オリジナルでつくる自分好みの香り。東京駅でできる調香体験へ

剣道、柔道、書道ー。日本にはさまざまな”道”がありますが、「日本三大芸道」と言われるのが茶道、華道、そして香道です。

茶道と華道は広く知られていますが、香道は知らない方も多いかもしれません。

室町時代に京都で盛えた東山文化。足利義政が銀閣寺を建て、茶道や華道、能など奨励したのと同じく、香道も芸道としての体系が作られました。

さらに平安時代に遡ると、貴族は「一人一香」、つまり、それぞれが自分のオリジナルの香りを持っていたと伝えられており、香りを楽しむことは、日本古来の文化でもあったのです。

安土桃山時代に創業し、日本最古の御香調進所である「薫玉堂 KITTE丸の内店」では、そんなオリジナルの香りの調香体験をすることができます。

このワークショップでは、香りの説明を受けながら、普段お香に馴染みのないかたでも、自分に合ったブレンドでのオリジナルの香りを作り、持ち帰ることができるのです。

今回は、実際に調香を体験し、外出時に持ち運ぶことができる「香袋」づくりに挑戦しました。

薫玉堂 KITTE丸の内店

オリジナルの香り作りができる「調香体験」へ

香道では、樹木内の樹脂が長い年月をかけて熟成された「香木(こうぼく)」といわれる香材が使われます。香木は古くから漢方に用いられていました。香りのよさだけでなく、体にもやさしい香りなのです。

調香体験では、ラベンダーやローズなどの馴染みのあるものから、「白檀(びゃくだん)」や「大茴香 (だいういきょう:スターアニス)、龍脳(りゅうのう)など、初めて知るものも多くあります。

丁子(ちょうじ:クローブ)、桂皮(けいひ:シナモン)など、カレースパイスを作る方には馴染みのあるものも、香りの原料となることに驚きました。

香りのベースとなる白檀と薫玉堂のオリジナルの薫り香から5杯、さらにラベンダーやローズ、カモミール、月桂樹、大茴香 、丁子、桂皮、龍脳の中から5杯を選びます。

香道の世界では、香りを「嗅ぐ」のではなく、「聞く」と表現するのだそうです。

様々な香りがあり、どれにするか悩んでしまいます。

色合いもよく、香りだけでなく見て楽しむことができます

今回選んだのは、白檀、薫り香、ローズ、龍脳、大茴香、丁子の6種類。この日は夏の暑さも厳しく、爽やかな香りでリラックスできる組み合わせにしました。

香袋を選び、中に詰めて完成です。

市販のお香など、決まった香りを焚くことはあっても、「自分の香り」を作ることは香りの種類も多くなかなかハードルが高いもの。今回の調香体験のように、複数の香りを組み合わせて作ることはとても新鮮でした。

また香袋のように、ポーチやかばんにそっと入れ、香りを持ち運べることも、香水とはまた違う気分を味わえます。忙しく動き回った日に取り出した財布から、ノートから、ふわっと香りが伝わるだけで、気分を落ち着かせることができます。

「香袋」以外にも、塗るお香「塗香(ずこう)」や、手紙に添える香り「文香(ふみこう)」など様々で、日本古来の文化である香りについてあまりに知らないことが多くありました。

そこで、「日本人が知らない、和の香り」を知るべく、京都にある薫玉堂本店を訪ね、「香りのいろは」を伺いました。

 

<取材協力>
香老舗 薫玉堂 KITTE丸の内店
〒100-7004 東京都千代田区丸の内2丁目7番2号 KITTE4階
03-6551-2630
http://jptower-kitte.jp/shop/401.html

取材・文:和田拓也
写真:山田淳

土佐の呑んべえ御用達。午前11時開店の「葉牡丹」で乾杯!そして返杯!

