全長1.9cm、フック部分のみで1.1cmという小さなフック画鋲。2015年に生まれた中川政七商店のベストセラーです。
お気に入りのカードや写真に穴をあけたくないなという思いと、暮らしになじんで、そこにあることが自然に思える画鋲をつくりたいという思いから始まった画鋲のデザイン。
画鋲って、よく学校で使った頭が平の丸いものか、掛けるのに便利なプラスチックの頭が付いたものが、それ以上でもそれ以下でもなく生活に馴染んでますよね。
デザイナーの岩井さんも、最初そう思ったそうです。完成された形と用途に違う意味を持たすことができるだろうか。
飾りたいものを引き立てる、できるだけ存在感のないデザインを試行錯誤していたときに昔から日本で使われてきた「役釘」に出会ったそうです。
床の間に掛物を掛けるための「軸釘」、花入れを掛けるための「花入釘」など、役割によって名前と形状が異なる「役釘」ですが、どれも普段はその存在に気づかないくらい暮らしに溶け込み馴染んでいます。
シンプルで品の良い佇まいと、役釘の掛けるから着想を得て生まれたのが「フック画鋲」だったのです。
そこでフック画鋲を作れるところを探したのですが、当初は画鋲や針のメーカーに相談したところフックのL字部分をつくることが難しいということで、なかなか作り手が見つからなかったそうです。
そこでバッグなどの金具でお世話になっていた大阪市の鋳造技術をもつケントクさんに相談したところ、実現に至ったのです。
7年目のベストセラーながら、つくり方を聞いて驚いたのが金型に釘を1本ずつ手作業で置いて、真鍮を鋳造するというのです。
さらに仕上げの工程では、職人が1点1点手で削り上げて角を直角に削り出しているのです。凛とした見た目は、この小さな些細な部分にも妥協なく向き合ってくださるからこそ生まれるもの。
また、壁側部分の面が平らだと壁に刺した際に画鋲が回転しにくくなるという機能面も向上するのだそう。
7年目となると何万個とつくってもらっていますが、それだけの数を1点1点手作業で変わらぬ仕上がりなのは、当然のことではなく真摯にケントクさんが向き合ってくださってるから。ベストセラーというのは、つくり手さんあってのベストセラーなんだと、あらためて実感しました。
「フック画鋲」が生まれてからは、そのデザインを踏襲した「壁掛けフック」「マグネットフック」が増えていき、今年はとうとうタオルなどを掛けられる「マグネットバー」が出来ました。
「マグネットバー」は台座と掛ける部分の角材とのバランスが難しかったと岩井さん。
台座をミニマムにするとバーが掛ける物の重さに耐えれない、大きくすると強度は出るがデザインのバランスと脱着しやすさが悪くなる。このバランスの良い具合を見つけるのに、何度も試行錯誤していろいろな場所に付けながら実験している岩井さんを何度も見かけました。
出来上がった「マグネットバー」に「フック画鋲」、歴代の仲間が並んだ姿は、美しい佇まいはもちろんですが、なんだか家族が揃ったような気持ちになって嬉しくなりました。
そういえば、と思うほど暮らしに馴染むころ、真鍮の経年変化の風合いもいい味わいになっているのではないでしょうか。そんな小さなベストセラーたちを暮らしに取り入れてみませんか。
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