ふわふわの泡をいただく沖縄「ぶくぶく茶」を体験。王朝時代から伝わる琉球茶道の魅力とは?

沖縄には、雲のような泡が乗った伝統茶があります。その名は「ぶくぶく茶」。

ぶくぶく茶

可愛らしい姿と名前が印象的ですが、琉球王朝時代、宮廷の賓客をもてなす際に振舞われていた歴史を持つお茶なのだそうです。

「ぶくぶく茶」を体験したのは首里城近くの「楽茶陶房ちゅらら」

琉球茶道とも呼ばれ、琉球のもてなしの心で点てる、ぶくぶく茶。お茶をいただくだけでなく、その歴史や作法を教わりながら体験できるお店があると聞いて、さっそく訪れてみました。

「楽茶陶房ちゅらら」の看板が目印。脇の小道を入ると、お店の入り口が現れます
「楽茶陶房ちゅらら」の看板が目印。脇の小道を入ると、お店の入り口が現れます

教えてくださるのは、首里城からほど近い場所にある喫茶店「楽茶陶房ちゅらら」店主の安岡翠薫 (やすおか・すいくん) さん。

ぶくぶく茶の教授免許をお持ちで、結婚式や式典、沖縄文化を伝えるレセプションなどでお点前を披露したり、お稽古を行うかたわらに経営する喫茶店で、誰もが気軽に体験できる機会を作り、ぶくぶく茶を広める活動をされています。

私も安岡さんに教えていただきながら、ぶくぶく茶を体験してきました。

安岡さん (右) に琉球衣装を着付けていただきました。事前の身支度は不要。洋服の上から気軽に羽織るようにまといます
安岡さん (右) に琉球衣装を着付けていただきました。事前の身支度は不要。洋服の上から気軽に羽織るようにまといます

ほのかにジャスミンが香る、お米のお茶

そもそも、ぶくぶく茶ってどんな味なのでしょう。お茶になる前の状態を見せていただきました。

左上から、煎った玄米、さんぴん茶 (ジャスミン) 、煎った白米
左上から、煎った玄米、さんぴん茶 (ジャスミン) 、煎った白米

「ぶくぶく茶は、2層の異なるお茶でできています。玄米茶の上に、さんぴん茶の香りがついた白米茶の泡が乗っていて、両方を一度に口に運んで味わいます。お米の香ばしさと、さわやかなジャスミンの香りが合わさったホッとする味わいのお茶です。

お点前を始める前の準備として、玄米と白米を煎っておきます。煎ったら、玄米と白米を別々にグツグツと煮出します。白米にはさんぴん茶を加えてほのかに香りをつけておきます。こうして用意した2つのお茶を用いてお点前をします」

泡立て道具は、大きな器と茶筅

直径30センチメートルほどの木鉢と茶筅。予想外の大きさです!
直径30センチメートルほどの木鉢と茶筅。予想外の大きさです!

お点前の道具として登場したのは、大きな木製の器「ぶくぶく鉢」と茶筅。

「この鉢で来賓全員分のお茶を泡立てて、お客様用の個別の器へ盛り付けます」

泡立てる前の白米のお茶。たっぷりと注ぎ込みます。「明日は筋肉痛かな‥‥」なんて、日頃の運動不足を省みて不安がよぎりました
泡立てる前の白米のお茶。たっぷりと注ぎ込みます。「明日は筋肉痛かな‥‥」なんて、日頃の運動不足を省みて不安がよぎりました

「大きな茶筅なので、人差し指と中指を茶筅の穴の中に入れて持ち、手首のスナップを効かせながら鉢の縁をこするように左右に茶筅を振って泡立てていきます」

2本の指を茶筅に入れてこんな風に持ちます
2本の指を茶筅に入れてこんな風に持ちます
鉢の縁をこするように茶筅を動かします。出来上がった泡はそっと反対側の縁へ寄せて、また新たに泡立てていきます。ぶくぶくと泡が立っていくのがとても楽しい
鉢の縁をこするように茶筅を動かします。出来上がった泡はそっと反対側の縁へ寄せて、また新たに泡立てていきます。ぶくぶくと泡が立っていくのがとても楽しい