日本一お酒にお金を使うといわれる高知県。そんな“酒飲みの街”での「産地で晩酌」。足を運んだのは居酒屋「葉牡丹」だ。創業60年を超え、土佐の呑んべえが夜な夜な、いや明るいうちから足繁く通う地元の盛り場だ。

高知の老舗居酒屋・葉牡丹の外観
「葉牡丹」外観

土佐の名産に希少な珍味。吸い込む時代と土佐酒の薫り

午前11時から開店しているというこのお店。「夕方は相撲を見に来た常連で混んでるから、取材は夜にきてね」と言われ夜に足を運んだのだが、店内は大賑わい。

焼き物、串物をメインに、鰹(かつお)はもちろん、ドロメやチャンバラ貝などの珍味や希少な鯨(くじら)など、高知ならではの肴が揃う。

高知の老舗居酒屋・葉牡丹のチャンバラ貝
高知の酒の肴の定番、チャンバラ貝

高知では新鮮な生のかつおを皮付きの「銀皮造り」で食べることが多いのだそう。緑色のピリッと辛い「葉にんにく」との相性に目尻が下がる。

高知市の老舗居酒屋・葉牡丹の鯨の串
高知は日本有数の鯨の生息地でもある。希少な鯨を串でいただいた(写真右)
高知の老舗居酒屋・葉牡丹のイサキ
高知で「イセギ」とは、「イサキ」をさす

土佐鶴、司牡丹、酔鯨などの土佐の名酒に目移りしながら目に留まったのは、栗焼酎「ダバダ 火振」。関東ではあまり馴染みがないが、高知では一般的に飲まれるのだそう。

四万十川流域の山里で人の集まる場所を指す「駄場(ダバ)」、伝統的鮎漁法「火振り漁」が名前の由来

一合いただいたら日本酒に、なんて考えていたけど、美味しさあまってもう一合。あらもう一合。

内装から感じる時代の空気と、常連さんたちの笑い声も吸い込んでしみじみ感じる。「これはいいお酒を飲んでいるなぁ」

「葉牡丹」が揃える日本酒はすべて高知産のもの

「葉牡丹」を支える、働くお母さんたち

「葉牡丹」でお酒を飲んでいると気づくのが、いい顔をして働くお母さんたち。何十年もここで働いている方もいる。

高知市の葉牡丹で働く女性

「高知の女性は男性よりもパワーがある」。この日お酒を交わした常連さんは話す。

「男性よりお酒を飲める方も多いよ。女性にお酒飲めるんですかって聞くとこう言うの。『しょうしょう(升+升)です』ってね。ははは!」。

「高知ではね、女性が表に出てくる文化があったんですよ。お母ちゃんが働いて、男は何してるかっていうと、よそで飲んで騒いでるんです。ぐあっはっは」。陽気に、豪快に話すのは、土佐の酒飲みを何十年も店に迎え入れてきた「葉牡丹」店主の吉本さん。

店主の吉本さん

「飲食も板場くらいしか男がいなかった。うちも親父の言い出しっぺでおふくろが串カツ屋をはじめたんだけど、結局切り盛りしたのおふくろ。高知はね、女の人が働かないと成り立たない場所だったのよ(笑)。

でもね、実はそれが良いセールスのやり方でもあった。外で飲んで裏の情報をいち早く掴んで商いに生かす。それが男の仕事だったんですよ。まったく、どうしようもないねぇ!」

街は変われど、酒飲みは変わらず

「「葉牡丹」が開店した当時、この店が位置する堀詰という地区は、映画館やバス会社の待合室、競馬場、キャバレーなどが集まる地区だった。男衆が一杯引っ掛けるのに最高の場所だったというわけだ。「こどもがお父ちゃんに動物園に馬を見に行くぞと言われて行くと、競馬場だったってのはよくあった話ですよ(笑)」と吉本さん。

空襲の焼け残りの材木を寄せ集めてできたという、「葉牡丹」の建物。継ぎ接ぎで高さの合わない、少し歪で、しかし可愛らしい扉を見ながら、吉本さんは土佐という街についても話す。

「(土佐は)変わったけど、変わってないね。街も変わったし人は少なくなったというのはあるけど、大してうちは変わらん。みーんな呑んべえ!返杯って知ってる?あ、もう早速常連に教えてもらった?ぐあっはっは!」

高知には「返杯」というお酒の飲み方がある。お酒を注がれるとそれを飲み干し、「はい、返杯!」とグラスを渡しお酒を注ぎ返す。相手もまたそれを飲み干すというものだ。

返杯、返杯、また返杯。 土佐の“酒飲みの作法”もすっかり身につけ、そのままその常連たちと2軒目へと向かったのだった。

変わらない粋な店に、変わらない酒飲みたち。土佐に寄ったら是非ここの暖簾をくぐってほしい。

あぁ、いい夜だ。土佐の夜に、返杯!

<取材協力>

居酒屋 葉牡丹

〒780-0834 高知県高知市堺町2−21

088-872-1330

http://habotan.jp/

取材・文:和田拓也

写真:uehara mitsugu