、風雨をうける屋外用すだれの寿命はおよそ5~10年。
屋内用すだれは、20年ほどで傷んでくる縁を取替えさえすれば、何十年と長く使えるものだそう。
「以前、私のところに傷んだ古いすだれが持ち込まれました。そのすだれには私の祖父の名前が刻まれており、なんと70年ほど前に当店で作ったものだと判明しました。縁を取り替え修理し、その後ももう何年も使っていただいています。すだれは使うほどに色も変化し、味も出てきます。それも、すだれを長く使っていただく上での楽しみのひとつだと思います」
効率よく室温を下げる、エコなすだれの選び方
最後に、西河さんにすだれの上手な選び方を教えていただきました。
「室温を下げたいということであれば、やはり直射日光を遮って、熱を屋内に入れないようにすることが一番重要です。ですので、屋外用の外掛けすだれか、屋内用の巻き上げ式すだれを窓際に設置していただくのが効果的です。マンションなどの洋式のお部屋でも、カーテンレールを利用すれば、手軽にすだれを掛けられます」
「すだれの寸法も重要です。例えば、西日は低い位置まで入ってくるので、西日の入る窓には足元までの長いすだれを掛けるようにします。反対に、南側の窓は太陽が高い位置にあるため、それほど長いものでなくても大丈夫です。
他にも、お宅の軒や塀・樹木の影によっても、必要な寸法は変わってきますので、実際にお宅へ出向いて最適な商品をご提案させていただくことも多いです。ご購入いただく際には、場所に合わせて寸法をお選びください」
ちなみに、すだれに水を吹き付けて使用すると、さらに涼しさはアップするようですが、編糸が弱くなって壊れやすくなるため、おすすめはしないとのこと。
夏を過ぎて片付ける際にも水拭きはせず、はたきなどでホコリをはたく程度にしたほうが、長持ちするそうです。
昔ながらの日本の暮らしの道具、すだれは、暑い京都の夏を涼しく過ごすために生まれ、現在も京都の街中で愛用され続けていました。
熱中症対策にも節電対策にも効果のある、すだれ。五感を使って涼を感じる、京都の町家の知恵を上手に取り入れて、エコな涼生活を始めてみませんか。
<取材協力>
西河株式会社
京都市東山区祇園町南側542
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文・撮影:竹島千遥
写真提供:西河株式会社