「泡立てのポイントは、できた泡が水に飲み込まれてつぶれてしまわないように液体をあまり動かさないで振ること。

以前、大寄せの茶会で、素早く泡が作れないものかとハンドミキサーを使ってみたことがあったのですが、液体全体を攪拌するためか、できたそばから泡が潰れてしまって、まったく泡立ちませんでした (笑) 」

泡立ち易いように穂1本ずつが細く、全体をかき回しすぎないまっすぐな穂先が一番泡立てやすいそう
泡立ち易いように穂1本ずつが細く、全体をかき回しすぎないまっすぐな穂先の茶筅が良いのだそう
小さな動きとわずかな時間でこんなにたくさんの泡が立ちました。運動不足の身でも筋肉痛にはならなかったのでご安心を!
小さな動きとわずかな時間でこんなにたくさんの泡が立ちました。運動不足の身でも筋肉痛にはならなかったのでご安心を!

「できたての泡は繊細ですぐに水に戻ってしまいますが、しばらく置いておくと硬く弾力が出てきて、崩れにくくなるんですよ。

明治時代以降、一般庶民に親しまれるようになった際には、この泡立てた状態で鉢を頭に担ぎ、ぶくぶく茶を売り歩いている人々もいたそうです」

運んでも崩れない泡。かなりしっかりしているんですね。たしかに、反対側の縁に寄せておいた泡を茶筅で触ると、初めとは違うしっかりとした弾力が生まれていて、少し触れたくらいでは無くなりませんでした。

音を奏でる木の器「ぶくぶく鉢」

「鉢が木製であることには理由があります。宮中でのおもてなしに用いられたぶくぶく茶のお点前の最中には楽器の生演奏がされていました。その場にお点前の音も響きます。木の器に茶筅がこすれて生まれるサラサラという音も音楽の一部となり、一体感を生んでいました。焼き物の器では音が出ないため、木でできたものが使われたのです。

また、茶碗やお盆などのお道具は琉球漆器が使われました。琉球王朝時代、最高級の道具を用意することで、もてなしの気持ちを表したと言われています。その時の道具合わせの流れを受け継いで、現在も式典などのフォーマルな場では琉球漆器を使ってお点前をしています。

ちなみに、お稽古の際には陶器の道具を使います。陶器は、ぶつかり合うとカチンと音が立つので、丁寧さが足りないとすぐにわかります。お道具を大事に扱う練習になるんですね」

お稽古の際に使う陶器
お稽古の際に使う陶器

気候に合わせた温度で味わう

泡立てが終わったら、弾力が出てきた泡を玄米茶の上に乗せていきます。

玄米茶を注いだ器と、お菓子を用意して、泡を盛り付けます
玄米茶を注いだ器と、お菓子を用意して、泡を盛り付けます

お茶の温度は人肌より少し暖かいくらいか、特に暑い時期には冷茶にすることもあるのだそう。沖縄の気候に合わせた、ちょうど良い湯加減が考えられているのですね。

この日の気温は30度。冷茶で準備してくださっていると伺い、期待が高まります。早く飲みたい。

先生のお手本。茶筅に泡を絡めて運び、器の上で、トントンと茶筅を打ちます
先生のお手本。茶筅に泡を絡めて運び、器の上で、トントンと茶筅を打ちます

「流派によって少しずつ違いはありますが、お茶と泡が同時に飲みきれるバランスを考えて盛り付けると美味しく召し上がっていただけます」

中心が高くなるように泡を盛り付けて、できあがりです
中心が高くなるように泡を盛り付けて、できあがりです

「ぶくぶく茶は素朴な味わいなので、先にお菓子をいただいてから飲みます。

いただき方は、器を手に取り、一礼。神様に感謝します。そして、器の正面を避けるように少し時計回りに回して口をつけます。

泡とお茶が一緒に味わえるように少し口を開いて、泡を吸い込むようにすると美味しくいただけますよ」

器を手に取り、一礼していただきます
器を手に取り、一礼していただきます

ふわふわとした不思議な食感と、ひんやりとしたお茶が口の中で溶け合います。ビールにも似た口当たりですが、お茶のさらりとした味と香りが、汗ばんだ体をホッと落ち着かせてくれます。ゆっくりと味わいたい美味しさでした。

首里の湧き水だからこそ生まれた「ぶくぶく泡」

それにしても、泡をのせるという発想、この不思議な飲み物はどうやって生まれたのでしょう?

ぶくぶく茶

「首里には豊富な湧き水があります。地下からこんこんと湧く水は、琉球石灰岩を通ってきたもので、硬度が高く、ミネラルが豊富に含まれています。よその地から伝わって来たお茶を琉球の水で煎れてみたところ、ポコポコと泡が立ちました。

それを見て、もっと泡立ててみたところ面白いほどに泡ができることがわかりました。こうして、見た目にも楽しめて、香りの広がりも、口当たりもよいお茶が生まれました。

ちなみに、琉球のお酒も湧き水とお米でできています。一説にはお酒を作っているときにブクブクと泡がでるので『泡盛』と呼ばれるようになったとも言われているんですよ」

この地の水だからこそ生まれたお茶だったのですね。同じようにお米とさんぴん茶を用意してみても、他の地域ではうまく泡立たないことも多いのだそう。

沖縄ならではの伝統茶。沖縄を訪れたら、琉球王国の宮中を想像しながら体験してみてはいかがでしょうか。

<取材協力>
楽茶陶房ちゅらら
沖縄県那覇市首里当蔵1-14
098-886-5188

文:小俣荘子
写真:武安弘毅

こちらは、2018年6月2日の記事を再編集して掲載しました。沖縄が琉球王国だったのは140年以上も前。そのときのおもてなしが現代でも体験できるとは、ロマンを感じますね。

全国から「朝食だけ」の予約が入る沖縄第一ホテル。女将が語る「薬膳朝食」の魅力とは

沖縄屈指の観光ストリート「国際通り」のすぐ近くにありながら、一歩そこに足を踏み入れれば別世界。

他所で出会えなかった沖縄に触れることができたのは、沖縄第一ホテルの朝食会場でした。

1955年創業、全5室の小さな老舗ホテルは宿としての人気もさることながら、宿泊者以外も味わえる「薬膳朝食」でその名を知られます。

常連さんの中には故・筑紫哲也さんなど著名人も多数。

モノレールの県庁前駅から徒歩7分ほどで目指す「沖縄第一ホテル」に到着です。

繁華街の中に突如現れるその門構えは、そこだけ違う世界観が漂います。

沖縄第一ホテル 薬膳朝食

緩やかな坂道を登り、明るい中庭を抜けてエントランスへ着く頃には、すっぽりと違う場所へワープしたような心地に。

沖縄第一ホテル 薬膳朝食

独特の空気感は、建物の造りやさりげなく配された調度品の成せる技なのだろうと周りをキョロキョロしながら、離れの朝食会場へ。

沖縄第一ホテル 薬膳朝食
沖縄第一ホテル 薬膳朝食
沖縄第一ホテル 薬膳朝食
さりげなく飾られていたのは、小説家大江健三郎さんの寄せ書き

日差しがよく差し込む会場はその分照明は控えめ。

ちょうど木陰で休んでいるような気持ちでいよいよ朝食がスタートです。

いざ、薬膳朝食のテーブルへ

着席した時点ですでにテーブルにはたくさんの料理が。

沖縄第一ホテル 薬膳朝食
ドリンクだけでもすでに3種類あります。シークワーサージュースにサクナ (長命草) ジュース、豆乳は手絞りだそう

左手前は沖縄特産の紅芋とウコンが練りこまれたパン。はちみつ、自家製のブルーベリージャムやごまペーストをつけて味わいます。こうした何気ない付け合わせも豪華です。

沖縄第一ホテル 薬膳朝食

こちらは、沖縄では定番野菜というオオタニワタリのおひたし。

沖縄第一ホテル 薬膳朝食

ひと皿片付くとすぐ次の料理が運ばれてきます。

沖縄で昔から愛される「長命草」のサラダ。その名の通り「1株食べると1日長く生きられる」と言われるほど栄養満点です
沖縄で昔から愛される「長命草」のサラダ。その名の通り「1株食べると1日長く生きられる」と言われるほど栄養満点です
あまがし (甘菓子) 緑豆と押麦で作ったというぜんざい
あまがし (甘菓子) 緑豆と押麦で作ったというぜんざい

どれも沖縄で古くから愛されてきた食材ばかり。薬膳の視点で考えられた料理がなんと20品は並びます。

「沖縄第一ホテルの薬膳朝食」誕生のきっかけ

2代目女将を務める渡辺克江さんにお話を伺うと、こうした朝食のスタイルになったきっかけは、初代女将であるお母様の海外旅行がきっかけだったそう。

「母が50年ほど前にヨーロッパ旅行をした時、コーヒー、トースト、ベーコン、卵の朝食だったそうです。

当時、当ホテルで出していた朝食と全く同じ内容でした。

そこで母は『せっかく沖縄においでになるんだから沖縄らしい朝食を出せないか』と考えて、祖母が作ってくれた島野菜料理をお出ししたところ、お客様が大変喜んでくださったそうです」

品数は一品一品増えていき、最終的に朝食で何品、何カロリーがベストなのかを管理栄養士さんにみてもらい、「50品目585キロカロリー」の朝食に。

さらに克江さんが国際中医薬膳師の資格を取っていたため、薬膳的な食材の組み合わせや調理法を加えて、現在の「沖縄第一ホテルの薬膳朝食」が完成しました。

沖縄第一ホテルの薬膳朝食は、うつわにも注目

ここでもう一つ注目したいのはそんな思いのこもった料理をいろどる、美しいうつわの数々。

沖縄の焼き物の大家、大嶺實清さんのうつわは吸い込まれるような青
沖縄の焼き物の大家、大嶺實清さんのうつわは吸い込まれるような青
島唐辛子の容れ物は、人間国宝 金城次郎さんのお孫さん、金城香奈子さん作。受け皿は琉球漆器です
島唐辛子の容れ物は、人間国宝 金城次郎さんのお孫さん、金城香奈子さん作。受け皿は琉球漆器です

沖縄の焼き物を代表する大嶺實清 (おおみね・じっせい) さんのうつわや琉球漆器などが惜しみなく使われています。

40種類もの薬草がブレンドされた「薬草茶」。このティーカップは金城次郎さんの娘さん、金城須美子さんのもの
40種類もの薬草がブレンドされた「薬草茶」。このティーカップは金城次郎さんの娘さん、金城須美子さんのもの

「海を越えてはるばる来て下さるお客様に、沖縄の美しいうつわや調度品を見ていただきたい、沖縄の作家さんの素晴らしい作品を味わっていただきたいとの思いから使わせていただいております」

と渡辺さん。

お母様と一緒に窯元に出向き、一品一品、手に取ってどんな料理をのせようかと相談しながら選んでいるそうです。

「古くからお付合いのある作家さんや陶工さんが多いので、うつわへの思いを伺いながら選んでおります。その時間がとても楽しい」とのこと。

写真やお店でため息まじりに眺めていた憧れのうつわを、実際に食事の場で手にすることができる贅沢。

沖縄のうつわに興味がある人には、これ以上ない出会いの場にもなるかもしれません。

さて、美しい琉球ガラスのうつわで旬のフルーツもいただいて、もうお腹いっぱいです。

沖縄第一ホテル 薬膳朝食

並んだ食材は50種類以上。これだけ食べて3,240円 (税込) というお値段にも感動します。

もう一つ何より嬉しいのはこれが朝ごはんということ。

沖縄第一ホテルの朝食は8時、9時、10時の時間制。

1時間ほど過ごしてもまだお昼までは十分に時間があります。これからたっぷりと沖縄を満喫できるのです。

この後は、やっぱりこんな素敵なうつわを見てしまったからには、自分も何か家に持って帰りたいな。

沖縄の人たちの体を支えてきた、知恵と栄養満点の朝ごはんに元気をたっぷりおすそ分けしてもらい、渡辺さんのこんな言葉に背中を押されて、沖縄の旅は続きます。

「沖縄にはおじーやおばーの健康長寿を支えてきた栄養価の高い島野菜がたくさんあります。沖縄の風を感じながら薬膳朝食を召し上がったいただき、元気に1日のスタートを切ってほしいなぁと思います」

<取材協力>
沖縄第一ホテル
沖縄県那覇市牧志1-1-12
098-867-3116
http://okinawadaiichihotel.ti-da.net/
※朝食は前日までに要予約

文・写真:尾島可奈子